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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~青春補完編~
89/92

#89 來魅の一日は一日であらず

「およ?琉嬉の奴はどこ行った?」

「近くの温泉だって。好きだよね、ほんと」

「む…私を置いてか。しかし…週に2回くらいは行ってないか?」

「週1でも行かないと気が済まないんだってさ」

 とある日の夕暮れ時。

來魅が琉嬉の姿が見えないと思ったら温泉へ行ってると悠飛から聞く。

学校から帰って来てすぐ向かったそうだ。

その來魅が手にしてるのは何処からか持って来た串団子。

美味しそうに食べてる。

「來魅も行きたいの?」

「うーん…にゃ。私は別にいいかな」

「そう」

「お主こそ行きたくはないのか?」

「…私は熱いの苦手だから」

「ほむほむ…そか」

 こいつは雪女。

來魅は思い出す。

厳密には雪女そのものじゃなく雪女の力を持ってる人間だが。

ついつい忘れそうになるが、悠飛は雪女の妖力を持っている。

その影響なのか、熱い物や暑い場所が苦手だそうだ。

妙に納得した來魅。


「少し出かけて来る。嶺珠に買い物も頼まれてるからな」

「買い物?」

「嶺珠は仕事で遅くなるらしいと言ってたからの」

「はいはい。気を付けてね」

「馬鹿言うな。全力出せんでも負ける気はないぞ」

 そう笑顔で言い、來魅は窓から飛び立って行った。

「…玄関から出なよ~…」


「飯まで暇だのう~」

 ふらふらと家の屋根伝いで移動を重ねていく來魅。

身軽な動きでどんどん進む。

そして近くの大きな公園をまたぐかのように通り過ぎ、隣の地域まであっという間に辿り着く。

その速さ、車より早し。

ただ後から聞いた話によると、小さいキツネが家の上を歩いていた…という事になってるという…。


「着いた着いた」

 トテトテと住宅街を歩く。

見た目は人間と変わらない。

その為誰も來魅が歩いてる姿を気にも留めない。

外国人の子供でも歩いてる…ただそれだけの感じである。

(昔は人間の集落を通るだけでよく声かけられたものだが…今はほとんどないな。

これも時代なのかのう)

 近代の状況も理解してきた來魅。

ましてや子供に声をかける事案…そうならないために無駄に声をかけない…現代日本の状況である。

これが良いのか悪いのかはさておき…。

「お、ここだ」

 手持ちのスマホの地図と現在地を照らし合わせる。

見事に一致している。

隣の地域…市と市の間にある川をまたいですぐ隣である北神居町にやってきた。

緋瑪斗達が住んでいる町である。


 ちょっとした住宅街の大きな通り道。

そこに面した住宅兼お店。

その店は少しお洒落な和菓子屋。

住宅街にあるのも関わらず、人気があるらしく土日など休日の日には賑わってるという。

この日も平日だが、そこそこの客の姿が見受けられる。

「ふむー。いざ突貫!」

 早速入ってみると、綺麗な和菓子達が目に入る。

「おー、美味そうだなー。

うん、これも綺麗な色合いだ。

これもこれも…はっ!」

 思わずいろいろ手に取ってしまう。

「いかんいかん…買い過ぎると嶺珠に怒られてしまう…」

 以前買い物について失敗した事があるようだ。


「あらあ、可愛いわね~。おつかい?」

「ん?」

 來魅に声をかけて来た人間。

エプロン姿から見ると、どうやら店員のようだ。

見た目は嶺珠と同い年くらいの女性。

「やおー。買い物を頼まれたんだ」

「あら、偉いわね~」

「うむ。飯を食わせてもらう為にはそれ相応の働きをしないとな」

「随分日本語うまいのね~」

「うむ、日本生まれだからな」

「あら、そうなの~」

 と、どこかかみ合ってるような合ってないような会話。


「よし、買った買った」

 沢山買って来た。

両手にある袋。

それ以上に満足気な表情。

そして唐突に歩みを止める。


「…何者だ?こんな小娘追い回すなんぞ、趣味が悪いぞ」

 來魅が独り言かのように喋り出す。

まわりには人の気配はない。

しかし來魅にはその何かの気配に感づいている。

妖怪ならではの、鋭い感覚。

「いえいえ、こうもあっさり見つかると思ってませんでした」

 クスクス笑いながら影から出て来る人物。

ひょろっとしていて背が高めの長髪を束ねた男。

「…半妖か」

「あら、お分かりで?」

 來魅は瞬時にどういう「属性」の人物か見抜いた。

半妖。

「ちょーっと…だけ、実験したくってですね」

「実験?」

「その実験に付き合ってほしかったんですよね」

 半妖の男はにやけながら來魅に近づく。

バカ正直もいいところだ。

來魅に不用意に近づく。

下級の妖怪でもしない。

だが、この男は不気味なくらいあっさりと近づいて来る。

(…なんだこやつ?よほど自信があるのだな)

 來魅も一応の警戒をする。

だが、相手は來魅と知ると普通は怖気づいてしまうのだが。


 しかし、男の手には何もない。

「何の真似だ?」

「だって、怪しい動きしたら逃げるでしょう?」

「…挑発のつもりか」


 じゃりっと、路面に広がる僅かな砂。

それが風に飛ばされる。

來魅も右腕には既に強力な妖力が集まっている。

「あ、自己紹介しときましょうか?」

「…今更か?」

「ええ。私はですね、いわゆる半妖の組織の一員でして、そこそこ上位の立場にいます。

そして、名前は君沢漂と言います。おかしな名前でしょう?」

「知るか」

 來魅は聞く耳持たずに飛びかかった。

とまあ、案の定君沢と名乗った男は避ける。

「凄まじく早いですね」

「…これでも3割程度だ。

それに……本気を出せるのは一瞬だけだ」

「おー、それは怖っ」

 明らかに挑発気味だ。


 來魅相手にも余裕さを見せる。

それが逆に不気味だ。

來魅も十分に承知しているようで、無闇に攻撃を仕掛けない。

きっと何か裏がある。

そう言い聞かせてる。

妖怪相手にはそれ相応の力押しでなんとなする。

しかし、人間は小細工をしてくる。

琉嬉との戦い以前に、封印される前にも何度も人間の術者と戦っている。

だが…人間と妖怪の血肉を受けている半妖。

(…ふん、人間の知識技術を持つうえに…妖怪としての力と妖力…か。厄介な存在よの)

 警戒心を解かずにいる。


「…おかしいですね。攻撃しないんですか?」

「たわけ。何か企んでるだろう」

「いやいや、バレてますね」

 笑顔を絶やさない。

腹立たしい程に。

「では、私から攻撃しますね」

 パリッと、一瞬青白い稲光が見えた。

來魅は瞬時に理解した。

「雷か」

「ええ。私の得意能力は、雷です」

 バゴンッと、來魅の目の前で落雷が落ちる。

アスファルトの地面が見事にえぐれる。

「それがどうした」

「当たっても倒せると思ってませんよ」

 雷を連発する。

勿論、來魅には当たらない。

本来の力を出してなくても異常な動きの早さで近づく。

「でもね、私には…とと!?」

 一気に懐に潜り込む。

そしてストレートパントを腹に命中させる。

「おふっ…これは痛い」

「彼方家直伝の体術だ」

「彼方家…ですか」

 來魅の逆に型にはまった動き。

君沢は良そうだにしない動きに少々困惑する。


「まぁいい、一気に叩きかけてやる」

「そう来ないと」

 ニヤリとさらに笑う君沢。

さすがに、半妖の上位の力を持つだけあって、來魅の攻撃にも対応していく。

只者ではない。

來魅も感じている。


 油断はしない。

それは琉嬉との戦いで大いに学んだ。

(…相手が誰であろうと気を許すな)

 來魅はさらなる力を溜める。

だが、右腕の数珠が邪魔をする。

「琉嬉、せっかくだが…本気を出すぞ」

 一気に自身の霊力を放出する。

一時的に短時間だが力を解放できる。

「すぐ片づけてやる」

 來魅はいくつもの黒い炎を出す。

それを君沢目掛けて飛ばす。

「ややっ!なんて恐ろしい妖術!!」

 なんとか避けていく…が、いくつかは命中はする…。

のだが、致命傷にはならない。

(…当たる瞬間に何か障壁のようなのを出してるな…。ならば)

 來魅はさらに近づく為に、炎と一緒に自分も突撃を仕掛ける。

「くたばるといい」

「はやっ」

 一瞬の出来事だった。

相手に考える暇をも与えずに、妖術と組み合わせて体術で一気に攻める。

二重の攻撃に君沢は反応する前に攻撃を受ける。


「とどめだ」

 右腕を大きく振りかぶる。

が、しかし。

「いたたた…」

 よろめく君沢の表情は笑みを浮かべる。

「……お前…」

 來魅の動きが止まる。

止まった途端に、その場に崩れ落ちる。

「いやぁ、間に合いましたね」

 奇妙な文字が書かれた紙…札のような細長い紙切れが來魅の体の回りを浮かんで取り囲んでいた。

なんらかの陣形なのだろうか。

規則正しい動きをしている。

「いつの間に……くっ」

「やれやれ…うまくいきましたね」

 まるで力を取られたかのように。

その場から動けない來魅。

「…妖怪封じの術か」

「ええ。そうです。妖怪にしか、効かない術式です」

 薄ら笑いを浮かべたまま答える。


(ふむ……全力が出せないとはいえ、私をここまで封じるとは…厄介な)

 なんとか琉嬉と連絡を取りたい。

琉嬉が居れば、封じの数珠を取り外して全力で戦える。

が、今は琉嬉が居ないので無理だ。

そしてもう封じの数珠の力が戻っている。

(絶体絶命――。ってやつかのう)

「まさか、こう上手く捉えれるとは思いませんでしたよ。

さすがに全力出せなければ私でもなんとか出来ますね」

「ちっ。失態だな」

 自分自身の失敗を認める。

油断はしない。

そう思っていたが、さすがに力を全開放しないままでは勝ち目が浅かった。

だが來魅は君沢と同じように不敵な笑みを作る。

「…何か可笑しい事でも?」

「ふひひ、いや、な。お前達の狙いのひとつに私も含まれてるようだな」

「……ま、それもありますね。邪魔な部分のひとつでもあります」

「言ってくれる」

「余裕ですね?」

 身動きが取れない來魅。

だが君沢が言うように來魅には余裕があるような笑みを浮かべている。

妙に落ち着いてる來魅。

そして目線は君沢ではなく、奥の方を見ている。

その視線に気づく君沢。

「……?どうかしましたか?」

 君沢は後ろを気にする…が、振り向く事はない。

ただ警戒はしている様子。

「いや、素敵だなと思っての」

「素敵…ですか?」

 瞬間だった。

君沢の体が宙を舞った。


「!?」

「やはり来おったか」

「ええ、近くだったもんで」

 吹き飛ばされながらも態勢を直し着地する君沢。

だが何が起きたか分からないといった顔をさすがに見せる。

「…誰かと思えば…あなたは、五大家の…」

「あれ、やっぱり知ってます?僕の事?」

 乱入して来たのは耿助だった。



「よくここが分かったな」

「琉嬉さんから連絡が来たんです」

「…琉嬉の奴が?」

「何か察したんじゃないでしょうかね?」

 耿助が來魅の元へ近づき、自分の上着の胸ポケットの中から何かを取り出した。

「こんな悪い術は解きましょうね」

「させませんよ」

 君沢が行動に出る。

「はやっ」

 耿助が思わず後ずさる。

「何やってるんだ耿助!」

「すみません、來魅さん。ひと先ずこれを」

 耿助が取り出した道具を來魅の近くに投げつける。

それは水晶玉のような、小さな丸い球だ。

それが軽く來魅の体に触れた途端に、ボンッという軽い爆発のように破裂する。

「うわっぷ!なんだこれは!」

 破裂したと思ったら今度は大量の煙幕が巻き上がる。

「…?」

 謎の爆風。

訳が分からない。

それは君沢にとっては勿論、來魅も理解不能だ。

「妙な物を使いますね…」

「それはお互い様ですけどね」

 耿助が攻撃を仕掛ける。

琉嬉と同じように、幾つもの攻撃用の札を投げつける。

「無駄ですよ」

「それは百も承知です」

 次から次へと札を投げつける。

それは琉嬉にも負けないくらい数で。

「しつこいですね」

 君沢は空高く舞い上がる。

普通は無駄に高く飛び上がれば狙い撃ちされる。

だが無謀な性格ではない君沢。

何かを狙うつもりだ。

「気を付けろ。奴は雷撃を使うぞ」

「來魅さん、動けますか?」

 その來魅はパンパンッと服に付いた土埃をはらう。

「なんとかな。しかし手荒すぎる解除の仕方だな」

「それは後でゆっくり謝罪します。ですが」

「分かっとるわい」

 來魅はありったけの防御壁を張る。

耿助も同じように壁を作り出す。


 やはり、狙いすましたように電撃が空から舞い落ちて来る。

凄まじい力の攻撃。

「うっひゃ~、凄いですね」

「私を狙うだけあって伊達じゃないな。そこは素直に認めてやろう」

 來魅も認める術の高レベルさ。

周辺は激しく崩壊していく。

「…そろそろここから脱出しないと騒ぎに気付かれますね」

「だな」

「という事で僕は彼を仕留めたいと思いますね」

「策でもあるのか?」

「やぶれかぶれです」

 ニコッと爽やかな笑顔を見せる耿助。

「…案外何も考えて無いのか」

「それもこれも皆さんの影響ですかね」

「ぬかせ」

 耿助は迫る雷撃の中を飛び出した。

君沢の姿は見えない。

何処かに姿を隠したようだった。

しかし耿助は何処に居るのか見当をついたのか、近くの林の方へ飛び込んで行った。

「…まったく、五大家とやら突撃するのが好きのようだ」

 雷撃がやんだ瞬間、來魅も耿助を追いかけた。



「分かってますよ。居るのは」

「バレてました?」

 ひょっこりと木の枝の中に姿を現す君沢。

「まったく…厄介ですね」

「それはこちらの台詞ですよ」

 お互い、妙な敬語。

そして妙に似た物腰柔らかな雰囲気。

決定的に違うのは、お互い敵同士だと言う事。

「……何しに鞍光にやって来たんですかね?」

 意地悪そうに質問をする耿助。

「いやぁ、それはもう解かってるんじゃないですか?」

 逆に仕返しのようにいやらしい笑みを浮かべながら返す君沢。

「…ま、質問に答えてくれる訳ありませんか」

 構える耿助。

札と一緒に何かの球を取り出した。

綺麗な水晶玉。

先程使った水晶玉とは違う、一回り大きな水晶玉。

「一体どれだけ隠し持ってるんですかね、貴方は」

 そう言いながら雷撃を放つ。

「ええ、切り札はいくつも持つモノなんですよ」

「それ、切り札とは言えないんじゃないんですかねえ?」

 耿助は雷撃を水晶玉を避雷針代わりのようにして突進して行く。

用は、術を水晶玉に吸収させるという荒業だ。

「切り札を持つなら更なる切り札を持てと言いますでしょ?」

 屁理屈にも聞こえる強引な言葉。

「…そんな格言ありませんよ」


「まったく…妙な術技を持ってますね…参堂家というのは!!」

「そっちこそ…いけ好かないですよ」

 渾身の蹴りが君沢に命中する。

だが、水晶玉が耐えきれなくなったのか、ひび割れが入っていた。

「ふふっ、限界が近いんじゃないでしょうか?」

「ええ。限界ですね」

 耿助はそのひびが入った水晶だまを、勢いよく投げつけた。

「んなっ?」

 予想だにしてない行動だったのか。

君沢が一旦動きを止める。

が、すぐに投げつけられた水晶玉を避ける。

のだが…。

「弾けますよ」

 パァンッ。

とんでもない大きな音を立てて耿助が言った通りに弾け飛んだ。

「無茶苦茶な…」

 破片が飛び散る。

幾つかの破片が避けきれずに君沢に当たる。

破片と言えども霊力を帯びた塊。

君沢の霊力を奪い取る仕組みのようで、僅かながらもダメージを与える。

「…く、やりますね」

「本当にな」

「!?」

 横から來魅の飛び蹴りが君沢に命中した。

敢え無く吹っ飛んでいく君沢。


「勝負付けますか?」

 吹き飛ばされた君沢の目の前に立つ耿助と來魅。

「ふふ、今日はこのまま逃げるとします」

 バッと立ち上がり、態勢を一瞬で立て直す。

見事までの動き。

「まだ元気じゃないか」

「いえいえ、そんな事ありませんよ」

 変に謙遜する君沢。

とは言え、動きはまだ軽快なのでおそらく、大したダメージは入ってない。

「このままお二方を相手するには分が悪すぎます。

今日の所は引き返しますね」

「……」

 一歩前に出る來魅。

「來魅さん、追いかけては相手の思うつぼです。今日はこのまま退散するのを見てましょう」

 と、遮る耿助。

「…仕方ないな」

 渋々ながら言う事を聞く來魅。

やり返したいのはやまやまだが、來魅の方は力は発揮出来ていない。

一時的にでも琉嬉以外の力で、力を抑えられた。

耿助のお陰で一応の解除はしてもらった。

が、相手はまだ何か隠し持ってるかもしれない。

そして耿助が見逃すという発言。

おそらく、耿助側も奥の手は「今は」ないのだろう。


「あ、ひとつだけいいですかね?」

 耿助が立ち去ろうとする君沢を呼び止める。

「なんですか?答えられる範囲で答えますけど?」

 質問が飛ぶ事を知ってたような素振り。

「あなた方が、妙な霊具をばら撒いてるんですか?」

「……いい質問ですね♪」

 ニヤついてる口元がさらにニヤつく。

まったくもって気味が悪い。

二人はそう思った。

「いいお答えを期待してるんですがねぇ…」

 少し間を置いて、

「さて、どうでしょうかね?」

 と、素っ気ない答えが返って来た。

「けっ、むかつく奴だのう」

「僕もむかつきますね」

 二人はほぼ同時に君沢目掛けて遠距離攻撃を放つ。

ずどんと大きな音を立てた時には最早君沢の姿はなかった。




「しかし、悪かったな。わざわざ」

「いえいえ」

「だが…あ奴等はなんなんだ。ただの半妖じゃないだろう」

「ええ、ただの半妖ではありませんね…」

 ただの半妖ではない。

それは身をもって知った。

だが、あまりにも能力が高過ぎる。

來魅が思うに、ひとりひとりが琉嬉らに匹敵するレベル…そう感じていた。

「他にも何匹かこの街に来てるのか?」

「さぁ、どうでしょう?」

 ドカッと近くのベンチに座って小休憩。

「でもいくら自信があるからって、術者がうようよしてるこの鞍光で単体で乗り込みはしないと思いますけどね」

「ま、私くらいの力持ってないとな」

「その通りです」

 納得する耿助。

「とは言え、私を捉える程の力…。

奴等は琉嬉らお主らと同等れべるの力を持ってる…そう思った方がいい」

「そうですね。同等かそれ以上…」

 來魅も認めざるを得ない。

それだけ危険な相手だと言う事。

「半妖の厄介な所は、人間の知識、技術と妖怪の霊力、体力を持ち合わせてる所です」

「それは十分承知してる。半妖と言えば…あの金髪娘や緋瑪斗だろ?」

「そちらのお二人は後天性ですからね。どちらかというと人間寄りです」

 護や緋瑪斗は後から半妖化した特殊タイプ。


「彼らはおそらく、先天性タイプです。生まれた時から半妖」

「後天性と何か違うのか?」

「ええ。これは僕の推測でしかないんですが…」

「勿体ぶらないで言え」

 せっかちな來魅。

「ところで…來魅さん」

「なんだ?」

 スマホを弄りながら返事する。

「僕達は…兄妹とかには…見えませんよね?」

「そーだな。親子でも無理だな」

「ですよね。通る人がチラチラ見ていくんですよね」

「…んー、今のご時世ってやつかの?」

 理解が早い來魅。

「移動するか」

 ニヤつく來魅だった。



「後天性はあくまでの人間としての度合いが強いです。普段は人間としてしか観測出来ません」

「…なるほどのう」

「先天性は…生まれつき、妖怪の力を持ち得てます。

なので…技能は後天性の人達より達者な場合があります」

 半妖のタイプについて來魅は語る耿助。

いろいろと調べてはいる。

と言っても…大昔から研究されて理解されてる事に過ぎないのだが。

「それに…後天性の場合は…人間というより、妖怪としての度合いが強い人が多いですね」

「…はぁ、なるほどのぅ。それはなんとなく理解出来る」

「それは何よりです」


 議題は半妖達に移る。

「僕なりに調べたんですけどね。ま、來魅さんもご存知だと思いますが…

彼らの徒党の名前は「黄昏」と言うそうです」

「…薄っすらと聞いてる。実に「ちゅうに」くさい名前よの」

「あはは…そうですかね?」

 妙に納得しながらも苦笑いする耿助。

それでも一旦呼吸を整えて続ける。

「おそらく…狙いがあるんですよ」

「狙い?」

「はい。狙いです」

 黄昏の狙い。

耿助なりの推測を話す。

「ま、この程度なら霊術会も知り得てると思うんですけどね」

「…霊術会のう…」


「ひとつは、妖魔王の復活」

「妖魔王…私の生まれた時代には知らん存在だ」

「ええ、來魅さんが生まれたのは今からおよそ150年前です」

「…多分な」

 來魅自信もいまいち分かってない。

日本での150年前であれば…幕末くらいの頃ですね」

「まだ侍がいた時代だな~」

 しみじみ、自分が封印される前の時代を思い出す。

今とはまったく世界が違う、と思い返してしまう。

「ええ、そうです。ですが、それ以前に存在した…妖怪でしょうね。その妖魔王と呼ばれた方は」


 妖魔王―――。

文献にも殆ど残されていない。

勿論、参堂家にも伝わり残ってない。

「ただ分かるのは、大昔に妖怪たちの王を名乗った者がいた…という話は残ってます」

「ほぅ。私の前にそんな大物がいたのだな」

「それを知り得てるのは……霊術会の一部の人達と…黄昏の人らですね」

「そいつを復活させようと言うのか」

 黄昏の企み。

妖魔王と呼ばれた存在の復活。

だが妖魔王と黄昏の関連性は今ひとつ把握してはいない。

単に復活させるだけなのか。

それに妖魔王の配下だというのだろうか?

謎が謎を呼ぶ状態である。


「あとのひとつは…おそらく、貴女です。來魅さん」

「…私か……?」

 きょとんとした顔をする來魅。

狙いが自分と言われて思わず呆けてしまう。

「來魅さんの動きを封じられたでしょう?」

「…まぁな。殺すつもりならそうするだろうし」

「いえ、殺す事なんて考えて無かったでしょうね」

「そうか?」

「そもそも、貴女を殺すなんて到底不可能に近いです」

「まぁな」

 ふふん、と鼻息を荒くしてドヤ顔する。

「だが、私を生きたまま捕えてどうする?

どうせ琉嬉達が追いかけて来るだろうに」

「そこです。なぜ、生かしたまま…なのか。

仮に、僕が來魅さんと敵対するのであれば、來魅さんを先にどうにかすると思います」

「ふむ…」

 これも耿助の推測に過ぎない。

ただ、なんらかの理由で來魅を捕えようとはしていたのは確かである。


「…相手も相手ながら…一筋縄ではいかない話だの」

「ええ、そうですね」

 來魅も考えを少し改める事にした。

今のままでは來魅と言えども危険には変わりない。

「あと…あの方が使用してた霊具の一種ですが」

「ああ。私を簡単に捕らえたな。あれは何の道具が?」

「…経文の一種ですかね」

 こっそり、耿助は君沢が使っていた霊具を持ち帰って来てた。

見てみれば、確かに経文のように文字列が縦に並んでいた。

仏教徒が使うような、経文のように見える。

果たしてこれがちゃんと機能してる為の文字列なのかはまだ不明。

「適当じゃないのか?これ」

「いえ…適当ではないと思いますよ…おそらく、本来の物とは違うコピー品だと思いますが」

「こぴー?模造品みたいなもんか」

 この世界でもよくある話だ。

霊具でも似たような模造品が出回ってたりする。

当然、本物よりは力が半分以下の、いわゆるしょぼい霊具だ。

「模造というより…偽物じゃなく、元の物をそっくりそのまま、新たに作ったとでも言うのでしょうかね」

「なんじゃそりゃ」

「いや、むしろオリジナルよりも効果を強めたというのか…。

ま、なんにしろ、やり方は気にくわないですが、これらをコピーして作り出してる方は天才のようですね」

「……ほむ」

 一瞬だけ見せた、耿助の険しい表情。

でもすぐにニコニコとした顔を見せる。

來魅はその表情を見逃さなかった。


「やれやれだな」

 ボソッと來魅が呟きながら、徐に立ち上がりスマホを取り出す。

「おや、誰かに連絡ですか?」

「んむ。そうだな」

 その連絡相手とは……。




 ヘンテコな音楽が流れる。

マーチングのような、勇ましいようでちょっとへっぽこ感のあるメロディ。

「なんじゃ突然……誰じゃ?」

 明るい金髪でショートカット。

動きやすい薄着の服装。

それでもって大きなリュックの荷物。

『やおー、私だ―、來魅だー。この番号銀杏のであったるよな?』

「………なんじゃ突然」

 來魅が電話した相手は銀杏だった。

『おう、お主、今どこにおる?』

「…今四国じゃな。ゆったり回ってるぞ。というかなんじゃ、わざわざ。

お前さんの電話番号なんぞ知らんかったぞ」

『おーう、あとで登録しておくれ』

「…んで、なんか用があるから電話したんじゃろ?」

『そのとーり』

 クスクス可愛らしい声で笑いながら応える來魅。

銀杏はほっとしたような、面倒そうな、曖昧な表情に切り替わっていく。


 來魅は電話越しであるが、半妖などの存在を説明した。

と言っても、來魅も口下手の方であるので途中から耿助に変わり説明をし終える。

そしてまた來魅と交代する。

「おおよその話は理解した。じゃが、お前さんが狙われるのとわしとなんの関係がある?」

『んー、だってお主、私と唯一対等とも言える存在だからな。

いずれは私同様狙われるかもしれんと思ってな。忠告したまでだ』

「…お前さんに言われんでも警戒は常にしとるぞ」

『……機嫌損ねたみたいだ、耿助』

『あはは…』

 通話の向こう側の耿助の苦笑いが聞こえる。

声には出さないが銀杏は面倒そうな顔をしていた。


「…正直な話、わしは何も知らん」

『嘘つけ』

 銀杏は何も知らないと言う。

だが…、

「……何も知らんが…何かが起きようとしてるのは感じる。単なる勘じゃったがな」

『お主らしい言い訳だな』

「ぬかせ」

『ま、分かるだろ?妖魔王というのやらも。私は若輩の妖怪だし何も知らん』

「妖魔王のう…。300年も昔のなんぞ知らんわ。わしとて100歳しか超えてない若輩妖怪じゃ」

『その喋り方で若輩とは片腹痛いわ。ふひひ』

「なんだその笑い方は…」

(……最強ランクの妖怪の二人がスマホで通話してるというなんともシュールな光景ですね…)

 耿助だけはあまりにもシュールな光景にちょっと面白がってた。


「奴等が狙ってるのは基本的に妖魔王の復活の為の霊具物と、半妖達じゃないのか?

なぜ來魅を狙う必要性がある?」

『そこが分からんのだ』

「分からんって…」

 狙われた本人も狙われた理由が分からない。

そもそも、來魅程の力を持つ妖怪を狙うのもリスクが大きい筈だ。

『という事なので、銀杏さんも狙われる可能性があるかもしれません』

「わしが?はんっ、笑わせる」

 笑い飛ばす銀杏。

「わしを誰だと思っとる?天下の狸大妖怪銀杏様じゃぞ?」

『…いや、それは初めて聞いたがの…』

 電話の向こうの來魅が呆れる姿が想像出来る。


『ま、くれぐれも気を付ける事だな。この私が油断してないつもりがまんまとやられた。

全力が出せない…という言い訳付きだが、それだけの強敵という事だ』

 一応の言い訳。

確かに全力は出せる状況でもない。

とは言え來魅を一度でも捕えかけた。

來魅と同等とも言われる銀杏も決して油断は出来ないだろう。

來魅なりの応援と忠告である。

「……お前さんがそう言うならその忠告しかと受け取っておく」

『そりゃありがたい』

「…妙な事になって来たんじゃな」

『そゆこと』

 軽快な応対。

「それじゃ、切るぞ。そろそろ移動するでな」

『あっそ。それじゃまたのう』

『こんな事言うのも失礼かもしれませんが…お気をつけて』

「ほいほい、あんがとさん」

 そのまま、通話を切る。

そしてすぐ空を見上げる。

少し、どんよりした雲が広がっている、四国の空。

回りは木々だらけの、山中の幹線道路沿い。

ひたすら歩いて移動してるだけ。

「いやはや………。厄介じゃのう」


 見上げてた頭を真正面に戻す。

目の前には道路と両脇には草木だけ。

時折通る車。

幹線道路…の割にはほとんど車が通らない田舎だ。

「……ジメジメするな…明日は雨じゃのう、きっと」



「あやつ、理解したのかの?」

 少しだけ心配する。

なかなか、珍しい。

「ふふ、大丈夫ですよ。銀杏さんは妖怪でもまだお若い方ですが、こうやって人間側の世界でも生活してきた

賢い方ですから」

「妙に人間臭い奴だしなー」

「そうですね、割と人間側の肩を持つというか…妖怪の中でもかなりの変わり者ですね」

 耿助も頷きながら納得する。

「だろ?」

 なぜかどや顔する來魅。

その笑顔は先程まで戦ってたとは思えないくらい可愛らしい笑顔だった。

「さて、自宅まで送りますよ」

 耿助の車の元までやって来た。

「すまんな。少し疲れた」

 ぽんっと、軽い足取りで車内へと入る。

大きめのワンボックスカー。

その後部座席へと飛び乗る。

「…黄昏の対策は…本気で考えた方がいいですね。最近動きが活発ですし」

「早めに白黒つけてやらんとな。琉嬉に頼んどくか」

「…その方がいいですね」




 帰宅した來魅。

既に琉嬉が帰っていた。

これから夕飯だ、という時間帯だ。

いい匂いがしてくる。

今日は野菜炒めか?と、勝手に解釈する來魅。

「おいっす」

「お帰り」

 帰りは普通に玄関から戻った。

琉嬉の部屋をノックもせずに開けて入る。

そして琉嬉の素っ気ない返事。

「温泉は楽しかったか?」

「まーね」

 ぼやくように返す琉嬉。

普段から無表情気味であるが、この時も至って表情変わらずの無表情。

いつも通りではある。

「……まー…そのな…」

「分かってるよ。捕まりそうになったんでしょ?」

「お、おう…そうだ。油断してたつもりはなかったんだが…案外やり手でのう」

「耿助さんに聞いた。経文が宙に浮いて力を抑え込まれたんだろ?」

 琉嬉が椅子から立ち上がり、來魅の目の前に移動する。

背丈は同じくらい…だが、來魅の方がさすがに少し低い。

体格はあまり変わらない二人。

目線はほぼ同じだ。

「何言いたいか「解かってる」。でもね…」

 途中、間を置く。

來魅は黙ったまま。

そして琉嬉の方が先に口を開いた。


「封じの術を解いて欲しいんだろ」

「…まぁ…そうだな」

「それは出来ない」

「はっ?」

「待て待て。落ち着け」

 詰め寄る來魅を両手で押さえつける。

小さい体で凄い力だ。

その力を押さえつけれる琉嬉も相当だが。

「契約みたいなものだ。僕が死ぬまで解けない術。

だけどね…僕の意志があればいつでも解く事が出来る」

「ふむ」

「んで、私から離れると自動的に封じの数珠がかかる」

「ほむ」

「言いたいコト解かった?」

 一瞬黙り込む來魅。

不満そうな顔をしたまま。

「……よーするにお前様から離れなければいいという話か」

「そゆコト」

「……むぅ…」

 そしてまた沈黙する來魅。

というか、それは今までと変わらない…のだが。

四六時中一緒に居るというのも到底無理は話ではある。


 腕を組み、しばらく考える來魅。

いつものほほんとかつ、ひょうひょうとしてる來魅が真剣に考え込む。

「そっか、私も一緒に学校に行けばいいのだな?」

「違う」

 ぺしっとツッコミチョップ。

「痛いだろ…」

「ま、常に一緒に居るってのは無理だから…何かあれば僕と合流すればいい」

「それはそうだが……」

 不満気な來魅。

ふくれっ面が可愛い。

「それ、に…封じの術を改良するんだよ」

 無表情顔から一気に、にぱっとした笑顔になる。

それが來魅にとっても逆に不気味に思えた。



「なるほどね……」

 これまでの説明を父親の導にする。

封じの術の改良。

ハッキリ言って、琉嬉は全力で來魅の封じの契約として術をかけた。

そのせいでもあるが、來魅は完全な自由度はなくなってしまった。

そもそも、100年前暴れに暴れた大妖怪である。

事情をあまり知らずに琉嬉は思い切って術をかけたのだから。

だが一年間一緒に過ごして分かった。

來魅は、危険な存在ではない――と。

「次の休みにお寺に行く。そこで…今の術をよりいい術にする。

ようするに、ある程度離れてても術を一時的に解除出来るようにする!」

「ほほう。そんなのが出来るのか?」

「多分!」

 自信満々で多分と答える。

確定的じゃないのに、自信ありげな顔をする。

「それは楽しみだな!」

「…いや、意味分かってる?來魅?」

 心配になる悠飛。

「ま、たまにはなんでもない日にお寺に帰るのもありかもね」

「そうね、導さん」

 嶺珠の賛成の意を見せる。

「…私まで行く必要性ある?」

 挙手して他の家族に聞く悠飛。

「お主も来るといい」

 來魅がその手を掴んで、降ろさせる。

「……なんで私まで…」

「いーじゃん。最近お寺行ってないんでしょ?」

「…だって行く必要ないもん……」

 思わず愚痴る。

「休みの日でいいのかい?」

「んー、土曜あたりでいいかな」

「オッケー。それじゃ、僕もどうにか時間を作るよ」

 親馬鹿。

娘達の頼みなら全力を尽くす勢い。

「やれやれ…」

 居間のテーブルに突っ伏す悠飛だった。




「邪魔されたか。やはり」

「ええ、まあ…そうですね。五大家の参堂家の者でしたね」

 君沢と会話している男。

「黄昏」の長の皆神。

「えらいいいタイミングで割って入られたんだな」

 背の高い男が言う。

加家島である。

「うちらも一緒に行けば良かったんだよ~」

 キャップをかぶっている女の子。

響百合那。

他のメンバーもその場に来ていたようだ。

「手を貸す?」

「いえ、遠慮しときます……と、言いたいですが…おとなしく手を借りたいですね」

「おやまあ、君沢さんともあろうお方が弱気発言ですね」

 加家島がおちょくるような発言。

「珍しいな。お前がそんなあっさりと身を引くとは」

 壬珠もいる。

「これはこれは…壬珠さん。

ま、五大家の一人と、來魅さんを一片にお相手する訳にはいきませんよ。さすがに」

「…それもそうか」

「いずれ、決着は付けますよ。参堂さんとはね…」

 リベンジを誓う君沢。

負けた…訳でもないが、勝利した訳でもない。

なんとも曖昧な引き際だった。

とは言え、逃げたのはいい判断だったのかもしれない。

かなり慎重派のようだ。

「フッ、期待してるぞ」

「ふふ、その言葉ありがたく受け取っておきます」

 丁寧なお辞儀をして、その場を去る君沢。

表情は笑顔ではなく、険しい表情をしていた。

ただ、他の者に見られないように、足早に闇の中へ消えて行った。


「よっぽど悔しかったんだろうな」

「表には出してないけどね~」

「あの冷静な男がな…珍しいな」

 他の面々は好き勝手に言う。

が、皆神だけは少し違う解釈をしていた。

「……楽しんでるようにも見えるさ」

「そうですかい?皆神のダンナ」

「私にはそう見えただけだ」

「ふぅん…ま、いっか。俺達は俺達でやるべき事をするだけかな?」

「そうだな」

 皆神はフッと笑みをこぼしながら君沢同様にその場から移動して行った。




 とある、部屋の中。

深夜にもかかわらず、煌々と部屋の明かりがついている。

和室部屋で、いくつもの本棚が並んでいる。

「ふぅむ……」

 思わずため息と同時に声も漏れる。

耿助である。

(……これは…やはり…、後でじっくり調べる必要があるか…)

 ガサゴソと袋の中を漁る。

昼間の戦いの後に拾った、経文のような切れ端。

文字列から察するに、とある仏教系列の霊具には間違いないと判断する。

(つまりは…これをコピーしてさらに威力を上げた物…?

だとしてもこれを作り上げた人は天才なのはたしかですね…。

ただの真似事じゃない)

 紙切れを小さな陣の上に置く。

すると陣が赤く光り出す。

(おそらくは…これを作り出したのは君沢というあの半妖…。

世に出回ってるのはこれらの霊具の一種…ですかね)

 確証はないが、耿助は真実に近づいてる…そう確信する。

(所詮は真似事だけのオリジナルではない…そして、間違いなく参堂家の技術を使用している)

 陣に置いた経文の紙切れが静かに燃えだした。

(…よく見ると「血」の文様…呪術系の呪いですかね…)

 文字のインクに血が混ざってるのに気づく。

次第に耿助の表情に不快感を感じたのか、さらに険しくなる。

(ま、そこが気にくわないですけどね)

 耿助が小さな式神をぽいっと陣の中に捨てる。

するとその術の効果だろうか。

唐突にボッと音とともに灰となり燃え尽き、何事もなかったかのように火も消え失せた。


 普段誰にも見せない、厳しい顔つきのまま燃え尽きる経文の灰を眺めていた。


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