第十話 『同盟政府』
今も社会を壊し続けている。
そう語るオータムの声には、確かな意思が込められていた。
彼は目を開き、立ち上がってサツキと向かいあう。
「西日本が、同盟政府がこの戦いを続けるために、多くの特別措置法を制定していることは我々も把握している。それらの中には、将来の西日本における対立を生む要因になるものも存在していることもだ」
「どういうこと?」
「成人権と参政権さ。成人権がなければ一人前の社会人として認められず、まともな職に就くこともできないし社会保障も受けられない。結婚も認められない。そうだね」
サツキはうなずく。
「成人権を得る方法はいくつかある。防衛学校、実業学校、高等学術院のいずれかを卒業するか、あるいは高額な手数料を政府に納めるかだ。一方で参政権は、定められた年数を国防軍に属していなければ与えられない。間違いないかな?」
「間違いないよ」
「では、それぞれの学校へはどういう人間が通うのだろう」
「実業学校や高等学術院には、富裕層が通うのが一般的だよ。学費はとても高いし、入学試験も初等学校の教育だけでは突破できないから専門の教育が必要だってキョウカが言ってた」
「キョウカとは、誰だい?」
「私の指導官兼監視役の人」
なるほどな、とオータムはうなずく。
「では、防衛学校に通うのはどのような人だろうか」
「実業学校や高等学術院に進学できない人達。特に多いのは、成人権を得るための手数料を支払えない貧困層の子ども」
「やはり、我々の調査通りだ。では、そういう社会の仕組みは将来においてどのような問題を生み出すことになるだろう」
「わからない。考えたこともない」
オータムは考えをまとめるように目を閉じる。
「さっきも言った通り、参政権を持てるのは軍に属した者だけだ。当然、政治家になれるのもな。しかし世の常として、政治家だけで政治は動かせるものではない。行政機構を担うのは専門的な知識を持つ官僚で、財源を生み出すのは企業を動かす資本家だ。それらはすべて、高等学術院や実業学校の卒業者で占められるようになるだろう。だが彼らは、参政権を持っていない。参政権を持っているのは、国防軍に所属したことのある者だけだ」
サツキは目をまばたかせる。
それが「理解した」という反応なのか「理解できない」という反応なのかはオータムにはわからない。
理解されなくてもかまわない。そんな思いとともにオータムは話を続ける。
「三者三すくみという関係が、意図的につくられようとしているのさ。これが大きな歪みとなり、遠くない将来に君達の世代に大きな対立を引き起こすことになるはずだ。そしてそれこそが、同盟政府の狙いだと我々は考えている」
「もしそれが本当だとして、なぜ政府はそんなことをするの?」
「日本再生計画を進めている同盟政府は、やがて自分達が攻撃の対象になるとわかっているのさ。だから自分達から目をそらせるために、次の世代に潰しあいをさせるつもりなのだろう。参政権を持つ者と持たない者で争っているうちに、自分達は悠々自適に天寿を全うするつもりなんだろうな」
「なら、みんなに参政権を認めればいいんじゃないかな」
「それは不可能だろうな」
「どうして?」
「参政権は君のような軍人や、実業学校や高等学術院に通えなかった者達にとって唯一の権力であり、武器だからだ。もし参政権を官僚や資本家に認めてしまえば、彼らは君達の支配者として君臨することになるだろう」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「どうしようもないさ」
そう言うとオータムは再び地面に座り、なにかを探し求めた。




