第十六話 『日本再生計画』
遠い昔の記憶をさぐるように、オータムはゆっくりと語る。
「当時の若い世代は歓喜と共に、我々やそれ以上の世代は怨嗟と共に、この計画を老人殲滅計画と呼んだ。この計画の実施によって多くの高齢者は生存を脅かされ、じきに高齢者になろうとしている世代は生きる望みを絶たれてしまった」
サツキはゆっくりと肉を租借しながら、オータムの話を聞いていた。
「しかし同盟政府……、旧日本政府は更なる改革を断行した。六十五歳以上の参政権の廃止に始まり、高齢者に対する刑事罰の厳罰化や死刑の適用範囲の拡大、扶養家族に対する連帯責任の強化、高齢者に対する法的保護の段階的撤廃などが定められた。その結果、高齢者を合法的に抹殺することも可能となった」
オータムの話は、防衛学校の教本には記載されていない隠された事実だった。
「このような日本再生計画は、全て国民投票によって決定された。つまり、この国の過半数以上の有権者は我々に対して死ねといい、現実に抹殺しようとしたんだ」
「だから、この戦いが始まったの?」
「結果から考えればそうなるだろうな。計画の実施後から昭和・平成連合の構成員による自爆テロが全国各地で多発し、大都市では相次いで暴動が起こった。連合の影響力が強かった東北・北陸・関東は次々と勢力下に組み込まれ、いつしか東日本は連合の実質的な支配下に置かれた。それに至る騒動で、多くの高齢者が死んでいった。もちろん、それ以外の者もな」
そう。たくさん死んだ。
彼らはなぜ、死ななければならなかったのか。
彼らはなぜ、殺さなければならなかったのか。
「……死なばもろとも道連れだ、をスローガンに、若い世代をできるだけ多く巻き込んで。それほどまでに彼らの怨念はすさまじかった。その怨念によって近畿圏には放射能の壁がつくられて、日本は東西に分断された。その作戦にはおよそ二万人の構成員が参加し、そのほとんどすべてが死んだ。彼らは決死の覚悟で、人類史上最悪の事件を引き起こしたのさ」
「どうして、そこまでのことができたのかな」
「そこまでしなければ救われなかったんだろう。他人の幸せを壊さなければ癒されないほど心が渇いていたんだ。そんな連中が何百万人といた。それほどまでに、この国は壊れていた」
「なんで、そんなに壊れてしまったの?」
「……過去に生きていた、未来に対して無責任な連中のせいだ。もちろん、我々も含めてな」
オータムはサツキを見て笑みを浮かべる。
サツキは空腹を訴える音を出す。彼女の紙皿の上は、きれいに片付いていた。
「マーサから食べ物をもらってこよう。肉も多めにとってくる」
オータムは紙皿を持って立ち上がる。
サツキはオータムを見上げ「ありがとう」と言った。
彼女の顔に表情はなかったが、オータムにはなんとなく笑っているように見えた。
紙皿に肉と野菜を山盛りにしてオータムが戻ってくる。
「あなたもあの人達と一緒に騒がないの?」
サツキはたき火を中心に歌い踊っている三人の老人を眺めていた。
「昔から人の輪に入るのが苦手でね。それに今は、君といろいろ話をしたい」
「そう。でもその前に、もっと食べていい?」
「もちろんだ」
二人は再び食事を始める。サツキは時々野菜も口に入れた。
オータムはそれとなく彼女の様子を観察したが、特に変わった様子は見られない。
「ところで君は、この戦いが起こるまでの流れがうまく行き過ぎていると、不思議に思ったことはないかね」
サツキはもぐもぐと口を動かしながら小首をかしげる。
オータムは星が輝き始めた夜空を見上げた。
彼の目は、星座の軌跡をたどろうとするかのように、遠くを見つめていた。




