表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~青春補完編~
86/92

#86 父子と海辺での休日

 体育祭も終わり、振り替えの連休日。

そんな間もない日。

琉嬉は父親の導と共に、ドライブに出ていた。

というより、導の取材の為の遠出なだけなのだが。

「琉嬉ちゃん、珍しく一緒に行くなんてどうしたんだい?」

「んー、だって、取材のついでに温泉行くんでしょ?」

「温泉好きだね~」

「そのうち免許取ったら先ずは近くの温泉施設を制覇してやるんだ」

「はは、そりゃ頼もしい」

 元より一泊の予定。

勿論、二人分の宿は取ってある。

父と娘、二人きっりの小旅行とも言える遠出。

年頃の娘となると一層珍しい組み合わせだ。


「ねえー父さん。何の取材に行くの?」

「ええとね…人魚…かな」

「人魚?おとぎ話とかに出て来る?」

「そうだよ」

 人魚。

想像するのは上半身が美しい女性で下半身が魚のようになっている、昔話に出て来る存在。

だがいわゆる裏世界では、妖怪の一種…とも言える。

「人魚って実在したの?」

「似たようなのはいたんだろうけどね。ただ、おとぎ話に出て来るような美人な人魚はいなかったとも言えるとかなんとか」

「へぇ~…。言われてみればそんな妖怪みた事ないな」

 動物型の妖怪の中には人型に変化するのも沢山いる。

來魅だって銀杏だって元は動物の妖怪の一種だ。

それが進化して、今のような人間と変わらない容姿の妖怪となっている。

「その人魚がどうしたの?」

「人魚がいたっていう伝説の残る土地があるって聞いてね。そこを取材しようと思ってさ」

「…ふぅん」

 琉嬉はあまり興味無さげな感じ。

どちらかというと温泉の方が気になっている。


「ねー、なんで父さんは家を継がないでフリーライターやってるの?」

「ん?なんだい突然」

「いやぁ、気になってさー」

 あまり深く聞いた事はない。

なんとなく、自分自身の力が及ばないから独立したような形になった…と、断片的にしか知らない。

「僕はね、真霊気が使えない。それに、元々兄さんには及ばなかったんだ」

「うん、それは知ってる。理由はそれだけじゃないでしょ?」

「う、う~ん…」

 実の娘にずいっと迫られる。

「正直な事を言うと、世の中はまだまだ不可思議な出来事が沢山ある。

それを知ってほしい…。

だから、雑誌とかで特集記事を作って、残ってる伝説をいつまでも伝えたい。

そんな感じかな」

 とはいえ、表向きは雑誌編集などのライターをする傍ら、退魔師としてお寺で拾え切れない仕事も裏稼業として手伝ってはいるのだが。

「ただ、お寺に居るよりもっと自由にやりたいって、無理を言ったんだけどね」

「怒られた?」

「怒られたというより呆れられたかな」

 簡単に言うともっと自由度が欲しかった。

それが一番の理由なのかもしれない。

「ま、兄弟の一番上より二番目以降の下の兄弟の方が負けず嫌いで有名になる人って、多いよね。

こう、なんていうか…敷かれたレールから外れるというか…」

「はは。僕もそうのかな」

 笑い飛ばす導。

導自身は次男である。

琉嬉は長女。

「でも天叔父さんは長男っぽくないけどね…天然というか…」

「子供の頃からあんなんだったよ」

「ふぅん…。そーゆー突拍子もない部分が紫音が受け継いだんだろうね」

「はは、そうかもね」


「ふーむ……」

 なんだか自分の考えと少し似てる気がする。

琉嬉はそう思う。

自分もオカルト事件を解決しよう。

そういう発端で部活を作ったのだから。

「つくづく親子だなあって思ったよ」

「そうかい?」


 車で走る事、2時間以上。

思ったより長い。

「そろそろかな?」

「ん、ほんと?」

 目を擦りながら意識を現実に戻す。

少し眠りかけのような、寝てないような。

そんなうつらうつらとしていた琉嬉。

「あー、ってここ橋?」

「そうだよ」

 車を近くの広い場所へ止める。

そこまで大きくない橋。

海沿いの道路を繋いでいる橋の一つに過ぎない。

でも琉嬉は異様な空気感を肌に感じた。


 少し歩いて橋の上の歩道上を歩く。

多くのカモメらが飛んで行く。

時折通る車。

交通量があまりないのか、簡単に道路を渡れる程だ。

「琉嬉ちゃん、こっちこっち」

「……ん」

 そしてすぐ分かった。

「もしかしてあれ?」

「さすがだね」

 琉嬉の視線の先。

それは誰が見ても分かるレベル。

橋の下を覗いて分かる岩達。

その中の一つだけ、妙な色合いの岩があった。


 始めは海藻か何かがくっついてるのかと思った。

だが違うらしい。

「…人魚の意味が理解したよ」

「だろうね」

 導は取り敢えず、高そうなデジカメで撮影している。

「なるほどねえ」

 気になった岩。

その岩の模様がまるで人魚の形のような…。

黒っぽい岩肌に見事までな黄色く人魚のような形をかたどった模様が出来ている。

一見、単なる自然の力で出来た変哲もない模様にも見える。

が、言われれば言われる程人魚の形だと認識してしまう。

「あれが人魚の正体?」

「正体というか…まあ人魚そのもの?」

「どーゆー事?」

「この地で、あの岩の上で人魚が命を尽きた…ていう伝説が残ってるんだ」

「…へー」

「泡とも光ともなって、消えていった。

残ったのは人魚の形になった岩の模様…とね」

「ふむ…」

 琉嬉も何となく、手元に出していたスマホで撮影してみる。

物珍しさというか、不可思議な光景なのでつい撮ってしまった。

「何か感じるかい?」

「感じるも何も…その辺に多分関係ない動物霊とか浮遊してるけど?

それは人魚とは別に関係ないでしょ?」

「そうだね」


 少し辺りを見回す。

とてもじゃないが普通には降りようがない崖が続いている。

釣りにも適さないような少し危険な個所が多い。

この日は波も少し強く、いくら琉嬉ら鍛練された者でもその場所に行くとなるただですまなさそうだ。

「ちょっとその辺見て来る」

「あ、うん。気を付けてね」

 ひょいひょい、っと草っぱらを突破していく。

通称「人魚の岩」と呼ばれる岩が見えるギリギリの場所。

観光用になってるのか、一応の柵がしてある。

「ふぅーむ…」

 念の為ネットで調べる…が、あまり情報が出てこない。

それもその筈。

田舎という度合いを超えた単なる通過点に過ぎない道路脇。

見落としがちな連続した橋。

導はよく見つけたなと思うような、辺鄙な場所。

釣りのスポットとして少し有名なくらいだ。

(…そういう所が親子だな…って思うよ。つくづく)

 まさに親子。

妙な興味を持つ部分が似ている。


 柵のギリギリまで身を乗り出す。

すると下へ続く道らしきものが見える。

道…というより誰かが出入りしているような足跡。

「誰か乗り越えてるのかもしかして」

 崖…というほどでもない急な下り坂。

「なるほど」

 琉嬉は察知した。

ちょっとだけ見える、木箱のようなもの。

道路沿いなどに突然出て来るお地蔵さまが祀られている祠。

それと似たようなのが。

木箱に何かが入っているのだろうか。

それとも何もない、ただの作り物なのか。

(今は行くべきじゃないか)

 気にはなる。

気にはなるが、導は他の所にも行く予定である。

ここであまり時間を使ってしまっては仕事に支障をきたしてしまう。

そう思い琉嬉は思いとどまる。

「琉嬉ちゃ~ん」

「んー」

 結局引き返す事に。


「何を見てたんだい?」

「変な所に箱が…」

「箱?」

「うん」

「…そっか。琉嬉ちゃんが気になるんなら何か意味があるんだろうね」

 娘に対して理解がある。

だから話が進むのも早い。

「でも次の所に行かなきゃ。取材する方に会わないと。遅刻する訳にはいかないからね」

「そだね」


 シャリン…。


「……?」


 シャリン…。


(…なんだ?鈴の音?いや、違う…)

 鈴の音なら琉嬉がいつもしている髪飾りの魔除け鈴の音で聞き慣れている。

というか自分の鈴の音なら聞き間違える訳がない。

試しにわざと今鳴らしてみるが、チリンチリンッと明らかに違う音だ。

しかしその鈴の音とは違う、シャンシャンッとした音。


 そのあと30秒程度だろうか。

ちょっとの間だけ黙って立ち尽くして周りの音の集中する。

だが待てども不思議な音は聞こえなかった。

「琉嬉ちゃーん?」

「あ、ごめん。今行くよ」

そして二人は次の目的地へ。



 目的地。

それは案外近くだった。

「人魚の岩」から数キロ離れた沿岸地域のとある道沿いのレストラン。

そこで人との待ち合わせ。

琉嬉は暇そうにゲームをしながら待つ。

導はタブレットで何やら調べものをしながらいろいろしている。

おそらく仕事の事だろう。

「すみません、お待たせしました」

 現れたのは導よりも一回り上の年代の男性。

50代前半くらいだろうか。

そこそこのおじさんと言われる風貌である。

「いえ、こちらも着いたばっかりでして」

 導は立ち上がり名刺を渡す。

「…ええと、そちらのお嬢さんは?」

「私の娘です」

「娘さんと一緒に取材ですか」

「娘が一緒に行きたいと言いまして」

 そう言われると琉嬉も立ち上がる。

「どうも」

 ぺこりと軽く会釈。

「これはこれは、こちらこそこんにちは」

「どうぞ、お座りください」


 男性は人魚にまつわる伝説を詳しく話してくれた。

この地はかつていろいろ海難事故が多かった事。

その中で人魚に助けられた…とよくありそうな話がリアルに残っているという事。

資料らしき物も持ってきてくれた。

琉嬉もそれに目を通す。

大体は残された文献のコピーした紙ばっかり。

その中に原本であるらしき、古めかしい本もあるのに気づく。

「あの、これ読んでいいですか?」

「はい、どうぞ」

 渡された本のページをめくる。

日付がおよそ60年くらい前。

(古っ…とは言っても実際はそこまで古くないか)

 お寺に残ってる資料などは100年以上前のがざらに残っている。

それに比べたら古くはないのだろうが…。

比較的新しめの文献であれば逆に貴重なのかもしれない。


(…人魚が実際に目撃されている。これもよくある話だな)

 黙々と読み続けてる。

そこで少し気になった記述。

その記述には冬が近づくと不思議と目撃談がなくなるというもの。

(…寒くなるといなくなるの?)

 不思議そうな顔をする琉嬉。

「おや、お嬢さん、難しそうな顔してるね」

「あ、いや…」

「まだ難しかったかな?」

「むっ、これでも高校生です」

「…え?」

「これは失礼。この子、ちょっと小柄なもんですからよく間違えられるんですよね」

 慌ててフォローに入る導。

「あらら、これは失礼しました」


 しばらく導と相手の人との取材形式の会話が続く。

琉嬉は流し読み程度に資料をある程度読み終える。

(割としっかりした記述がされてある…。

日付、日時や場所の詳細まで……。

それだけここの地は人魚について関心が高いという事か。

そもそも、なぜこの地域だけ…?)

 ひとつの疑問が浮かんできた。

こうした人魚伝説は実際日本や世界中に残っている。

海沿いの地域なのは当たり前なのだが、この周辺だけ特に集中している。

少し隣の地域の事は特に書いていない。

(おそらく…実際に人魚が居たとして仮定すると、この地に何かがあった。

もしくは…ここに来る必要性があった。という話だね)

 パタッと本を閉じ、立ち上がる。

「琉嬉ちゃん?」

「ごめん、ちょっとお手洗い」

「そうかい?そろそろ出発するよ」

「うん」


「人魚……ねぇ…」

 何かひっかかる。

そんなモヤモヤした気持ち。

「そうだ」

 何かの閃き。

トイレを出ると誰かに連絡を取り出した。



 來魅が居る部屋。

一応空き部屋を借りている。

そこに來魅専用のノートパソコンを設置している。

で、來魅は暇な時は一日中レベルでネットサーフィンをしている。

丁度その時に來魅専用のスマホが着信する。

「おー、琉嬉。どーしたー?」

『人魚って会った事ある?』

「…突然だな」

『出る前に聞けば良かったな』

 電話の相手は來魅。

「人魚かぁ。私は一度だけ会った事あるの」

『ほんと?どこで?』

「この地ではない。どこか遠い地だ。

あんまり姿を現す事ないようだ。妖怪相手にでも」

『そっか』

 通話しながら窓から見える海を見る。

波は高くないようだ。

穏やかな天候。

「私が生まれた時代よりも遥か昔には頻繁に姿を見せたと聞くがな」

『そうなんだ』

「100年以上前でさえ姿を見たという者はそうそうおらん」

『おっけー。あんがと。お土産、なんか適当に買っていくから。お父さんのお金で』

「ぷふっ。そうか。楽しみにしてるぞー」

 と、通話が切れる。

「あら、誰と電話?」

「琉嬉とだ」

 この日家にいるのは嶺珠と來魅だけ。

悠飛は軽音部の方に顔を出しに学校へ行っている。

「もう人魚のなんたらって所に着いたの?」

「そうみたいだな。車というのは速いのう」

 文明の機器の凄さを感じる。

「ふむー。琉嬉のやつなんで着いて行ったんだろうな」

「温泉入りたいって言ってたからかしらね?」

「温泉のう。ええのう」

「來魅ちゃんも一緒に行っても良かったのに」

「ふむ。それも考えたんだがな」

 珍しく着いて行かなかった。

「琉嬉ちゃんを守るとかなんとかって來魅ちゃん言ってたし…」

「あー、それなあ。導のやつがいるなら大丈夫だろう」

「あら、そう?」

「うむ。あやつ…いつもヘラヘラしてるが、大した術者だろうて」

「伊達に彼方家の血筋じゃないのよね」

 嶺珠は笑顔で言う。

「のう、嶺珠は彼方家の事は前から知ってたのか?」

「私?うーん、知ってたというか…」

 元から知っていた素振りを見せる。

だが少し口籠るような歯切れの悪い言い方。

「…まあ術者の嫁になるくらいだからお主も大したたまなのだろうな」

「ふふ、ありがと。そうそう來魅ちゃん」

「ん?」

「來魅ちゃん、買い物行く?」

「行くっ」



「さて、宿に行くよ」

「うん」

 取材内容はまとまったようだった。

そこで取材の相手と別れた。

そのままこの日泊まる宿へ向かう。


 海岸からすぐそば。

古びたイメージの宿。

大きめな宿。

「さあ着いたよ」

「はーい」

 ぴょこんと飛び降りるかのように車から出る。

「……ほー…ここが」

「どうしたの?」

「あ、別に」

「琉嬉ちゃんが行きたかった所だよね?」

「う、うん」

 琉嬉が前から行きたかった温泉宿。

元々の趣味が温泉巡り。

念願の宿に来れて思わず顔がほころびる。

「期待してたのと違ったかい?」

「ううん、そんな事ないよ」

 むしろ期待以上の雰囲気。

と言いたかったがなんだか気恥ずかしかったので言わないままにした。


「いらっしゃいませこんにちは」

「予約して彼方…ですけど」

「ああ、はい。彼方様ですね」

 さっそくチェックイン。

受け付けをしてくれたのは若めの女性。

女将さんとも言えるような和服姿。

「お二人様ですね。大人一名と子ども一名でよろしいですか?」

「あ。ええと…大人二名ですね」

「あら、娘さん…」

「高校生ですっ」

 先手をうって先に言う琉嬉だった。


「部屋一緒で良かったのかい?別々でも良かったんだよ?」

「別々だったらお金かかるでしょ。それに親子なんだから」

「そりゃそうだけど…琉嬉ちゃんも年頃だろうに」

「一緒にお風呂入る仲なんだから何を今更」

 部屋に入るや否や、服を脱ぎ出す。

「琉嬉ちゃん?」

「浴衣に着替える」

「はやっ」

 一瞬で着替え終える。

「お風呂行ってくる!」

 ばひゅーんとも擬音が聞こえてきそうな勢いですぐ大浴場へ向かって行った。

「……やれやれ。ま、ゲームだけにのめり込むよりはいっか」

 さすがに琉嬉のゲーマーっぷりも親である導は多少なりとも心配してたようだ。



「はぁ~~~~~~~~~………」

 どこかのおじさんよろしく。

ちょっとだらしない声を出しながら湯船に浸かる。

「はぁ…幸せ」

 入って少し心を落ち着かせる。

キョロキョロと見回すが、まだあまり人がいないようで、パラパラとしか人はいない。

夜に近づくにつれ人が増えるのだろうか。

それとも単に、たまたまこの日は人が少ないだけなのか。

「…誰もいないのかな」

 一旦浸かった湯船からすぐ上がり、露天へと向かう。


「おー……」

 思った以上の光景。

表側は海が見えて絶景。

裏手はすぐ山なので草木が溢れんばかりとも言える、緑色が広がっている。

この景色だけでも満足感が凄い。

(来てよかった…)

 外は海岸だけあって、風が少し強くひんやりとするがかえって熱い湯船で丁度いい。

そんな心地よい風を受けながら、ぼんやりとこの先の事を考えてた。


(妖魔王…半妖の組織の言動。

やりたいコトがなんとなく見えて来たけど……)

 そう、なんとなく。

なんとなく相手側のやりたい行動が理解してきた。

妖魔王とやらを復活させる。

なんともありがちな展開。

ありがち過ぎて逆に気持ちが悪いくらいだ。

(ま、何かあったら真っ先に霊術会とやらが動くんだろうけど。さ)

 まるで他人事。

結局はちょっと遠い所の話のようにしか今は考えられない。

事実、今はのほほんと平和な時が続いているからだ。

半妖の者達もバカではない。

下手に動けば霊術会とぶつかるし、霊術会自体も裏の世界ではかなりの力を持っている。

(叉羅沙の話によると世界的にもケンカを吹っ掛ける事の出来ない組織らしいからね、霊術会って)

 日本の大昔からの時代から続く霊術会。

今の時代はかなりの力を持つという。

(五大家と同等の霊術力を持つ名家の集まり…か)

 青い空を見上げる。

(僕は……関わりあるけど直接は関係ない単なる彼方家の血を引いてるだけの家柄だし?)

 なんとなく現実から目を背けてる節がある。

琉嬉にとっては面倒だから。


 ややこしい事は基本的にお寺に任せておけばいい。

自分の所にだけやってくる火の粉だけは、全力で排除する。

それだけ。

それだけ…でいたいのだが。

(結局気になる事には首突っ込んでしまう…我ながら情けない性格だよ)

 自分のお節介好きは理解している。

そういう性質だから仕方ない。


 少しずつざわついてくる。

他の客も風呂に入ってきたようだ。

琉嬉はさすがに長風呂にする訳にはいかないから入れ違いになるように、風呂から上がる。



「お帰り。琉嬉ちゃん」

「んー」

 ほくほく顔の琉嬉。

導はノートパソコンを開いてまだ何かしているようだった。

取材した記録をまとめてるのだろうか。

琉嬉はあんまり気にする事もなく冷蔵庫に入ったペットボトルを取り出す。

「まだ仕事?」

「そんなところかな。でももう終わるよ」

「ふーん…ライターって仕事するタイミングめちゃくちゃで大変そうだよね」

「逆に時間に融通が出来る時があって僕は好きだけどね」

「…お祓い業がしやすいから?」

「フフ、まあね」

 にこやかにしながらパソコンで続ける仕事。


 お祓い業。

導が裏でやっている仕事。

むしろそっちが本業とも言える。

お寺からこぼれてきた簡単な物や、自ら探って見つけたお祓い業務をしている。

自分では彼方家の落ちこぼれだとは言ってるが、実際は並みの霊術者よりも実力は上。

とは言え、最近本格的に体力の衰えを感じてるらしく運動を始めたようだ。

時折どこかに出掛けて汗だくで帰ってくる事がある。

琉嬉はなんとなく察していた。

導は一年程前の鞍光高校の文化祭の時に体力劣化を痛感してたからだ。

「ねー、本当は取材だけじゃないんでしょ?」

 率直な疑問を一気にぶつける。

「…琉嬉ちゃんは鋭いね」

「お祓い?」

「お祓い…というか、調査を依頼されたかな」

「人魚関係?」

「関係あるのかどうかは分からないけど」

 繋がりがあるのかは導は不明だと言う。

「夜に一旦出るけど琉嬉ちゃんも来るかい?」

「父さん一人でどうにか出来るレベル?」

「まあ、普段はいつもそうしてるんだけどね」

 笑顔で言う。


 おそらく、全盛期は過ぎてるであろう導の実力。

体力、霊力、そして真霊気がある分琉嬉の方が今は強いのかもしれない。

ただ、経験と知識の差は今は埋められない。

圧倒的に父親である導の方がそういった点で言えば勝っている。

「何時ぐらい?」

「夜の10時過ぎくらいかな」

「そっかぁー。それまで暇かもねー」

 と言いつつ、携帯ゲームを始める。

「やれやれ…。それじゃ僕もお風呂行ってくるね」

「いってらっしゃーい」



 夕食も済ませ、しばらく空いた時間。

導は相変わらずパソコンと睨めっこを続けている。

時刻は夜の9時。

浴衣から動きやすい私服に着替える。

「おっと、こんな時間か」

「そろそろ行くの?」

「そうだね」

 ささっと準備を終え、部屋をすぐにもで出れる身支度。

「何かと戦う?」

「うーん、場合によれば?」

「場合によれば?何それ…」

 首を傾げながらも琉嬉は導の後を追うように部屋を出る。




 着いたのは人魚岩がある付近だった。

やはり人魚と関連性があるのか。

橋の近くなので灯りがいくつかあるが、それでも暗い。

こんな場所なのでほとんど人が通らない。

車は時折通る程度。

「ねー、やっぱり何かあるのー?」

「そうだね」

「…何があったの?」

「ここら辺はね、釣で来る人が多いんだよ」

「…まあ割と足場がしっかりしてるっぽいもんね」

 懐中電灯を照らしながら下へ降りて行く。

箱があった所とは別のルート。

ちゃんとした道が続いている。

と言っても何度も人が通って出来た道筋なのだろうが。

「ちゃんと道があったのかー」

「琉嬉ちゃんこっちだよ」

「ほーい」


 慣れた動きで二人共下へ降りていく。

風少なく、波も穏やか。

釣り人はいないようだ。

「あ、この箱」

「お地蔵さまだね」

「……たしかに。けど…」

 琉嬉はお地蔵さまに意識を集中させる。

(…なんだ、何も見えてこない)

「琉嬉ちゃん」

「あ、何?」

「こっちだよ」

 導が琉嬉を呼ぶ。

さらに奥へ進んで行く。


 人魚岩の付近。

波は低いので簡単に行けた。

ただ、人魚岩の方は離れているので、これ以上進むのは危ない。

むしろ琉嬉達の超人的な運動力があればなんなく行けるのだが。

「…人の気配」

「さすが琉嬉ちゃんだね」

「妖怪じゃない。人間と同じ…霊気」

 霊気の類…。

つまりは、幽霊。

きっとそうであろう。

海での人気がなくかつ霊気を感じる。

きっと海で死んでいった者達。

琉嬉は來魅との通話の内容を思い出していた。


 部屋にチェックインしてから再び來魅と連絡を取っていた。

遡る事およそ5時間くらい前。


『そこのう…調べた結果、釣りでは人気なところだったみたいだ。

というかお前様のすまほで調べればいいじゃないか』

「そうなんだけどさー、お前なら深い所まで調べつくすだろ?」

『そうだけどな。フフフ』

 なぜか偉そうに、得意げに。

『ま、最近は事故とやらで釣り人がさすがに怖がって近づかないらしいけどな』

「事故…?それちょっと詳しく」

『おう、いいぞ』


 來魅が簡潔に説明してくれた。

人魚岩付近はいい釣りポイントだと。

だがここ数年釣り人が減ったどころか、全く来ないそうだ。

来ても何かを見ただの、足を掴まれただのという事案が多いと言う。

さらに何人か行方不明になって溺死状態で見つかったりしてるらしい、と。

人魚の仕業だのなんだのと変な噂がついてあまり人が寄って来なくなったと言う。

そうなると逆に心霊探索に来る輩が増えてる…と言うのだが…。

「なーるほど、そういう話か」

『人魚なんぞ見れや出来ぬのにな』

「妖怪がそう言うんならそうなんだろうね」

 少しだけクスっと笑う琉嬉。

『ま、父子だけの小旅行楽しんで来い』

「へいへい」



 ようするに、不審な事故が相次いだ。

それだけの事。

少しは観光スポット的な部分もあっただろうこの場所。

「父さん」

「なんだい」

「あのおじさんって、ひょっとしてこの町のお偉いさんとか?」

「…本当、鋭いね琉嬉ちゃん」

「将来探偵でもしようかなって思ってるよ」

「ふふ、琉嬉ちゃんならうまくいくかもね」


 導と会話をしていた男性。

なんとこの町の町長だという。

お祓いの依頼主はその町長。

なのだが、この仕事の依頼は町長の個人的な依頼だと導は言う。

町ぐるみの依頼ではないようだ。

「そうなんだね」

「このままだと人が来なくなるし、釣りも出来ないから…だってさ」

「町長が釣りをするの?」

「みたいだよ」

「…まあ、こんないい場所を変な噂で廃れるのも嫌な話だよね」

 なんとなく納得する琉嬉。

釈然とはしないのはたしかであるが、せっかくのお祓いのお仕事。

琉嬉は手伝うためでもある為にやって来たのだから。



「よし、そろそろかな」

 導が準備したもの。

人魚岩を中心にするように、御札を岩に貼り付けていた。

琉嬉の呪符攻撃は導からヒントを得たもの。

(陣を御札で…相変わらず父さんは王道というかなんというか…)

 あれこれ考えてるうちに何かが来る感じがした。

ゾワゾワとする感覚。

良くない霊。

「来た」

 琉嬉も両手に御札を出して備える。

「来たね。琉嬉ちゃん、そっち頼むね」

「うん」

 気づいたら、回りの岩場に大量の手が海から出てしがみついている。

何本かの手が琉嬉の足にしがみついていた。

「……離れてよ」

 べしっと御札を叩き付けるように手にぶつける。

するとスゥッと消えていった。

「…ねえ、父さんの作った陣って結界じゃないでしょ」

「ご名答。結界じゃなくって召喚…みたいなものかな?」

「……おびき寄せたのか」

 ひょっとしたら自分以上に抜け目がないのか。

みゆを思わせるような、策士というか。

実の娘にすらよく伝えないで行った行動。

逆に言えば琉嬉が簡単に対処するからなのだろうか。

「それ早く言ってよ~。信頼し過ぎて気づくの遅かったよ」

「はは、ごめんごめん」

 にこやか笑顔で言う。

「もー」

 手の持ち主が姿をどんどん現す。

あきらかに人の形だ。

ただ、崩れたような醜い姿。

「うげ…」

「溺死した人が悪霊化したやつだね」

「悪霊……困ったもんだ」


 船幽霊。

有名な幽霊の一種だ。

海難事故に遭った者の霊が悪霊化して生きてる者を海の底へと誘う、悪霊。

柄杓の水を船に入れて沈没させるとも言われている。

今見ているのは伝承の船幽霊かのような、おぞましい光景だ。

「船や近くの海岸で亡くなった人達の怨念が集まってるんだろうね」

「わざわざ人魚岩付近で?」

「そういうのを寄せ付けるパワースポット的になってるのかもね」

「……人魚の力か」


 出て来る悪霊を難無く倒していく。

でもキリがない程出て来る。

「なにこれ、永遠ループ?」

「うん、ちょっと頑張ってね琉嬉ちゃん」

「親玉がいるのか」

 さすがに琉嬉も気づいた。

導がやろうとしてたのは、核となっている本体を探して叩こうという作戦だった。

「僕も真霊気が使えればね」

「だからって僕に使えと?」

「まさかぁ。自分の娘に無理強いをさせて危険な目に遭わせないよ」

「だよねー」

 真霊気を使えば一発だろう。

でもそれを敢えてやらすわけにもいかない。

導は何かの考えがありそうである。


「理解したよ、人が寄り付かなくなるほどの事故が遭ったっていう理由。

こいつらが生きている人間を海へ引きずり込んだんだ」

 琉嬉の推測は正解である。

この悪霊達が釣り人や興味津々に来た者達を死の世界に引きずり込んだ。

とんだ迷惑幽霊だった。

「踏切の悪霊と似たようなもんか…でもこっちはこっちで性質悪いや」

 どっちにしろ迷惑この上ない話である。


「ふむ、頃合いかな」

「今度は何するの?」

「これさ」

 ポケットからさりげなく出した物。

手のひらサイズの筒。

「何それ?」

「小さい巻物さ」

 筒の蓋を開けると、導が言った通りに小さい巻物が入っていた。

「僕はね、彼方家でも自分自身の霊力が劣る分、道具を使ってなんとか力を維持してたんだ」

「うん、それは知ってる」

 当然親子なのでそういった話は知っている。

「でも道具に頼って来た分、自分の力を疎かに出来ない」

 巻物をしゅるるっと広げる。

すると宙を舞うようにバッと広がって行く。

「経典?」

「うちの家系に伝わる独自の経典だね」

 その経典の端が海の中へ入った。

すると電撃がほとばしるかのように霊力の波動が飛んできた。

「わっ」

 近くに一際目立つ大きな人型の霊体が現れた。

「それだ!琉嬉ちゃん!」

「…オッケー、こいつだね」

 左手に持った御札を投げつける。

ずにゅっと鈍い音を立てて大きな人型霊に命中する。

何かを叫んでるような表情をするが何を言ってるのか分からない。

琉嬉は黙って消えゆく姿を見ている。

「……残念だけど、お前らはこの世にいちゃいけないんだ」

「その通り。死者は死者の世界へ行きなさい」

 導が右手を上に挙げる。

そして指をパチンッと鳴らす。

すると陣を作っていた御札が一斉に宙に上がる。

そしてまた一斉にボウッと音と共に燃え尽きた。

「おお、かっこいい」

「かっこいいなんて言われるなんて父親冥利に尽きるな~」

 今日一番の笑顔を見せた。



 一応の悪霊退治は成功した。

先程まであった気持ちの悪い雰囲気は一気に消し飛んだ。

静かな波音だけが聞こえる。

「…あ、そうだ」

「うん、行って来な琉嬉ちゃん」

「そうする」

 導はすぐ琉嬉の取ろうとした行動を理解した。

琉嬉が向かったのは箱の中のお地蔵さまの所。


 すぐ目の前なの簡単に辿り着く。

お地蔵さまの様子を見る。

よく見るとお地蔵さまの頭の後ろに何か黒いモヤが見える。

「ふぅん。やっぱりね。そうやってお地蔵さまの力を抑えてたんだな」

 何か得体のしれないものがお地蔵さまに憑りついているようだ。

なぜさっき何も感じなかったのか。

琉嬉ですら気づかなかった力。

「妖怪かこのやろう」

 琉嬉が御札をまた取り出す。

そしてお地蔵さまに手を合わせて拝む仕草をする。

「失礼します」

 思いっきりお地蔵さまの額に御札を貼り付ける。

「ギギッ!」

 箱全体から黒いモヤが出て来た。

夜でも近くの街灯で明るめなのでモヤがあるのが分かる。

「お前はそうやって、あの悪霊の手助けをしてたんだな」

「ギギッ!」

 モヤが集合して、カラスのような黒い大きな鳥の形を作る。

「動物系の妖怪か」

「ギギャーッ!」

 鳥型の妖怪。

姿を現した途端、琉嬉に襲い掛かる。

が、琉嬉の相手にもなる訳もなく、単調な攻撃は当たらない。

何度も何度も攻撃するが、当たりはしない。

傍から見れば凄まじい速さなのだが琉嬉は簡単に避けてるように見える。

「おー、流石琉嬉ちゃん」

「父さんも見てないで手伝ってよー」

「またまたー、頼る程苦戦してないくせに」

「こっちじゃなくってあっち」

 琉嬉が余裕な表情をしたまま、右手人差し指を示した方向。

人魚岩の方向。

ぼやっと人影が見える。


 シャリンッ…。


 昼間に琉嬉が聞いた音が鳴る。

シャリンシャリンっと、何度もしてくる。

その音の持ち主が解かった。

「アレが黒幕でしょ?」

「だろうね」

 黒幕と言い切る。

黒幕の方は鳥型妖怪ではない様子。

「あの人影…」

「男の人…だろうね」

「そうみたいだ…で、その前に」

 鳥型妖怪をどうにかしないといけない。

琉嬉は御札を投げつける。

しかし素早い動きの為か、なかなか命中せず。

「ただ真っ直ぐ飛んで行く能無しの札だと思わないでね」

 放った方の腕をぐいぐい上下左右と動かす仕草。

御札をコントロールする。

追尾していく御札。

「これは避けれないでしょ?」

「ギッ!!」

 バババッと形容し難い音を立てて命中していく。

「ギーッ!」

「はいはい、動かないで、よっと!」

 琉嬉は隙をついて鳥型妖怪の間合いに入る。

「雷府!」

 雷が突如鳥型妖怪に落ちる。

電気を帯びた一撃が鳥型妖怪に落ちた。

「ギギギ……」

 煙を吐きながら鳥型妖怪は海へと落ちていった。


「終わったかい?」

「うん。そっちは?」

「あの霊はどうやら術者の霊のようだね」

「だろうね。恰好見ればなんとなく分かるよ」

 琉嬉達にははっきり見える。

霊の姿が僧侶のような恰好をしているのを。

「ま、あんまり深く聞きたくはないけど…どうせ人魚と関わり合った人間の成れの果ての姿…。

と言ったところでしょ?」

「伝承通りだ」

 導が鞄から出した大きな数珠。

霊具の一種で、かなりの霊力を持つ彼方家に伝わっている特殊な数珠だ。

それを手に持ち構える。

「まったく…父さん本当は強いのになんでお寺から出たのさ」

「…若気の至りかな?」

「気の迷いじゃなくって?」

「はは、親に対して厳しいなあ琉嬉ちゃんは」

 そう言うと導は人魚岩に飛び乗る。


「貴方は、この世の者じゃない。

人を寄せ付けたくないのは解かるけど……人を殺すのは本来は貴方のやるべき事ではない筈です。

何時から「存在」してたのか知らないですけど…。

このままだと悪霊を増やすだけだ」

 数珠を掲げる。

赤く光る。

赤いというより…火にも似た明かり。

(…朱の灯り…魔除けの光)

 琉嬉はその色の意味を知っていた。

「成仏なさい」

 ポウッと淡い光が溢れる。

僧の霊は何かを訴えるかのような表情をしているのを琉嬉ははっきりと目撃した。

きっと人魚の事。

でもそれは聞こえない。

目の前にいる導にはひょっとしたら届いてるのかもしれない。

でも導は何も受け答える事なく、淡々と破邪の術を放っている。

(……本当、父さん、強いじゃんか)

 僧の霊は光となって消えた。




 宿に戻った二人。

疲れ切った顔をした導。

「汗かいちゃったからまたお風呂行ってくる」

「うん、いってらっしゃい」

「父さんは?」

「僕は少し水分を取ってから行くよ」

 手に取ったペットボトルジュースを一気飲みするように勢いよく飲む。

実はかなり体力気力を消耗していたようだ。

「年なんだから無理しないでね」

「むっ。これでもまだ40代前半だし、若いですねって言われるんだよ」

「へいへい。承知してますよーだ」

 早速普通に父親の目の前で着替えだす琉嬉。

「少しは恥じらい持ちなよ琉嬉ちゃん」

「いいじゃん親子なんだし。僕なんて小学生みたいなもんでしょ?」

「あー、うーん…」

 言葉を失う導。

「あのさ」

「ん?」

「あのお坊さんみたいな幽霊って…結局死んでも守ろうとしてたのかな?」

「そう考えるのが妥当かな」

 昼間は全く気配のなかった僧の霊。

突如現れたには訳があったのか不明である。

「守ってたもの…まさか、いなくなった人魚を永遠と?」

「……そう、かもしれないね」

「へぇ…」

「人魚岩の伝承には続きがあるんだ」

「続き?」


 バサッとテーブルに広げる資料。

その中の一つに人魚岩と書かれた一冊のメモ帳があった。

古いもののようでボロボロだ。

ただ古いと言ってもそんな昔の物では無さそうだ。

「…これは」

「町長さんが以前に独自で調べた物みたいだね」

「へー、凄いね」

 パラパラとめくって読んでいく。

その中に、気になる記述を発見した。

「あ」

 思わず声が漏れる。

「昔から住んでいる高齢者の方から聞いた話らしいんだよ。

大昔に、一人のお坊さんがやって来て人魚との接触があったっていう話が」

「地元の人にしか知らないような話か」

「そういう事」

 それなりの納得をする。

「でもさ、そのお坊さんの霊が現れたとかっていう話はないよね」

「おそらく、僕らと同じ霊術に長けた人だったんじゃないかな。

霊術に優れた人が霊となり、自分の姿を現さずに他の霊などを操って悪さをしていた。とか」

「はぁ……なるほどなるほど。

あのシャリンッって音は錫杖の音だったんだ」

「錫杖の音…そんな音がしてたのかい?」

「うん、昼間にね…。気のせいだと思ってたんだけど」

「そっかあ。父さんは気づかなかったなぁ。さすがだね琉嬉ちゃん」

「ま、まぁね…」

 思わず照れてしまう。


 優れた術者の霊はかなり性質が悪い。

意識もしっかりしている。

そう、言うなればかつて神隠し騒動を起こした幽霊部員である志崎唯子のような…存在。

(唯子先輩もえらいこっちゃな人だしな…このお坊さんも意志が強すぎてあんな事になってたのかな)

「よし、納得したから僕はお風呂に行くー」

「僕も行こうかな」

 すると導も立ち上がる。

「混浴?」

「混浴なんてないし、無茶な事を言わないの」

「いや、僕が男風呂に入れば大丈夫だよ。だって子供みたいなもんだし」

 もはや自虐ネタとして扱う自分の幼い容姿。

「さすがにこんな大きい子はだめだよ」

 など、普段の琉嬉とは考えられないような事を言う。

親だからか、かなりの気を許した発言が多い。

「今度こそゆっくり入れるね」

「そーだね」

 そして少し遅めの夜が更けて行った。




「はぁー、私も行けば良かったー」

 今更ながら後悔する來魅。

「もう遅いよ」

「そうね~。次は一緒に行くように頼みましょ?」

「うむ」

 嶺珠、悠飛、來魅と珍しい組み合わせの三人。

そんな組み合わせでの昼食。

「そろそろ帰ってくるんじゃないの?」

「かもしれんの」

 來魅は白飯の上に目玉焼きを乗せて美味しそうに食べている。

簡単な昼食で済まそうとしているようだ。

「しっかしのう…」

「なんか気になる事でも?」

「琉嬉と導って喋り方似てると思わんか?」

「あー、そうだよね」

「琉嬉は女らしくないというか…こう、少し達観したような…」

「ふふ、それね、琉嬉ちゃんが小さい頃から言われてるのよね~」

「今も小さいけどね」

 悠飛の冷静なツッコミ。

「3、4歳頃かしら。お父さんっ子でね、よくいろいろ真似してたのよね」

「へぇー」

「なんだ、悠飛は知らんのか」

「覚えてないから」

 悠飛はその頃は小さすぎて物心もない時。

覚えてる訳がない。

「ふむ、琉嬉は導きの影響が強いんだな」

「でもあの短気さは誰に似たのさ?」

「ふふ、さぁ?」

 にこやかな笑顔で返す嶺珠。

「まさか…」

「いやいや、それはないと思うよ」

 悠飛と來魅は顔を見合わせる。



「ただいまー」

 甲高い声が響く。

琉嬉の声だとすぐ分かる。

「おう、おかえり」

 一番に出迎えたのは來魅。

「うん。これお土産」

「おー、なんだこれは?」

「人魚の木彫りだって。珍しいでしょ?」

 來魅に手渡す木彫り。

小さいがよく出来ている。

その昔位の高い僧侶が作ったのを原品としたものらしい。

今もその血筋の職人が作り繋いでいるから結構な高価な物のようだ。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 導が少し疲れたような顔をして玄関に入ってくる。

「どうした?お疲れか?」

「うん。まあね…昨日張り切り過ぎちゃったから」

「はらきり?」

「ハラキリじゃないよ。お父さんが切腹したら困るって」

 來魅の謎の聞き間違いにまたもやツッコミを入れる悠飛。

「はは、まあなんでもいいさ。でも楽しかったよ」

 荷物をどかっと置く。

一泊だけの旅行にしては多い荷物。

取材用のも混ざってるからだ。

「そう、それは良かったわ」

「たまには父子だけの旅行もいいね」

「仲良いのう」

「お陰様でね」


 なんだかんだで家族仲はかなり良好な様子。

來魅も思わず笑顔になってしまう。

「家族か……」

「來魅ちゃんももう家族の一員だよ」

「そうか?それは嬉しいのう」

 來魅の頭を撫でる導。

嬉しそうな顔をする。

「と言っても誰よりも年長者だけどね。失礼じゃないのかな?」

「いや、問題ないぞ」

 笑顔のまま撫でられて心地よい顔をする來魅。

見た目同様、普段の言動は子供っぽいままである。

「なら良かった」

「うむ」

「…なんかずるい」

 琉嬉が異議を唱える。

「あらあら」

「こっちにも子供がいた」

「はいはい」

 結局琉嬉の頭も撫でるのであった。



「で、人魚には会えたのか」

「人魚以外のやつに会ったけどね…」

 そう。

なんだかんだで人魚には会えず。

船幽霊の一種と、鳥型の妖怪と、術者の僧の霊がいた。

ある種人魚より珍しい組み合わせだが。

「多分だけど、あそこにいた人魚はこの世にいないんだよ」

「この世に?」

「分かんないけどさ。死んでもその場を守る僧侶…何かあったんだろうけど」

「けど?」

「そこは深入りしないでおくよ」

「ふむ」

 人間と妖怪。

何かといろいろあったのだろうと推測はする。

「あとね、誰も何もないのに錫杖の音がしたら、マジで気をつけた方がいいよ。

むしろ正体が分からないうちはその場から逃げた方がいいかも」

「…それが懸命だな」


 結局、人魚の存在証明には繋がらなかった。

ただ出来たのは、悪霊や妖怪から「人魚岩」を救っただけだった。

「でもいい記事が出来るのを期待してるよ」

 父親の仕事ぶりに期待する琉嬉であった。


これはたまたま見た夢が元になってる創作話です。

夢の中で人魚岩が出て来たという変な夢を見たからです。

場所描写とかも大体そのままです。

ただ夢の中の自分が何も解明出来なかったので

琉嬉ちゃんに解明してもらおうとして作ったお話です。


人魚伝説というのは実際に日本だけでもなく

世界中にもあるというから不思議な話ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ