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落日の国  作者: 青山 樹
第四章 『昭和・平成連合』
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第十一話 『ささやかな祈り』

 地面に目線を落としたまま、オータムは静かに語る。


「私達はどうしようもない社会を過去から押し付けられた。だがそれは、君達も同じことだったのさ。まったく、嫌な時代に生まれたものだよ。お互いに」


「私の祖父も、よくそんなことを言ってたよ」


「そうかい」


「でも、こうも言ってた。生まれる時代を選べる人間は一人もいない。金持ちも貧乏人も、そこはみんな平等だって」


「その通りだ。君のおじいさんの言う通りだ……、お、あったあった。見つかった」


 オータムは草を一本ちぎり取り、サツキに見せる。


「それはなに?」


「幸運を呼ぶお守りみたいなものさ」


「どこにでも生えている草にしか見えないけど」


「ふむ……。君は、四つ葉のクローバーを知らないのか?」


「知らない」


「なら、クローバーの花言葉も知らないのだろうな」


 サツキはうなずく。


「幸運、約束、それがクローバーの花言葉だ。他にも復讐というものもある」


「いいものなのか悪いものなのか、わからないね」


「都合のいい解釈をすればいいさ。それくらいの自由は誰にでもある」


 オータムは四つ葉のクローバーをサツキに差し出す。


「どうして、私に?」


「私が持っていても仕方のないものだからな」


 そう、と言ってサツキは四つ葉のクローバーを受け取り、手術着のポケットに入れた。


「意外に素直だな。敵からこういうことをされると、普通は拒みそうなものなのだが」


「せっかく摘まれたのにいらないって捨てられたら、かわいそうだから」


「なるほど。君はずいぶんと、変わった考え方をするのだな」


「そう、かな」


 サツキの透明な目がオータムに向けられる。


 オータムは小さくうなずき、空を見上げた。


「あともう一つ、クローバーには何かの花言葉があったような気がするんだが、どうも思い出せない。機会があれば、君のほうで調べておいてくれないか」


「自分では調べないの?」


「さっきも言った通り、それは私が持っていても仕方ないものだからな」


 オータムはサツキの車いすを押して、空き地の外へ向かう。


「さっきの所に戻るの?」


「いいや。校舎へ行く。君に、いや、君を会わせたい人がいるんだ」


 日はだんだんと沈み始めてきたらしく、青空は力を失い、西の空は嘘くさいほどに明るく輝いていた。

 少しばかり冷たい五月の風に吹かれながら、オータムはぽつりとつぶやく。


「日が落ちる前に、見つかってよかった」

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