第十二話 『サンダー=クリアライト』
ヒカルの声を合図に、ハル達は即座に後退する。
同時にそれは、彼らの前方に落下した。いや、着地した。
空から落ちてきたものは、ハル達が今までに見たこともないタイプのフレームをまとった老人だった。
ハル達が装備しているものより一回りほど大きく、ロボットと人間が完全に同化しているといった構造のもので、手足や胴体は機械の装甲と一体化している。
その機械の装甲も一般に流通している既製品や国防軍から流出した軍用のものを改修しているというものではなく、独自に兵器として開発されたもののようだ。
それは往年のSFの世界で描かれていた本物のパワードスーツを思わせた。その背には鳥の翼を模したようなデザインのバックパックも見える。どうみても機能性に欠けるとしか思えないが、上空からここへ着地したことを考えるとその性能は確かなようだ。
全体的に黒く、ところどころに金や銀のパーツが見えることから機械化された悪魔という印象を感じさせる。しかもその機体を装備しているのが白髪をオールバックにしてカイゼル髭を生やした面長の彫りの深い老人なのだから、なんとも異様な雰囲気があった。
老人はハル達の姿を順番に眺めながら、深くて重みのある声を出した。
「ふむ、なるほどな。お前達国防軍の兵士がここにいるということは、やはりビッグウッド達は全滅したということか。まったく、最後まで愚かな奴らだったな。だが、愚か者といえど彼らが私の同志であるということもまた事実。その無念は晴らさねばなるまい」
老人は背中に腕を回し、身の丈ほどはあろうかという巨大な剣を取り出した。
中世における西洋の騎士が使っていたようなデザインを模した両刃の剣だ。
「国防軍の諸君、私は解放軍特務隊所属、サンダー=クリアライトである。満たされぬまま散った我が同志達の魂の渇き、苦痛、怨念、とくとその身に刻むがよい!」
背中のバックパックが羽ばたかんとする鳥のように展開する。
サンダーはヘッドギアを装着し、剣を構え地面を蹴り、正面にいるハルめがけて突撃した。
「避けろ! ハル!」
ヒカルが叫ぶ。同時にハルは真横へ飛んだ。
その直後にサンダーの剣が地面を穿つように突き刺さり、轟音と共にアスファルトを破壊する。
ヒカルとフタバはすぐさま自動小銃を構え、サンダーに向けて発砲した。しかしサンダーは二人の攻撃を避けようともせず、悠然とした態度で二人のほうへ振り返る。サンダーのフレームにはかなりの銃弾が当たっていたが、傷は全くついていなかった。
「愚かなこと、実に、愚かなことよ。己の非力さを理解できず、ただやみくもに力を振るうことしかできないとはな」
その背後から、シュウが叫び声を上げながら発砲する。
「ああああああああああああああああああっ! 畜生、ちくしょぉおおおおおおおおおっ!」
しかし弾丸はフレームに覆われた部分にしか当たらず、ヘッドギアを装着している頭にはあたらなかった。それはヒカルもフタバも同じで、なぜか頭を狙っていなかった。
苛立ちをむき出しにしながらシュウは叫ぶ。
「くそっくそっくそぉ! 頭だ、頭を狙え、お前ら! そこを潰せばくたばるんだ!」
「お前達にはできんさ」
サンダーは余裕のある笑みを浮かべ、諭すような口調で言う。
「お前達はどれだけ頭で理解したつもりでも、覚悟を決めたつもりでも、本心では人殺しを避けようとしている。お前達の意識はフレームの機能中枢と連結しているのだ。フレームはその意識を読み取り、致命傷だけは負わせないようお前達の動きを縛る。お前達にはまだ私を殺す覚悟がない。いや……、殺人という重荷を背負う覚悟がないといったほうがいいな。そしてお前達は、その弱さゆえにここで死ぬ。この私の手によって!」
サンダーは剣をかまえ、今度はフタバを狙って突進する。その速度は、さっきの比ではなかった。
二人の間には十分な距離があったにもかかわらず、それは瞬きする間に消滅し、フタバが反応しようとした時にはすでに目前までサンダーは迫っていた。
サンダーはフタバを薙ぎ払うように、剣を横一直線に振り抜く。剣はフタバの脇腹に直撃し、彼女の装甲を破壊し、その体を軽々と吹き飛ばした。
フタバは高速道路の壁に激突し、崩れ落ちてうずくまり、そのまま動かなくなった。




