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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~青春補完編~
90/92

#90 その高い目線から何を思う 前編

「ほわぁ…」

 大きな欠伸の声。

その声の主は…一際大きな体で誰よりも頭一個分大きくはみ出た背丈。

尚且つ、二つのポニーテール…いや、ツインテール?

ともかくも、髪をまとめ上げているから尚更大きく見える。


 無論、叉羅沙だった。

「珍しいですね、叉羅沙さんがそんな大きな欠伸するなんて」

「…あー、ごめんなぁ。ついな」

 昼休み。

昼食を取って丁度眠くなると言えば眠くなる時間帯。

「寝不足ですか?」

「ちょっとな」

 授業中も少し眠たそうな顔をしていた。

と、まどかは長年の付き合いで感じ取っていた。

「疲れてそうですね」

「いんや、大丈夫や」

 とは言いつつ、すぐ黙り込む。

(…これ、放課後まで持つんでしょうかね…?)

 滅多に見せないなんだか疲れてそうな表情。

それを見るまどかはさすがに心配そうにしていた。



 で、放課後。

生徒会の時間。

この日は基本的に事務処理な内容だ。

「叉羅沙先輩、だいじょーぶですかぁ?」

「あ、ああ…みゆちゃんかぁ。大丈夫や」

「…今日なんかふらふらしてません?」

「そーう?」

「さっきも会議中に寝そうになってましたよね?」

 そことなく御琴も叉羅沙に言う。

「珍しい事ですよ~」

「そ、そか?」

「…それじゃ今日はここまでにしといて部活にしますか?」

 まどかが資料を唐突にまとめてそのまま立ち上がる。

「さんせーい」

 みゆらもすぐに賛同して資料やファイル等を仕舞う。

会長の一声でこの日の生徒会が終わってしまった。

「……相変わらずその場のノリで行動力早いなぁ」

「気分転換ですよ」

 にっこりと微笑むまどか。

その考えの裏はあるのか、それとも全くないのか。

長年の付き合いのある叉羅沙でも深い所までは流石に読み取れない。

まどかは案外その場で決めたらすぐ決行してしまう。

よく言えば決断が早く、悪く言えばその場の悪ノリ。

「まあ…ええけど」

「では早速部室に行きましょう」

「…はいはい」

 少々呆れる叉羅沙だった。



「え?叉羅沙が寝ぼけてる?」

「ちゃうちゃう、寝ぼけてないわぁ」

 身振り手振りで否定する。

「ふーん」

 ジロッと琉嬉は叉羅沙の顔を見る。

普段から見慣れてるだけに特別変化がないように思える。

「な、何?」

「…ねー、もしかしてまた背伸びた?」

 琉嬉が大きく見上げる。

「え?」

「…言われてみれば…そうなのかもな」

「あ、だよね?やっぱり」

 近くにいる護、そして身長180cmもある龍翔も見上げる。

「…はぁ?」

 困惑する叉羅沙。

琉嬉からの質問にたじろぐ。

そして周りの期待の目線。

「うっ…」

 尚も続く目線の嵐。

「もしかしてさあ………190到達?」

 琉嬉の鋭い疑問。

「………」

 静かに頷く叉羅沙。

すると「おぉ~」と、なぜか歓声が沸く。

「もう高校3年生やから…止まると思ったんけど…止まってなかった」

 力なく喋る。

琉嬉が初めて出会った一年前程からも少しだけ伸びてたようだと言う。

「……羨ましいねー」

「本当です」

「分けて欲しいです。割と本気で」

 ふかしぎ部のちっちゃい組である、琉嬉、麗未亞、柚羽の3人が恨めしそうに見ている。

「…む、無茶言うなや…」

 そうは言うのも…じーっと見続けて来る。

「…やーかーらー」

「ちっ」

 なぜか舌打ちする琉嬉。

そしてばらけるように散っていく。

「なんなん…まったく…」

「皆さん、羨ましいんですよ」

「…あんなぁ、いくら高いと言っても限度があるんどす」

 逆に今度は叉羅沙が不貞腐れたようだ。



 なんの変哲もない部活。

というか、活動は何もなければ適当に駄弁って終わるだけ。

逆に言えば平和とも言える。

旧校舎でのがしゃどくろ事変からぱっと不可思議な霊現象などは大分鳴りを潜めている。

とは言え、元から霊地場の強い場所。

時々校舎目掛けて浮遊霊などが彷徨ってたのが辿り着いてくる。

なので時折怪奇現象が起こる。

それに、がしゃどくろ以外にも唯子がいたように、まだ何か隠されてる可能性もあるのだ。


「暇だねぇ」

「だね」

「ですね」

 暇を持て余す部員達。

「こんなんでいいんですかぁ?」

 麗未亞が心配になる。

「ま、こんなもんでしょ」

 みゆが答える。

「えー…?」

「だって、他の…なんだっけ…文科芸部?うちのは創作意欲湧かない時は適当にお喋りしてるって言うよ~?」

「みゆちゃん、文芸部ね」

「そだっけ?」

「広報なんだからもう少ししっかり覚えてよ…」

 御琴が訂正をする。

まるで熟練のお笑いコンビか、夫婦のようだ。


 この日は人の集まりが悪く、麗未亞以外の一年生チームも来ていない。

もっぱら、強制な部活ではないので来るのも来ないのも自由度が高い。

勿論、幽霊部員気味の凛夢や香那巳の姿もない。

そしてリアル幽霊部員の唯子もいないようだ。

ぬいぐるみだけが放置されている。

いるのは生徒会と護くらいである。


「さて、ボチボチ解散にする?人も少なかったし」

 琉嬉がおもむろに立ち上がる。

部室の時計は18時ちょっと手前。

「今日は延長しないんですか?」

 まどかが琉嬉に聞く。

「やる事無いしね。それに部活は基本的に6時まででしょ?」

「え、そうなの?」

 護は知らなかった様子。

「ま、こんな日もあるよ」

 鍵をちらつかせる。

部室の戸を閉めるよ、という合図だ。

「それじゃ、帰りますか」

「ですね」


 各々部室から出て行く。

琉嬉も最後に鍵を閉める為、最後まで残って部室を出る。

「今日は何の進展なかったな」

「そんな日もあります」

 進展…何をもっての進展なのかはまどかにも分からないが、取り敢えずフォローする。

「さぁて……」

「琉嬉さん」

「…はいはい」

「気になりません?」

「…気にはなるけどさ…」

 まどかが小さい声で琉嬉に話しかけている。

その琉嬉はなんとなく察する。

「…尾行するつもり?」

「ええ」

 にっこりと微笑むまどか。

どことなく腹黒さを感じる、裏のある笑顔だ。

この笑顔に何度やられそうになったか。

やれやれとした表情を作る琉嬉。

「趣味悪いね」

「それは秘密です♪」

 そう言うまどかに対して、首をゆっくりと横に振る琉嬉であった。




 琉嬉とまどかはこっそりと、叉羅沙の後を追う。

とはいえ、あまり派手に動くと叉羅沙に気づかれる恐れがある…。

という事で、視界に入らないように、違う道順で追って行くという奇妙で高度な尾行をする。

ようするに、叉羅沙の行く道と並行してるようなもう一本の道を進む。

それに叉羅沙は背が高いので目立つ。

だから見失わないように付いて行けるという戦法だ。

「やってる事はストーカーだな」

「まぁまぁそう言わずにぃ」

「…ただでさえ、鞍光の女子制服って目立つ色なんだから…」

 そう、鞍光高校の女子制服は山吹色を基調とした、派手な色使いだ。

だからすぐどこの生徒か分かる。

逆に男子制服は黒色…正式には紫黒色のような黒を基調にした色合いの制服だ。

いわゆる、学ランに近い。

ボタンなしのファスナータイプで、山吹色のラインが入ってるというまた変わったデザインだ。

まだ駅の近くなので鞍光の制服姿の生徒の姿がちらほらある。

それらに混ざってしまえば叉羅沙も気づきにくいのでは?

そう思ってはいるが…なにせ琉嬉は小柄のツインテール。

まどかは地味めながらもそこそこ背が高く、ひとつの三つ編みにまとめた髪型。

特徴が強いのですぐ気づかれる可能性は大いに高い。

高い…のだが。


 リンリン…。

小さいながら鈴の音が鳴り響く。

「あの…琉嬉さん」

「何?」

「その髪飾りの鈴…音が鳴って気づかれるんじゃないですか?」

「…そう?」

「どうにかなりません?」

「ならん」

 即答する琉嬉。

付けてる本人は全く気にしてない。

だがどうしても他人である者にとっては気になってしまうようだ。

「…いつも不思議に思ってたんですよね…その鈴」

「霊具の一種だ」

「それは分かりますけど…なぜ鈴なんですか?」

「…特に深い意味ないけどね。それより…」

 小さな動作で指をさす。

その指の先…は勿論、叉羅沙。

「ええ、そうですね」

 にこやかな笑顔を作る。

その腹の底はおそらく、黒いのだろうと思われる。


「でもさー、今日の叉羅沙、様子おかしくない?やっぱり」

「琉嬉さんもそう思ってるのならばそうなんですよ」

「え?」

「いえ。実は私も常々思ってましたから~」

「……まどかが叉羅沙の事おかしいと思ってるんならやっぱおかしいんだ」

「はい」

 そこで思っていた事が合う二人。

「ん~…あの日?」

「いや、それは違うと思いますよ」

「…なんでまどかが知ってるの」

「いやいや、そこは親友だからこそですよ」

 笑顔を崩さずに返すまどか。

「そんなもんかぁ?」

「そうですよ」

「……まさか、僕のも?」

「フフッ、それはどうでしょう?」

「………」

 ちょっとだけひいてしまう琉嬉であった。



 そうこうしてるうちに叉羅沙の姿が見えなくなる。

「あ、どこ行った?」

 キョロキョロ見回す琉嬉。

「あっちですね」

 まどかが動き出す。

そのあとに続く。

バレないように早歩きで尾行を続ける。

すると……


「あ、いませんね」

 急に見失う。

場所は人通りもある、駅前通りから少し外れた小さめの道。

ショートカット出来るコースらしく、意外に人通りが多い。

立ち並ぶ居酒屋系のお店。

一応の高校生である琉嬉達にはまだ縁のないお店達だ。

「え?見失ったの?」

「みたいですね~…」

「いや、ここで後ろ向いたら実は気づいてた叉羅沙がこう…」

 と、言いながら琉嬉は首だけを後ろに向ける。

「と見せかけて実は正面ですね!」

 と、一緒になって後ろ向いてたまどかはすぐさま正面を向く。

「…」

「…うん」

 が、やっぱり誰もいなかった。

静寂の中に突然ゴーッという電車が通る音。

叉羅沙の姿は見当たらない。

空しく走り去っていく電車。

そしてまた訪れる静寂。


「そうそう漫画みたいにならないか」

 少し残念がる二人。

「あー……でも、こっちに来たのは間違いないんだけど…」

「なんででしょうか?」

「…おそらく、建物に入ったんだろうね」

 普通の一軒家も立ち並ぶ古くからある駅前の裏道。

「あ、でもここら辺って…」

 琉嬉が何かに気付く。

「心当たりでも?」

「僕が叉羅沙と戦った場所……」

「あらまぁ」


 そう。

琉嬉が叉羅沙に突然戦いを仕掛けられた場所付近。

勝負は一瞬とも言える早さで決着を付けた。

そもそも、長い戦闘になると琉嬉は不利になる。

そう思って、一気に全力に近い力を出し惜しみなく畳み掛けたからだ。

「あん時はね…正直ゾッとしたよ」

「そうなんですか」

「…肉弾戦では僕には勝ち目ないし」

「体格差ありますもんね」

「そうそう…って誰が小さいだ!」

「小さいなんて言ってませんよ」

 まるで漫才。

そしてお約束でもある。

「叉羅沙は強い。あの時思ったよ」

 今でも覚えてる、叉羅沙の強さ。

あまり思い出したくもない思い出だ。

「ええ。私も理解してますよ」

 にこやかに言うまどか。

琉嬉は敢えてその先を聞かなかった。


「…ん」

 少し周辺を歩いてると、僅かながら何かを感じ取る琉嬉。

「どうかしましたか?」

「ここっぽい」

「ここ…というと?」

 路地裏から表通りに面してる、少々端っこにある、小さな喫茶店。

外見は改装したのか、作り自体は古そうな形だが、壁やカラーリングは綺麗だ。

外壁は綺麗薄くも白に近いような緑色をしている。

「カフェ…ですかね?」

「ここの気がする」

「…はぁ」

 そう言うと琉嬉はその喫茶店に躊躇もなく入って行く。

チラッと、ドア付近に置いてある置き看板を見る。

営業時間は火曜日が定休日でそれ以外は営業してる様子。

時間も朝8時から夜の22時まで。

一般的な喫茶店と変わらないようだ。

少し疑問に思いながらもまどかも後に続く。



 カランカランと、ドアを開けた瞬間鳴る音。

これもよくある光景だ。

入ってみると外装とは違い、内装は明るめのクリーム色を基調にした壁。

テーブル椅子などは木目が目立つ自然感の出てる綺麗な物。

とは言え観葉植物が多く、緑色が多い店内だ。

「いらっしゃいませ~」

 若い男性の声。

店員がまず視界に入る。

ジャズらしき曲が流れている。

「……」

 無言のままの琉嬉。

「お好きな席へどうぞ~」

「はーい」

 小さい声で返事する琉嬉。

でもその場から動こうとしない。

「琉嬉さん、どうなされました?」

「いや、ここは…まぁいいか。こっち座ろうか」

 思い立ったかのように突然動き出し、窓際の席へ向かう。

他の客はいないようだ。

繁盛してないのか、それともたまたまなのか。

などと席に着く瞬間に考えてるうちに目的の席へ到着する。


「ここでいい?」

「いいですけど…思わず入ってしまいましたけどいいんですか?」

「うーん…僕の予想だと叉羅沙がここにいるんだよね」

「……本当ですか?…と言いたいところですが…」

「ん?」

「琉嬉さんが見当違いな事をする人じゃないというのを知ってますからね」

 まどかですら琉嬉の異常なまでの察知能力を信用している。

「根拠はあるんですよね?」

「そりゃまぁね」

 琉嬉が青年の方へ目線を向ける。

店員の青年はにこやかに何か作業をしている。

メニュー表を見て何を頼むか少し悩んでる時だった。

ガタンッという物音が聞こえた。

「な、なんでここにいるん…?」

 大きく顔を見上げると、見慣れた顔。

それもそのはず、先程の制服姿とは変わってお店のエプロン姿の叉羅沙だった。



「へぇー…ここでバイトをね」

「ちょっと、生活費がな…」

 かなり凹んだような様子。

苦労してるようである。

「だからここのカフェでバイトをですか?許可は取ってるんですか?」

「勿論、取っとる」

 学校にもよるのかもしれないが、基本的に高校生がバイトをするには学校から許可を得る必要性がある。

鞍光も当然、そのようになってる。

叉羅沙は表的には真面目でいたいので許可は取っていると説明する。

「こっそりそんな事してたんだ」

「だから寝不足気味だったんですね」

「そうや」

「でもみんなに黙ってる事もないのに」

 うんうんと頷くまどか。

「……は、恥ずかしいやん」

 照れた表情をする叉羅沙。

珍しい態度に二人は思わず笑う。

「別に隠す必要ないのにさ」

 琉嬉は頼んだ甘いアイスココアを叉羅沙から受け取る。

まどかはアイスコーヒーを頼んだ。

「でもさ~、でっかい女子高生が働いてるカフェなんて噂すぐ広がるよ」

「うっさいっ」

「でも保護者の方の許可ってどうなってるんです?」

 さすがは生徒会長だけあって、学校の制度の部分を気にする。

「んー…それは一応親戚筋やから問題ないって事で…」

 男性店員にアイコンタクトするかのようにチラっと見る。

その店員はにこやかに笑顔で軽く会釈。

「親戚…?」

緑川成宗みどりかわ なりむねさんや。ここの店主」

「ども~」

 男性店員はにこやかに返す。

「緑川……もしや」

 まどかが何かに気づいた。

「何?どうしたのまどか」

「叉羅沙さん…」

「さすがにまどかも気づくかぁ」

 にへら、と笑う叉羅沙。

「?」

 琉嬉は首を傾げる。


「あ。もしや」

 カップをテーブルの上に置いた途端、何かに気づく。

「琉嬉さんも気づきましたか?」

「お前の反応見たら気づくよ」

 相変わらず察する能力が高い琉嬉。

叉羅沙も敢えて何も言わないまま。

「霊術名家のひとつの緑川家ですね」

「ご名答~」

 先程の緑川成宗と紹介された男性が大きな声で言う。


「なるほどね~」

「はは、名家と言ってもね、オレは分家の方だからあんまり直接関係ないんだけどね」

 分家の方…とは言う青年。

「なぁに言っとるん。優ちゃんのいとこやろ~」

「優ちゃん?」

 琉嬉にはまた知らない名前が出て来る。

「あ~…緑川優さん。私達と同じ年で、夜栄守神社でお世話になってると聞いてます」

 まどかは完全に理解した様子だ。

やはり同世代の者がいると嫌でも耳に入ってくる情報なのだろう。

「夜栄守神社って…寧音の?」

「ええ」

 夜栄守神社。

夜栄守家直系が管理している神社。

以前、琉嬉が緋瑪斗とお世話になった事がある。

寧音はその直系に当たる。

「あ、もしかしてあの流奈とかっていう生意気な奴がいる…」

「そうみたいですね」

「一度緋瑪斗の時にお世話になったけど…大家族だったな」

「へぇ~、噂には聞いてますがそうなんですね」

 夜栄守家は大家族らしい、と。

そう話す琉嬉。

まどかは夜栄守家とはあまり繋がりが無い。

だから大家族とかの話は知らないようだ。

「琉嬉ちゃんはいろんな人と知り合いなんやなあ」

「好きでそうなってるわけでもないし、ここ最近の話だよ」

 鞍光に来てから一層いろんな者に凄まじい速さで知り合いが出来た。

これが良いのか悪いのか。

琉嬉には知る由もないし、考えるのも面倒なので既にやめている。



 店の名前は「碧屋あおいや」。

店主である緑川成宗の名字である緑から連想した漢字を使用してるようだ。

他の客がいる様子は今はない。

ひっそりとしていて、ジャズの音が流れてる以外、物静かな状況である。

これから客が増えるのだろうか。

だとしても人の気配が無さすぎるようにも思える…。

琉嬉はそう感じてた。

「まだオープンして一週間くらいなんだよね~」

「そうなんですね」

「普通オープンしたてなら人が多い筈では…?」

 疑問に思う琉嬉。

何か裏があるのでは?と思うしまつ。

非日常な状況も遭遇してるからこその発想だ。

「ま、ちょっと今日は貸し切りでね…」

「貸し切り?」

 成宗が貸し切りだと言い出す。

しかし…

「おかしいですね。貸し切りなんて看板は出てなかったような…」

「理由はすぐに分かるえ」

 叉羅沙が意味深に言う。

お互いの顔を見て疑問視する琉嬉とまどか。


 でもその理由はすぐに理解出来た。

急にざわつくような気持ちになる。

「この感覚…」

「あー、もう…なんでこう琉嬉ちゃんはまだしもまどかも首突っ込むかね~」

「なんのことでしょうか?」

 と、言いつつもまどかは何かの気配に対して警戒をする。

「え…と…これって…」

「ごめんね。本当に「貸し切り」状態だったんだけど君達の前では無意味だったみたいで…」

 成宗が申し訳なさそうに言う。


 その理由。

もう見ただけで分かるレベルにまで達していた。

いつの間にか店内が、魑魅魍魎に覆われていた。

いや、覆われていたというより、律儀に妖怪達が座席についてるのだ。

「な、なんだこれ…」

「ですね~」

 さすがに驚く二人。

いや、二人共表情はさほど変わってないが…発する言葉は驚きの言葉である。

内面ではさすがに驚愕しているのだろう。

「どゆこと?」

「あー、まぁ…なんつーか…成宗はん」

「あはは、いわゆる妖怪さん達の為の時間…ですかね?」

「なるほどねえ…」

 琉嬉は何かしらの妖気を感じていた。

が、攻撃的な感覚はなかった。

「お?なんだい?人間の小娘っ子か?」

「珍しいねこの時間帯に」

 妖怪達も琉嬉とまどかの姿に気づく。

比較的に人間に近い姿の妖怪達。

「いえいえ、この子らは特別やからね」

「へぇ~…」

 


 成宗の説明によると、毎週一日だけは妖怪らの為のカフェとして貸し切りにして開く。

そして「その為の結界」を張っていると言う。

普通の人間には見えない、特殊な結界。

それを無視してやってくる人間は余程の霊能力が高い者…だけであると言う。

だから、琉嬉とまどかは入って来れた…という理由だ。

「でもこの日関係ないウチはバイトさせてもらってるんやけどね」

「バイトしてるって隠す必要ある?」

「そうですよ~」

 珍しくムッとした顔をするまどか。

「いんや~…まぁ…恥ずかしいやん」

 照れる叉羅沙。

「分からんでもないけど」

「だって、絶対あんたら来るやろ?」

「それは当たり前ですっ」

 いつものと違う笑顔を作るまどか。

ニヤリとした顔が薄気味悪くも見える。

「…やれやれ」


「そんなに金に困ってるの?」

「まぁ…な」

 バイトする必要性がある。

それだけ少しお金に困ってる様子だった。

「ほら、実際ウチって霊術会直接は関係ないやん?」

「あ、そうなの?」

 琉嬉は知らなかった。

というより聞いてたとしても既に忘れてる可能性が高い。

「個人でやるのも大変やね。ましてや学生しながら。護はんは凄いわぁ」

 護と同じ、自営業みたいな事。

結局生活するにはお金が必要だ。

「でもどこにカフェの店員で身長190もある女子高生店員がいるんだよ」

「あはは、たしかに」

 成宗もつい笑ってしまう。

「成宗はん?」

 一瞬細い目つきがさらに鋭くなる。

「あ、いえ。何でもありません」

 仕事にそそくさと戻る成宗。


「だったら、みゆの所からおこぼれもらえばいいじゃん」

「それもそうやけどねー」

 ついこの間。

琉嬉は港咲家の仕事を手伝い、分け前をもらった。

「ま、最近半妖騒ぎやら何やらで動き活発ですけどねその辺の」

 霊術会の幹部を親に持つまどかだから分かる最近の諸事情。

何かとそういった話題が耳に入るようだ。

「はぁ~…」

 項垂れる叉羅沙。

「叉羅沙ちゃん、休憩しなよ」

「あ、いや…まだ働いて1時間くらいしか…」

「いいからいいから。今日はお友達も来てるんだし」

「うーん…しゃーないか」

 店主からの一声。

さすがにこういう厚意を有難く受け取る方がいい。

そう思い叉羅沙はエプロンを外す。


「いいですね、このお店」

「今度來魅連れて来るか。妖怪だし」

「でも來魅さんは普段でも入れますよね」

「見た目は人間とほぼ変わらないからね。

で…ここなら…」

「妖怪さん達の情報をゲットするならここが一番でしょうね」

 二人して怪しい笑顔になる。

「ま、半分それが狙いやからね。成宗さんの」

「へぇー……そういう事なら…」

 すっくと立ちあがる琉嬉。

「琉嬉さん?」

「これを使わない手はないだろ?」

「ああー…そういう事ですね」

 まどかも察した。

「聞き込み開始だ」

 そしてまずは近くの席に座ってる女性の妖怪達がいる席に向かった。

「…いい探偵になりそうやな」

「ですね」


「ちょいちょい、そこの妖怪さん」

 ちょこんと琉嬉が妖怪らの目の前に現れる。

「なんだい、人間のお嬢ちゃん」

「最近半妖がどうのこうのって話ない?」

「半妖?あー、うちらのシマには何にもないけど…噂では聞いてるけどね」

「噂?」

「そ。半妖達を集めてる集団がいるってね」

 早速ビンゴ…、と言いたいところ。

「ほら、うちらみたいな人間とあまり姿変わらん妖怪って半妖に間違えられがちなんだ」

 そう言われると服装以外はそこらの人間とあまり変わらない容姿。

琉嬉も納得する。

「半妖っぽい奴に話かけてるっていうのを聞いたことある」

「でも違ったら?」

「そん時は何もされないさね。ただ…」

「ただ?」

 何か引っかかるような言い方。

話を続ける。

「そういった話、気にくわない妖怪もいるさ」

「…そうだろうね」

「短気な奴は喧嘩吹っ掛けるさね」

「でも返り討ちにあったとかなんとか…はた迷惑な話さ」

「ふむふむ…」

 などと妖怪達の会話を続けていく。



 20分後。

琉嬉が戻ってくる。

結構な時間だ。

「何か成果ありました?」

「どれもこれも聞くと、てんで下っ端っぽい半妖ばっかり相手してるってさ」

「そうなんですか」

 ドカッと座席に勢いよく座り始める。

そして残ってたココアを一気に飲み干す。

「純粋な妖怪さん達にはそううまい話はなさそうだって事は把握出来たね」

「なるほど」

 

 一方、叉羅沙は仕事に戻ってた。

時間もそこそこいい感じ。

「我々はこの辺で帰りますか?そろそろ」

 帰る準備をし始めるまどか。

支払いの伝票を手に取って立ち上がる。

「んー、そうだね。叉羅沙~、帰るよ」

「はいはい」

 レジに回る。

手慣れた手つきで会計を済ます。

「手早いね」

「まぁな」

 いつからやっていたのは知らない。

とは言え、それほど前からではない筈なのにレジをいじる手つきは見事なものだ。

「んじゃ、また明日」

「では失礼致します」

 ぺこりと頭を下げるまどか。

それに対してそそくさと少し不愛想に先に出て行く琉嬉。

「早いなー」

「ふふ。すみません。ではまた」

 まどかも出て行った。

「…やれやれ」




 二人は駅の付近まで戻って来ていた。

人通りも少し落ち着いている。

時刻は夜の8時近く。

結構のんびりしていた。

「ねえ、まどか」

 琉嬉から話を振る。

「はい、なんでしょう?」

「思うんだけどさ。叉羅沙が学校終わってバイトしてるくらいであんなに疲れを見せると思う?」

 率直な疑問。

「あの、私、いいコト思いついたんですけど」

「…あー、奇遇だね。僕もなんだけど」

「ですよねー?」

「うん」

 不気味な笑みをこぼす二人。

考えてる内容が一致してるようだ。



 当然の如く二人はまだ帰らずに、叉羅沙の動向をストーキングする事にした。

悪いとは思いつつも、気になってしまうからだ。

一番長い付き合いもあるはずのまどかさえも乗り気のまま。

結局店の近くまで引き返してきた。

夜はまだ冷える。

少しだけ、ジメジメ感のある肌寒さだ。

「で、叉羅沙はまだ?」

「まだ、ですね」

「まさか、あの喫茶店で寝泊まり?」

「そんな訳ないですよ~。ちゃんと自分の家あるんですから」

「そっか」

 ふと脳裏に浮かぶ疑問。

「……叉羅沙って、一人暮らし?」

「だとは思うんですけど…実は私もあまり詳しくは知らないんですよね」

「…そうなの?」


 謎多き人物。

あまり自分の話をしない、とまどかは言う。

逆に他人の事もあまり深く詮索するようなタイプでもない。

微妙な感覚距離を保ってる…と。

「謎多き美女…か」

「ですね」

 しかし、二人の意見は一致している。

このまま叉羅沙を興味津々に、追いかけると。

「バレたら怒られるなこれ」

「望むところじゃないですか」

「…お前、案外黒いな」

「そうですよ?じゃないと生徒会長なんてやってられませんから」

 しれっと言い放つ。

噂には琉嬉も聞いていた。

宮森まどかという人物はふわふわしてそうでしっかりと自分の意見を通す。

筋の通った、良くも悪くもリーダーシップがあると。

「あ、出て来た」

「了解」

 おもいっきり気配を消す二人。

時刻は夜中の9時を回っていた。

「案外早いですね」

「いや、一応僕らって高校生じゃん?女子高生じゃん?」

「ああ、そうでしたよね」

 忘れかける二人。

高校生のバイトは時間帯などが厳しくされている。

念の為なのか、そういう部分はきっちり守る。


「よし、追いかけよう」

 そして動き出す。



 が、それは予想外、いや予想内の出来事に出くわしたのだった。

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