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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~青春補完編~
88/92

#88 寧音プレシャス

 琉嬉は眠たそうな目を擦ってとある駅前のベンチに座っていた。

7月も過ぎた頃、日中が暑くなる季節。

鞍光でもなんだかんだで夏は暑くなるのだ。

(もう暑い…)

 時刻は午前の10時くらい。

駅前の通りだけあって、休日ながらも人通りが多い。

というより多くなってきた。

琉嬉は待ち合わせ場所の駅まで少し遠いので、早めに出た結果案外少し早く着いてしまった。

だから多少暇を持て余してる。


 駅前に来た理由は、同じ五大家である、夜栄守寧音と待ち合わせだった。


 前日の話。

「琉嬉さん、明日開いてますか?」

「はぇ?明日?」

 唐突に言われたから素っ頓狂な声が出る。

「はい。明日です」

「……開いてるっちゃ開いてるけど…なんで?」

 少し面倒そう言い方。

顔には出ないがあからさまに口調に出ている。

「あの、私、新しいパソコンのパーツが欲しくって…一緒に買いに行きませんか?」

「…なんで僕?」

「だって、ふかしぎ部の中だとこういうのに詳しいのは琉嬉さんですから」

「……あのね、言うほど僕は詳しくないからね」

 パソコンのパーツが欲しいと言い出す寧音。

目がキラキラしている。

「…ま、断る理由もないし?別にいいけど」

「それじゃ、明日の朝10時くらい、駅で待ち合わせしませんか?!」

「駅ってどこの…てか、早いな」

 間髪入れず寧音は即答した。

「鞍光中央駅ですよ!」

 親指立ててグッジョブポーズ。

「…お前って、本当普段と風紀委員の時とギャップあり過ぎだよな」



「すみません!遅れました!」

 タタッと足音と共に現れたのは寧音。

涼しそうなタンクトップの上に、薄い上着一枚。

ヒラヒラとしたちょっと長めのスカート。

実に寧音らしい、派手でも地味でもない清楚風な服装だ。

ただ同じ女である琉嬉でさえ目がいくのは大きなバスト。

「うん、寧音らしいや」

「え?」

「なんでもない。てか、どこのお店行くの?」

 ベンチから立ち上がり、すぐに歩き出す。


「てか、全然遅れてないから」

「そうですか?」

 時間は10時きっかりに寧音は来た。

風紀委員をやってるだけあって時間にぴったりの行動力だ。

「何が欲しいの?」

「えっと…グラフィックをよくしたいのでグラボと…あ、Gシリーズの…」

「あ、うん」

 店に着くまで延々と寧音の説明が続いた。

グラフィック強化する為の機器の説明はされたが、メーカーやら聞きの細かい名称などを説明される。

琉嬉はさすがにパーツごとの意味合いなどは理解しているが名称まではさすがに解からない。

それを当たり前かのように説明し尽くす寧音は「本物」だと確証した琉嬉だった。



 店内。

予想はしていたが、回りの客は男性客が多い。

それと、結構な年上のおじさま達。

琉嬉みたいな若い女性客…というか子供みたいなのはほぼいない。

逆に浮いてる感じだ。

「ねえ、別にネット通販とかでもいいんじゃないの?」

「それもいいんですけど、やっぱりこうやって店頭で見て回るのが楽しいんですよね」

「…あー…分かる気がする」

 琉嬉もレトロゲーム探しにいろんなお店を回る時がある。

それと似たような感覚なのだろう。

そう思うと琉嬉もなんとなく親近感が沸いてくる。

「あ、これとか…いいですよね?」

「サウンドカード?」

「はい。音も良くしたいですよね」

「ふーん…なるほどなぁ。來魅のやつもなんか言ってたっけな…」

「來魅さんが?」

「爆音がどうのこうのって…よう分からんが」

 來魅もパソコンにどっぷり浸かっている状態だ。

最近いろいろな注文がうるさいらしい。

元々理解力が高い。

だからパソコンの知識も増えてきてるようだ。

琉嬉もそこそこ詳しいつもりではいるが、本気の方達には全く及ばないようだ。


「いくらするの?」

「ええと…全部で8万円くらいですかね?」

「…え」

「だから8万円ですね」

「……ほ、ほほぅ…」

 絶句する琉嬉。

あまりにも驚いた値段。

8万円という言葉を聞いただけで一瞬固まってしまった。

「ね、そのパーツだけでそこそこいいパソコン買えたりしない?」

「あ、しますよ」

 即答。

「でもパソコンでも何十万とするのもありますからね~。

あ、でも私はそこまでスペックは要求してませんから」

「お、おう」

「一応、ゲームの為のスペックは欲しいですから」

 と、またベラベラと喋り出す。

「お、おう…」

「そういえば最近緋瑪斗さんどうしてますか?ゲームにもログインしてなくって」

「…緋瑪斗か。最近忙しいみたいだけどね」

「そうなんですかぁ」

 残念そうな顔をする。

「えと…なに?結構仲良いの?」

「ええ。ゲーム内だけですけどね」

「へぇ…」

「琉嬉さんもログインしてくださいよ」

「気が向いたらね…」

 楽しそうに会話を進める二人。

寧音も普段学校で見せる表情とはまるっきり違う。

他の生徒は「素」の寧音の事を知ってるのだろうか?

そんな事を考え始める琉嬉。

「あ、夏休み…行きますよね?」

「へ?どこに?」

「ほらほら、年に二回だけある…大きな祭典があるじゃないですか」

「……あー…」

 琉嬉は理解した。

夏と冬にある、日本でも世界でも最大級のイベント。

サブカルなどの文化が集まる巨大イベントだ。

それに参加に誘われている。

「緋瑪斗さん達も行くみたいですよ?」

「……考えておくよ」

「あと、ホテル代とかは考えなくていいですから!

夜栄守本家に泊めてもらえるように言いますから」

「…えー…、あの当主いる所?」

 琉嬉が躊躇するほど、面倒な人物。

夜栄守家当主である、夜栄守咲希璃。

初対面ながら琉嬉と口喧嘩めいた軽い言い争いをしあった人物。

「それか、あまのがわ壮で」

「あまのがわ壮って…あの大家族のか」

「はい、そうですよ?」

 ニコニコしながら答える寧音。

琉嬉は少々嫌そうな顔をしている。

「そっちはそっちで面倒なんだよな…人多いし」

「あはは、そうですよね」

 どっちにしろ躊躇してしまう琉嬉。

「はぁ…あの時は大変だったなー」

「緋瑪斗さん、大変だったそうですね」

「まー、生きてただけでも良かったよ」

 意味深な会話。

以前、何かがあったようだ。

「なんだかんだで世話焼きですよね、琉嬉さんって」

「……うーるさい」



 昼の12時手前。

お腹が空いてくる頃。

琉嬉と寧音は一休みする為、近くのファーストフード店はやって来た。

休日のせいか、いつもより混んでいる。

「それにしても、買う即決早いよね」

「ええ、私はあまり迷わないんですよね~」

「だろうね…」

 なんとなく納得する。

普段の学校での生活していれば寧音の事も分かってくる。


 とことんギャップ。

それが寧音の印象。

でもそれが面白くもあり頼もしくもあり。

ただ、あの時の状況を見たら、不安もある。

「ねえ、寧音」

「はい、なんでしょう?」

「あれから体の調子はどう?」

「調子ですか?すこぶる快調ですよ」

 右腕をぐるぐる回す。

問題無さそうな動きだ。

「そっか」

「心配してくれるんですか?」

「そりゃ、ね」

 夜栄守の呪い。

力を得た代償に自力では制御出来ない危ない力。

それが呪力。

寧音曰く、呪われた一族なのでこのような名称になったと言う。

「このネックレスのおかげもあるかもしれません」

「へぇ…耿助さんからもらったやつ?」

「はい。これのおかげで無意識に力を抑えられるんですよね」

「……ほー……そりゃよかった…」

 あの時の惨状を思い出す。

正直、思い出したくもない。

真霊気をやむを得なく使用した。

それだけ厳しい状況だったから。

「あのままだったらどうしたの?」

「本来は当主の咲希璃さんに…抑えてもらうつもりでした」

「…っては何?僕ら別に必要なかったって事?」

「いえいえ、そんな事ありませんよ。

やっぱり真霊気って凄いですよね。

呪力も消し飛ばしたんですから」

「…最終手段なんだけどね。何度も使ってるけど」

 裏を返せば、それだけのピンチを何度も迎えてると言う事。

本とはそればかりに頼りたくないのだが、事の大きさが凄まじくてどうしても使ってしまうのだ。


「ま、しんみりした話は置いといて」

「はい?」

「食べよう」

 小さい口を大きく開いてハンバーガーに食らいつく琉嬉。

お腹が空いてたのか、勢いよくがっつく。

「ふふ、そうですね」

「うん、おいしい」

「それにしても体に似合わず大食いなんですね」

 よく見たら琉嬉の手元の一個。

そしてテーブルの上には4個。

一人で5個頼んだ。

ハンバーガーオンリーで。

「いや、今日の朝あまり食べてないから…」

「そうなんですか~」

「うん」

 相変わらずの無表情気味の琉嬉。

楽しそうには見えない…が、寧音にはなんとなく感じる。

本当は楽しんでると。

「本当、この小さな体にあんな力あるなんて未だに信じられませんね」

 にこやかにしながら言う。

「なんだよ、小さいは余計だろう」

「あ、これは失礼しました」

「…こっちも返すようだけど、寧音こそ見た目に反してるからな」

「そんな事ないと思いますけど?」

 しれっと否定する。

「……それ、本気で言ってる?」

 やれやれとした顔をする琉嬉。

だめだこりゃと思ったのだった。



「さて、次はどこに行く?」

 店を出た二人。

スローペースで取り敢えず街中を歩きだす。

「次は決まってるじゃないですか」

 寧音の指が示す方向。

琉嬉はすぐにピンときた。

「あ、だよね」

 すぐさま行く場所が決まったようだ。


 某アニメショップ。

当然のようにやって来た。

「買うものでもあるの?」

「いえ、今は特にありません」

 ニッコリと微笑みながら即答する。

「あー、うーん、そっか」

 思い切りのよい返事にちょっと戸惑う。

でも琉嬉は琉嬉で、その気持ちは分からなくもない。

自分も中古ショップなど回ってレトロゲーム実機を探したりするからだ。

目的もある訳でもない、けどついつい足を運んでしまう。

そういった部分がなんとなく似通ってるのかもしれない。

「人多いね」

「休日ですからね~」

「…明らかに昔より人多くない?」

「そうかもしれませんね。今そういうジャンルが人気ですから」

「……まぁ、そうだよね」

 まだ小学生低学年…それくらいの頃。

親と一緒にアニメショップに何度か来てた。

その頃はまだそんなに客が多くなかったイメージがある。

ここ10年足らずにアニメなどのファンが増えたんだろうか。

そんな事を考えながら寧音の後をくっついて回る。


 一通りぐるっと回る。

だがそれではまだ飽き足らないのか、二週目を回る寧音。

(…時間かかるな~…)

 心の中で愚痴を言い始める琉嬉。

「なんかさ、彼女の買い物に付き合わされる彼氏ってこんな気持ちなのかなって思うよ」

「え?」

 ついには口に出してしまう。

寧音はあまりよく聞き取れてなかった様子だが。

「寧音ってさ、買う時はあっさりと買うけど…目的の物無い時は結構時間かけて見て回るタイプ?」

「さぁ、どうでしょうかね?」

 自分自身の事はあまり気にしてない様子。

「慎重にして大胆タイプか…寧音らしいというかなんていうか」

 時間かける時はかけて、かけない時はかけない。

何事もメリハリあるようだ。

「……」

 チラッとスマホの画面で時間を確認する。

午後の2時過ぎ。

いわゆる昼下がりの時間帯。

「琉嬉さん!」

「は、はぃ?」

「買い物終わったら、近くの喫茶店行きませんか?」

「ん~……そうだね、疲れたし」

 普段あまり顔に出ない琉嬉だが、この時はなぜだか顔に出てた。




「美味しいですねここのアイスココア」

「うん」

 頼んだアイスココアを飲む寧音。

琉嬉も面倒だったので同じのを頼んだ。

「ところで、琉嬉さん」

 飲んでいたアイスココアのコップをコツンッと大きな音を立てて置く。

「…何?」

「……運命って、どう思いますか?」

「……は?」

 突然真面目な顔をして琉嬉に聞く寧音。

「私は、夜栄守の呪いという運命が…受け入られずにいるかもしれません」

「…呪い……?」

「そう、呪いです」

 寧音は襟を少しずらし、胸元を琉嬉に見せつける。

「………あの時の」

「ええ、そうです」

 

 先日、寧音の力がおかしな事になった。

いわゆる夜栄守の力が暴走した状態…のようなものだ。

「呪いねぇ…」

「ええ、夜栄守家として生まれた…逃れられない運命ですよ」

「…なんか漫画とかの設定みたいだな」

「ええ、まさにそうですよ。そういうのに共感を得ちゃうんですよね」

 寧音が漫画アニメ系を好きな理由。

その理由の一つなのだと言う。

「へぇー…割と単純だな」

「ええ、世界は単純なのがいいんですよ」

「寧音らしかぬ発言だな」

「私、結構考えるの苦手なんです」

「本音ぶちまけるね~」

「はい。私琉嬉さんとならいろんな事話せそうです」

 クスクス笑いながらいろいろとぶっちゃける。

真面目そうに見えて、案外不真面目な部分が垣間見える。

不思議な性格だ。


「ねえ、寧音はなんで風紀委員やってるの?」

「え?」

 琉嬉から質問する。

しかも内容が運命から風紀委員と、グレードが下がった話に。

「そうですね…私は不良が嫌いです」

「……は?」

「学生生活を真面目に送らないのは、許せません」

「お、おう…」

 目つきが急に変わる。

その眼光の鋭さに琉嬉はたじろぐ。

「琉嬉さん、貴女は転校初日に問題起こしましたよね」

「う、そんな事もあったけな~…」

 その鋭い眼光から目を逸らす。

琉嬉は転校して盛大にやらかした。

学校の不良共になぜか絡まれ、返り討ちにしてしまった。

「…別に僕は不良ってワケじゃないぞ」

「それは分かってます。でも、あれはやり過ぎです」

「反省してるよ…。停学もくらったし、滅多に怒らない父さんにさえ説教されたし…」

 さすがにあれは応えてた。

「でも実は心の中でよくやった!と密かに思ってたんですけどね」

「……そりゃどーも…」

 琉嬉からしたら複雑な気分である。

「清く正しい学校生活を送るためには先ずは自分から攻めないといけません」

 キリッとした表情をする寧音。

どことなく、未来を見据えてるような…輝かしい目をしている。

ように琉嬉には見える。

「だから風紀委員になった?」

「ええ。それで、二年生にして風紀係委員長なりました」

「でも今年で引退でしょ?」

「はい。でもまだ半年あります。それまで義務を全うしますよ」

 拳を作り、気合いを入れるかのようなポージングを取る。

フリフリした服装に眼鏡姿。

見た目に反して妙で逆に面白い。

「ほどほどにしなよ~…」


「てか、そもそも護の事を追い回してたよね」

「ええ、服装がだらしないので」

 即答。

迷いも何もない。

「ま、あんな金髪なうえに着崩してたら目立つなそりゃ」

「ええ。でも琉嬉さんもシャツを出さないようにしてくださいね」

「…暑いの嫌だからね」

 謎の理由。

「ひとつ、疑問なんだけどさ」

「なんでしょう?」

 アイスココアを飲みながら言う琉嬉。

「寧音は、護の正体…知ってた?あの時は?」

「芹澤さんの正体…ですか?」

「うん。裏では退治屋ってのやってるんだけどさ」

「…う~ん……」

 首を傾げしばし考える。

「いえ、知りませんでした!」

 キッパリ答える。

「ほんとに?」

「正直、只者では無さそうとは思ってましたけど」

「薄々気づいてはいたのか」

「確証はありませんでしたけどね」

 負けずに寧音もアイスココアを飲み干す勢いですする。


「あのさ、ふかしぎ部以外にもまだ能力者いるのかな?」

「……んー、どうでしょう?」

 次はケーキにがっつく寧音。

いつの間にか頼んでた。

「僕も正直、気づてなかったんだけどさ」

「ええ」

「前崎香那巳ってやつ…後輩の」

「ええ、存じてます」

「…あんなに強いやつでも気づかれないように紛れてるもんなんだね」

「……そこが怖いですよね。あ、あま~い」

 途端に笑顔になる寧音。

「お前…本当に風紀の仕事してたのか…?」

「んむ、美味しいれふ」

 学校での寧音と学校外での普段の寧音。

この妙な変わり具合に琉嬉も困惑するばっかり。



「へっへー、いいじゃんか別に?」

「ねぇー?」

「あの…他のお客様の迷惑になりますし…」

「いいっていいって」

「俺らと楽しもうよ~?」

 別席から突然騒がしい音が聞こえて来た。

どこかの若者が騒いでるようだ。

店内が変な空気に変わっていくのを感じる。

「でも…」

「お仕事は後回しにしてさ、俺らと楽しも?!」

 声がでかい。

若い男グループが女性店員をナンパしてるようだ。

「……」

 そこで、琉嬉はすぐさまある懸念を抱いた。

(あ、やっぱり…)

 目の前にいた筈の寧音がいない。

(そういえば…正義感の塊だったな)

 と、琉嬉は思い返した。


「ちょっと、そこの方」

「ん?」

「何?」

「店員さん、困ってます。

それより店内の他の方にも迷惑です。おやめになっては?」

「は?」

 騒がしい客の目の前にいつの間にか移動していた。

琉嬉が気づく前に。

全くもって分かりやすい性格である。

こうした面倒事に首を突っ込む。

自分もそうだが…寧音はそれ以上のようだ、と。

「迷惑なので出て行ってもらってよろしいですか?」

 寧音はキッパリと、ストレートに言い放つ。

「はぁー?俺ら客よ?」

「店員でもない君に言われても困るんだけどー?」

「ギャハハ!」

「地味眼鏡っ子さんは嫉妬しちゃったのかなー?」

「何それ意味分かんねー?!」

 ゲラゲラ笑う若者達。

「……寧音、やめなよ」

「琉嬉さん」

 琉嬉が止めに入る。

「お、何?今度はちっちゃい子?」

「え?姉妹かなんか?」

 止まらずに笑い飛ばす若者ら。

「……お前、黙れよ」

 琉嬉が小さい声でぼやくように、かつ聞こえるように言う。

「へ?」

「寧音が出てけって言ったんだから出てけよ」

 グイッと琉嬉の左手がグループの中の一人の顔を掴む。

「あだ、いででででで!?」

 凄まじい力で顔を持ち上げる。

すると体まで浮き始めた。

「おい!?」

「なんだ?!」

 他の者は混乱し始める。

「琉嬉さん!」

「あ、ごめん」

 パッと離した瞬間、掴まれた男は見事に床に落ちる。

「……え?」

 店員も驚く。

無理もない。

突如現れた、小学生くらいの女子が大の大人の男を持ち上げたのだから。

「ふっふー、皆さん知りませんね?この方はかの鞍光高校で有名な…「凶暴な天使」

彼方琉嬉さんですよ!」

 寧音が琉嬉の異名を言う。

「……へ?」

 琉嬉も呆気にとられる。

「凶暴な天使…?」

「聞いたコトあるような…?」

「あれじゃね?ほら、最近鞍光高校がヤバイ奴に支配されたって…」

 高校は卒業してる年齢であろう、若者達。

その若者らもなぜか知っている、「凶暴な天使」事変。

「ちょ…」

「すんません!出ます!」

「やっべ…逃げろ!」

「え?」

 困惑する店員。

と、琉嬉。


 結局その場は収まった。



「なんて事してくれたんだ…寧音」

「だって~、あのままだと琉嬉さんまた停学になっちゃいますよ?」

「…う、それは勘弁」

 なんだかんだで、大事にはならなかった。

「凶暴な天使」がなぜか役に立った。

それほど有名なのだろうか?

琉嬉は自分自身で疑問に思う。

「…僕、そんなに悪い事した?」

「さぁ?」

「なんかさ、緋瑪斗達の学校でも知れ渡ってたんだよね。

僕の家が緋瑪斗達の学校に近いせいもあるのかな?」

 実際、鞍光高校よりなぜか隣町である緋瑪斗達の学校の方が少しだけ近い。

ただ、市が違うので学区のせいで簡単に転校しやすい鞍光を選んだ訳なのだが。


 つくづく考えてる事がイマイチ分からない。

琉嬉は寧音に対してそう感じていた。

心の中の読めなささでいえば、まどかや叉羅沙も同じだが、寧音の場合は種類が違う。

学校での風紀係委員としての真面目な寧音。

学校を離れた時の、おちゃらけた寧音。

そして、夜栄守家の末裔としての寧音。

どれが本心に近いのか。

それとも全部寧音としての人間性なのか。

二面性のような、裏表がはっきりしているというのか…。


 少し陽が傾いてきた頃。

とは言え今は日が長い時期なのでまだまだ明るいが。

少し人気のない、ビル裏の路地。

ここから丁度、カフェから駅前に続く近道だ。

街中を知り尽くしてる寧音に案内されるように進んでいく。

人の気配があまりない…筈だった。

やはりというか…琉嬉はある気配に気づいてしまった。

だが気づかないふりをしてそのまま歩き続ける。

でも今一緒に歩いてる相方は結局気に留めてしまった。

「琉嬉さん」

「あー…やっぱ気になっちゃう?」

「それは勿論。伊達に夜栄守家やってませんから」

「そりゃそーだよね…」

 自然と体を動かす準備を取る。

「大変ですね。ああいうの、毎回相手してるんですね」

「それはお互い様じゃないの?」

「いえいえ、私は夜栄守家の落ちこぼれですから」

「どこがだよ」

 二人の目の前には、大柄の男二人。

見た目は通常の人間のようだが…様子がおかしい。

「半妖…か?」

 琉嬉は一応、相手に質問をする…が。

「彼方琉嬉だな」

「話聞けよ」

「…真霊気の使い手…力を貰うぞ」

 質問には答えず一方的に仕掛けようと構えを取る。

「駄目みたいですネ」

 寧音はにっこりと微笑む。

琉嬉は不満そうな顔をしているが。

「悪いね。付き合わせて」

「いえいえ。とんでもありません。たまには暴れませんと」

「……お前の方がよっぽどやんちゃだよ」

 そう言いながらも琉嬉は迷わず御札を対峙する男の元へ投げつけた。

と、同時にその御札を追いかけるように寧音が突撃していった。

「先手必勝ですね!」

「…早いよ行動が」


 勝負はあっという間に決まった。

当然二人の圧勝。

寧音は主に接近戦。

琉嬉は中距離から遠距離。

「いやぁ、琉嬉さん、凄いですね」

「寧音もね…。動きが人間離れし過ぎてる」

「それ、褒め言葉ですか?」

 照れくさそうな寧音。

「來魅とまともに殴り合うくらいだもんな…最早人間じゃないよ」

「そんな事ありませんよ。私の従兄妹の方々も尋常じゃありませんよ?」

「従兄妹…って、ああ…あの双子の?」

 琉嬉は以前寧音の従兄妹達に会っている。

「男女の双子ですけどね。あ、でも双子以外の姉弟も多いんですよ」

「知ってるよ…あのうるさい姉弟ね」

 寧音の従兄妹達は大人数の姉弟。

毎日賑やかだそう。

「はい、にぎやかですよ」

「それは痛い程知ってるよ…」

「従兄妹の…侑奈さんは凄いですよ!私と同じくらい強いです!」

「…マジか」

 侑奈…と言われてもすぐにピンと来ない。

なんとなくうっすらと思い浮かべる顔。

(…たしか、なんかおとなしくて暗い感じで日本人形みたいな子だったような…)

 日本人形みたいなのは琉嬉も同じである。


「…大体、寧音クラスの人間は護以外に僕は見た事ないんだけどね…」

「ふふ、そうですか?」

 にっこりと微笑み返す。

基本的に喜怒哀楽がはっきりしている。

「…ほんと、寧音って変わってるよね」

「えー、そうですか?」

「絶対風紀委員やってる性格じゃない」

「……またまたぁ、そんな事ないですよ?」

 嫌な顔もせず返答する。

「私、憧れてるんですよね…ヒーローみたいなのに」

 拳を何度も前に正拳突きのように突き出す。

が、明らかに素人とは違う、ボクサー以上の速さで見えない。

「ヒーロー…正義の味方みたいな?」

「はい♪」

「……寧音らしいね」

 心の底からの本音なのだろうか。

それとも冗談なのか。

いくらなんでもそれはないだろう…とは思う琉嬉だが。

でもどこかかしら、漫画やアニメに少しは影響されてるようには感じられた。



 二人はその後も夜まで会話をしていた。

夕食はいつものラーメン屋「とと」。

夜栄守家の事。

自分の事。

いろいろ語る寧音。

「代々祓い屋の稼業…ねぇ」

「ええ、そうです。夜栄守の力は強力です。だからこそ…驕らないようにしないといけません」

「だから…こそか」

「ええ」

 こくんと頷く寧音。

「五大家と呼ばれる力を持つ家系…。私もその一人ですから」

「なるほど…」

「でも元は言えば、來魅さんを封じてから言われ始めた言葉ですよね?五大家って」

「そうらしいね」

 100年前、大妖怪である來魅を封じた五人の術者。

それを称えた者なのか不明だが、いつしからか五人の術者から続く家系が五大家と呼ばれるようになった。

琉嬉の家系の彼方家。

寧音ら夜栄守家。

みゆの港咲家。

耿助の参堂家。

そして、凛夢の水無月家。

今その末裔が鞍光に、再び集まっている。


「夜栄守家は、強大過ぎるんです」

「へぇ…」

 食べ終えたラーメンスープをすすりながら聞く。

「私は…実はよく知りませんが、当主によると、日本を裏からある程度操れるくらいの力がある…

だそうです」

「それは政治的な意味で?」

「ええ。政治というか…」

「あ、うん、言いたいコトは分かる」

 ズズッっと勢いのいい音を立ててスープを一気に飲み干す。

体格とは不釣り合いな食べっぷり飲みっぷり。

寧音は気にせずに話を続ける。

「それは大昔から続いてるようですが、100年前…」

「來魅封じだね」

「そうです。あの事変からさらに力を強めたらしいですけどね」

「言ってみりゃ日本を…世界を救ったようなもんだからね」

「ええ。そうです。100年前は確実に來魅さん以上に強い妖怪はいなかったようですし」

「そう考えると怖い話だね~」

 今度は水を一気飲み。

「おいおい、琉嬉ちゃん、相変わらずいい食べ方すんね~」

「そう?」

 店主が声をかける。

名前すら知り得ているくらい、常連レベルのようだ。

「琉嬉さんの食べっぷりが心配になってきますね」

 笑顔で見つめる寧音。

琉嬉は気にもせずまったりとする。


「…不思議なものです」

「何が?」

「……來魅さんが復活した事により、また五大家が一同に集まっている…。

私の祖父の話によると…これは実に不可思議で面白いと仰ってました」

「面白いかー?」

 琉嬉はなんだか不満気だ。

「ふふ、元々鞍光は夜栄守家と港咲家と参堂家がいましたからね」

「僕はたまたま来ただけだ」

「水無月さんもですよね」

 五大家の末裔がひとつに集まる。

今までそんな事はなかったらしい。

そんな奇妙な話を寧音がする。

以前、耿助もそのような話をしていたのを思い出す。

楽しそうに話す耿助の顔が琉嬉の脳裏に甦る。

「…來魅のおかげで変な縁が出来たというか…縁が復活したというか…」

「結局出会う縁なんですよ。私達五大家の人間は」

「出会う縁ねぇ…」

「あ、こんな時間…そろそろ帰りましょうか」

 寧音が腕時計を確認する。

夜7時半。

まだ早いと家は早いとも言える。

だが真面目な寧音にとっては重要な事なのかもしれない。

「あんまり遅いとネトゲのイベントに遅れちゃいますからね」

「…は?」

 琉嬉は思わず変な声が漏れてしまった。

「あはは、冗談ですよ~。半分だけ。宿題、やらないといけませんからね」

「…あ、そう…だよね」


 宿題。

それは、学生にとって避けられない、任務である。

当然琉嬉も宿題はある。

「……真面目なのか遊び人なのか…」

「ふふ、私は自分でも言うのもなんですが…遊ぶときは遊ぶ。勉強する時は勉強する!

割り振りをきちんと整えて一日を終わらせるタイプなんです!」

 眼鏡が光った。

ように見えるくらい、真面目発言。

「…寧音らしいや」



「それじゃ、私はこれで」

「んー」

 礼儀正しく深々と礼をし、寧音と別れる。

琉嬉は右手を振ってバイバイの動作。

どうせまた明日学校で会う。

当たり前のような生活なのだから。

毎日、顔を合わせる。


 それを壊したくない。

それが残り一年なくとも。




「おはようございます。琉嬉さん。それと悠飛さんも」

 屈託のない笑顔。

校門の前に寧音の顔が入り込んだ。

「…お、おう…おはよ」

「おはようございます」

 微妙に寝ぼけ半分に琉嬉。

「今日は何?」

「いえいえ、風紀の仕事ですよ」

 左腕にしている風紀と書かれた腕章を見せつける。

たまたまこの日は寧音が風紀の仕事として、遅刻の取り締まりをしていた。

「…大変だね…朝っぱらから」

「いえ、そんな事ありませんよ」

「……いいよな、寧音はそういう所をわきまえてて」

「琉嬉さんも、私を見習ってくださいね」

 不敵な笑みに変わる寧音の顔。

「だって。姉ちゃん」

「へいへい」

「ふふ、仲の良い姉妹ですね」

「うるさいうるさい」

 照れ隠しかのようにわざとらしい言い方でうるさいを連発する。

悠飛も微笑みながら軽く頭を下げる。

「んじゃ、また部活でね」

 小さく呟くように寧音に言うと足早に琉嬉は先に校舎へ向かった。

追いかけるように悠飛も小走り。


「先輩、楽しそうですね」

「あれって…彼方先輩ですよね…、仲良いんですね」

 風紀係委員の後輩達が不思議そうにする。

「ええ、まあ、そうね」

「えー?前は目の敵のようにしてませんでした?」

「ふふ、いろいろあるんですよ、私にも」

 笑顔からまた引き締まった表情に変わる。

「さて、そろそろ時間が迫ってます。遅刻の取り締まり、厳しくしますよ!」

「はい!」

 後輩達に大きな声で気を引き締める合図。

でもどこか楽しそうな表情を見せる。

最後の高校生活。

最後の風紀係委員としての生活。

そして琉嬉との出会い。

それをおもいっきり楽しもう。

寧音は心の中でそう思いながら、風紀の仕事に専念する。


 気合い入れる寧音の後ろ姿を見ながら玄関に到達する琉嬉達。

つくづく寧音は変わったやつだな…。

なんて事考えながら琉嬉は校舎の中へ消えて行った。

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