第十三話 『セブン』
不気味な静寂がその場に広がる。
サンダーは大剣を地面に突き刺し、厳かな口調で言った。
「我が一撃を受け、生きていた者はいない。せめてその冥福を祈ってやろう」
そしてサンダーはわざとらしく祈りを捧げる姿勢をとる。
ハルもリオも、ヒカルもシュウも、地面に倒れたまま動かないフタバの姿を見つめていた。
彼らは言葉を失い、すぐそばにいる敵のことも忘れ、呆然としていた。
そんな彼らに更なる災いをもたらすように、ハルの背後から老人の声が聞こえた。
「けへへへっ、またクセぇこと言ってらぁ、このイカレ頭の中二病はよぉ」
それは日に焼けて変色した汚らしい紙くずを思わせるしわがれた声だった。
ハルは声のした方へ振り向き、新たに現れた敵の姿を見る。
そこにいたのはサンダーと同じフレームを装着した老人だった。
カエルを思わせる幅の広い顔には腐った果実のように大きなシミがいくつも見える。頭頂部は完全に剥げていて、五月の太陽の光をまばゆく反射させていた。口元にはだらしない笑みがこびりついているが、半開きになっている目には敵意に満ちた禍々しい光が宿っていた。
彼のフレームは格闘戦に特化しているらしく、両手両足にはスパイクのようなものが装着されている。
「またてめえのクソみてぇな脳内設定を垂れ流してたのかぁ?」
「愚かな。私と貴様とでは魂のあり方がちがう。ただそれだけのことだ」
「へいへい、そいつはようござんした。んなことよりよぉ、さっさとこいつら皆殺しにすっぞ。俺達にゃあ時間がねえし、じきにオータムも来るからな」
カエル顔の老人は気味の悪い笑みを浮かべながら品定めをするようにハル達の顔を見る。
そして、リオを見た時、彼は甲高い喜びの声を上げた。
「お、おおっ! 女だ。女がいるぞ。けははは、ちょうどいい。拉致って玩具にしてやろうじゃねえか、ひゃは、ひゃはははっははは!」
老人は目を血走らせ、鼻息を荒げながらリオに近づく。
リオは恐怖に顔を引きつらせ、凍りついたように動けなくなった。
一方でサンダーはフタバのもとへ跳躍し、仕留めた獲物を誇る猟師のように彼女の腕をつかんで、その体を持ち上げる。
「セブン。これも女だ。持っていくか? もっとも、生きてるかどうかはわからんが」
「ならてめえにくれてやるよ。死体に興味はねえ。剥製にするってんなら手伝ってやるがな」
けははは、とセブンは笑い声をあげる。
「ああああああああああっ!」
ヒカルは叫び、自動小銃を構え、セブンに向けて発砲した。
しかしセブンは弾丸の軌道を正確に見切っているように銃撃を回避し、ものの数秒のうちにヒカルの懐に入り込んだ。
「うるせぇぞ、ガキ」
セブンはヒカルの腹めがけ、拳を突き上げるように打ちこんだ。ヒカルの体はふわりと宙に浮く。セブンは更にヒカルの体を蹴り上げ、流れるような体裁きで攻撃を繰り出していく。ヒカルの体は曲芸師に弄ばれるボールのように宙を舞い、全身の装甲を破壊されていた。
その様を目の当たりにしていたハルは、この老人達が本当に人間なのかわからなくなっていた。
いかにフレームの性能が優れていたとしても、これは人間にできる動きではなかった。
ヒカルはなす術もなく、装備しているフレームもろともぐちゃぐちゃに叩き潰された。金属が激しくぶつかり合う音が響き、時折肉や骨が潰れるような生々しい音が混じる。
助けなければならないことはハルにもわかっていた。
自動小銃の照準を敵に合せ、引き金を引く。
それだけのことだ。
だが、それだけのことがハルにはできなかった。
自分では敵を殺せない。戦力差があまりにも大きすぎる。
それにもし攻撃したら、敵の矛先はこちらに向けられるだろう。
もちろん、このまま何もしなければいずれ殺されるだけだ。
それでも自分からすすんで殺されるようなことはできなかった。
捨て身の攻撃をして万に一つの活路を見出すことすらできなかった。
体が全く動かず、逃げることもできなかった。
目の前で仲間が、戦友が、殺されそうになっているのに。
リオとシュウもまったく動こうとしなかった。動けないのだ。ハルと同じように。




