表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落日の国  作者: 青山 樹
第一章 『防衛都市』
19/91

第十六話 『殺すべき敵』

 手を上げたシュウを見て、副司令は慇懃にうなずいた。


「……よろしい。これを使いたまえ。一撃で脳天を吹き飛ばすことができるだろう」


 副司令は腰に下げていた銃をシュウに差し出す。

 しかしシュウはそれを受け取らず、やけにはきはきとした口調で言った。


「副司令殿、私はこの役目を果たすにふさわしい者を知っております。ですので、それをお伝えしたく思います」


「ほう……。それは、誰かね」


 彼です、と言ってシュウはハルを指さした。


「彼は東日本へ亡命した自分の家族を見つけることを目的に、国防軍へ入隊しました。彼の幼なじみである自分がこのようなことを言うのは大変心苦しいのですが、彼が将来において我々を裏切らないとは言い切れません。ですので、彼に、倒すべき敵は誰なのか、忠誠を誓うべき相手は誰なのかを自覚させる必要があると、私は考えております。ですので、そのためにも、この役目は彼にこそふさわしいものだと私は進言いたします」


 シュウが話している間、副司令は「うむ、うむ」とうなずきつつ、ハルの前に立った。


「家族を思う君の心はじつに素晴らしい。今の時代、家族の絆などあってないようなものだというのに、それを守ろうとするとは。いやいや、実に素晴らしい……。しかしだ、そんな君だからこそ、戦うべき時は戦わなけれならないし、殺すべき敵は殺さなければならないのだ。そしてなにより、目的を実現するためには、それに見合う力を持たなければならない」


 副司令はハルの手をとり、銃を握らせる。

 そして彼の背中を優しくたたいた。


 ハルはほとんど無意識のうちに老人の前へ進み、目の前に立って、銃を構えた。

 しかし引き金を引くことはできなかった。

 目の前にいる老人の姿と、五年前にいなくなった大叔父の姿が重なったからだろうか。


「これこれ、坊や。そんなおもちゃを人に向けては、いけませんよ」


 老人はにこやかな表情を浮かべたまま、幼子に言い聞かせるような口調で言う。


「たとえおもちゃのピストルでも、人に当たったら大変なことになってしまいます。そう、大変な、大変なことに、なってしまう……」


 老人は顔をうつむかせる。

 ハルの鼓動は狂ったように鳴り続けていた。


「でも、でも、でも、ひひっ、爆弾のほうが、もっと大変なことになる」


 老人は顔を上げる。

 その顔は狂気と憎悪にゆがみ、目は血走っていた。


「こんなふうになぁっ!」


 絶叫とも怒声ともつかない大声を上げ、老人は口を限界まで大きく開いた。

 老人と向かい合っていたハルは、歯と歯の間に、小さな金属の部品のようなものを見た。


 その瞬間、老人の頭は側面からの銃撃をくらい、弾け飛んだ。


 この一瞬の間に何が起こったのか理解できず、ハルは崩れ落ちるようにその場に腰を落とす。

 そんな彼の前に、サツキが現れた。彼女の手には銃が握られていた。

 サツキは身をかがめて老人の死骸を調べながら、淡々とした口調で言う。


「どうやら、体内に小型の爆薬をいくつか仕込んでいるようです……。義歯に見せかけた起爆スイッチのようなものもあります。おそらくこの人は連合が送り込んだ、いわゆる人間爆弾というものでしょう」


 無表情なサツキの声。

 リオの悲鳴。

 たくさんのどよめき。

 半狂乱になった副司令の叫び。


 数多くの声が、ハルの頭に痛みを伴って響きわたった。

 そして、目の前にある、かつて人間だった血と肉の塊が放つにおいが、その凄惨な姿形の死骸が、ハルの心に深く、深く刻み込まれた。


 人間の死によって生み出される異様なものに圧倒され、ハルはその場に倒れた。

 ここが戦場であるという事実が、ハルの意識に激しい熱をともなって焼きつけられる。


 魂を焦がすような痛みと熱を感じながら、ハルの意識は深い闇の底へと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ