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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~部員青春編~
84/92

#84 彼方双子姉妹ズと小さな魔城 後編

『いーから、冷静に話せ』

「う、うん……だから…」


 莉音は琉嬉に連絡を取っていた。

結局親に知られるより、従姉妹でもある近い年代で最も信頼のある琉嬉に。

『……なるほどなあ。家がまるごとなくなった…か』

「紫音ごとだよ?!どうすれば…!」

『…落ち着け。もう高校生だろ?泣くにはまだ早いぞ』

「う、うん…」

 電話の向こうの琉嬉は至って冷静だ。

『なあ、真霊気を使うしかないんじゃないか?』

「え?」

『し・ん・れ・い・き』

「あ、あー……それでなんとかなるかな?」

『なる!』

 断言する。

「うーん……」

 気の進まない返事。

あまり乗り気じゃないようだ。



「幻術……とは違うか…しかし…今から向こうに行くのも厳しいか」

 琉嬉の部屋。

こちらは家について一息ついてる時だった。

「ぬ?どうした?お前様」

 琉嬉のパソコンを操作を一旦止めて琉嬉のもとに寄ってくる來魅。

「さすがの來魅も利頓町まで行くのに時間かかるよね」

「利頓?彼方家の寺がある所だったか?距離はどれくらいかの」

 ここから2、3キロ程度ならあっとういう間に移動は出来る…のだが。

「20キロ以上は離れてるな。一応隣町だけど、ここは鞍光の端っこだし…丁度反対側なんだよ」

「20キロ…?大体5里くらいかの」

 なぜかあっさりとkmを里に計算し直す。

いつの間にかkmという現代日本の距離単位を勉強してたようだ。

それにしてもさっと計算する辺り案外頭が良い。

「5里ってのがよく分からんけど車でも一瞬では行けない距離かな」

 逆に琉嬉が里の距離単位が分からない。

「ふむ…車でも一瞬で行けないとなると、さすがの私でも難しいな」

「そっか…しかしまあ…。うむー。こっからある程度の指示を出すしかないか」

 そう言うとスマホに視線を戻した。

「…親にばれたくないからって僕に連絡してくるなよなぁ…、高校一年生って案外子供っぽいのな」

「その容姿のお前様には言われたくないと思うぞ」

「うっさい。全く……」

 琉嬉は立ち上がり、下の階に居る父親のもとへ向かう。

「ふふ、あの小娘らなら自分達でどうにか出来るだろうに…世話焼きだのう」

 クスクス笑う來魅だった。


(しかし……家ごとなくなるとは…。妖怪の幻術…いや、もしかして…)

 琉嬉は階段を降りながらある事に気づく。




 真霊気を使う。

それをためらう莉音。

たしかに、彼方家である莉音も琉嬉と同様真霊気をある程度使える。

使えるの…のだが、残念な事に琉嬉程コントロールも出来ないし、琉嬉のように莫大な真霊気を出す事なんぞ出来ない。

ましてや諸刃の剣の技。

一度放てばかなり霊力を消耗してしまう。

(私に出来るのかな……でも紫音が…)

 考える時間が長く感じる。


 家から出て10分くらい経ったのだろうか。

決心がつかないまま立ち尽くしている。

(どうしよう……どうしよう…)

 泣きそうな表情に変わっていく。

自分でも情けない気持ちになる。

その時だった。

キキッと自転車のブレーキの音。

「莉音さん!」

「……はいぃっ?!」

 突然自分を呼ぶ声に必要以上に驚く。

振り向くと、いつも見る顔だった。

「紫音さんがいなくなったって本当!?」

 自転車から飛び降りるように駆け寄ってくる少年。

隆治だった。


「隆治君…?」

「いや、さっき琉嬉部長から連絡があって…双子がピンチらしいからって」

 ぜはーぜはー言いながら言う隆治。

自転車でかっ飛ばしてきたようだ。

「琉嬉姉が…?そっか…」

「てか、こんな空き地で何があったんだ…?」

 どうもても空き地。

売りにも出されていない土地だ。

大抵売りに出されていれば看板などが立てられているものだが。

「紫音がね、家にね、突然消えてね、紫音もね、家と一緒にね!」

「…パニックなのは分かるけど…状況を冷静に、落ち着いて順番にね…?」

「あ、うん…」

 かつてない程にパニック状態の莉音。

突然自分の妹がいなくなったとなれば当然と言えば当然なのだが、これまで何度も命的危機には陥ってる。

でも今回の訳の解からない現状で相当参ってるようだ。

「…僕がどうこう出来るとは思えないけど…琉嬉部長から助言は貰ったんでしょ?」

「そうだけ…ど…」

「…取り敢えずそれはしようよ。僕がなんとかサポートするから」

 なんとも頼もしい…ような発言をする隆治。

中学の頃とは大分成長したようだ。

「う、うん……。頑張ってみる…」

 その場に座り込んでいた莉音は立ち上がり、パンッと両頬を自分で叩いた。

古臭い気合いの入れ方をする。

「隆治君…少し離れてもらっていいかな」

「え……?」

 あまり見せた事のない、強気な表情と台詞。

「お願い」

「………了解した。無理はしないように」

 隆治はすぐさま理解したのか、道路の真ん中くらいまで後ろに下がる。

天命究てんめいきゅう…行きます!」

 莉音の両手から黄金色にも見える光が集まる。

「く……凄い霊気だ」

 隆治にも感じる強い霊気。

あれから隆治も鍛練をして、人並み以上の霊能力を身に付けた。

今も時折、彼方家で修行をさせてもらっている。

普通の修行者よりも何倍の早さで強くなっていっている。

元々霊力が微力ながらも持ち合わせていた。

努力が実っている証拠だ。


 莉音は両手の掌を広げ、何もない土地にかざすようなポーズを取る。

「紫音……出てこい!」

 突然変わる口調に思わず隆治は、

「こわっ」


 キィンという耳に刺さるような強烈な高音。

それと共に一瞬だけ吹くような、強風が舞い上がる。

「…なんだ、どういう事だ…?なんで突然家が…?」

 姿を現したのは、莉音が先程入った古い家。

その家が隆治の目にもはっきりと見える。

「やった…出来た……」

「莉音さん!」

 その場にへたり込む。

「やっぱ琉嬉姉のようにはうまくいかないけど…なんとか出来たよ」

「…それが噂の「真霊気」?」

「うん…」

「なるほど。こりゃ、普通の人間には出来ないよな。他の術者や妖怪が恐れるし、手に入れたいと思うよね」

「見ての通り動けなくなっちゃうからあんまり使いたくないんだけど……」

 琉嬉と同様莉音も、その場から動けないくらい体力霊力を一気に使い果たす。

「大丈夫。さ、紫音さんを探そう」

 ガバッとお姫様抱っこのように抱き上げる隆治。

「あ、ちょ、隆治君…?」

「こう見えてもお寺で伊達に鍛えられてないよ。あー、そういえば最近緋瑪斗さん来てないな~」

 緋瑪斗もお寺でちょくちょく顔を出していた。

隆治も当然顔を合わせる事が何度かあったようだ。

「お、重たくない…?」

「君達は年齢から換算すると、平均以下だから軽いもんさ」

 妙に冷静に判断する。

「…重たくないならいいんだけど…平均以下って言い方が逆にちょっとひっかかるんだけど…?」

 莉音も紫音も、平均から考えるとやや小柄で尚且つ華奢である。

ある程度鍛えてるとしても、見た目通り隆治に言わせれば軽いようだった。




 一方、家の中に取り残されたままの紫音。

二階の部屋に居た。

勝手に座布団を押入れから出してその上に胡坐をかいて座っている。

腕を組みながら瞑想でもするかのように堂々としている。

「うーん、おかしい。外に出れない」

 玄関から出てもなぜかループするのだ。

だから窓から出ても家の中に戻される。

「迷いの森効果ってやつ?」

 適当っぽい事を言ってるか的は得ている。

「うーん、これは幻術?妖術?結界の一種?むむ。それはそうと…幽霊屋敷ってやつかな?

いや、一軒家だし、屋敷にしては小さいか~」

 などと散々独り言を喋っている。

こういう図太さが紫音の売りであるが。

ループ型の結界は唯子や來魅が封印されていた神社にも張られていた。

別段珍しい術でもないうえに、容易く破られる事もある。

だが、紫音がおかれている状況はそれとはまた違うパワーが働いてる。

一度外に出たと思えば光に包まれて無理矢理戻されるのだ。

「だからって、結界にする必要性もないんだよなあ。妖怪とかの気配ないし」

 そう、元凶となるような者が存在しない。

霊力の優れた彼方家でも直系である紫音。

その力は当然強い筈なのだが、未だにこれといったものを感じないのだ。

「ふむ。考えろ、紫音よ。学年8位の私ならこの状況を打破出来るハズなのだっ」

 考える。

考える。


 考える事ほんの30秒。

出た答え。

「琉嬉姉なら…こういう状況なら使うんだろうな…真霊気」

 勿論、彼方家である紫音も真霊気は使える。

結局真霊気頼りになってしまう。

「あんまし使いたくないんだよなー」

 莉音動揺、使うのをさすがに躊躇するのだった。




 目の前には古びた家が再び出現していた。

隆治は始めて目にするが。

莉音は再び家の中に侵入。

鍵は開いていた。

さすがに抱っこされたままだと動きにくいし、恥ずかしいのでやめてもらった。

なんとか歩けるが、辛そうだ。

「残念ながら、僕は部長や他の部員達のように強くない。だから期待しないでおいてね」

「そんな事ないよ…」

 力ない言い方での一応のフォロー。

ただ莉音にとっては一人よりは二人の方が心強い。

「ところで紫音さんは…?」

「紫音ー、どこにいるのー?」

 ………しかし返事は返って来ない。

紫音の事だ。

聞こえてるのならば、大袈裟にでかい声で返事するだろう。

それに普通の一軒家サイズの家。

大体大声で叫べば何処に居ても大体届く。

「聞こえないのかな」

「居間には誰もいないし、トイレや風呂場にも誰もいないね」

「…二階かな」

 二人は二階へ上がる。


 が、またもやそこで問題が発生した。

二階にも誰もいないのである。

「おかしい……なんでいないのかな」

 隆治が首を傾げながら言う。

一階は隅々まで見て回ったつもりだ。

二階も各部屋を見て回った。

無論、押入れやタンスの中も。

だがもぬけの殻とも言える状態だ。

「外との連絡は取れるのだろうか…」

 隆治はスマホを取り出し、琉嬉に連絡を取ってみる。

「……繋がらないな」

「ええ、嘘っ?紫音にも繋がらない?」

「………だめだ、困ったな」

 紫音の姿も見つからない上に、携帯連絡も取れない。

摩訶不思議。

何がどうなってるのやら、という困った状況に陥る。

「どうすれば…って、あれ?隆治君?」

 二階廊下を見回す。

今度は隆治がいない。

「隆治…く…ん?」




 気づくと隆治は一人になっていた。

ついうっかり、莉音より先に部屋に入った時だった。

「あれ…、莉音さん?」

 莉音の姿がない。

(はぐれた…?)

 入った部屋を出ると誰もいなかったのだ。

そのあとまた一階と二階を行ったり来たり。

だがやっぱり誰もいない。

こんな小さな建物の中ではぐれるなんて有り得ないからだ。

「…これは霊術の一種…か」

 あれこれ一通りの霊術は彼方家のお寺での修行で習った。

現に自分の身に起こってるとなると驚くばかりだ。

「結局僕は除外されたかな…。うん」

 一通り家の中を回ったが、特に変化はなし。

そして誰もいない。

「これは…僕の力では出れそうにもないか…。仕方ない、あとは双子姉妹にどうにかしてもらうしかないか」

 自分での脱出を半ば諦める。

そう思いつつもズボンの右側のポケットから、紙切れを出す。

いつぞや使った式神…に似たような物。

宙に投げたと思ったら、ぽんっと音を立てて何かが出て来る。

小型の犬のような獣二匹が出て来る。

犬というよりは、狼のようにたくましい顔つき。

これが隆治の新しい式神だ。

「頼む。一応…守りを固めておくか」

 獣と共に行動を開始した。




「…………」

 1人だけになった莉音。

しかし泣き崩れるような事はなく、目を瞑り、冷静に深呼吸をする。

(そっか、そういう事か。大体分かって来たよ)

 フラつく足をグーパンチで叩いて気合いを入れる。

普段の莉音からは考えられない気合いの入れ方だ。

「紫音…、力を貸して」

 念を飛ばす。

ありったけの念を。



 ピクッと全身が反応する。

紫音は動きを止めた。

「莉音…か」

 何やら莉音の念に気づいた様子。

あれだけ一人で居ても喋り倒してたのが一言も喋らなくなる。


 シーンと静まり返った家の中。

カタカタとたまに揺れる音。

風のせいだろう。

この日は風が少し強い。

「………そこか」

 紫音が足を止めた場所。

丁度居間の真ん中辺り。

そこで何かを掴むように何もない空間に、手を伸ばす。

だが、何もない筈の空間なのに、触れる感触がある。

「莉音!」

 莉音の名前を叫ぶと、真っ白い光を手から放たれる。

ぶわっと、一気に空気の流れが変わる。


 そして…。


 パンッという空気を切り裂くような、高く弾けぶ音。

白い閃光が目の前を通り過ぎた。



 莉音は確かに見た。

目の前の居間。

そこに複数の人影が。

(…ここの住人…家族?)

 問いかけようとしたが、意識が朦朧とする。

(でももういない。家も本来ない。だから……居場所は………)




「あー、おかえり」

 隆治が塀の外側に手を振りながらやってくる。

莉音と紫音の二人はどうやら脱出したようだ。

きょとんとした二人の顔。

「…どうしたの?二人共?」

「あ、ごめん、隆治。気づいたらここにいてさ~」

 紫音が振り返ると、家は無かった。

「あ、やっぱり無い…なんで?」

 まだ元気そうな紫音。

だが隣に居た莉音はふらついてその場に座り込んだ。

「莉音!」

「莉音さん!」

「ごめん…。さすがに限界かも…」

 真霊気の使い過ぎ…だろうか。

限界がきて、立つのも辛い状況のようだ。

「まったく…明日体育祭なのに…」

「ほんっとだよねー。無茶し過ぎ~莉音~」

 ケラケラ笑う紫音。

「お互い様だよっ」

 振り絞った力で莉音の脛を軽く蹴る。

「あいた~!」

「まったくもってやれやれだね…。君達姉妹は…」

 疲れた表情をする隆治。

「ほんと、やれやれだな…」

 隆治の後ろから現れた人物。

「あれ、じーちゃん」

 双子姉妹の祖父、炎良だった。


「何があった?」

 炎良は三人がいる周辺を見回す。

やはり、彼方家の現当主らしくすぐ何かに気づく。

「…家の跡地……か。

しかし…何かあったら連絡よこせって言われてなかったか?」

「えへへ~、だって怒られるのやだもん」

 舌を出しながらてへっと笑う紫音。

「まったく。ばかもん」

 軽く頭をぺしっと叩く。

「莉音もしっかりしてると思ってたんだが…とんだやんちゃだな」

 莉音の頭も軽く叩く。

「ごめんなさい…。でもどうしても気になって」

 何もない土地を見つめる。

時折吹く風で揺れる草。

まるで何も無かったかのように、静まり返っている。

「隆治君も、大事なくて良かった」

「いえ…僕は特に何も出来なかったですけど…」

「いやいや、駆けつけてやっただけでも十分だ」

「そ、そうですか…」

 ついつい照れてしまう。

なんせその筋では有名な彼方家の長。

その人物に褒められるだけでも嬉しい。

隆治は完璧に裏世界の住人化してきた証拠でもある。


 軽快な音と共に炎良が腕の裾からスマホを取り出した。

通話だ。

出ると甲高い声が漏れて来る。

『じーちゃん、どうなった!?』

 大声で響く高い声。

どうやら琉嬉のようである。

「安心しな。ちゃんと生存してるよ。琉嬉の言った通りなのかもな」

「琉嬉姉の言った通りって…?」

 首をかしげる三人。

『なんだ、戻って来れたのか。なら良かったじゃんー』

「ね、琉嬉姉!琉嬉姉の言ったやつってなに?」

 炎良のスマホを奪い取って通話をしてしまう紫音。

「おいおい…元気だね」

「元気過ぎておいたが過ぎるんだけどね…」

 莉音が皮肉を言う。


『あー、じーちゃんも気づいてると思うんだけどさ、家自体が多分…幽霊なんだよ』

「家が幽霊?!」

『…厳密に言うと…念の塊のようなものかな?

現実化された…霊具と同じような存在。

うーん、説明が難しいけど…妖怪化というのか…家に念が憑き過ぎて半ば妖怪のような存在になって…、

それで取り壊されてもそのままの念が残って…一定の感覚などで実在するかのように異空間を作るというか…』

「付喪神の一種…ですか?」

 隆治がなんだかそれっぽい事を発言した。

「付喪神…本来命持たない「物」に魂が宿り妖怪と化する…というものだな」

 代わりに説明をする炎良。

「さすがじーちゃん、詳しいね」

「あんたお祓いの一族のくせになんで知らないの…?」

「覚えてる事多すぎて忘れちゃうよ~」

 勉強が出来るくせに物忘れが多い紫音。

頭を抱えてしまう莉音。

「付喪神なんて今の時代存在が少ないというからな…」

 一応のフォローはする炎良。


「よくあるんだよな。ほら、たまに怖い映像とかで別の部屋が一瞬映り込んだりとか、誰もいないのに声が響いたりとか」

 炎良が説明をする。

よくお祓い関係でそういった相談も受けるらしい。

特にこの鞍光圏内ではオカルトめいた話が多い。

だからお寺とかに話が舞い込んで来るようだ。

だから彼方家としても商売となっているのだが。

「それって解明してるの?」

「妖怪とかが幻術を使ってるのというのが多いな。

あとは…その場所が霊地場が強くて今回のように無い筈の「物」が現れた、っていうのも否定出来ないがな」

『じーちゃんが言ってるように、あまりにも強い念だと幻を見せたりするみたいだね』

「…うーん、よくわかんないけどここのあった家は幽霊なの?」

『ま、簡単にまとめるとそういうこった』

 ざっくばらんとした雑なまとめ方。

ただ、こういった場合は確証が今でもよく分かってないようなので決めつける事が出来ない。

「単純に、そういう科学でも霊術でも解明出来ない事は世の中にはあるってこったな」

「そっかー。じーちゃんでも分かんないコトあるんだ」

「なんでもかんでも分かると面白くないだろ?この年になっても勉強勉強だ」

 ぽんっと紫音の頭に手を置いてそのあと撫でる。

「勉強って…年寄りになってもかぁ…」

 嫌そうな顔をする紫音。

「にしても、大きな怪我もなく良かったな」

「…後でお母さんに叱られる…」

 莉音が真っ青な顔をしている。

先程とは違うタイプの怯え方だ。

「…げっ、そうだった…」

 紫音も同じ表情をする。

さすが双子だけあって、怖がる表情も同じだ。


「さ、今日は帰るぞ。明日何かあるんじゃなかったか?」

「体育祭…」

「早く帰って休まんと、明日動けなくなるぞ?」

「うー、説教で体力回復しなさそう…」

 炎良が乗って来た車に乗り込む紫音。

隆治は自転車で来たのでその場でお別れ。

「ありがとうな、隆治君。さすがに自転車に乗せれないからなあ」

「いえ、どうせ近いので大丈夫です。それじゃ、二人も、また明日」

 手を振る隆治。

「うん、ありがとう。隆治君」

「さんきゅー、りゅーじ!」

 そしてこの場は一旦解散となった。


 車が発進する時。

莉音は幽霊家があった土地を見る。

やはり何もない。

(もしかしたら…私達の真霊気で全部消えちゃったのかもしれない…かな…)

 車が動いた途端、強烈な眠気が襲い、そのまま莉音は気を失ったかのように眠りについてしまった。




 緋黄寺。

つまりは、双子姉妹の家。

案の定二人は母親三月のお説教。

いくら彼方家直系の実力があるからって、まだ15歳の女の子。

心配されるのも無理はない。

琉嬉のような信頼がまだなぜかない…という事でもある。

とはいえ、どうしようもない時はさすがの琉嬉もお寺の方を頼って来たのだが、今回危ない目に遭ったのに無理した。

三月は、親らに直接頼らなかった事に焦点を絞り、それに対して叱っている。

一応は愛のあるお説教だ。

「これ、いつ終わるの…?」

「知らないよ…」

 くたくたな上にさらなる説教。

さすがの紫音も口数が少なくなっていた。

「ほらほら、母さん、ここら辺にしときなよ」

「あなたがいつも甘やかすからこうなるんです!」

「ん~、怒るのは性に合わなくってなあ」

「琉嬉が言ってたぞ。さすがに転校初日で停学になった時は導にこってり怒られたって。

お前も少しは怒ったらどうなんだ…」

 自分の息子らの妙な温厚な性格。

炎良は項垂れるようにやれやれといった顔をしている。

「子供の頃からあまり手のかからん息子らだったから…その反動で孫らがやんちゃなのかもなあ。三月さんよ」

「反動って…そんな事あります?お義父さん」

「ま、うちの家系は女が強いというか…やんちゃもん多いみたいだしなあ。俺の祖母もそうだったし。

弟の方の娘も相変わらずらしいしな」

「そうなんですか…」

 直系でないが、同じ彼方家の分家の方も凄いと言う。


「それにしても、だ。怪しい場所には近づくなと言ってるだろ。

感受性強いのは時には毒にもなる。

俺も若い時は苦労したがな」

「身に染みてこその成長ってやつだな。あっはっは」

 なぜか笑い飛ばす天。

「お父さん、ちょっとズレてる」

「だね」

 呆れる娘二人。


「で、家の幽霊か。有り得るといえば有り得るのか。ふむ」

「何か知ってんの?じーちゃん?」

「いや…20年以上前か」

 バサッと何かの資料らしきものをテーブルの上に広げる。

数枚のコピーされた新聞の切り抜き記事。

それと何かの資料らしき文字列が並んだ紙。

そこには無理心中か?一家5人死亡と書かれた記事が目に入る。

「…無理心中?」

 莉音が資料を手に取る。

「こっちは?」

「裏ルートで仕入れた事件性の資料だ」

「こんなもの持ってるのー?」

「一応な。利頓町で起こった事件、事故類。

あとは我々が動く必要性のありそうな、不可解な事件を集めたやつだ」

「なるほどー」

「と言っても大した役に立つとは思ってなかったがな。この無理心中した家があった場所だな。駅近くのあの家は」

「………」

 黙り込む二人。

「やっぱり、何かを見たのかい?」

 天が二人の頭を撫でながら隣に座る。

「んー、はっきり見た訳でもないよ。

居座る人間の念があまり残ってなかったのかも」

「そっか」

「人間じゃなくって…物の念が残ってる…とでも言えばいいのかな。

あー、なんか表現しにくい!」

 言葉での表現が難し過ぎて紫音が頭をわしゃわしゃさせながら大声で叫ぶように言う。


「ははっ。なんとなく伝わるから大丈夫だよ」

「フム…。物…場所に残る念か。念が強すぎて悪霊…いや、妖化したか」

「念が幽霊になるの?」

「はっきり言って、俺達にも分からん。言える事は土地や物に念…つまりは魂が宿り付喪神のようになったという事だろうな。

その場にないのに実在したかのように現れる。

面倒だから、家の幽霊でいいじゃないか」

 ほぼ強引に雑にまとめる炎良。

なんとも炎良らしい発言だ。

「なんか、怖くて悪魔が棲む城みたいな感覚だったよね」

「魔城か。言えてるかもー」

 クスクス笑い合う双子姉妹。

「でも大事に至らなくて良かったよ」

「本当よ。まったく…」

 すっかり時刻は夜の10時を回っていた。

「二人共、お風呂入ってすぐ寝なさい」

「はぁーい」

「へぇーい」




 ちょっとした温泉銭湯とも言えそうな広いお風呂場。

離れの方にある大きな風呂場である。

住居側にも小さい普通のサイズの風呂場があるが、姉妹はもっぱらこっちを使う事が多い。

お寺には住み込みの弟子達が複数人いる為である。

これは昔から続いているらしい。

「はぁー。明日体育祭だね」

「体力持つかな…」

 なんだかんだで、真霊気も使った為、二人はぐったりしている。

前日になんとも不遇な状況。


 湯船に二人仲良く一緒に浸かりながら反省している。

「私もうかつに近寄らなきゃ良かったんだよ…」

「そーそー。なんか呼ばれた気がしたんだよね」

「うーん…。だよね…」

「しっかし…幽霊の家か…面白い例えだね。じーちゃんも琉嬉姉も」

「まぁまぁ…ついうっかりしてた私らが悪いんだし?」

「…反省だね……はぁ………あぶぶ…」

 湯船に浸かったまま、莉音は目を閉じそのまま沈んでいく。

「あ、おおぉい!莉音!風呂で寝ちゃ死んじゃうよ!あああ、とーさんかーさん!莉音が~」


 こうして、騒がしくも奇妙で疲れた一日は終わった。




 翌日―――。

体育祭終わり、部の打ち上げ後の帰り。

前日のようにヘトヘトになりながら二人が駅から出て来る。

心配そうに後ろから隆治もついて来る。

「大丈夫なのかい?」

「うーん、大丈夫」

「莉音は体力ないなぁー。わたしなんてほら、このとーり!と、おっととと…?」

 ヘンテコなポージングを取る。

が、バランスを崩す。

「…お約束だけど、無理しない方がいいよ」

 隆治は倒れそうになる紫音の体を片手で支える。

が、特に何事もなくクールに流す。


「何もないね」

「思いっきり真霊気をぶっ放したからねー。下手したら跡形もなく吹き飛んだんじゃない?」

「可能性あるね」

 そう。

莉音と紫音は、二人して真霊気は使用した。

そして脱出した。

もしかしたらその威力で「幽霊の家」自体が消えたのかもしれない、という事だ。

「…霊的要素は何も感じない。無理心中したっていう家族らしき霊も居なさそうだし、念もない」

 冷静に判断する莉音。

「……よく分からないけど、それは本当に家自体の念が残ってたって話なのかな」

 隆治が緋黄寺の書庫から借りた何かの書物を見ながら言う。

「隆治、何見てんの?」

「君んちから借りた資料の本だよ。様々なタイプの霊体を記した本だ。

これがね、なかなか興味深く面白くてね…」

 元々勉強熱心。

興味ある事はとことん食い付いて行く。

自分自身を鍛える為にも、知識をどんどん増やしていく。

「…そんなのあったんだ」

「……君は少しは自分の家の事くらい覚えておいた方がいいと思うよ…」


 隆治が本を確認しながらも建物、つまり生物ではない物が霊体を持つ。

そういった事象があったとも書いてはいない、とは言う。

ただ気になる事柄が書いてあるのに気づく。

「明確な証拠はないが、ある神社跡地に行った者が何人も声を揃って言った。

無い筈の鳥居と社が、現れる、と。

近づいて境内に入り、社は確かに存在した。

触れてもきちんと触り心地はあり、その場にあった。

だが、境内から出ると、社や鳥居は姿を消した。

まるで蜃気楼のようだったと。

これを書いた彼方家のご先祖様が聞いた話だって」

「へー。ご先祖様かぁ。昔からそんなオカルト話ってあったんだ」

 気楽に言う紫音。

「蜃気楼は気象面の条件が揃わないと到底見る事の出来ない事象だ。

この話の神社は木に囲まれた場所にあったと言われている。到底蜃気楼が発生する場所とは言い難い」

 力強く説明する隆治。

ちょっと楽しそうだ。

「神社なら、神格の妖が住んでる場合もあるって言うし…それの影響?」

「幻術はあくまでも幻術。物質を一時的に作り出したかのように見せるだけ…。

まさに不可思議な話だと思わないかい?」

「…霊術でも解明出来ない謎がまだまだある、って話だよね」

 頷く莉音。

「いずれ解明出来る日が来る事を期待するよ」

「そうだね」



 結局、あれから解かった事実関係はかつて無理心中が本当にあったという事。

それからしばらく家は放置されたかのように残っていた。

が、よくある話。

近隣住宅民が何度も誰もいない筈の人影を目撃したという話。

そしてその情報を仕入れた心霊好きや肝試しが訪れる。

そういった奇妙な念が渦巻いてしまったという事。

時は流れ、建物は取り壊され、土地だけは残る。

売れる事もなく、土地だけが今でも残っている。

不可解なほどに。

行き先がなくなった念がいつまでも残ってしまったのではないか…。

そんな考えが莉音の中で考えがまとまっていた。


(……それにしても…「真霊気」…やはり凄い…。直に見ても威力が段違いだ…。

なるほど…彼方家だけの特有の力。

それ故に狙われる……ってか。

炎良さんの言う通りだね)

 隆治は二人の真霊気を目の当たりにした。

強烈な光と霊力の波動。

まだ鍛練して日が浅い隆治でも感じ取れるほどの強力な力。

(普通の霊気とは相反する霊気…不思議なもんだね。僕の式神もリセットされちゃったし)

 そう、あの時隆治は式神を用意して「幽霊の家」の中を動いていた。

突然の真霊気の光が放たれた時だった。

セットしていた式神が元の式の戻ったからだ。

それだけ真霊気の力が絶大だというのを再認識した。

(やれやれ…世界最強レベルの霊力を持つ一族…か。僕が彼方家に弟子入りみたいな事が出来たのはラッキーだな)

 後ろから二人を眺める。

「ん、どーしたの、りゅーじ?ぼーっとして」

「あ、いや。なんでもないよ」

「まさかあたしらに惚れたー?」

「か、からかわないで頂きたい…僕はそんな風に二人を見てた訳では…」

「あーやしぃ~」

 結局からかう紫音。

「やめなよ紫音~」

「今日も疲れた。僕は今日のところは帰らせてもらうよ。修行はまた後日お願いするよ」

 スタスタと先に歩き出す。

「あ、ずるーい、サボリかー」

「あんたも人の事言えないっ」

 ぽきゃっと紫音の頭を軽くげんこつ。

「いたぁー」

「じゃ、私達も帰ろう」

 そして莉音も続く。

「まてーい!」

 三人はその場を離れた。



 人の気配が少なくなった周辺。

時折車や自転車を乗る人が通る。

でも通り過ぎる人はその土地を気にする様子もなく去って行く。





 琉嬉の部屋。

いつも通り來魅が居る。

琉嬉も家から帰って来てぐったり。

「お疲れよのう、お前様よ」

「僕だって人間です」

「私だって妖怪と言えども、普段は人間と変わらん」

「見た目だけだろ」

「で、どうだった?」

 唐突に何かの答えを聞く。

「どうだったって…何が?」

「あやつらの事だ」

「…双子?疲れた様子ではあったけど…ま、未だに世の中分かんない出来事って、まだまだあるんだなーって思ったよ。

話し聞く限りね」

「ほむ…」

 ぴょこんっと椅子の上に立ち上がる來魅。

キャスター付きの椅子なのに、動く事もない。

凄まじいバランス感覚だ。

そして琉嬉が寝っ転がっているベッドに飛び移る。

「こら、埃が舞うだろ…」

「なんやかんやで生きて帰れたんだろ?万々歳だろうに」

「結果的には…ね。にしても「幽霊の家」か。理解を超えたモノがあるんだなー」

「それは私も思う。世界は不可思議な物に溢れておる」

「不可思議筆頭のお前が言うな」

 むにっとほっぺを軽くつねる。

「はふ、いふぁいぞ」

「風呂ってくる」

「私も入る!」

「子供かっ」

「見た目は子供だっ」

「~~~あほかっ」

 いつものやり取り。




 結局、あの「幽霊の家」がなぜ双子と隆治を閉じ込めたのか。

なぜ姿を現したのか。

謎のまま終えた。

莉音が感じ取ったほんの少し、断片的な記憶。

主を失った家の、強力な念だけが取り残されていた、と解釈した。


 物には魂が宿るとも言われる。

それが大きく出た結果が、人を寄せ付け、魔城のように三人を取り込んだ。

存在を見つけた者を呼び込んだのか。

なんなのか。

それは今となってはさっぱりだ。

ただ、なんとなく莉音は引き寄せられてしまった。

危険かもしれないのに。

その癖は琉嬉と似たようなものだ。

(これから…もっと気を付けないと…反省反省)

 心にとどめる。


 お寺の境内入口の門で歩みを止める莉音。

「…人が恋しかった…とかかなあ」

 ぼそっと呟く莉音。

「は?何が?」

 紫音も思わず足を止める。

「なんでもない」

「変なのー」

 二人はお寺の境内へと入って行った。


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