第七話 『襲撃』
ハルの頭に否定的な考えが浮かび上がろうとした、その時。
トラックに備え付けてある無線が音を出した。
キョウカはすぐに無線をとり、冷静な口調で応対する。
何かアクシデントが起こったのだとハルとリオはすぐに理解した。
キョウカは車を止め、二人に言う。
「この近くの旧市街地に敵の無人機が侵入したらしいわ。私達も現場へ向かいます。ハル君は車の運転を、リオさんはレーダーを操作して敵機の探索をお願い。私はフレームを装備して待機するから」
キョウカは後部の格納庫へ向かう。
ハルとリオは指示された通りに動いた。
ハルはハンドルを握り、運転席にあるナビに従って旧市街地へ向かう。
リオは助手席に座り、車に備え付けられていたレーダーを起動させて画面に意識を集中させた。
「まさか初日に敵が来るとはね」
「しょーがないよ、戦場なんだから。でもまだいいじゃない。相手は無人機なんでしょ?」
「人間を相手にするよりはマシだけどね。でも、油断はできないよ」
ハルはナビとリオの指示に従って車を走らせる。
倒壊した建物の瓦礫や打ち捨てられた廃車などに道を遮られつつも、確実に目的地へと近づいていった。
大丈夫だ、とハルは自分に言い聞かせる。
僕はこんなところで死なない。死ぬわけにはいかない。
成し遂げなければいけないことが、あるのだから。
ハル達は海と山の中間あたりに広がる市街地に到着した。
巨大なタワーマンションがまばらに並び、その下をこじんまりとしたアパートや住宅がすき間なくひしめきあっている。当然だが、ここで生活している人間はもう一人もいない。
「このあたりみたい。でも、なんでだろう。敵機の反応はどんどん消えてるみたい」
リオはレーダーの画面を見つめ、その変化を観察していた。
「それってつまり、誰かが敵と戦っているってこと?」
「そうだと思う。友軍機の識別コードも表示されているから。でも、この動きというか速さというか、ありえないよ。軍用の強化フレームなんだろうけど、それでもこれは……」
どうやらこちらの方が異様なまでに優勢な動きを見せているらしい。
現場に近づいてきたらしく、ハルは遠くから轟く爆発音を耳にした。どこからだ、と周囲を注意深く見渡した時、ハルはタワーマンションのそばに止まっている軍用輸送車を見つけた。
トラックのそばには両腕両脚にロボットのような機械の装甲をまとった人物が立っていた。
四肢の装甲は胸部や腹部を保護するように装着されている機械の装甲とコードや動力パイプなどで連結されており、その人物が身に着けている黒を基調としたインナースーツには体の動きを正確に読み取れるよう小型のセンサーが各関節ごとについている。頭にはゴーグルのようなディスプレイを備えたヘッドギアのようなものを装着していた。
これらの機械装甲は『フレーム』と呼ばれるもので、ハルが目にしているのは訓練生用の機体だった。
ハルは車を止めて外に出る。
その人物はハルのほうへ振り向き、手を振った。
ハルよりいくらか大人びた顔つきの、まっすぐな目をした少年だった。
「ヒカル。どうしてここにいるんだ?」
ハルが尋ねると、ヒカルはタワーマンションのほうに顔を向けた。
「この近くに来た時に敵の無人機が侵入したと連絡を受けたんだ。それで迎撃に来たのさ」
話している間にも、タワーマンションのほうからは断続的に爆発音が聞こえてくる。
「今、あそこで誰か戦ってるの? まさかフタバじゃないよね」
「そのまさかだよ。迎撃に行こうって言いだした張本人だからな。でも、戦ってるのはあいつだけじゃない。俺達の実戦訓練を担当してくれる教官殿も一緒だ」
その時、ハルの背後からフレームの機動音が聞こえた。
振り返ると、フレームを装備したキョウカの姿が見えた。彼女のフレームは訓練生用のものと基本的な構造は同じであるが、機動力を高めるため脚部の装甲には複数の推進装置が追加されている。背中のバックパックには人の背丈ほどはある対機動兵器用のライフルが格納されていた。
「そう……、彼女が、戦ってるのね」
キョウカはヘッドギアのディスプレイを装着し、タワーマンションのほうを見る。
「なるほど。とりあえず、フタバさんは呼び戻しておきましょうか」
そう言った直後、キョウカのヘッドギアに内蔵されているマイクから声が聞こえてきた。
「敵機の破壊を完了しました。これよりそちらへ向かいます」
その音声は近くにいたハル達にもはっきりと聞き取れた。
それは、清流のように涼やかな響きを感じさせる少女の声だった。戦闘を終えたばかりだというのに、その口調にはまったく乱れが感じられない。感情が欠落している、といってもいいくらいだ。
あまりにも表情のない声だったので、ハルにはそれが人間の声であると信じられなかった。
「了解。サツキはそのままフタバさんを連れてこちらへ戻って。油断はしないようにね」
サツキ、という名前を聞いてハルは驚いた。
ここへ来る前にキョウカが言っていた通り、たしかにハルは彼女を知っている。
まさか、あの人がいる部隊に配属されるなんて。
その時、リオが車の窓から身を乗り出して叫んだ。
「敵襲です!」




