#85 青春、それは体育祭(その裏では…)
体育祭。
それは、日頃の運動能力を学校で披露する日。
運動は出来ない者にとっては、辛い日でもある。
6月30日――。
この日がやって来た。
『ではみなさん、怪我なく頑張りましょう』
今期も生徒会長を請け負ったまどかの言葉。
去年とまったく同じ言葉で締めた。
「…なんだかデジャヴを感じるんだが……」
琉嬉がぽつりとつぶやくように言う。
「そうだねー」
「うんうん」
クラスメイトのみなっちとゆうも頷く。
丁度一年前の同じ日。
体育祭があり、生徒会長まどかの挨拶が終わりで始まる。
同じような内容で全く同じ言葉で終えた。
だから余計にデジャヴ感が強かった。
「クラス対抗…燃えるねぇ」
「みゆちゃん、今年こそやったろうぜ!」
「そうだね!」
「がんばるぞー」
「えいえいおーっ!」
みゆのクラス。
一際盛り上がりが凄い。
みゆを中心にひたすら盛り上がる。
学校一のアイドル的存在であるみゆ。
それに付く下僕かのように男子生徒達が盛り上がっている。
かといって女子達も負けてない。
「みゆちゃんだけいい顔させないよー」
「うちらだって頑張るんだからー」
「どんとこいっ」
という具合だ。
「私らも負けないぞー!でも眠たいぞー!!」
「おーっ!」
みゆに対抗するかのように大声で叫ぶ女子の声。
声の主は一瞬で理解した。
紫音である。
ただ眠たいと叫んだのは丁度前日妙な怪奇事件に巻き込まれてたからである。
相当疲れてる筈なのに無駄に元気を見せている。
(…目立ち過ぎだよ…紫音…)
隣のクラスの莉音は恥ずかしそうにしていた。
お陰で莉音は少し目が覚めた。
とまあ、クラスごとに盛り上がりに差はあれど、琉嬉ら三年生にとってはラストの体育祭である。
他にも行事があるのだが、何かと友人グループ、クラスメイト、生徒会役員、そして学校全体が一丸となって親交を深める為の第一歩。
一年の中でも最初に来る大きなイベントだけあって妙な盛り上がりがある。
「…しかしなあ…前の学校ではこんなに盛況じゃなかったけどなぁ」
「そっかぁ、琉嬉ちゃんって転校生だもんね」
「お前の所はどうだったの?」
「…え?私?」
凛夢に話を振る。
凛夢も琉嬉と同じで転校生だ。
「わ、私の前の学校は…生徒数がここまで多くなかったし…、ここまでの盛り上がりは無かった気がするけど…」
「鞍光高校が異常なだけじゃないの?」
二人の転校生がこう言う。
「へぇー、そうなんだ~」
「あれだ、ノリがいい奴等が他の学校のより、格段に多いと思う」
「…言えてる」
前の学校の生徒達を思い出してみる。
過去の記憶をどう思い出してもここまでの盛り上がりはしてなかったと、そう答えに辿り着くのだが。
「学校の校風というか…地域性とでも言うのか…、不思議だよね」
「俺もそう思うぜ」
久々登場の眞太朗。
「地元民でもそう思うの?」
「俺は鞍光市内でも外れの方だからな。中学はこんなノリは無かったな」
「あ、そーなの。まあ、僕も人の事言えないけどさ」
「琉嬉ちゃんちって遠いんだっけ?」
「僕も隣の地域は別の市なくらいの端っこだね」
琉嬉はギリギリ鞍光市内の端っこに住んでいる。
歩いてでもすぐに市が変わるレベルだ。
「この学校は主に鞍光市の中心から集まってるだろ?中心部の人間達は基本、ノリが良いみたいな話さ」
「へー……」
分かったような分からないような。
なんとも不思議な感じだが、そう言い伝えみたいなのがあるのだから納得をするしかない。
『さて、実況はわたくし、風紀係委員長の夜栄守寧音と放送部員の中澤さんとの二人体制、
そして解説は生徒会役員である城樹叉羅沙さんと、港咲みゆさんで送りします!よろしくお願いします!
あ、ちなみに港咲さんは早々に競技出場なので後でこちらに来ます!』
『えぇ~と、またなんでか解説させられてますー、城樹です。よろしゅう…』
『さて、今年は少し毛色を変えて、リポーターもいます!生徒会次期会長候補でもある生徒会役員の鳴神さん!』
『あ、は、はい…まずは個人競技の100m走からです…それぞれのクラスの代表者に意気込みを聞いてみたいと思います…』
あたふたする柚羽。
なぜ生徒会がこんな事になってるのかは分からない。
「…柚羽がリポーターって…」
「柚羽って会計係じゃなかったけ…?」
「大変だねぇ。生徒会も」
琉嬉達は運営のテントの方を見る。
少し離れた所でやれやれと言った顔をしている龍翔が確認出来る。
変なノリに押し切れられた様子が伝わってくるのを感じた。
「先に二年生からとか、順番おかしくない?フツー、学年ごとじゃないの?」
護が異議を唱える。
「あたしら三年生が次で、トリが一年生とか…変だよね?」
「んー、まーなぁ。決まった型にとらわれたくないんだろ」
学年ごとの順番もバラバラ。
最初から100m走…などと、妙な順番。
クラス対抗リレーも最後ではない。
「今年も綱引きが最後らしーよ」
「てか、護、起きてたか」
「寝てないよ!」
『さて、叉羅沙さん、みゆさん、今年の見所はなんでしょう?』
『み、見所って言うてもなあ…やっぱ最後の綱引きかえ?』
『はぁはぁ…急いでたので…ええと、綱引きもそうですが…、ここは宮森まどか生徒会長率いる3年4組と、
凶暴な天使ふかしぎ部部長彼方琉嬉先輩率いる3年5組の活躍でしょうかね~?
あ、勿論生徒会広報部長であるわたくし、港咲みゆ率いる2年1組もよろしく~』
ちゃっかり生徒会広報という力を利用して、自分のクラスもPRするみゆ。
変にざわつく琉嬉のクラス。
「…なんか注目されてるっぽいね…、特に琉嬉ちゃん」
「がんばれー、るきー」
棒な言い方で凛夢も適当に応援する。
「いらん事を言うなバカみゆが…」
余計なお世話に呆れ返る。
「確かに、去年破竹の勢いあって勝ち進んだからな」
眞太朗はこう切り返す。
なんだかんだで去年は楽しかったようで、まんざらでもないようだ。
琉嬉も重たい腰を上げるように立ち上がり、
「……どうせなら期待に応えようとしますか」
軽く両手を上げて、柔軟体操する。
ちょっとだけ、やる気が出て来た様子。
「あらあら、えらい盛り上がりねぇ」
屋上から眺める人物…。
黒い、長い髪をなびかせている。
唯子だ。
屋上フェンスに座り込んで下を見ている。
「やおー、お主は混ざらんのか?」
「あらやだ、私幽霊なのよ?参加出来る訳ないじゃない…って、急に現れないでよ、琉嬉ちゃんの所のおちびちゃん」
「ふはは、幽霊をも驚かす私の忍術、どうだ?」
同じように屋上にいつの間にやら居たのは來魅だった。
満面の笑み。
「忍術…?まあいいわ。貴方も観に来たの?」
「なぁに、琉嬉達の奮闘ぶりをあざ笑いにな」
「ひねくれた物言いねぇ」
唯子の隣にすとんっとフェンス上に座る來魅。
少々目立つ気もするが、誰もこちらを気にする者なんぞいない、などと思いながらグラウンドの状況を眺める。
「しかしまあ、幽霊と妖怪が見守る運動の大会なんぞ、他にはないだろうな」
「そうかもしれないわね。フフフ」
足をぷらぷらさせながら言う。
「でもここの学校面白いわよねー。昔よりにぎやかそうで」
「ほーう」
「活気が昔に比べてある気がするのよね~」
20年前の生徒だった唯子。
その当時の雰囲気を今の雰囲気を比べる。
「幽霊のくせに気楽よのう…お主」
「あら、それはお互い様じゃない?最強ランクの妖怪様?」
すると、ニヤッと笑顔になる來魅だった。
順調に競技は進んでいく。
当然の如く、ふかしぎ部の面々は1位を取って行く。
だがここで、今までにはなかったルールが出て来た。
『ここで、これまでタイム数上位を獲得した生徒を集め、真の100m走者王者を決める事になりました!
なので私も出場します!ここでバトンタッチ!』
慌ただしく寧音が実況の交代を行う。
「…100m走者王者…?なにそれ?」
「校内で誰が一番短距離走が早いかを決めるらしーよ」
てきとーに答える琉嬉。
「そ、そうなの…?」
困惑気味の凛夢。
各学年の上位から数名ずつ、呼び出される。
そして決勝ともいえる最後の100m走を行うようだ。
少々面倒ながらもこれまでないルールにより一層の盛り上がるを見せる。
「しかしまあ、手際がいいわね」
「寧音が指示、運営してるからね……。ああいう手際の良さはさすがだよ」
最上級生になった寧音。
以前はどこか遠慮がちだったらしいが、今回三年生という最上級生になったという理由で物凄く厳しく手際良くなったという。
と言っても、サボリぐせは変わらず、気付いたらいない…という事もざららしい。
「誰が考えたのこの企画?」
「ほら、今年生徒会に入ったお前さんの遠縁の大金持ちのお嬢様」
誰にもで分かるような、遠回しな言い方。
「……あー。みゆのやつね」
納得する凛夢。
「生徒会広報ってそんな仕事するの?」
疑問視する琉嬉。
「むしろそんな権限があるとは思えないんだけど?」
「企画力あるし、妙なヤツだな全く…」
結局琉嬉はタイムが届いてないという理由で落選。
どっちにしろ、本気で走る訳にもいかない。
力をある程度抜いてたのだ。
でもふかしぎ部員達の何人かは100m決勝に出るようだ。
寧音、凛夢、紫音、みゆ、叉羅沙、護や悠飛ら…と。
その他、陸上部などの運動系の部活の生徒の顔もちらほら。
男子女子は別れての競技となる。
残念ながだふかしぎ部男子は落選の模様。
龍翔もおそらく、琉嬉と同じで手を抜いたようだ。
無論、隆治と御琴はどんくさいので普通に予選とも言える最初の競技で負けてた。
「そもそもスピードはさすがに僕はあの連中らには敵わないけどな」
珍しく自分の力量の限界を認める琉嬉。
「そうなのか?」
きょとん顔する眞太朗。
「僕は体育会系じゃないんでね」
ぽふっとその場に座り込む。
「…嘘つけ」
「妙な展開やなあ…」
スタートラインで周りを見回す叉羅沙。
見た事のある顔だらけ。
総勢10名近く。
好タイム上位から選ばれた者達。
「やあやあ、叉羅沙さん」
「がんばりましょーっ」
「お、お手柔らかに…」
バンッとスタートの音が鳴り響く。
思った通り、凄まじい勢いで走り出す。
先にみゆが飛び出した。
が、すぐに追いつかれる。
「何やってんだあいつ…?」
まず先に凛夢に簡単に抜き去られる。
「お先~」
「んじゃ~」
「あああ、待ってくださぁい~」
100mという20秒もかからない僅かな一瞬の勝負。
その短い瞬間の中に複雑なドラマがある……。
と思われたが、すぐに決着がついた。
『ゴ~ル!女子の部の一着は……これは当然か?!三年の城樹叉羅沙さんでした!
さすがは、学校一女子の高身長でスポーツ抜群のふかしぎ京美人は伊達じゃありませんでした!』
「…ふかしぎ京美人ってなんや!」
思わず大声で叫んでしまう叉羅沙。
実況してる放送部員の生徒の発言。
ジト目で近くの寧音を見る。
「あ、あははは、妙を得ている言い方じゃないですか、叉羅沙さん!」
「……あんたのせいか~。はぁ」
呆れてため息を大きくつく。
「ふかしぎ京美人って…面白い言い方やなあ」
クスクス笑ってるのは同じく関西弁を使う香那巳。
「あの、前崎さんは京都の人じゃないの?」
「はぇ?!」
急に後ろから声がした。
「な、なんだぁ、麗未亞ちゃんじゃないの~。どしたん?あ、ちなみにウチは京都じゃないですよ?」
「そうなんだ…同じ関西の言葉ぽかったから……」
「う、うん?」
珍しく香那巳が少し動揺する。
(ウチ、この子苦手なんよな、ほんわかしてて…)
「でも、先輩早かったよね?」
「そ、そやな」
「うん」
仲の良い先輩が活躍してたのを見て嬉しかったようだ。
一応同じ部活同士。
ついつい声をかけてしまったようだ。
「あれ?珍しい二人の組み合わせだねー?」
戻って来た紫音と悠飛。
珍しい組み合わせにちょっと驚く。
「紫音ちゃん」
「おかえりー、惜しかったねー?」
「一応さ、霊力なしでだったんだけど…割と本気だったんだけどねー」
「叉羅沙先輩、やっぱ早かった」
能力なしでの素での力はやはり、先輩に分があったようだ。
「みゆ先輩の失速には走りながらも笑っちゃいそうだったけどね~」
そう話す紫音。
「勢いだけだった説?」
ひょっこりと隆治もふかしぎ部一年生軍団に混ざり込む。
「隆治君は全然だめだったよねー?」
「う、うるさい!僕は運動タイプじゃないんだ…!」
とはいえ、割かし本気は出してたようだ。
「でも力の使い方とはか教わってるんでしょ?」
「…まぁね……。でも元々素人なんだから仕方ないだろ」
鍛練を始めてからまだ半年も経っていない。
まだまだ力を使いこなせていない。
「力を上手く使えば、普段出せない力を出せるようになるから…」
「その後の反動が辛いけどな。筋肉痛が凄くて」
悠飛が自分の腕を擦りながら言う。
経験者ならではの発言だ。
「うんうん。でもそれは私らもおんなじだから。鍛えたら叉羅沙先輩のようになるって!」
ばんばんと背中を叩く紫音。
「痛いなぁ…。肝に銘じておくよ」
「ほんま、仲良いな君ら」
「え?なんで?普通じゃない?」
不思議がる紫音。
「…まあ、ええけどな……どうもあんた達、面白い人らね」
さすがに香那巳もちょっと引き気味だった。
『ええと、ただいま実況はわたくし、夜栄守に代わりました。
さてさて、女子の部は三年の城樹さんが一着だった訳ですが…理由はなんでしょう?』
『…それわざわざ本人に聞くんかい…?ふー…』
叉羅沙も戻ってきていた。
ちょっと息切れを起こしている。
『うーん、やっぱり鞍光高校女子では一番の長身、190cmもある身長だと、やはり有利なのでしょうね~』
『あ、あほっ、数字は出さんくてもええっ!』
『え?だめでした?でも誰がどう見ても大きいと感じてると思うんですけど?』
ついばらしてしまう寧音。
恐るべきは、叉羅沙の身長が190cmに到達してたということ。
一年足らずで数cm伸びてしまったようだ。
「…なんで実況解説で漫才みたいなやり取りになってるんだ…?」
「あんだけあると逆に羨ましくないよね~」
護も戻って来た。
「190cmなんて、男子でもそうそういないだろ…」
「だよねー?」
きゃっきゃと騒ぎ出す護や琉嬉のクラスメイトの女子達。
「お前さんは羨ましいんじゃないの?」
「うるさいだまれなぐるぞ」
一辺倒な音の言い方の琉嬉。
鋭い視線に危険な感じを察知した眞太朗はちょっとガード体勢になる。
「とはいえ、霊力ブーストしなくても通常の人間よりは遥かに凌駕しちゃうだろうけどね~。うまくセーブしたんだけどねー」
必死な言い訳してるみゆ。
それを聞いた御琴は複雑な顔をしてうんうんと頷いてる。
「悔しそうですね、みゆさん」
「ま、小細工するタイプだからな港咲は。自身だけの実力だけで負けたとなるとまた悔しいだろうけど。さ、次の準備だ」
「あ、はい」
その必死な言い訳を聞いて面白がる二人。
龍翔と柚羽。
「あ、次の人にリポートしないと…」
「おう、いってらっしゃい。しっかし、放送部に任せればいいのに」
「放送部、人手不足らしいんですよ…」
半ば悲鳴のような弱々しい声で言う御琴。
辛そうな表情をしている。
「放送部やった方がいいんじゃねえか?寧音のやつ…なんで風紀係なんてやってんだろうな」
首を傾げる龍翔。
次の準備にかかるため、足早に運営本部から移動する。
生徒会は忙しそうである。
「ふむ…楽しそうだな。んむむ」
「あら、そーう?」
どこに持ってたのか、來魅は饅頭を食べながら状況を眺めている。
「ああやって競い合う…いい事ではないか」
「妖怪の世界は競い合うような事はないのかしら?」
「さぁな。集落作ってる所なら似たようなのはしてるんではないか?」
元々、個人行動していた來魅にとっては分からない話だ。
「そういうお主こそどうなんだ?」
「私はそつなくこなしてたわよ。でもどうしても目立つのよね~」
ふわっとした黒くて綺麗な長い髪。
誰が見ても美人系統の顔つきだ。
「ほほぅ~……」
まじまじと唯子の顔をみつめる來魅。
「…ちょっと、何?そんなにジロジロ見て…?」
「いや、お主、なかなかの美人だのう」
「はあ?」
キョトンとする。
唐突に言われるものだから驚く。
ましてや同性から。
しかも妖怪。
「なんだ?おかしなコト言ったか?」
「いいえ~、別にぃ。ただ妖怪さんからそんな事言われるなんて思わなったから」
「ほむむ。そっか。でも妖怪の目からでも美人だと思うぞ」
「やだあ、死人相手に褒めたって何も出ないわよぉー?」
「う、うむ?(そういえば幽霊だったなこやつ…はっきりし過ぎて幽霊だというのを忘れる)」
しっかりした受け答え。
ついつい幽霊だというのを忘れてしまう。
それだけ存在がしっかりしている幽霊。
というのも変だが。
次々と競技が終わって行く。
それなりにスムーズに進んでる様子だ。
パタパタ走り回る風紀腕章を付けた生徒達。
「大変そうねえ」
「まるで他人事のように」
「まー、一応はここの生徒だけど…在籍中に死んだからね?」
「お主は死んでるというのに楽天家よの」
妖怪の來魅ですらもちょっと不思議になってくる。
「ん~。彼女らが落ち着くまでは成仏しない事にしてるの」
「彼女ら?琉嬉達か」
「そうね」
「ふむ…落ち着く?のう…」
落ち着く。
この言葉の意味が來魅にはいまいち理解し難い言い回し。
ようするに、学校から卒業する事。
そのような意味合いなのだろうが。
(ようわからんわ)
深く考えても仕方がない。
そう思った來魅はグラウンドの状況に集中しようとする。
「それにしてもこんな時に限って厄介なの来るのね」
「ん?」
唯子が立ち上がり、グラウンドから目を離す。
「どうした?」
「ん~、あれ」
ビッと人差し指で示す方向。
旧校舎側の森の奥地方面だ。
「はて?」
來魅には何も感じられない。
風もそんなに強くなく、爽やかな空気が流れている。
特別変な霊気や妖気は感知出来ない。
だが…。
「「何か」来るわ」
唯子は確信したかのように、言い切る。
さっきまでの表情とは変えて。
「ほむ?何かとな?」
饅頭を咥えながら喋る。
まだ食べていた。
「残念ながら私は学校の敷地から出られないの。一応地縛霊だから」
「じばくれい…あれか?自分で爆発する」
「それは自爆。漢字が違うわ。っていうかなんで妖怪がそんなボケをするの?」
「いやぁ、えすえふ?とかいうあにめーしょんとかを見てるとなあ…そういうの覚えるものだ」
「…今の妖怪って進んでるのねえ」
呆れるどころか、むしろ関心しきってしまう。
「のう、だとしても琉嬉なら感じてるんではないか?」
「かもしれないけど、私が気になるのよ」
至って真剣だ。
「…で、どうしろと?」
「部室に寄ってくれないかしら?」
「しかしまあ…忍び込むとか久々だの」
ストッと簡単に侵入した。
唯子が窓の鍵を開けたのだ。
「なんでキツネの姿なのかしら?」
「人型だと見られたら面倒だしな。万が一見つかっても動物という事で見逃してくれる」
「案外ずる賢いのね」
「ほれ、部室とやらに案内するのだ」
「ふふっ、こっちよ」
スゥッと速やかに移動していく唯子。
「さすがは幽霊…無駄な動きがないな」
トテトテッと來魅も負けずにキツネ姿で走って行く。
広い校舎の中を誰にも見つからず、部室前に着く。
「ここよ。ちょっと待ってね、鍵開けるから」
建物をすり抜けていく。
幽霊ならではとも言える芸当。
「あれれ?なんでこんな所にキツネさんが…」
「!」
突然男性の声が聞こえた。
(むっ!人間か!)
來魅が思わず身構える。
「…やれやれ。來魅さんですかね?どうしたんです?わざわざその姿で」
「……お主、参堂家の…」
「耿助です」
現れたのはふかしぎ部顧問の耿助。
「えー?どうしたの?誰かいるの?」
結局唯子が戸を開ける前に耿助が持参した鍵で開けた。
「あら、顧問の先生じゃないの」
「これはこれはお久し振りです」
ぺこりと頭を軽く下げて挨拶。
「どうしたの?」
「いえ、体育祭と聞いたので、やって来たのですが…貴方達のお姿を見ましてね」
「それはそうとしても、驚かすように静かに現れるな。この私も気づかなかったぞ」
「いやーははは。それはすみません」
「さすがは参堂の者だの」
頷きながら人型に戻る來魅。
「幽霊の私が存在気づかなかった妖怪をも気づかせなかった純粋な人間の耿助君…やるわね」
「いえいえ、それほどでも」
相変わらずにこやか笑顔。
「耿助を君付けで呼ぶって事は、唯子の方が年上なのか?」
「まぁそうね。生きてたら37歳くらいになるのかしら…アラフォーね!やだ~」
「そ、そうなのか…」
無駄にキャピキャピした言い方する。
20年前に死んで、そのまま幽霊となっている。
実年齢に換算すると37歳程度になるのだ。
「でも、唯子さんは永遠の17歳ですもんね?」
「そうそう、永遠の17歳!」
そして謎にVサイン。
ちょっと古臭い感じが逆に面白い。
「おおぅ…それよかなんで部室とやらに呼んだのだ?」
話を戻す。
「ああ、そうそう。私はそこの特別製のぬいぐるみに憑依したらどこでも行けるのよ」
唯子が引っ張り出したぬいぐるみ。
和服姿の人型だがアニメキャラのようにデフォルメされたぬいぐるみ。
「へー…」
「それっ」
ぬいぐるみに入り込む唯子。
「あ、ちなみそのままじゃ動けないので連れてって欲しいの」
「そういう魂胆か。なるほどのう」
「來魅さんが居て丁度良かったです。大の大人の男がぬいぐるみを持ってたら危ない人ですもんね。
ましてや和風の女の子の姿したぬいぐるみ…怖いじゃないですか」
「そうね~うふふ」
唯子が言うには自縛かされた霊は一定の場所から動けない。
仮に出たとしてもいつの間にか元の場所に戻っていると言う。
現代霊術でも解明されてない。
琉嬉らが持つ真霊気の力でも一時的には解除されるらしいが、しばらくすると元に戻る。
「世の中不思議な事ばっかりだのう」
「不思議代表が何を言ってるのよ~」
「お互い様だろう」
幽霊と妖怪の会話。
それを後ろから聞いている耿助。
(何かがゲシュタルト崩壊しそうですね)
「それよかうかうかしてて良いのか?」
「そうね。それじゃ向かって頂戴」
「妖怪使いが荒いのう」
唯子ぬいぐるみを手に取ると、窓から飛び降りる來魅。
軽やかすぎてつい見惚れてしまうほど。
「あらら。仕方ありませんねえ…気を付けてくださいねー」
取り敢えず窓から声をかけるだけ。
「うむ。もし何かあったらあとは頼んだ参堂の者よ」
「了解しましたよ」
こうして幽霊と妖怪のコンビが行動を開始した。
「のう、どこら辺だ?」
ぬいぐるみを片手に持ったまま山林を駆け巡る。
異様な光景にも見える。
「ここら辺ね」
「私には何も感じないがな」
「貴方、本当に100年前の最強の妖怪なの?」
「残念。今の私はそこらの低級の者と大した変わらん」
右手首に付いた白黒の数珠を見せつける。
琉嬉と御揃いの霊力封じの霊具だ。
「あら、そうなの」
「そうだ」
ピタッと足を止める。
「ふむ、何かいるな」
「でしょう?」
空気が変わる。
重苦しい…というより、冷たく淀んだ空気のような。
「妖怪ではない…か」
「大当たりね」
目の前には大きな大きな、見たこともないような霊体。
悪霊。
一言で言うならそれ。
いろんな顔が見える。
合成したような、気持ち悪い。
人間やら動物やら。
「…これは荷が重たいのう」
「あらあ。そうかしら?」
「私の術は霊体には相性が悪くての。銀杏のやつとは正反対だ」
「銀杏?」
「私の腐れ縁の狸だ」
「狸さんねえ」
クスッと笑う。
「私が闇とすればあやつは光というか…霊祓いはやつの得意技でもあるからの」
「フフッ、でもおしゃべりしてる暇はないわよ?」
「だな」
「………?」
「どうしたの?琉嬉ちゃん?」
「んー別に」
ふと、琉嬉が歩みを止める。
次の競技は個人競技。
各生徒は必ず何かしらの競技に出なければならない。
走り幅跳び、400m走、砲丸投げ…等々数種類。
琉嬉は幅跳びに出る予定だ。
が、何かに気づいた。
(……いや、学校は結界かけられてるから大丈夫だと思うけどな…)
運営のテントの方をチラッと見る。
生徒会の様子は変わりなさそうに見える。
(気のせい…か。でも…)
次は校舎の屋上方面を見る。
誰の姿もない。
(あいつら、いないな)
唯子と來魅の存在には気付いてた様子。
かと言ってそちらに集中し過ぎるのも面倒。
結局琉嬉はあまり気にする事もなく、個人参加競技に専念するのだった。
「やれやれ…これはなかなかの大物だの」
「そうね。Aランクくらい?」
「らんくなんぞわからん」
悪霊は異形な姿をしている。
言うならば…混沌。
様々な形が合わさったような、強烈な姿。
人間や動物霊が集まった集合体のようだ。
「今の言葉で言えばキモイ、だな」
迫りくる攻撃をかわしていく來魅。
「あらやだ、その言葉は20年以上前からはあったわよ」
「ほほう、そうなのか」
余裕のある会話。
のように見えるが、実際は一撃一撃が強力だ。
地面がえぐり取られている。
霊にしては物理攻撃が強すぎる。
「なんなんだこやつは」
「悪霊系の中でも…最上級。精霊やら何やら取り込んでるみたいね」
あらゆる霊物質を取り込んでしまってる。
それが都合よくこの日に姿を現した。
「なんだってこんな所に?」
「あら、昔からここは強力な霊地場よ。とびっきりの…世界でも有数の」
「ふむ、だから私もここに惹かれて来たのかの」
100年前の事をちょっとだけ思い出す。
「学校の辺りを中心に集まってくるのよ。
でも今は大掛かりな結界をかけられちゃったからずっと彷徨ってるうちにこんなのになっちゃたのね」
「相変わらず罪な土地よの」
「本当ね。人も妖怪も集まる。不可思議な場所よ」
來魅は無言でこくりと首を縦に頷く。
ふと、唯子は疑問をふたつだけ、浮かべる。
なぜこのような悪霊が今のこのタイミングに現れたのかと。
なぜ、ここまで大きくなっているのかと。
「悔しいわぁ。私も霊体の見ながら今まで気づかなかったなんて」
「何をブツブツ言ってる?取り敢えずこやつをぶっ飛ばそうか」
「あら。ごめんなさい。全力出してくれるのかしら?」
「五分くらいなら力を解放出来る。琉嬉の許しがあればな」
「琉嬉ちゃんの?」
來魅は静かに目を閉じた。
(何をする気だか知らないけど……あいつが呼んでる)
丁度競技前の琉嬉。
だが來魅を感じ取る。
(…分かってる)
念を飛ばす。
するとぶわっと大きな霊力が膨れ上がるのが解かった。
「わおっ」
「さぁ、いくぞ。悪霊よ」
「ええと…午後の競技大丈夫ですかねえ」
心配そうな顔をしているのはまどか。
「会長、どうします?なんなら私達自ら向かいますけど?」
寧音は強気な表情。
風紀係ならではの顔つきだ。
「うーん…大丈夫だと思うんですけど~…」
みゆも少し困惑した顔だ。
「あ、やっぱりお前らも気づいたか」
「琉嬉さん」
「ドデカイ霊気の力を感じた。何かと來魅がぶつかってる」
琉嬉だけでない。
結局ふかしぎ部員達は気づいた模様。
「來魅がさっき来てた。そっちに向かったんだろうね」
「そうなんですか?!」
大声でつい叫ぶように言うみゆ。
「声でかいよみゆちゃん…」
「あ、ごめん…。でも」
さっきまでの元気そうな顔が一転、心配そうな顔になる。
「來魅の力を一時的に開放した。大丈夫だよ」
「解放…ですか」
「大丈夫。んで、おそらくこう言ってるよ」
「あやつらの青春の場を壊したくない。ってな」
「あら、何その言葉」
「お主もそう思ってるんじゃないか?」
「ふふっ。やだ、何その人間味溢れる言葉」
「人間に囲まれて生活してるからな」
全力モードの來魅。
ほとばしる霊気エネルギー。
凄まじい威力の黒い霊撃を放っていく。
しかし悪霊にぶつけど、大したダメージはない。
「本当に相性悪いのね」
「だから言っただろう?霊は苦手なんだ」
「なるほど~」
自分の目で確認してやっとこさ納得いく。
ここまで相性云々の特化したのは見た事ない。
來魅の唯一の弱点とも言えるのは霊体との相性の悪さだ。
「それに全力でやるにもいくまい」
「そうね。周辺に被害が及ぶわね」
來魅くらいの力を持つ者なら、辺りを無かったかのようにするくらい出来る。
森の中とはいえ、校舎に近い。
「お主何か考えがあるのだろう?勿体ぶるな」
「分かってた?」
ぬいぐるみの中にいるのだろう。
表情とかは読み取れないが、どこかしら余裕があるような気がしてならない。
「当たり前だろう。私をなんだと思ってる。そろそろ力が切れる頃だ」
「だろうと思ったわ。ちょっとだけ全力で時間稼げないかしら?」
「…あと1分も持たんなあ」
「十分よっ」
ぬいぐるみが発光し始めた。
発光するぬいぐるみという妙な光景。
來魅は思わず「うおっ」と声を漏らす。
「頼むわね~」
「まあ、任せろ」
迫りくる攻撃を避けていく。
軽やかに、優雅に。
相手の攻撃は一切受けてない。
來魅の強さはその軽やかな動きにもある。
その動きについて行けてた琉嬉や、寧音が異常なだけである。
「何をする気か分からんが…任せておけ」
來魅の両腕が青白く輝く。
両腕に集まった強烈な妖力。
よく見ると火のように揺らめいている。
バチバチッと火花を散らし音を立てる。
「出ろ…九尾!!」
ボンッと破裂音と共に、強大な火柱が地面から巻き上がる。
全部で九つ。
九尾と名をうっただけの数だ。
ひとつひとつが凄まじい霊力を放っている。
悪霊は動きを止めた。
少しでも触れると自身が焼き払われるからだ。
「はっはっはっは!どうだ、九尾の狐から受け継いだ闇の炎の力は!」
楽しそうに笑う。
「九尾の狐って本当にいたのね~」
「ああ、いたぞ。今は知らんが」
悪霊は身動きが取れ無いようだ。
九つ出ている炎は悪霊を取り囲むようにしている。
「さっすが大妖怪ね。私も大悪霊として名を残したいわぁ」
「もう残してるだろうが」
來魅の右腕の数珠が元に戻る。
力が再び封印状態になったようだ。
「後は頼んだ」
「わかったわ」
ぬいぐるみから姿を現す唯子。
見た感じは何も変わらないようだ、が。
禍々しい霊気の波動が溢れている。
「…むぅ」
來魅の体に寒気が走った。
「霊には霊に対抗しましょ?」
ブォッと風圧が起こる。
「さぁて、悪霊さん。貴方はここに来るべきじゃあ、なかったわ。
ここは天下の鞍光。
鞍光に来る者は浄化される運命…かもしれないわね?」
唯子は相手の悪霊に向かっていく。
右腕をそのまま突っ込んだ。
「あっはっはっはっは!霊術名家の志崎家の力を舐めないで欲しいわ!」
唯子の右腕が奇妙な形に変わっていく。
紫色や黒色や、紺色のような、形容し難い色合いを見せる。
「おいおい…そんなのありなのか」
來魅も思わず絶句する。
それくらい危険な状況を見せる。
「…吸収してるのか?」
そう。
唯子は相手の霊力の吸い取っている。
みるみるうちに相手側の悪霊の力が弱まっているのが分かる。
形も崩れていく。
「……!!」
悪霊は姿を変えていく。
「予想外のパワーねぇ。でもそれもこれで終わり。
志崎家が生み出した最低の秘術と幽霊としての私の力を合わせたこの術…」
「おおっ」
來魅は思わず目を大きく見開く。
「吸魂術……さあ、消えなさい!」
冷たい空気が一気に熱い風となり、周辺を駆け抜けて行く。
生身の体である來魅の肌に突き刺さるような、熱い痛み。
まるで火の粉を浴びてるような。
そんな感覚。
「むむ…これは危険だ」
すかさず來魅はその場から身を避けた。
気づくと悪霊の姿は塵ひとつ残っていなかった。
事態を終えた唯子の姿は特別何も変わってないように見受けられる。
「……終わったのかー?」
くるっと向きを変える。
爽やかな笑顔の唯子。
「お腹いっぱいよ~」
「やれやれ。とんでもないお化けだの。お主」
「だからそれはお互い様」
「ふむ……。こんなお化けによう勝てたの、琉嬉は」
『決勝戦は3年6組の勝利!優勝でーす!!』
ワーワーと盛り上がるグラウンド。
まどかのクラスが綱引き大会を勝ち終えた。
「あーあー。結局負けちゃった」
「強かったわね」
「まーね」
琉嬉のクラスは決勝まで残った…が、またも敗退した。
「準優勝でもいいんじゃね?」
「眞太朗…うーん。まあ去年よりは勝ち進んだからいっか」
「フフ、ありがとうございました」
まどかが琉嬉の前にやって来た。
「ちぇー。なんかそういうのはまどかが持っていくよなー。そういう星の下か」
「さあ、それはどうですかね?」
「なんにせよ、何事もなく終わって良かったよ」
「そうですね~」
二人は校舎の屋上側を見る。
手を振っているのは唯子の姿だ。
当然、凛夢も気づている。
ただ來魅の姿は見えない。
下からだと見えない角度にもいるのだろうか。
來魅という力の気配は感じ取っている。
「何か「居る」のか?」
不思議に思った眞太朗が琉嬉に聞く。
「ん?いーや、別に」
「何々?お化けでもいたの?」
「琉嬉ちゃん見えるんでしょー?」
「いや、なんでもないよ」
「うっそだー」
みなっちらも琉嬉を囲むように寄ってくる。
でも当然、他の者達には見えない。
「あらあら、人気ですね~」
「おかげさまでね」
「それじゃ、閉会式の準備してきますね」
「おー。終わったらみんな部室集合ね」
「ですね」
屋上。
ガチャリと扉が開く。
「お疲れ様です。お二人共」
耿助が。
ちゃっかり鍵を借りて入って来た。
「おう。耿助か。そろそろ帰るよ」
「私も部室に戻ろうかしら。耿助君は?」
「僕も行きますよ」
顧問として、最後は皆に顔を見せる。
「そっか。ところでおちびちゃん」
「ん?」
「あの術を直接ぶつけたら倒せてたんじゃない?」
「それはどうかな。お主みたいに力を吸収されるかもしれんし」
「一応そういうの警戒してたのね」
「まーな。お主も大概だがな。おっと、日が暮れ始めたのう」
「あら、そうね」
日が長いとはいえ、少し赤い空になってきていた。
「嶺珠に頼まれた買い物しないといけんから、帰るぞ。それじゃまたのう」
來魅は校舎の裏側方面に行き、ひょいっと飛び降りて行った。
あっという間に姿が見えなくなる。
「あらあ、行っちゃったわね。買い物って何かしらね?」
「さぁ…なんでしょうかね?それじゃ僕らも戻りましょうか」
「ええ」
「ねえ、大丈夫?三人とも?」
部室でぐったりとしてる双子姉妹と隆治。
心配そうに護がほっぺをつつきながら反応を試す。
「疲れました~」
「同じく…」
「ああ、こいつら昨日なんか事件に巻き込まれてたみたいなんだよ。
それを無理して今日参加して」
琉嬉が代わりに説明する。
「へぇ~…そうなんだ。ただでさえ家遠くて通学大変そうなのにね」
「はい…」
「ま、そこのお疲れモードのやつは置いといて、これから体育祭打ち上げする。
駅近くの焼肉屋さんで食べ放題。予約はしてあるから生徒会の後始末が終わったら合流していきまーす」
淡々と説明する。
「ええと、焼肉屋さんで解散となりますので、忘れ物などないようにしますね」
続いて耿助も説明。
「うほ、焼肉!」
目を輝かせ、復活し出す紫音。
「あの~、うちも参加でおっけーですかあ?」
「一応部員だろ。むしろ強制だ」
ガシッと琉嬉に首元を掴まれる香那巳。
(うぎ…ほんま、小さいくせに力結構強いんだから…)
「お前もだぞー?凛夢?」
「はいはい…分かってるわよ」
やんややんや。
集まればにぎやか。
「唯子先輩はどうする?」
「んー?私はお腹いっぱいなんだけどね」
「…幽霊でもお腹減るの?」
率直な疑問。
生きてるからこその質問だ。
「減る事はないけど食べたいなぁって事は思うわね」
「そっか。で、一緒に行く?それだとそのままぬいぐるみのまま誰かのうちにお泊りの可能性あるけど」
「別に気を遣わなくてもいいのに」
「そうー?」
じーっといつものクールな目つきでみつめる。
「はいはい、唯子先輩も行きましょっ。琉嬉ちゃんがついて来てほしそうな顔してるから」
護が机の上にぬいぐるみを用意する。
「ふふ、ちゃんと言えばいいのに」
「う、うるさいなっ。じゃあ行くよ」
「んふふ。ありがとね」
唯子は再びぬいぐるみに憑依した。
焼肉屋。
結構な人数だ。
琉嬉はまどかと隣同士の席に座っていた。
「いやはや、お疲れ様でした。唯子さんも」
「体育祭は楽しめた?」
「おかげさまで」
「はいはい!頑張りましたよ!私も!」
みゆが横から詰め寄って入ってくる。
お酒でもないのに酔っぱらったかのように。
「私だって実況頑張りました!」
「寧音は頑張る所違うだろ…」
冷淡なツッコミを入れる琉嬉。
「違う意味で疲れました…」
ぐったりしている柚羽。
慣れない仕事…というかなぜかリポーターをしていた。
「まぁまぁ、ええんやない?次期会長なんやから、今から大勢の人前に出るのに慣れといた方がええんとちゃう?」
「…それはある意味そうかもしれませんけど…」
元よりおとなしい方のタイプなので、人前には慣れてないのだ。
琉嬉とまどかの間にはぬいぐるみがぽんっと置かれている。
そのぬいぐるみから唯子がうっすらと姿を出していた。
「楽しそうね」
「そうだね。ところで、唯子先輩」
「何かしら?」
焼肉を焼きながら会話を続ける。
「でっかい悪性の霊気を感じたんだけど、來魅と一緒に倒してくれたの?」
「あら、気づいてたの?」
「ふかしぎ部の皆気づいてたよ。今年もまたなんかあるのかって。
でもたまたま居た來魅が気づいて倒したのかと思ったけど、唯子先輩も途中から姿なかったし」
焼けた肉を口に入れる。
少し熱そうにはふはふ言っている。
「うーん、そうね。あのおちびちゃんと遊んであげたのよ」
「遊んだって…恐ろしいですね」
まどかが苦笑する。
なんせ、唯子にえらい目に遭わせられた本人だからだ。
「ごめんねえ。あの時は悪霊そのものだったから。
あ、でも私も最強の悪霊目指すから」
「ぷっ、何それ…やめてよシャレにならないから」
つい吹きだしてしまう。
「本当ですね」
「死んでも死にきれない…って事かしらね」
「なんだそれ~」
なんでか満足気の顔をしている唯子。
「よく分かんないけど…いい事でもあったんでしょ?ま…しばらくは成仏しないで頼むよ、唯子先輩」
「ふふ、これからも改めてよろしくね」
幽霊がいる部活。
その学校。
ふかしぎな学校生活はまだまだ続きそうだった。




