第十五話 『生き残るための覚悟』
必要な人間が全員そろったからだろうか。背広姿の男性は満足そうにうなずきながら、研修生一人一人の顔を見た。そして、自らの威厳を示すように小さく咳払いする。
「あー、研修生諸君。どうかね、調子のほどは。うまくやっとるかな? はっはっは、いやいや、いいんだいいんだ。おっと、自己紹介がまだだったね。私は国防省に所属している、第二防衛地区副司令官を務めているものだ。副司令と呼んでくれたまえ。まあ言ってしまえば、君達の今後の運命に多少ならずとも影響を与える者だ」
副司令の妙につやつやとした顔に、うっすらとした笑みが浮かぶ。
「さて、研修生諸君。知っての通り君達はすでに学生ではなく、兵士としてこの戦場に立っている。つまり命のやり取りを……、殺し合いをする場所に立っているのだ。つい昨日も、諸君らが巡回している最中に敵の侵入があって戦闘状態に入ったと聞いた。そこで私は、諸君らに戦場で生き抜くための精神を養ってもらうべく、大急ぎで贈り物を持ってきたのだよ」
副司令は軽く手をたたく。
すると彼の隣にいた兵士達は囚人の体を持ち上げ、並んでいるハル達のすぐ手前まで運び、ひざまずかせ、顔に被せられていた布袋をとった。
袋の中から見えたのは、老人の顔だった。
七十代くらいといったところだろうか。白髪は短く刈り上げられ、顔色もそれなりによく、清潔で健康的な印象を受ける。
その老人は奇妙なことに、散歩の途中とでもいうようなのんびりとした表情を浮かべていた。
「さて。この老人はだ、連合の工作員と通じ、東日本への亡命を試みたところを捕えられたのだ」
副司令は忌々しげな目を老人に向ける。
「亡命は極刑に値する重罪だ。この老人はすでに死刑判決を受け、刑は昨日のうちに執行される予定だった。しかしその直前に、私はこの老人を引き取った。未来への礎とするためにな」
「この建物には、見覚えが、ありますね」
老人はそう言うと、副司令のほうに顔を向けた。
「たしか私は昔、この辺りに住んでいたと思います。ええ、はい」
「この老人は認知症を患っている。もはや自分が誰なのかすら、不確かなのだよ」
副司令は研修生達に目を向ける。
「この老人の処刑を、君達に任せる。実際に人間を殺すことで、今後戦場で生き残るにあたり敵をためらいなく殺せる強靭な精神を養ってほしい。全員でやってもかまわないし、我こそはと思う者がいれば、その者がやってもかまわない。では、始めたまえ」
副司令が言う。
しかし五人の研修生は沈黙したまま、誰一人として動かない。
この人は自分達を苦しめて楽しんでいるわけじゃないんだ、とハルは思った。
さっき言った通り、目の前にいるこの老人を殺させることで、戦場で敵を殺す訓練をさせたいだけなんだろう。
そうすることで、自分達に敵と殺し合いをする覚悟を持たせられると考えているし、それが本当に正しいことだと信じているのだ。
「どうした諸君。ためらうことはない。早くやりたまえ。なんなら私が指名して命令してもいいのだぞ。もちろん、それに背けば処罰の対象となるがね」
誰かが覚悟を決めなければならなくなった、その時。
シュウがまっすぐに手を上げた。




