#76 何気なさすぎるふかしぎ部達
「よっす」
素っ気ない挨拶。
その挨拶の主は琉嬉だった。
「今日は遅いのね」
文字通り幽霊の幽霊部員、唯子。
「お掃除当番だったからね」
「あらそう、それはお疲れ様」
「先輩、こんにちは」
先に来ていたのは隆治と麗未亞ら一年生。
「生徒会達は今日は…忙しそうだね」
隣の部屋から声が聞こえてくる。
「今月末は体育祭ですからね。今年の最初の大きな行事ですから忙しいんですよ」
「そっか」
ドカッと椅子に可愛げなく座る。
そして当たり前のように内側の胸ポケットから携帯ゲーム機を取り出した。
「凛夢はまた来てないのか」
「さっきちょこっと顔出したんですけどすぐ出て行っちゃいました」
「…あいつの方こそ幽霊部員だよな」
「リアル幽霊部員の私を差し置いて?」
半ば自虐的に言う唯子。
「唯子先輩は…なんかもう例えるのも面倒」
「あら、何よそれ」
「ぷくく…」
麗未亞が堪え切れずクスクス笑う。
「今日は静かだね。うるさい護や双子やみゆいないし」
「…おとなしい組が集まってもおとなしいのね~」
「それって僕も入ってる?」
「勿論よ~」
そう、騒がしい者達がいない。
いつになく静かな部室。
あれから結局寧音は二日間来なく、計四日間も休んでしまった。
でも今日は元気よく登校して来た。
そして風紀係として暴れに暴れ回っていた。
護も追いかけ回されていた。
時折、大きな寧音の声が隣から聞こえてくる。
「元気だね……あんなコトあったのに」
「根は真面目ですからね」
隆治のちょっと棘のある言葉。
結局ふかしぎ部の者達だけは寧音の本性を知っている。
だからこその発言だったりする。
「…麗未亞。何してるの?」
「はわっ?!ほえ?わ、私ですか?!」
「何をそんなに驚くのさ…」
「いえ、すみません…突然話ふられたので」
「…よく面接で学校受かったね」
オドオドする麗未亞。
「そ、それは自分でも思います…」
「なるほどなー。この小動物みたいな可愛らしさが人気あるんだな」
「な、何の話ですか…?それ」
思わずきょとんとする。
「あれ、知らないの?鞍光高校で可愛い子話?」
「な…んですかそれ…?」
「琉嬉先輩もそういうのは気になるんですか?」
「気にならない…ていうのはさすがに嘘になるけどね。よく男子共が話してるの聞こえちゃうよ」
「へぇ…」
意外な琉嬉の話に驚く隆治達。
琉嬉も案外気にしてたりするのだ。
「で、誰が可愛いとか話題にのぼるんですか?」
「大抵は護とかみゆとか、悔しいけど凛夢とか話題に出てるね」
「そうなんですね…」
隆治は思わず納得する。
凛夢なんて表向きは「いい顔」をしてる。
男受けもいいのだろう。
「ムカつく事にね、ネットでもたまに出てるよ」
パソコンでネットのブラウザを開いたまま喋る。
そしてとあるSNS系のサイト。
そこをみると鞍光高校の事が出ている。
「鞍光もやっぱりこんなのあるんですね」
「だね」
カチカチとマウスの音をたてながら見ていく。
「……麗未亞は小さくておとなしくてお人形さんみたいで可愛い…だって」
「…………はあ…」
困惑する麗未亞。
顔が強張ってる。
「何コレ…鞍光高校アイドルランキングー?」
突然声と同時に琉嬉の頭に重みが走る。
「やっほー」
手をひらひらさせながら挨拶する。
「護。重たい」
「あはー、ごめーん」
大きな胸を琉嬉の頭に乗せていた。
「なーに?やっぱり1位はみゆちゃん?」
「…趣味の悪い話だよ」
「どれどれ…」
琉嬉の言う通り、趣味の悪い内容である。
1位は予想通りのみゆ。
2位は護だった。
3位は凛夢。
そして何人かいて、6位に麗未亞が。
5位に琉嬉がランクインしている。
「僕が5位…なんで?」
「んー、だって可愛いジャン琉嬉ちゃん」
「……でもこれ性格抜きだろ?」
「あらま失礼ですわね~」
なぜか気持ち悪い喋り方する護。
でもこのランキングされてるのも見て満更でもないようだ。
「面白いの見てるのね」
唯子も覗き見る。
「唯子先輩の時もこういうのありました?」
「もう20年近く前の事よ?こんなのある訳ないじゃない」
「バカだなー護。唯子先輩の時代はネットがあまり普及してなかっただろ」
「え?そうなの?」
どこまでも考えが足りない護の発言。
「そうねー。でも口コミみたいのでなんとなく似たような話あったわね」
「へぇ…唯子先輩は人気あったんですか?」
「どうかしらねえ?何回か告白された事はあったけど」
「さすがですねっ」
(…まあ、たしかに唯子先輩可愛いというより美人系だし)
心の中で納得する琉嬉。
このランキングは上位20名のみ表示されている。
さらに上位3位までふかしぎ部で占めているという見事な結果。
「ねぇねぇ、他にふかしぎ部メンバーは入ってないの?」
「まあ、週によって変動してるみたいだけど…今のランキングは…」
「莉音と紫音はなぜかセットになってるな…11位だって。
寧音は15位。微妙~。
まどかは…10位。意外と人気あるね」
「ほんとだー。あ、御琴君の名前もある」
「ぷふっ、ほんとだ…男なのにランクインしてる」
御琴は18位に入っていた。
「柚羽は…19位か。香那巳と悠飛はランク外か。まあ香那巳は地味だし悠飛は男扱いだろうしな。
やっぱり目立たないやつはあまり上に入らないみたいだな」
クスっと笑いながら言う琉嬉。
「叉羅沙ちゃんは…9位!案外低いな~」
「やっぱりあの背の高さがネックなのかしらねえ?」
「唯子先輩酷い事言う~」
やんややんやと変に賑わう。
「あ、あの…なんで私そんなにランク高いんですか?別にそんな目立つような…コトしてないと思うんですけど…」
「お前の場合何もしなくても見た目で目立つからね」
「そんなぁ~」
明るい色の髪の色で、少し彫りの深い顔。
結局見た目が派手なのですぐ目につくからだ。
「しっかしみゆちゃんは凄いね」
「あいつは見た目も中身も目立つしなー。人当たりいいし人気あるのは納得するよ」
ちょっとつまんなさそうに言う琉嬉。
「それぞれの理由が面白いね。なになに…みゆちゃんは動きも発言も面白い。
金持ちだから。
お嬢様なのに庶民派で誰にでも優しく楽しく接してくれる…などなど。
ほ~。好印象だね」
「…同性から見ても面白くて可愛い奴だよ」
それでも一応は認める。
「んで、あたしは…パツキン美少女!だって。そこしかみとらんのかっ!」
大体金髪である事を理由に書かれている。
「あと、明るいしおっぱいが大きい…うるさいわっ!」
自分の事を読んで、そして自分でツッコミを入れる。
「一人で騒いでますね…護先輩」
「あいつは見た目と中身がギャップあり過ぎだ」
一見クールそうな雰囲気の見た目とは逆にちょっとアホな子である。
「ねーねー他には?」
他のが気になる。
なぜか隆治も覗き込んでる。
「なんだかんだで貴方も気になるのね。やっぱり男の子ね~」
「そ、それは…つい…」
「フフ、まあいいわ。私も気になるし」
「……苦しい」
この場にうるさいのがいなくてよかった…心の奥からそう感じた琉嬉だった。
「えーと、凛夢ちゃんは品がある感じがイイ、だって。
琉嬉ちゃんは…ロリ可愛い。ツインテールの天使。凶暴な天使。性格があんなんじゃなかったらだって…ぷぷぷ」
笑いを堪え切れない。
「うっせい」
「叉羅沙ちゃんは京都弁が可愛いけどあの高身長に見合う男は鞍光にはいない。
美人だけど少し関西弁で高身長で生徒会所属とかちょっとマニアック…。
莉音ちゃんと紫音ちゃんは…単純に可愛いけど莉音ちゃんはおとなし過ぎるし紫音ちゃんはうるさいし、
あの彼方琉嬉の従妹なのが誰も強く話しかけないのが理由だって」
「なんかひどいな」
「ストレートですねえ」
「ネットなんて総じてそんなもんですよ」
インターネット事情には詳しい隆治。
伊達に引きこもってた訳ではない。
「あのー、ウチは入ってないんですか…」
「…居たのかお前…」
悲しそうな顔をしている香那巳。
いつの間にか来ていた。
いつものわざとらしい表情じゃなく、ちょっと本気な表情だ。
「だってお前…地味じゃん」
「あああ、それは言わんといてください~。あまり目立たないようにする結果なんですから~」
「自分で気にしてるんなら地味なのやめればいいのに…」
呆れる隆治。
「ランク外だし、貴方、単純に知名度ないのよ」
「う…それはそれでちょっと悲しい…」
肩を落とす。
「会長はー?」
「まどか?ちょっと地味なおさげ少女だけどやる事はやる立派な女の子…だって。
あとはぁ…ふわふわし過ぎて話が噛み合わないとか書かれてる」
「普通の人ならそうかもね~」
うんうんと頷く護。
「寧音ちゃんは…真面目過ぎて引く。だって…。
あとは眼鏡っ子の中でもかなり可愛い方。なんで人気ないのか不思議。
よく見たら胸が大きくてスタイル良さそう…だって」
「まああれだね、分かる人には分かるっていう感じなのかな?たしかに風紀の仕事してる時はうるさい…」
護との普段のやり取りを思い出す。
いっつも追いかけっこみたいな事をしている。
「唯一男性でランクインしてる御琴君は……そこらの女の子より顔が可愛いだってよ」
「プッ…たしかに…」
「って事はウチは御琴先輩より下って事なんですか…?」
「そうなるね~」
「…実は可愛いとか…そういうの期待してたんやけど…マジで凹みますわあ」
結構本気のようだ。
「悠飛君はないの?」
琉嬉に聞いてみる護。
何かと気になる。
「…むしろ可愛いとかじゃなくって、カッコイイ部類とか書かれてるね。
男子は元より女子から人気あるって…聞いたなぁ」
我が妹の話。
背も女子にしては高いし、ショートカットなうえ、中性的な顔立ち。
琉嬉とは正反対で、美形だとは琉嬉でも思ってるがランクに入ってないとは意外だと思っている。
「ボーイッシュなのって最終的には男受け悪いのかな?」
「どうですかねー?」
「悠飛君って御琴君が女の子扱いされてるみたいに、本当に男扱いされてるんじゃない~?」
「…だとしてもランクに入ってないのはおかしい…」
腕を組んで不思議そうに思う護。
「……なんていうか…同性からモテてな…そういえば」
琉嬉がふと思い出す。
悠飛の中学時代。
よく友人を連れて来てはいた。
でもその様子はよくある女子同士の遊びじゃない風には見えてた。
ギターで弾き語りする音が聴こえたり。
悠飛君かっこいー、みたいな声が聞こえたり。
「…男扱いされてたな」
20位以内とはいえ、ふかしぎ部のメンバーが多数ランクインしていた。
それだけで随分ふかしぎな話である。
「でも、そう考えるとふかしぎ部って美人の集まりなんだねー」
「…そうとも言えるか」
琉嬉は複雑な心境ながら、案外ランクが高い事にも少し満足する。
「ねえねえ、じゃあこの美人揃いのふかしぎ部で数少ない男子として、隆治クンは誰が一番可愛くて好み?」
「は、ええっ!?」
突然の質問にたじろぐ隆治。
「どストレートッスね…唯子先輩…」
「あらぁ、せっかくなんで聞いとかないと~」
くるくると宙を回りながら楽しそうにする唯子。
「アンタ、本当に幽霊か…?」
幽霊だというのを忘れそうになるくらい、元気ある。
「ぼ、僕は…」
チラっと今部室にいるメンバーの顔を見る。
「…言わないと駄目ですか?」
「うん」
コクンと首を縦に振る唯子。
目は笑っているが眉毛が少し吊り上がってる。
(こ、怖い…)
「唯子先輩、可愛い後輩を困らせないでよ」
「いやねえ、気にならないのー?毎日のようにこんな美女達に囲まれてるのに~」
「…アンタ、そんなキャラクターだったけ…?」
「あら、私が根暗で物静かな人間だと思ってたの?」
見た目的には暗い性格のように見える。
「…ほんと、見た目と中身が一致しないのばっかりだよ…ここって」
「琉嬉ちゃんもそーじゃない?」
「うるせい」
結局隆治に課せられた質問はうやむやになる。
(隆治君が好きな人って…莉音ちゃん、紫音ちゃん、悠飛さん…の中の誰かだと思うんだけどなあ)
麗未亞は隆治の好みの人物を推理しようとしていた。
そして自分は入っていないだろう。
そんな予想を立てる。
なんせ、この4人はわざわざ遠い中学校から鞍光に入学してきた。
きっと付き合いが長いから…だと。
「終わりましたっ、琉嬉さ~ん」
「抱き着くな」
寧音が早速生徒会会議が終わり、琉嬉に抱き着く。
生徒会が終わり、そのまま部員の者はこちらの部室へ入ってくる。
「やれやれ…今日は真面目過ぎて疲れたわあ…あら、まだおったん?」
「鞍光高校のアイドルについて盛り上がってたのよね?」
「…アイドル?なんですかそれ?」
「ほら、これこれ」
寧音のノパソの画面を見せる。
「ほほー、こんないかがわしいサイトが…」
「何々?鞍光高校の可愛い子ランキング?まったく風紀が乱れるようなものですね!皆さんは何位なんですか?!」
「お前怒るか興味示すかどっちかにしろよ…」
寧音の相変わらずのノリノリの言動。
「うわー、私1位なんですかー?凄いですね~」
みゆが大声で喜ぶ。
「でも所詮はネットでの評判だろ?正式にやったら変わるかもよ」
「ふぅむ……私の1位がなくなるって事ですか?」
「かもな」
しばし無言になり何かを考えるみゆ。
人差し指をこめかみ部分に当てて、思考ポーズ。
「かいちょ!鞍光高校でコンテストしたらどうですか?!」
「コ…ンテスト…?」
「そーそー、ミスコンテスト!鞍光高校の一番のアイドルを決めるんです!」
「まーた面倒そうなの考えて…」
「却下です!」
即答したのは寧音。
根っからの真面目根性なのですぐ反応した。
「寧音先輩~いいじゃないですか~」
「風紀の乱れ!そんな品のない行事なんかしたら…鞍光高校の品位が問われます!」
「あらあら、寧音さんはこんなにこの学校の事をお考えでしたか…」
なぜか感動するまどか。
「ん、もーう。頭固いんだから寧音ちゃんは」
寧音に抱き着く護。
「貴方も!」
「んええ…」
相変わらず迫力が凄い。
「…ウ、ウチは仮にそのコンテストあっても辞退しますわ…」
「私も…」
香那巳と麗未亞は挙手して辞退を申し出る。
「僕もお断りだね」
琉嬉も賛同。
「あら、女性陣からの賛同はやっぱりされないわね~?」
楽しそうに見守る唯子。
「え~……じゃあ、女装も化で!」
あきらめないみゆ。
「余計に駄目です!」
「そもそも寧音が興味あるのは二次元だろ…」
「あうあっ、それは言ってはなりません!琉嬉さぁん…」
慌てて琉嬉の口を手で塞ぐ。
「いんや~、もう手遅れだって…。だって寧音ちゃんの部屋…いわゆるオタグッズであふれてたよね」
「ぎゃー!何を言ってやがるんですかっ!」
「あ、ブラック寧音出た」
ぽそっと琉嬉が呟く。
「なんです?そのブラック寧音って…」
近くに居た隆治が聞き返す。
「あいつ誰にでも敬語なんだけど、キレたら言葉使いが敬語のまま罵倒したりわる~い言葉使うんだよ」
琉嬉は何度か聞いている。
一度戦った時も散々聞いた。
「…そ、そうみたいですね…」
「あああああ!やめてくださいっ!そういうコト言うの!」
琉嬉を抱きかかえて悶える寧音。
「何やってんだか…」
パンパンッと手を叩く音が響き渡る。
「ハイハイ、そんな話はいーから。そろそろ帰るよ」
琉嬉が立ち上がって帰る支度をし始める。
「ああん、琉嬉先輩~、早い~」
「うるさいっ。時間考えろ。もう7時過ぎてる」
うっすらと暗くなっている。
他の部活をしている生徒らも帰って行く姿が見える。
吹奏楽部の演奏も聴こえなくなった。
「そうですね~。そろそろ帰らないと先生がうるさいですよ~」
「う、かいちょまで…」
二人に言われるとさすがにおとなしくなるみゆ。
「今日は解散やな~、ですよね?叉羅沙先輩?」
「そうなあ…ってなんでウチに話かけるん?」
「いえ、同じ関西弁同士って事で~?」
笑う香那巳。
「あほ言うねえ。ま、たしかに私は京都の方言やけど」
「そうなんですか~、ウチは育ったのは大阪ですー。今年のタイタンズあかんですー」
「タイタンズ?」
「野球だよ野球。大阪タイタンズ。今年のファイヤーズ強いよね」
琉嬉が代わりに答えるように言う。
「はぁー…野球ねえ。あまり詳しくないわ」
少しきょとんとする叉羅沙。
「あー、そういえばチケット貰ったなー。来月家族で観に行くよ」
「へー。ええなあ。今度誘ってよぉ」
「その話を置いといて、そのうちな。ほらほら、いいからお前ら帰れ」
背中を押される叉羅沙達。
一番小さい琉嬉が一番多き叉羅沙を押す姿はなんだか微笑ましい。
「今日はもう遅いですから先に出ますね」
まどかがいち早く出て行く。
その顔は常にニコニコしている。
とにかく、自分で決めた事はすぐ実践するタイプ。
生徒会長に就いた時も、自分の抱負をすぐ実践して、より多くの評価を上げた。
だから新しくなった年度も引き続き会長をする事になった。
「ああいう所がかいちょ、面白いですね」
「マイペースっつーか、なんちゅうか……案外自我の優先度高いんだよな」
古くからの付き合いがある龍翔ならではのまどかに対する感想。
よく分かっている。
「さて、俺らも帰ろうぜ。今日は話し込んで疲れたぜ」
「勉強疲れはしてないくせにー?」
龍翔に茶化すように言う護。
「みんながお前じゃないんだぞ」
「うぐ…」
護の尻を軽く叩いて帰るように促す琉嬉。
「そろそろテストじゃないー?」
「あーそやなあ」
「範囲ってもう出てたっけ?」
「直接成績には響かないテストでしょー?」
「そういう訳じゃないんじゃない?」
「本気版のテストは7月入ってからだよ」
などと、学生らしい会話を最後の最後にする。
「本気版のテストってなんだよ…じゃ、鍵をするぞー」
左手に持った鍵。
他の部員達は足早に部室を出ていく。
この日はなんだかんだで解散となった。
「…鞍光高校のアイドル?」
「だってさ。僕はどうやら5位らしい」
「へー。良かったじゃん。私は?」
「圏外」
「……ああ、……そう」
少しは期待してたのか。
悠飛はちょっとだけがっくりとする。
「あいどるとな?」
興味津々に聞いてくる來魅。
口にフォークくわえたまま。
この日はハンバーグだ。
來魅の大好きな料理のひとつである。
「…子供かお前。アイドルって言っても意味がいろいろ出て来るしな…」
「てれびとか出てる若い者がちやほやされてるやつか?」
「分かってんじゃん」
「安心しろ。琉嬉よ。お前様はその辺のあいどるより可愛いぞ」
「違う意味も含んでるだろそれ」
皮肉に聞こえる。
「そんな謙遜するな」
「どこが謙遜してる風に見えるかっ」
いつも通りの言い合い。
「ホラホラ、アイドルもいいけど、勉強は捗ってるのかい?
特に琉嬉ちゃん、進学するんだっけ?」
父親の導が娘の行く末を心配する。
「べんきょーはそこそこ…かな」
学年では上の中くらい。
実は勉強は苦手でもなく、得意でもない。
が、それなりに成績はいい。
本気を出せばもっと上を目指せるが、いかんせんゲームの方が時間かけてる。
そのせいで上を突破出来てないようだ。
「勉強か。私も勉強の日々だ」
「うそこけ。ニート妖怪のくせに」
「ふへへ、現代社会の知る為にねっとを活用してるのだ」
威張るように言う。
「それはそれで凄いけどね」
「みゆのやつが…何か企んでるんだよな…」
「そうなの?」
次は悠飛が味噌汁をすすりながら聞き返す。
「文化祭…、変なイベント作らなきゃいいんだけどな…」
「言えてる…」
「…テスト勉強しなきゃ」
「だね」
「ほむほむ…ま、頑張りたまえ、二人とも」
二人の肩をぽんぽんと叩きながら見下すように言う來魅。
「そうだね」
そして導も混ざって二人と肩を叩く。
何も言えずじまいの二人であった。
期末テスト前の、突発的テスト。
鞍光高校はどこの学校でもあるいわゆる定期考査意外に、力試し的な特別なテストがある。
直接成績には結びつかない小テストのバージョンアップバージョン。
いつどこでもしっかりと勉強してるという分かれ目になる、少し嫌味ったらしいテストである。
結局それを終えた面々。
「どーだったー?」
「ぜーんぜん」
「琉嬉ちゃんはー?」
「…聞いてどうする」
当然、護は出来がよろしくなかったらしい。
「はー。学年順位ってどうやったら上がるのかなー?」
「それは当然繰り返し勉強やな」
何かの本を護の頭に乗せる叉羅沙。
「むー、なんだよー、叉羅沙ちゃーん。てか、その本何?」
「これ?参考書?」
「さんこーしょ?」
ちょっとだけ分厚い。
頭に重みが感じられる。
護が手に取ると、奇妙な手作り感のある本だった。
表紙には何も書かれてない。
「何これ…。これが参考書?」
「そや」
ペラっとめくる。
しかし何も書かれてない。
と、思いきや文字が浮かんできた。
「…これは驚いた」
「あ、護にも読めたんだ」
「失礼なっ。これでもれいのーりょくしゃの端くれですからね。で、これはなんなの?」
「ふかしぎ部専用に記録を残そうと思ってね。耿助さんから特殊な霊具の本を譲り受けたんだ」
「へぇ…。粋だねえ」
「あー!何それ、面白そー!」
早速部室に入ってくる瞬間、紫音がはしゃぎ出す。
「わ、だめだよっ。これは大事なふかしぎ部の備品だから…」
「えー、護さんだけずるいー」
「そもそも叉羅沙ちゃんはなんであたしに渡したの?」
なぜ唐突に渡されたのか。
まだ理由を聞いてなかった。
「琉嬉ちゃんたっての希望でね、部員名簿の名前は本人の字で書いてほしいんやって」
「…へぇ…」
琉嬉の方を見る。
当の琉嬉本人は知らんぷりしたような、ポーカーフェイスのままでゲームをしている。
「……そーゆートコロこだわるんだから…」
一年程前に発足したふかしぎ部。
これからしばらくは受け継がれていくだろう。
そう思って公式な記録帳を作った。
ただし、これは一定の霊力がないと見えない。
特殊なインクが使われている。
「うぐぐ…難しいなー。万年筆なんて使った事ないよ…」
「何事も経験ですっ!頑張ってくださいっ!」
一所懸命応援する寧音。
みゆや紫音とは違う種類でうるさい。
「なんか楽しそうなイベントしてるなー」
「龍翔さんもします?」
「んん?」
時間経つにつれワイワイと集まってくる。
「はぁー…今日は盛況やな」
乗り遅れた香那巳。
「ふふ、楽しそうでいいじゃない?」
隣にいる唯子。
「唯子先輩…ほんまにビビるからいきなり現われとんいて…」
「…なんでこんなに今日に限って沢山いるの…?」
謎の盛況ぶりに久々に来た凛夢が驚く。
「あ、凛夢ちゃんも来た~。おいでおいで」
「な、なんなのよ…?!」
みゆに強引に引っ張られる。
「ほらほら、書いて!」
特殊インクをあしらった万年筆を渡される。
「…何を書くの?」
「なまえ~」
「……?」
まったく説明がないから訳が解からない。
「おい、少しは説明しろよ」
ぽきゃっと軽く頭を叩く琉嬉。
「ごめんなさいー」
「やれやれ…あとはお前らだけか」
隅っこに居る隆治と悠飛。
「ぼ、僕なんかいいんですか…?」
「いいんだよ。ほれ」
隆治に本を渡す。
「視える?」
うしろから覗く麗未亞や莉音。
「ま、まあ…なんとなくですけど」
「やっぱ隆治って霊感強かったんだな…」
悠飛が舌を巻く。
「そうでもなきゃあの違法な式神は使えないよ」
「式神に法律みたいのあったの?」
驚く護。
「いや…ありませんけど……。でも式神系の道具での術、召喚術には霊術会で定められた一定のルールがありますから…」
「へぇ…ゆずちん詳しいね」
「お前ね…柚羽は霊術名家のひとつだぞ」
「あ、そっか」
物覚えの悪い護に呆れる面々。
ふかしぎ部発足以降、事件があったのを本にまとめる。
全て手書きで。
それだと時間が掛かりすぎる…という事なので、毎日誰かが順番で書くという事に。
以前資料式でまとめた。
それを一冊の本にまとめる。
そういう話になった。
「僕らが卒業したらふかしぎ部どーなるんだろうね」
帰宅中の駅前通り。
肌寒い風が通り抜ける。
帰宅する人々の姿が沢山見受けられる。
「ん~、どうでしょうね?でもみゆさん達が引き継いでくれますよ」
「今の二年がいなくなったら今の一年だろ?悠飛に莉音紫音…麗未亞、隆治。んで、香那巳。
不安要素盛りだくさんじゃん」
「フフ、言いすぎですよぉ」
珍しくまどから生徒会も一緒。
先に出て行った筈なのになぜか後から出た琉嬉と一緒に居る。
何かと口裏を合わせたようだ。
当然の如くそれぞれ違う帰宅路なのでバラバラになる。
駅前通りに残ってるのは琉嬉と護とまどかの3人。
「ねー、琉嬉ちゃん帰らないのー?」
「ん。ちょっとね…、まどかと話したくって」
「ふぅん…じゃ、あたしも付き合うかな。3人寄ればかしましいってね」
「…使いどころがなんか違う」
駅近くのファーストフード店。
軽く夕食を済ます感じで少ない分量で食べ物を頼む。
「お話てなーに?コイバナとか?」
ワクワクする護。
「そんなんじゃねーよ」
「ちぇー、残念。じゃあ何のお話さ?」
「これからの奴等の動き…さ」
奴等。
半妖達の事だ。
最近は目立った動きはほとんどない。
霊術会でも動きを察知してないようだ。
まどかを介して、霊術会からの情報を仕入れる。
彼方家は他の名家とは違って、霊術会には属してない。
そのため細かい話を仕入れる必要性があると琉嬉は感じている。
「ねえ、そういうのって携帯とかじゃだめなの?」
「出来るだけ避けたいね。直に会って話すのが一番さ」
「そうですね」
「…そんなもんかー。半妖ねえ…」
護自信も後天性ながらも半妖。
だがまだ声をかけられた事もない。
半妖達は目に留まる半妖に声をかけ仲間に入れようとしている。
組織を拡大させる為だろうか。
目的は未だに不明に近い。
「困ったものですね」
ジュースを口に持っていくまどか。
相変わらずの炭酸飲料を頼んだ。
「ほんっとに好きだね…太るよ?」
ピクッとまどかの眉が反応する。
それ以外の表情は動いてないのに。
「べ、別にこれが原因で太っているとは…思いませんけど…?」
明らかに動揺している。
「まどかってムッチムチだもんねー。はー、夏の水泳授業が楽しみだよ~」
「やめてくださいっ。護さんだって…下着盗まれたじゃないですか。水泳授業の時」
「…あ、そうだったけ…?」
「なんで忘れてるんだお前…。下着盗まれただろ」
「…うーん…そんな気が…。はっ!!」
手をポンと叩いてようやく気づく。
「そうだった!結局ブラとパンツ返って来なかったんだ!くぅ~…2万もしたのに…」
「でかい声で言うな」
そしてチョップ。
「さぁて…どう動くのかな…霊術会は」
「相手次第でしょうね。基本的には霊術会からは攻めたりはしませんが…」
「しませんが?」
「数年の一度、大討伐を行うくらいですからね。次は…いつのことやら」
「だいとーばつ?」
膨れ上がる、低級低層の妖怪、悪霊等々。
膨大な数になる前に処理する。
その為大討伐が行われる。
「…?よくわかんないけど…そういやアイツもそんな事を言ってたかも」
「アイツ?」
二人が同時に護に聞く。
「あ、いやなんでもないです」
慌てめく護。
必死に誤魔化そうとしているがバレバレ。
「…ついうっかりすぎだろ…まーいいけど」
怪しい護を後目に話を続ける。
「で、私達ふかしぎ部はどうします?」
にっこり微笑みながら語り掛けて来る。
琉嬉はそのまどかの顔がなんとなく苦手である。
他にも毎回笑顔で話しかけてくる者はいるが、まどかだけ、どうも苦手。
一度手合わせてるだけあって、妙に裏があるようでどこかの苦手意識があるのだが。
同じようにいつも笑顔の叉羅沙や、みゆ。
それとは別次元の笑顔に感じる。
「ふかしぎ部的には……どーすっかねえ…。来る者拒まず?」
「うふ、その言葉の意味は……」
「……??」
護には理解出来てない。
でもまどかは理解している様子。
「協力してくれるんなら協力するし、しないなら僕は一切手助けをしない」
「言い切りますねえ」
「名家的には霊術会の味方だろ?」
「うん…まあ、当然そうなりますね」
随分と重みのある話になる。
琉嬉はグレープジュースを飲みながら。
まどかは炭酸ジュース。
護はうまく会話に入れないまま、コーヒーを飲んでいる。
(苦っ…大人ぶって頼まなきゃ良かった…)
本来はカプチーノ系など、少し甘味やミルクのコクがあるのが好み。
そのまんまの苦みの強いコーヒーは苦手らしい。
「そういうのを実践してるのが霊術会だろ?」
「痛いトコロ突きますねえ…」
「……あー」
思い当たる節があるような声を出す護。
二人は護の反応には気付くが敢えて突っつくような事をせず、会話を続ける。
「結局私達は名家でも所詮子供ですからね。そういう上の動きは全部大人がやる事ですから…」
半ば諦めたような言い方。
まどかにしては珍しくどうしようもないと言った状況のようだ。
「分からないでもないけどね」
同じ境遇に近いものを持つ二人。
そういう部分は分かち合えるようだ。
「そっか」
そう言うと窓の外の景色を見る琉嬉。
何かの物思いにふける…かと思われた。
「僕らは僕らで動けばいいか」
ある種の開き直りとも言える発言。
大人達の力は、頼り切らない。
そう考えに行き着く。
「そうですねえ…うん」
静かに頷く。
その頷き方がなぜか、不気味に怖く見えた。
「さて、そろそろ帰ろう。じゃあね、まどか」
「はい、また明日」
ぺこりと、軽くお辞儀をする。
同年代なのに礼儀正しい。
別にわざわざそこまでしなくても…。
琉嬉はそう心の中で呟く。
「んじゃあねー。まどかちゃーん」
「はい、さようなら」
そこで、まどかと別れる。
残った二人は別の路線から電車に乗り込む。
「はぁー、もう少しで夏が来るねー」
「まだ寒いけどな」
「んもー。琉嬉ちゃんはもっと、こう…ロマンチックな考えないのっ?」
「僕にそんなもん求めるな」
ぶっきらぼうの口調。
どうも、女の子らしい考えが出てこないらしい。
「やれやれ…。鞍光のアイドルとか、テストとか。ロクは話してないね」
つまらなさそうに言う琉嬉。
あまりにもくだらない話題に面白くない顔をしている。
普段から仏頂面だが、今はより一層ひどい顔をしている。
「なるようになる…か……まどからしくもないな」
「…へ?なるようになんだって?」
「いいんだよ、こっちの話」
「なにさー。あたしにも教えーて~」
必要以上にくっつく。
「人が見てるんだからヤメロ」
護の顔を手のひらで押し返す。
「つれないなー」
「……ま、頼りにしてるよ、ふかしぎ部のエースさん」
「お、おう!頑張るよ!って何の話?」
相変わらず理解力が足りない護であった。
でも琉嬉が腑に落ちないのは、ランク付けされてる事だった。
しかも5位。
複雑過ぎる気持ちのまましばらく登下校が続いたのだった。




