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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~青春補完編~
87/92

#87 あたしが退治屋を始めた理由

 夜中。

そろそろ夜でもあったかい…と思われたがまだ肌寒い。

テレビなどでは異常気象とも言われてるくらい、寒い。

とは言っても鞍光があるこの地域は雪が積もるくらいの地域。

夏が来ても他の地域よりは冷え込む傾向にあるので実際はまだそんなに暑くない。


 プルルっとスマホが震える。

着信だ。

スマホの持ち主は護だった。

とある深夜もやっているファミレス。

護は一人で二人掛け用の席に居る。

誰かと待ち合わせ。

「遅い」

 待ち合わせの人物から遅刻を知らせる内容。

「もっと早く知らせろっつーの…」

 時刻は夜中9時半過ぎ。

どことなく大人な雰囲気を出しているっぽい護は特別何も言われる事はない。

琉嬉とは正反対である。


「ねえねえそこのお姉さん」

「一人なの?」

「これからちょっと遊びに行かない?」

 護の横から男の声。

ふと見るとチャラそうな男が二人。

(…また?)

 はぁ、っとわざとらしくため息を強くする。

「誰か待ってたり?」

「派手な髪だね~」

 いちいち言う事が癇に障る。

相手が来ないから多少イラついていた。

(…またからかうか)

「ねえってばあ~?」

「ハイ、アイマモル~、ほわっちゅあねいむぅー?」

「へ?」

「あいあむうぇいてぃんふぉうざぴーぽー」

「あ、うん?」

「のっとたいむぷれいん」

「…外人さん?」

「ほわい?」

 わざと大袈裟な感じで言う。

「おい、やべえよ…言葉が通じない可能性大」

「だな」

「すんません、僕ら帰りまーす」

「おおぅ~」

 またまたわざとらしい感じで言う護。

でも逆にそのわざとらしい言動がそれっぽく見える。


(…はぁー、めんどくさ…)

 学生だけあって多少なりの英語も分かる。

むしろ外人のフリするために英語を少し強めに勉強している。

尚且つ、スマホで瞬時に日本語から英語に翻訳するサイトをこっそり見てた。

「この髪の色のせいで遊んでる風に見えるのかしらねぇ~」

「…先輩、何してるんですかあ?」

「あいっ?!」

 思わずガタッと立ち上がる。

声をかけて来たのは毎日のように聞き慣れた声。

「護先輩?」

「みゆか」

「みゆか。じゃないですよぉ。

ちゃんとお仕事持って来たんですから」

「それはありがたいけどね」

 少しだけムッとした顔をする。

「てか、もしかして外人さんのフリしてたんですか?」

「まーね」

「…でも流石に無理ありません?」

 みゆはじっと護の顔を見ながら言う。

「案外成功するんだよね。これが不思議と」

「護先輩、整った顔してますもんね」

「イヤミっぽく聞こえるんだけど」

「えへへー」

 わざとらしい笑いをしながら、対面になるように座席につく。

「あんたさぁ、かなりのお嬢様なんだからこんな時間に出歩いて大丈夫なの?」

「あ、それは大丈夫ですよ~」

 ニコニコしながらピースをする。

「余裕だね」

「はい。私セレブるような事大嫌いなんで」

「あ、そ、そうだよね…それは見てて思うよ」


「ちょっとした組織?」

「そうなんですよー」

 みゆがテーブルに置いた資料らしき紙。

護はそれに目を通す。

人物が写っている画像も印刷されている。

画像が粗い。

単なるコピーしただけのようなプリント用紙だからだ。

「こいつらが何?」

「例の半妖…」

「霊術会や修学旅行の時に揉めた連中?」

「その通り」

「!」

 護がビクッとしながら唐突にした声の方へ向いた。

だが独特の甲高い声ですぐ誰だか分かった。

「…琉嬉ちゃん」

「驚き過ぎだって」

「来てくれたんですねー」

「おう」

 右手をちょっとだけ挙げて応える。

「琉嬉ちゃん見てると小学生の女の子が一人で夜歩きしてるようにしか見えないね」

「うっせい」

 挙げてた右手をそのまま護の頭にチョップした。


 写っている人物達は護らには見覚えがない。

一度出会った者達とは違う他の半妖達なのだろう。

だが琉嬉は少し違う反応を示す。

「…こっちの細い方…見覚えがある気がする」

「さすが琉嬉先輩ですね~」

「どこかで一度会ったか…なんかの資料で見たか…定かじゃないけどね」

 ジュースをすすりながら言う琉嬉。

「なんでこんな画像が?」

 護がみゆに取り敢えず質問。

そのみゆはひとさし指を口元に立ててしーっのポーズをしながら、

「霊術会のおこぼれなんですよぉ」

 と、答えた。

「おこぼれ…ねぇ」


「大体霊術会から五大家にそんな話来るもんなの?」

 不思議そうな顔をしながら言う琉嬉。

「だよねー?」

 護も同意する。

「それがねぇー、来るんですよ。裏の裏のルートで。

いや、裏の裏は表ですか」

「は?」

「ま、それだけ切羽詰まってるって事なんじゃないですかあ?」

 にこやかに言うみゆ。

「そうなの?」

 よく理解出来てない護。

「いいんじゃないの?護的にはお金になればいいんでしょ?」

 気楽に考える琉嬉。

次はポテトに手を伸ばす。

「まぁそうだけどさぁ」

「それじゃお二方、行きますか?」

「唐突だね」

「まだポテト残ってるよ」

「護、全部食べて」

「そんな殺生な」

「護のくせにそんな言葉知ってるのか」

 などと、ぐだぐだになりながら立ち上がる。

ちなみに護は残りのポテト全部口に含みながら立ち上がるのだった。



 夜の街中…と言っても人通りは少ない裏通り。

時折スーツ姿の人や、少しチャラそうな人が通って行く。

「こいつらは何?強いの?」

 護は画像とにらめっこするかのように凝視したまま歩いている。

「よく知りませんけど、あっちではそれなりに有名らしいですよー?」

「ほーん」

 あっち。

ようするに、日本の中心となる関東らへんの事。

琉嬉達が住んでる街は大きいと言えば大きいが、大都市に比べたら田舎だ。

そんな都会の者がわざわざこちらに出向いてると言う。

そういう情報はなんだかんだで港咲家にも届く。

「殺し屋だって有名らしいですよ。その茶髪の方が」

「…殺し屋ねえ…よく聞くフレーズだけど」

 嫌そうな顔をする護。

「護先輩こそ、退治屋、なんて言われてるじゃないですか~」

「自分から名乗った記憶ないんだけどね~」

「そうなの?」

「お金貰っていろんな奴を退治してたらいつの間にかそう言われるようになっちゃったよ」

 あっけらかんと言う護。

「そういやお前…そうだったよな。そういう裏の仕事してたもんな」

 忘れてた琉嬉。

そもそも琉嬉を狙ったのも報酬ありきの仕事から来た話だった。

結局失敗したどころか、請け負った大元の所を潰してしまうという結果になったが。

「最近さ、あんまり仕事ないのよね~」

「だから私が持って来たんじゃないですかぁ」

 資料の紙を持ってヒラヒラさせながらいやらしく言うみゆ。

「う、それはお礼言っとくよ」


「んで、もう一人のこいつは?」

「どう見ても…人間には見えない気がする…」

 いかつい男。

筋肉隆々で、強面の顔。

短髪でいかにもパワー型は雰囲気を出している。

「こっちも強いらしいですよ」

「そっか。今まで誰もまだ仕留めてないんだ」

「みたいですね」

「…そのくらいのレベルが、わざわざ霊術会からみゆの所に?」

 なんとなく察する。

「ぶっちゃけ言うと、多分面倒だから港咲に送って来たんだと思いますよ?

それと…この二人がこっちに来てるっていう情報があったから…です」

 淡々と答える。

「いやいや、だったらこっちの霊術会の名家に頼めよ」

 正論とも言える事を言う琉嬉。

「それがぁ…今ゴタゴタしてるじゃないですか」

「龍翔君の所が発端だよね」

 琉嬉は既に知っている。

妖魔王だかの復活となる鍵があると言う事を。

「何々?何の話?」

 そして話になぜかついていけない護。

相変わらず頭の回転が鈍い。

「やれやれ…説明またするの?」

「護先輩…今までよく学校生活して来れましたねぇ?」

「え?」


 単純に、霊術会が面倒になった…のではなく、霊術会所属でなく動きやすいであろう、

五大家の力を利用しようとしてるだけの話である。

一応の強敵レベルである半妖を倒すため。

港咲家もそれは承知している。

逆も然り。

お互いに利益を得るなら上っ面だけの利用を考えてる。

と、みゆは語る。

「大人の話はめんどくさいねー」

「まったくだ」

 お金の為とは言え、面倒そうな顔をする二人。

「で、なんで琉嬉ちゃんまでいるのさ?」

「今更聞くのそれ」

「てっきりあたしだけかと思ったし」

「僕もおこぼれ預かりに来たんだよ」

「えー、報酬山分けー?」

 不満そうな顔をぶちまける。

相手が仲が良いからこそ。

「そういう事ですねぇ」

 にこやかに答え切るみゆ。

憎たらしいくらいの可愛い笑顔で。

「……つくづくお前はいつも楽しそうだな」

「それが性分ですからぁ~」

「ちぇー」

「でも報酬は弾みますよ♪」

 指5本を全部見開いて手のひらを見せる。

二人はなんとなく理解する。

「…つくづくやらしい話だな」

「それを言っちゃあだめだよ琉嬉ちゃん」



 茶髪姿の殺し屋の方は名前が「臥九がく」。

たくましい方は「イロト」という名前だとみゆは言う。

あれやこれや一応の説明は受ける、が、二人の頭からは抜け出て行く。

たいした興味を持てないらしい。

ただただ、倒せばいいだけの話。

そんな風にしか思ってない。

特に護の方は似たような事をしている。

「なんだって鞍光に…?」

「狙ってるんですよ。霊術会に属する名家や私達五大家を」

「はーん。なるほど。こいつらも報酬があるからって事ね」

 ピンと来た護。

「それくらいは分かるよ」

「ですねぇ」

「え?マジ?」

 とっくに琉嬉とみゆは感づいている。

「護の頭の回転の遅さ…どうにかならないの?」

「う、うるさいっ」

「成績はどうなんですかぁ?私は学年違うからよく知らないんですけど」

「赤点ギリ取らないくらいだよな?」

 珍しくにやけた顔をして言う琉嬉。

「い、いいじゃん!赤点取らないだけでも!たまに取るけど…」

「あー、そこまで馬鹿ではないんですね」

「みゆ!お前はストレートに言い過ぎ!」

 プンスカと怒る護。


 そんな三人が行き着いた場所。

とあるビルが並ぶ建物群の少し狭い路地裏。

どう考えても怪しい場所である。

駅も近くにある…が、人気は少ない。

「こんな所に現れるの?」

「らしいですよ~」

「てか、なんでそんな情報知ってるの?」

「港咲家の情報網を舐めないでください」

 ふふんっと誇らしげに言うみゆ。

そのドヤ顔が可愛らしくもあり憎たらしくもあり。

「へぇ…」

 あまり深く聞かない。

琉嬉は琉嬉はなんとなく納得する。

そして護は特に気にする事もなく納得する。

そんな呆けた顔した護を見た琉嬉は、

(…コイツは本当に単純だな…)

 と、心の中で静かにツッコミを入れた。



「琉嬉先輩って、特定の師匠とかいないんですか?」

「は?師匠?」

「はい。お師匠様」

「…うーん」

 しばし考える…が、すぐに答えは出た。

「直接の師匠はじいちゃんだね」

「あ、やっぱそうなんだ」

「細かい戦術や技術は父さんだけどね」

「へー…」

「あとはほとんど独学。ま、天才ですから?」

 にやつく琉嬉。

変な自信を持っている。

「お前は?」

「私も祖父と親ですかね~。あと、うちのお付きの人にも教えてもらったんですよ~」

「ま、みゆもうちも五大家とかっていう括りだからしゃあないな」

 遠い昔から続く家系。

血筋というものだからか。

外部からの教えはあまりないようだ。

「護こそ、どうなの?」

「んー?あたしもほぼ独学だねー」

「だろうね。型が無茶苦茶だもん」

「しいて言うなら芹澤護流?」

「なぜフルネームで…」



「おい」

「ここだ」

「早くしろ」

 男の声が聞こえる。

琉嬉達は即座に身を隠す。

複数の男の姿が見える。

その辺に居そうなチンピラ風の男や、ジャケット姿の小奇麗な強面の男やら。

「あれ?」

「いや…違うね」

「あ、でも奥に大きい奴が…」

「イロトって奴だな」

 一際大きい姿の男。

見た目は人間のようだ。

何をやってるのか暗くて分かりづらいが、何かの取引でもしてるようだ。

「半妖って人間の判別つきづらいの多いよね」

「それあたしも混ざってる?」

「うん」

 3人はこんな状況でも他愛のない話をしている。

「おー、嬢ちゃん3人で何してんの?」

「!」

 その瞬間だった。

後ろから別の声。


「おー、いい動きだ」

「あちゃ~、見事にバレちゃったね~」

「気楽過ぎだバカ」

 目の前には画像で見た顔と同じ。

臥九と呼ばれる男の姿だ。

「なんだ?」

「女だとよ。それもガキの」

 少しざわつく他の者達。

「いやぁ~、あたしらの後ろを取るなんて流石ですね。臥九さんとやら」

 軽い挑発をする護。

「天才殺し屋さんだっけ?」

 さらに琉嬉が挑発するかのような言い方をする。

「ほう…俺の事を知ってるとは…ただのガキじゃなさそうだな。彼方家の」

「あら、やっぱ知ってました?」

 相手も当然、琉嬉の事を知っていたようだ。

「そりゃそうだ。なんとか気っていうの使うから気を付けろってな」

「やっぱ知ってるか」

 少しだけ不満そうな顔をする琉嬉。

でも余裕面のままだ。

「おい、この金髪女…退治屋だ」

「退治屋?」

「退治しに来たよ」

 霊力剣を作り出す。

「へぇ…」

 ズドンッと、爆発のような音を立てる。

護の目の前を強烈な拳が通った。

しかし当たる事なく壁に命中した…が壁がかなりの崩壊を起こしていた。

「あっぶなー」

「ちっ、先に仕掛けたのに避けられたぜ」

「おいおい、俺に当たっちまうじゃねぇか。イロトさんよ」

「フン、こういう場合は先手が必要だ」

「だろうな」


「てな具合で話が進んじゃいましたけど…どうします?」

「やるしかないんじゃないの?」

 琉嬉は当然、御札を取り出す。

みゆも似たような御札を取り出した。

「面白い展開になりっこないんだね」

「いいじゃん、その方がリアルで」

「意味わかんないんだけど?」

 3人はその場からバラけるように走り出す。

「チッ、単体行動開始か」

「何かの連携でもするのかと思ったが…ある意味いい判断だな」

 イロトが頷きながら護の方を追いかける。

「…霊術会の追手の奴等か」

「さぁな。でも一人一人殺しがいがありそうだぜ」

 臥九は短かく、そして細いナイフをどこからともなく出した。

そして琉嬉側へ走り出す。


「あーりゃりゃ…私は雑魚散らしですかぁ」

「誰がザコだ!」

 みゆ複数の者を相手する事に。

あまり目立つ事をしたくないのか、ナイフばっかり持っている。

「普通の人間さんなのかなぁ?」

「何の事だ!?」

「ま、どーせ危ない薬とかの取引でしょうね~」

 型も何もなってない攻撃はみゆに当たる筈もなく。

無残にかわされていく。

「当たりませんよ~」

「くっ!」

「そーれ!」

 みゆは大量の御札を宙に舞うように投げる。

それが意志があるかのように地面に勢いよく落ちて行く。

「なんだ?」

「おい、光ってるぞ?」

「おとなしくしててね~」

 みゆが一瞬霊気を高める。

すると地面に落ちた札が光を帯びて陣を作り出した。

「ぐっ!?」

「あがが!!」

 次々と倒れて行く男達。

「余裕過ぎてつまんな~い」



「しかしまぁ…彼方家の人間が子供だとはな」

「残念。こう見えても18歳で高校生です」

「は?マジかよ」

「マジだよ」

 淡々と会話を続ける二人。

琉嬉の相手は殺し屋と言われる臥九。

「さて、お手並み拝見と行こうか?」

「…半妖……か」

「調査済みか」

「因縁あるんでね」

 含み笑いを浮かべて、互いに走り出した。



「退治屋が相手とは…もしかして退治しに来たのか?」

「いえすいえーす。そのとーりでーす」

 ふざけた答え方をする護。

無駄に陽気さを見せている。

ピリピリした空気感は一切見せない。

「噂には聞いてたがな。金髪の若い女だって」

「それは光栄ですね」

 護から仕掛けた。

が、間一髪避けるイロト。

でかい図体でなかなかの素早さい動きだ。

「案外動けるのね」

「へっ、みんな勘違いして困るが、筋肉ある方が瞬発力あって実際は動きは速いんだぜ」

「まぁそうだよね」

 護の目が赤く煌めく。

軽く妖怪の力を出しているようだ。


 あれからある程度特訓をした。

自分自身も後天性の半妖。

妖怪化の力を制御するために。

ほぼ独学のようなものだ。

自分の体の事は自分が一番よく解かっている。

そんなつもりではいる護。

妖怪化の力を使うと、反動が大きい。

人間時に戻ると前身の筋肉やら何やらが悲鳴を上げる。

それを少しでも抑えるために最小限の妖怪の力を使う特訓をしていた。

「せー…のっ!」

 切れ味鋭い霊力剣。

「おっと…あぶねーなその剣」

「芹澤護さん特製の剣ですよ~」

 琉嬉の防御壁すら切り裂いてしまう、いわゆるトンデモ霊力剣。

凄まじいまでの圧縮された霊力を放っている。

こんな器用な霊力コントロールを出来るのだから護はやはり天才なのかもしれない。

「それも二刀流ですよ!」

「くっ、やるね」

 その場を切り刻んでいく。

みるみるうちに当たりの壁やら地面のアスファルトやら木やらゴミ箱やら。

切り裂いた跡が残って行く。

「街に迷惑な攻撃だな」

「そんなのお互いじゃんよ」

「フッ」

 半ば、カウンター気味にイロトの反撃の拳の一撃。

当たらずとも威力は十分伝わる。

「最初から本気出さないとやられるな」

 イロトの顔つきが変わった。

「望むところだよ」

 護も本気の顔つきになった。



 一方琉嬉側。

琉嬉は走りながら何かの霊気を練っている。

「何を狙ってるが…無駄な事よ」

 臥九のナイフが琉嬉を目掛ける。

すれすれの所で避ける。

が、服が切れている。

「あー、せっかくの服を…」

「いいねぇ。殺しがいあるぞ」

「…そもそも、お前…どれくらい殺したの?

てか、どんなの殺してきたのさ」

「…それを聞いてどうする?」

「んー、さぁ。冥土の土産?」

「くっ…はっはっはっは!面白いガキだなお前は!」

「それはどうも」

 笑い飛ばす臥九。

思いがけない琉嬉の受け答えに笑ってしまったようだ。


「いいだろう。死ぬ土産として聞くといい」

「おっけー」

「金のなる殺しならなんでもやってきたさ。

相手が大人子供男女関係なく。それも人間妖怪も関係なくな」

 琉嬉の動きが止まる。

とはいえ、当然のような答えが返ってくるのは分かりきっていた筈…だ。

ただただ、案の定胸糞が悪くなる言葉ではあると、琉嬉は元から思っていはいた。

それでも心の底ではなんとなくムカつく感情が湧いてくる。

「…出資者がいるって事?」

「そうだぜ。殺しを待ってる奴等がな」

「そっか。今この戦いもお金発生してるの?」

「想定外と言えば想定外だがな。ただ、…邪魔になる霊術名家や彼方家含む五大家を始末すれば…、

儲けは発生するシステムさ」

「…それが半妖の組織?」

「ああ。そうだぜ。「黄昏たそがれ」とか言ってたかな…」

「黄昏?」

 半妖組織の名。

それが「黄昏」。

また大それた大層な名前だ、と。

琉嬉は聞いた瞬間そう感じた。

「組織の集まりの名前だな。俺は別に在籍はしてねえが…お互いの為なら報酬込みで手伝ってはやってるがな」

 完全に半妖組織の一員ではないらしい。

でも利害が一致すれば…協力をしている。

まるで霊術会と五大家のようだ。

「なるほど…ね。黄昏…夕暮れ時…半端な時間。

どっちつかずの半妖ならある意味合ってるんじゃないの?」

「…いいじゃねえか、半端者の集まり」

「ふぅん…」

「楽しいぜ、強い奴を殺すの。

嬢ちゃんみたいな上玉も…楽しいもんだぜ」

 絶対的な強さを誇示するような言い方。

自分自身の力に自信を持っているようだ。

「戦闘狂ってやつか…」

「そうとも言うな」


 臥九が先に仕掛けた。

大量の釘のような太さの、鋭い針を飛ばす。

「半端は時にはいい味を出す…ってね!」

 防御壁で攻撃を防ぐ。

しかし間合いをすぐ詰められる。

思ったより動きが早い。

「ぐっ!」

「あめぇぜ嬢ちゃん」

 膝蹴りが琉嬉のお腹部分に命中していた。

そして吹き飛ぶように後ろに飛ばされる。

しかし…。

「どっちが」

 ニヤっと笑う琉嬉。

「ああん?」

 周りを囲むように宙を舞っている御札達。

「これは…?」

「オールレンジ攻撃ってやつ?」

「てめぇ…」



 攻撃の瞬間だけ、一瞬妖怪化を起こす。

攻撃を終えれば妖怪化を解く。

そんな器用な戦い方をしている。

だが決定打が生まれない。

「ふー…やるじゃん」

「退治屋の女…お前もな」

 お互いに有効な手が発生していない。

「しゃあない。楽に行けるとは思ってなかったけど…」

「ん?」

「あたしの体持つかなぁ」

 護の目の色が赤く染まる。

そして体中に紋様が浮き出て来る。

「…お前、やはり妖怪か」

「人間兼…妖怪…よ!」

 話終えた瞬間、護の剣がイロトを捉える。

「がっ!?」

 脇腹に突き刺さる。

しかし、イロトは太い腕で護をすぐさま吹き飛ばす。

「まだまだ!」

 吹っ飛ばされながらも壁に足をつけ、体勢を直してまたイロトに突進する。

「ぐっ…この動き…!」

「あんまり長く持たないんでね、早めに行くよ!」

「ぐおお!?」


 刹那。


 ほんの、一瞬だった。

あっという間に決着がついた。

イロトはその場に倒れ伏せている。

「その力…どこで…」

「月鋼。金色の妖…って言ってたかな」

「…切り裂き魔か。しかし死んだと聞いたが…」

「そうね、あたしが「殺した」」

 ストレートに言う。

「…なるほど。強い訳だ…」

 納得するイロト。

「そいつのおかげである意味あたしは生きてるのよ」

 ドサッと強い音を立ててその場に座り込む護。

「強さの理由…分かったぜ…退治屋と言われるだけある……ぐほっ」

「そんなんで死ぬようなタマじゃないでしょアンタ」

「……バカ言え。瀕死だ」

 血まみれで倒れているイロト。

その隣で座りこけている護。

妖怪化のせいか、オーバーヒート気味で疲れ果てている。


「護先輩~、終わったんですかぁ?」

 能天気そうな声。

みゆがひょっこりと現れた。

「見ての通り、終わったよ」

「良かったぁ。やられちゃったのかと思ったんですよ~」

 思ってもないような事を言う。

「思いっきり全力でやったけどね」

「…そうなんですね。通りでひとつだった霊力が二つ分重なったと思いましたよ」

「……お前、鋭いな」

「そうですかぁ?」

 にへらっと笑うみゆ。

何もかもお見通しと言ったような発言をすればスルっと避けて行くような…そんな態度。

「あとは琉嬉ちゃんか」

「相手、結構強いですからね~」


「僕が殺し屋風情にやられる訳ないだろ」

 ガサゴソと音をした方向を向く。

いつもの甲高い琉嬉の声。

「琉嬉ちゃん!」

「琉嬉先輩~」

「ほらよ、生ゴミだ」

 ポイッと片手で捨てるようにズタボロになった臥九を投げ捨てる。

まったく動く気配がない。

爆発にでも巻き込まれたような、黒焦げくさい匂いすら漂う。

「生きてるの?」

「死んだふりしてるかもしれないけどね。僅かに妖力が残ってる」

 一応は生きてるらしい。

でも死ぬ寸前のようだ。

かくいう琉嬉も少しボロボロの状態。

でも致命傷のような傷はなく、軽傷程度のようだ。

「おいおい…臥九もやられたのかよ」

 イロトが驚愕の顔をする。

「ま、あたしらの実力はこんなもんだよね?」

「そうですよ~」

「…結局軽く本気出したんだけどね」

 真霊気は使ってはない。

でもほぼ、全力に近い戦いをしたようだ。

護同様、長い時間かける事なく一気に片を付けた。

長引けば逃げられる可能性もある。

だから、本気を出して一気に決めた。

「こいつ、名家でも五大家でもないのに超強いんだよ」

 琉嬉は護に親指で指差しながらイロトに言う。

「退治屋は伊達じゃないんですね~」

「うるさい。退治完了したんだからさっさと報酬よこせっ」

 疲れた顔で言う護。

「そんなせかせかしないで~、ちゃんと後日渡しますから」

「へいへい。僕は帰りたいよもう」

「後はお任せください~。よろしくお願いしますね」

 みゆが指をパチンッと鳴らすと、箱型トラックがやってきた。

トラックからズラッと複数の男達が出て来た。

「誰?」

「うちの使用人さん達ですよ」

 さすがは大金持ち。

裏世界に生きる家系だけある。

それに二人の身柄を拘束してトラックにぶち込むようだ。

「殺すの?」

「さぁ、それは霊術会次第じゃないですか?私達は下請けですし」

「…あたしらは下請けの下請けって事?」

「下っ端の辛い所さ」

 琉嬉が護の腰元をぽんぽん叩きながら慰めるように言う。


 使用人達は二人をぶち込んですぐにトラックを出発させた。

みゆもそのトラックに乗り込んでそのまま別れた。

そしてすぐに静寂が訪れる。

「結局相手が「黄昏」っていう名前しか分からなかったじゃん」

「そうだねぇ」

 ぽつんと二人だけになる。

戻る前に琉嬉は女神符で傷を治した。

とは言え、体力は戻る訳でないので足取りは少し頼りない。

みゆは先に家の使用人が用意したトラックに一緒に乗り込んで行った。

「送ってくれたっていいのに」

「そこまでの余裕はないんでしょ」

「ぶー」

「ぶーたれるな豚になるぞ」

「え、それはヤダ」

 などとアホな会話をしつつ、駅へ向かう。

「電車なんか来る訳ないじゃん。もう深夜だよ?」

「ですよねー」

「…タクシーってやつですか?」

「ですねー」

 二人は財布の中身を見て持ち金を確認しあった。



 タクシーがなかなかつかまらない。

仕方なく家のある方向へ歩いてた二人。

時間はかかるが、歩けば朝が迎える前に着くだろうという考えだ。

トボトボ歩く二人。

少しボーッとしながらも、琉嬉は臥九との戦いを振り返っていた。


 ――彼方の嬢ちゃん…お前はどう思うんだ?」

「何が?」

「殺し屋ではないにしろ、お前達人間に害するモノは排除してきたんだろ?

それだって、結局は殺しには変わりない筈だ。

お前も、これまで殺めて来たモノはあるんだろ?

妖怪か?それとも同じ人間か?俺達のような半端モノか?」

「……殺めた…事か」

 表情ひとつ変える事なく琉嬉は口を開いた。

「間接的にはあるんだろうけどね。幽霊を祓うのもある意味真の殺しだ」

「は?」

「僕達の生きる世界に「死」はつきまとうものさ」

 琉嬉の目つきが変わった途端に、宙に浮かせておいた御札を臥九目掛けて放つ。



「琉嬉ちゃん?」

「…なに?」

「眠たいの?」

「別に」

 素っ気なく答える。

普段から眠たそうな顔つきをしてるから余計そう見えた。

「護こそ、妖怪化して大丈夫なの?」

「んー、おかげさまでちょっと辛い」

「…それだけ相手強かったんだ」

「…だね」

 静かに答える。

長丁場の戦いを避けたかった。

二人してそう思って、一気に畳みかけたようだ。


「……護はなんで退治屋やってるの?」

「…お金が欲しかったから」

「お金……か」

 ぼふっと近くの公園のベンチに座り出す。

護もつられるように隣に座る。

ひんやりしててちょっと気持ち悪い。

「あたしさ、一人暮らしだし。物心ついた時から一人だった。

両親は…死んだって聞いた。顔は一応知ってるけどさ」

「……死んだ理由は知ってるの?」

「知らないし、聞きたくもない。でもなんとなく分かるよ」

 なんとなく分かる。

根拠ないが、琉嬉もなんとなく察する事が出来る。

でも琉嬉は敢えて、言った。

「それは、護の親も霊術師としての力があった…から?かな」

 推測のような言い方で誤魔化す。

「んー、どうだろうね?詳しく聞いても分かんないって言ってたし」

「誰が?」

「えっとね、保護してくれた施設の偉い人」

「あー、そういう事か」

 元は親がいない子供達が暮らす施設出身。

そんな施設から高校生になったのをきっかけに一人暮らしを始めた、という話。

琉嬉は黙って聞いていた。


「えっと…さ、こんな力あるから、これを利用してお金稼げないかなって思ってさ」

「へぇ。えらく単純だね」

「中学生だったしね。そりゃ今もそうだけど…もっと単純に考えてたよ」

 ケラケラと笑いながらも喋り続ける護。

「自分の強さも確信しながら退治屋って呼ばれるような…。

まあ、琉嬉ちゃんが戦った殺し屋みたいな事だよ」

「うん、それは分かる」

「あたしもさ、何かと殺してきた部分もあるから…汚れちゃってるんだよね、この手」

 両手を月明かりにかざすように上に挙げる。

気付けば夜だが分かるくらい晴れていて、月明かりも強め。


「殺し…「死」かぁ…」

 臥九が言っていた言葉を思い出す。

奥深く、座り直す仕草をする琉嬉。

「ま、地獄に行くような事をやってるからね。僕らって」

「そうだよね」 

 お互いにクスクス笑い合う。

「でもさ、「それだけ」、じゃないでしょ?退治屋やり始めたのって」

「……琉嬉ちゃんは鋭いね」

「僕じゃなくっても感じて来るよ」

 スマホを取り出し、地図を確認する。

確認終えたらスッと立ち上がる。

今いる場所を確認しながら歩き始めようとする。

「あの頃はもっと女らしい喋り方とかしてたけど…大人に憧れてたのかなぁ」

「へぇ」

 二人は歩きはじめる。

「本当は死にそうになった時…辞めようかと思った」

「うん」

「でも…生きながらえたから」

「………それが、妖怪化の理由もあるから?」

「いえすいえす」

「…しんみりした話なのにそうやって誤魔化すようにするんだから」

 表情は変わらないけど、ちょっとだけウケてる琉嬉。


「あたしはね、強い妖怪を標的にした。けど返り討ちに遭うくらい死にかけた」

「よくある話だね」

「そんなさ、漫画みたいな出来事ってあるんだよね」

 振り返るように語る護。

時々通る車の音が身に染みる。

「そんときさ、霊術会の御衣木みそぎってやつがいたんだけど、

その人のおかげで助かったようなもんなんだよね」

「へー…それは初耳だ。御衣木…ねぇ」

 ふと聞いた事あるような名前に反応する。

(御衣木…おそらく名家のひとつか…)

「んで、倒した。でもその見返りに、あたしは妖怪の力を受け継いじゃった訳」

「…悠飛と似てるな」

 悠飛も雪女の力を継承してしまっている。

護も似たようなものなのだろう。

「でも悠飛君は妖怪じゃないんでしょ?」

「悠飛は妖怪としての肉体じゃないから…」

「だよね」

 なぜかちょっと残念がる護。


「護は、肉体的にも妖怪なんだろ?てか何の妖怪なの?」

「月鋼っていう名前の、金色の妖の一族って言ってた」

「金色の妖…、知らないな」

 琉嬉も知らない妖怪。

なんせ、相当な数の種類の妖怪いる。

人間ですらいろんな部族など人種がいる。

妖怪なんぞさらに数が多い。

知らなくても当然の世界なのだ。

「その血を受け継いだから…こんな見た目になっちゃったんだけどね」

 綺麗な金髪。

まつ毛。

そして肌。

北欧の金髪美人かと思うような、綺麗な金色の髪色をしている。

「それ、妖怪化の弊害だったんだ」

「そうだよ。昔は綺麗な黒髪だったんだから」

「…嘘だー」

「本当だって、ほら」

 スマホの画像に残っている中学生時代の画像を見せる。

その画像の中には今よりも幼い顔立ち。

そして綺麗なストレートの黒のロングヘアーだ。

今よりも断然長い髪。

「うん、美少女っすね」

「うんうん、でしょ?じゃなくって!

なんていうか、琉嬉ちゃんっぽいでしょ?」

「僕はもっと日本人形みたいです」

 自虐的に言う。

「それ髪型の問題じゃない?ま、あたしも言われた事あるけどさ」


「ま、今日は護の事少し分かったし、いいか」

「それはそうと、これ何時になるのかな」

「さぁ?」

 途方に暮れる二人。

「でもうち近いよ?」

「そうだろうけどさ」

 不満たらたらの琉嬉。

みゆは先に帰ってしまった。

帰りの手段を全く考えて無かった。

親を呼ぶと言う手も…と考えたが迷惑をかけたくない。

そんなちょっとした子供な考えを出してしまう。

「めんどかったらあたしん家泊まる?」

「えー、明日どーすんのさ」

「それはおいおい考えておこ?」




「へー、これが護の家かー」

「あんまりじろじろ見ないでよ」

 結局琉嬉は護の家にやって来た。

歩くのも疲れたというのもある。

「もっと古臭い家かと思ってたけど…案外綺麗なっていうか…新しい建物だね」

「築15年とか言ってたかな」

 そこまで古くないアパート。

そこの一階の部屋での一人暮らし。

その護の部屋…だが。

「…なんか戦車とか戦闘機のプラモ…?多くない?」

「あー、うん…恥ずかしいからあまり見ないでって」

「…もしかしてミリタリー好き?」

「まーね」

 あからさまな照れ方する護。

顔が赤い。

「んー、でもそんな気がするよ。私服とかもそれっぽい時あるもんね。

緑色っぽいのとか…ほら、迷彩服とか」

「戦争が好きってワケじゃないよ。軍の兵器とかが好きなだけなんだよね」

「へー…」

 妙に納得する琉嬉。

私服がなんとなく軍をイメージした感じなのがある。

スカート類やホットパンツのような女性らしい服をあまり着て来る印象がない。

やけにポケットが多い服装だったり、パンツスタイルが多いからだ。

「あ、女っぽくないって思ってるだろー?」

「思ってませんって、今時珍しくもありません」

「そーう?」

 とは言え、なんとなく見てしまう。

密かに模型作りとか好きなのだろうか。

ギャップある趣味に驚きつつもあるがなんとなく可愛らしいなぁと思う琉嬉。

「てかさ、ミリタリー好きなのに護の戦い方って、いわゆる白兵戦じゃない?」

「銃なんて手に入りにくいじゃん」

「いや…エアガンとかでも良くない?」

「飛び道具って苦手なのよね~。あたしの戦い方としては」

(そういや、銃を使う奴いたな…香那巳の奴が)

 お互いになんでもない会話が続いて行く。


「んでさ、その黄昏っていうのは何をしたい訳?」

 率直な疑問。

取り敢えず目の前にいる琉嬉に聞く。

「さーぁてね。あの殺し屋曰く自分達の生きやすい世界作りたいとか言ってたらしいけど」

「ふーん…」

 興味まったく無さそうにする護。

「…お前結局どうでもいいんだろ、その様子だと」

「だってピンと来ないっていうか」

「分からんでもないけど」

「もー、疲れたよー」

 ベッドに寝っ転がる護。

表情にも出てる来るくらい、ぐだぐだだ。

「おい、お客さん来てるのに寝るなよー」

「あたしは妖怪化して疲れてるの。琉嬉ちゃんは真霊気だかを使ってないんでしょー?」

「まぁ、使わなくても倒せる相手だったし」

「…琉嬉ちゃん、ほんっと強いよね」

 素直に褒める。

大体、一度二人は戦っている。

琉嬉の強さは十分に理解している。

「言っとくけどね、真霊気をまともに使ったのって、來魅の時以来だったんだからね。

あんなに感覚開けないで使用したの初めてだよ」

 ため息交じりながら答える。

「…そーなんだ」

「てか、護と会ってから一年だな」

「うん」

 最初に出会って戦った。

それから一年がもう経つ。

 募る話がどんどん出て来る。


「お前の霊気の剣どうなってるんだよ。切れ味恐ろし過ぎだって」

「あたし唯一の必殺剣だもーん」

「柚羽がこの前手に入れた刀とどっちが強いんだろうね?」

「柚羽ちゃんの刀?えーっと、前の折れちゃったんだっけ」

「そ。僕が協力して新しいの作ってもらったんだよ」

 以前柚羽に協力して、現代の技術も取り入れた新しい妖刀を作った。

その威力は琉嬉の背筋が凍るくらい。

それだけ凄まじい。

「でもあたしのはさ、霊力そのものじゃない?かき消されるかもね」

「僕の真霊気みたいにか」

「うん。なんていうか、物質ある物より、対霊気用の霊力剣だから」

「そういう戦いに関しての知識は抜群なんだな」

「なにそれー、バカにしてるの―?」


 出された麦茶を飲み干す。

コップを小さなテーブルに置いて一息つく。

琉嬉はスマホを操作しながらゆっくりと喋りはじめた。

「……護」

「はぁい?なーに?」

「退治屋…始めた本当にきっかけ、なんなの?」

「…え?さっき言ったじゃん」

「あれは上辺だけ。僕には通用しないよ」

 いつになく真剣の顔した琉嬉。

「…琉嬉ちゃんには敵いませんね。はいはい」

 ガバッと唐突に起き上がる。

金色の綺麗な髪がバサッと広がる。

「さっき言ったのも理由の一つだけどさ」

「……うん、それも解かる」

「…こういう事してたら、本当の親に会えるかなって思ってさ」

「……亡くなってるんじゃないの?」

 既に死んでいる。

そう聞いている。

「いや、そうなんだけどさ。

そうなんだけど…いないってのがどうしても認めたくなくってさ」

「うん」

「でもあたしがこういう力を持っている以上、親も、親戚も似たような力あるのかなって…。

こうやって裏の世界で目立つような事やってたら…あたしの家族がと会えるかなって…?」

「うん」

 静かに聞き入る。

「琉嬉ちゃんだけだよ?こんな事話したの」

「あー、護って友達少ないもんなー」

「友達くらいいるよ!いっぱい!」

「そうでしたっけ?みゆと二分割するくらい人気あるんだっけ?」

 誰とでも仲良く話してる姿をよく見る。

ふかしぎ部のメンバー以外でも。

「あー、ばかにするなー。こう見えても美少女扱いされてるって聞いてるんだからね」

 くねくねと変な動きをする護。

あまりにも気持ち悪さに琉嬉も笑い出す。

「ぷふふ…護らしいや」

「もー」




「主、臥九とイロトが捕えられたそうです」

「ふむ…そうか」

 主と呼ぶ女性。

猫の半妖の壬珠。

そして屈強な男の充盛。

「けっ、やっぱり使い物にならなかったんだろ?」

 加家島が壁に寄り掛かりながら言う。

偉そうに腕を組みながら。

「そうネ」

「どー思いますー?ボス?」

 加家島がボスと呼ばれる者に問う。

「その程度だったって事だろう?」

 声の主が姿を見せる。

カツカツと足音を立てながら現れた、男。

目の辺りを文字のような物が書かれた仮面で覆っている。

長身だが、中肉と言った体格。

黒髪で長髪。

一見普通の人間のように見える。

これといった人外のような特徴は見られない。

「これを」

 部下らしき者から手渡されたスマホ。

その画面には琉嬉と護の画像が写っている。

すると、その男は仮面をあっさりと取り外した。

その目つきは鋭く、冷たそうな眼光をしている。


 ―――半妖の組織「黄昏」。

その「黄昏」のトップ。

皆神みながみ殿か」

 充盛がそのトップの男の名を呼ぶ。


 皆神勇英みながみゆうえい

名前こそ、日本の人名のようだが、半妖である。

どういう経緯で半妖の上に立つ存在になったのか。

現状は不明。


「彼方、港咲、そして金色の妖の女…面白いではないか。

決してその辺の輩には負ける要素はない強者だったのだろう?」

「まぁ、そうですけどね。これじゃあ妖魔王の遺品取れないッスよ?」

「そうそう、妖魔王はどうするんですかー?」

 帽子の若いボーイッシュな女、響。

人懐っこい感じで喋りかけている。

「妖魔王の道は遠ざかる…が、焦る事はないさ。そうだろう?充盛」

「いかにも。焦りは禁物。どのみち我々の方に流れは向くだろう」

「へいへい。そうですね。相手も一筋縄でいきませんからね」

 拗ねるように言う加家島。

「一度手合せしてみたいものだな」

「やるには覚悟はした方が良いかと」

 壬珠が忠告をする。

「フフ。その言葉、頭に入れとくさ」




「じゃじゃーん!これでーす!」

 放課後、いつもの部室。

でかい声ではしゃぐのはみゆ。

手には大きな封筒…だが、不自然にパンパンな状態の大きさになっている。

「何それ?」

 琉嬉がぶっきらぼうに聞く。

「これ、昨日の報酬です!」

「もしかして…現金?」

「そのとーり!」

「学校でそのまま持ってきてたの?」

「はい!」

 元気よく答える。

悪気は無さそうに。

「おいおい…そんなの風紀委員が見たら怒るぞ」

「なんで学校にそんな大金持ってきてるんですかー!って」

「だから寧音さんが来ないうちに渡すんですよ~。はい、こちらが護先輩で」

「お、うおおぅ」

 ずっしりとした感触。

紙のお札も束になれば重たい。

「こちらが、琉嬉先輩でーす」

「いくら?」

「えーと…50万くらい?」

「ぶほっ」

「大胆だね」


 封筒の中身を一応確認する二人。

琉嬉は表情変えずに淡々と見ている反面、護はニヤニヤしながらお札を数えている。

対称的な二人だ。

「報酬的にはこれ多いの?」

「まぁまぁじゃないですか?」

「命かけてる割には、割に合わないというか…」

 下手すれば死に至る。

そんな世界での仕事。

「でも後はランク次第じゃない?」

「ランクねぇ…」

 霊術会で定められたランクがあるという。

「あいつらってどれくらいのランクなの?」

「ええと…Aランクくらいじゃないですか?」

「アルファベットでのランク分けなの?」

「面倒だから最近はそうみたいですよ。昔は甲乙とかだったみたいですけど」

「甲乙って…十干?」

 琉嬉はすぐに意味を理解する。

「十干ってランクありましたっけ?」

 はてな顔をするみゆ。

「確かに、そっちの方が逆に分かりにくいよね」

 護の頭では当然だった。

「じゃあさ、Sランクだとどれくらいになるの?」

「大妖怪レベルじゃないですか?」

「來魅くらい?」

「來魅ちゃんは多分…規格外じゃないですかね?霊術会では手に負えないレベル。

むしろ相手にしないと思います」

「へー…凄いんだな來魅って」

「力の均衡を一人で保つとも言われてますからね」

 とはいえ、所詮人間側での仕分け。

妖怪などもピンからキリ。

人間が知らない力の妖怪もいる。

あくまでも、おおよその分類分けである。


「ま、ありがたく受け取っておくよ」

「へっへっへ~、これで二ヶ月くらい美味しい物食べて過ごせる~」

「護って一人暮らししてるから自炊得意なの?」

 率直な疑問。

それに10代の女子高生が一人暮らし。

「料理は……あんまししないかな」

「え、それじゃいつもコンビニ弁当とかですかぁ?」

「時間無い時はねっ。作ろうと思えば作れるんだからっ」

「そーなの?」

 信じられないといった表情する二人。

「まあ、施設暮らししてた時料理当番みたいのあったからさ」

「なるほど…」

 変に納得する。


「あら、なんだか楽しそうですね」

 他の生徒会達が入ってくる。

「そうー?」

「珍しく琉嬉さんもニコニコですね」

 ちょこんっと琉嬉の隣の席に座るまどか。

チラ見する琉嬉。

でもゲーム機に目線を戻す。

「まぁね」

 高い声質ながらも低いトーンで言う。

「…そうですか」

 何かを察したかのようにまどかも笑顔になる。

「でもまぁ、何事もなく良かったですね」

「…情報早いね」

「霊術名家ですから」

「……そう」

 素っ気ない琉嬉。


「でも今回分かったのは護が本当はとんでもなく強いって事かな」

 ペットボトルに口を近づけながら喋る。

「護…ああ、芹澤さんですか」

 まどかも大好きな炭酸飲料を飲もうとする。

「そりゃ名家であるお前らも強いよ。

だけど護はそういう有名どころじゃない家系らしいし、ほぼ我流だし」

「ええ」

 当の護本人はまだみゆと騒ぐように喋り合ってる。

不服そうな護の言葉を巧みにかわしているみゆ。

「改めて思った。ふかしぎ部はとんでもないって」

「ふふ、貴女を筆頭にですよ」

「褒め言葉として受け取って置こう」

 気分良さげにちょっとだけ笑顔を見せる琉嬉。

照れ隠しに目線はすぐにゲーム機に向ける。


「でもさ」

「はい?」

「護は頼れる存在だよ」

「…ええ、そうですね」

 いつものトップ同士の会話。

そんな会話しながら護の事を見守るようにしてる二人だった。

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