第十五話 『死ぬためにここへ来た』
合唱が終わると彼らは棺のそばでたき火をおこし、宴会を始めた。
マーサはブロック塀と金網でつくった簡単なかまどに向かい、肉や野菜をクーラーボックスから取り出して金網にのせて焼いた。かまどの材料は工房から持ち出したものだが、食材は全て東日本から持ち込んできたものである。
マーサは紙皿に肉や野菜を適当に盛り付け、オータムに渡した。
「せっかくだから、あんたも食べな」
マーサはサツキに割りばしを差し出す。
サツキはためらうことなくそれを受け取った。
「あなた達は、ここに何しに来たの?」
サツキがたずねる。
彼女の目は、たき火のそばでバカ話に花を咲かせながら食事をしている老人達を見ていた。
「連中を見てりゃ、そう思うのも無理ないね。あたしらはな、死ぬためにここへ来たのさ」
「じゃあどうして、こんな食べ物を持ってきてるの?」
「せめてもの情けってやつさ。あたしらにだって最後くらいはうまいもんを食う権利がある」
「もっと生きていれば、もっとたくさんおいしいものが食べられるんじゃないかな」
「あんた変わってるね。あたしらはあんたの敵だってのに、なんでそんなことを言うのさ」
「ただそう思っただけ。思ったことを言うのは、おかしなことじゃないよ」
マーサはわずかに口元を歪ませる。
それが不快感によるものなのか、それとも自然に浮かんだ笑みなのか、マーサ自身にもわからなかった。
「なあ、オータム。あんた面白いもんを拾ったね」
マーサはサツキの頭をぽんぽんとたたき、かまどのほうへ戻っていった。
「たしかに、君は面白いな。我々は君の同胞を何人も殺しているのに、こうして平然と一緒に食事をしている」
「私もあなた達の仲間を何人も殺したよ」
「そうだな。だが我々は、べつにそのことを恨んではいない。それに戦場で死ぬことは、彼らが望んだことでもある。サンダーやセブン、陽動作戦を買って出たビッグウッド達もそうだ」
「望んだこと?」
「そうだ。我々連合の軍隊は、東日本では解放軍と呼ばれている。なぜだと思う?」
わからない、とサツキは首を振る。
「人々を生苦から解放するために戦っているからさ。殺すことで敵を、殺されることで自分自身を生苦から解放する。死は人生の完成にして唯一の救済であるというのが解放軍の信条だ。まあ、教団の教えそのものではあるがな」
「死にたくなるほど、生きていることがつらいの?」
「解放軍に参加している者は皆そう思っているだろう。そういう人生を歩んできたのさ」
「あなたも?」
「そうだ。だから私はここにいる」
オータムは紙皿に盛られた野菜を食べる。
サツキは野菜を無視して肉だけを食べた。
「野菜も食べたほうが体にいい」
「お肉のほうがおいしいよ」
「この野菜は東日本産のものだ。味も品質も西日本のものに劣らない自信がある」
サツキは仕方なく野菜に箸を向け、表面が少し焦げているピーマンを口に入れる。
「どうだね、味は」
「苦い」
そうか、とオータムは笑う。
やはりサツキの顔には表情が浮かんでいなかった。
二人は黙々と食事を続ける。
皿が空になった頃、オータムは思い出したように言った。
「納付金以上の年金支給を停止。六十五歳以上に対する生活保護の廃止。高齢者の医療費全額自己負担。高齢者福祉施設と福祉制度の段階的廃止……」
「日本再生計画」
サツキが言う。
そうだ、とオータムはうなずいた。




