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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十三章   ~季節移変編~
78/92

#78 あなたの近くに…

#78 あなたの近くに…




 肌寒い。

もう少ししたら夏本番…だと言うのに冷える。

昼間もあまり気温があがらない。

鞍光市は海抜から高い所なのでたしかに他の地域よりは気温が低い傾向にある。

ただ山に囲まれてて、丁度平野になってるせいか、中央区あたりは気温が高くなる事も多い。

異常気象…でもないが、この地方なら当然である。


 ある日の午後。

この日は学校も午前中で終わり、昼下がりのひんやりした時間。

部活も休み。

それには部長の琉嬉が用事があるからだ。

ほぼ、毎日のようにある部活。

たまには完全休みの日があってもいい。

琉嬉が来れなくても、大抵誰かが居る。

なんだかんだで10名を超す人数になってる。


「寒いね」

「姉ちゃん、そんな短パン履いてるからだよ」

「大人の女性としてはこれくらいだな…短パン言うな。ホットパンツと言え」

 制服姿から着替えて私服になる。

相変わらず琉嬉のファッションは動きやすさ重視。

いつものツインテールではなく、ツーサイドアップ。

…なのだが普段のツインテールとあまり変わらない感じはある。

「どーこが大人だ。どーみても子供だろが」

 來魅に頭をぽんぽんと手のひらで叩かれる。

「うるせっ、お前こそ子供だろがっ!」

「ふふん、どうかな?」

 ぼふんっ、といきなり変化の術を使い出す。

すると煙の中から大人バージョン來魅が登場。

「ほれほれ、お前様がこんな大人で色気のある姿に成長するか?しないだろ?」

 見事までのプロポーション。

來魅は将来的にはこのように成長するのだろうか。

「むむむ…うるさい、お前だってズルしてるじゃんか!」

「それはそうと出かけるのか?」

 ぼふっと元の子供の姿に戻る來魅。

「あ、うん。ちょっと街中に…と言っても北神居町の方だけど」

「そうなの?学校帰りにでも寄って帰ってきたら良かったのに。

あ、でもそれだと駅ひとつ超えちゃうか」

「あー。それはそうだけど、さ」

 どうも歯切れの悪い言い方。

「?」

「む?もしやお前様、男とでーととかか?」

「違うわい」

 ぺしっ、と來魅の頭に軽くチョップ。

「むむ、のう、私も着いて行っていいか?」

「うーん……別にいーけど、ヤダって言っても勝手に着いて来るだろ?無闇にはしゃがないでね」

 渋々承諾する。

というか渋々ではあるが、割りとあっさりだ。

普段なら何かと言い争いしたりするのに。

「何か買い物?」

「ひーみつー」

「…どうせゲームとかでしょ?」

「ざーんねんー。はずれ~」

「……?」

 否定する琉嬉。

悠飛はゲーム以外に買うものなど思い当たる節はない。

「服?」

「それも違うかも」

「……でもまあ、なんでもいいけど…いってらっしゃい」

 手をひらひらして見送りする仕草。

半分どうでもいいように、適当だ。




 街中に繰り出す。

本日二度目の街中。

とは言っても学校は中央でも南寄りの山のふもとなので厳密には街中とは言いづらい。

「で、何しに街に出て来たんだ?」

「ええと…たしか…」

「聞く耳持たずか。仕方ない奴め」

 琉嬉はスマホでマップを開いて何かの場所を確認している。

來魅の声も届かないくらい集中している。


「ふむ。つまらん…。あの店楽しそうだ」

 と、足を動かした瞬間。

ガクッと後ろ首の襟元を引っ張られる感覚。

「どこ行くんだ」

「おぅふ……ちゃんと気づいてるではないか」

「当たり前だ。お前どこ行こうとした?」

「いや、そこの店に行こうかと…」

 來魅が指を差す方向。

どう見ても酒屋だった。

老舗っぽい、古めかしい作りの建物。

「…せめて子供の姿で行こうとするな。馬鹿者」

「てへっ」

「てへっ、じゃないよ…気持ち悪い」

「一応、酒は飲めるからな。年齢的にもな」

 念の為だが、來魅は100年間封印されていた。

が、元々50年以上は生きている。

妖怪としてはまだ若い部類ではあるが。

「だからって子供の姿はダ・メ・だ!」

 ぽきゃっと頭を叩かれる。

「厳しい奴め…で、お前様こそ何を探してるんだ」

「いや、待ち合わせで…」


 頭を動かさずに目玉だけ動かして辺りを見回す。

不審に思われたくないようにだ。

「何を探してる?」

「んと…あ、いたいた」

「琉嬉さぁーん」

 手をぶんぶん振ってこちらに近づいてくる中学生くらいの少年…。

じゃなく、少女。

見た瞬間一発で分かる身なり。

そして帽子からはみ出てる朱色と黒の混ざった髪の色。

「緋瑪斗、お久しぶり」

 緋瑪斗だった。


「お久しぶりですっ。今度、また特訓してくださいねっ!」

「緋瑪斗か。お主も変わらないのう」

「來魅ちゃんも!出会って一年ですよ~。そんないきなり変わりませんよ」

 この日はいつになく男っぽい服装。

適当に買ったような、メジャーリーグの野球帽だ。

ジーンズにパーカー姿。

帽子も派手な髪色を隠すためにしている。

高校生の筈なのだが小柄なので余計に幼く見えてる。

それは琉嬉にも言える事なのだが。

「おっけーおっけー。で、どうしたのさ急に」

「えーと…少し気になった事がありまして…」



 駅近くの休憩所にもなっている広場。

そこのベンチ。

人通りが激しい。

でも逆に人が多いこそ、あまり目立たない…のだが、どうしても來魅や緋瑪斗が派手な出で立ち。

なので、時折凝視してくる通行人も居る。

緋瑪斗はチラチラと周囲を気にしてるような目の泳ぎ方をしている。

(やれやれ…やっぱりまだ慣れてないよな…女になったはともかく…完全な半妖状態だもんな)

 少し同情する。

逆に來魅は大した気にもせず。

(まったく…自分が妖怪だって事忘れてるんじゃないか…?)

 あまりにも自然に溶け込んでる來魅の姿を見て思うのだった。


「ふむ…なるほどね」

 緋瑪斗の話を聞き終えた琉嬉。

話の内容はこうだ。

緋瑪斗の学校のクラスメイト。

緋瑪斗とは特別仲が良いという話もでもない。

とある女子生徒。

そんな女子生徒にまつわる妙な噂を聞いたと。

その生徒が幽霊に憑りつかれただかなんだかと言って学校に来れなくなった…。

というような、よくありそうな話がのようだ。

「なんで本人がそんな事が分かるんだろうね」

「ですよねー?琉嬉さん達や俺みたいに霊感あるんでしょうかね~。

でも昇太郎の調査では霊感があったという話はないらしいって聞いてるんですけどね」

「…相変わらずだな…昇太郎の奴は…」

 昇太郎とは、緋瑪斗の友人の一人。

オタク気質だが、妙に鋭い洞察力と冷淡な判断力と危なさを持っている。

ただ、ゲーム話になると琉嬉とよく意気投合して会話が弾む。

「…なんちゅーか…どうせ月乃とかが同じクラスなんだからなんとかしたいっ!ってぬかしたんだろ?」

「さすが琉嬉さん。俺達の事、よく分かりますねー。月乃がどうにかしたいって言ってたんで」

「当たり前だろ。なんだかんだであいつらともよく会ってたからな」

「ですよねー」

「で、緋瑪斗達ではどうにも出来ないから僕に相談した…ってところ?」

「正解ですっ」

 ビッと変なポージングと指差し。

会った時とは違う、明るい雰囲気になった緋瑪斗に琉嬉はちょっとたじろぐ。

「……ま、まあ…お前らもふかしぎ部の一員みたいなもんだからな…」

 やれやれといった顔をする琉嬉。

渋々ながらも納得する。



 そしてすぐに行動を開始する。

出来る全ての事はすぐにでも行動に移す。

琉嬉ならではの行動力。

月乃とも合流。

問題の生徒の所へ案内するために同行する。

「結局お前も着いて来るのか…」

「だって心配ですから…」

「うむ。久し振りだな」

「來魅ちゃーん、お久し振り~」

 ひしっと抱き着く。

「おう、元気そうでなによりだ」

「こらこら…月乃」

「なに、構わん」

 小さい身なりながら妙に堂々とした風格。

「ま、万が一なにかあっても來魅がいるからいいか」

「低級霊くらいなら私でもどうにか出来るがな」

「あ、俺は何も出来ないですからね?やれるのは炎を出すくらいですから…」

「炎出すだけでも十分だけどな」



 憑りつかれたと言い張っているのは緋瑪斗らのクラスメイトで同じ中学の同級生だという。

緋瑪斗にとっては特別仲が良い…という訳でもなかった。

月乃も時々話すくらい。

ただ、同じクラスになった繋がり。

緋瑪斗自身も気になって、琉嬉に連絡を取った次第だ。

「お前さんも相変わらず妙な出来事に巻き込まれるね」

「最近は慣れましたよ」

「私のせいだって言うのー?」

 不貞腐れる月乃。

「誰も月乃のせいだってまだ言ってないだろ」

「まだって何よまだって」

「……夫婦喧嘩はいいからさー。早く案内してよ」

「ふ、夫婦だなんて…」

 照れる緋瑪斗。

月乃の反応は、

「勿論私が夫ですよね?!」

「…いや、お前女だろ」

 的確なツッコミ。

「ヒメが旦那さんなんて想像つかないわよー」

「失礼な…」

「ははっ、見てて飽きないぞ、お主ら」



 痴話喧嘩みたいなのを繰り返しながらもなぜかうまく辿り着く。

緋瑪斗らの中学の同級生だけあって、家は近い。

そして琉嬉の住んでる家からもこれまた近い。

ちょっとした商店街を通り抜ける。

するとすぐ大きな公園があり、その狭い小道を通る。

なんの変哲もない住宅街。

近くではあるが、琉嬉はまだ訪れた事のない地域である。

「知らない道だなあ」

「んだな」

 琉嬉と來魅。

二人して頷きながらも月乃の後ろを付いて歩く。


 琉嬉が歩みを止めた。

「…………んー…」

 まるで呻き声のよう。

そんな妙な声を出す琉嬉。

「琉嬉さん?どうかしました?」

「いや、微かに感じる」

「感じる?じゃあやっぱり…」

「だな」

 來魅もコクンと首を縦に振る。



月乃がコンタクトを取る。

アポなしというのもあって、少々時間がかかっている。

それに霊に憑りつかれている、などと眉唾な理由に不登校状態。

骨が折れそうである。

「会ってくれなさそうかの」

 ちょっと心配そうな來魅。

「なぁに、こう言ってやればいいのさ」

「え?なあに?」

 來魅が月乃の耳の近くでコソコソと何かを話す。

すると…、

「オッケーだって!」

 なぜか了承を得た。

琉嬉と緋瑪斗は顔を見合わせる。

「…何を言ったんだ?」

「なに、有名な霊媒師が来た、と言ってやれと言ったのさ」

「……ま、まあ有名なのはたしかだけどね」

 なぜか照れながらも誇らしげな琉嬉。

(ぷふっ、琉嬉さん可愛い)

 心の中で笑う緋瑪斗。




 なんとか家にあげてもらえた4人。

肝心のクラスメイトの名は水上みなかみという女子生徒。

早速親に案内され部屋に向かう。

遠くからは琉嬉も感じていた。

だが、半妖である緋瑪斗も立ち止まる。

「ヒメ?」

「あ、いや…ちょっとなんかピリッとした感覚が…」

「うむ、それは霊気を感じ取るんだろ」

「へぇ…ヒメ、凄いね。霊感ってやつ?」

「うん…そう、だね」

 一気に気持ちが沈む。

緋瑪斗はあれから霊感がついてしまっている。


「…厄介っぽいなー」

「失礼しまーす、水上さーん?」

 月乃はなんの躊躇もなく部屋の戸を開ける。

「こんにちは…」

 4人の目線の先。

水上は、ずっと窓をみつめている。

ように見える。

「水上さん?」

「…沢城さん?それと…緋瑪斗君」

 振り返る。

寝巻…パジャマ姿だ。

見た目はおとなしそうな雰囲気の女の子だ。

黒くて肩まで伸びたセミロングでストレート。

月乃や緋瑪斗はまた違うタイプだ。

「そこの小学生2人は?」

 案の定、小学生扱いされる。

しかし琉嬉は冷静だ。

「その噂の霊媒師だよ、水上サン」

「……?」

 訳が分かってない様子だ。

当然。

見知らぬ子供が突然霊媒師と言われても訳が分からない。

「鞍光高校ふかしぎ部部長、彼方琉嬉。名前くらい聞いた事ない?ちなみに三年だから年上だよ」

「…年上?彼方…ルキ…?どこかで聞いたような…。あ!」

 どうやら気づいたようだ。

「凶暴な天使!」

 大声で叫ぶように言う。

「…なんで他校までその異名が伝わってるの……」

「あー、でも俺が琉嬉さんと知り合う前から伝わってましたよ?」

 緋瑪斗がトドメとも取れるような発言。

「そ、そうなんだ…へー…」

 琉嬉はさすがにちょっと引きつった顔をしていた。


「さて、ふかしぎ部うんぬんより、僕の家は元々霊術師の家系でね。除霊くらいなら簡単に出来るけど」

「…本当ですかっ?じゃ、じゃあ私に憑りついてる幽霊を除霊してください!」

 急に琉嬉の両肩を掴んで頼み込む水上。

急に血相を変えたので少し驚く。

「しかし、見た感じ憑かれてるような感じはせんけどな」

 來魅が水上の背中に回り、辺りを見回す。

「この子は?」

 さすがに來魅の存在も気になる。

「こいつは僕の……相棒。あんまり気にしなくていいよ」

「はぁ…」

 と言っても、ちょこまかと動き回る子供。

気にはなる。

「たしかに今は霊の気配はないけど…、どういう感じに現れるの?」

 霊気は感じる。

しかし肝心の霊自体の存在を感じない。

「夜になると…現れるんです。毎晩毎晩…。だから…」

 なぜか窓の方を見る。

その視線を合わせる水上の様子を琉嬉は見逃さない。

(窓……?なぜ窓を見るんだ?)

 しばし、推理タイムに入る。

(窓を気にしている…という事は、窓からこちら側を見てたりするのか…?)

 部屋に窓は一カ所だけ。

あとは入れる所は部屋の戸だけだ。

(あとは人が入れそうな所はない…。と言っても霊相手なら壁はあまり意味はないか。

とは言っても人が出入り出来る場所は霊も侵入しやすいには変わりないけど…)


「大丈夫?」

「うん、大丈夫…だから」

「…俺にそういう力あればいいんだけど…物理的な力しかないから…」

 残念がる緋瑪斗。

「ヒメは…うん、まあ…そうだね」

「ふむ。おかしいのー。ちと、失礼」

 來魅が水上の背中側から服を引っぺがす。

露わになった背中の肌。

別に傷も腫れてるという風にも見えない。

至って綺麗な状態だ。

「きゃっ!ちょ、何するの?!」

「いんや、憑りつかれてるなら何か疾患の特徴でも出とるかと思ってな」

「わわ、來魅ちゃん駄目ですよっ」

 後ろを向く緋瑪斗。

「お、なんでそっぽ向く?」

「俺は元々男だったんですから!」

 慌てて部屋から出て行く。

「あ、そうだったけ…」

「あははーごめん、私も忘れかけてたわ」

 月乃は笑い飛ばす。


(おかしい。憑りつかれてるなら、何かしらの影響を受けてるはずだ。

けど……顔色見る限り元気そうだし、体調面ではそんなにダメージは無さそうだ)

 水上の顔をじっと見る。

表情は優れないが、顔色は大丈夫そうに見える。

(精神面か…。それはそうと……窓…)

 ふと、思い立ったように立ち上がる琉嬉。

「ごめん、窓開けていい?」

「あ、はい…」

 ガラッと勢いよく窓を開ける。

冷たい風が入ってくる。

窓から顔を出して見回す。

これといったおかしな場所はない。

住宅の屋根が見えるだけ。


 部屋は二階。

水上の部屋の窓はベランダやバルコニーのようなものではない、直接壁。

到底人が立てるような所ではない。

(憑りつかれてる…というのはもしかして勘違いしてるだけなのか?)

 少し身を乗り出してさらに辺りを見回す。

落ちてもおかしくないくらい、凄い角度で身を乗り出している。

「琉嬉さん、危ないですよ」

「ん。だいじょーぶ」

 特に強い霊気は感じない。

感じはしない…と言っても、何かが居たという形跡の霊気は感じ取れる。

いわゆる足跡みたいなもので、それなりに強い霊力が持つ霊などが居た場合、数日間は霊気が残ってる場合がある。

念とも言われる、無意識な想い。

そういった類の霊気は琉嬉には感じているのだが。

「そうだなあ…一度何が起きるのか確かめたい…んだけど…」

「だけど…?」

「その幽霊が現れる時間とかあるの?」

「え?…大体……夜中…。12時頃とかに…」

 思い出すだけで怖くなる。

怯える表情に変わる。

「大丈夫?水上さん?」

 月乃が隣に寄り添って手を握る。

「ふむ。これは、夜になるまで待つしかないか。場合によれば泊まる事になるかもしれないけど」

「一泊…ですか?」

「明日学校休みなんですか?」

「休みじゃないよ。でもすぐに片が付ければ帰れるし…、どうせ家近いし」

「まぁ、そうですよね」

 そう、どっちみち隣の地域。

歩いてでも帰れる距離だ。


「そもそもさ、水上さんだっけ?何か心当たりない?」

 琉嬉は聞くべき質問を今更する。

普通なら最初にすべき内容の質問だ。

憑りつかれる、祟られる…そういった心霊系の話は大抵何かそれに当たる出来事があるからだ。

「心当たり…ですか」

 水上はうつむき加減でしばらく考え込む。

「そういえば……あの時…学校近くの公園で…」

「学校近くの公園?」

 同じ学校である、緋瑪斗と月乃がほぼ同時に声を揃えて発した。


 緋瑪斗らが通う、北神居高等学校。

鞍光市隣の北神居町の二校あるうちのひとつ。

こちらの方が歴史が古く、他市などからもわざわざ通ってくる生徒もいるくらい、評判のいい学校らしい。

「北神高の近くの公園って…関湧公園せきわきこうえん?」

「うん…そこの公園の近くの滝が心霊スポットだって…この前行ったんだけど…」

「ひえ…そんな話あるんだ」

 ブルッと震える月乃。

「噂だけは知ってるな…」

 琉嬉も噂の存在を知っている。

「ほれ、これかの?」

 來魅がスマホの画面を皆に見せる。

「なになに…関湧公園を流れる神居桐川かむいきりがわ

そして公園内にあるカムイ・キリの滝…。

昼間は綺麗な滝だが、夜になると一辺。

不気味な顔を見せる。よく幽霊の目撃談が多数…」

「よくある話ですね」

「そうね。わ、私は夜は行かないからね!」

「誰も行くなんて言ってないだろ」

 怖がる月乃。

「…オバケ話って弱かったけ月乃って…」

「さんざん妖怪みたくせにな」

 呆れる琉嬉と緋瑪斗。



 その後いろいろとネットで調べる。

琉嬉もその辺の話は勿論目を通した事がある。

だが別段大した気にもしてなかった。

でも実際に今目の前の人物がその噂に巻き込まれた可能性がある。

「…ここで死んだ人とかいるの?」

「さぁの。警察とやらなら知ってるんじゃないか?」

「……念の為聞いてみるか」

 琉嬉はスマホを取り出し、早速沢村刑事に連絡するために文字打ちを始めていた。

「水上とやら、お主はそこの滝で何か視たのか?」

「…あの時……滝の近くに先客が居たんですけど、会話はあまりする事もなくすれ違ったんですけど…、

滝の所に一人だけ残ってる姿が見えて…。

気が付くとやっぱり誰もいなくて…やっぱり幽霊だったんでしょうか?」

 いろいろと思い出してきた様子。

自分達が来る前に誰かが居た。

でもその時は幽霊だとは思っても無かった。

そういう話なのだろうか?

やはり、夏が近づくにつれ肝試しに来てる連中が増えて来る。

水上達の他にそういった物達が居たようだ。

だがそれに紛れ込んでいた…可能性もある。

「その残ってたぽいやつって男?女?」

「わからないです…遠かったので…。でも髪は短かった気が…」

「で、お前さんの前に現れるっていう幽霊は?」

「……男の人です…。窓の外に居たり…鏡の中に写ってたり…部屋の中を歩き回ったり…ひぃぃ!」

 気が動転しだす水上。

「水上さん!」

「大丈夫、大丈夫だから!」

 怯え狂う水上を介抱する月乃。


「ねえ、怖がってるところ申し訳ないんだけど…家以外に居ても現れるの?」

 琉嬉がさらに質問する。

「……はい、友達の家に居ても、他の所に行ってても…私の前に現れるんです…」

「あらやだ、ストーカーみたいね」

 嫌そうな顔をする月乃。

「他の場所に行っても現れるか…。たしかに、憑かれてるとも言えるか…」

 だが、妙な違和感を覚える琉嬉。

部屋の窓を10秒くらい眺める。

そしてスマホ画面に出している周辺地図を照らし合わせる。


「なるほど、ね」

「何か見えて来たか?」

 琉嬉は静かに頷く。

「きっと、水上さんはその霊を連れて来たんだ。偶然に「波長」が合ったんだ」

「波長…とな?」

「霊感が全くないていう人間なんていない。ただその力が弱いだけあって誰でも見てしまう力がある。

その場合は、相手の霊と自分の霊気の「波長」。

それが似通ってたり、タイミング良かったりすると見えてしまう場合があるんだ」

「ほほう」

「そのたまたまの偶然が起きたせいで、その霊が助けでも求めて水上さんにくっついてきた可能性大だね」

「私はどうなるんですか…?」

「大丈夫、僕らふかしぎ部がなんとかするから」

 ぽんっと水上の頭に手を乗せる琉嬉。

そして軽く撫でる。

「琉嬉さんって、見た目は子供っぽいのに…凄くアニキ的な部分あるよね」

「言えてる」

「聞こえてるぞそこ」

 ジト目で睨む琉嬉。

「ひゃいっ!」

「見た目裏腹に琉嬉はなかなかの大人顔負けの言動するからの」

 來魅は小さく笑う。



 結局夜を待った。

時刻は23時半を回る。

その間は緋瑪斗らと同じクラスという事で何かと話題が合う。

水上の落ち着きを取り戻したのか笑顔を見せたりしていた。

だが、毎夜のように幽霊が現れる時刻がせまってくると口数が少なくなる。

「そろそろ…かな」

「大人数で居ると現れない事もある。一旦部屋を出よう」

「あの…本当に大丈夫ですか…?私…怖いです」

「問題ない。天下のふかしぎ部に任せな」

 水上以外は別室へ移動した。

水上の両親はただ、友人が遊びに来ただけだと思っている。

引きこもり状態の水上の為…そう月乃は説明済み。

なんというか…案外言い包めるのが上手いようだ。


 布団をかぶったまま待つ。

琉嬉達は隣の部屋で待機。

すると、來魅が立ち上がった。

「來魅ちゃん?」

「何かが近寄ってきている」

「え?ほんと?!」

 月乃があたふたとしだす。

「この気配って妖怪…ではないですよね」

「さすがは一番弟子緋瑪斗。察しがいいね」

「いつの間に弟子になったの?ヒメ?」

「それは置いといて、琉嬉さん…!」

 険しい表情をする琉嬉。

「やっぱりというか…そういう事というか…なるほどだよ」

 自分の推測が当たってかのような言い回し。

「憑りついてなんかいなかったんだよ、最初っからね」

「憑りついてなかった…?どういう意味です?」

「滝から……こちらに向かって来てるって意味さ」

「え?滝からですかっ?」

「そう。來魅、滝へ向かって…そしてこれを」

 來魅に手渡す物。

それは数枚の御札。

「ふむ、了解した」

 來魅は窓から飛び降りる。

「緋瑪斗、月乃、水上さん頼む」

 琉嬉と來魅は部屋から飛び出すように水上の方へ向かった。




 コツコツ。

窓を叩く音が聞こえる。

コツコツ、コツコツと、弱々しい音で。

(また来た……!なんで私の所だけっ?!月乃ちゃん…琉嬉さん…!)

 布団の中から一瞬だけ覗く。

すると水上にとっては何度も何度も見た、顔が見えた。

窓越しに、男の顔。

名前も知らない、顔色が悪くて、目が黒くて表情がよく分からない。

(またあの男の人…なんでなんで!)

 布団の中に一緒に入れた携帯を使おうとする。

だが、トントンと足音が聞こえる。

(また入って来た……!)

 毎晩、こうやって部屋の中をうろちょろする。

(ヤダ…なんで毎日来るの…?!)

 すると、突然バタンッと戸が開く音。

「やあやあ、幽霊さん、お疲れ様~」

 琉嬉だった。

「琉嬉さん!!」

「こうもバカ正直に現れて安心したよ」

 幽霊側は何も言わずに琉嬉の方を見ている。

「何をそんなに水上さんを気に入ったのか知らないけど、生きてる人間に迷惑かけちゃだめだよ」

 早速戦闘態勢に入る。

両手にはいつもの御札。

「存在に気づいた者を追いかける…。わからんでもないけど、さ」

「琉嬉……さん?」

「大丈夫。こいつは祓ってやるから」

 両手に持っていた御札をパッと宙に放つ。

すると意志があるかのように、動き回る。

知らない水上からするとまるで手品かのように見える。

「いいかい、こちらは「生きている世界」だ。お前の付け入る場所はない。おとなしくあの世へ行きな」

 空中に浮いた御札が、幽霊目掛けて飛んでゆく。

その御札は幽霊を取り囲んで…そのまま全て包み込むようにパンッパンッという破裂音を立てる。

「ひっ!」

「大丈夫、琉嬉さんに任せといて」

「緋瑪斗君…!」

「よくわかんないけど凄いんだからっ。さ、一旦出よう!」

 水上の手を引っ張って部屋から出る。

幽霊は身動き取れないようだ。

だが、目線は水上を追いかけている。

「行かせないよっ!」

 琉嬉はポケットの中から御札とは違う、何かを取り出した。

巻物のような物。

というより、巻物だ。

一般的に言う巻物よりも小さい大きさだ。

それをまるで職人芸のように、バッと片手で一瞬で開く。

小さくてもかなりの長さ。

その開かれた巻物が部屋中を飛び回る。

そして……。


 まばゆい光が、水上の部屋から溢れ出た。

「やれやれ……、俺、何もしてないや」

「いいじゃん、元々普通の人間なんだし」

「元々ってなんだよ元々って…。ま、水上さん」

「あ、え、はい?」

「元凶…と言うと言い方悪いけど、元は水上さん達が肝試しなんか行ったからだと思うよ」

「……そ、そうだね…」

 深く反省する。

「終わったよ。もうあの霊は来ないさ」

 戸を開けて出て来たのは琉嬉。

「ちょっとだけ、散らかっちゃたけど、助けるためこれくらい我慢してね」

 3人は部屋を覗くと、本やら布団やら床に散らばっている。

「掃除が大変そうね」

「あはは、そうね」

 本気の笑顔が戻った水上。

「あ、でも來魅ちゃんは?」

「ちょいと別のお仕事を頼んだのさ」

「お仕事?」




 來魅は公園にやって来ていた。

來魅くらいの上級の妖怪ともなると、この程度の距離は一瞬で移動を終える。

「やれやれ人使い…いや、妖怪使いの荒いヤツよのう…どれどれ…ここか」

 ドドド…と水の流れる音。

昼間はそうでもないが、夜中ともなると不気味に聞こえて来る。

当然だが、人の気配は感じられない。

肝試しなどする連中以外には基本的に人は来ない。

ましてや滝。

多少危険ではある。

「ふむ。ここらか」


 來魅は琉嬉に渡された御札をなぜか背中の方から取り出す。

するとペタペタと人が入りにくいような木達に貼り付けていく。

「これでいいか。ま、悪く思うな。人間の霊達よ」

 ぼんやりと御札が光り出す。

しばらく光り続けると、徐々に力尽きたかのようにゆっくりと光が消えていく。

「しっかし、琉嬉め、あの若さでよくもまあこのような術力を…」

 最初に会った時を少し思い出す。

ニヤっとしながら來魅はその場を離れた。



「ただいま」

「おかえり」

 淡々としている琉嬉と來魅とのやり取り。

「……」

「……」

「……」

 他3人はなんとなく呆気になぜかとられる。

來魅が窓から入って来たというのもあるのだが。

(これが琉嬉さんと來魅ちゃんとの当たり前の光景なのか…)

 緋瑪斗はちょっと違う世界観に改めて驚く。




「ようするに、水上さんは初めから憑りつかれてなんかいなかったんだ」

「なるほどー」

 うんうんと頷く月乃と來魅。

「憑りついてない…としても、なんで何度もしつこく水上さんにまとわりついたんですかね?」

 そこが疑問。

だが琉嬉の考える答えはこうだ。

「なんらかの事情で完全に憑りつく事が出来なかった。

だから、わざわざ滝のある公園から毎日、毎夜同じタイミングで水上さんの元へ現れていた。

どこに居ても…だ」

「あの…例えば、外国とかに行っててもですか?」

「多分」

「……マジですか」

「妖怪以上に、幽霊なんぞ常識が通用せんぞ」

 クスクス笑いながら來魅が言い放つ。

「と、妖怪が仰ってますけどね」

 琉嬉が半分茶化すかように言う。

「でも、どうやって移動するんですか?そんな遠い所に居ても」

「縁と念を辿る…とでも言うのかな」

「エンとネン?」

 二人して声を揃えて聞き返す。

「縁。つまり繋がりだな。

例えば赤の他人がたまたま知り合って、メールアドレスとか交換して連絡出来るようにする。

それだけで縁が出来たって言うだろ?」

「はぁ…たしかに」

「水上さんはあの幽霊を目撃した。たったそれだけで縁を作ってしまった」

「うへ…」

 またもやぞっとする話。

緋瑪斗も見える方の立場。

見えても無視しよう、そう決めた。


「次は念。説明すると難しいけど…まあ気持ちとか思いとか。

あとはその記憶の力とでも言うのかな。

仏教とかの世界でもよく出て来るね」

「お寺さんの琉嬉さんならではの話ですね」

 そう、琉嬉の家系は一応お寺。

だからそういう仏教用語なども多用されているらしい。

といっても仏教ベースなだけで独自の方向性を貫いているのだが。

「でもその念ってのがどういう因果関係で?」

「水上さんは多分優しい人なんだろうね。幽霊に対する哀れみとか、そういうのが伝わってしまったんじゃないかな」

「助けてもらえると思って…何回も水上さんを頼って現れたと?」

「まあそうだろうね。ちょっと悪質だけどな」

 

 すっかり深夜。

それも日付が変わって1時を過ぎている。

翌日…というより日付が変わってるので最早今日とも言える。

その今日は、朝から学校があるのである。

「あーあー…泊まっちゃえば良かったかなあ」

「バカ言うなよ月乃ー。どうせ家近いんだし。なんだかんだでいつも起きてるんだろ?」

「う…鋭いね、ヒメ」

「ぷっ、仲良いな、お前達」

 珍しく琉嬉が笑い出す。

「ふむ。仲良きことは美しきかな、だな。微笑ましいぞお主ら」

「あー、來魅ちゃんまで~」

「さて、僕らも帰るか。電車もバスもないし、歩いて帰るか」

「ぬ。そうなのか。それは仕方ない。ばすに乗りたかったがの」

「來魅ちゃんバスが好きなの?」

「うむ、大型の乗り物は良い物だ。自分で動いて移動しなくて良いからな」

 來魅はバスや電車など、交通機関の乗り物が好きのようである。

「しかしまあ…あんな事ってあるんですね」

 ぼやくように言う緋瑪斗。

「肝試しとはいえ、近場の公園で幽霊に関わっちゃうとか…怖いね」

「見えてなかったくせに」

「何よ~」

「まあまあ…。いずれにしても、さ。霊なんてどこにでもいる。身近な事で関わっちゃう…なんて事はよくあるよ。

そういうので困ってる人をなんとかしたい…それがふかしぎ部かなー」

「へぇ…さすがですね琉嬉さん」

「褒めても何も出ないぞ」

 照れ隠し…でもないのか。

表情は変化なしだった。

ちょっとガッカリする緋瑪斗。

基本的にポーカーフェイス。

ちょっと照れくさそうな台詞でも表情変えずに言ってしまう。

「じゃ、またね」

 と、あっさりと挨拶を終えて歩き出す。

「おーい、待てー。おお、じゃあなお主らも」

「あ、はい。また…」

「またねー、來魅ちゃん」

 手を振る。


「やっぱ、琉嬉さんって凄いね」

「そうだねー。惚れちゃった?」

「いやいや、そういう意味はないって!」

 月乃の言葉にまたもや焦る。

「ふふ、分かってるよ。ヒメにとってはあくまでも師匠だもんね?」

「そうそう、師匠…お師匠様だよ!って…さっきからなんなんだよ月乃!」

「気のせいじゃない?」

 そう言って月乃はなぜか走り出す。

「なんなんだよ~」

 愚痴りながら追いかけるのだった。




 翌日。

さっそく緋瑪斗から琉嬉宛てに連絡メールが来ていた。

内容は元気になった水上がちゃんと登校したという内容。

(元気になったか…)

 ほっとする。

(直接憑りつかれてなくても…こうも毎日嫌がらせ受けたら精神的にやられるし、体力的にも響いてくる。

つくづく人間ってのはある意味妖怪以上に厄介な生き物だよね…)

 表には出さない。

心の中で呟く。

「はーいやっほー!お昼ごはん食べに来ましたよー!」

 毎度勢いよく入ってくるのはみゆ。

と、その後ろに居る御琴と隆治、そして押しのけるように紫音が入って来た。

「琉嬉姉ー!一緒に食べよ!」

「あーはいはいうるさいうるさいおとなしく食べろ」

 簡単にあしらう。

「ん?琉嬉姉、珍しくなんでニヤついてるの?」

「…そう?」

 とてもニヤついてるようには見えないいつもの仏頂面。

「えー?笑ってました?琉嬉先輩?」

 みゆ達はそうは見えない様子。

「笑ってはないけど」

 と、琉嬉はクールに答える。

「いーや、琉嬉姉…笑ってた!」

 頑なに言い張る紫音。

「はいはい、ニヤついてたって事でいいよ」

「もー、認め方が雑~」

「なんだ雑って…認め方が雑って意味がわからん…(しかし妙に鋭いやつだな…伊達に彼方家じゃないな)」

 自分の家系の血筋の妙な洞察力の高さに改めて驚く。

自分もきっと他人から見たらそんな感覚なんだろうか。

などと思いながらもお弁当を開く。


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