第十二話 『春夏秋冬えぶりでぃ!』
オータムとサツキは校舎に入ると、エレベーターに乗って五階へ上がり、視聴覚教室に入った。
窓には全てカーテンがかかっていて、教室の正面にはスクリーンが下ろされている。
教室の中央には一人の老人が座っていて、じっとスクリーンを見ていた。
老人の席にはパソコンとプロジェクターが置いてあり、プロジェクターはスクリーンにアニメーションを映し出していた。特に代わり映えのしない日常的な世界の中で、十代の少年少女達が学校生活や日常生活を楽しく過ごすというコメディものだった。
オータムはサツキと共に教室の後ろへ行き、スクリーンを見た。
特にすることもないのでサツキもアニメを見る。彼女にとっては、これが初めて見るアニメだった。
ストーリーが一段落したらしく、明るいテンポのエンディングテーマが流れる。
その時になってようやく老人はオータムのほうに振り向いた。
「すまんなぁ、オータム。入ってきたのはわかっとったが、キリのいいところまで見ておきたかったもんだから、つい、な……」
気にしなくていいとオータムは言う。
老人はサツキのほうに目を向けた。薄暗い部屋の中にあっても、サツキは老人の視線をしっかりと感じることができた。
「そのお嬢さんは?」
「国防軍の兵士だ。私がここへ連れてきた。まともな時代なら、高校生くらいの年だろう」
「そうかい、そうかい……。ありがとうよ、オータム。だが、もう少し待ってくれねえか。これから最終回が始まるんだ」
「私はかまわないが、そっちは大丈夫なのか?」
「ああ。さっきもマーサにみてもらったが、あと三十年はくたばらねえって言ってたよ」
老人は弱々しくも明るい声で笑う。
スクリーンのそばにあるスピーカーからオープニングテーマが聞こえた。軽快なメロディーと明るい歌声が響く。
老人とオータム、そしてサツキはスクリーンに目を向けた。
「しかし君も飽きないな。またこれを見ているとは」
「はは、は。何度見ても飽きねえよ。『春夏秋冬えぶりでぃ!』は個人的には日常モノの最高傑作だからな。特にこの第五シーズンは素晴らしい。これを超える作品は、俺が生きている間はついに現れなかった。この先も現れないだろうな。今の時代、好き好んでこんな物語をつくるやつはいないだろうからな」
「我々の世代は物語と共に生き、物語と共に死ぬ。そう考えると、おもしろい運命だな」
まったくだ、と老人はうなずいた。
スクリーンには平穏な時代に生きる少年少女たちのありふれた日常が映し出されていた。
その日常には不穏な影や血なまぐさい事件は一切存在しない。
登場人物達が巻き起こす平和なドタバタ騒動が繰り広げられていた。
ふとした誤解から互いの絆にほころびが生じ、微かな悲しみがそっと影を落とすこともあった。
しかし終盤になると平和的に誤解は解け、彼らの絆は何事もなかったかのように元通りになり、家族や友人達と一緒に笑顔の中で終わりを迎えた。
エンディングテーマが流れた後、舞台は再び日常の一幕に戻る。
主人公と思われる少年少女が学校の制服に着替えて自宅のドアを開け、駆け出すように外へ飛び出し、晴れやかな表情を浮かべながら「いってきます!」と明るい声を出した。
画面は野山に囲まれた美しい街並みを映し、最後に晴れわたった青空を映す。
世界には希望が満ちあふれていることを示すように、燦々と輝く太陽が画面に映った。
そして、物語は終わった。




