第十四話 『宴』
クラウドの葬儀は海岸通りにある公園で行われた。クラウドの遺体は彼が持参してきたノートパソコンと共に棺桶代わりの掃除用具ロッカーに入れられた。
ミッドナイトが葬儀の準備を進め、ダイクが冗談交じりに手伝い、マーサは呆れながらも葬儀の後に行われる宴会の準備をしていた。
オータムはサツキの監視ということで、彼女と並んで公園のベンチに座り、それぞれの作業に取り組んでいる老人達を眺めていた。
すでにサツキは自力で歩けるほどに回復していたが、誰も彼女の身体を拘束しようとはしなかった。
準備が大体できたところで、一人の老人が公園にやって来た。
年季を感じさせる汚れ具合の作業着を着た、妙に目がぎらついている長身の老人だった。
「やっとるなぁ、どいつもこいつも楽しそうで何よりだ。なあ、オータム」
「ああ。なにしろこれが、最後の夜だからな」
「まったくおかしな連中だ。死ぬと覚悟を決めてからは、妙に生き生きしやがるんだからよぉ」
「暗く沈むよりはずっとましだろう。ところでシュガー。頼んでおいた作業は済んだのか」
「ああ。あんたがにらんだ通りの結果が出たぞ。詳しい話は工房でな」
「すまないな。最後に妙なことを頼んでしまって」
「いいってことよ。俺だってあんたに頼みを聞いてもらうわけだしさ」
シュガーはほがらかな笑みを浮かべると、クラウドが納められている棺へ向かった。
日が沈んだ頃に準備は終わった。
ミッドナイトは棺のそばに立ち、軽く咳ばらいをする。
「えー、皆様。本日はお忙しい中、親愛なる我らが同志クラウドの葬儀にお越しくださいまして誠にありがとうございます。さて、さっそくではありますが、故人が生きていた証を忘れないよう、簡単にではございますがその生涯を紹介させていただきたく」
「んなもんはいらねえよ! ゴミみたいな人生だったって、わかりきってんだからな!」
ダイクがヤジを飛ばす。彼の隣に座っていたシュガーも言った。
「生きていた日々を振り返るよりも、来世での幸せを祈ってやろうじゃないか」
「けへへへっ! それもそうですねぇ。では、親愛なる我らが同志、クラウドよ。あなたの来世での幸せを祈ります。現実世界では全く報われなかったあなたの魂が、剣と魔法のファンタジーな異世界へと転生し、神の御加護によりチート能力を得て無双の限りを尽くし、人間の女はもちろんエルフやフェアリー、スピリット、さらにはモンスターや悪魔っ娘までも取り込んだハーレムを形成し、あなたを絶対的な主とする極楽浄土の千年帝国をつくりあげ、果ては神としてその世界の歴史に名を刻むことを祈ります」
「ぎゃははははは! バカ野郎が! そりゃてめえの願望だろうが!」
ダイクは腹を抱えて笑い転げる。ミッドナイトとシュガーもゲラゲラと笑った。
その様子を見ていたマーサはため息をつき「ミミズにでも生まれ変わりゃいいんだ」とつぶやいた。
「えー、それでは最後になりましたが、故人が生前愛してやまなかった日常系名作アニメ『春夏秋冬えぶりでぃ!』のオープニングテーマを歌い、故人の魂をおくりたいと思います。それでは皆様、ご起立の上、ご斉唱くださいませ」
これが最後ということで、ダイク、シュガー、マーサ、オータムは立ち上がり、声をそろえて合唱した。
うっすらとした夕闇に包まれた公園で、老人達は明るく希望に満ちた歌詞をうたいあげる。
その異様な光景を、サツキはいつもと同じまったくの無表情で見つめていた。
それでも、彼らのどこか透明な陽気さが伝わってきたのだろう。
彼らの歌のリズムに乗せられるように、サツキの体はかすかに揺れ動いていた。




