第九話 『再会』
東の空が明るくなりはじめた頃、二人が装着しているヘッドギアに通信が入り哨戒を終えて戻るようにとの指示が出された。
ハルとリオは哨戒を終え、第七観測所へ戻り、救護室の隣にある休憩室で仮眠をとった。
昼頃に目を覚ました時、二人のそばには制服を着たヒカルとフタバの姿があった。二人とも顔に疲れは出ているものの、目立った外傷はない。
二人の無事な姿を身て緊張の糸が切れたのか、リオは顔をくしゃくしゃにして泣き出し、フタバに抱きついて「よかった、よかった……」と涙にぬれた声を出した。フタバは子どもをあやすようにリオの頭を撫で、ヒカルは互いの無事を確かめ合うようにハルの手を握った。
「二人が起きるのを待ってたんだ」
ヒカルはハルとリオの顔を交互に見る。
「とりあえず、昼飯にしようか。お互いに話したいことや聞きたいことはたくさんあるだろうけど、まずは腹に何か入れたほうがいい」
四人は割り当てられた携帯食料を持って校庭に出る。
そこからは昨晩の戦いによって破壊された観測所の姿をよく見ることができた。気持ちよく晴れた空の下に広がる戦いの跡は、ハルに昨日の戦闘で感じた緊張感を思い出させた。
食事をとりながらヒカルは昨晩のことを話す。
彼らが救援要請を受けたのは第七観測所のすぐそばまで来ていた時のことで、ヒカル、フタバ、シュウはサツキの指示により武装し、現地に向かった。そして到着と同時に戦闘が始まった。
「敵は確か五、六人くらいだったな。全員が土木作業用の大型フレームを改造した機体を操縦していてさ、見た目だけでもかなり圧倒されたよ」
ヒカルが言うと、フタバは同意するようにうなずいた。
「ほんとにな。けど教官殿はまったくひるむことなく真っ先に立ち向かったんだ。で、その戦いぶりなんだけど、マジですごかった。敵の攻撃を紙一重でかわしながら至近距離まで接近して、操縦者だけを的確に仕留めていったんだ。あっという間に二人くらい倒したのかな。訓練の時より全然動きがよくてさ、なんていうか、こう、人を殺し慣れているって感じがして、少し怖かったよ」
「もちろん俺達も黙ってみてたわけじゃない。後方から援護射撃をした。まあ、それだけしかできなかったんだけどな」
「それでもなかなか恐ろしかったよ。いくら敵っていっても、相手は同じ人間なんだから」
ハルは横目でリオの様子をうかがう。
リオは不安や動揺をおさえるように固く口を閉じ、二人の話を真剣に聞いていた。
「でもさ、シュウはあたしらとはちがったんだよ。なんなんだろうね、あいつは……」
「シュウが、どうかしたの?」
「うーん、なんていうかさ、教官殿とはちがう意味ですごかったんだ。なあ、ヒカル」
ヒカルはうなずき、その時のシュウの様子を話した。
戦闘が始まるとシュウは絶叫しながら自動小銃を乱射したのだ。
シュウの攻撃は敵どころかサツキにも当たりそうになったのでヒカルは「味方に当たったらどうするんだ」とシュウを止めようとした。
するとシュウは「俺に味方なんかいねえ! みんなぶっ殺してやる!」と叫んで暴れ出した。
シュウをおさえつけようとヒカルが彼の顔面を殴ると「味方に何しやがる! ぶっ殺すぞ!」とわめいた。
つまりシュウは、錯乱状態に陥っていた。
結局、ヒカルが取り押さえている間にフタバがシュウのフレームの緊急停止システムを作動させて、その場はようやくおさまった。
その後、シュウは救援に来た他の観測所の隊員達に保護されたらしい。
「俺達がそんなことをしている間にも教官殿は敵をどんどん倒していった。敵も状況の不利を察したのか散り散りになって逃げだして、俺達は教官殿と一緒にその追撃にあたったんだ」
「そうだったんだ……。じゃあ、僕達が戦ったのは、その時に逃げてきた敵だったんだね」
ハルは自分達が遭遇した敵について話す。
オフィス街の大通りでの戦いと、捕虜とした老人の言葉。そしてトウイチが言った言葉を二人に話した。
話が終わると、ヒカルは考えるように腕を組む。
「教官殿と戦っていた敵も、そいつと同じようなことを言ってたな。つまり連中は、死を覚悟してでも西日本に、全日本市民同盟に復讐をしたかった、ということになるんだろうか」
「でもさ、そんな理由で死ぬのを覚悟してまで戦うのか? あたしは絶対嫌だね」
「そのへんの心境はなんとも言えないな。日本再生計画の実施によって、彼らは本当に見捨てられてしまったんだ。これまでの恨みつらみが爆発して、どうせ死ぬなら西日本の連中も巻き添えにしてやると、やけを起こしたのかもしれない」
「そんな連中の相手をしなくちゃいけないんだから、あたしらも嫌な時代に生まれちまったもんだよなあ。まったく、隊長殿の言う通りだよ」
「それでもやるしかないさ。俺達は自分の意思でここにいることを選んだんだから」
ヒカルの言葉に、三人は同意しないわけにはいかなかった。




