第八話 『殺意』
リオが叫んだ直後に、ハルは空から空気を切り裂くような鋭い音を聞いた。
見上げると、はるか上空を一直線に飛んでいる飛翔体の姿が見えた。
「離れて!」
声を張り上げると同時にキョウカはライフルを構え、飛翔体に照準を合わせ、狙撃する。
腹の底へ重く響くような銃声が鳴り、次の瞬間、飛翔体は爆発四散した。
しかし、落下する破片の中から複数の小型無人機が姿を現した。いずれも偵察用のもので、球体の本体の周囲にいくつかのプロペラを装着したドローンタイプのものだ。
キョウカはライフルを連射して撃ち落としていくが、数が多く、何機かの無人機はハル達に向かって接近する。
なぜこっちに来るんだとハルが思った時、無人機のひとつが空中で爆発した。
その瞬間を目にした時、ハルは理解した。
あれは自爆攻撃を仕掛けようとしているんだ。
つまり、僕達を殺しに来ているんだ。
キョウカの攻撃をかいくぐりながら、一台の無人機がハルに接近してくる。
逃げなければいけないと頭ではわかっているのに、ハルの足は動かなかった。突如として浮かび上がった恐怖が彼の心を締め付け、意識と体を切り離していたのだ。
キョウカはハルの異変に気づき、彼に接近している無人機にライフルを向ける。しかしそれを遮るように別の無人機が彼女に向かって接近し、キョウカは後退せざるをえなくなった。
その間にもハルと無人機の距離は縮まり、彼のすぐ目の前にまで接近していた。
何者かがタワーマンションの上層階から急降下し、ハルの視界に現れたのは、まさにその瞬間だった。
その人物は無人機にぶつかる寸前のところまで降下すると、背中と両脚の推進装置を巧みに操作し、体を大きくひねって無人機を蹴り上げた。そして、空中で体勢を整えながら着地し、上空に打ち上げられた無人機に向かってフレーム用の自動小銃を連射し、無人機を撃破した。
一連の動きを、ハルは呆然とした目で見ていた。
その人物はハルの前に立ち、顔の上半分を覆っていたディスプレイを頭に上げる。
そこに見えたのは、ハルより少し年上に見える少女の顔だった。
まだ若干の幼さが残るものの、その顔立ちには女性的な繊細さや美しさがそこはかとなく見られる。
髪は少年のように短いが、艶やかな黒色はやはり女性のものだった。
白と水色を基調としたインナースーツに包まれている肢体は細身ではあるけれど、弱々しい印象は少しもなく、戦いの中で鍛えられ、磨かれた力強さをそこはかとなく感じさせる。
「大丈夫?」
少女はハルに向かって言う。
その声はさっきの通信で聞こえたのと同じ声だった。
そしてやはり、感情をほとんどまったく感じさせなかった。
表情も同じく、きれいに整った少女の顔には何の表情も浮かんでいない。
澄んだ二つの茶色い瞳には、その意味を判断できない不思議な光が宿っていた。
ハルはまともに反応することができず、黙ったまま少女の顔を見ていた。




