#91 その高い目線から何を思う 後編
「凄く今更なんですけどね」
「…ん?」
「琉嬉さんはなんで叉羅沙さんを尾行する事に乗ったんですか?」
本当に今更だった。
発端はまどかのちょっとした好奇心だ。
琉嬉はその好奇心に乗った形だった。
でもどうしてそのノリについて来たのか。
単純に疑問に思った。
「今更過ぎるね…」
「ええ、そうですね」
悪気もなくいつもの笑顔で言う。
「以前さ、叉羅沙と知り合う前、つけられてたんだよね」
「ああ、そうなんですってね」
白々しい…とも思ったが、あれは叉羅沙の単独での行動に近かったようだ。
「そのお返しかな」
表情を崩さずに言い放つ。
普段から表情に乏しい琉嬉。
まどかもさすがに毎日のように会ってるせいか、表情が変わらない琉嬉でも内心楽しそうにしてるんだろうな…
と感づくようにはなってきた。
「あ、ほら、叉羅沙さん見失いますよ」
どんどん人気のない裏道へ向かって進んで行く叉羅沙。
叉羅沙自体は目立つ風貌なので、一度目にしてしまえばすぐ見つけられそうではある。
そんな叉羅沙を見失うのはちょっと情けない話でもある。
「気付いてないのかな?」
「さっき気付かれなかったので大丈夫なのでは?」
カフェまでの道のりでは気付かれなかった。
先程は上手く行き過ぎた感もある。
「…だといいけど」
あまり見慣れない道並み。
建物。
風景。
幼い頃から鞍光市に住んでるまどかですら知らない土地に出た。
尾行する事10分くらい…だろうか。
駅から大分離れた。
とは言え、駅沿いの道路は車通りが多い。
「…次の駅に着いちゃうんじゃない?これ」
「たしかに…」
二人はちょっと違う心配をし始めた。
普段使ってる駅の隣の駅…に徒歩で近づいて来たからだ。
実際都市部の一駅一駅は別段そこまで離れてはいない。
そこまで離れていないからと言っても、徒歩だと面倒な距離ではある。
「どこまで行くんだ…?」
そう思うのも束の間。
叉羅沙が横道に入った。
「あ、横にそれましたよ」
まどかが少し足早になる。
「待って、まどか」
「はい?」
「無闇に想定とは違う道に入ったからって急いじゃだめだ」
「そうなんですか?」
琉嬉は叉羅沙が入った道を一旦通り過ぎる。
まどかもそれに続くようにする。
「同じ通路に、しかも人通りが少ない所で同じ動きをしちゃバレる確率が高い」
「なるほど」
「だから、違う道を行くフリをする」
「それはかしこいですね」
まどかは物凄く納得した声を出す。
「…僕の持論だけどね」
「じ、持論…ですか…」
琉嬉が考える尾行するためのコツ…のようなものだった。
「いくら気配を消してるからって相手は僕らと同じ霊術能力者だ。
霊波動の流れなどで気付く恐れもある」
「ふむ…言われてみればそうですよね」
「だから、一旦フェイントをかけるんだよ」
「おお」
さらに納得しだすまどか。
そして琉嬉は通り過ぎた道をUターンする。
叉羅沙の姿は豆粒並みに遠くになってしまったが。
どんどん奥へ進む。
住宅街…ではあるが、次第に住宅の数も減って来た。
「あまり遅くなると終電が危なくないですか?」
「大丈夫。12時半くらいまでは終バスあるから」
「ならまだ余裕ですね」
腕時計を確認する。
まだ時刻は夜の10時ちょい過ぎくらい。
2時間以上はまだ時間がある。
最悪歩いて帰ればいい。
そんな事を頭の中でよぎらせながらも琉嬉も追いかける。
「どこまで行くんだ…?」
気づけば、奥へ奥へ。
見たこともない風景の連続。
地元民でもある、まどかすらも知らない地域。
「地図確認しますね」
スマホで現在位置を確認。
一応、GPSは機能してはいる様子。
回りは木々に囲まれた場所。
「駅からそう離れてないのにこんな場所があったなんて…」
「公園っぽいですね。でも人気は少ないですけど」
「…夜の公園なんて実際そんなもんだよ」
夜の公園は不気味…とはよく言ったものだ。
なぜなら、日中は人がいて賑やか。
でも夜はガラッと変わって静か。
その反面さが怖い理由のひとつでもある。
奥へ奥へ。
進んで行く叉羅沙。
昼間はそうでもないが、夜だと気味が悪い。
そう思える、何気ない林の中の整備された散策路。
時折、カエルの鳴き声が聞こえたりする。
夏が近い証拠だ。
「不気味ですね」
「怖い?」
「ふふ、そりゃ普段は普通の女子高生ですもん。怖いですよ」
「怖いって言ってる割には笑顔だぞ」
「これは生まれつきでして~」
「まったく…どこが普通の女子高生だ」
「JKですよJK」
「略すな」
などと、陽気な会話をする。
至ってある意味冷静の二人。
そんな一瞬だった。
叉羅沙の姿が見当たらなくなっていた。
「あ、いませんね」
「気付かれたっぽいかな」
感づかれた。
琉嬉とまどかはそう判断するには時間はかからなかった。
「…失敗か」
「ですね」
もぬけの殻…と形容しても言いような程、叉羅沙の姿かたちがなくなっていた。
ほんの一瞬で、どこかへと姿を消したようだ。
「…でかい図体でほんとすばしっこいよな~叉羅沙って」
「ふふ、駄目ですよそういう事を言っては」
姿を見失った=失敗。
そう早めの判断をして、二人はあっさりとその場から体を回転させ、逆方向へ向かう。
ガサガサと木が揺れる。
「だーれがでかい図体やっちゅーの…でかいのは認めるけど」
大きな木の枝にいつの間にか叉羅沙は立っていた。
「はぁー、やっぱり付いて来とったんか…途中まで本気で気付かんかったなあ」
叉羅沙はやはり気付いてた。
というか、独り言で言ったように、途中から気付いたのだった。
「つか、暇なんかあの二人…」
ちょっと不信感を募らせる。
「ま、さっさと用事終わらせて帰ろか」
さらに奥へ進んで行く。
金網に囲まれた、怪しげな池。
その池付近にある、廃屋…とも言える小さめな小屋。
小屋と言っても一部屋分以上はある大きさ。
叉羅沙はその小屋の前にやって来ていた。
「来たで」
ぶっきらぼうにそう言うと小屋の戸を開ける。
「……やあ」
「別にこんな辺鄙な所でなくてもええんとおまへん?」
小屋の中にいたのは若めの男性の青年。
シックで黒を基調とした服装。
髪型は短髪で少しチャラくも見えるような、チンピラ風にも見えるようなアクセサリーを付けてる。
背は180cmくらいだろうか。
その辺の男性よりは大きい方だろう。
とはいえ、叉羅沙はそれを遥かに越す長身なのでむしろ男性が小さく見える。
気軽に叉羅沙に挨拶をしてくる。
「こうでもしないと、誰かに見られるだろう?」
「大した話でもあらへんやんか」
「クックック…まあそう言うな」
日付変わるほんの2、30分前。
静けさが増していく。
「報酬は弾むぜ」
その一言。
自分でも分かってるつもり。
報酬次第で動く。
昔からの生き方だ。
叉羅沙には金が必要だった。
だからこそ、がむしゃらに働く。
学校通いながらも。
「とある妖怪を封じた祠だ」
「祠ねぇ…」
小屋から少し進んだ、少し急な沢がある場所。
おかげで少し靴が汚れている。
こんな人も来ないような場所になぜか祠があった。
「こんな場所沢山あるんかいな、鞍光って」
「大昔から妖怪の里とも言われてるくらいだしな」
「…ま、それは痛い程感じてる」
叉羅沙は元々京都生まれ。
物心ついた時にはいろいろ転々として、現在は鞍光に落ち着いている。
とは言え、もうそこそこ長く居るのにまだまだ分からない事が多いこの街。
それが不思議になって思えない。
「これなんなん?」
「クレイジーな妖怪さ」
「クレイジーねぇ」
「名前は「マヤキ」っつたかな」
「マヤキ…知らんなあ」
名前だけ聞いても叉羅沙にはピンとも来なかった。
別に妖怪知識が高い訳でもない。
目の前の敵を倒すだけ。
そんな生活ばっかりしてた。
「ま、それだけ」
「説明雑やな」
祠に近づく。
異様な空気を醸し出しているのは分かる。
妖気は感じられない。
「これをどうしろと?」
「いや、な。ここらを開発したいんだけど、これがあるおかげで進まないらしくてな」
「…へーぇ」
薄ら笑いを浮かべる青年。
それに対して叉羅沙はいつものように笑顔のまま。
多分半分嘘で半分本当。
そんな事を思う。
真偽はともかく、妖怪を倒せばいい。
それだけ。
「あんたはやらへんの?」
「俺は戦う専門じゃないんでね」
「そか」
叉羅沙が祠にさらに近づく。
冷たい空気が体を覆う。
何を祀ってるのかは不明。
「……そないに厄介なもの?」
「厄介も何も相当やばい、ものさ」
「そんなものウチに押し付ける訳?」
「へっへ」
「あ、そういうコトね」
何かに気づく。
祠が光輝く。
青白く、妖しげに。
ふと見ると青年の姿は消えていた。
「細工されとったのか~」
大きな妖気が溢れ出していく。
「あーあー。上手い話にしては上手く行き過ぎと思ったわぁ」
ふと気付くと、強力な妖気を出している妖怪が目の前に現れていた。
「厄介ごとには慣れとったつもりやったんやけどな~」
妖怪はいわゆる、鬼の姿。
かなりの巨躯で横にも縦にも大きい姿をしていた。
この鬼の妖怪が「マヤキ」と呼ばれる者。
2m以上はある巨躯。
どう見ても鬼としか言いようのない出で立ちである。
「我を開放したのはお前か…」
妖怪は禍々しい妖気を発している。
「というかお前はん、むしろ何をしたん?」
にやつく叉羅沙とは対照的に妖怪は怒りの形相をしている。
「人間め…」
「あら、人間に恨み持つ系?」
「小娘が…黙れ」
「聞く耳もたんやつか…」
思わずニヤリともするが、冷や汗が止まらない。
叉羅沙程の腕でも、この妖怪は一筋縄ではかないと感じ取った。
金目欲しさに、墓穴を掘る。
よくある話だ。
その現状が自分に舞い込んできただけの話。
裏目に出る。
単純過ぎて自分でも笑ってしまう。
(疲れ過ぎたんやろか…)
連日の遅くからのバイト。
寝不足気味。
所詮はそこら辺は人間。
疲労が溜まっている。
「人間め…余計な力をつけたからに…」
「鬼さんや、どうしてそんなに恨んどるん?」
「…本来我々鬼は人間を狩る方だった。だが、今や人間らは力を持った。
このわしを封じるまでにな…」
「そんなん知らん話やわ」
(いつからやろう。
こないに焦ってんのは。
なんでやろう。
こないに一人で「頑張ろうとしてんのは」)
(ウチは何をしてん…?)
「どうした?その程度か?人間の娘っ子」
度重なる疲労。
憔悴しきっているような表情。
叉羅沙は限界が近かった。
「…ほんま、おもろい街や、鞍光って」
「恐怖のあまり錯乱したか?」
「いやね、この街周辺になんでこんな強力な妖怪ばっかりおるんかなと」
「…?何の話だ」
「人間側の話や」
叉羅沙は元から鞍光生まれの出身地ではない。
だからこその疑問。
でもそうした考えも束の間。
マヤキの攻撃が続行される。
(つまんない終わり方もええかもな)
妙に自暴自棄。
叉羅沙は覚悟を決めたような雰囲気を作った。
「馬鹿やってんじゃないよ」
グシャッ。
そんな生々しい音がした。
マヤキの右顔面が何者かの足でめり込んだようになっていた。
「うごっ!?」
そのままマヤキが吹っ飛んでいく。
「…へ?」
呆気に取られた叉羅沙。
神風の如く。
目の前に現れたのはマヤキの顔面に蹴りを入れた琉嬉の姿だった。
リンッ――、と鈴の音と共に着地する琉嬉。
小柄の為か余計にふわっとした動きに見える。
「疲れが溜まってるのに無理しちゃってさ~」
いつもの落ち着いた表情で叉羅沙の方へ目線を向ける琉嬉。
気のせいかちょっと口元が笑みを作ってるように叉羅沙には見えた。
「な、なんでいるん?」
「なんでって、尾行したからに決まってるじゃん」
「…撒いたつもりやったのに?」
やはり叉羅沙は気づいていた。
だが琉嬉は撒かれたはずだった。
「ん~…たしかに一回完全に撒かれたけど…」
「あら~、よく飛びましたね」
ちょっと遠目からのいつもの聞き慣れ過ぎた声。
「そりゃ全力キックだったからね」
「そうなんですね」
まどかも現れた。
「まどか……」
「叉羅沙さん、お疲れのようじゃないですか」
相も変わらず、にこやかに接してくる。
叉羅沙自身ももどちらかというと、どんな時も大抵笑顔で接するタイプである。
まどかの場合は本気で何を企んでるか叉羅沙にも見当がつかないレベル。
素での対応なのだろう。
「故流空中バージョン…なんてね」
軽い身のこなしで叉羅沙のもとに駆け寄る琉嬉。
「なんです?そのこりゅーって」
「あ、これは彼方家に伝わる武術の蹴り技の名称でして…」
「………あんたら、こんな状況でもマイペース過ぎやない?」
「それはまどかのせい…」
「私のせいだなんて心外ですー」
呆気も呆気。
このような状況でも余裕さしか見せない。
「なんだお前ら…仲間か」
ぶっ飛ばされたマヤキが立ち上がり、戻ってくる。
「キックだけじゃやっぱ無理か」
「そりゃそうでしょう。ここはやはり…」
まどかが右手に霊気を集中させる。
すると大きな槍がその場に現れる。
「凛夢もそうだけど、霊具って便利だよね」
関心する琉嬉。
尚も図太くおちゃらけた雰囲気を壊さずにいる。
「つか、なんでおるの?」
「何度もしつこいっ。あんだけ大きな妖気出してたら感づくだろっ」
ちょっと張った声で言う。
「ですよねえ」
「………たしかに、そらそうやな…」
大きな妖気。
つまりは、目の前にいる妖怪。
マヤキが発していた強大な妖気に感づいた訳だ。
その妖気と一緒に激突していた大きな霊気。
それが叉羅沙だったという訳である。
一度は完全に撒いた。
だが、封じを解かれた妖怪のあまりにも大きな妖気で琉嬉とまどかが察知して戻って来たという単純な理由だ。
「お前ら、全員皆殺しにしてやろう」
「…皆殺し、ふーん」
「やれるならやってみて…くださいね?」
構えを取る二人。
満身創痍の叉羅沙は少し後ろに下がる。
(…困ったもんや…まったく…)
万全の状態であればなんとなかってなのかもしれない。
でも今の叉羅沙では足手まとい。
反して、琉嬉とまどかは万全とも言える状態だ。
その二人を相手するマヤキ。
鞍光高校ふかしぎ部を代表する二人だ。
幾多の困難を乗り越えて来た。
おそらくは…鞍光では上位に入る手練れ。
多分、この二人にかかれば今の相手を倒すだろう。
それくらい強い霊術者だ。
(ハンターとも言われたウチがどーも情けないわあ)
「意外に強いぞこいつ」
逃げ回るように走りながら攻撃を避けていく琉嬉。
「鬼って、強いんですねやっぱ」
「今更何を言ってるのさ」
スピードにもそれなりの自信はある。
しかしマヤキの方も動きはかなり早い。
ただの図体のでかいだけの存在ではないようだ。
「ちょこまかと…!」
大きな腕を振り回すマヤキ。
しかし一向に当たらない。
「当たったら痛いですもんね」
対照的にまどかは自身が持つ槍で攻撃を受け止めていく。
避け方のスタイルが対照的。
どっちにしろ二人共ダメージはない。
「ならば…」
マヤキは徐に口を大きく開けた。
「ん?」
「がぁっ!!」
すると突然口から大きな妖力の気弾が放たれた。
「わっ」
さすがに避け切れず琉嬉に命中する。
「琉嬉さん~?」
「お前もだ!」
ボンッという音をたてながらまた口から放つ。
次はまどかに命中。
「まどかっ?!」
命中……、したかと思えた。
「叉羅沙さん、この程度ではやられませんって」
爆風の中からまどかの姿が見える。
砂埃まみれだが。
「ちっ。人間風情がしぶとい」
「でも琉嬉さんが」
「僕がなんだって?」
唐突の甲高い声。
琉嬉が二人の後ろにいた。
そして当然のように、無傷…と言えば無傷。
まどか同様に少し制服が汚れてた。
「大丈夫なん?」
「もろウケたけどね」
「なんだと…?」
マヤキの表情に焦りが出て来る。
「ま、ちょっとは効いたけどさ。さしづめ、2ダメージってところ?」
ノーダメージではないとは言う。
「どこがや…」
RPGゲームで例えれば最大HPが100であれば、ほんの1、2ダメージ程度の軽いもの。
ほとんどダメージがないに等しい。
琉嬉はゲーム風に例えて言う。
それくらいピンピンしている。
「命中したはずだぞ…?」
「うん。当たったよ。避けたり防壁で完璧に防ぐ手段以外にダメージ通さないことだってそりゃ出来るよ」
琉嬉の体に微量の霊波動が帯びているのに気づいた。
それなりの防御を上昇させる術のようだ。
「琉嬉さんそんな術いつの間に…」
「僕だって日々成長してるワケですよ」
不敵な笑みを浮かべる。
背は一向に成長しないのに。
「さて、面倒だからもう片付けるか」
「そうですね」
余裕過ぎる二人。
「ちっ…」
(ほんとーまあ、強いわあ。琉嬉ちゃんもまどかも)
何か置いて行かれたような感覚。
叉羅沙はここしばらくの間をこの瞬間になぜか思い返す。
一所懸命バイトをしてた。
それに加え、裏仕事もしてた。
でも今は危うく命を落としそうになってた。
(ああ、滑稽やな自分)
(ほんま、何をやっとるんやろうな)
「ぐっ…ならば…」
マヤキはぐぐっと体を丸めるような動作。
そして、何やら自分自身の妖気を集中させ始めた。
「お前らはただの人間だとは思わん。全力で殺す事にしよう」
「人間扱いされないコトに決定されたようだよ」
「ですね~」
「ほざけ」
風の流れが変わる。
それだけマヤキの妖気が強力に変化し始めた。
その瞬間だった。
琉嬉の体が後ろに吹っ飛んだ。
「うげっ…マジか」
なんとか着地する。
「あらまあ、あまり見えませんでした」
「早い、思ったより」
先程とはうってかわってマヤキの動きが急に俊敏になった。
「お前もだ!」
マヤキの太い腕の一撃がまどかを狙った。
「あれっ」
ガードも間に合わない。
なんとか衝撃を減らすために一歩後ろに下がったが、それでもまどかの胸元に命中する。
有無言わさず奥へ吹き飛んでいくまどか。
ドタバキ枝が折れる音を立てながら闇に消えていく。
「お?やばいじゃんこれ」
全身全霊。
まさにそういった感じだ。
怒涛の攻め。
決してマヤキが弱い訳ではなかったようだ。
「伊達に封じられてないね…おーい、だいじょーぶか~?まどかー」
「痛いですぅ~…」
爆散して散らばった木々の奥地からまどかの声が聞こえる。
間抜けそうな声を出してるが大丈夫そうだった。
「このまま仕留めてやる」
マヤキが一直線にまどかの方へ向かって行く。
「がんばれまどか」
「ええぇっ?!」
(なんつーかなぁ…)
少し離れた場所から状況を見守る叉羅沙。
でも思い浮かぶのはどれもネガティブな事ばかり。
(このままいなくなりたい勢いやわぁ…)
「おい叉羅沙」
べんっと、妙に鈍い音と共に叉羅沙の頭に軽い衝撃が走った。
「…ッッ?!?」
琉嬉がその場にへたり込んでる叉羅沙に脳天チョップをお見舞いした。
「らしくもないね叉羅沙のくせに」
「…くせにってなんやの」
さすがにムッとする叉羅沙。
珍しい表情ではある。
「何があったのかあるのか知らないけどさ。「こんな所」で死ぬつもりじゃ…ないでしょ?」
一瞬ニヤついたようにも見えた。
でもそう言い放つ琉嬉は普段の無表情気味で眠たそうな目付のままだ。
「会って一年で仲間を失いたくないんだよね」
「……う、うん?」
キョトンとする叉羅沙。
当の琉嬉は相変わらずぼーっとしたような表情のままだ。
(いっつもおんなじ表情のまま冷たい言い方ながら毎度毎度気を遣う言葉…ほんま優しいやっちゃな)
すっくと叉羅沙が立ち上がる。
琉嬉の目線も上に上がる。
「なんか元気出たわ」
まだ隠し持っていた短刀を数本取り出す。
「…どこに隠し持ってたのそれ」
「企業秘密にしといてな」
「あの~、私一人じゃ少し辛いんで手伝ってくれませんかぁ?」
マヤキ相手に一人空しく戦わされているまどか。
珍しく弱音を吐いてる。
とは言え、耐え切ってはいるので余裕さが見えない事もない。
「時に、叉羅沙さんや」
「…なんなん?こないな時に」
「死ぬ時ってどんな時だと思う?」
「はぁ?」
唐突の質問。
それも、死について。
たかだか、まだ17、8歳の10代の若者。
そんな子供に過ぎない琉嬉から叉羅沙への問いかけ。
「死ぬ時って…そんなん突然来るものやないの?さっきのウチが死にかけたみたいな感じに…」
「そうかもしれないけど」
「…?」
戦ってるまどかを尻目に会話を続ける二人。
「あの~、この鬼さん結構強いんですけど~」
しかしスルー。
「正解はね…」
「正解あるん?」
「自分が死ぬ時なんてそれは誰も分からない、が正解。多分」
「多分って…」
逆に困惑し始める叉羅沙。
琉嬉は至って真面目な顔をしている。
おまけに多分と付け加えて。
「あ、でも病気とかで末期とかだったら分かるんとちゃう?」
「だとしても具体的に細かい時間日付分からなくない?」
「それはそうやろうけど…って、なんかずるうない?」
屁理屈にも聞こえて来る答え。
それになぜか食い付いてしまう叉羅沙。
「あの…、お手伝いを…お願いしたいんですが~…」
一方で弱音を引き続き吐いてるまどか。
「まどかくらいなら一人で倒せるでしょ?」
「いや、だからあの鬼さん強いんですって…」
とか言いながら攻撃を避けていく。
カウンター気味に反撃もしていくが、あまり効いてない。
それなりに苦戦はしてる様子でもある。
強敵も強敵。
倒されずに封印されてた理由だけある。
「…んー…」
頭をポリポリかく琉嬉。
得意のチラ見で叉羅沙を一瞬見る。
「……ちょっとは休めたでしょ?」
「まぁな」
「叉羅沙の仕事でしょ。本来」
クスクスと笑いながら嫌味そうに言う琉嬉。
「それは言わんといて」
「あの~…」
「ほら、呼んでるよ」
「そやなぁ」
二人してにへらと笑う。
「笑ってる暇があったら手伝ってくれませんか~」
首をコキコキ鳴らしながら琉嬉はこう言う。
「僕が思ってるのは、叉羅沙が死ぬ時は今日、この日、「今」じゃないってコト」
「そうみたいやね」
すっくと立ちあがる。
座り込んでる時は華奢風に見えても、立ち上がるとやはり大きい。
琉嬉が小さすぎるせいもあるが。
首が痛くなるかと思う位、見上げる。
「お前、どこまで大きくなるの?」
「それは秘密ってコトで」
そう言うと叉羅沙はその場から物凄い勢いで飛び立った。
「元気じゃないか」
半ば呆れたように言う琉嬉。
指から離れる一枚のお札型の紙。
「式…雷々!」
一枚のお札がひらりと上空から降ってくる…とその瞬間。
ズバンッ。
電撃が辺り一面に広がった。
「ぐっ?」
マヤキが一瞬怯んだ瞬間だった。
「捉えたで」
いつの間にか懐に入り込んでいた叉羅沙。
短剣を胸元に突き付けてた。
「お前…!?」
たじろぐマヤキ。
「叉羅沙さん!危ないですよ!」
「大丈夫や」
「私がです!」
巻き込まれそうになったまどか。
その口調はかなり焦っている。
だが、
「それも大丈夫や」
「ええぇっ!?」
などと、コント染みた会話。
しかし短剣の方は奥まで刺さらない。
鬼だけあって、硬い皮膚のようだ。
「そうだ、やっちまえ叉羅沙」
叉羅沙が使った札とは違う種類の大量の札が宙に舞っている。
琉嬉が操る符術だ。
それが一斉にマヤキの体にペタペタと貼り付けられていく。
そして琉嬉が近づき一枚の札に指を当てる。
「呪束縛」
青白い光がその場にほとばしる。
「それ、ウチにやった技やな」
「叉羅沙は鬼並みの扱いってことで」
「それはちょっと複雑やわ」
長い間は無理だが、一時的には動きや霊気を完全に止める事が出来る琉嬉の得意な術。
大抵の者には一瞬でも効いてしまう、案外厄介な技。
以前叉羅沙に使った事がある。
むしろこの技を使うほど叉羅沙に苦戦したとも言える。
「ぐごっ…?」
マヤキの動きが止まる。
見事までの連携。
「ちょいばっかしずっこいかいな?」
「お前ら…!」
それでも体を動かそうとする。
「あんまり持たないよ、長くは」
次の手に移ろうとする琉嬉。
「叉羅沙さん」
まどかが叉羅沙の名を呼ぶ。
そのまま、何も言わずにお互い頷くだけのアイコンタクトを取る。
「さすが生徒会」
琉嬉はため息混じりに言う。
もう何をするのか理解したのだろう。
琉嬉は次の手に取り掛かろうとしたがその手を降ろす。
「悪鬼退散ッ」
突き立てたままの短刀が光り輝く。
強力な霊気が流れ込む。
「グガッ?!ガガガ……ッッ」
マヤキの体にひび割れのようなものが浮き出て、そこから霊気の波動が漏れている。
雲間から漏れている太陽の光のように。
「うおっ、何その技?」
思わず驚く。
「格闘ゲーム風に言うと、叉羅沙さんの近距離の超必殺技ですね」
「あー、投げ技判定的の」
まどかの答えにすぐ納得する琉嬉。
意外と詳しい。
なんて事も考えてる束の間。
「あまり近くにいると巻き添えくらいますよ」
「じゃあ逃げる」
軽い感じだが、琉嬉はその場から凄まじい勢いで離れた。
その瞬間だった。
「おぉお前達はぁぁ人間じゃないのかぁぁぐぇぇっっ!?」
「はい、人間どす」
叉羅沙が得意の笑顔でそう答えた瞬間、マヤキの体が爆散した。
「うぐぇ…グロっ…」
小規模な爆発のような跡。
地面が少しえぐれている。
琉嬉の足元にはマヤキの手やら体の一部やらが散乱している。
「大丈夫ですか?」
「多少は慣れてても、残骸が残ってるのは気持ちのいいものじゃないね」
「ですよね」
一方の叉羅沙はぐったりして木にもたれかかっている。
相当辛そうではある。
「生きてる?」
叉羅沙の頬をつんつんする琉嬉。
「お、思ったより弾力ある」
「当たり前やんか~。まだ10代のぴちぴちの女子高生どす~」
「お、京都弁出るならまだ余裕だね」
「んなわけあらへん」
余裕があるのかないのか。
でも冗談を言い合える仲ではの言葉。
(……にしてもまあ…「鬼」の体を満身創痍状態だったとはいえここまで粉砕するなんて…。
僕も真霊気をぶつけでもなしない限り出来なさそうなんだけどな…)
改めて、叉羅沙の技量に感心する琉嬉。
正直驚いてはいる。
一年ほど前に戦った時よりは強くはなっていると。
成長してると思ってるのは自分だけじゃないと再認識した。
「ド派手にやらかしたな」
突然男の声がした。
だが不安は駆け巡る事はなかった。
なぜなら聞き慣れた声だからだ。
「龍翔君」
琉嬉らが振り向くと生徒会副会長、龍翔がいた。
「うわ、肉片がそこら中に…」
「妖怪でもこんな惨い事しませんよ」
「まったくだ」
お付き妖怪の遊希と夜紀も引くレベルの惨状のようだ。
「琉嬉ちゃんがやった訳じゃあ…なさそうだな」
「僕はそこまで残酷じゃありません。トドメさしたのはあっち」
親指で示す方向。
勿論叉羅沙の方。
ボルボロの姿だが。
「だろうなぁ」
ゆったりとした口調で言う。
「仮にもなんでも、あの「鬼」を一人の霊力であそこまで吹き飛ばすなんてどうかしてるよ」
「琉嬉ちゃんでもそう思うのかい?」
「当たり前でしょ」
鬼の強さを知っている。
だからこその本心からの感想だ。
「ありゃー、ハンターサラサの名は伊達じゃないですね~」
龍翔の後ろからひょっこりと顔を出したのはみゆ。
「うげ…なんですかこれ」
「鬼が爆死したみたいな感じですね」
焦げ付くような匂い。
それに絶句しながら更にやって来たのは寧音。
対照的に案外冷静なのは柚羽。
「うわ…」
みゆの後ろにいるのは御琴。
「あ、みこっちゃんは見ない方がいいと思うよ~」
「そ、そうする…」
すごすごと森の中から出て行くように御琴だけ結局引き返して行く。
これだけ凄惨な状況にはさすがにまだまだ初心者な御琴に居合わせるのは難しい。
「生徒会お揃いで」
「揃っちゃいましたね」
「そやな」
にへら、といつになく崩れた表情を見せる叉羅沙だった。
琉嬉は異変に気付く前にまどかより先に生徒会宛てに連絡をしていた。
根回しが早いというか、策略家というか。
ともかく用意周到、迅速果断。
自分達がどんなに余裕があるとしても、何かがあるかもしれない。
それを見越しての判断力と決断力の早さ。
「琉嬉さんって本当行動が早いですよね」
まどかも関心する。
「早いというか予め何か起きるの予感してるかのような先読み具合やな」
「僕達が万が一何かあったら…って思ってね。連絡入れといたんだ。みゆの方に」
「なるほど」
「…あいつはあいつで行動力ずば抜けてるからね」
万が一。
琉嬉は基本的には負けないつもりではいる。
が、何かあってからでは遅い。
なので念の為にみゆに連絡を入れといた。
みゆなら移動手段もすぐ手配出来る。
それに大人数でも動かせるからだ。
それだけ、マヤキは強力な存在でもあった訳でもある。
案外あっさりと倒してしまった。
倒し方も残虐だったが。
「で、叉羅沙がやり過ぎたのか」
「ちゃうちゃう、まどかと琉嬉ちゃんが足止めしたさかい」
「倒すにもやりようがあったと思うけどな」
呆れる龍翔。
それに、大体の戦いの流れはなんとなく察する。
3人がかりでもそれなりに苦戦はしてた。
龍翔もそれについては納得はしている。
が、叉羅沙の言い訳としては…、
「しゃあないやん…命かかってたし」
である。
一度死を覚悟したまでの、本気を出した結末ではあるからだ。
「あ、グロ死体は港咲の方で片付けておきますんで~、叉羅沙先輩はゆっくり休んでくださぁい」
「すまんなあ」
「グロ死体って言い方はどうかと思うぞ」
「え~?ダメですかぁ~?ふひひ~」
こんな状況でも楽天家なみゆ。
見れば見る程凄惨な状況である。
妖怪と言えども、生物。
おびただしい血肉が散乱している。
「叉羅沙さんの様子がおかしいのはこういう事でしたか」
心配そうに見つめる寧音。
「ごめんって」
「いいえ、問題はそこじゃありません」
「…そこじゃない?」
「なぜ、自分が追い込まれてるのにここまで無茶をしたのか!です」
ムスッとしながら言いきる寧音。
本気で心配してたこその強い言い方だ。
龍翔やまどからも無言のまま頷いている。
「……金が必要やったんや」
「金ねえ。そんな素振りだったのは皆なんとなく気づいてるって」
同じようにまた皆が頷く。
「あ、そうなん?」
キョトン顔の叉羅沙。
細い目が大きく見開いてる。
「…肝心なところで天然発動するんだな、叉羅沙って」
「そうなんですよね~」
ほっとしたような表情で言うまどか。
「お金なら前払いってことで港咲家が何とかできますよ?」
「いんや~、それはさすがに、なぁ…」
大金持ちである港咲家。
すぐにでも大金は用意できるようである。
「さすがにぃ、タダとはいきませんから出世払いってことで」
「闇金みたいな?」
「光のお金ですよ~」
「なんや光のお金って…」
などと意味不明な造語みたいなのを言い出すみゆ。
「なに下衆い話してんだ」
すかさず琉嬉がみゆの脳天に手刀。
「あだっ」
悶えだす。
結構強く叩いたようだ。
「とはいえ、猶予がないとなると話は違うけどね」
「…隠し事出来ひんな。琉嬉ちゃんには」
再び不敵な感じでニヤっと笑顔を見せる琉嬉。
なんだかんだで引き返し始める面々。
叉羅沙も動き出す。
が、そこで琉嬉が横に並び立つ。
「ま、話たくないなら別に話さなくてもいいんだけどさ」
叉羅沙の尻を強めに平手打ちするようにぺしんっ叩いた。
「あだ、何すんの」
「女同士だから別にセクハラじゃないよね」
「そないな問題ちゃうって…」
「金が必要やった」
「大方そんなこただろうと思ったよ」
琉嬉にはお見通し。
「ありきたりやけどな。親の為…の」
「ヘイヘイ。深くは追及しませんよー」
手のひらをヒラヒラさせてそれ以上は話さなくていい。
拒否するような動作を見せる。
「どうせ病院代とかでしょ」
「まーな」
「てか、親いたんだ」
「当たり前や」
琉嬉は敢えて詳しく聞かない方針を出す。
ただどうしても言いたかった事だけをこう言い出した。
「まどかですら、叉羅沙ってあまり生活感見えないって言ってたからな」
「…そらひどい」
「それだけ私生活が謎だって話でしょ」
「ん~…そらまぁ、話す必要性もなかったし?」
「…三者面談とかどうしてたの」
急に現実的な話になる。
「一応、保護者扱いになってる親戚の人呼んでまぁ…適当に誤魔化しを…」
若干目が泳いだようになる。
細い目でも何となく分かる。
「大変だねぇ」
そう言うと先にてくてく早歩きになる。
「なんやのん…」
「細かいことは明日明日。今日はもう帰ろう」
そう言いつつ、琉嬉は振り返る事もなく先へ歩き進んで行った。
(まったく自分勝手というか…なんというか…)
言いたいだけ言って自分だけ先に帰る。
自分勝手とも取れる行動だが、叉羅沙は何となく安堵の表情をする。
「じゃ、琉嬉さんの言う通り帰りましょう」
にこやかにまどかが琉嬉の真似のように、叉羅沙の尻を軽く叩く。
「まどかまで…!?」
「うふふ、じゃ、また明日元気に登校してくださいね」
「ぐぬ…」
「ほうらぁー、先輩方帰りますよ~」
大声でみゆが呼ぶ。
他の者も先に進んでいる。
「こんな森の中ででかい声出すな。怖いから」
「え、龍翔先輩怖いんですか?」
「お前の場合は違う意味でだよ」
ぽふっとみゆの頭に軽くツッコミ叩き。
「あだっ」
「みゆちゃん、そのうちバカになるんじゃない?」
「えー、みこっちゃんまでそんなこと言うの~?」
ぶーたれる。
「ほら、皆さん待ってますよ。行きましょう」
普段とは違う、柔らかい笑顔でまどかが叉羅沙に優しく言う。
「しゃあないわ…んもう」
こうして叉羅沙達生徒会&ふかしぎ部は帰宅するのだった。
真夜中の街中。
深い闇が包む時間帯。
いわゆる丑三つ時。
「お前は…?」
叉羅沙に仕事を紹介していた先程の青年。
姿を街中にくらましてた…が、誰かと対峙していた。
「こんなあっさりと見つかるもんだね~。やっぱ霊術会の情報網って凄いね」
(金髪の若い女…まさか…噂の退治屋か…?)
青年の前に現れたのは、鮮やかな金髪の長い髪の少女…。
護だった。
「くっ…」
逃げようとする。
が、すぐさま回り込まれる。
「人間かっ!?」
「半分人間」
「くっそぉ!謀ったな!霊術会め!」
「謀られたのかどうか知らないけど、あたしは仕事だからね~」
護がにじり寄る。
青年は逃げ腰だ。
「あーあー、今回はそんな役割だったな~。でも報酬はちゃんと頂かないと、さ」
ウインクを決めながらも両手から霊力剣を作り出す。
「大丈夫。殺しはしないから」
ニヤリと、普段は見せない不気味な笑顔を青年に見せつけた。
――翌日。
いつもの昼休み。
そして部室に集まるいつもの琉嬉達。
先に居たのは悠飛、双子姉妹、寧音、そして一際大きく目立つ叉羅沙に目が行った。
「よっ、叉羅沙」
「あら、どうも」
わざとらしくお互いに軽く会釈。
「何あれ…?」
「さぁ?」
そのへんてこりんな様子を見て不思議に思う妹と従姉妹達。
「今日朝いた?」
「いんや~、流石に体調厳しかったので遅く登校しました」
「そっか」
隣にどかっと座る。
「無理はしてはいけませんよ」
寧音がそう言いながらまたPCで何かをしている。
軽く覗くと、案の定ソーシャルゲームだった。
(それでいいのか風紀係委員って…)
ガサゴソと鞄を漁るようにする琉嬉。
動きながらも喋り出した。
「んで、結局どうなの」
「何がです?」
「ギャラ的なの」
お金のポーズを手で作る琉嬉。
少々下品ではある。
「そら問題なく頂く事になった」
「霊術会経由?」
「結果的にそうなるけどなぁ」
霊術会からの報酬。
妖関係に関わる仕事は大抵霊術会が絡んでくるのが多い。
「そら良かった。あ、発見」
いつもの如く、携帯ゲーム機を取り出してプレイし始める。
「てかさ、叉羅沙って霊術会に籍置いてる感じなの?」
ふとした疑問。
詳しい話は琉嬉は実はまだ知らない。
なんとなく、ふわっとした情報しか得てないから。
いちいちそんな事を話し合う間柄でもない。
だから今まであまり深く追及もせずに、なんとなくお互い過ごして来ていた。
「今は置いてない感じやな。フリーだからこそ、好き勝手にやってるだけであって」
「うちや護みたいにしてるって話か」
「そゆコト」
淡々とした会話。
霊術会に属してれば、何かと舞い込んでくるのは間違いない。
が、やりたくない事もやらなければならない事もある。
まどかから以前そういう話を琉嬉はちらっとだけ聞いていた。
護もなんらかの形で霊術会と関わりはあると聞いてはいる。
何かと大きな存在ではある組織なのだ。
「あ、ちなみに叉羅沙を騙した詐欺師さんは護が取っ捕まえたって」
「…なんでそれを?」
驚く叉羅沙。
琉嬉はあの男の事知らない筈である。
なのに琉嬉から喋り出した。
「どうやらうちの生徒会長さんが手引きして」
「…あー…」
全てを察した。
どこまで手回しが早いんだろうか。
恐らくは、琉嬉の予測でまどかに言ったのだろう。
近くにいたので叉羅沙以外の気配もあったのは気付いてたのもあるであろう。
叉羅沙は首を左右に振りながら小さく笑い出す。
「僕達ってさ、出会って1年くらいじゃん?」
「んあ?そやな」
思わず変な声が出てしまう。
「最初戦って、でも今は同じ学校で毎日顔合わせて、同じ部活で」
「………」
「こんなに仲が良いのって、単純に気が合うからでしょ?」
「…そらそうやけど…」
何やらちょっと疼く様な、変な言い回しをする琉嬉。
でも本人は至って真面目に話す。
表情は相変わらずだが。
「同じような力持ってて、でもってこうやっていれるのって奇跡みたいなものだよね」
「………奇跡、ねぇ…」
琉嬉は叉羅沙だけに向けて、にやぁ~と笑顔を見せながらこう言った。
「僕と会ったのが運の尽き。ね?」
叉羅沙はお返しにいつもの笑顔で、
「あの時点で尽きてたわ」
と、軽く呟くように言い放つ。
「いいじゃん尽きて。お互い様だよ」
にひっと琉嬉が笑顔を続ける。
「あんがとな。本当に」
「どういたしまして」
叉羅沙の大きな拳と琉嬉の小さな拳が軽くこつんとぶつけ合う。




