#83 彼方双子姉妹ズと小さな魔城 前編
妖魔王…というなんだかよくある話が出てきて少々困惑気味の琉嬉。
いや、琉嬉だけじゃないだろう。
こんな漫画やアニメみたいな話がある。
そもそも、來魅の存在と似通っている。
がしゃどくろもそうだ。
何かと封印されてた「モノ」が解かれつつある。
そんな妙な時代に来てしまった。
などと思いながらも…今日も普通にゲームをしている。
部室で。
「…あ、体育祭か。明日」
毎年鞍光高校では6月30日に体育祭が行われる。
前日である6月29日。
部員でもある生徒会メンバーは忙しさが最高潮らしく、この日も顔を出さない。
いや、出せないのだ。
夜遅くまであれやこれやとしている。
ましてや風紀係の寧音は実行委員としての活動が激しいようで、
「駄目です!私…見たいアニメが見れなくて死にそうです!」
などと、口走っていた。
琉嬉は別に録画するかネットで見ればいいじゃないか…などと思ったがリアルタイムでの楽しみがないといけない。
そんな事を熱烈に語るのでもう面倒なのでその事をいちいちツッコまないようにした。
今年から生徒会に入っているみゆや御琴も姿がない。
忙しそうだ。
「琉嬉姉~。暇ー」
「…暇なら勉強でもしろ」
「えー。なんでー」
ニギヤカ担当その2の紫音。
ちなみにその1はみゆ。
ぼけーっとしている莉音。
双子が揃って部室にいる。
琉嬉はつくづく思っている。
どうして我が従姉妹ながら、双子なのにこんなに性格が違うのだろう、かと。
「何?琉嬉姉?じっとこっちを見て」
「いや、暇なのに楽しそうだなって」
「えー、何その暇なのに楽しそうって。意味わかんないよ?」
足をバタバタして変な動き。
「そうだ、明日体育祭だから今から準備運動しとこうか!」
椅子から降りてその場をグルグル回る。
そして変な踊りのような体操。
「ぷくくっ、何それ、紫音ちゃんおかしー。あはははっ」
近くにいた護が笑いを堪えきれないようで、大笑いする。
「え、へ、変?」
「…変も何も、変過ぎ」
莉音にまで言われる。
「おかしいなぁ。準備運動なんだけど…体操ってこんなんじゃない?」
「……お前ね、体育祭が明日なのに今から準備運動してどうするんだ?」
的確な琉嬉のツッコミ。
「あ。そっか。そうだよね?琉嬉姉、あったまいい~」
「お前の頭がおかしいだけだろ」
「おかしいとはなんだ。おかしいとは。私はこう見えても学年10番に入るくらいの…」
「知ってる?学力で頭が良くても、人間性が駄目なら頭が良いって言われないんだよ?」
ニッコリとしながら実の妹にキッパリと言い切る莉音。
「…そ、そう?」
でもあまりピンと来てないようだ。
「え?何?紫音ちゃんって頭良いーんだ?」
「勉強だけは昔から出来るもんなー」
クールに言う琉嬉。
中学では一緒に行っていた。
一時期お寺にも住んでた時があったのでその頃からは一応勉学が出来るというのは知っている。
「フフッ、こう見えても勉強は得意なのですっ」
自慢げに言う。
「莉音ちゃんは?」
「わ、私ですか?私は…紫音と同じくらいです」
謙遜する莉音。
顔が真っ赤だ。
「嘘つけー。5番以内に入ってるんだろ?麗未亞から聞いたぞー?」
「えー、まじでー?すっげー」
「やめて、琉嬉姉…」
顔を両手で覆う。
そんなに照れているのか、というくらい照れてる。
「そーそー、莉音は学年2位じゃなかった?」
「紫音ちゃんの方が高かったらどうしようと思ったけど。そこはちゃんと上手く出来てるんだね」
「護先輩、なんですかそれー」
「あたしはどーせ下から数えた方が早いですよーだ」
半ばやけくそ気味に言う護。
「赤点取ってないだけマシだろうよ」
「琉嬉ちゃんはいいさ。この前のテスト良かったんでしょ?」
「僕は別にそこの双子程頭良くないです」
琉嬉曰く、自分は中の上くらい。とは言う。
でも今回はかなり良かったようである。
この妙な事件にばっかり出くわしてる割には成績が良いようだ。
単にゲーム三昧でもない。
やるべき事はやる。
それに元々頭の回転も速く、それが勉強に生かされている。
ただし、琉嬉も人間性を置いといて……の話。
「しかし今日はもう誰も来ないね~」
莉音は暇そうに机の上に教科書を積み重ねて遊んでいる。
ピラミッドのように立てて。
それがものの見事に綺麗に設置されていく。
「…何してんの?お前」
「何って、バランス共和国」
「……意味が分からん。なんだ共和国って。国なのかお前わ」
ジト目を作ったまま、琉嬉は莉音の方へ視線を向ける。
莉音は私は知らないと言ったような表情と手振り身振り。
護は琉嬉の隣の席でクスクス笑っている。
「お前、能天気さだけはみゆに負けてないよな」
「フッ、私が唯一ライバルと認める先輩だからねっ」
「ライバルなのか…尊敬じゃないのか」
能天気過ぎる紫音。
「…誰に似たんだろうね」
「お父さん…かな?」
ふと考える。
そして過ぎる叔父の顔と言動。
「あー、やっぱそうだよね」
などと彼方家の内輪話。
「りのしの姉妹のお父さんって、そんなに能天気なの?」
「能天気というか…ちょっと天然というか、突拍子もない性格というか…(りのしの姉妹って略されてるの私達?)」
りのしの姉妹という言葉に心の中でツッコミ入れながらも、自分の父親の事をしばし考える莉音。
これまでの人生の中の父親像。
どうも変な発言してる記憶しか出てこない。
勿論、自分らも戦ってるし、父親の天も当然時期住職としての器もあるくらい強い。
ただただ、変な事を毎回言ってる記憶ばかりが思い返してしまう。
「…導叔父さんの冷静さが羨ましいよ」
大きくため息をつく莉音だった。
「あんた達暇そうね」
突如唯子が天井から顔だけ出して現れた。
まさに幽霊だから出来る芸当。
まるで心霊動画さながらの登場の仕方。
「唯子先輩。どうしたの?」
「どうしたもこうもないわよ。明日体育祭でしょ?」
スッっと降りて来る。
妙な現れたかしても特に驚く様子ない。
慣れ切っている。
「そっすね~。でも僕らは役員でもなんでもないから暇人~」
「テストも終わってるしね」
「あら、そう」
素っ気ない返事につまらなさそうな顔をする唯子。
「ねえねえ琉嬉姉暇ぁ~」
琉嬉の後ろから抱きつくようにしてくる紫音。
他の者はみてるだけで暑苦しそうな気がしてくる。
ここの所気温がどんどん上がってきているのだ。
異常気象…とまでも言われてはないが、時折日中でも気温が25度近くになったりする。
そのかわり夜はどんどん気温下がり、10度前後まで落ち込む。
「暑いっつーの。しかし今年は変な天気多いね」
「そうだね」
「たまにあるわよ。変な気象な年が」
黄昏る景色を窓から見つつふぅっと大きな息を吐く(?)幽霊・唯子。
「ね~ぇ~。琉嬉姉のほっぺすべすべぷにぷに~。気持ちいい~」
「ばかなにやってんだほほをあわせるなほほをきもちわるい」
紫音はなぜか自分のほっぺたと琉嬉のほっぺたを合わせて抱き着いている。
その様子に言葉を失う護ら。
「ふふひひ。琉嬉姉はちっこくてかわいいのらー」
「お前も大した大きくないだろ」
「あれ、それは遠回しに莉音の事も言ってる事になるんだぞー」
「紫音、いい加減黙らないと…」
琉嬉がそう忠告する。
紫音の後ろには無言で莉音がいた。
右手を手刀の形に作る。
そして振りかぶる動作。
「あいやっ!それは危険アルね!」
「なんでエセ中国人風に…」
バタバタ騒ぐ部室内。
「……仲いいわね、あんた達」
「同性のいとこにしては過剰過ぎるくらいにね…」
呆れた琉嬉は突っ返す事もせずにじーっとしていた。
結局やる事もないまま、帰宅する事に。
「じゃー、おつかれー。唯子先輩また明日」
「はいはい、お疲れ様」
部室の鍵を閉める琉嬉。
隣の生徒会室からは話し声がまだ聞こえる。
まだ会議をしているのか、それともただの世間話なのか。
時折笑い声が聞こえたりする。
「生徒会はいっか。帰ろう。一応連絡しといて…と」
スマホで部員の為の連絡アプリに報告だけをしておく。
誰もいないのに部室に来ても意味ないからだ。
というか、唯子は居るのだろうけど。
「てかさ、唯子先輩ってあたしらが帰った後って、いっつもどうしてんの?」
「さぁ。ふらふら散歩でもしてるんじゃないの?」
「あれ、でも地縛霊って言ってなかったけ?」
「それは僕の真霊気のせいで自縛は解放しちゃってる」
「え?そうなの?」
などと、がやがやと騒がしく帰って行く。
「紫音ちゃんがいるとほんと騒がしいわねえ…。でも静かよりはマシかしらね?」
独り言のようについつい口に出して言う唯子。
「さて、生徒会はまだなのかしら?」
などと、結局覗き込むように隣の生徒会の方へ向かう。
なんだかんだで、実は人がいなくなるまでふらふらしているのだった。
「いつも駅でお別れなんて嫌だよ~」
ぎゅーっと琉嬉を抱きしめる紫音。
「ヤメロ」
ぺしっとおでこにチョップ。
「いたーい」
「当たり前だ」
「ほら、帰るよ。うち遠いんだから早く帰らないと明日朝起きれなくなるよ」
「はうー、莉音のいけずぅ~」
首根っこ掴まれながら引きずられていく紫音。
結局逆らう事もなくおとなしく別路線側へ向かう。
住んでる所が違うのは勿論、方向がまるっきり逆方向。
なので駅は一緒でも駅ですぐ別れる形になる。
「じゃあねー、りのしのちゃーん」
「護…その略し方なんなの?」
「え、変?」
「いや、本人達が嫌じゃなければいいんだろうけど…」
護のまとめ方も雑だった。
琉嬉と護は同じ方向。
なのでなんだかんだで大体一番一緒に長くいるのは護となっている。
流れていく景色。
夕焼けが終わりそうな暗い空がだが。
短い間ながらも電車の中での会話が弾む。
田舎路線…とまでもいかないが帰宅ラッシュは少し過ぎているので二人は座席に座る事が出来た。
「ねえ琉嬉ちゃん、紫音ちゃんって前からあんなんだったけ?」
「昔からだよ」
「…そっかぁ、そうなんだ」
「なんで?」
「んー、なんかいっつもおちゃらけてるし?」
「あー…うーん、いつもあんなんだけどな」
ふと昔の事を思い出そうとする琉嬉。
でもロクな思い出がない。
その為なのか、別に言わなくてもいいやという考えになる。
「莉音ちゃんはなんであんなに生真面目におとなしいんだろうね?
双子なのに性格違わなすぎない?
外見もほぼ同じだしさぁ~」
あれこれ考える護。
顔は勿論、身長やスレンダーな体格、髪型は本当にそっくりだ。
「見た目の見分け判断はつかないよな。たしかに。ただ…」
「ただ?」
「性格抜きにしても、服装の好みが違うっぽいんだ。これは僕が直接聞いた訳じゃないけどね」
「服装ー?」
普段は制服姿なので私服をよく覚えてない。
大体私服でいても間違う自信がある。
護は心の中でそう確信した。
「ええと、露出がある薄着を好むのが莉音で、露出があまりないのを好むのが紫音」
バッと言い切る。
「へ、へぇ~…そうなのか…。よくわからん…」
「制服をよく思い出してくれ。スカートが短めなのが莉音で長めなのが紫音だ」
おもわずキョトンとしてしまう護。
双子姉妹の制服姿。
見慣れてる筈だが、スカートの長さの差なんぞ知らない。
「…いや、そんなの気にしてみていないし。あたしが男子なら気にして見てたかもしれないけど」
「そりゃそっか」
「てかさ、やっぱ彼方家だから…強いの?二人って?」
話が突然変わる、が、まだ双子の事の話だった。
ただ戦いに身を置いてるだけあって強さを気にする。
「強いも何も、そりゃ強いよ。彼方家直系だもん」
「そーだよねー。琉嬉ちゃんみたいに真霊気使えたりするの?」
「……真霊気ねぇ。使えるみたいだけどね」
「あ、やっぱりそうなんだ」
あっさりと答える。
だが「使えるみたい」と、曖昧な答え。
護はちょっとそこに引っ掛かる思い。
でもそこは深く聞かないで会話をさらに続ける。
「厳密に言うと、使える人と使えない人がいる、かな。勿論僕は天才だから使えるけどね」
なぜか威張るように言う。
自分自身を天才などとぬかす。
そこを敢えてスルーする。
「悠飛君は?」
「悠飛は使えない。うちの父さんも使えない。使えないから本家から独立した、ってワケ。
だからって父さんも弱いってワケじゃないからね?」
「へぇ…」
「じいちゃんも天叔父さんも使えるよ。
それでも少量の力のみ。
ただ、僕くらいの大量の真霊気を使えるのは今いないみたいだけどね。
だから双子も使えても少量のしか放てない」
「そうなんだ。琉嬉ちゃんだけが異常なんだ」
「異常って言うな異常って」
ようするに、琉嬉だけが特別。
あれだけの真霊気を使えるのは異常レベル。
「でもそれって修行とかしたら強く撃てたりするの?」
疑問に思う護。
こうは見えても護も人知れずに鍛練をして一応の磨きをかけている。
「僕の場合は、一気に解き放つしか出来なかったけど、今は何とか力を制御出来るくらいにはなったけど…。
そのうち僕くらいまで使えるようになるんじゃない?」
あっけらかんと答える。
「そっかぁ。まー、なんていうかー、あたしが戦った中で琉嬉ちゃんが一番強かったけどね」
「…何それ、そのヨイショ何?論点突然ズレてない?」
「いやいや、なんとなく?」
「…いつも思うけどお前の話って、観点外れていくよな」
「ロンテン?カンテン?」
「もういい」
そうしてるうちに護が降りる駅に着いた。
琉嬉はもう少し次の駅となる。
「やおー、琉嬉」
「…どうしたのわざわざお迎えに来て」
駅に付き、改札口を丁度出たところ。
來魅がベンチに座ってたが、ぴょんっと飛び降りるようにこちらへ向かって来る。
何かを食べてたのか。
モグモグさせながら近づいてくる。
よく見たら手にはコロッケのような揚げ物。
「これもそれもお前様のぼでぃーがーどとしてだ」
「…いや、別に守られる程弱いつもりはないけど…」
「んふふ。この前の事を忘れたか?あの龍翔とかいう小僧の家での事だ」
「あー………」
思い当たる節が大量にある。
あの時は真霊気を使い、霊力体力を使い果たしてた。
念の為來魅に来てもらったのが正解だった。
「のう、もう一つの彼方の方はいいのか?」
「もう一つ?莉音と紫音の方か?」
「そそ、そのやかましい双子の」
「やかましいのは片方だけだけど…」
一瞬そうだったけ?みたいな顔をする來魅。
「うむ。それはそうと、最近何かと物騒でな。お前様の真霊気を狙ってくる輩もいるだろうし」
「別に、返り討ちにしてやるさ」
「前みたいに戦えない状態だったら困るしな。お前様を守る為にも私がこうして迎えに来てやってるのだ。学校まで迎えに来てやるかの?」
「それは遠慮しときます。というか幼女に迎えに来てもらうとかすっごく複雑な気分です」
「自分こそ幼女みたいなもんだろ…いたたっ」
琉嬉は表情変えずに無言で來魅のほっぺを軽くつねっていた。
とやかく、來魅が言う事も一理ある。
これまで悪霊や妖などと戦って来てはいた。
ただ、今ほど回数が多かった訳ではない。
ここ二年くらいは尋常じゃない程戦う回数が多くなっている。
その半分くらいは自ら首を突っ込んでる場合もあるのだが。
とは言え今は最強ともうたわれた來魅も常に一緒に居る。
ふかしぎ部の面々も自分と同格レベルの術者ばかり。
そう簡単にやられるとも思えない。
だが名家の加賀家を襲った半妖達。
その手はスムーズでかつ大胆で、そしていて強くて…。
來魅でも完全に仕留める事は出来なかった。
「……ねえ、來魅」
「ん?」
「やっぱり、本気で対策練って置いた方がいいかもね」
「…ほらみろ。そうなっただろう」
気が付くと人気がない。
駅からの帰り道。
ほぼ真っ直ぐな大きな通り…なのだが。
車一台通らない。
不思議な空間。
「妖怪か」
「ふっ。この程度の下級妖怪なんぞ、私の気合いで吹っ飛ばしてやるわ」
來魅の右手首の数珠が光る。
「…優しくしてあげてよ」
琉嬉がブツブツと何か唱えると数珠が消えた。
そして來魅の全身から凄まじい妖気と光がカッと放たれる。
ぶわっと黒いオーラのようなものが巻き上がる。
黒から白へ。
まばゆい光が一瞬で広がった。
「ららら~♪らららーりるーれーろーっ♪」
「何の歌?」
「これは、私のテーマ曲!」
「……らりるれろがテーマなの?」
「華麗なる歌詞でしょ?」
「華麗…?え?意味わかんない…」
呆れかえる莉音。
莉音と紫音は学校帰り、家の近くの駅に着いていた。
近くとは言えども、それなりの距離だ。
徒歩だと10~15分くらいはかかる。
近いと言えば近いし遠いと言えば遠い、といった絶妙な距離だ。
自転車で行けばものの数分なんだろうが。
時間は7時半過ぎ。
学校が遠いのでどうしても1時間近くかかってしまう。
一応の部活動もしてるから結局日が暮れてしまう。
とは言え、今は一番日が長い時期なのでまだ明るいのだが。
それでも日が落ちかけている。
相変わらずの能天気さの紫音。
我が妹ながらなぜこうも明るくおかしなキャラで通ってるんだろう。
そんな事を考えながら一緒になって歩く。
(……私も私だなぁ。結局はいつも紫音といつも一緒にいるし)
二人は当然ながら幼い頃からずっと同じ保育園、小学校、中学校、高校と来ている。
勿論、学力も同じくらいでいずれは大学に行くつもりだ。
同じ大学を目指すか。
それとも違う大学を目指すか。
それに、二人の未来はお寺を継ぐという未来もある。
現状は住職である祖父の炎良も現役。
父親も次期住職が決定している。
特別な事がなければ、このまま直系である双子が継ぐ事になる…という話だ。
継ぐとしてもひょっとしたら、実力的には琉嬉が継ぐかもしれない。
などとわずかながらも想像している。
(…お祖父ちゃんもお父さんもまだまだ自由にしていいとは言うけど…)
紫音の方を見る。
とにかくフリーダム。
(そういえば琉嬉姉も悠飛ちゃんもどうするんだろ)
同じ彼方家の血筋として気になる次第だ。
「あれー、あれれー?彼方双子姉妹ズじゃねー?」
ふと男の声が聞こえて来た。
なんとなく聞いた事のあるような声。
「おー、その彼方双子姉妹ズだよー」
紫音が手を振って大声で応える。
「え?何?」
莉音も慌てて声の方へ向きを変える。
「ひっさしぶりー」
「だなー。え?その珍しい色の制服…どこの学校だったけ?」
「鞍光高校だよ」
などと、盛り上がる。
どうやら紫音の中学時代のクラスメイトの男子達のようだった。
当然ながら鞍光高校とは違う制服。
ブレザー制服の3人組。
「…お友達?(ていうか、彼方双子姉妹ズってなんだ姉妹ズって!姉妹でいいじゃん!てか長いし!)」
「違うよー、中学時代の同じ組のやつらだよ」
「そ、そうなんだ……」
莉音はクラスは違ったので、正直あまりよく知らないのだ。
顔くらいは見た事あるかも…程度。
それにもとより大人しいタイプの莉音。
男子とは会話する事なんて元からあまりなかった。
それに比べ紫音のフレンドリーな性格は凄いと改めて思う莉音。
「今帰り?遅くね?」
「学校遠いんだよー。鞍光南駅まで行ってるから」
「それっと乗り換え?めんどくさそー」
「オレらはすぐそこだからな」
などと、話が盛り上がる。
「そっかそっか。私らも近い方が良かったかなー?あんたらは何してんの?」
「オレらは今遊びの帰りだけど?」
「へー、いいなー。遊んで帰ってもこの時間なのかー。やっぱ近い学校の方が良かったかなあ」
しつこい言い回しの紫音。
「……」
「うぐっ」
「?」
無言で莉音が紫音の脇腹にひじ打ちをした。
「で、何よ?姉妹ズ揃って仲良いなー。双子って」
「でしょー?」
(姉妹ズはやめろ!)
心の中で何度もツッコむ莉音。
気苦労が(ある意味)絶えない。
「そういやさ、変な噂聞いたんだけどよ…最近駅裏の公園で幽霊目撃談があるらしいぜ」
「そうそう。彼方ならなんか分かるんじゃねーの?家がお寺だろ?」
男子から謎の期待。
(お寺だからって理由…?)
なんだかイラついてくる莉音。
でもそれは決して表には出さないが。
「え、何それー。たのしそー。駅裏の公園って…すぐそこの?」
「だぜ。まあ夜は人通り少ねーから余計に見間違いとかあるのかもな」
一応は冷静な判断をしている男子達。
と言いつつも、当然…。
「莉音!ちょっと行ってみよう!毎日近く通ってるのに気づかなかった!」
やる気を出してしまう紫音。
やれやれと言った顔を思わず出してしまう莉音。
「何もないと思うけど…」
「よし、行ってみるぜぃ!」
「あ、おい!」
「またなーっ」
紫音は走りながらまた駅の中に入って行く。
「……なんかすまん」
男子が謝る。
「…いえ…いつもの事だから…。もー…」
ぺこりと頭を下げて紫音を追いかける。
「変わんねえなー。相変わらず…」
「クラス一の爆裂娘」
「クラス一の核弾頭」
「でも見た目は清楚っぽくて可愛い」
男子は声揃えて言うのだった。
とまあ信憑性も低い駅裏の公園へ出た。
日も暮れ落ちて暗くなっている。
駅裏と言っても、少し距離が離れている。
200mくらいだろうか。
さすがに田舎といえども、駅付近は栄えてる。
その分ごちゃごちゃした道筋だ。
「駅裏の公園ってここだよねえ」
ひっそりと佇むなんの変哲のない公園。
いわゆる遊具タイプの小さな公園だ。
公園に幽霊が現れる…なんてよくある話である。
以前琉嬉が子供の霊との遭遇していろいろと面倒事に首を突っ込んだ事がある。
「なんか感じるー?」
辺りを見回しながら莉音に聞く紫音。
滑り台のてっぺんに登って公園全体を見回す。
「何もないってば。もう帰ろう?お寺の人達心配するよ?」
「んー、おっかしーなー。マジで単なる噂に過ぎなかったのかね」
ひょいっと滑り台から滑って降りる。
「しゃーない、帰ろっかー」
紫音も諦め始めた時。
莉音が公園とは別の方向を向いていた。
「…莉音?」
「あれ、さっきまであんな家あったけ?」
「は?家ー?」
公園から続く、狭い道。
そこに並ぶ住宅。
莉音が指差している家…は、周りと比べても一際古い、木造丸出しの家だ。
「…いや、別にそんなの気にしてなかったけど…なんで?」
「ううん、さっき通った時は無かったっ」
力強く言う。
「見間違いじゃないのー?てかよくそんな事を覚えてるよね…」
紫音は全く記憶にない。
ただただ、やみくもに公園を探して来ただけだからだ。
公園はすぐ見つけたのだが。
毎日通ってる駅だけに周辺の土地勘は何となくある訳だし。
「…そっか。そういう事なんだ…」
莉音が独り言のようにぶつぶつと喋り出した。
すると古い家に向かって歩き出した。
「ちょっと、莉音どーしたの?」
少し強めに肩を掴む。
はっと我に返る莉音。
「あ、紫音。ごめん…ちょっと」
「……はいはい、呼ばれましたね。あの家に」
呼ばれた。
紫音はそう言う。
鋭い霊感がある者は、霊的に強い場所があるとついつい足を運んでしまう…というのがある。
霊感が高い莉音や紫音は時折そういう「誘い」に乗ってしまう事がある。
ただ、普段はそうならない為に修行はしてるのは勿論、魔除けとしてる霊具を身に付けてる。
琉嬉の場合は鈴型の髪留め兼髪飾り。
そして莉音と紫音は…、実は見えてないが数珠型の小さな腕輪をしている。
色も琉嬉とは違う、目立たない茶色系統の色。
その魔除けを付けてても、効果が薄い時がある。
つまりは……。
「この家、なんかヤバめだって事だなっ。うん」
門の前で仁王立ちしている紫音。
「どうする?入ってみる?」
「駄目だよ、さすがに…不法侵入だよ?」
「いやいや、莉音が入ろうとしてたじゃんか」
「…それは…」
ぽんっと莉音の頭に手を置く。
「そういう感知力高いところは琉嬉姉に負けないくらいなんだなー。世話の焼けるお姉ちゃんだね」
「う…うるさいっ。そういう時だけ姉扱いするんだから」
「にっひひひひ」
取り敢えず二人は玄関の前まで進む。
明かりはないし、回りの家は明かりはついている。
中には誰もいないのか、それとも超早い就寝なのか。
表札などかかってなく、誰の家なのか不明。
それと妙なのは、古い家なのに独特の古臭さの匂いがないと言う事、
さすがにその奇妙な雰囲気に紫音も気づく。
「…誰もいないみたいだぞ」
「だよね」
「しっかし暗いな…。携帯の明かりくらいしかないなあー」
紫音は自分のスマホを取り出し、ライティングモードにする。
「琉嬉姉やみゆ先輩みたいに強力な懐中電灯でも持ち歩くかー、今度から」
「いやいや…あの二人普段からそんなもの持ち歩いてるの?」
「らしいよ」
いつも懐中電灯を持ち歩く女子高生…。
やっぱり普通じゃないと思う莉音だった。
「ピンポン押しても誰も出てこないし、ていうか鳴ってない気がするんだよねー?」
「いやいや、押すなよ」
思わずきつい口調で言ってしまう。
莉音らしくもない。
「玄関も鍵開いてないし…、庭の方見てみる?」
そう言うと速やかに庭先へと向かった。
「なんなのその行動力……。でも…」
ふと、玄関隣の窓を見る。
カーテン越しでも分かるくらい真っ暗だ。
「周辺住民に見られたら間違いなく通報ものだよこれ」
手入れのされてない庭。
草が生え放題。
木はない。
裏手に回ると物置小屋が見えて来た。
扉は開いていたが中には何もない。
「ちぇー、宝箱とかあると思ったのになー」
「あるわけないでしょ」
「でもさ、不思議なんだけど…霊的な感じ…しないんだけどなんだろこの違和感」
「……うん」
二人は家の裏側に出る。
どうやらこの家には裏口が無いようだ。
結局ぐるっと回って正面玄関に辿り着く。
「しっかしまあ古い家だねー」
トントンと玄関を叩く。
誰もいないと分かってるのに取り敢えず無駄に叩く。
「だーれかいますかー?」
「だからいないって……」
当然ながら返事は帰って来ない。
しばらくする事1分、2分…。
「やっぱ帰ろっか~。特に何にもないっぽいし?」
「うん…」
二人が背を向けた時だった。
カタンッ。
何かが床に落ちた音。
屋外の音じゃなく、家の中からだ。
「おーっ?莉音何か落とした?」
「わ、私じゃないよ~」
「ですよねー?」
当然驚く二人。
心霊現象に慣れてるとはいえ、妙な雰囲気の中自分らが立ててない物音がなるとそりゃ怖い。
「中からっぽいんだけど…?」
「どうする?やっぱり入ってみる?」
「だからダメだって!そもそも開いてないでしょ?」
「いや、開いてるぞ?」
「えっ」
「えっ」
なぜか紫音まで「えっ」と繰り返すように言う。
軽くパニックになる二人。
「…さっきまで開いてなかったんでしょ?」
背筋がゾッとしてくる莉音。
「あ、いやー。うーん。そうだねえ。開いてなかったね~」
「え?なんで……?」
「知らないよー。入れって事なんじゃない?」
紫音は怖がるどころか、楽しそうな顔をして玄関の戸を軽々と開けた。
「ちょっと!紫音!」
結局莉音も釣られるがまま、入ってしまう。
「わおっ、きれーな家ー」
「ほ、ほんとだ…」
古い家は物が多くてごちゃごちゃしてる。
お世辞にも綺麗とは言い難い…、そんなイメージが多い。
無論、双子が住んでるお寺の離れの方は古いので物が沢山残っている。
一緒に住んでる修行僧の弟子らもいるため人が多いせいもあるのだが。
おかげでお堂以外はごちゃごちゃしてるので綺麗とはさすがに言えない。
しかし入った家の中は不思議とがらんとしてるくらい、物が最低限しかない。
埃が被ったような様子もない。
外から見たら廃屋かと思うくらいの外装だったのに。
「おかしいねえー。幽霊いないのに…ポルターガイスト現象みたいの起きてる」
「たしかに…霊の気配ないけど……なんで?」
「…ふむ。妖怪の仕業?」
霊ではなく、なんらかの妖怪の仕業なのではないか。
そう推測する。
「ねえねえ、嫌な予感ビンビンするねー?」
楽しそうにはしゃぎ始める紫音。
能天気というか恐怖心が麻痺してるおバカさんなのか。
取り敢えず、靴を脱いであがってしまう。
「お邪魔しまーす」
「誰もいないよ」
「なんとなくだよ、挨拶は人として最低限しないとねっ」
「…こんな状況でマナー云々ないと思うんだけど…?」
とまあ、結局莉音も着いてきてしまう。
居間の方へすぐ出る。
中を覗いてみると、これまた綺麗にされている。
当然、一番目につくのはテレビ。
「ねー、このテレビ年代ものじゃない?」
「年代ものって……あー、たしかに…」
今の時代にはもうあまり見ることのない、奥行きも場所を取るブラウン管のテレビ。
それもどうやら今の薄型に切り替わる前身のテレビでもない。
もっと、もっと古いものだ。
まだ10代である双子はさすがに分からない型。
「うちの残ってる古いテレビより…なんか古い感じしない?」
「うーん…本当だね」
紫音が何度もスイッチを押してみるが電源がつかない。
「…テレビつかない。やっぱ無理か」
「何してんの…紫音」
「お、みてみて、これビデオデッキ。わー、これえっちぃやつだあ。えーぶいてやつだ、AV!」
「いいからそんなの見つけなくて!」
紫音が手にしてたビデオ。
やらしい単語が並ぶタイトルからにしてアダルトビデオっぽい。
「んーと……何々、週末はいつも…」
「読まなくてよろしい!」
べちっと派手に頭を叩かれる紫音だった。
特別不可解な事はない。
ただただ、何の気配もない家。
「あ、そうだ…」
「どうしたー、りのーん」
思い出したように莉音が何かを探し回り出す。
「カレンダーとか、新聞ないかな?」
「カレンダー?なんでー?」
「日付を確認するのっ。琉嬉姉やみゆ先輩が建物から人がいなくなった時期を把握出来るからって」
「…いなくなった時期……?」
そう。
毎日取ってるような新聞や、飾られているカレンダーから止まった日付を見れば、
建物から住んでいた者がいなくなったタイミングが分かるというのだ。
廃墟巡りなどをしてるみゆがよくそういったものをみて廃墟になった時期が分かってノスタルジーを感じる…などと言ってたのを
莉音が思い出したのだ。
「カレンダーねえ…あ、あるよほら」
明かりを壁の方へ照らす。
するとカレンダーが出て来た。
「……ねえ、日付からすると…大体40年くらい前だよ?これ」
「え?マジで?」
紫音も近くで確認する。
「あらー、ほんとーだねー」
「新聞も…カレンダーと同じ月…でも年代はカレンダーと同じ年代で止まってる」
「…どーゆーこと?この家は40年も昔のまんまで止まってるって事?」
「みたいだね」
急に寒気がしてくる。
たまに聞こえる車が通る音。
それはたしかに聞こえてくるし、家の中でも感じ外の物音。
ここはたしかに存在している…そう解釈する。
「ねー、そもそもさっきの落ちたような音って…何?」
「……そういえば、物が落ちた形跡なかったね…」
家の外でも聞こえたくらいだから、それなりの大きさの物が落ちたと思うべきだ。
「不可解…不可思議…」
ブツブツと小さく呟きながら独り言の莉音。
「莉音?どうした?」
「……でもないし…」
「莉音!」
少し力強く手を引っ張る。
「あ、ごめん…。何?どうしたの?」
「…まーた一人の世界にトリップしてたよ」
「え、嘘?やだー、危ない人みたいじゃない」
「いや、だから危ない人状態だったって」
まるで漫才のような掛け合いの二人。
同じ顔してるから余計にややこしいというのか。
「でもこの家…絶対普通じゃない」
「そうだなー。普通じゃなさそうだな…」
一通りぐるっと回る。
二階建てなので一応二階も回る。
しかしこれといったものはなし。
よくある心霊話で仏壇の方が怖い、怪奇現象がある…などと言われる。
その仏壇を探してみたが仏壇らしきものがない。
大抵日本は仏教系統の人が多いので仏壇を置いてる家も沢山ある。
「うーん、ここは仏教徒じゃないのかな?」
「それはあるかも…てか、今何時?」
「8時半くらい」
スマホの画面で時間を確認。
「明日体育祭だよ?こんな所で体力使ってる場合じゃないよ。もう帰ろう」
「仕方ないなー。こう、派手にポルターガイスト的なの起こるの期待してたのに」
「まだ心霊シーズンには早いってば」
結局何もないまま家を出る事に。
誰もいないうえに、ほぼ不法侵入。
通報されないうちに早く出て行こうとするため早足で先に出て行く莉音。
「でも、なんで鍵が開いてたんだろう…?」
外から聞こえた物音。
そして開いてなかった筈の鍵が開いていた。
その不可解な現象に理解出来ずにいた。
霊的なのも感知せず、妖怪らしき者もいなかったのだ。
彼方家でもある双子姉妹が全く何も気づかないというのはあり得ない。
だからこそ不思議に思っている。
パタパタッと小さな足音を立てながらも早歩きで家の敷地の外に出る。
莉音はそこで振り返る…と、紫音の姿が無かった。
「…しの…ん………?」
紫音どころじゃなかった。
「嘘……?」
家自体が無かった。
「…え?!おかしいよ!なんで?なんで家がないの?!」
さっきまで中にいた家がまるっきりないのだ。
丁度家と家を挟んで、真ん中だけ空き地状態。
草は生えっぱなし状態。
ただ、家があっただろうと解かるのが理由が、塀だけが残っているという事。
塀もかなりボロボロ状態だが。
そして家ごと、紫音の姿も無い。
(……まさか…いや、……どうしよう…、お父さんやお祖父ちゃんに連絡して…でも…)
ここはまさに子供的考え。
家族にばれたら面倒だし怒られるだろう。
そんな子供じみた考えが先に出てきてしまった。
(琉嬉姉に連絡した方がいいかも)
そこでなぜか頼られる従姉妹の琉嬉。
莉音は一人残された状態。
この謎の不可解な現象の光景を目にして、震えが止まらなかった。




