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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十四章   ~部員青春編~
81/92

#81 加賀家の謎、謎

 琉嬉にはいまだによく分からない事があった。

それは、加賀龍翔について。

鞍光高校生徒会の副会長。

霊術名家のひとつ、加賀家の嫡男らしいということは分かっている。

他の部員達の家族構成、どういう家庭の生まれなのかはなんとなく知っている。

まったく知らないのはあとは叉羅沙くらい。

実際は叉羅沙よりは家系の事を知っているつもりだが、妙にどういう家柄なのか本人からまだ聞いた事がない。


 龍翔はいつものように式として主従している使役妖怪がいる。

遊希だ。

琉嬉は一度、龍翔と戦っている。

その時に遊希とも少しだけ戦った形だ。

「ねーえ、龍翔君?」

「…ん?何だい?」

 ぽけーっとしてた龍翔に声をかけた琉嬉。

放課後の部室。

たまたま先に来たのは二人だけだった。

珍しいツーショット。

というか、おそらく遊希は近くにいるだろうと思われるのだが。

「よくよく考えたらさ、僕さ、龍翔君の事いまだによく分からないんだよね」

「……なんだなんだ?やぶらかぼうに?」

「いや、だって、家に行ったことないし」

「…うちに来たって楽しくないぞ?」

「そういえば他の奴等の家も行った事ないなー。卒業する前には一度行っておきたいな」

「お、おう…そうか」

 龍翔もさすがにちょっと琉嬉の考えが理解出来ない。


「話には聞いたんだけどさ、龍翔君の家って、お金持ちらしいしょ?」

 唐突の質問。

目が点状態の龍翔。

「…誰から聞いたんだ?」

「まどかと叉羅沙」

「…あいつらめ」

 チラっと聞いた程度。

まどか宅もそこそこいい家柄っぽさは出てた。

ただそのまどかさえも加賀家は凄いと言う。

「あのなぁ、そんな大層なもんじゃねえぞ?大体本物の大金持ちがいるだろ」

「みゆかー。あれは反則だね。漫画みたいだもん。本物のメイドさんとかいるんだし」

「…言っとくけどうちはメイドなんていないぞ?」

「え?そーなの?」

 なぜかガッカリする琉嬉。

何を期待してたのだろうか。

「お前さんの所の方が珍しいだろ?お寺さんだろ?」

「それね、よく言われるけど父さんの実家がお寺なだけであって、僕らは分家みたいなもんだから。

至って普通の家庭ですよーだ」

「そうなのか?」

「まぁまぁ、どっちにしろ龍翔さん加賀家は凄い家柄ですよ?」

「あ、まどか」

 まどかが直接部室の方へやって来た。

生徒会の仕事は今日は休み…という訳でもなく、部室に寄ってから行くようだ。

隣に通じてる戸の方へ向かう。

「龍翔さんも行きますよ?」

「へーい。今日はみんな遅いな」

「掃除当番とか委員会とかいろいろあるからじゃない?よく知らないけど。

悠飛は軽音部も掛け持ちしてるし」

 どうしても少し音楽をやりたい悠飛。

「琉嬉さんはしばらく部室にいるんですか?」

「誰か来るかもしれないし、部長としてね」

「ふふ、いい心がけなんですね」

「うるせいっ、さっさと生徒会終わらせて来い」

 追い出すような言い方をして手でしっしと追っ払う動き。



 たまたまなのか。

この日は部員の集まりが悪かった。

特に騒がしいみゆや紫音がいないだけでこんなに静かだとは。

そう思い始める琉嬉。

おとなしい方の悠飛や麗未亞や隆治、凛夢らが、複数人いるだけでも「動き」があるだけでも少しはにぎやかさはある。

だが、今日は琉嬉と麗未亞だけ。

麗未亞は自前の者なのか、文庫本をチラチラ読みながらもなぜかチョロチョロしている。

小柄なだけあって小動物的に可愛らしい。

なぜか唯子の姿も見当たらない。

幽霊だからといって毎日居る訳でもないのだろうが。

琉嬉は特に気にする事もない様子。

「生徒会忙しそうだね」

 琉嬉から話しかける。

「あ、え、そ、そうですね…」

「…相変わらず気弱だねぇ」

 ぴょこんっと椅子から飛び降りるように立ち上がる。

「見た目は派手なのに気は地味。そこんところをちょっとだけ鍛えないとね」

 麗未亞のおでこを人差し指でつんっと突っつく。

「はぁ…」

「よっと、終わったぜ」

「琉嬉さぁん」

「あら、まだおったんや」

 生徒会が終わったのか、生徒会メンバー達がぞろぞろとやって来る。

「大変そうだね」

「そうですねー。私達三年生は最後の生徒会活動になりますからね」

「あ、そーなの?」

 何も知らない琉嬉。

「そうだぜ。6月最後は体育祭だしな。忙しいんだぜ」

 琉嬉の頭に手をぽんっと置く龍翔。

年下扱いしてる感じを出している、が、お互い同い年だ。

「勿論、私が今回も実況担当します!」

 気合い十分の寧音。

「今年最後になりますから!」

「ああ、そう…」

 大した興味を向けず。

「さて、私は今日帰りますね!見たいアニメがあるので!」

 寧音は堂々と言い放ち颯爽と部室を出て行く。

「…ブレないなアイツは…」

「まったくですね。では、私達も所要でお先に…」

 まどかと叉羅沙も出て行く。

「仲良いね」

「そうですねぇ。一番付き合いが長いせいかもしれませんけどね」

「そうやな。ま、その話はおいおいするとして…って、ウチは別にまどかと同じ用やないからね」


 そして、あっという間に人数が減る。

残ったのは琉嬉と麗未亞。

そして龍翔の3人。

「…暇だね」

「まぁそうだな」

「ですね…」

 取り残された3人は会話が続く事もなく、数分が過ぎる。

だがその空気を断ち切ったのは龍翔の方からだった。

「ところで、お前さん達、本当に高校生ですかね?」

「…何が?」

「琉嬉ちゃんはともかく…麗未亞ちゃんも小学生くらいに間違えられないかい?」

「え?え?あ、いや…それはあまり…。たまーにですけど…いつもは中学生くらいに…」

「だろうね」

 小柄、童顔、美少女。

麗未亞も琉嬉に負けないくらい、年齢とは不釣合いな幼さを醸し出している。

「…どうも、琉嬉ちゃんの場合同級生と話してる感じしないんだよなあ。あ、麗未亞ちゃんは後輩だから問題ないけど」

「それどーゆー意味?」

 げしっと、龍翔の頬に琉嬉の水平チョップが命中していた。



「だからなんだって俺んちに来るんだ?」

「罰として」

「だからなんの罰だよ」

「僕らを子供扱いした罰」

 どうも不機嫌状態の琉嬉。

結局気にしていた龍翔宅へ向かうと言い出した。

かなりな理不尽。

「都合でも悪いの?」

「いや、そういう訳じゃあ、ないんだが…」

「あの、いつも居る着物の女性はどうしたんですか?」

 麗未亞がおそるおそる龍翔に聞く。

というか霊感が高い麗未亞には遊希の姿が見えていたようだ。

「あー、遊希か?今はいねえぜ」

「そーなんだ。どーりで姿見ないと思ったよ」

「まぁ、いろいろあってな」

「……いろいろ、ね」

 琉嬉は何かを感じ取った。

龍翔は特に表情も変えずに淡々としている。

そこで琉嬉の余計なお節介が発動した。

「龍翔君、何か悩み事あるんなら部長の僕に言ってごらんなさい」

 と、突然言う。

それを聞いた二人は目が点状態。

「あー……別に悩みとかじゃねえけど」

「なぁに。同じ学校同じ学年、そして同じ部活動仲間としても好みでしょ?」

 一方的に会話で畳みかけて来る。

龍翔はやれやれと言った表情をしながら、

「…どっちみち早くそうなるかと思ったよ」




 帰宅する前、琉嬉らは駅まで歩いて帰る。

その徒歩の途中。

「それはそうとなぜ一緒に着いて来るんだ?」

「え?だめ?」

「いや…だめというか…」

 少々困惑する。

「あ、あの、すみません先輩…」

 なぜか麗未亞まで一緒。

「う~ん……なんとなく分かってたはいたけど…とんだ世話焼きだね、琉嬉ちゃん」

「最近自認してるよ」



 龍翔宅は学校からほど近い。

とは言っても歩いては面倒な距離。

かと言って電車で一駅…というレベルでもない。

普段はバスで10分くらいの距離を通学している。

時間ある時は歩いたりしてる。

結局歩いて行く事に。


 龍翔は常々思っていた。

部長である、琉嬉の考えがよく理解出来ない事が多々ある。

それは他の部員達も同じだが、琉嬉だけ群を抜いている感じがする。

普段は無表情無口でおとなしい。

でも話してみれば案外いろいろ喋ってくれる。

ゲームばっかりしているイメージだが何かと考えてるし、こうして突拍子もない事をもしでかす。

最初は「小さい天使」なぞ、言われるような美少女の転校生が来た…という噂は龍翔の耳にも勿論届いてた。

だが一瞬にして「凶暴な天使」と言われる程、気性が荒くて強い。

その理由は名家である龍翔は「彼方」の名前を聞いて、すぐピンと来た。


 そして一度、手合せしたがその強さは計り知れないと思うくらい強かった。

龍翔にとっては、納得した出来事。

(よく考えてみれば…遊希と二人がかりだったんだよな…あの時。

それでも勝てる気がしなかった。

無論、こっちも本気を出してなかった…とは言い訳みたいに聞こえるが、琉嬉ちゃんも完全な本気を出してなかったようだし…。

実際本気の力出したら俺らは生きてなかったかもしれんしな~)

 と、一人頭の中で独り言を延々と繰り返す。


 駅から降りてしばらく歩く事10分程度。

あっという間に民家が少ない、少々山中とも思えるくらいの所になる。

みゆの家と似た雰囲気な、木々が多い場所。

回りは畑やら牧場やらが見える。

まさに田舎風景…とも言える。

すると唐突に開けた場所に出る。

道があちこちから繋がっている。

「ねえ、龍翔君!」

「お、おう?どうした?」

「家って、あれ?」

「ああ、そうだぜ」

 琉嬉が指を差している建物。

どどんっと、綺麗な大きな大きな家。

よく見てみると作りが綺麗…というか新しい。

「明治時代くらいに建てた物を二年くらい前にリフォームしたんだよ」

「へぇ…金持ちじゃん」

「リフォームしてる間はどうしてたんですか?」

「…いや、離れに建物があってそこにしばらく過ごしてたかな?」

「ほぇー…」

 呆気にとられる二人。

思った以上に金持ちそうだった。

「いやそれでも港咲には勝てんよ」

 謙遜する龍翔……だが、二人は思わずぼーっと見惚れてしまう。


 大きく囲まれた高い塀に、玄関まで着くまで少し時間が掛かる庭先。

三人がようやく玄関に着いたと思ったら、戸が突然勝手に開いた。

というか、使用人か何かだろうか?

40代前後くらいの女性が戸を開けたようだった。

「お帰りなさいませ、龍翔さん」

「ああ、ただいま…今日は学校の友人を連れて来たよ」

「…あらまあ、そうですか。それはそれは…」

 その女性が一瞬止まる。

が、すぐに会話を続けた。

「女の子でしたか。また珍しいですわね~」

 クスっと笑いながら龍翔に言う。

「まあなんとなく流れ、でね。ほら、入んなよ」

「それじゃお言葉に甘えて…」

「お邪魔します」

 琉嬉は使用人の女性がなぜ一瞬止まったのか、なんとなく察した。



「広い……加賀邸…恐るべし」

「そっかー?その辺の大金持ちよりは下だよ」

「一般庶民家庭の僕らからしたら大いに凄いんです」

「まぁ、言っても…昔から続いてる霊術名家の一族だからな。ご先祖様ありきだぜ」

「ねえ、来る時にあった畑とかも?」

「それは違うよ。近くの農家さんのだよ」

「へえ」

 霊術名家…実際は琉嬉らの五大家と大差はない。

琉嬉はそんな気がしてきた。

どうしても五大家の方が位が上なような伝わり方をしている。

実際、こういった霊術などが優れた家系が鞍光を中心に沢山ある。

「で、俺の家に来てどうしたいんだ?」

 率直な質問。

「いやぁ…それはまぁ…」

 チラっと琉嬉は麗未亞を見る。

「せ、先輩!なんで私を見るんですかぁ~?」

「麗未亞が行ってみたい…って事にしようかなって思って」

「…ある意味最低な先輩だなぁ、お前さん」

 ヘラヘラと笑い飛ばす龍翔だった。



 大きな客室のような部屋に案内される。

基本和風な作りだが、客室は洋風。

広々としていて、明かりもシャンデリアっぽい装飾。

琉嬉にはインテリアなんぞ詳しくもなんともない。

ただただ、高いだろうなぁという安直な考えしか出てこない。

「さて、琉嬉ちゃん、察しがついてるんだろ?」

 龍翔自ら氷入りのジュースをお盆に乗せて持ってくる。

自分含めた人数分の3つ。

「んー、逆に気づかれてた?」

「伊達に霊術名家の子孫やってないさ」

「大体、加賀家って何やってるのさ?みゆの所みたいに貿易商みたいなのでもやってるの?」

「いや、そこまで大層な事をしてないさ。マンション経営とかしてるみたいだけどな」

「へー…そうなんだ」

「表向き…はな。単に霊術会のお偉いさんやってるだけだし」

「それはそれで凄いんじゃないの?」


「??」

 麗未亞だけ話についていけてない。

取り敢えず出されたジュースに手をつける。

ちんぷんかんぷんな顔をしている。

その顔を見た琉嬉。

「あれ、麗未亞って知らないんだっけ?」

「ええと…名家とかなんとか…よくわかりませんけど…」

「んーと、これって最初から説明しないとダメ?」

 部活始めて二ヶ月が経とうというのに、未だに詳しくは知らない麗未亞。

「いえ、今でも無くても大丈夫ですっ」

 わたわたと手を振る麗未亞。

「麗未亞がそう言うならいいや。詳しい説明は後にするとして……」

 くるっと首を龍翔の方に向ける。

その龍翔は微動だにもしない。

「厄介事抱えてるんでしょ?龍翔君?」

「…隠し事は出来ないな、琉嬉ちゃんはほんとに…」

 頭をポリポリと掻きながら、立ち上がる。

「こっちだぜ」



 案内された場所。

先程居た客室から大きく離れ、一旦外に出る。

そして近くの小さな小屋…とも言えないくらい大きい建物。

普通の一軒家とはまではいかないが、小さな寮みたいな所に案内された。

「……妙だね」

「何がですか?」

「この建物に入ると霊気が遮断される」

 変な違和感を即座に感じ取る。

「気づいたかい?何も説明しなくてもすーぐに感づくんだもんな~」

「褒め言葉として受け取っておくよ。ところで…これは結界の一種か」

「ご名答。妖や悪霊など封じ込める簡易的な建物さ」

「なるほど…」

 なぜそのような場所に案内されたのか。

その答えはすぐに解かった。


「遊希…さん?」

「ああ。そうだぜ」

 扉を開けると、中は物がほとんどない倉庫のような場所だった。

だが、すぐに目に飛び込んで来たのは、陣の中に仰向けになって寝かせ付けられている遊希の姿。

「…なんです?これ…?」

 異様な光景に驚く麗未亞。

少し震えてるのが分かる。

「そっか。遊希さん、何かの術をかけられた?」

「そうさ。「呪い」…といや分かるか?」

「呪い…」

 琉嬉は腕を組んで少し何かを思い出すかのように考え込む。

「そもそも発端は何?」

「…つい最近さ。霊術会の動きが活発になってきてさ、それにたまたま付き合わされたんだよ」

「………半妖?」

「……」

 不敵な笑みを浮かべて、静かに頷いた。



 龍翔は琉嬉が柚羽と共に、新しい刀を求めて遠出してたと同じ時間。

霊術会からの指令のようなもので動いてたという。

その時戦った相手。

「半妖の組織だと思われる奴と戦ってな。それが今は御覧の通りだ」

「なるほど」

 遊希は死んだかのように、眠りについている。

身動き一切取らず。

「意識は?」

「ない。かれこれしばらくこの状態だ」

「ふむ……」

 右手を口元にして、またもや何かを考える仕草をする。

琉嬉の中で何かをまとめようとしている。

「まぁ、あれこれ手は尽くしたんだけどな。顧問の参堂さんにも頼ったんだけど…。

どうにも出来ないって。

これをどうにか出来るのは……」

「彼方家だけ、とでも言ったんでしょ?」

 そう言う琉嬉に対して、無言で口をニヤリとさせて親指を立てるポーズをする龍翔。

どこまでもお気楽な雰囲気を出す。

「人が悪いな耿助さんも」

「だろ?」

「それに、こうなってならなんで早く言ってくれないの?」

 ふぅ、とため息交じりに言う。

「いや、こいつの性格見れば分かるだろ?

加賀家の人間ならまだしも、外部の、ましてや五大家の人間に助けられた…なんて言ったらマジギレしかねないだろ?」

「あー、たしかに」

「さて、部長の知らない間にも何かと動いてるんだよ。事態はね」

 あからさまな、「話し方」。

「うーん。頼み方……へったくそだねえ、龍翔君?」

 滅多に見せない笑顔を作る琉嬉。

(あ、笑った!)

 麗未亞は心の中で思わず叫んだ。




 呪いは琉嬉の真霊気でいとも簡単に解いた。

解いた…というよりは、初めから呪いなんぞかかってなかったかのように、後遺症もなく吹き飛ばした。

目が覚めた遊希はなんだか分からないと言ったような表情で起きた。

ただ強力な術だったみたいで、真霊気をフルパワーに近いレベルで使った。

おかげで琉嬉はその場でダウン。

なぜか遊希とは逆に寝込む羽目に。

「…なんでこの小娘が寝てるんですか?」

「うん、まあ~、お前さんを助けるためかな?」

「……そ、そうですか…。そうですか…」

 なぜか二度言う。

二度言う程、少し驚きが見える。

「もしかして私と同じ術に…?」

「おーい、同じにするなー、違うぞー」

 音の強弱ない棒気味な言い方で琉嬉が声を出す。

「大丈夫ですか?」

「麗未亞は心配してくれるんだ。よしよし、良い子だ」

 そう言って麗未亞の頭を撫でる。

「えへへ…」

 嬉しそうな顔をする。


 厄介事。

それをまた持って来た。

今度は龍翔が。

というか、元々琉嬉が首を突っ込んだのが原因であるが。


 客間とは別の客用の部屋。

そこに寝かしつけられていた。

その場で突然倒れたからだ。

どうしても真霊気をフルで使用すると立っていられなくなる程体力、気力、霊力を失う。

「例を言っとくんだぜ。遊希」

「……う、そ、そうですね…。例を言うわよ、小娘。あ、ありがと……ね」

「はいどーも」

 不服そうな顔をしている遊希。

それも照れ隠しなのは誰が見ても分かる。

その態度にはもう慣れたのか軽く流すように返事をする琉嬉。

でもどこか満足そうにも取れる表情。

(お互い素直じゃねーなあ。俺もだけど)

 静かに見守ってるだけの龍翔であった。



「それはそうと、何があったの?」

「それは…」

 遊希が言おうとしたところを遮るように龍翔が前に立つ。

「俺が説明してやろう」

「龍翔様……」

「半妖組織と思われる奴と接触した。キミザワ・ヒョウとか言ってたな」

「キミザワ…もしかして、スマホに入ってた名前の奴か…?」」

「細くて棒切れみたいな奇妙な奴だったよ。裏腹に…なかなかの力だったけど」

 素直に認めてるような発言。

相当な手練れのようだ。

「で、やっつけたの?」

「いや、逃げられた。というかこっちも逃げた」

「……どっちだよっ」

「ま、お互いに痛み分けってやつだ」

「…それっていつの話?」

 眉間にしわを寄せる琉嬉。

「お前さんが柚羽ちゃんの新しい刀を求めて旅立った時くらいかな」

「………あー。そっか。なら…」

「近くに居る可能性大」

 不安になるような事を龍翔がキッパリと言い切る。

「嫌な予感するね」

「…あの、話がミエテコナインデスガ??」

 麗未亞は何が何だか分からない。

そしてなぜか片言な喋りになる。

「えーと、説明しなきゃだめかな?」

 龍翔の顔を見る琉嬉。

その目線を向けられた龍翔は無言で首を縦に振る。



「理解した?」

 コクンコクンと何度も頷く麗未亞。

「いや、でもそれなりに話を聞いてるんだろ?」

「ええ…そうですけど…実感がなくって…」

「…ふーん、そうかい」

 ちょっと疑い気味の龍翔。

「ま、麗未亞は置いといて」

「ええ、そんな!むぎゅうっ」

 むんず、と麗未亞の顔面を左手で押しのけ琉嬉は布団から立ち上がる。

やはり少し足元がおぼつかない。

「大丈夫か?」

「まーね。で、聞きたいコトあるんだけどさ」

「聞きたいコト?」

 そうして琉嬉は部屋を出て行く…と思いきやひょこっと顔だけを部屋外から見せて、

「トイレどこ?」

「………女の子なのにデリカシーないな、ほんとに」


 時刻は既に夜の7時を過ぎていた。

琉嬉は1時間近く寝ていたようだ。

寝ていた…と言っても仮眠みたなものだ。

うっすらと何かと起きてたような起きてないような感覚。

言わば、電車などで一瞬だけ寝て気づいたらすぐ降りるべき駅の近く…みたいな感覚。

それでも少しは体力は回復する。

「さて、僕らは帰るよ」

「あー、送っていくかい?」

「んーん。大丈夫。強力な迎え用意してるから」

「迎え?」

 琉嬉がちょいちょい、と指を差す。

「ほら」

 手をふりふりと振っている明るい髪の少女。

來魅だった。

「よくみつけられたな」

「妖怪なめちゃいけませんぜ、ダンナ」

「おう。今の時代このすまほとやらのまっぷ機能でな、ある程度の住所さえ分かればあっという間に…」

 スマホを使いこなす幼女妖怪。

「いや、なんつーか。この家によく来れたなって」

「ふふん、これしきの結界私の前では無力にすぎもがが」

「おしゃべりはいいから」

 今度は來魅の口を塞ぐ。

「そいじゃ、またね」

「ははっ、たしかに最強のお迎えさんだ。気を付けてな」

 龍翔は笑顔で送るのだった。



「よろしいのですか?龍翔様」

「まぁね」

 と言い、そのまま黙り込む。

「……力を貸して欲しいのでは?」

「やめろい。加賀家の名が廃る」

「ですよね」

 ニコッと笑顔になる遊希。

「さぁて、遊希も復活したし」

 くるっと背を向ける。

「これから忙しくなりそうだ、ぜ」

 意味深な言葉を残し、家に戻って行く。

遊希も後ろに着いて行く。


(くっくっく…。利用してるのがこっちなのか、それとも利用されてるのか…)

 一人心の中で笑う龍翔。

と、思ってたがどうやら外にも出てたらしく、遊希に、

「龍翔様?何か面白い事でもありました?」

「んあ?いや、なんでもねえさ。今日はゆっくり休むといいさ」

「あ、ええ、はい…」



 とぼとぼとした歩きで駅へ向かう琉嬉達。

「あ、あの…なぜ、來魅さんが?」

「おう、私が來魅だ。よく知ってたな」

「何度か会った事あるだろ」

 肘で軽く來魅の脇腹を突っつく。

こそばゆいような動きをする來魅。

それが麗未亞から見てもなんか可愛らしく見える。

「うむ。直接は話したコトなかったか?」

「そうそう会う機会ないしな。さて……」

「む?」

「加賀家がなんでこんな人気が少ない所にあるのか…分かった気がするよ」

 ふらつく足ながらも周りを警戒する。

「ふむ…?」

「え?なんですかなんですかっ?!」

 取り乱す麗未亞。

「なるほど。名家が鞍光に点在してる理由が理解出来たよ」

 一人納得する。




 暗くなった夜中。

深夜…とまでもいかないが、おそらく夜の9時過ぎだろう。

人通りがある訳もない、とある森中。

加賀家の裏山。

山一帯が加賀家の土地でもある。

その山の中に小さな公園風にしてある場所。

そこに龍翔は一人立っている。

(やっぱり…五大家はすげえな。特に彼方家……加賀家とは違うぜ。

……柄になく俺が嫉妬かぁ…)


 何やら武術の型をしながら動いている。

いわゆる修行…と言うほどでもないがなんらかの鍛練をしてるようだ。

「ふーっ。やれやれ…。この俺が……あれこれ考えるなんてな」

 ドカッとベンチに座る。

まだまだ夜は肌寒い…が、着込むほどの寒さでもなくなってきた。

(……そろそろ引退か。よくまあこの俺が生徒会なんてやってたな)



 鞍光高校は10月で生徒会が交代する。

二年生から引き続いて三年生になっても現生徒会は交代する事無く龍翔も含めて今年度まで続いてた。

それは交代すべき人材がいなかったからである。

そもそも、現状の生徒会が強すぎたから、とも言われている。

(ま、あの時は驚いたな。まどかが生徒会長やるとか言うし…。

ま、柄になくたまたま俺も生徒会に名乗り上げたのも悪いんだけどよ)

 今の生徒会に霊術名家が揃ってるのは偶然に近い。

叉羅沙はまどかが誘っただけで、他の柚羽や寧音は相談も何もなしに生徒会に入って来た。

元より、そういった特殊な家の人間はこうして上に立つような事をしでかす。

そんな気がしてきた龍翔。

「はー、やんなっちゃうね、まったく。

自分の限界…この若さで感じてるとか……」

 焦り。

なぜか感じる。

琉嬉の強さを目のあたりにしてる。

(分かってるんだぜ。琉嬉ちゃんだって元々の素質…五大家の彼方家としての血筋はあるだろうけど、

それをないがしろにしない努力はしてるってのは)

 ガッとベンチにチョップをする。

ミシッと軋む音がする。

少しだけ亀裂が走っていた。

「こんなに自分自身に腹を立てたのは…二回目だな」

 そっと立ち上がり、目の前を飛ぶ何かの虫に見えないくらいのパンチを放った。

衝撃波で吹っ飛んだのか、命中して吹っ飛んだのか、分からないくらいの勢いで虫は森奥に凄まじい勢いで消えて行った。

バラバラになって。


「龍翔殿。父上がおかえりですよ」

「ん?あ、ああ…りょーかい」

 その森中からそっと姿を現した女性。

しかし人間ではなさそうだ。

ウェーブかかった肩までの長さの黒い髪。

着物のような服装。

額に何かの紋章みたいのがある。

「すまない、夜紀ヨキ。今行くよ。てか、虫がそっち飛んで行かなかったか?」

「ええ。飛んできました。手足が崩壊してましたけど」

 夜紀と呼ばれた女性の人差し指に先程龍翔が吹っ飛ばした虫……の残骸。

うまく受け止めたようだ。

どうやって的の小さい人差し指にまとめたのかは不明だが。

「…さてさて、何を言われるのやら……楽しみだね」

 不敵な笑み…でもないが、苦笑いをしている。



 加賀家は霊術名家のひとつ。

その大きな役割は宮森や桜月と同じように、大きな力は勿論、財力がある。

その力を大いに活用するためこの鞍光に留まってる理由のひとつ。

それともうひとつ。

「あれ、龍翔ちゃん、こんな夜遅く何してるんだい?」

「あ、近所の坂井のおっちゃん。どーも」

 家に戻る途中。

60前後くらいの年配のおじさんに声をかけられる。

軽トラに乗っていて運転席から顔を覗かせている。

どうやら近所に住む農家の人のようだ。

近くには大きな畑がある。

加賀家意外は他の人が畑などで土地を大きき所有してる人がほとんど。

「父さん元気かー?最近見ないけど」

「いろいろあってね~。最近家に帰って来れてなくって今日久々に帰って来たんスよ~」

「そっかぁ。近所のジジババ達心配してるって言ってやってなあ」

「はは、言っておくッス」

「おー、伝えて置いてなー。町内会でも顔出してくれってな~」

「へーい」

 そう言っては足早に戻る。

「…元気なおじさまですね」

「まーな。昔からだ」

 こうして近所づきあいも良好。

ここら一帯町の有力な権力者…なのでもあるがかなり慕われてる様子も伺える。

「やれやれ。夜紀」

「はい?」

「長い夜になりそうだぜ」

「……長い夜…ですか?」

「ああ。しっかしまあ、よくここまで攻め込んで来てくれたもんだぜ」

「…そういう事ですか」

 夜紀も気づいた。

何者かに囲まれている。

薄暗い畑が広がる地帯。


「こんばんは」

 唐突に「こんばんは」などと挨拶をする声。

「お早い再会で」

「どうも」

 龍翔と夜紀の目の前に居る男。

細見だが背が高く、ニヤついた顔。

目の前に現れた姿は、先日みた顔を一緒。

龍翔は表情こそは変えていないが、右手を拳に作り替えた。

「やあ。君沢キミザワさん」

「フフ。挨拶しに来ましたよ」

「あ、もしかして狙ってた?」

「そうとも言えますね」

 ガサガサと揺れる草音。

 互いにすぐ構える。

「まったく…ムカついてくるぜ。何をそんなに執拗に狙ってくるんだか」

「なんとなく…と言えば、怒りますか?」

「そりゃ怒るぜ。誰でも、な!」

 龍翔側から仕掛けた。




 ガタッと突然椅子から立ち上がる琉嬉。

「ん?どうした?」

 ハンバーガーを口いっぱいに頬張りながら喋る來魅。

「琉嬉先輩?」

 麗未亞も一緒にまだいる。

結局三人はまだ家に帰らず、鞍光駅のフードショップに来ていた。

晩飯を、という事で軽くファーストフードで済まそうとしてたとこだった。

「いや、ちょっと…別に…」

「んー?おかしな奴め。便所か?」

「違うよっ」

 何もなかったかのように、そっと座る。

時刻は夜の9時過ぎ。

「明日も学校あるんだけどな…宿題やってないや」

「私もですー」

「ふうむ。うましうまし」

 ハンバーガー3つを軽く平らげた。

「小さいからでよく食べます事」

「ふふん。成長期だからの」

「…お前の場合はいつからいつまで成長期なんだよ…?」

 人間相手には出来ないツッコミを入れざるを得ない。

妙な会話。

「麗未亞も案外食べるんだね」

「あわわ、そ、そんな事ないですよ?多分…」

 同じくハンバーガーを2つほど食べ終えている。

まだ余裕がありそうだ。

(……みゆとどっちが食べる量多いか試してみたい…)

 謎の野望が生まれた瞬間だった。


「しかしまあ…」

「しかしどうした?」

 尚も食べるのをやめない來魅。

「奴等の狙いは一体なんなんだ」

「奴等?」

「半妖の奴等だよ。僕もこの前会ったし」

 壬珠と大男の事だ。

「この街に来てるという話だったな」

「…來魅も油断するなよ。遊希さんがあんな訳の分からん術をかけられてたんだ」

「ふむ。用心に越したことないの。ま、お前様がこれをどうにかしてくれればの話だがな」

 右手首に付けられた数珠を見せつける。

「…それは!お前が全力を出さないようにってだけで…」

「フフ、分かっておる。あくまでも「封印」という名目だって事をな」

 時折鋭い眼光を見せる來魅。

それが怖くもあり、また頼もしくもあり。

「…そうでもしなきゃ來魅という存在を納得させれないだろ。五大家にも霊術会にも」

「おかげで私を狙う輩がいなくて嬉しいくらいだ」

 そう、來魅を狙う者がいる。

それは人間だけでもなく、同じ妖怪でもだ。

「逆にお前様が狙われる始末だがな」

「だから來魅も必要なんだよ」

「そっか。なら良い」

「…仲良いんですね。お二人」

 微笑みながら麗未亞が二人のやり取りを楽しそうに見ている。

「はは、よく言われるよ」


「姉ちゃん何やってんの?」

「あれ、悠飛。今帰りか?」

「ちょっと遅くなったんだけど」

 悠飛がひょっこり現れた。

軽音部の方が遅くなったようだ。


 駅に向かう途中だった。

偶然にも帰りが遅くなった悠飛と合流する形に。

「ふむー。帰ろっか」

 そういう琉嬉。

夜空は澄んで綺麗な半分の月だった。



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