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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十三章   ~季節移変編~
75/92

#75 持ちつも、持たれつ

 厄介事はすぐにやって来た。

いつも通りの放課後の部活。

と来たのだが。

「あれ、寧音は?」

「今日も来てないなぁ。まどか、なんか知らん?」

「いえ、特に」

「ふーん。生真面目なのに今日も学校来てないとか、不思議だね」

「三年生の時期に数日休むとか、ちょっとやばいんじゃないか?」

 遅れてやってきた龍翔。

「龍翔君も何か聞いてない?」

「俺は知らないなー」

 同じ学年の人間に聞いても分からない。

「わ、私が知る訳ないでしょ?だって犬猿の仲だし…」

「だよねー?」

 護にみんなの視線が集まったが当然の答え。

いつも服装に関して毎回寧音に小言を言われる護。

時折追いかけっこみたいな事をしてる時がある。

それは部活でも一緒。

犬猿の仲とは護は言うが、ただ単に仲が悪い…というのではなく、

寧音が風紀委員としての仕事を全うしようとしてるだけだが。

実際は普段一緒に部室に居ても特別喧嘩などしてる様子はない。

「でもさ、寧音先輩って、サボりグセありますよね?もしかして学校のサボってるのでは…?」

「みゆちゃんの言う通り、寧音ちゃんはサボりグセあるからな~」

 うんうんと頷きながら言う叉羅沙。

同じ生徒会としても付き合いが長い。

普段は真面目なだけに、時々こっそり休憩してサボる事がある。

「だからって学校を丸ごとサボる訳ないでしょーが」

 琉嬉が呆れたように言う。

「そりゃそうだけど…」

「大体寧音の性格考えな。風邪ひいてでも出てくるようなやつだぞ」

「あー…確かに」

 叉羅沙が納得の表情をする。

「そんな事もありましたねぇ…」

 以前、寧音は高熱を出したのにも関わらず無理して学校に来て結局倒れて保健室行き。

そのまま真っ直ぐ帰宅したのだった。

「迷惑このうえないでしょありゃあ」

「龍翔君の言う通り」


「でもさすがに無断で休んでるのではないのでしょう?担任の先生にでも聞いてみれば分かるのでは?」

「みこっちゃん、さすが!」

「そもそも本人に直接聞けばいいのでは…?」

 あれやこれやと後輩達は言う。

「それがさ、本人に連絡しても出んよね」

 叉羅沙がスマホの画面を皆に見せる。

今も通話を繋げようとしているが一向に繋がらない。

メールや連絡のチャットを送っても返事が返って来ない。

「何かあったのとか?」

「縁起でもない…」

 不安になるような事を言ってしまう御琴。

「でも我々のような人間以外の「裏世界」を知ってる者にとってはあながち…」

 さらに不安になるような事を言うみゆ。

「気になるね」

 琉嬉が立ち上がって、窓の方を見る。

「さて、どうしますか?同じ五大家として」

 いつの間にかいた顧問の耿助。

車の鍵を人差し指に入れてくるくる回している。

「決まってます。寧音の家に直接行ってみる作戦です」

「あー…そう来ますか」

 護が面倒そうに言う。


「あの几帳面な寧音さんが何も連絡ないとか…気になりますね」

「そやな」

 二人も着いて来る気満々のようだ。

ちょっと心配そうにする琉嬉。

耿助の顔を伺うが、

「あ、大丈夫ですよ。僕の車は大きいですから。最大で8人は乗れますから」

「その気になれば琉嬉ちゃんをカウントしなくても大丈夫だもんね?小さいから」

「うるせいっ」

 護の横腹をチョップする琉嬉。

「逆にウチは二人分カウントするとか?」

「それ、自分で言っちゃだめですよ叉羅沙さん」

「……そか」

「でも琉嬉先輩と叉羅沙先輩で差し引きゼロだから大丈夫じゃないですか~?」

「上手い事言うなぁお前さん」

 龍翔がみゆに対して褒める。

「あはは、ありがとございます」

「阿保なコト言ってないで行くよ」

 琉嬉が鞄を持って準備する。

そして他の部員達も着いて行く。



 琉嬉達は耿助の車に乗り込んだ。

結局一緒に行くのは護、まどか、叉羅沙、みゆ、御琴、龍翔といった生徒会メンバー。

ギリギリの人数だ。

他の部員達はお留守番…する訳にもいかないので、他の者は解散となった。

何かあれば連絡する。

そう伝え、琉嬉達は出発した。


「いいのかい?」

 見送る後輩達。

隆治はクールに見つめる。

「いいんじゃない?」

 悠飛はそれ以上にクールに言い捨てる。

「きな臭いよね~」

「うん」

「おわっ?!」

「居たのか…」

 双子姉妹だった。

「今日は遅かったね」

「まーねー」

 紫音は浮かない顔をしている。

「一緒に行きたかったんでしょ?」

「そりゃあたしだって行きたかったよ。でもそこは琉嬉姉や先輩らに任せとこうよ」

 珍しく大人らしい意見。

でも顔は浮かない表情のまま。

「柄もなく心配してるんだから…紫音って」

 クスっと笑いながら莉音が代弁するかのように言う。

「う、うるさいなっ。同じ部活部員を心配して悪い?!」

「いつも強気なお前がそんなんだからこっちまで心配してくるよ」

 悠飛の右手が紫音の頭の上にぽんっと乗る。

「本当は私も行きたかったんですが…」

 剣道部に顔を出してたせいか、乗り遅れた柚羽。

「どっちにしろ人数オーバーで乗れませんでしたね」

「だったら、何かあれば私達も行く準備しませんか?」

 莉音が発案する。

「え?でも…」

「住所さえ聞ければ電車で行けばいいんです。取り敢えず駅で待ちませんか?」

 紫音とは対照的になぜか行動的な莉音。

珍しい事が重なっている。

「やれやれ。奇妙な事に今日は莉音がやる気だ」

「仕方ないから付き合うよ」

 悠飛と隆治のクール組は従う事にしたようだ。

「よし!んじゃ、駅にれっつごー!」

「お前は勢いだけだな」

 呆れて腰に手を当てる悠飛。

「ま、それらしくていいんじゃないのかな?」

 隆治は隆治でちょっと楽しそう。

「ですね」

 柚羽も納得。




 耿助車。

車内はあまり会話がない。

そこで先に口を開いたのはみゆだった。

「あのー、ところで寧音先輩の家って皆さん、知ってるんですか~?」

「…」

「…」

「…」

 誰も答えない。

「そういえば…知らんなぁ」

「そうだな」

「遊ぶとしてもいっつもあっちから来るもんね」

 それぞれ今までの記憶を辿る。

学校以外で会う時は大抵街中。

人の家に行って遊ぶというのはなかなかない。

それぞれ家が別々に遠い所。

「プライベートの話って、そういえば聞いた記憶ありませんね」

「あんまり話したがりませんよね~」

「お前ら…知らないのかよ…」

 こっちはこっちで呆れる琉嬉。

姉妹して頭を抱える。

「まったく…耿助さん知りません?」

「実際に行った事はありませんが、住所は知ってますよ♪」

 カーナビを起動させ、住所を示した画面を出す。

案外学校からそう遠く離れてなかった。

「ここって…白豊はくとよ中央側?」

「ですね。厳密にはギリギリ鞍光中央区ですが」

 学校は南区の中央側寄り。

しかし山が多い田舎である。

中央区の南西側から南区、西区の一部、そして琉嬉が現在住んでいる家の曲区にかけて、

山々が連なっている。

そこに住宅街を開拓していったため目の前が谷やら丘やらが続く。

そこから平野側に向かうと白豊方面になる。

「結構近いんだね」

「それは…一応來魅さんを封じてた理由がありますからね」

「ああ…そっか」

 五大家のひとつ、夜栄守家である寧音。

その夜栄守家がこの地に残った一部の家系の者の子孫が寧音らしい。

詳しい話は同じ五大家でもある琉嬉は知らない。

耿助は何か知ってそうでもあるが、琉嬉は敢えて聞かない。

どうせなら本人から聞きたいからだ。

みゆも同じ五大家ながら、特別知ってそうもない。


「凛夢さんは来なかったんですね」

 同じ五大家である、水無月家の凛夢。

その凛夢を気にするまどか。

「凛夢ちゃんは家庭の問題ありますからね~。いろいろ大変みたいなんですよ」

「みゆは詳しいね」

「ま、とーおい親戚ですからね」

「お前ら親戚なの?」

 初めて聞いた風の龍翔。

「んーと、私からすると私の叔父の奥さんのお姉さんが水無月家の遠縁だったかなぁ?」

「お前も良く分かってないじゃんか」

「でへへー、そうですね。でもその縁あって凛夢ちゃんと仲良くなれたんです」

「とやかく言ってるうちに着きましたよ。と言っても近くですけどね」

 耿助が車を止める。


 その場所は閑静な住宅街。

近隣は大きな幹線道路。

交通はかなり便利そうである。

「どの辺やろな」

「詳しい住所は…と」

 琉嬉がカーナビを確認する。

「もう少し奥ですかね…。あっちかな」

 指差す。

その方向は住宅街から少し離れた場所。

急な坂道が続く如何にも都市部とはかけ離れたような、住宅路。

「上の方なのかな?」

 護が車の窓を開けて外を風景を覗く。

少しアホっぽいような、口をぽかんと開けながら。

「…あのさ、護はん…。もうちょっとこう大人らしい顔するようにせんと美人顔が台無しやで」

「へ?なぜ?」

 自分では気づいてない。

「護はちょっとおバカさんキャラなんだからしょうがないよ。耿助さん。この坂道登って」

「了解ですよ~。皆さん、ちょっとパワー出しますから気を付けてくださいね」

「え?」

 ブオンッと今までなかったエンジン音が鳴る。

そのまま勢いよく発進する。

「わわっ」

 車は急発進してすぐ坂道入るために急激なカーブする。

「わひゃっ、みゆちゃん重たいよっ」

「あははー、ごめーんみこっちゃ~ん、今度ダイエットする~てか、私も重たい~」

「すみませんねぇ…重くって」

 端っこに座ってた御琴。

真ん中にみゆ。

そしてみゆの隣にはまどか。

まどかがみゆを押してその二人がさらに御琴を押す形になってる。

「あらぁ、大変やなー。ウチが端っこで良かったわ」

「そ、そうだな…」

 真ん中に居た龍翔。

隣同士の女子に挟まれるような形になっている。

「羨ましいね二人とも」

 助手席の琉嬉は余裕。

「し、しむぅ~」



 坂道を登りきる。

すると、一際大きい家が見えてきた。

昔からあるような、古風な和の屋敷のような大きな家。

「あ、夜栄守って書いてる」

 夜栄守の文字をみつけたのはみゆ。

「本当ですねぇ。寧音さん…こんな立派な所に住んでらしたんですね~」

「よーし」

 車を止めるや否や、一番最初に飛び降りるように車から出たのは琉嬉だ。

そのまま塀に囲まれた家の門へ降り立つ。

「琉嬉ちゃんはやっ…」

「善は急げ、ですかね~。行動力は流石です」

 みゆも後を追いかけるように早足で向かう。

「ところで、連絡は一向につかへんの?まどか?」

「そうですねぇ」

 まどかはスマホを操作しながら降りる。

しかし音沙汰は一切なし。

というかすぐに留守電に繋がる。

「なんかあったんやろか」

「………少しヤな念を感じるね」

 琉嬉が小さい声で言う。

「うへ…琉嬉ちゃんがこういうのは間違いないんだよね…」


 呼び鈴を押す。

しかし反応はない。

「…誰もいないのか?」

「連打してみましょうよ」

「あ、コラ」

 みゆが割って入る。

「見よっ、この華麗なる16連打を~」

「名人芸はいいから」 

 ぺしっと、みゆの脳天をチョップする。


 あれだけ派手に呼び鈴を押しても誰も出てこない。

この異様な雰囲気にしびれを切らした琉嬉。

「しゃーないね、乗り越えるか」

 と、言った瞬間塀を飛び越えて行った。

「ありゃりゃ…行ってもうた」

「ま、非常事態って事で」

 ノリノリの様子で耿助も飛び越えて行った。

「保護者側の人があれやもんなぁ…。どうする?」

「行きましょうか」

 笑顔のまどか。

まどかも人間とは思えない跳躍力で飛び越える。

「じゃ、行きましょ~」

 みゆも続いて行く。

「やれやれ。行くか」

「はい」

 龍翔は遊希を呼び出し、軽々と塀を超えて行く。

「……君はどうする?」

 残った叉羅沙と御琴。

「も、勿論僕も行きます…けど、この高さは…」

「フフ、しゃーないな。ちょいと失礼」

「え?」

 御琴を軽々と片手で担ぎ上げる。

体格差があるので叉羅沙にとっては御琴は楽に持ち上げれる。

「ほいじゃ、行くよー」

 ひょいっと、人一人分持ち上げてるのにも関わらず、簡単に塀の上に登ってしまう。

「ひぃ~…」




「もーしもーし。誰もいませんかー?」

 琉嬉が大声で叫ぶ。

それでも反応はないようだ。

だが琉嬉は何かに気づく。

「…ふぅむ……。微妙な霊気の流れが…」

「どうしました?」

「こっちだ」

 突然走り出す。

「あらら、いつもの不思議少女が発動したんか?」

「みたいですね~。私達も追いかけましょっ」


 琉嬉が感じ取った霊気の乱れ。

そこから発せられる場所を辿って来た場所。

家の裏手にある、大きな倉庫のような建物。

家とは別にある、倉庫のような建物があるとは金持ちゆえか。

「…おい、寧音」

 寧音の名を呼ぶ。

だが倉庫からは反応はない。

「琉嬉先輩っ、寧音先輩がここに居るんですか?」

「……居るね。開けるよ」

「でも鍵かかってるよ?琉嬉ちゃん…って」

「問答無用」

 琉嬉はありったけの霊気を左手に込めて、扉を殴る。

爆発するかのような大きな音と同時に扉がめり込んで壊れる。

「あっちゃー…派手やなあ…」

 粉々になった扉。

倉庫へ入る琉嬉達。

「いいんですか…?」

「ま、いいんじゃないですかね?緊急事態ですから」

「さっきからそればっかりですね耿助さん…」

 ジト目で耿助を見る御琴。

「ほら、急ごうぜ」

 御琴の背中を押す龍翔。



 変に静かな倉庫の中。

二階建てくらいの高さがあり、なかなか広い。

「寧音~どこだー」

 倉庫と言っても、物は少ない。

生活用品や、もう使われてない洗濯機やテレビ。

見た感じ10年前とかではないレベルだ。

30年くらい前のものだと思われる古いタイプの作り。

テレビやパソコンのディスプレイもブラウン管の大きい物。

「一階じゃないのか?すると…上か」

 階段を見る。

「琉嬉さん?」

「……だな」


 二階の一室。

ドアに結界だと思われるしめ縄が付けられている。

「結界?」

「…もしや、この中に?」

 琉嬉は無言で頷く。

「どうします?これも無理矢理開けますか?」

「無論」

 琉嬉は左手にしている数珠を外した。


 一瞬で結界は解かれた。

静かにドアを開ける。

「寧音……」

 奥から異様な霊気が流れて来る。

そして静かに体育座りでうずくまるような形でいる寧音を発見した。

だが……。

「なんだこの霊力は…」

 琉嬉の額の部分に、電気が走るような衝撃がほとばしる。

「気味が悪いですね…」

「まどか、ちょっとサポート頼む」

「はい?」

 琉嬉が走り出した。

訳も解からず、取り敢えずまどかも琉嬉に続いた。

「寧音ー!」

「来ないでください!」

 寧音が咆哮するかのように叫んだ。

「ぐっ」

 近づこうとした琉嬉は何か脚に憑りつかれかのように足元が重くなる。

まるで重力が倍増したような、奇妙な感覚に。

「なんだこれ?!」

「…夜栄守の呪いです」

「……呪いィ?!」

 驚く他の面々。


「聞いた事あります…たしか、夜栄守家は力を得た引き換えに代償があるとか…」

 耿助が微妙に記憶にあった事を思い出す。

「その通りです…。夜栄守家は天神様から授かった力を得た代わりに、体を蝕む呪いが…あるのです。

代々伝わる……「呪力」の引き換えとなる…呪いが」

「そういうコトか、よ!」

 琉嬉は無理矢理突破しようとする。

だが凄まじい霊気に気圧される。

寧音から発せられる、琉嬉らにとっては感じた事のない、意味不明な念交じりの、霊気が。

その光はうっすらと黄金色をしていて、寧音の体からぼんやりと放っている。

「琉嬉さん…どうします?」

「一時的だろうけど、真霊気をぶっ放す!」

「琉嬉先輩!その力何度も使える力じゃあ…」

「でもどうしようもないだろ!」

 再び数珠を外す。

「やめてください、琉嬉さん…。私は大丈夫ですから…」

 よく見ると寧音の体に奇妙な紋様が浮かんでいる。

髪の色が白に近い色になっている。

見た目が完全に人間とはかけ離れ始めている。

「寧音ちゃん…その姿って…妖怪?でも妖怪の力なんて感じた事ないのに…」

 半妖である護は同胞の事をなんとなく感知出来る。

だが寧音からはそんな力は感じ取った事なぞない。

「くっ……駄目です……力が制御…出来ない…」

「うわぁっ」

 霊気交じりの突風が吹く。

「アカン、なんやのこれ…」

「龍翔様…」

「ああ、ちとヤバイな」

 他の者も近づけないでいる。


 寧音の体から発する強烈な霊気の波動。

それが目に視えるような形となり辺りの空間を彷徨い続けている。

それに迂闊に触れるとダメージに繋がる。

「く、呪いの正体ってこれなの?」

「解からん…けど、どうにかしないと寧音がまいっちゃうぜありゃ」

「あわわわ」

「みこっちゃんは下がってて…うん、これは大変だ」

 物質となってこちらを襲ってくる。

どういう力なのか、理解し難い。

「これが…夜栄守の呪い……。厄介なもんだね夜栄守家っていうのは」

 こちらの動きが鈍くなるうえに、容赦なく襲ってくる霊物質。

「そう…ですね」

「珍しく余裕がなさそうだねまどか」

「正直驚いてます。今まで二年間共にしてきた同じ仲間がこのような形になってる姿を見ると…」

「まったくもって同意だね」

 二人はコンビネーションでなんとか寧音の近くまで辿り着く。


「駄目です。近づいては駄目です…っ!」

 一生懸命に拒否する寧音。

しかし琉嬉とまどかは近づこうとする。

「詳しく…聞こうか…寧音!」

 異様な姿となった寧音。

見られまいと、体を小さくするようにうずくまっている。

「寧音さん…そのままでは、衰弱してしまいますよ」

「それは承知のうえです。私は…ここから出てはいけないんです…これも、夜栄守の宿命ですから…!」


 夜栄守の宿命。

何やら夜栄守家独特の家系に纏わる何かがあるようだ。

倉庫内はその場にいるだけで気分が悪くなるような、悪性の霊波動で満ちている。

寧音から発せられる、奇妙な霊気のせいだ。

「…この場にいるのも辛いよ」

 護が弱気な事を言う。

「これ程とはな…夜栄守家の呪い……よく解かったぜ」

 龍翔がポケットの中から小さな瓶を出した。

その蓋を開けると、周辺をまき散らすように透明な液体を振りまく。

「龍翔君、それは…」

「ちょいと魔除けに家から拝借してたもんだけどな…」

「神聖な清水きよみずです。この清水からこちらはあまり影響受けないと思います…」

 遊希が代わりに答える。

「そ、そうなんですね…」

 安堵する御琴。

「くそ~、わたし達じゃ何も出来ないよ~」

 悔しがるみゆ。

「そうやな…。ウチらが今行っても足手まといや…」

 眉間にしわを寄せながら言う。

「琉嬉ちゃん、まどか、頼むぜ」



「寧音…!」

 手を伸ばす琉嬉。

「駄目です!無闇に近づいては!」

「うわっ!?」

 しかし反発するかのように、弾かれる。

まるで軽い人形のように吹き飛ばされる琉嬉。

「おっと、大丈夫ですか?」

 まどかになんとか受け止められて、大ダメージにはならなかった。

「ごめん、まどか」

「なぁに。琉嬉さん軽いから問題ないですよ」

「…この期に及んで余裕だね」

「フフ、だからこそです」

 二人は改めて寧音の方を見る。

寧音の体を纏うようにうねる霊気。

普通の霊気ではない。

悪霊ともまた違う。

どこか神聖さがあるような、神々しい力と悪意が混ざったような、混沌とした力。

「今までに感じた事ないような…奇妙な力だ。僕の呪符も弾かれる」

「これが寧音さんの秘めたる、夜栄守の力なんです」

「…そっか。あの時…初めに戦った時…」

 最初に衝突した時。

本気ではないとはいえ、來魅をも圧倒する力を見せつけた寧音の霊力。

その霊力の本当の力…琉嬉はそう解釈する。


「仕方ない。かなり強引だけど…寧音」

「………琉嬉さん」

「この真霊気を「二回」も食らったヤツはいない。覚悟してね」

 左腕に自分の霊力を込める。

「…さて、私も本気出します。嵐楓客らんぷうきゃく!」

 まどかがくるっと回って槍を振り回す。

するとまどかを中心に凄まじい突風が巻き起こる。

まるで竜巻。

寧音から放たれている黄金の霊気を吹き飛ばす。

「長く持ちません…!琉嬉さん!」

「あいよ!」

 左腕を上げて放とうとした瞬間。

隙をついたかのようにうねうねと触手みたいなのがまとわりついてきた。

「な、なんだこれ?!」

「琉嬉さん!」

「なんの!」

 刹那、触手がバラバラと切り刻まれる。

「琉嬉ちゃんの相棒役は渡さないよ~!」

「護!」

 護は捨て身の覚悟だったのか、目が赤い。

妖怪モードだ。

「出し惜しみはしないからねっ!あたしだっていつだって本気なんだから!

「さすが護さんです」

 にっこりと微笑むまどか。

あの強風の中を突っ切って来た。

護だからこそ出来た芸当。

「よっしゃ…でかした護!!」

 そして寧音を改めて照準を合わす。

「琉嬉さん!この力は恐らく、天神様です!

妖の中でも別格、神格の……いわゆる神様です!」

 耿助が叫ぶ。

「神様ねぇ…。でもこの力は神仏をも超える…力とも言われてるんでね…!」

 真霊気が集まる。

「まどか、耿助さん、あと頼みますね」

 琉嬉は後始末関係を耿助に任せた。

「承知しました」

 まどかは迫りくる霊気を槍で切り裂き、琉嬉を護衛する。

そして琉嬉は真霊気を左腕から解き放つ。

「真戒滅成……!!」

 巨大な波状の光が寧音を目掛ける。




 静まり返った倉庫内。

琉嬉は力を使い果たしたせいか、その場に仰向けになって倒れている。

護の膝枕状態で。

「大丈夫ですか?」

 耿助が琉嬉の顔を覗き込む。

「寧音は?」

「大丈夫ですよ」

 耿助が視線を向ける先。

琉嬉もそちらに顔を向ける。

まどかが抱きかかえるように、寧音も目を閉じたままでいる。

「まさか死んだ?」

「んなわけねーよ」

 ぺしっとブラックジョークを言う琉嬉の額を軽く叩く龍翔。

「なんとか力は抑えこんだようだ」

「…あの水晶の欠片でもあれば來魅みたいな封じの術が使えるんだけど…」

「ふふ、琉嬉さん貴方の今の体力霊力では無理ですよ。ここは顧問としての僕にお任せくださいな」

「…頼みます」

 耿助が寧音の手を軽く握り、何か呟く。

すると寧音の首元にネックレスのようなものが構成されていく。

「これは…?」

「一応、呪詛返しの一種の技です。霊具の一種でして…説明すると長くなるので省きますが、

単なる封印の術だと思って頂ければ」

「なるほど…流石は封じの一族やなぁ~」

「でも長く持ちません。おそらく琉嬉さんの真霊気で一時的に封じてるにすぎません。

これはあくまでも二重の封じにすぎません」

「ひぇぇ…寧音ちゃんおっそろしい…」

 話を聞くだけでなんだか大変そう。

護に理解力が足りない頭でもそれだけ現状の寧音がヤバイというのが解かった。


「さて…寧音ちゃんが起きんとどうにも納得出来ないなあ」

 叉羅沙が見回す倉庫内。

散々暴れ回ったせいで物が散乱してしまっている。

「私ら何もしてないから片付けよ~」

「そ、そうだね…」

「仕方ない…耿助さん、まどか、琉嬉ちゃんと寧音をよろしくッス」

「了解しました」




 勝手に家中に上がる。

鍵は一箇所だけ、裏口が開いていた。

しかし中に入れど、人気は勿論なぜか無し。

寧音の部屋は一発でなぜか分かった。

アニメやら漫画が大量の置いてあったからだ。

そこに寧音を寝かし、まどかが様子を見ている。

琉嬉は別部屋にこれもまた勝手に布団を敷いて寝かす。

ただ琉嬉の方は意識はしっかりしている。

体力が一気になくなり、まともに歩けない状態だからだ。

部屋の時計は夕刻の6時を回ろうとしていた。


「なんか、しっちゃかめっちゃかで頭がついていないよ~」

「安心しろ、俺らもだ」

 みゆならまだしも、以前から同じ生徒会として親交のある龍翔達も実は驚きっぱなし。

「ま、一番ショックなのはまどかだろうけど」

「かいちょが?」

「そやな。ウチと寧音が一番付き合いが長いしなぁ」

「へえ…そうなんですか~」

 みゆと御琴は一年後輩なので当然知らない。

当然、琉嬉も途中から鞍光高校に来たのでそれ以前から学校に居る者達の詳しい経緯は知らない。

「おい、なんだこりゃあ…勝手に入り込んでるのは誰だ?」

 男性にしては高いようで女性にしては低めのような声が突然聞こえて来た。

ドタドタッと足音が沢山聞こえる。

みゆ達が振り向くと、知らない顔の面々。

「あー、なんだ…収まったのか…。まったく…驚かせやがる…」

 黒いスーツっぽい服を着た、銀髪に近い髪の色の人間。

スラっとしている。

髪は長め。

「貴方は…もしかして、夜栄守家ご当主の咲希璃さきりさん?」

 耿助がいち早く気づく。

「お、おー。分かるヤツが居たか…」

「咲希璃さん?貴方が…」

 まどかは立ち上がり軽く礼をする。

「お前さん達…寧音のお仲間か。なるほど…」

 夜栄守咲希璃。

夜栄守の当主自らわざわざ駆けつけたようにも見える光景。

お付きの黒服の人間が数名。

「これはこれは、咲希璃さん~。お久しぶりですねー」

 みゆが咲希璃に駆け寄るような形。

「…お前、港咲の…」

「如何にもですっ」

「………という事は」

「鞍光高校ふかしぎ部。寧音からは聞いてるでしょ?」

「…彼方の者まで」

 琉嬉が壁にもたれながらも、皆が集まる所に現われた。



「異様な光景だな。五大家のうち4つと、霊術名家の者達が集まっている…。こんな光景霊術会にもないぞ」

「それは思いますねー」

 笑顔で言う耿助。

「わざわざご当主様がやって来たってコトは…やっぱり「呪い」で?」

「……まぁ、そういう話だ」

 ピシッと決まった服装のまま胡坐をかいて座っている咲希璃。

なんともギャップのある人物だ。

「てか、あんた女?男じゃないよねぇ?」

 琉嬉が唐突に不躾な質問をする。

「おい、お前、当主に向ってなんて失礼な事を!」

 お付きの人間が怒り出す。

「まあ待て、落ち着けよ」

「いや、しかし…」

「いいんだよ。まったく、ウチのもんも相変わらず血の気が多くてな」

 割と、当主は器が大きい人物のようだ。

「よく間違えられるがな、私は女だ。一応な」

「…だよね」

「彼方。そっちこそ、本当に高校生か?」

「18になりましたー。もう大人ですー」

 ぷぅっと頬を膨らませる。

案外子供っぽい所を見せるから余計に幼く見える。

「ぷっ、くくく…。寧音の言う通りだ。常に強気な態度…。そうそう、お前さんとは初対面だったな。

以前は「直系」の方が世話になったな」

「直系?ああ…もしかして夜栄守神社の?」

「そうだ」

 なぜか話が進んでいく。

まどか達には知らない話だ。

「その話はおいおい後にして、夜栄守の呪いって何?」

「単刀直入だな…。いいだろう。説明してやる」

 咲希璃は座る体勢を直し、真面目な表情になる。


「あの…なんか怖い人ですねえ…」

 小声で御琴が隣に居た叉羅沙に話しかける。

「そやなー。ウチも始めて会ったわ」

「でもみゆちゃんは初対面じゃないんだね…」

「ま、こう見えても港咲家の跡取り娘ですからね~。いろいろ御付き合いあるんだよー」

 伊達に五大家のひとつじゃない。

みゆの凄さを改めて感じる御琴達。

「簡単に言うと、我々夜栄守家は力を得ている代わりに、呪いを受けている」

「天神様のですね」

「そう、さすがは参堂の人間。天神様と崇められた、神格の妖がその昔居た…という伝説しか知らんがな。

その天神から授かった初めの人間が我々夜栄守家の始祖だ。

当時は既に陰陽師とか霊術者は存在した。

それとは別の、力を得る代わりに、天神は代償となる呪いをかけた。

その姿は…先程お前さん達見ただろう?

寧音の変わりよう…」

「なんか、あたしみたいな妖怪化みたいな感じだったね」

 護のように体中に模様が浮き出ていた。

髪の色も変化し、体つきも少し変わっていた。

より一層、人間から離れているような風貌だった。

「呪いって、つまり人間をやめるってコト?」

 琉嬉が低い声で聞く。

「はは、人間をやめるか…言い得て妙だな。たしかに…人間とはかけ離れる」

「半妖とは…また違う?」

 似た境遇である護。

「悠飛と同じ契約タイプか。それもかなり深くて…凶悪な」

 琉嬉が一人納得するように頷く。

「呪いの恐ろしさはそれだけじゃない。代々子孫に受け継がれる。現にこれだ」

 咲希璃が右腕を上げ、袖をめくる。

すると寧音と同じような模様が浮き出ているのが見える。

「どういう事だ?常時出てるっていうの?」

「大人になるにつれて…力が強くなる。そして時折暴走を起こす。

それが呪いの怖さ」

「…なるほど。寧音は耐え切れなくなって呪いが発動したのか。だから一人閉じこもって…結界まで張って」

「水くさいですね」

「まったくや」

 珍しく腹を立てるまどか。

「ま、知られたくない事だったのかもね…」


「寧音はな、色強く呪力を受け継いでしまってる。だから、こちらに住んでるのもあいつの選んだ事だ」

「どゆこと?」

「…大妖怪來魅。そいつの存在。お前さん達がここに今も残ってる理由のひとつだろう?夜栄守家も残った者が居る。

その直系にあたるのが寧音らの家系だ」

 一同は納得の表情。

「來魅ねぇ。今はのんきにうちに住んでるけど」

「らしいな。………それも一つの時代が終わったと考えていいんじゃねえか?」

 あっけらかんと言う咲希璃。

「随分軽いなあ、当主なのに」

「はん、頭の固い老人達に付き合ってられるかっての。夜栄守家も時代の変化に合わせなきゃいけねーだろ」

「…それはそうだけど、あんた口悪いねー」

「ほっとけ」

 付き人も苦笑している。

「こら、お前ら笑うなっ」

「なんだ、頑固で怖い人かと思ったけど話が分かりそうな人で良かったよ」

「……誰が頑固だっ」

 少し照れる咲希璃。

「当主はこう見えても昔はもっとお堅い人だったんですよ?」

「寧音!」

「寧音さん、大丈夫なのですか?」

 寧音が目を覚ました。

「人の部屋で大勢で喋ってたらそれはもう起きますよ」

 笑顔を見せる寧音。

しかし目の焦点が少し定まってない感じだ。

相当の疲労感を見せている。

「良かった…封じの術は効いてますね、一応」

「ええ、参堂さん、ありがとうございます。ただ…」

「またいつ発動するか分からねー、って言うんだろ?だから私が来たんだ。それと当主と呼ぶな」

 咲希璃が立ち上がり、寧音の元へ向かう。

「本当はな、もっと早く来たかったんだがなんせ遠くてな…」

 咲希璃が寧音の両手首を掴む。

するとまばゆい黄金の光がぼんやりと浮かぶ。

(さっきの光と同じ…)

「ふむ…ま、しばらくは持つだろう…。本格的にやるなら…本家に来ないと無理だな」

「ええ…ありがとうございます。当主」

「だから当主はやめろ」

 コツッと寧音の頭を軽くげんこつする。

「いたた。しかし…」

「同い年だし、お前は一族でも最高位の力を持つ者だ。もう少し威厳を持てよ」

「……はぁ、それは勇雲さんや流奈さん達が…」

「あっちはあっち、お前はお前。だろ」

「同い年?マジで?」

 驚く琉嬉。

琉嬉以外のメンバーも当然困惑した顔をしている。

「まどかは知ってたん?」

「ええ、まあ…」

 龍翔が頬をポリポリと掻きながら、

「ってコトはぁ…今年18歳っつー事かい。つまりオレ達同年代ってワケだな」

「そやなあ…」


 咲希璃は琉嬉らと同い年だというのが判明した。

だが、妙な落ち着き感、今のスーツっぽいかっこいい服装といい、見た目の大人っぽさといい、

年上だと勝手に思っていた。

ましてや夜栄守家の当主という、偉そうな立場。

「お若いのに一族を束ねる立場ですか…大変そうですねえ」

「なーに言ってやがる。参堂家のアンタだって、大した年変わらないだろう?」

「ええ、まぁ…まだまだ大学卒業したばっかりの若輩者ですけどね」

 にっこりと微笑む耿助。

「妙にサバサバしてんのな」

 琉嬉が立ち上がる。

でもまだ足元がふらつくのか、まるで高齢の老人のように静かにゆっくりとした動作だ。

「…そっかぁ?お前さんの事もよく聞いてるよ。凶暴な天使だって、奇抜な通り名があるってな」

「失礼だな…」

 寧音を睨む琉嬉。

しかし寧音はわざとらしく口笛吹きながら窓の方見ている。

「なんて漫画的な人なんでしょう…」

「みゆちゃんも大した変わらないけどね」

「しかし…噂には聞いてたが…」

 まじまじと咲希璃は琉嬉を食い付くように見回す。

「な、何?」

「……確かに、見事にロリってるなぁ。小学生みたいだな?」

 誰しもが思う事をストレートに言い放つ。

その瞬間その場のふかしぎ部員達は凍り付いた。

だが…。

「はいはい。それはもういい加減慣れました。こっちこそ男みたいだって言ってごめん」

「ん?」

「あ、思ったよりでかい…」

「オイ、コラ…どこ触ってるんだよ」

「ああ、失礼しました」

 琉嬉は堂々と咲希璃の胸を触っていた。

「イイ度胸してんなあ、オイ…」

 笑顔だが言ってる言葉は怒っている。

「ま、寧音の為にこっちまで来るなんていい当主様じゃないの」

 ぽんぽんっと寧音の肩を叩く琉嬉。

「ええ、お優しい方ですよ。一年前に比べたらそりゃもう」

「…寧音、お前も黙れ」

 以前に何かあったようだ。



「今日はもうお戻りになられるんですか?」

 まどかが咲希璃に問いかける。

「今日一日はこちらに居る。明日朝の便で帰って、昼からでも学校に行かねーとな…」

「あ、学生だったんだ」

「いちいち気に障る言い方だなあ。悪かったな、老け顔で」

「誰も老けてるとは言ってないじゃん」

「お前さんこそ、誰も高校生だと思わねーっつーの」

「だとしても学生は学生ですー」

 ちゃんと言い返す。

お互いに喧嘩腰…にように聞こえるが、どこかわざと言い合ってるように見える。

「すっかり仲良しだねえ、琉嬉ちゃん。案外気が合うんじゃない?」

「かもねー?」

 護と二人して笑い合う。

「…ですって、咲希璃さん」

「はいはい、そういうコトにしとけよ…。ほら、もう今日は休め」

 寧音のおでこの辺りを優しく撫でる。

「あ、はい。では失礼します、皆さん」

「おう」

「気を付けてな」

 ふかしぎ部のメンバー達は耿助の車に乗り込む。

「後でケータイに連絡するから、ああ、あと授業は別にいいけど部活は無断欠席はしないよーに!」

 指を差して釘を刺すような言い方で締めた琉嬉。

その顔は笑顔を見せていた。

「あはは。はい、そうしますね」

「じゃ」

 そして車は発進する。


「行ったな」

「はい」

 お付きの者は先に家に入って行く。

後始末をする為に、掃除道具などを準備して。

「しかしまあ…ヘンテコな連中だな」

「それはもう」

「お前も入ってるんだぞ」

「それは否定できませんね」

 寧音は笑顔で返す。

すっかり顔色も元に戻り、先程の異様な姿とは正反対。

「やれやれ…夜栄守の呪い…こんな早く出るとはな。力の使い過ぎじゃないのか?」

「…すみません。そうかもしれません」

「……いっその事、こちらに来るか?別の奴をこちらに派遣してもいいんだがな…」

「いえ、私は最後までこちらに居たいですから」

 そう言う寧音の目は力強い。

「そうかい。でもいずれは一度こっち来い。呪いを抑え込まなければいけねーからな」

「夏に戻ります。それまで持ちますか?」

「夏…お前の言う夏は8月のあのイベント時期だろ?」

「ええ、まあそうです」

 両腕を見直す。

寧音の両腕には咲希璃が施した、夜栄守家独特の呪い封じの術の模様がほんのりと両腕に刻み込まれている。

これはこれで結構目立つ仕様だ。

「あはは、これ、半袖とかにしたら目立ちますよね~。やだなぁ、どう隠そうか…」

「…そればかりは我慢するしかねーな」

 寧音はそのまま無言で、笑顔を咲希璃に見せる。

でも目はちょっと辛そうな目つきになっている…ように咲希璃には見えた。

眼鏡をかけているのでちょっと分かりにくかったが。

「しかしまあ、あの子供みたいな女が彼方琉嬉ねぇ…」

「有名なんですか?」

「有名も何も、彼方家はそもそも有名だろ?その中でも異端児扱いされてるぜ」

「あー、やっぱり」

 物凄く心当たりがある。

毎日のように会ってるので逆に違和感がなくなってしまった。

それだけ、学校でも会ってる回数が多い。

「夜栄守とは違う力…「真霊気」だったか?それをつけ狙う妖怪もいるみたいだな」

「よくご存知で」

「魑魅魍魎の世界での情報はある程度入ってくる。当然だ」

 腕を組んで威張るようなポーズを取る。

自信満々だ。

「今日一日くらい面倒見てやる。この当主である私がわざわざ出向いてやったんだ。ありがてーと思え」

 常に上から目線のような言い方。

しかし愛情の裏返し。

寧音は十分分かっている。

あくまでも咲希璃は当主。

一番偉い立場だ。

「ふふ、本当にありがとうございます。咲希璃さん」

「やれやれだな…琉嬉…か。あの小娘っ子、流奈やらみる達と会った事あるみたいだしな」

「ええ、そうですね、その時は緋瑪斗さんっていう…」

「あー、あの…男から女になったっていう?」

「さすが、聞き及んでますね~」

「風の噂程度だがな…。この街…いろんな意味ですげー街だな」

「まったくもってそうですね」

 二人はそのまま、にこやかに家中に入って行った。




「………あいつが当主ねぇ…。思ってたのより協力的だったなあ」

 琉嬉がボソボソと喋る。

「琉嬉さんは初対面でしたね」

「…ですねぇ。他の夜栄守家の連中には会いましたけど」

「おそらく、我々みたいな五大家と言われてる数ある名家の中では一番大きいんじゃないでしょうかね?」

「そうっぽいですね」

 どことなく気に喰わないが、認めざるを得ない。

「うちより全然大きい所ですよ~。なんか裏では政治の世界にも繋がりあるみたいだし、

実際問題王族とかそういう扱いされてるみたいですよ」

「へぇー、王族!それは凄いね~」

 感動する護。

「王族……ねぇ。裏世界では大昔から続く超有名な一族だからなあ」

「龍翔君も詳しいの?」

「そりゃそうだろ。うちだってそれなりに有名な名家だぜ?」

 加賀家もそこらの資産家の家系にも劣らずな大きな家系だ。

ましてや霊術名家としても有名である。

「うちはなぁ…霊力がバカ高いだけのごく普通な一般家庭だし…」

「バカ言え、有名過ぎるだろうよ」

「それは、お寺の方だから…」

「その割には知識も力も持ち合わせてるやないの?」

「……それは、仕方なく…生きる術だから」

 ちょっと恥ずかしそうに言う琉嬉。

「はは、ま、そうですよね。さて、このまま僕は皆さんの家に送り届けた方がいいんですかねえ?」

「あ、すみません…耿助さん…」

 龍翔やまどかは家が近いからまだいい。

他の琉嬉やみゆ達は別々の方向なうえに、結構遠い。

おとなしく全ての路線が出ている中央駅で降ろしてもらい、そこで解散する事にした。


「ね、琉嬉ちゃん」

「…ん?」

 護が琉嬉を呼び止める。

丁度反対側のホームに電車が止まる。

ざわざわ雑音が一時的に増える。

その中で二人だけ止まったまま。

「明日は寧音ちゃん…学校来るかな?」

「…どうだろうね」

 素っ気ない返事。

「んもー、もうちょっと、こう…仲間を思いやる気持ちとかさぁ~」

 なぜかくねくねした動きで言う護。

「わかってるよっ。僕が気持ちを外に表すのが苦手なの知ってるでしょ?」

「んんー?そうだっけ?」

「……ばか」

 こつっと護の脛を軽く蹴る。

「いたぁい…何するのさー」

「こっちも電車来たよ。帰るよ」

 そそくさと電車に先に入り込む。

「あ、待ってよー琉嬉ちゃーん」


 今回はなんとか収まった。

それも当主の咲希璃が来てくれたおかげでもある。

(…夜栄守家の力…五大家か…。うちもそうだけどやっぱり五大家だけあって侮れない力だ…)

 座席が空いてたので二人は座る。

しかし琉嬉は護に寄しかかる形になってしまう。

「琉嬉ちゃん…?」

 琉嬉の方は眠たそうだ。

真霊気を放った後。

やはり体力が回復しきらない。

「…しゃーないなぁ。家まで送ってあげるよ」

 護は目を瞑る琉嬉の頬を軽く突っつくのだった。


(僕達は…今はもう、持ちつ持たれつの関係だ…。そこまで来てるんだよ…ふかしぎ部は。

だから…僕は仲間を全力で助ける………)

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