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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十三章   ~季節移変編~
74/92

#74 新しい季節は切ないよりも憂鬱で

 いわゆるぐずつく天気。

雨が降ったりやんだり。

晴れ間が見えたと思えばすぐ曇ってまた雨が降る。

落ち着かない雲の流れだ。

6月とは曖昧な時期。

ましてや琉嬉達が住んでいる地域。

基本的には涼しい気候…の筈なのだが、夏はとことん暑い。

時折、この時期にでも気温がグンと上がる事もしばしば。

6月最初の休日。

早朝には際どい天候だったが、ちゃんと天気予報通りに雲がなくなっていった。

(あったかい……)

 琉嬉はなんとなく、近所の公園にやってきた。

つい先日ルリが居た公園だ。

でもルリが居た奥の森林ではなく、普通の広場がある所。

そこのベンチに座ってゲームをしている。


 たまには外でゲーム…というどこまでもゲーム思考の琉嬉ならではの発想。

たまたま天気が良く、澄み切った晴れ間だ。

天気が良いせいか、カップルや家族連れ、散歩する年配者。

カメラ持った中年の男性。

若者がボールでサッカーをしていたり、子供達が駆け足でどこかへ走り去ったり。

まさに休日。

その中に紛れて琉嬉もお日様の下、ゲームをする。


(………ねむ…)

 あろうことか、なぜか眠気が。

そしてうつらうつら。

「………」

 意識が空を飛ぶような感覚。

何もかも忘れて寝てしまいたい…そんな事を薄っすらと考えたりしてしまう。

そしてそのまま夢の世界へ…。



「あれ、琉嬉さん…?」

 自分を呼ぶ声が聞こえる。

それはなんとなく解かった。

聞き覚えのある、女の声だ。

でも夢かもしれない。

ぼーっとした頭が別の世界を見せてるのかもしれない。

「こんな所で寝てたら危ないですよ~」

 ぽんぽんっと肩を軽く叩かれる。

これが男だったら、すぐ反応して殴ってしまうかもしれない。

ぽや~っとした視界には、なんだか派手な赤色と黒が縞々に混ざったような髪をしたショートカットの女の子。

そして隣にはロングヘアーで、両サイドに三つ編みを作ってそのまま後頭部に持って行って纏めている、

面倒そうな髪型の女の子の二人…。

「もしかして、緋瑪斗と月乃?」

「もしかしてじゃなくって、ヒメと沢城月乃、本人ですよっ」

 以前から親しくしている別の学校の生徒の友人。

緋瑪斗と月乃だった。


「どうしたんですか?公園で居眠りなんて…」

「あ、いや…ゲームやってたら眠くなって」

「…相変わらずですね」

 笑いながら言う緋瑪斗。

「駄目ですよー、女の子が一人で公園で居眠りしちゃ」

「ああ、うーん。そうなんだけど」

 頬をぽりぽりと掻きながら琉嬉は少し反省。

「ま、琉嬉さんなら襲われても返り討ちにしちゃうだろうしね~」

「まるで僕が猛獣みたいな言い方だな…」

 悪気のない月乃の一言。

「てか、二人はなんでここに?」

「近いからちょっと散歩しに…」

 と、言う緋瑪斗を遮るかのように月乃が、

「簡単に言えばデートですよ」

「ちょ、デートって…」

 頬を少し染める緋瑪斗。

「うーん、女同士でデートか…それもありといえばありなのかな?」

 なぜか真面目に考えだす琉嬉。

「あの、琉嬉さん本気にしないでください…」


 緋瑪斗は元々男で、とある事件をきっかけに半妖化したと同時に性別が女となってしまった。

それからいろいろと琉嬉が動き、緋瑪斗は元に戻る為に行動を起こした。

結果、元に戻る事は出来なかったが一応の解決を得た。

その影響のせいか、髪の色がまた変化をお越し、黒と朱色の色が混ざり合った奇妙な髪色になってしまった。

護と同様、髪の色が変色したようである。

「いつもの奴等は一緒じゃないの?」

「毎日一緒に居る訳じゃないですよ~。さすがに」

「ふぅん…。あのうるさい竜と未弥子の目を盗んで二人だけでデートか…」

「だから違いますって!」

 緋瑪斗は必死に否定する。

だが月乃は、

「やだー琉嬉さんったら~。恥ずかしいですよ~」

 なぜか満更でもない態度。

「それと茜袮は?」

「うちの本屋のお仕事してます。今日は」

「そっかー」

 茜袮という名の人物。

緋瑪斗を妖怪化させた本人である。

どうやら緋瑪斗達の近くに居るらしい。

「しかしまぁ……緋瑪斗とはネトゲーでした最近会ってなかったけど…」

 まじまじと緋瑪斗の凝視する琉嬉。

「…あの、何か……?」

「またしばらくみないうちに、活発な女の子~っていう感じになったね。服装とかも」

「ええっ?」

 驚く緋瑪斗。

その服装は上はパーカーに下はホットパンツで黒タイツ。

そしてスニーカー。

まさにボーイッシュ。

琉嬉と頻繁に会ってた頃は男物の服ばっかりでなんか野暮ったい感じのが多かった。

月乃はミニなスカートでブラウスと女子力爆発させている。

「だってー。良かったね?ヒメ?」

「うーん、正直複雑なんですけどね…。普段は男の時の服ばっかりだから…。

外出る時はちゃんと合った服にしなさいって親がうるさくって…」

「主にヒメのお母さんがねー」

 楽しそうに言う月乃。

「あー、あの母親ならそういうのにうるさそう…。うちはあんまりきつかったり強く言わないからなー」

 自分の母親と比べる。

嶺珠は少しおっとりしていて、あまり怒る事もない。

琉嬉がやんちゃしてても、いつも笑ってた記憶しかない。

父親も甘いタイプだが、叱るべき所は叱ってくれたのだが。

ただ、迫力がなかっただけで。

どこからどうしてこんな短気で凶暴な性格になったのか。

琉嬉自身が知りたいくらいだった。


「もー、そーゆー琉嬉さんだって、ちっちゃくて可愛いじゃあないですか」

 少しムッとした表情で拗ねた言い方をする。

「可愛いスカートですね」

「残念~。これはキュロット?ってやつですよーだ」

 立ち上がって見せつける。

黒色のキュロットスカート。

一見すると普通のスカートのように見える仕組みだ。

「あ、黒だから分からなかった~」

「僕ね、あんまりスカートって好きじゃないんだ」

(その割には生足見せてる率高い気がする…)

 緋瑪斗と月乃は過去に会って来た琉嬉の服装を思い出す。

今の緋瑪斗のようにホットパンツにサイハイソックス姿ばっかりだ。

あとは大抵制服姿。

服装に気を遣ってるのか遣ってないのか。

ただひとつの種類にこだわりが強いだけなのかもしれない。


 でも琉嬉は珍しくニコニコした表情で、両肘を両太ももに当てて、頬杖して緋瑪斗を見ている。

「あ、あの…何か?」

「うんにゃー。緋瑪斗は可愛いなぁって思って」

「え?」

「いいよね、ボーイッシュっていうか…中性的な女の子って。可愛いよね」

「…そんな、照れますよ…」

 照れに照れまくる緋瑪斗。

顔が赤い。

「えー、私はー?琉嬉さんー」

 ぶりっ子調で琉嬉に聞く月乃。

「勿論、月乃も可愛いよ。さらさらのロングヘアーで、薄っすらと茶色に輝くような色素が薄くて」

「えへへ。だって、ヒメ」

「なんで俺に同調を求めるの?」

 少し困惑する緋瑪斗。

こういう明るいノリが月乃の持ち味。

その陽気なノリが地味目な性格の緋瑪斗を引っ張って行く。

「うちの妹もさ、緋瑪斗みたいな中性的なんだよね。でもあいつ背が高いし、ぶっきらぼうだから、

男によく間違えられてるけど。服装もやたらと男みたいだし」

「へぇ…。妹さんは私よく知りませんけど…ヒメは知ってる?」

「いや、俺はあまり見た事ないなぁ。琉嬉さんの従妹の双子の姉妹はよく遊んだけど」

「そうなんだ?」

 緋瑪斗は琉嬉の父親の実家である、緋黄寺で武術の稽古をしていた。

そのせいか双子姉妹の莉音、紫音とも仲が良くなった。


「前から思ってたんですけど…琉嬉さんって、女の子っぽくないですよね、性格」

 ストレートに言う月乃。

「よく言われるけどね」

「少年っぽいというか……、こう、なんか達観した男性のようにも思えるし子供っぽくも見えるし…」

「けなしてるように聞こえるけど気のせいか?」

 しかしスルーして月乃は話を続ける。

「頼りになりそうな年上の男の人!みたいな?」

「…はは、たしかに…。姐御ていうより兄貴みたいな?」

「……そうは言われても僕はちゃんと女なんですけどね」

 どうやら琉嬉は女扱いされてないようだ。

見た目は完全なる少女なのだが。

中身は女っぽくない。

いい加減18歳にもなって女らしくないと言われると流石に気になってくる。

チチチッと小鳥の鳴き声。

爽やかな風が吹き抜ける。

「緑が生い茂ったねー」

「夏間近って感じ…ではまだありませんね」

「夜寒いもんな」

 日中はあったかくても夜は冷えて来る。

鞍光はそんな気候だ。


 他愛のない話をしながらそこらを歩き回る。

緋瑪斗達は変わりようもなく過ごしている様子。

琉嬉も久々に会って一安心。

と、言いたい所だったが…。

「実は…緋瑪斗らにはあまりいいお知らせじゃないかもしれないんだけど…この際話をしとくよ」

「いいお知らせ…ではない、ですか…?」

 なんとも言えない空気になる。

「この頃、半妖を引き入れようとしている連中がいる。もしかしたら緋瑪斗の所にも…って思って」

「…マジですかい」



 これまでの半妖の組織の動きを説明した。

半妖のみの存在の者をあらかた引き入れようとしている。

遅かれ早かれ緋瑪斗という「特別」な存在も知り得るだろう。

もしかしたらもう情報を持っているのかもしれない。

そこが心配。

だが今の緋瑪斗ならある程度戦える。

「それに、茜袮さんも居ますから」

「何かあれば僕らもすっ飛んで行くから」

「それは心強いです」

 にっこりと微笑む。

以前のような、悩んでそうな表情はしなくなった。

はじめて会って、喫茶店で会話した時。

あの時のようなソワソワしたような雰囲気は微塵も感じられない。

むしろ自信を持ち合わせてるようにも思える。

「……お昼って食べましたあ?」

 月乃が思い切って聞く。

「お昼?あー、昼飯まだ食べてないや…何時だ今…」

 スマホで時計を確認する。

12時40分くらい。

ぐぅ~っ、と自分の腹が鳴るのが分かる。

「近くのお蕎麦屋さんでも行きます?」

 緋瑪斗が提案する。

公園近くに蕎麦屋があるのを思い出した。

「蕎麦屋か…あまり行った事ないなー。家族では行った事あるけど」

 過去の記憶を辿る琉嬉。

ラーメン屋はよく行くが蕎麦屋はあまり行った記憶が出てこない。

つまりほぼ、行った事ないのだろう。

「女子高生だけで蕎麦屋さんはあまり行かないと思いますけどね~」

「そーう?ま、どーせ普通の女子高生じゃないしー」

「ヒメも普通の女子高生じゃないよね?」

「女子高生っていざ自分が言われると凄く抵抗感出て来る…」

 未だに慣れないようだ。


「ねえ緋瑪斗」

「はい?」

 琉嬉の唐突な呼びかけに蕎麦麺をすすりながら反応する緋瑪斗。

「やっぱり女になっても女の方が好き?」

「ぶっ」

 思わず吹き出してしまう。

「ヒメきたなぁいー」

「えほっえほっ…琉嬉さんどうしたんですか突然…」

「いや、やっぱり異性を感じるのは女の子なのかなーって思って」

 至って真面目に聞く。

「いやいや…うーん…。まーそうですね。男を好きになるって事は…有り得ませんね」

 正直に答える。

「ヒメ…」

「ま、そりゃそーだろね。僕が突然男になったって女相手に異性を感じるとかないだろうし」

「琉嬉さんってちゃんと恋愛観あるんですね」

「人並みにあるよ」

 機嫌悪そうな顔になる。


「でも平和そうで良かったよ」

「おかげさまで」

 蕎麦も食べ終わりまったりする時間。

昼食時も過ぎ、店内の客足も少し鈍くなる。

次々と客が帰って行く。

「学校でもヒメ自身が強くなったというのもあるし、竜や未弥子が怖いから変な奴が近づかなくなったもんねー」

「へぇー」

「それはそれで複雑ですけどね…」

 正直な気持ちを話す。

「あー……その気持ち分かる気がするー…」

 琉嬉も似たような境遇ではある。

「ぶっちゃけ、一部の生徒から避けられてますからね」

 なんとも言えない顔をする緋瑪斗。

それはそれで大変そうである。


「しかしまあ…不思議だね。緋瑪斗」

 頬杖つきながら言う琉嬉。

「何がですか?」

「いや…僕は男の時に緋瑪斗は知らないから余計に不思議なんだけどさ。

そんだけ可愛かったら言い寄ってくる男多いんじゃないかなあって思ってたけど…。

緋瑪斗のまわりって女ばっかりだよね?僕も含めてだけど、さ。

あ、一部の奴等除いてだけどね?」

 何気なく思う。

傍から見れば仲の良い同性の友人同士にしか見えない。

一部の奴等とは、緋瑪斗の幼馴染の男友達(竜と昇太郎)。

「あ、ええ…まあ、そうですね…」

「言い寄って来たのを片っ端から暴力で弾いてきたからねー?」

 月乃の見る目が少し哀れみな目をしている。

「う…それを言うなよ月乃…。大体月乃らも手を出してるだろ…?」

「僕もね」

 琉嬉は以前緋瑪斗達を助けた事がある。

その時は一切「手」を出してない。

投げ飛ばしたり足払いしたりはしたが。

「ま、この天才の僕が手取り足取り教えた訳だし?そりゃ強くなってくれないといけないし?」

 変な自信の琉嬉。

「はは、ですね」

「変なのー。琉嬉さんも自分で天才とか言っちゃってるし…」

 元々自信家ではある。

裏では大変な努力をしているのだが。

「さて、これからどうします?」

 緋瑪斗がお財布を取り出し立ち上がる。

「んー。これ以上は二人の邪魔するのもあれだね」

「いや、そんな事は…」

 緋瑪斗は隣の月乃の顔色を伺う。

顔はにっこりはしているが、なんとなく不満そうな眉の動きをしているのが解かった。

これは子供の頃から知っている緋瑪斗ならではの理解力。


「なあ…緋瑪斗。月乃もだけど、お前達は「こちら側」の世界に足を踏み入れたんだ。

これから何かまたあるかもしれない。

なんせ、ここは魑魅魍魎達が蔓延る鞍光だからね」

「はぁ…それは確かに…」

「なんて、脅しじゃないけど。弱っちいやつなら緋瑪斗でも倒せるだろうし」

「そうですかね?」

「大丈夫。この街は、ここら一帯は僕と同じように力を持つ人が居るし、僕と同等レベルのも居る。

簡単に力のバランスは崩れないさ」

「凄い壮大な話ですね…」

「嘘じゃない話さ」

 至って真面目に語る。

緋瑪斗や月乃も十分に身に起きた異変を知っている。

だからこそ、琉嬉の話す内容は嘘じゃない事くらいすぐ分かる。

「出来れば僕だってふつーに学生生活を送っていたいさ。でも、五大家とかっていう括りにされた家柄に生まれりゃ、

そりゃ嫌でも何かと「遭遇」するもんさ」

 変に黄昏る琉嬉。

「あの~、お店出るんじゃなかったけ?」

 月乃が緋瑪斗と琉嬉の袖を引っ張る。

「あ」

「あ」

 つい忘れていた二人。

緋瑪斗に至ってはなぜかテーブルの隣に立ちっぱなし。

他の客から変に見られてただろう。



 蕎麦屋を後にした三人。

時刻は昼過ぎの二時くらい。

結構な時間蕎麦屋に居た。

元に居た公園に戻る。

人の姿はまだ沢山。

天気も良いまま。

「琉嬉さんはこの公園によく来るんですか?」

「ん?」

「まあ、うちらの所で近くて大きい公園ってここ未来北神居公園くらいだし」

「んー。この前厄介な鳥さんがこの公園で会ってね…」

「鳥さん?」

 首を思わず傾げてしまう緋瑪斗と月乃。

鳥さんというのは、ルリの事。

「妖怪はその辺に案外居たりするからね…」

「う、そうですね…」

 心当たりが大有りの緋瑪斗。

唐突に現れた妖怪に殺された経験があるからだ。

「よっぽどの運が悪くないと出会う事はないだろうけどね。人間側も強いから迂闊に手を出さない。

妖怪側も」

 強い人間側。

それは琉嬉達は勿論の事、おそらくは五大家や霊術名家、日本霊術会といった猛者達の事だろう。

頭のいい妖怪達はただでは置かない事くらい知っている。

だから秘密裏に行動を起こす。

逆に、行動を起こさないのも多い。

「そうなんですねー。勉強になる~」

「いっその事そっち方面の勉強でもするかい?」

「実は…少し興味あったりします!」

 ピースサインする月乃。

「おいおい……。まあいいけどさ…」



 二人と途中で別れる琉嬉。

これ以上邪魔はしたくない…などと野暮な考えもあったのは確かだ。

でも元々お互いに会うべくして会った訳ではない。

(羨ましいこって…。元々緋瑪斗は男だしな…)

 ちょっとだけ羨ましい。

自分に合うような異性はいるのか。

18にもなればさすがにそういう恋愛観を考える時がある。

自分の回りの男は、同じ部活の龍翔や頼りない御琴。

後輩でこれまたまだ頼りない隆治くらい。

それに龍翔は使役妖怪の遊希となんだか怪しい雰囲気さえ出している。

同じクラスメイトの眞太朗達…とも最近はあまり会話していない。

どっちにしろ同性の友人が出来るのは当然であり、回りも同じ女子が多い。

なのだが、同じ学校に入学してきた姉妹従姉妹達。

親族さえも女ばかりだ。

(はたして僕は結婚なんて出来るんでしょうか?)

 などとあれこれ考えながら歩く。

琉嬉の悪い癖でもある。

案外考え込む部分を持っている。

それ故に、回りが見えなくなる時もしばしば。

「やれやれ…そんなコトだろうと思ったよ」

 琉嬉が歩いていた人気の少ない遊歩道。

湿地帯みたいになっていて、枕木の上を歩いて行く通路だ。

回りは草木が生い茂り始めているため、少し鬱蒼としている。

琉嬉はおもむろに上着の左ポケットから数枚の御札を取り出した。

その御札を見事に制御して、自分の体の回りを守るように空中に浮遊させる。


 琉嬉を囲うようにふよふよ浮いている霊体物質。

(……僕の霊気に誘われて出て来た?いや、そんな筈ない…もしや)

 ある推測にすぐ辿り着く。

(緋瑪斗が来てたから…?否、それもおそらく違う。だとすれば…)

 霊物質は攻撃してくる気配はない。

意志がないただの霊的存在。

動物霊か何かだろう。

ただ数が異様に多い。

琉嬉はそれを不審に思う。

(ルリの他に妖が居ると思っていいなこれは)


 前からオカルト話で有名な公園。

何かと目撃談がある。

ただの噂話だけではない…と、これまでの経験上そう考える。

「そうかいそうかい…お前さんが絡んでるのか?」

「!!」

 琉嬉の後ろをつけるかのように木の上に居た人影。

「香那巳、だろ」

「あっらー、なぜ分かるんですか?」

 あっさりと姿を見せる。

その辺に居そうな、眼鏡っ子。

香那巳だった。

ただ普通とは違うのは木の上に居た事だった。


「この霊達は何?」

「あ、いや~、その…誘い込んでただけなんですけどね~。あははは、奇遇ですやん~」

「白々しい」

「そんなん言わないでください~」

 木から飛び降りる。

琉嬉にとっては香那巳の私服は始めて見る。

と言っても、そこらのちょっと地味目な女の子が着てそうな服装である。

グレーを基調にしたジャケットに、青みが混ざったジーンズ。

柄がほとんど入ってないようなシンプルなデザインだ。

とことん目立たないような印象を作り上げている。

「僕に手伝えってか?」

「いやいや、そないな事思ってませんよぉ。ほんまに、偶然なだけで」

「…嘘くせー」

「でも、これらを対処しないといけませんよ?」

 香那巳はまるで手品師のように、何もない所から両手に人型を模した式神を取り出す。

それを宙に放つ。

すると霊物質目指して飛んで行く。

「……何を考えてる?部活にもたまにしか顔出さないくせして」

「う……それは痛いところですが…いろいろお小遣い稼ぎしないいけなくてですね…」

 琉嬉も仕方なく手伝う。

「護みたいなもんか」

「あちらはフリーランスなんで…ウチはいわゆる社畜みたいなもんですわ」

「…学生だろお前」

 会話しながらも割と簡単に霊を蹴散らしてく二人。


 あらかた片付いた頃。

琉嬉は御札を戻さずにまだ警戒を解いていない。

「で、ボスはどこさ」

「はてなんのことやら」

 とぼける言い方する香那巳。

「あのなぁ…僕を出し抜けるとでも思うなよ?」

「いやはやそんなつもりはないんですけど」

「まあいいさ。こんな奥地まで来て人目から遠ざかろうという心遣いは流石だね」

「そんな褒めなくても~」

 くねくねと変な動き。

「……つくづく僕とお前は合わないと思うよ」

「嘘っ!?そんなん言われたらショックですわ~」

「いちいちうるさいな。その眼鏡取るぞ」

「それは勘弁してくださいっ」

 さっと目元を両手で隠すようにしる。

「そもそもほんとに目が悪いのかも疑わしいけどね」

「あはは、目が悪いのはほんまもんですって」

 気づくとルリが居た池にほど近い場所。

ただルリが居た小屋の辺りとは真逆の場所だ。

こうしてみると結構広い。

貯水塔みたいなのが見えて来る。

「あー、この辺ってよく心霊スポットとかの画像でよく見る…」

「琉嬉先輩は来た事なかったんですかー?」

「ないよ。こっち来てまだ一年だもん」

「あ、そなんですか」

「そーゆーお前もじゃないのか?」

「えへへ、ま、そうですけどね」

「…お互い鞍光のルーキー同士ってわけだな」

「ええ、そうですね…ってわわっ」

 むんず、と琉嬉は香那巳の後ろ首の襟元を掴んで引っ張る。

香那巳は決して大きい方ではない。

とはいえ、その香那巳よりも遥かに小柄の琉嬉に片手で引っ張られる。

予想だにしない行動と腕力にさすがの香那巳も少し驚く。

「たた、何を…?」

「それ以上進むな。お前程の術者なら気づかない訳でもないだろうに」

「……は、はぁ…。そりゃまあ…」

 琉嬉が指差す方向。

一見変哲もない小川が流れる小さな鉄橋。

その鉄橋の奥には小さい地蔵。

「結界だ」

 琉嬉は指を差す方向を数回変えていく。

「あらまぁ…ほんまやわあ」

 鉄橋の四隅に少し不自然な石が置かれている。

置かれた石から薄っすらと通して出ている霊波動。

琉嬉ら術者だけには視える。

「これは…」

「幽霊が結界なんぞ作れないしな」

「…えーと、つまり?」

「いや、だからお前が元々これを解きに来たんじゃないのか?」

「いやはや、情報だけしか聞いとらんでして。簡単な説明しか受けてない任務で…」

「この奥に何か居るんだろ?」

 琉嬉はそう言い両手に微かな霊気を浮かべる。

「にしてもこんなそこら辺にあるような石で結界なんて作れるんやねえ。驚きや」

「作った本人とやらは…何処かな」

「あ、ちょ、琉嬉先輩…」

 ズカズカと鉄橋へ乗り込んでいく。

琉嬉が放つ霊気のせいか、何も起きずに進んで行く。

「ん~…なんでこんなコトになったんやろ…」

「それはこっちの台詞でもあるね」

 妙な展開で会った二人。

琉嬉の出会い運が異常に高いせい。



 道なき道を少しだけ進む。

すると立ち入り禁止テープが見えて来る。

テープの奥は金網があってその奥に小屋が二つほど。

何か事件でもあったのだろうか。

そう思わせる雰囲気だ。

「ここだけの話ですけど、一年程前に殺人事件があってここに遺体を遺棄されたって話ですよ」

「ふむ。そうなのか。一年前なら僕がこっち来たばっかの時か」

 その頃は今よりも少しドタバタしてた。

毎日流れるニュースを気にしてる場合な状況ではなかった。

「でもお前さんはそれ以上の深い情報を知り得てるんだろ?」

「あははー、さすがにそれ以上は企業秘密って事で」

「何が企業秘密だ」

 そして軽々と金網を乗り越えていく。

「あらあら、ええんかな…」

「このまま野放しにしとくのは危険だし、ね」

「解かってらっしゃる~」


 二つの小屋には見向きもせず超えて行く。

一応の道が続いてる。

車が通っている形跡があるのか、わだちが出来ている。

「良く見るとなんやろ、農業的な道具が保管されてるんかな~」

「昔はやってたんだろうよ。ほら」

 琉嬉が親指を立てて示す方向。

少し丘を越えた辺り。

すると畑だった形跡が残っている。

今は草が生え放題。

見るも無残とも言えるような光景になっている。

よくよく小屋も見てみると古い。

「誰かが土地を持ってて畑を作ってたんですねえ」

「みたいだね」

「はぁー、よくまあこんな所で」

「人間結構頑張ればいろいろ出来るもんだよ」

「そんなもんですかぁ?」

「そんなもんだ」

 



「じゃ、また」

 左腕を少しだけ挙げて、さよならのポーズ。

琉嬉はそのまま公園を後にした。

「はいー。また部活で」

 ひらひらと静かに手を振る香那巳。

琉嬉とは対照的に笑顔。

しばらくしてるうちに琉嬉の姿が見えなくなる。

二人はあの後、簡単に霊を操っていた妖怪を退治した。

中級程度の弱い妖怪だった。

残念ながら中級程度の者では琉嬉と香那巳の前にはボスレベルではなくザコレベル。

あっという間な出来事だった。


 香那巳は携帯を取り出して誰かに連絡する。

「あ、兄さんですか?」

『これはこれはどうも。で、どうでしたか?』

「どうもこうも、ありゃーバケモンですねえ」

『バケモンとはまた大きな表現ですね』

「勿論見た目とかそういう話やないですよ?」

『それは解かってますよ、ふふ』

 電話の向こうで笑う声が漏れて来る。

「ほんま、一度戦った身としては…の感想ですけどねん」

『ええ』

「どれをとっても一流中の超一流。霊術、霊気容量、体術、知識、その場の判断力。

極めつけはあの「真霊気」とかいう反則技よりも強力な力。

あ、今の流行り言葉で言えばチート技?ずるいですよね。

いや、チート技というよりリセット技ですね、無かったかのようにする技?」

『そう言いながら楽しそうですね』

「あら、そんな風に聞こえましたぁ?」

 どうやら声が少し弾んでたようだ。

「強いだけならまだしも、あんなに小さくて可愛い美少女ときたもんですわ」

『惚れちゃいましたか?』

「ウチが男やったらロリコンでもええから好きになりますね。くふふふふ…」

 独特の笑い方。

人差し指を口元と鼻にくっつけて小さく笑う。

『傍で見てていかかでしたかね?』

「うーん、あれやねえ。奥底が見えないというか、常に先を見てる感じがしますわ。

多分、実力的にはウチとそこまで差はないと思うんですぅ。

でもこっちが少しでも休憩しているとどんどん先へ進んで行くような…、そんな感じ」

 これまでの余裕ありそうな笑顔とは一転、真面目な表情に切り替える。

それだけ琉嬉の強さを感じていた。

「あと、一緒に戦ってたのに…なぜか同じ仲間でも隙を見せない。そんな警戒してるような感覚ありましたわ」

『でしょうね』

 一瞬お互いに沈黙する。


『…あ、報酬は振り込んどくように言っておきますから。お疲れ様でした』

「ええんかな…半分くらい琉嬉先輩に手伝ってもらったんけど」

『じゃ、報酬半分にしときますね』

「あー、やっぱし?」

『なーんて、冗談ですよ』

 電話の相手はなんだか軽いノリ。

少しユーモアが分かる人物のようだ。

「んもー、怖いわあ兄さん」

『いえいえ、それじゃ高校生生活しっかり楽しんでください』

「おーきになー」

 通話を切る。

切った途端、静寂が公園内に訪れる。

夕方になり、気温も下がり肌寒さを感じて来る。

人気も減っていく。

「やーれやれ…琉嬉先輩らの監視とか、割に合わないうえに学費稼ぎはしんどいわぁ。

でも……くふふっ。より一層に学校生活…面白そうでええわ」

 両腕を下に垂らすように力を抜く。

その瞬間、両袖から小型の銃が出てきて手でキャッチ。

いわゆるデリンジャータイプの小銃。

「どうもあの力だけは勝てへん気がするー。この世に存在するんやろか、真霊気に対抗する手段って」

 両手に収めた拳銃を構える。

そして発砲する。

バスッバスッといった小さな音と共に香那巳のまわりで幾つかの小さな爆風が起きる。

撃ち抜いたのは自分の回りに飛ばしていた式用の紙切れだった。

その紙切れが粉々になって宙を舞う。


「後始末してこそプロ…なーんちゃって」

 舌を出しながらもその場を立ち去った。




「ほふ。ひめほとふきのにはったあとひあのじみめがねにもあっはのか」

「口に食べ物含みながら喋るな」

 軽く來魅の頭をチョップする琉嬉。

「んむむ。すまぬ。で、またひと悶着でもあったのか?」

「いーや、今回は共闘みたいなものかな」

 夕食。

この日は両親がいなく、來魅と悠飛と3人だけの食卓。

どうやら親はお寺の方に行ってるようだ。

書置きしたメモがテーブルの上に置いてあったのだ。

夕飯の用意だけしてたという事は帰りが遅いというのを示している。

今は携帯やスマホなどで連絡用のアプリなどで連絡出来るのにわざわざメモを書き起こして行った様子。

でもそっちの方がなんとなく温かみがあるような…などと思ってしまう琉嬉。

「地味眼鏡って…もしかして前崎さんの事?」

「そういやそんな名前だったか。ま、私にはどうでもいいコトだがの」

 大した興味を示さずお茶をすする。


「緋瑪斗は元気だったよ」

「そうなんだ」

「……ほんと、一見見た目は元々男だったとは思えない女の子ぶりだったけど」

 悠飛を見ながら言う。

その視線を感じながらも悠飛は無言。

「でも相変わらず喋ってみると中身は男だった」

「私は姉ちゃんと喋っても男の人と喋ってる感じするけどね」

「……その台詞そのまま返すよ」

 なぜか険悪っぽくなる姉妹。

(お互いに気にしてるのか…)

 これに口出しすると面倒になりそうなのでさすがの來魅も躊躇ったまま、夕食を食べ続ける。


「……しかし一日でいろんな事がある日だった」

「それはいつもの事じゃん」

「中学の頃はそんな事なかったんだけどな」

 しみじみの過去を振り返る琉嬉。

「ちゅうがく?」

「そ。中学。現代日本では義務教育ていうのがあって、小学、中学とゆーのがあるの」

「おお、そうなのか」

 でもよく解かってない來魅。

「詳しく言うとね、日本の人間は誰しもが6歳から15歳まで学校に行って教育を受けるの。

12歳まで小学校、そこから15歳まで中学校で勉強などを学ぶ」

「ほほぅ。だから私も学校はどうしたんだとかよく聞かれるのか」

「…お前、見た目が完全に小学生だもんな…。あまり日中から人目に触れるような所ウロチョロするなよ」

「わはは。それもそうだな」

 笑い飛ばす來魅。

ある程度食べ終える。

「妖怪も文字読めたり書けたりしてるけどどこで学んでるんだ?」

「さぁな。妖怪にも独自の社会があるからそこから学んでるかもしれんし、

長い間生きてるから何かしらの術を学んでるのだろう」

「そっか」

 納得出来るような出来ないような。

「義務教育なんて100年前からあったの?そもそも」

 悠飛が素朴な疑問を投げる。

「知らん」

 知らないと即答する琉嬉。


「それはさて置き、今後どうするの?姉ちゃん」

 食器を片づけながらも姉を気にする悠飛。

台所に琉嬉や來魅が使ってた食器も持っていく。

「今後ねぇ…。相手の出方次第…かな。こっちから攻め込む術がないというか…」

「なぁに。攻めて来たら反撃。敵対する者を片っ端からぶちのめしてけばいいのだ」

「そりゃそうだけどさ~」

 もどかしい。

こちらから攻めれるものなら攻めたい。

しかしそういう訳にもいかない。

相手が何処にいるか、どの程度の戦力があるのか。

「調べようと思えば調べれる…んだろうけど」

「霊術会?」

「そ。あっちはあっちで胡散臭いだろ?名家の集まりらしいけど」

 どうも半妖達と同様、琉嬉にとっては信用ならない日本霊術会。

力を借りる分にはいいだろう。

だが会長である桜月の妖しさ度数はとんでもなく高い。

一応、ふかしぎ部を通じて他の名家とは繋がりがあるのだが。

「何を企んでるのか…」

「動きが鈍いのは気になるけどね」

 それでも何度かあちらから攻めてきてはいる。

壬珠と共に居た、大男も気になる。

頭をわしゃわしゃ掻きだす琉嬉。

考えれば考える程面倒な者達の顔を浮かべるとイラついてくる。

「あー、もう」

「…どうしたの姉ちゃん」

「いろいろ考えれば考える程ムカついてくる」

 綺麗に揃えられた前髪がぐしゃぐしゃに乱れている。

縛っていたツインテールも解く。

「あんまり考え過ぎるな。禿げるぞ」

「それはヤダ」

「…あんまり女で禿げる人はいないと思うけど…」

「あまいね、悠飛。年を取れば女性でも髪が薄くなる。ということで僕は風呂に入ってくる」

「あ、私も入るぞ」

 來魅もトテトテと軽やかな動きで琉嬉に後に続く。

「……そ、そうなのか…?」

 少しだけ自分の髪の毛を気にする悠飛だった。



「のう、琉嬉」

「何?」

 琉嬉は体を洗い中。

來魅は呑気に湯船に浸かっている。

そんな來魅から話をかける。

「お前様は半妖についてどう思っている?」

「半妖についてかって?」

「うむ」

 手を止める琉嬉。

「人間でもない、ましてや純粋な妖怪でもない悪い言い方すれば半端者だ」

「半端ねぇ…」

 半妖でも種類がさらに別れる。

護や緋瑪斗のように元は人間だが、後から妖怪としての力を受け継いだ後天性の者。

親や先祖が妖怪と交わっている、先天性の者。

人それぞれ。

いろいろな解釈がある。

言ってみれば今の雪女は半妖の部類に入る。

「悠飛も半妖に近いものだよな」

「力だけは雪女の物か。面白い存在よの。お前様達彼方家は」

「そーね」

 止めた手を動かし、少し考える。

自分がもしその立場だったら?

護や緋瑪斗らがあちらの方に連れられたりしたら?

「…要するに目立ちたいだけだろ。半妖の奴等は」

「ふむ…?」

 唐突に琉嬉は立ち上がり、シャワーを使う。

そしてなぜか來魅目掛けてかける。

「わぷっ。何をするっ」

「なんとなく。」

「なんだ、私が何か変な事でも言ったか!?」

「別にー。ほら、髪洗ってやるから」

「子供扱いするな」

「子供だろ見た目は」

「お前様に言われたくないわっ」

 お互いギャーギャーと言い合いながらも一緒に風呂に入る仲。

(どんだけ仲良いんだ…)

 二人の大きな声が聞こえてくる。

半ば呆れながらも、二人があがってくるのを待つようにして本を読む。




 深夜。

暗闇の中、自室のベッドの上でゴロゴロしながらスマホをいじる琉嬉。

結局両親は帰って来ず、子供らだけ。

でもそんな事は気にせず寝れずにいる。

(半妖か……)


 目立ちたいだけ。

なんて冗談めいた言い方を自分でしたが、きっと遠からずだろうと思っている。

自分たちの力を誇示したいため。

よくある話だ。

ただ、その単純な考えが世を混乱に招き入れる。

(いずれ、きっと大きくぶつかる。その時は……)

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