第五話 『手のひらの生殺与奪』
フレームの自爆による爆音が夜の暗闇を震わせる。
同時に発生した衝撃波がリオの体を激しく揺さぶった。
鉄の塊が崩れ落ちる音が聞えた後、不自然なまでの静寂がその場を包んだ。
リオは目を開けて体を起こす。
彼女のすぐ近くで、ミッドナイトは倒れていた。
「よかった……。うまく、いったんだ……」
緊張の糸が切れたのか、リオはその場に座り込む。
キョウカはミッドナイトの様子に注意しつつ、リオのそばへ向かった。
「一体、何が起こったの?」
「フレームの自律行動プログラムを使ったんです。敵を認識して、その動きを止めて、自爆するっていう単純なものですけど……。でも、なんとか成功して、よかったです」
「自律行動って、そんなことが可能なの? 国防軍の技術でも、そこまではできないのに」
「基礎となるプログラムは、私の祖父母がすでに作っていたんです。私はそれに少し手を加えて、自分のフレームのAIにインストールしていました……祖父母の夢は、ロボットを作ることなんです。そのためのプログラムが、こんな形で役に立つなんて、あの二人も思わなかったでしょうね」
ハルの個人情報を知っているように、キョウカはリオの個人情報も知っている。
なぜ彼女が国防軍に入隊したのかも。
それを思うと、キョウカはこれ以上深く追及できなかった。
「……武器を取ってくるわ。少し待ってて」
キョウカは瓦礫の山へ消えた自動小銃を取りに行く。
リオは胴体と両腕にずきずきと響く痛みを感じながらゆっくりと息を吐いた。
フレーム用の自動小銃を一発撃っただけで、体にここまでの負担がかかるとは想定外だった。
それでも、私は敵を倒したんだ……。
リオが身に着けているインナースーツのポケットには、護身用の拳銃が入っている。
ミッドナイトが気絶している今、リオにとって彼を殺すことは十分可能なことだった。
だが、リオにはもう殺意はなかった。
どうしてだろう。
ここへ来るまでは、殺したくて殺したくて仕方なかったのに。
そのことをリオが考えていた時、ミッドナイトのフレームは機動音をたてた。
リオが反応するよりも前にミッドナイトは立ち上がり、彼女のもとへ跳躍した。
ミッドナイトはリオの首を片手でつかみ、高々と持ち上げ、握りつぶさんばかりに力を込める。
街灯の白い明かりが彼の顔を照らしていた。両目は白目をむき、半開きになった口からはよだれや泡がこぼれている。気絶しているのは明らかだった。
にもかかわらず彼のフレームは動いている。
おそらく、フレームの操作系統にミッドナイトの強い意志が、敵を殺すという猛烈な殺意が焼き付いているのだろう。
フレームは彼の怨念に操られているかのように、意識のないミッドナイトの肉体は、リオを殺すためだけに動いていた。
リオはミッドナイトの手を振りほどこうと必死にもがくが、無意味だった。
やがてリオの視界は次第にぼやけ、呼吸は停止寸前になり、鋭い耳鳴りが聞えた。
意識が遠のき、そのまま消えようとした時、銃声が響いた。
ミッドナイトの頭が弾け飛び、リオの体はミッドナイトの手から離れ、地面に落ちる。
苦しげに咳き込みながら涙をこぼすリオのもとに、自動小銃を構えたキョウカが駆けつけてきた。
「大丈夫?」
リオはもだえながらも、なんとかうなずく。
「まだ意識があったなんて……。信じられないわね」
キョウカはミッドナイトのフレームに銃を向け、念のために機動系統を破壊する。
「さあ、行きましょう」
キョウカはリオに手を差し伸べる。
リオはその手が人間を殺した瞬間をはっきりと見た。
それを踏まえたうえで、リオはキョウカの手を握った。
たしかにその手は、人を殺めた手だ。
しかしそれは、自分を守ってくれた手でもあるのだ。




