#82 加賀家、龍翔がんばる
「ふむ…。大きなネズミが入り込んでるな」
「ネズミ…ですか?なら今すぐ駆除に」
「いやそれは龍翔達がやってくれるだろう」
渋い声に、渋い出で立ち。
そして渋い髭で色付きの眼鏡。
背も180くらいあって、細見の渋おじさま。
加賀家の現当主、加賀龍太郎。46歳。
日本霊術会の幹部にして、鞍光市を中心に日本中飛び回っている。
「血相変えて遊希が飛び出して行きました」
「そうか。少しは休めばいいものを」
「そこは妖怪ですから」
「…妖怪も人間も関係あるまい」
龍太郎と会話している秘書のようなスーツ姿の女性。
眼鏡をかけていて、少し青みがかったようにも見える、綺麗な黒髪。
知的な雰囲気を醸し出している。
「理羅。守りを固めておくんだ。まったく厄介なのが近づいてきたもんだ」
「はい」
理羅と呼ばれた女性は、スっと闇の中に消えるかのように姿が見えなくなる。
「こんな田舎街に何の用だか…」
洋室のような部屋。
自室だろうか。
落ち着いた雰囲気の部屋ではなる。
その部屋のソファから立ち上がる龍太郎。
「やれやれ。霊術会…一斉討伐より大変かもしれんな」
「さて、いかがですか?」
「なかなかのもんじゃないか?」
君沢と対峙するように立っている龍翔。
「さて、お付きの妖怪さんはどうでしょうかね?」
「夜紀の事か?ま、大丈夫だろ」
別々の行動をとっているようだ。
夜紀の姿はない。
回りの手下共と戦ってる様子。
森の奥底からバキバキッと何かが折れるような音などがしてくる。
「なぜ執拗に狙う?」
「いえ、加賀家に用事があるのですよ。それは貴方達が拒むから…力ずくで、ていうね」
「…へへっ、暴力で解決なんざサイテーだぜ」
「かもしれませんね」
詰め寄る君沢。
追い詰められてるのは龍翔の方だ。
「ただで終わるワケにはいかねーな」
でも諦めはしない龍翔。
構えを変える。
「ふむ…?」
「いつも式妖怪任せじゃないって事を知らせてやらねえとな」
両手をクロスさせ、そのまま右手を後方に伸ばす。
弓矢のような動作。
そしてそのまま霊撃弾を放つ。
「ほほぅ…まだそんな隠し技が」
しかし軽々と避けていく君沢。
「バカヤロー、これが奥の手じゃねえよっ」
最大に溜めた霊撃弾を撃つ。
ズドンと音と共に君沢の足元が爆風を起こす。
「素晴らしい威力ですね」
「うるせー。弓道部でも入れば良かったかね」
ほとんど外れる。
もとより命中するとは思ってない。
相手が強敵であればある程、当然回避力が高い。
巨躯な妖怪相手であればそれはもう、命中するが、相手が小さければ小さい程当然的が小さいのと一緒。
ましてや動き回る。
(最近になってやけに動きが活発だ…、大体何を狙ってやがる?)
龍翔には思い当たる節がない。
なぜ相手がこちらを狙うのか。
一度は対戦している。
が、相手は遊希を封じ込めた力の使い手。
迂闊に飛び込んでは龍翔自身が動きを封じ込められるかもしれない。
(逆に…裏を返せばこんなに活動的となると…何かを急いでるのか?)
見た感じは龍翔が追い詰めてるように見える。
君沢は逃げ回ってるだけのように見える…のだが。
「誘ってやがんのか…」
どんどん家から離れていく。
さすがに昔から住み着いている土地。
距離感覚は体に染みついている。
「どうしました?もう終わりですか?まさか…そんな事もないでしょう?」
「ムカつくなあ本当に。あ、俺ってそうそう怒るタイプじゃないんだぜ?」
「はは、そうですか」
「アンタと俺、相性バッチリだな。真逆で!」
これまで以上にないくらい霊力を溜める。
「む?」
「一撃必殺がダメなら……数ならどうよ?」
「なるほど…」
身構え方を変える君沢。
警戒を強める。
「翔翼」
無数の霊撃が龍翔の手から放たれる。
5個や6個というレベルじゃない。
数十個レベル。
普通なら避けきれないだろうという数だ。
それもかなりの広範囲。
「ああ、これは危険ですね」
君沢の方へ全て飛んで行く。
最初の方は避けきれてもそれ以外の無数の攻撃が君沢の方へ尚も飛んで行く。
激しい衝突音。
「お~、思わず防御壁作りましたけど、耐え切れませんね」
「それはどーも」
その隙をついて接近する。
だが。
「お見通しってワケか」
「ですね」
君沢の右手から龍翔に体に直接、電撃が放たれる。
バチンッと一回だけの強烈な轟音が響く。
「うげ…近づき過ぎたか…。ったく、超反応だな」
「お褒めありがとうございますね」
大したダメージもなかったのか。
君沢の方は余裕さが見える。
「ちっ、俺もまだまだだな」
「どうです?痺れ具合は?」
「サイテーだぜ」
全身が痺れるような感覚。
呪いの正体なのだろうか。
体がなかなか動かない。
「フフ、お付きの式妖怪さんがいないと大変ですね」
「全くだ」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべる龍翔。
「…はて、まだ何か奥の手でも?」
「あるぜ。飛びっきりのがな」
すると指を差す。
その方向には何もない。
「はて?何が…ぐっ?!」
君沢の体がくにゃっと折れ曲がったかのようになると、そのまま吹っ飛んで行く。
そのまま木にぶつかる。
が、なんとか体勢を取り戻す。
「なんとまあ…」
スタッと着地する小さな姿。
琉嬉だった。
「おっす。大変そうだね龍翔君」
「そっちこそ無理して大丈夫かい?」
「結構大変」
少しは体を回復したがそれでも君沢を吹っ飛ばした。
しかも飛び蹴り。
「やれやれ、こんなコトだろうと思ったよ」
「ふむ。琉嬉がどうしても気になるっていうからな」
「來魅。頼む」
「おっけー」
「…伝説の妖怪…來魅…ですか」
君沢の表情が一変した。
本気の顔つきだ。
「全力で行くぞ」
「それは楽しそうですね」
來魅が飛び掛かって行く。
「そっちこそ大丈夫?」
「なんとかな」
琉嬉に抱き起されるような形になる。
意外に力がある琉嬉に、ちょっと驚く龍翔。
「あっち來魅に任せておこうか。と言っても、時間制限ありだけど」
「そっか。……しかし妙だ」
「何が?」
「他に手下が何人か居たが…攻め込むにしても数が少ない」
「なるほど…」
琉嬉は戦っている來魅とは真逆の方を向く。
「…なんだかんだでわからねー事ばかりだけどな」
お手上げポーズの龍翔。
「僕もだよ」
琉嬉は御札を取り出す。
囲まれている。
低級の霊力を持つ、妖怪達だろうか。
妖怪と言っても、獣…そう、犬の姿をしている…が犬ではない。
顔が犬ではなく、爬虫類のようか…例えるなら、そう。
カメレオン的な…。
ようするに手足が長い、毛むくじゃらなカメレオン。
「気味悪いな…おい」
「あいつの式妖怪か?」
「いや、…あの女だ」
琉嬉の視線は一人の女の姿に移っていた。
堂々と姿を現す。
「ヤッホー。また会えたね♪」
「…京都で会った女か」
「アラ、覚えてくれたぁ?」
「レミー、なんちゃらって言ってたな」
「名前まで覚えてテくれたの?嬉しいわ~。ちっちゃなロリ退魔師サン」
「ロリは余計だこのやろう」
レミー・チェイン。
香港から来たと言ってた女性。
この女性も半妖の仲間らしい。
「おてやわらかに~」
「…こちらはHPもMPも少ないってのに厄介だね」
「ゲームに例えるのは琉嬉ちゃんらしいね」
体力的に残り少ない琉嬉にはかなり厳しい状況だった。
御札もまともに操れない。
真霊気どころか、通常の霊気を使った攻撃すらまともに出来ない。
動き回ってるしかない。
なんとか走れるくらいまでは回復してるが、身動き取れない龍翔連れて動くのも大変だ。
「非常に面倒くさい。参ったね。悠飛も早く倒してくれよな」
悠飛は…と言うと、苦戦する夜紀と一緒に戦っている。
龍翔の所に向かう前に合流していた。
そちらは悠飛に任せて龍翔の方へ向かったのだった。
「うーん、やばいなあ…あとは來魅頼みかな」
ふと來魅がいると思われる方向へ視線を向ける…。
が、何が行われてるが分からない。
來魅といえども、相手の術罠にかかってしまえば御終いである。
日頃から油断は本当にするなとは言ってある…のだが。
「ごめんねえ~。アタナ達、お邪魔なのだから、潔く消えて頂戴ね~」
「残念ながらお断りしときます」
「あら、お釣りはいらないのよ~」
「意味わかんねえっ」
レミーが攻撃を仕掛けていく。
霊撃…のようには見えない。
小さい竜巻のような物が複数。
それを操り人形のように両手をくねくね動かして竜巻を移動させる。
「なんだありゃあ…」
「気流を操る…風使いだね」
「へぇ~……っと、あぶねっ!」
竜巻が横切った。
危なく龍翔に命中する所だった。
「竜巻だからって当たっても痛くないんじゃねーの?」
「いや…かまいたちって知ってるでしょ?」
二人は走りながらも会話をする。
余裕があるのかないのか。
「あー、風で切り刻むってやつだろ?たしか妖怪でもいたような」
「そうそう。でも科学的に風圧で斬るなんて事は難しいんだってさ」
「へぇ…詳しいな」
「風意外のモノであれば…?」
琉嬉は顔は前を向いたまま、後方に指を差す。
「ん…?」
大量のナイフが飛んでくる。
それもクルクル回って。
竜巻と一緒になって異様な光景だ。
「なるほどな…」
飛んでくるナイフを避ける。
が、数がいかんせん多い。
「とんだ物理攻撃だなあ…どうする?」
「琉嬉ちゃんはMP切れかい」
「いえす」
「冷静だね…」
その数およそ、20本以上。
とんでもない数だがどこに持っていたのかと思うくらいだ。
気付くとレミーも目の前と言える程に近づいていた。
「終わりね?」
「んー、それはどうかな」
ニヤつく琉嬉。
ガシャンッといっぺんにナイフが地面に落ちた。
凄まじい数だから音も激しかった。
「大丈夫ですか?龍翔様」
「遅いぜ、遊希」
「すみません…」
巨大な黒い壁。
よく見ると艶やかな色合い。
遊希の髪で作られた壁だった。
どんだけ髪の量があるんだと思うくらいに。
「頑丈な髪の毛だね」
「…うるさいっ。借りは返したわよっ!」
「はいはいどーも」
「あらあら?また援軍?次は妖怪?」
「多勢に無勢だね~」
クスクスと笑う琉嬉。
「たぜいに…何?」
キョトンとするレミー。
日本のことわざにちょっと理解がついていってないようだ。
「どうせ数が多い方が勝つって意味だよ」
「ざっくばらんとした答えだな」
龍翔のツッコミ。
ニヤつきながらも琉嬉は大量の御札を取り出した。
それを空中にばら撒く。
「やっちゃって~」
気怠そうに言う琉嬉。
それ以上は何も言わない。
が…、
「…あー。そういう事か、なるほどな。遊希!」
龍翔が何かに気づいた。
宙に舞った御札に攻撃しろ。
まさにそんな目をしている。
遊希もそのアイコンタクトをすぐさま理解した。
「はい!」
遊希は髪の毛で御札を突き刺していく。
するとボフンッという音と共に、弾け飛ぶ。
「きゃっ!?何?」
一気に沢山の爆風が巻き上がる。
「すまねえな、お姉さん」
龍翔が振りかぶって、思いっきりレミーの腹あたりをストレートパンチした。
ドグッと聞きなれないような鈍い音がする。
「うっ!?」
「ちぇ、浅かったか」
レミーは間一髪ガードをしていた。
が、パワーが勝っていたのかレミーはそのまま吹き飛んでいく。
「さて、逃げるよ」
遊希が髪で琉嬉と龍翔を包むようにする。
すると大きな影が現れてさらに包み込まれる。
音もなく、スッと消えて行った。
「…逃げられた~。も~」
ぺしっと、近くに木を蹴っ飛ばす。
葉っぱが数枚落ちてくる。
「……もしもしぃー?」
スマホを取り出し誰かと連絡を取る。
「あ、私よ~。ソチラはどうかしら?。あー、うん、ぼちぼち?オッケィ」
会話はすぐ終わり、スマホをしまう。
「うーん、でも目的は達成出来たから良しとしますか~。漂ちゃん生きてるのかシラ~。
私は日本の最強妖怪と戦うなんてまっぴらごめんよ」
右手をゆっくりと上に挙げる。
すると、近くに居た毛むくじゃらの妖怪達が一斉に姿を隠す。
「失礼ですね~。私は生きてますよ」
ひょっこりと君沢が森奥から現れた。
「あー、生きてたー。良かったネ~」
「やれやれですよ。まさかあの來魅さんがねえ」
「強かった?」
「いえね、存在は知ってましたよ。勿論、彼方…琉嬉さんでしたっけ?あの方と大体一緒にいるって事もね」
見た感じそこまでボロボロな様子も無い。
なんなく來魅から逃れてたようだ。
「ふーん。アンタがそこまで逃げ回ってたなんて、相当強いのね?」
「そうですよ。それはもう…鬼神の如く」
「キシン?」
「ああ、すみません、分かりにくかったですか?ようするに神がかり的に強いって事ですよ」
「あらそう、よく生きて帰れたのネ~」
ケラケラ笑いながら言うレミー。
「ふふ、まぁ生きてただけ良しとしましょうか」
言いながら歩きはじめる。
レミーもそれに着いて行くように動き出した。
そして二人共その場から離れた。
スタタッと、着地する面々。
琉嬉達だ。
包まれた髪の毛の壁を解く遊希。
疲れたのか、無言のままだ。
「どうする?一旦家に戻る?」
「……そうだな。それよか、他の人らは大丈夫なのか?麗未亞ちゃんは?」
「麗未亞は家に帰らせた」
「そっか。なら大丈夫か…」
ほっとする龍翔。
「一応護衛つけさせたけど」
「護衛?」
「うん、優秀な護衛さん」
琉嬉は麗未亞に一応護衛とは大げさだが、わざわざある人物を呼び寄せて家に送らせたようだ。
「…なんかなぜか金髪のあの人を思い浮かべるけどな」
「思い浮かべてるやつで正解だよ」
「お、おう…」
兎に角も、3人は加賀宅へ向かった。
「…おーい、誰かいるかー?」
家中はがらんとしている。
荒らされた形跡はない。
が、人の気配がない。
「…幻術のせんはない?」
「いや、特に感じないけど」
広い家なので全部回るのは時間がかかりそうである。
「私が先行して見てきましょうか?」
「いや、バラけるのはまずい」
飛び出そうとする遊希を制止する龍翔。
「お、いいねそのリーダーシップ」
「一応副会長だしな」
琉嬉も龍翔も疲労しきっている。
ここで単独行動起こしたら先程のようにピンチに陥る可能性が高い。
だからある程度まとまって行動しようという事だ。
「妙だな…。まさか、な」
「全滅とか?」
「こら、小娘、ネガティブな事を言うなっ」
ぽくっと軽く頭をゲンコツされる。
「いたいなー。てか、そんないかにも日本の妖怪みたいな姿して、ネガティブとか横文字言葉使うなよ~」
「うっさい!私は現代日本に生きてる妖怪だっ」
まるで漫才のような会話をしながら奥へ奥へ進む。
「親父が帰って来てるって言ってたな…まさかやられたか?」
父親、龍太郎の部屋へ向かう。
だが鍵は開いており、もぬけの殻。
誰もいない部屋に取り敢えず中へ入る。
「誰か来た形跡ある?」
「いや…荒らされてないところ見ると…あっちか」
窓から見える、庭先。
暗くてよく分からない。
そもそも琉嬉はまだ見慣れてないせいかよく場所を把握出来てない。
何が何だか分からない状態だ。
「こっちだ」
龍翔の後に続く琉嬉。
案内されるがまま。
「これはあれだね…RPG的なものだろ?」
また琉嬉がゲームに例えて物事を言う。
「ははっ、かもな」
結局外にまた出て来た。
そして龍翔の行く場所に付いて来た結果、裏庭の所に出た。
先程龍太郎の部屋から見えてた場所だ。
遊希が寝かせられていた所とは反対側の小さな離れの建物。
「考えられるのはここしかないけど…まさかここまで調べられてたとしたら…気持ち悪い事だな」
「逆もまた然り……ってね」
「あー……まあ、そうだよなぁ…」
「何の事です?」
「いや、なんでもねえよ。さて行くぜ」
扉を開ける。
当然のように鍵が閉まってない。
開けた形跡がある。
中に入ると、真っ暗だ。
パチッと明かりのスイッチを押す。
一気に明るくなる。
荒らされたような感じは見受けられない。
ダンボール箱、木箱、そしてよく工場とかで使ってるようなプラスチック製の箱などが乱立している。
何かの物置なのだろうか。
奥に扉がある。
「あのさ、ひょっとしてだけど」
「ああ、わざわざ言わなくてもわかってるぜ」
「でも敢えて言うけど…やっぱ陽動だったんじゃない?」
「…手厳しいな琉嬉ちゃん」
奥へ進む。
地下へ降りていく階段があるだけだ。
「困ったもんだぜ…まったく」
遊希がいた部屋と同じような感じで開けた部屋に出た。
「親父ー。生きてるかー?」
龍翔が普段出さないような大声を出しながら歩き進む。
暗がりで分かりにくい。
スマホの明かり頼りで進む。
すると琉嬉は大きな霊力を感じ取った。
「待って、誰かいる」
「龍翔様…」
「おー、親父…生きてたか」
「む…う……龍翔か?それと遊希と…そこの小さい子は?」
「彼方琉嬉ですが…おじさん大丈夫ですか?」
「む…君が彼方家の…」
人気配…それは龍太郎だった。
見事にのされてたのか。
倒れていた。
「マジで大丈夫かよ?死んでるのかと思ったぜ…」
「ああ、情けない姿見せてしまったね。年は取りたくないものだ」
肩を借りてなんとか起き上がる。
ズタボロ…まででもないが、どうやら戦った後のようだ。
周辺が物が飛び散っている。
「何があったんだ…?」
「ああ、なんかデカイヤツが現れてな…」
「おじさん、それってなんか白い髪の女もいませんでした?」
「いや、いなかったな。一人だったな。チャラい服装してる若い男だった」
「…違う奴か…」
一瞬琉嬉はこの前一戦交えた、充盛とかいう巨人とも言える大柄の男と戦った。
でもどうやらその充盛という男のではなさそうだ。
「説明してくれよ。なんでうちが襲われたんだ?」
と、突然軽快なメロディが流れる。
「あ、ごめん。…來魅か」
琉嬉のスマホが鳴り出した音だ。
「來魅か。あー、うん。分かった、ちょっと待っててよ。
って、ことなんで、詳しい話を聞く前にここ出ません?」
「…それもそうだな、親父。歩けるか?」
「馬鹿にするな」
移動を終え、家の居間へ集合する。
來魅は制限時間のある中、ほぼ最大限に戦ったらしい。
だが、上手い具合に君沢には逃げられたと話す。
途中で悠飛らとも合流。
悠飛らが相手してた妖怪共も一斉に引き上げたと言う。
夜紀が言うには統率の取れた行動のようで、なんの合図もなく、攻撃をやめてあっさりと引いた。
そう話すのだ。
おそらくは、あのレミーという女が手を引いた時と同じタイミング。
琉嬉はそう解釈する。
「えらい手際の良さだったな…やっぱり陽動だったんだ」
「トップレベルの奴等自らが陽動に出るとか…そりゃいい連携だわな」
納得する龍翔ら。
「で、ええと、おじさん。詳しい話ください」
「…そう、だな」
龍太郎は重い口を開いた。
「各霊術名家は、「封印の魂」をいくつかに分けてそれを所持している。
その「封印の魂」を解く為の、技法を記した「鍵」をな」
「…封印の魂……聞いた事ないかも。來魅知ってる?」
「いや、知らんな」
來魅は首を横に振る。
一応、その昔大いに暴れ回った來魅。
それなりに知識はあるのだが知らないと言う。
「封印の魂…それってウチが昔から守ってるってやつか?」
「お前の頭でも覚えてたか」
「大した気にしてなかったしな…で、それを狙われたのか?」
「…そうだな……」
「鍵と言っても…巻物みたいなものだ。
封印を解く鍵となってる」
龍太郎が淡々と説明する。
他の者は黙って話を聞いている。
「各名家に伝わってる。同じような「鍵」がな」
「……えと、何?つまりはあいつらは何かを復活させようとしてるって事?」
「…封印と言ってるからそうなのだろうな」
「にしても、突然過ぎない?」
ごもっとも。
唐突は話過ぎて実感が湧かない。
そんな話聞いた事がまずない。
「俺もおとぎ話かと思ってたよ」
「…知らせるべきとも思ってなかったしな。お前はまだ高校生だし」
「こういうの親バカって言うんだぜ?」
「ぷっ。見た目に反して優しいんだね」
クスクスと笑う琉嬉。
「こら、小娘!龍太郎様で笑うなっ」
「良い良い。遊希。さて、説明を続けようとするか」
封印の魂…と呼ばれた巻物。
霊術会所属の各名家に所持し、封じている。
という話だ。
「そもそも名家と呼ばれる家系…全部知ってるか?」
龍翔が琉嬉らに問う。
「いや…ごめん、あんまし実は知らない」
「だろうと思ったぜ。まあ説明してやるよ」
そう言うと、立ち上がり腕を組む。
「先ずはうち、加賀家、だな。
そしてあとは我がふかしぎ部の面々だ。
まどかの宮森家。
柚羽の鳴神家。
唯子先輩の志崎家。
そして現会長の桜月家。
あとは、御衣木家、灯唱家、御影家、柳原家、陽ノ浦家、緑川家、義楓院家。
この12個の家系がいわゆる霊術名家だな」
「…お、多っ…」
「まあ、単に霊術十二名家って、五大家に対抗して呼ばれてたりしてるけどな」
霊術会でも大きな力を持つ名家。
それが12もあると聞き驚く琉嬉。
「ほほぅ、そうなのか…まだまだ勉強不足よの、琉嬉よ」
「いやいや、うちって別に霊術会とそんなに関わりないし?
てか、うちは独立して普通の家庭の家なんだから、そこまで深く関わりないんだよ元々」
幾度なく普通な家…を強調する琉嬉。
「んー、って事は…今後各名家の所に現れる可能性があるって事?」
「だろうな」
不穏な空気が一気に流れる。
「霊術会も馬鹿じゃないさ。警戒を強めるだろう。と言っても私がこのザマじゃ説得力ないが…」
「で、結局その「鍵」は奪われちまったのかよ?」
「…悔しいがそうなるな」
それから説明が続く。
「鍵」となるものは名家全てに伝わっている。
だから合計で12個。
だが、事情があったりなんなりで、いくつかは霊術会本部に保管されているのもある。
名家の中でも力が強い方である加賀家にもあった。
「…大体それを集めてどうなるの?まさかがしゃどくろみたいな妖怪でも封印してるとか?」
「……妖魔王と呼ばれた、人間…いや、半妖がいる。おそらくは…それの復活を目論んでるのだろう」
「妖魔王…?」
妖魔王…と、聞きなれない言葉。
何をもって妖魔の王なのかさっぱり分からない。
「文献に載ってるのかな…」
お寺の書物庫を思い出す。
「來魅に付いての本を探し回ったなあそういえば」
「私は有名人なのだな」
偉そうにする來魅。
「かなーり昔の話らしいぜ。200、300年前?」
「江戸時代だったと聞いてるな」
「げっ、江戸時代…來魅が封印された時よりもっと大昔じゃん!」
見当もつかないレベルの昔の話に驚いてしまう。
「私達妖怪ですら分からない時代ですね」
遊希や夜紀ら妖怪は人間よりは遥かに寿命が長い。
ちなみに遊希は50歳前後。
夜紀も40歳前後と、妖怪としてはまだかなり若い部類。
「お主らも比較的若い妖怪だろう?私だって封印分差し引いても…60年しか生きておらんわ」
「…160歳のロリババァ…」
ボソッと龍翔が思わず呟いてしまう。
「なんか言ったか?」
「いやー、なんでもないぜえ」
奇妙な話になってきた。
妖魔王…なんてものがかつて存在してた。
來魅よりも以前…遥か昔に。
「名家ってそんな昔から続いてるの?」
「陰陽師が栄えた時代かららしいぜ」
「ま、名家とか言われ始めたのはそれこそ100年以上前くらいだがな」
「てか、親父…喋れる元気あるな~」
「そうでもしてないと気が紛れんからな」
余裕がある龍太郎。
「私は悔しいです。龍翔様、龍太郎様…」
冴えない表情の遊希。
「私も同じ考えです」
夜紀もだ。
「俺もだ」
内面は腸わたが煮えくり返ってるであろう。
そう思う琉嬉。
(…冷静だな龍翔君。………正直、僕が真霊気使ってさえなければ…って悔やんでも仕方ないか)
自分の未熟さを改めて実感する。
そもそも一人だけじゃかなり厳しかった。
だから、來魅や悠飛と一緒に戻って来た。
何かが気になり、勘を頼りに加賀家宅に戻ったのだ。
結果、トンデモナイ事に巻き込まれた。
毎度の事だが。
「単純な話、奴等は妖魔王を復活させようとしてるってだけの話ですよね?」
琉嬉が話の流れを戻す。
「そうだろうな…」
「…困ったね。あいつら一人一人が僕らと同等か、それ以上の強さ」
「そんな奴等が一辺に襲って来たとなると、さすがに辛いわな」
「だから私がいるのだろ?」
強気な目をしている來魅。
これほど頼もしい存在はない。
「お前…もうちょっとその突撃姿勢どうにかならない?油断して変な幻術とかかかるタイプのくせに…。
だから逃げられるんだよ」
「む、何を言うか。お前様こそ真霊気使って霊力すっからかんのくせに」
「なにをー」
「ほらほら、喧嘩しない。そろそろ帰るよ二人」
一番年下の悠飛に止められる。
「はい、どうどうどう~」
「おいおい…琉嬉ちゃん、お姉さんだろ?」
実の妹に羽交い絞めされる琉嬉。
軽く足が宙に浮いてる。
それだけ軽いのだろう。
來魅は妖怪二人に同じように羽交い絞め状態。
「…実に面白い光景だな」
「だろ?部活でもこんな感じの見れるんだぜ」
加賀親子もさすがに笑っている。
「後の事はこっちに任せておいてくれ」
「うん。ごめんね、あんまり力になれなくって」
「いやいや。十分さ。おかげで死ななくてすんだし」
死ななくてすんだ。
そこまでの怖い話。
どうにかこうにか、負傷者は出たものの、死亡した者はいない。
「…正直さ、僕も悔しい。そりゃ、真霊気使ったせいもあるけど…」
「わ、私が悪かったわよっ。」
「いいんだ、お主は悪くない。こやつが勝手の使ったから悪いのだ」
「…來魅様……」
一瞬妙な間が開く。
だがそれを打破するかのように、龍翔が琉嬉の頭にぽんっと手を置く。
「龍翔君?」
「まー、いいさ。たしかに琉嬉ちゃんのその力は凄まじい分、琉嬉ちゃん自信が動けなくなるというネックはあるけど。
結果的に助かったのも事実だしな。ありがとな」
「…ど、どういたしまして」
面と向かってありがとうなどと言われると照れてしまう。
ましてや同い年の異性。
あんまりそんな事なかったので妙に照れてしまった。
「がらになく照れておるのか?琉嬉よ?ふふふ」
「うっさい。今度こそ帰る!じゃ、またね!」
「おう、気をつけてな」
手を振る龍翔。
琉嬉達3人はようやく帰れる。
「後始末が大変だなあ…。まったく……」
携帯を取り出して誰かに連絡を取る。
連絡先はまどかだ。
「連絡は先に行ってるとは思うけどな…。はぁー、嫌になるぜ…寝れるかなこれ?」
「龍翔様。大丈夫です。今度は私が命でかえても守ります」
遊希が気合い入れた言葉。
今まで見た事ないくらいの目をしている。
「私だって守りますよ!」
そこで夜紀も割って入るように言う。
「夜紀は黙ってて!」
「貴方こそまた呪いなんてかけられないようにしないとね?」
「なにをー」
「やる気?!」
「……マジで寝れるかなこれ…」
本気で気が滅入る龍翔であった。
翌日、霊術会に加賀家宅に起きた事件が知れ渡る。
かなりの衝撃だったのか、部活でも深刻な雰囲気になっていた。
勿論、名家や霊術会所属であるまどかや叉羅沙も知っていた。
そして五大家であるみゆや凛夢も姿を現す。
当然耿助も出席。
龍翔は残念ながら家の都合ということで学校を休んだ。
そこで、緊急ふかしぎ部会議が行われる事になった。
…ただ、人数が多いので非常に狭っ苦しい状況に。
「さて、こうして緊急会議を行うのは…初めてですが…議長を努めます宮森です」
「書記を担当します城樹です…」
「監査はわたくし、夜栄守寧音です!」
「いよっ、似合ってますっ、まどか議長っ」
「いえーいいえーい、かっこいいよー先輩方~」
茶々入れてるのはみゆと紫音。
「ありがとうございます~」
「…緊張感ないなぁ…毎度思うけど」
すかさずツッコミで拾う悠飛。
先日の状況の当事者の一人でもあるため、どうにもこの場のノリについていけない。
「さて、琉嬉さん。状況をお願いします」
指名されると立ち上がる琉嬉。
「あー、もう知ってると思うけど、先日龍翔君の所で襲撃がありました。
偶然居合わせた僕らですけど…それはもう面倒でした。
どうやら半妖の奴等は「妖魔王」っていうのを復活させようとしてるっぽいです。
それは各名家の人らが詳しく知ってるかもしれないけど。
なので、一言。
奴等に出会ったら本気で殺す覚悟がいいです。以上」
そう言い終えるとドカッと勢いよく座る。
なんとも物騒な内容だが。
「…困りましたね~。本気で…ですか」
「ねえねえ、よく分かんないけど…龍翔君大丈夫なの?」
心配する護。
「大丈夫だよ。ゴタゴタで大変だろうけど」
「そっかぁ。ならいいんだけど」
安堵の顔をする面々。
「…にしても…妖魔王ね…あんたは知ってたの?」
珍しく凛夢が発言する。
琉嬉に対して聞いてくる。
「ぶっちゃけ知らない。江戸時代っていう相当昔の話みたいだし、僕ら五大家とは全く関わってない話みたいだし」
「ですよね~。おじいちゃんに聞いたけど風の噂程度しか知らないって言ってました!
わざわざ挙手しながら言うみゆ。
「妖魔王か…なんだか漫画とかゲームの話みたいだな!」
なぜか盛り上がる紫音。
「あなたはちょっと黙ってなさい」
無理矢理座らせる莉音。
「あの~…ウチもちょっと喋って、ええですか?」
影が相変わらず薄い香那巳。
無理矢理琉嬉に呼ばれた。
「はい、どうぞ前崎さん」
「…それって、名家の家系の先輩方は最初から妖魔王の存在って知ってたんですか?」
名家家系の先輩。
つまりまどかや柚羽だ。
「わ、私は所詮落ちつぶれた家なので…恥ずかしい話ですが知りませんでした…。なんせがしゃどくろで精一杯だったし」
鳴神家は鳴神家で事情があったので仕方ない。
「…なんだか怖い話ですね…」
麗未亞も一応、直前まで一緒に居た。
その分怖さがなんとなく感じる。
「僕も同じさ。…でも、この街に住んでる限り避けれないのかも…」
隆治も不安になるような事を言ってしまう。
「そうならない為に修行してるんでしょ?」
「悠飛」
「麗未亞も一緒に戦いの修行してみる?」
琉嬉が麗未亞に聞く。
「あ、え?わ、私ですか?そ、そんな戦いとか…」
「うちの教えは凄いぞー。素人だった隆治や緋瑪斗だってその辺のケンカ自慢よりは遥かに強くなったから」
不敵な笑みを浮かべる琉嬉。
「そうそう」
「私らも教えるよー?」
そして双子姉妹も。
彼方式の教えは優秀だと、自信満々で言う。
「ぜ、善処しときます…」
「それにしても妙ね…なんだって今頃なのかしら」
「唯子先輩。居たんですね」
ふわっと上から降りてくるように現れる。
さすがはリアル幽霊部員。
「居たわよ最初から。これでも名家なんだからね」
「あ、忘れてましたその設定」
「設定って何よ!それよか…妖魔王ね…」
「知ってるんですか?」
「うん、私もよく知らないわ」
ガクッと崩れる部員達。
「でもね、桜月とか、その辺のお偉いさんなら詳しく知ってるんじゃないかしら?
所詮志崎家も潰れた名家だし」
「…唯子先輩の親族っていないんですか?」
「いるわよ、多分。ま、長い間地縛霊やってたしよく知らないけどネ」
「そうですかー。今度唯子先輩の親族らに会わないといけませんね」
ニコッとする琉嬉。
その笑顔に変な恐怖心を感じる唯子。
「そ、それは勘弁してほしいわぁ…」
「桜月ねえ。まどかからなんか聞けないの?」
「あー、なんとか聞いてみますね」
桜月なら何か知っている。
それはそうだろう。
霊術会のトップにして名家のひとつなのだから。
「先ずは、俺達は俺達で自分の身を守らないとな」
「あれ、龍翔君!」
「加賀先輩!」
「よっ。部活だけには参加するぜ」
突然姿を現した龍翔。
家のゴタゴタが落ち着いたのか。
今頃になって現れた。
表情はいつもと変わらない雰囲気だ。
ただお付きの式妖怪の気配は感じる。
遊希と、どうやらもう一人の妖気。
おそらく夜紀だと思われる。
他の皆も気づいてるのか気づいてないのか。
何も言わない。
「心配かけたな。この通り、問題なしさ」
「それなら良かったですね」
「すんません、耿助さんも…。しかし全員集合…?」
「そうだよ。緊急会議」
龍翔の出現により、変な緊張感が走る。
さっきまでの緩い空気がどこかへ飛んで行った。
「そっか。悪いな。まるで俺んとこが発端みたいになってるけど」
「…遅かれ早かれそうなるとは思ってましたよ。君達が去年の修学旅行で事件があった時から」
耿助がどこからか出したのか。
お茶を龍翔に差し出す。
「すみません。てか、どんな話してたんだい?部長さん」
「んー、今度ちょっかい出されたらぶっ殺せって言ったの」
「………お、おお…」
キョトンとする龍翔。
「琉嬉ちゃんらしいや」
笑い飛ばす。
釣られて他の者も堪え切れなくなったのか、ドッと笑いが起きる。
「で、どうします?私達五大家の方は?」
寧音が琉嬉に寄って小声で囁くように言う。
言われた琉嬉も負けじと小声でこう返した。
「…僕らは僕らで動けばいいさ。どっちにしろ当事者なんだし」
「ですよねー。俄然、燃えてきました…!」
気合い入れるかのように握り拳を作る。
目から炎が出てるかのように、ギラついている。
その様子を見ている龍翔。
「おーおー、頼もしいね~、ふかしぎ部は」
ゆっくりと龍翔の隣に現われるまどか。
普段はあまり見せない、心配そうな表情をさすがにしている。
「しかし…あれが盗まれたとなると…大変ですね」
「まぁな。正直俺もほとんど話知らなくってさ。まだまだお子様だしな」
「…ええ。私もそうですよ。所詮私達は子供ですから。権限なんてあまりない…もどかしいです」
しんみりしてしまう。
「なーに辛気臭いコト言ってるんだよ」
突然べしっと二人の背中に強い痛みが走った。
「…琉嬉ちゃん?」
「いたた…痛いですよ…琉嬉さん」
「この際名家とかいいんだよ。僕達は僕達で動けばいいんだよ?」
「…俺達で?」
ニコっとする。
その笑顔は今までで一番頼もしく見えて、且つ恐ろしく不敵にも思えた。
「さて、帰るか。鍵するよー」
「はーい」
ぞろぞろと部員達が出て行く。
珍しく全員が集まったので大人数だ。
そして最後の方まで残る琉嬉とまどか。
「ほらほら、早く出て行った。…龍翔君、帰るよ?」
「あ、ああ。すまねえな」
最後に出て来たのは龍翔となった。
「…ありがとな、琉嬉ちゃん。本当に」
ぺこりと深々と礼をする龍翔。
その下げた頭は琉嬉より下になるくらいに。
「やだなー、龍翔君。大袈裟だよ」
「みゆちゃん程にはいかないかもしれないけどさ、今度あのおちびちゃんも一緒にご馳走するからさ。
うちの料理人さん、腕は超一流だからさ。親父もお礼言ってたぜ。本当にありがとうな」
「そ、そうなんだ…はは。成り行きだっただけだよ。僕も迷惑かけたし…」
寝込んだ事と、使い果たした霊気がなくて戦力にならなかった事だろう。
照れ顔を隠すように後ろを向く。
「何やってんのー?琉嬉姉帰るよー」
「そうだそうだー、お腹空いたよー」
「燃費悪いですね~、護先輩って~」
「人を車みたいに言わないでよ~」
などと相も変わらずにぎやか。
「分かってるよ。でも鍵渡して来るから」
「あ、僕が持っていきますよ。一応顧問ですから」
「え、いいんですか?」
「構いませんよ」
にっこりと微笑む耿助。
鍵を琉嬉からまるで奪い取るように、ササッと貰い受ける。
「……あの人も抜け目ないよなあ…」
耿助を見送る三人。
「じゃーそーゆー事だから、帰ろうよ」
「そうですね」
「ああ……そうだな。そうするか…」
龍翔に笑みが浮かぶ。
不安でしょうがない。
そんな一日を過ごしていた。
が、学校に来たら不安が一気に消し飛ぶ。
いい仲間がいる。
なんて少々ジジくさいような事を心の中で思いながら校舎を後にするのだった。




