#73 鳴いて、笑って
リンリンと鈴の音が鳴り響く。
琉嬉の髪飾りの鈴だ。
それが揺れて鳴っている。
(まだ雪が残ってる所あるな…もう5月も終わるのに)
隣の地域の公園から外れた場所。
小川が流れていてそこに続く大きな池。
すると近くに小屋が見えて来る。
「これか……?」
少しきつい足場を乗り越えてやっと辿り着いた。
琉嬉の服装は勿論動きやすい姿。
まるで登山でもするのか…とも言えそうなスタイル。
小さなリュックを背負っている。
「人のような泣き声ねぇ…幽霊かね」
ふかしぎ部にある情報が舞い込んできた。
琉嬉がいつも通り部室に居ると、莉音が入って来た。
今日は一人。
「莉音か。バカ妹は?」
「今日は掃除当番みたい…あの、琉嬉お姉ちゃん」
「ん?」
「変な噂聞いたんだけど…」
「噂?」
莉音は噂の詳しい説明をした。
琉嬉が暮らしている地域の丁度隣。
そこの公園で、誰もいないのに昼夜関わらず人の泣き声のようなものが聞こえると。
どうやら昔からはあった怪奇現象とも呼べる噂話。
琉嬉が寧音のパソコンでネットで調べてるうちにそのような噂話が書かれた内容の掲示板に辿り着いた。
それも、10年以上前の古いサイトの掲示板だ。
「よく残ってたなぁ…」
内容はある公園の外れの池の近く。
誰もいないのに泣き声が聞こえるとか、話し声が聞こえるとか。
誰かがそこで自殺したとか殺人事件があったとか、脈略のない話が書き込まれている。
「で、それがなんで今頃また?」
「春なると聞こえてくるんだって」
「ふぅん…」
あまり興味が惹かれない。
「琉嬉お姉ちゃん近いから確かめられないかなあって思って」
「僕が一人でか」
「ふかしぎ部の課外活動って名目でどうかな?って」
「…しかし泣き声か…。よくある話だけど。結構な場所だろうに」
琉嬉らが住んでいる家の近隣は少し行くと山中。
だからこうした自然を利用した公園がいくつもある。
その中のひとつ。
「同じ学年の子がそこの公園行ったら聞こえたって…不気味でしょ?」
「たまたまじゃないの?幻聴とか」
「一度や二度じゃないみたいで…デートしに行ったら聞こえてきたらしくて怖くて逃げたって人も…」
「デートとか、リア充ですな。はいはい」
なぜかそこに目をつける琉嬉。
「泣き声ねぇ……。そりゃ公園の評判も落ちるわな」
ついでにと調べたその公園の話題。
どうやら心霊現象などのスポットにもなっているようで、オカルト関係の書き込みに出てきてる。
「いいよ。確かめてあげる。近いしね」
そうなんとも言えない思いでやって来た。
実は今いる公園にはやって来た事はない。
始めて来た。
今住んでる地に引っ越してきて一年。
まだ土地勘が完全ではない。
(何もなさそうだけど……)
琉嬉は注意深く小屋周辺をさらに見回す。
霊気というよりは人の気配のような…。
(もしかして)
ふと、琉嬉は「人」でなく、動物に気をくばる。
あたりは鳥の鳴き声、飛んで行く羽虫、草木が風で揺れる音…。
そこから気を集中し、どこか通常とは異なる存在を探してみる。
どこか違和感ないか。
いつもと違うような動物や虫などがいないか?
持てる感知力を尽くして探す。
すると、鳥の鳴き声に混ざって…人の声のようなものが聞こえて来た。
(……これか?!)
グス…シクシク…と、まさによくある擬音そのもののような、泣き声。
すると、小屋の上に伸びている枝に一羽の小鳥が飛び去ったのを確認出来た。
「あれかっ」
その鳥を追いかけようと気合いを入れ、走り出す。
「待てっ!」
バキバキ音を立てながらまともに踏めるようではない足場を関係ないように突き抜けていく。
「おりゃー!!」
と、 大きな掛け声と共に、ポケットから取り出した御札を鳥に向って投げつけた。
御札は意志があるかのような動きをして鳥に向かって飛んで行く。
遠隔操作で琉嬉が御札を動かしている。
そしてあっさり命中した。
小鳥は御札に包まれるような形で近くの池のふもとに落ちていた。
綺麗な黒みがかった深く濃い青色の鳥だ。
青一色ではなく、緑色や薄い灰色など、いろいろと綺麗に混ざった色合いをしている。
「あらまぁ、綺麗な色の鳥だね~」
ひょい、と包んでいる御札を片手で摘まむように拾い上げる。
するとその瞬間、小鳥が人型を形成して、ぼわんっと煙をあげて変化する。
人型になると小柄の少女の姿を現した。
しかし顔は仮面をしているのでどんな顔をしているか分からない。
その仮面の模様は、鳥の顔のような模様を施してある。
下地は基本黒ベース。
くちばしはの方も黒色をしている。
「おーい、生きてるかー」
琉嬉が軽く揺さぶりながら声をかける。
「………生きてますぅ~…」
と、力ない返事が返ってくる。
少女の姿は顔は見えないが、鳥の時と同じように青色と緑色が混ざったような変わった色の髪色。
そして和服を着ている。
「あ、あの…何かご用ですか?」
少し震えながら、怯えた様子で琉嬉に問う。
「あ、いや、手荒な事してごめん。う~ん、別に大きな用事はなかったんだけど」
「え?」
特に理由なき追跡に唖然とする。
「なんていうか、こんな所に妖怪がいるとはね~」
とは言いつつ、鞍光はかなりの妖怪達がいる。
ましてや近所の神社にいるくらいだが。
「てっきり私と捕まえて売り飛ばすのかと…」
「あー、そういう手があるか」
「えーっ?!」
「冗談だよ」
世の中には弱い妖怪を使役などにするため、取引を行っている者もいるとは琉嬉は聞いている。
勿論、琉嬉にはそんな趣味はない。
「いや、ね。妖怪にもいろいろなのいるけど…こんな場所に居るのはちょいと珍しいかな~と思ってさ」
「そうなんですか…」
「気になってたんだけどさ、もしかして誰かを待ってたりしてた?」
「!」
問いかけに明らかな反応をした。
「……図星?」
得意のジト目な目つきで、注意深くみつめる。
「…う……どうでしょうかね」
図星のようだ。
「…誰か待ってた…というより待っているの?」
尚も厳しい目のままで聞く。
「それは…」
言いたく無さそう。
「ふーん。じゃあいいや」
「あ、あっ…待ってください!」
なぜか引き止める少女。
「何?」
「あ、あの…お願いが……」
「お願い?」
「…グス…お願いします…」
なぜか涙ぐむ。
聞こえて来た泣き声と同じだ。
琉嬉は確信した。
密かに有名になっていた、公園で聞こえた泣き声は、きっとこの少女だと。
少女の名は「ルリ」。
漢字表記までは教えてもらえなかった。
もしかしたら漢字がないのかもしれない。
小鳥の女妖怪だという事は解かる。
変化の術を使う妖怪は数多くいる。
來魅や銀杏のように、元が動物から妖怪進化した者などのように、ルリもその一種なのだろう。
変化の術のようなまやかしではなく、どちらも本来の姿であるとも言える。
どうやら、この周辺しか居られない呪詛を掛けられていると言う。
そしてある人間を捜しているという話を聞いた。
「なーるほどね。捜しようにも捜せない状況なのね」
腕を組んで、木に寄しかかるようにする。
「ハイ…。もう30年くらいになると思います」
「さ、30年?!」
さらっと言いのける。
「30年も経てば人間は大分老けちゃってると思うけど…」
「え?」
「仮に、その人間がルリと会った時に10歳だとしよう。
30年を足すと、今の年齢は40歳。
うん、もうおじさんかおばさんだね。
さらに20歳くらいだったとしよう。
すると…かなりのおじさんかおばさんになるね」
「そうなんですか?!」
「…人間と妖怪を一緒にしてはいけんよ…。それに僕より大分年上じゃんか、お前さん」
「はぁ…」
少なくともこのルリの年齢は30歳以上である。
妖怪なので、別段不思議ではないのだが。
それにしても琉嬉よりは大きいとはいえ、小柄な部類だろう。
そのせいか人間でいえば、中学生くらいにも思える雰囲気を出している。
顔は見えないせいで余計に変な想像をしてしまうが。
(そもそも、その人間が生きてるか不明だし…)
聞くのが面倒なので琉嬉は細かい内容を聞くのをやめた。
「つまり、お願いってその人間を捜して欲しいって事だろ?」
「簡単に言うとそうですね」
「あっさりとまあ言ってくれますね…。僕も悪いんだろうけどさ」
そう、琉嬉が気にしさえしなければこんな事にはならなかったのだ。
でも可愛い妹分でもある、いとこの莉音からもらった情報。
自分でも理解している。
こういう「噂」や「情報」に弱い自分。
気にしてしまうと行動を起こしてしまう。
「兎も角、話だけでも聞いてあげない事もないケド」
「ありがとうございます!」
ルリは綺麗な声で話し出した。
透き通るように繊細で且つ、聞きやすい通るような声。
「今から30年程前なのですが、ある時怪我をしまして、たまたま通りがかった男性の人間様に助けられたのです」
「人間様ねぇ…」
「しばらくその方のお家で養生させてもらったのですが、傷が治った頃にこの地に放されたのです」
「ふむー。それで?」
「その時でした。助けてくださった人間様とは別の人間様が不思議な術で私とこの地に閉じ込めてしまいました」
「ほーう。そんな術者が居たもんだね。なんだってこんな狭い地に閉じ込めたんだろ?」
妖怪らをメインに退治する術者が大昔から居るのも事実。
そのうちの一人が何らかの理由でルリの行動範囲を固定したのだろう。
その術者も気になるが、もう30年以上前の出来事なので把握するのが難しい。
「どうか、私の怪我した時に助けてくださった人間様を捜してください…」
「う~ん、タダとは言わないよね?」
やらしい目つきをする琉嬉。
目つきだけじゃなく、手つきも何やらやらしい。
「お、お金ならどうにか作りますので…」
「いやいや、真に受けとめなくてもいいよ」
「本当ですかっ!?」
「お金は要らないから、その代りその仮面の下の顔を見せて?」
「え?」
戸惑うルリ。
固まったように動きが止まった。
「ダメなのー?なら手助けしないけどー?」
「そ、それは困ります…」
「じゃあ、み・せ・て?」
無表情に迫る琉嬉の威圧感が凄い。
変な重圧がルリに迫る。
「ででで、では…仕方ありません…。どうぞ…」
鳥の顔をあしらった仮面を少しだけずらす。
素顔を琉嬉に見せた。
当の琉嬉は、
「フーン……」
と、素っ気ない声を出す。
だが琉嬉は軽く笑みを浮かべる。
「あ、あの…変でしたか?」
「いいや。可愛かったよ」
わざとらしくカタコトで言う。
「ま、いいでしょ。時間かかるかもしれないけどいい?」
「ハイ!構いません!」
力強く返事する。
…これもふかしぎ部としての役目なのだろうか?
などとふと思う時もある。
完全に学校外の事例であるが。
課外活動だと思えばいい。
ルリの言う「人間様」というのは男性で、おそらく、10代後半、もしくは20歳前後くらい。
学生服を着ていたので多分高校生ぐらいだと言う。
肝心の名前は「オオサワ・ショウジ」。
漢字表記は分からない。
名前の音だけしか知らないという。
「オオサワだけなら漢字はある程度絞れるだろうけど…ショウジさんねぇ…」
ショウジ、だけでもいろんなパターンが考えられる。
「30年前の鞍光市内からだけでも大変な労力だな…でも」
ブツブツと独り言を喋る。
そのショウジの所在は今は全く分からないらしい。
あれからこの森林には訪れる事もないらしい。
「逆に普通の人間が鳥の見分けなんぞ出来る訳ないしな」
それもそうである。
仮にこちらに来ていても、おそらくルリだと気づく筈もない。
「名前さえ分かれば大体は調べつくけどね。同姓同名がいても100人や200人とかいないし」
「本当ですか?」
「……そうだな…。どうせならルリと一緒に居れば早くみつかるかも」
「え?」
「その前にやるべきコトがあるな…」
「やるべき事とは?」
答えを言いずに、琉嬉はルリの腕を掴み、歩き出した。
先程の小屋辺りに戻る。
ルリが小鳥状態の時に鳴いてた所だ。
琉嬉は左手首にしている数珠を外す。
すると強烈な黄金色の光が琉嬉の腕に集中する。
「それは…!?」
あまりにも強力な光にルリは驚く。
「ちょっと疲れるけど…ルリを束縛している呪いを解かしてもらうよ」
そう言うと、小屋辺りを中心に光が溢れ返った。
「今のはなんですか…?」
「んー、ちょっとした大技かな。発彗ていうんだけど…それはどうでもいいか」
「大技…」
「多分ルリの呪いは解けたと思うけど…」
またさっきのようにルリの手を引っ張り、林の外へ向かう。
「え?危ないですよ!」
「大丈夫」
そのまま林に面した歩道へ思い切って出る。
すると、ルリには変わった様子はない。
「あ、本当ですね…」
ホッと胸を撫で下ろすルリ。
「以前は、電撃みたいなのが走ったのに…」
「それは良かった。じゃ、30年ぶりの外の世界へ行こうか」
「ハイ!」
ボンッとルリは変化の術で、最初に会った時の小鳥に変化した。
そして琉嬉の肩に止まる。
「これなら目立たなくていいですよね?」
「ああ、…う、うーん……、まあたしかに人型でいるよりは大丈夫だけど…。
(人型の時にあの仮面に和服だとコスプレにしか見えないだろうし…)
フツーは、肩に鳥を乗せて歩く人もいないだろうけどね…」
「え?そうなんですか?ショウジ様はしてましたけど…」
「いやいやいや、うーん…」
回答に困る。
(ショウジなる人物はもしかして少し変わった人物なのか…?)
ちょっとだけ興味…というか、不思議に思った。
「今もこの地域に住んでればいいんだけどね~。なんせ30年前の話だ。
さすがに30年も経てば風景もかなり変わってるでしょ?」
「そ、そ、そうです…ね」
そうですねばっかりを連発する。
あまりにも雰囲気風景の変貌に動揺しているのが分かる。
「ここ10年間足らずで開発が進んじゃったみたいでさ。
新しい住宅街、商業施設やらが沢山増えちゃったらしくてね」
「ですね…。家が沢山増えてます…。私が見た事のないような作りになってますね。
車も…丸みを帯びてるが多いです」
「30年前でも車は沢山あっただろうね」
「ハイ」
公園に設置されている時計をチラリと見る。
時刻は夕方5時半を過ぎていた。
「今日はもう日が落ちるし…僕も疲れたから家に帰るよ」
この日は結局ルリと共に、真っ直ぐ帰宅する事になった。
「ただいま」
いつものように、小さいけど甲高い声。
それだけで琉嬉が帰って来たと分かる。
「!」
來魅が勝手に琉嬉のベッドに寝転んでた。
だがすぐさまぴょこんと、起き上がり反応する。
「琉嬉のヤツ…、何か連れ込んできたか?」
ドタドタと階段を騒がしく下に降りて行く。
「何?どうしたの?」
悠飛が迷惑そうな顔をして、ドアから目だけを少しだけ出して覗く。
また何か面倒事を背負って来たのか…と。
目をつぶって、ゆっくりと首を振って静かにドアを閉めた。
「なんだそやつは!妖怪じゃないか!しかも小物!」
「こ、小物とはなんですか~」
と、鳥の姿のままで反論する。
「おおぅ!喋るのかコイツ!」
「妖怪のお前が驚いてどーするんだ」
「あ。そっか」
「…お前自分が妖怪だって事忘れてるんじゃないか…?」
呆れる琉嬉。
來魅はまるで自分が妖怪だというのを忘れてたような言動。
そもそも來魅は狐の上級妖怪である。
同じ動物系の妖怪だ。
狐や狸は伝承でもよく出てくるように、位が高い妖怪が多い。
琉嬉が連れて来たのは小鳥の妖怪。
やはりメジャーではない分、あまり強い鳥の妖怪がそんなに存在しないと言われている。
その例に漏れず、ルリもそこまで位の高い部類ではないのだろう。
事実、琉嬉も結界で行動を封じられていた事から強い妖怪だとは思ってない。
「んで、この鳥はなんなのだ?」
「隣の地区の公園の山中の池に居た」
「ほーう。近場なのに存在が気づかないとなるとよっぽど妖力が弱い小物なんだな」
「小物小物言わないでください!そんな事ありません!」
ボフンッと勢いよく煙と共に人型に変化する。
「おお、人型になれるのか」
「どうですっ」
誇らしげな顔…をしていると思うが仮面をしているので表情が分からない。
でも手を腰に当てて胸を張っているので、きっと誇らしげな顔をしてるのには間違いない。
「変化は別に珍しくもないと思うけど…」
「そんな!」
ガーンと聞こえてきそうなほど、驚いてるルリ。
動作がいちいち大袈裟。
「ははは、私も変化の術は出来るぞ!」
來魅もわざわざ変化する。
小さなキツネ姿になった。
「あ、可愛い~」
ルリが思わず子狐になった來魅の頭を撫でる。
同じ妖怪同士でも、ちょっとどこかズレてるようだ。
「玄関で何をやってんだか…」
琉嬉はあからさまに面倒そうな顔をして靴を脱いだ。
これまでの経緯を説明し終える。
兎も角30年前の出来事を来てまた一年しか経ってない土地で調べないといけない。
調査は後日にする事にした。
それに琉嬉は学校がある。
ひょっとするとしばらくルリを家に置く事になるかもしれない。
「ルリ。ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」
「このままオオサワショウジていう人が見つからなかったら、しばらくここに居てもらうと思うけど…。
お前さん、ご飯って何食べるの?やっぱり木の実とか虫とか?」
「ええ、そうですけど…。あ、でも人の姿でいれば人間様のお料理も食べれますよ。
でもしばらくは木の実や小さな虫さんを食べてましたね~」
「そうなんだ…(さすが鳥)」
「ふむ。私のような封印されてた訳ではないから生きるのも大変だったろうに」
「そこは妖怪ですから、簡単には死にませんよ」
「言えてるな」
妖怪ならではの生命力。
そこだけがお互い妖怪同士で話が分かり合えてる。
(なんだかんだでも妖怪だなぁ)
日が変わり、いつものように放課後。
「なんかえらい疲れてますねー?」
みゆが机に突っ伏している琉嬉に声をかける。
部室。
「疲れてるっていうか…眠たい。寝不足」
「ゲームのし過ぎじゃないですか?」
「來魅がうるさくて…」
と言いつつ、一応部活には顔を出す。
部活メンバーにはこの事を話さず、琉嬉自身だけで動く。
他のメンバーを連れて行くとうるさいというのが理由。
特にみゆや双子ら。
ややこしくなりそうなのでルリの話をしていない。
「ごめん、今日は先に帰る。これ、鍵」
部室の鍵をみゆに投げ渡す。
「あ、はい~」
「行っちゃった…。結局10分もいませんでしたね」
不思議そうにする麗未亞。
「だねー」
バサバサッと細かい羽音を立てて青い鳥がやって来た。
そして琉嬉の肩に止まる。
駅を降りた辺り。
しばらく歩く。
すると、先日の公園の近く。
「この辺でいいの?」
「おそらく…」
ルリの記憶を頼りに「オオサワショウジ」なる人物が住んでいた家へと向かう。
10分くらい歩き回る。
すると、
「あ!この辺りは…」
「何かに気づいた?」
「…なんとなく……昔の面影が」
「ふむ」
30年の歳月は実際、人間からにしてみればかなり長い。
それに発展途中の町なんぞ様変わりするだろう。
今いる地域も人口が増加傾向である。
始め、ルリと一緒に歩いていてもあまり反応が無かった。
おそらく自分のイメージしていた街並みと大分変ってたのだろう。
「ここら辺だと思います…人間様」
「その人間様ってのはやめてよ。
僕には「琉嬉」っていう名前があるんだから。
そもそも人間に「様」なんて必要ないって」
「でも助けてくれたのは人間様ですし…」
「ルリを封じてたのも同じ人間だよ?」
「………ええ…。そうですね…」
「敬するのは悪い事とは思わないけど」
「はぁ…」
そうする間、気になる家の前に止まる二人。
「ここで、いいのかい?」
「間違いありません」
「ふむー…」
辿り着いた家は古めの一軒家。
でも外壁は塗り直されているようで外観は綺麗になっている。
表札を見ると「オオサワ」ではなく、「清水」となっていた。
「むう…。ルリ。オオサワじゃないぞ。清水さんになっている」
「そんなはずじゃ…」
うろたえるルリ。
「まあ待て。30年も経ってりゃ引っ越して別な人に代わってる可能性もあるだろ」
「そうなんですか?」
「妖怪だってだってその場に居る奴もいれば移動するのもいる。
鳥だってじっとしないで季節によって移動を繰り返すだろ?」
「……たしかに」
「せめて、ここの家の人に話を聞いてみようよ」
躊躇せず琉嬉は呼び鈴を押す。
昔懐かしいような、ピンポーンと音が鳴った。
でもインタホーンが付いており、中年女性の声が聞こえて来た。
「はい。清水ですが~」
「あのー、ちょっと尋ねたい事があってやって来ました~」
「あらあら、可愛いお客さんねぇ。ちょっと待っててね」
(……可愛いは余計だってば…)
すぐさまドアが開き、住人が出て来る。
やはりというか50前後くらいの女性だった。
「学校の社会の授業かなんか?」
「いえ…違うんですけど…(絶対小学生だと思ってるな…制服着てるのに)」
おばさんの勘違いは無視して、
「率直に聞くんですけど、この家に前住んでた人って「オオサワ」さんって人だったか分かりますか?」
前に住んでいた住人の名前なんて知っているのか?
そんなあれこれ考えてたが、面倒なのでストレートに聞いてみた。
だが答えはあっさりしていた。
「あ~、大沢さんねぇ。たしかに昔住んでた前の住人さんねぇ。顔とか知らないけど、名前だけなら聞いたわね」
「本当ですかっ」
「20年前くらいに出て行ったみたいだけど…。私もねぇ、10年くらい前にこちらに来たからよく知らないのよ~」
「…ビンゴだな。ルリ、大沢さんが居たのは間違いないようだ」
「ハイ!」
コソコソと後ろの鞄に隠れているルリと話す。
「あんまり遠くは行ってないんじゃないかしらね」
「今その大沢さんが何処に居るか…分かったりはしませんよね?」
「隣の千年葉市に引っ越ししたとかって近所の方から聞いた覚えあるわね」
「千年葉市……」
有力な情報を入手した。
さすがに理由は不明だという。
家族まるごとの引っ越しなのでおそらく仕事環境によるものではないだろうかと。
それに20年以上前には引っ越ししたらしく、今となっては確かめようがない。
「なんでまた貴方みたいな子が大沢さんを探してるの?」
「ああ、えーと…それは、知り合いで音信不通になったので気になって…」
苦し紛れの言い訳。
でもおばさんは、
「ごめんねぇ。違う人で。でもきっと大切な人なんでしょう?きっとみつかるわよ」
そう言って琉嬉の頭を撫でる。
何か勘違いしてるようでもあるが、何かを察したのか、これ以上深く聞いて来ない。
「すみません。ありがとうございました」
バサッとツインテール状にした髪がお辞儀をしたと同時に大きな動きをして垂れ下がる。
お礼を言い、その場から離れる。
「千年葉か…電車は一応通ってるけど中央南北線か…、未来線とどっちがいいかな?」
「あの、なんですか…そのちゅうおうなんとか線とみらい線っていうのは…」
「ああ、電車だよ。30年前からもあるだろ」
「電車…ですか」
「でも昔よりは路線が減って行ってるけどね。でも鞍光周辺は増えてるけど」
「はぁ…」
あまりピンと来ていない。
鳥として生きているので乗り物は利用する事がなかったので、よく解かってないようだ。
「あれだな…動き回る事になるかもしれないし…自転車で行った方がいいかなぁ」
小さい声で独り言を繰り返す。
「あの、琉嬉様」
「あ、何?」
「ここにはいないんでよろしいんですよね?」
「ああ、そうだね。解かった事は、ここの地には間違いなくいない」
「ハイ…」
なんとなく先が見えて来たとはいえ、隣町の千年葉市とはいえ、歩くには大抵面倒な距離だ。
何時間かかるのだろう。
広大な土地。
時間が余裕がない。
これから向かうのも少々面倒である。
それに翌日も学校がある。
早め早めの行動が好ましい。
ここで諦めたら一気にやる気が失せてしまう。
早速悠飛に連絡を取り、大沢ショウジなる人物を千年葉市を中心に捜して欲しいと言う。
「それくらい自分でやってよ!」
と、怒られてはしたが、ネット環境に強い來魅に頼んでやれるだけの事をしてもらう。
琉嬉もスマホで取り敢えず検索かけてみる。
「電車が…ない地域だったら不便だな~」
「琉嬉様も変化して鳥になれればいいんですけどね」
「そーだねー」
やる気ない返事。
「今日は帰ろう。僕も学校があるし…、よし。今週の土曜日休みだから、一日中使って探すか」
「分かりました」
「やれやれ…電車賃だけでもバカにならないんだからね…定期も使えないんだし」
通学路分は定期で移動出来る。
ただし、通学区域外は完全に自腹。
そこが琉嬉にしてみれば少し痛い。
所詮は学生。
お金が、沢山ある訳ではないのだ。
この日もおとなしく帰宅する。
「おう、お帰り」
來魅が出迎える。
結局琉嬉は來魅に任せて探してもらった。
スマホでは限界があるからだ。
琉嬉の部屋でパソコンを当たり前のように扱っている來魅。
「何か解かった?」
「わからんのうー。同姓同名はおったが、漢字が合ってるかどうかはわからん。
ただ、そーしゃるねっとわーくさーびすってやつで実名で登録してたのが解かったぞ」
「マジで?」
「でも日記とかまるで更新しとらん。詳しい内容は書いとらんしのう」
「そっか。ネットでは限界あるよね」
「ま、そんなところだな。ほれ、見るか?」
「どれどれ…出生年月日から逆算すると…今は47歳か」
30年前だとすると、その当時は大体17歳。
高校生だったと断定出来る。
「やれやれ。なんだか時間かかっちゃいそうだな…」
文句たらたらながらも詳しい情報ないか、モニターと睨めっこを開始する。
「なんです?これ…」
「ぱそこんだ。ぱーそなるこんぴゅーたー、の略らしいぞ。30年前でもあっただろうに」
「はぁ…機械類は私はよく分かりません…」
鳥の姿から人型に変化する。
「今でこそ一家に一台…もしくは一人に一台という時代だ」
「お詳しいですね…」
「あー、來魅も世に復帰してからまだ1年しか経ってないよ。なのに今の社会情勢に馴染んじゃってまぁ…」
「凄いですねっ」
「だろうだろう?」
威張る來魅。
「琉嬉ちゃーんご飯食べなさーい」
「んー」
変な返事する。
「あ、お前はどうする?」
「わ、私は…」
ぐー、とタイミングよくルリのお腹が鳴った。
クスクスと琉嬉が笑いながら、
「まいいや、お前さんも来い」
「しかし…」
「問題ない。琉嬉の親御も理解があって助かるぞ」
「全くだよ…」
「あらあら~、可愛らしい妖怪さんねぇ」
嶺珠が熱い味噌汁を持ってくる。
「ねえ、食べる時くらい仮面取ったら?」
「いえ…それはちょっと…」
なぜか頑なに拒む。
上手い具合に目と鼻の辺りだけ見えないようにして食べている。
どうも異様な光景だが。
「別に宗教上の理由とかじゃないだろうに…んむんむ、美味い」
來魅は喋りながらもバクバクと遠慮なく食べている。
「うむ、このピーマンとじゃがいもは私が買って来たものだぞ」
なぜか偉そうに言う。
「はいはい、ありがとありがとね」
(…家族みたい……)
琉嬉と來魅のやり取り。
人間と妖怪という仲なのにも関わらず、ごく自然としている。
來魅側が人間側に合わせてるというのもある。
そこでルリは二人が同じデザインの数珠をしているのに気づいた。
「あの…琉嬉様と、來魅様のしてらっしゃるこの数珠は…?」
「あー、これは來魅が勝手に暴れない為に封じてる」
「うむ。こやつ、勝手に私の力を封じおった」
「悪さをしないようにだよ。大体封じられてるくせに十分強いだろ」
琉嬉は琉嬉でゆっくり、静かな物音で食べている。
「さあ、ご飯食べたらお風呂に入りなさいね」
パタパタとスリッパの足音。
嶺珠は忙しそうに動いている。
「はあ…主婦も忙しそうですね…」
思わずぽつりと呟いてしまう。
「あ、ルリちゃんって言ったかしら?琉嬉ちゃんと名前似てるのね~。お風呂も遠慮なく入ってね」
笑顔を絶やさない。
「あ、はい…ありがとうございます」
思わず立ち上がり礼をする。
「ルキにルリか。紛らわしいのう」
「いや、そこまで紛らわしくないだろ…名前だけだろ似てるの」
「…よく分かんないけど……妖怪のお客さんよく来るね…本当に」
通りすがりの悠飛は文句のように言い、すぐ去っていく。
そしてお風呂タイム。
琉嬉は一旦自室に戻る。
その間に來魅が先に入る。
「ほら、ルリとやら。お主も入らぬか。30年間入ってないんだろ?」
「う…それはそうですけど…一応水浴びもしてたんですが…」
「どうせ汚い水だろう。風呂はいいぞー。すとれす解消される」
「はぁ…」
言われるがまま、一気に來魅に服を脱がされる。
「ひぃ~」
「今日はやけに賑やかだね」
父親の導が帰宅。
「琉嬉ちゃんがまた妖怪のお友達を連れて来たの」
「へぇー。それはまた、凄いね。今まで人間の友達すら連れて来なかったのに…」
琉嬉の友人の繋がりを思い出す。
一向に先に入った二人の妖怪達が出て来ない。
もう20分を過ぎようとしていた。
(出て来ないなあいつら…)
しびれをきらした琉嬉は強引に入る事にした。
「また先に人入ってるのに無理矢理入るの?」
悠飛が変な目でこちらを見ている。
「うっさい。僕は時間をかけるのが嫌なんだ」
「…ま、父さんが先に居るのに入るもんね。姉ちゃんは」
「ハハ、父親として嬉しい反面驚くけどね…」
導も少々困ってるようだった。
「入るぞー」
戸惑いもなんのその。
ズカズカと風呂へと入って行く琉嬉。
戸を開けた瞬間だった。
「わきゃっ!」
「ん?」
ボフンッと、琉嬉の顔に柔らかいモノ二つ。
「うぷっ…なんふぁぁあ?!」
そのまま琉嬉は前のめりに倒れた。
「おー、大丈夫か?」
來魅が琉嬉の頭をつんつんと突っつく。
「うぐ…なんか柔らかいモノがクッションになって…」
「あ、あの……琉嬉様…、手と…お顔を…避けてくださいまし…」
「ん?」
琉嬉が顔を離すと、目の前に見慣れない物が二つ。
「あの…」
「……ルリ?」
「はい」
仮面はしているが、当然全裸のルリ。
そしてその上に覆いかぶさるように琉嬉が居る。
自分の顔に当たっていたのはルリの胸だった。
「…おー、これはアレだな。らっきーすけべ、っていうやつだ。助平なやつよのう琉嬉」
「うるせー!」
「ルリのやつ、小さき体ながらも大層なもんを持っておるわ。はっはっは」
なぜか笑う來魅。
「恥ずかしいです」
「ふっふっふ、らっきーすけべ女め」
「……ちょっとマテ。なんで僕がラッキースケベの称号を得なきゃいけないのさ。
女同士で嬉しい訳あるかっ」
「同性を愛するのもアリじゃないか?」
「僕はノーマルだっ!」
「ほーう。身の回りは女ばかりのくせによく言うわっ」
「うっせい!」
桶に入れたお湯を來魅の頭からぶっかける。
「あちっあちっ!」
慌てめく來魅。
「余計な事言うからだっ!」
「やりおったなー、お前様よ…」
來魅はシャンプーのケースを持ち出す。
まるで銃を構えるように。
だが素っ裸なので間抜けに見える。
「やってみろっ!」
対して琉嬉は、シャワーを持ち出す。
「あわわ、やめてくださいお二人とも!」
風呂場が戦場と化した。
「…ほんと、賑やかだねえ…」
自分の番が回って来なくて残念がる導だった。
「行くのか?」
「問題ない。よし、行くぞルリ!」
「ハ、ハイ!」
気合十分の琉嬉。
この春新しく買ったクロスバイクタイプの自転車にまたがる。
隣町まで自転車で行くつもりだ。
距離にしておよそ15キロ。
「1時間もかからないで着くよ」
「姉ちゃん…18歳なんだから車の免許もう取れるんじゃない?」
「あー、そうだね。考えとくよ。うちの学校って在学中に免許って取れたっけな…まあいいや」
「琉嬉様って…18歳だったんですか…?」
驚くルリ。
「何歳だと思ってたんだコラ」
「てっきり人間様でいう10歳くらいかと…」
「……」
無言で仮面の上から頬あたりに軽くビンタする。
「い、痛いです…いや、痛くないですけど…」
「行くぞっ」
すっかり機嫌悪くする。
無表情だけど、なんとなく分かる。
「あ、お待ちください~」
「…騒がしいなぁ…朝からまったく」
手当たり次第に探すの訳にもいかない。
ましてやその辺の人に聞いて回るのも。
探偵でも雇えばすぐみつかるだろう。
(そもそも探偵目指そうとしてるのに人一人捜せないようじゃだめだしね。
それに…妖怪が絡んでいる以上普通の探偵に任せるにもいかない)
外部の人間に力を借りる。
それはあまり気乗りしない琉嬉。
基本的には自分の力でなんとかしたい。
でも自分ひとりだけじゃ限界がある。
もどかしいが、それも仕方ない事。
しばらく無言で自転車を漕ぐ。
向かう途中の道。
街中ではなく、少し丘になっているような所。
木々が広がっている景色。
「あの、琉嬉様」
ルリの方から会話を始めた。
「…実は隠してた事があります」
「……この期に及んで何を今更?」
「ショウジ様とはもっと以前に会ってたんです」
「…へぇー。………え?」
思わず変な声で聞き返す。
「ショウジ様がまだ小さい子供の頃、よくあの池に来てました。
危なっかしいと思い見てたのですが、案の定池に落ちてしまい…」
「マジか」
なんとも想像できる絵図が琉嬉の頭の中で浮かんだ。
よくある話だ。
だがそんなよくありそうな出来事が実際に起きてるみたいだ。
「つまり、人の姿で助けたんだね。鳥の姿じゃ力がないから助けられないもんな」
「…ご察しの通りです」
「言いたい事は解かった。つまりは人の姿でいれば気づいてもらえるかもしれないと?」
ルリが言おうとした内容を琉嬉が代わりに言ってしまった。
無言で頷くルリ。
「それは駄目だ」
「えー!なぜです?」
「…その仮面つけたままでその服装で?」
「これは、妖術の一種です。妖術を解けばこの通り」
と、妖術を解いた瞬間。
ルリの着ている服が消えて全裸状態になる。
仮面は残したまま。
「うぉーい!術を解くな!どあほ!」
「ななななんでですかー!?」
「とにかく今は禁止ー!」
「あー、びっくらこいた」
汗をハンカチで拭う琉嬉。
「すみません……」
「常識ってのがないのかお前は…!まあ、言っても鳥の妖怪だから仕方ないか…」
「すみません……」
「人通りのある所じゃなくて良かったよ…。車からは丸見えだったかもしれないけど…」
そして、その時の様子がネットを通じて密かに拡散していた。
誰も歩いて無さそうな田舎道の歩道で、自転車に乗る小学生の少女と全裸の少女が居た…と。
軽くオカルトな話となって。
「警察にでも聞けばすぐ分かるかな…でも教えてくれないだろうしなぁ…」
大沢ショウジが住んでると思われている自宅…の周辺。
具体的な場所が分からない。
が、ある程度の推測でなんとなく場所を導き出していはいた。
「面倒だから近所の人に聞いてみるか…でも独身だったら一軒家とも限らないだろうし…
なんせ40代後半くらいでしょ…?実家暮らししてるかどうかも怪しいし…」
またもやブツクサと独り言。
「あ、あの…琉嬉様?」
「ああ。ごめん。考え事があると一気に回りが見えなくなっちゃう時あるんだ…」
「はぁ…」
振り絞って考えをまとめる。
「よし、こうなったらあの作戦しかない…気が進まないけど」
「ああ~、大沢さんねぇ…近くのアパート住まいだと思ったかしら~。
貴方は大沢さんの親戚の子?」
「はい、親戚…みたいなものです。ありがとございました」
ペコリと、深々とお辞儀。
髪型はツインテールから解いていた。
これは印象を少しでも覚えさせないため。
適当に周辺を歩いていた主婦っぽい人に聞き込み。
変に怪しまれないように小学生のフリをして聞き込みをしていた。
他に姪っ子などと嘘をついてまで。
それに気を許してくれそうな年配の女性をターゲットにして。
「うまくいきましたね」
「居るとは限らないしなぁ…。一旦家に確認してみようか」
琉嬉は大沢の自宅らしき所へ行ってみる。
とある古めのアパート。
そして表札には大沢の文字が。
だが何度かインターホンを押すが、反応はなし。
「………時間は、昼過ぎか…働いてたらいつ帰ってくるか分からないし…。
家に張り付いてるわけにはいかないしなぁ」
さすがに小学生みたいななりでも怪しまれると通報間違いなし。
「イチカバチか、駅出待ち作戦だっ!」
ぐっと左手を空に突き上げる。
「お、おお…出待ち作戦…?」
ルリには理解が出来なかった。
自家用車を利用していたら、アウトな作戦。
だからイチカバチかの作戦。
でも琉嬉にはある確信があった。
大沢の車だと思われるものが駐車場に止まっていたのを確認したからだ。
抜け目がない…と言うと悪く聞こえるかもしれないが、細かい所を見る癖がついている。
「よし、駅に行こう。多分仕事は駅を利用して通勤してる筈だ。
ルリ、それらしき人が居たら鳥の姿になってその人の肩に止まるんだっ!」
「いえっさー!」
それから二時間近く経った。
一応終電は0時過ぎくらいまであるみたいだが、現状まだ昼の3時程度。
終電までかなり時間ある。
朝から出勤していれば夕方には帰ってくるだろう…そう予測している。
残業などしていたら…と考えるのが怖くなる。
どうせ自転車だし、帰りの足はあるから終電まで粘ろうと考える。
が、それは辛い。
「僕らがこっちに来る前にすれ違いになって帰ってたら嫌だなぁ。
あるいは旅行に行ったとかだったら嫌だなぁ。
今日が駄目なら後日ゆっくり捜すしかないかぁ。
やだなぁ」
どんどんネガティブな考えに持っていかれる。
マイナスな思考がどうしても生まれて来る。
時折、ルリが鳥の姿で鳴いている。
何か喋ってるのだろうか。
駅周辺は、カラスやスズメ。
白黒の羽毛の色をした小さな小鳥がよく飛んでいる。
そんな中ルリのような青々した色の小鳥は一際目立つ。
電線にや屋根の上に転々として止まっては鳴いている。
(…綺麗な鳴き声だなー。聞いてて和む…)
ベンチに座ってスマホやゲームをしながらも待ち続ける。
しかしルリの鳴き声を聞いてるうちにうつらうつらとしてくる。
何分経ったのか。
何時間経ったのか。
よくわかんなくなってくる。
眠気が強くてつい琉嬉は意識が夢の中へ飛ぼうとしていた。
半ば諦めかけたようになった、その時。
「ショウジ…様!」
突然ルリが飛びだった。
鳥のままで言葉を発したので琉嬉もすぐ気づいた。
「な、なんだ?!」
慌てて琉嬉も追いかける。
電車から降りて来る人波をかき分けて、ルリが飛んで行った方向へ琉嬉も走る。
そして目の前に飛び込んで来たのは優しそうな中年の男性。
その男性の両手に降りたルリの姿。
少し困惑している男性の表情。
ルリは鳥の姿のまま、その顔を男性の顔に向けてじっとしている。
普通の鳥ならこんなにじっとしない。
その違和感に男性の表情が変わっていく。
外は日が沈みかけている。
薄暗い。
電車が走り去った後、静寂がおとずれる。
「この鳥は…もしかして……僕が怪我を治してあげた鳥…?」
そんな束の間。
「大沢…ショウジさんですよね?」
琉嬉が男性の前に現れる。
「ん?君は…?」
「昔大沢さんが住んでいた公園の近くに住んでる者です」
「ふむ…?」
「あ、大沢さんの住んでる周辺で聞き込みしたので近所の人に何か聞かれるかもしれないので…。
その時は姪っ子とでも言っといてください」
「……??」
よく理解しきれない様子。
大沢将司。
年齢は47歳で間違いないようだが、40代後半とは思えないくらい、若く見える。
細見で眼鏡をかけている。
髪も少し長めだが清潔感あって、琉嬉の父親の導のようなどこでも居そうな雰囲気ではある。
「その鳥はたしかに、あなたが30年程前に保護した鳥です。
なぜ今も生きてるかは…あとでその鳥で聞いてください。
僕はこれで…」
琉嬉がそのまま去ろうとする。
「あ、君!ちょっと待って…。君は何者なんだ?」
「……いずれふかしぎな出来事を解決する、探偵になる…予定の退魔師です」
低めの声で言う。
「え?」
わざと聞き取りにくい言い方をした。
琉嬉はそのまま次に来た電車に乗り込んだ。
「何かあれば、鞍光高校ふかしぎ部に連絡ください」
軽くニコッと微笑んで琉嬉は後ろ向いてしまった。
「ふか…しぎ部?」
「何だったんだ…?鞍光高校?さっきの子は高校生なのか…?
どうみても子供だったが…」
手の上にいるルリ。
大沢をずっと見ている。
「しかし…この鳥はたしかにあの時助けた青色の鳥だ…。
ここに怪我の痕が…」
左の翼の裏。
そのあたりに傷痕がある。
傷痕を大沢は覚えていたのだ。
「………将司様っ!!」
「え?」
ボワンッと大きな音を立ててルリが人の姿を現す。
有無言わさず、ルリは大沢に抱き着いていた。
「結局どうなったんかのう?」
「さーね」
琉嬉は自室の椅子に座ってくるくる回っている。
あれから三日程経った。
ルリからの音沙汰はなし。
こちらから出向いてもいいが、そんな気力も出てこない。
「でも、ルリはこの辺りに居た鳥だし、いつかは帰ってくるんじゃないの?」
「ふぅん…案外素気ないのう、お前様は」
「…人の恋路を詮索するような事はしないさ」
ボソボソと呟く。
「は?」
「なーんでもない。さて」
そう言って、パソコンを起動させて、オンラインゲームを始める。
「今日は緋瑪斗はログインしてるかなー?」
丁度その瞬間だった。
ガタタッと窓が小うるさく鳴った。
5、6秒くらい様子見しても、しつこく音が鳴る。
その音が気になりカーテンを開けて見てみる。
すると緑と灰色が混ざったような色で、ルリの鳥の姿とよく似た小鳥が口に何かくわえていた。
「なんだ?ルリのやつか?」
「いや、違う。この鳥は普通の鳥だ。なんだコレ?」
くわえていたのは紙のようだった。
紙にしては固く、絵みたいなのが目に入った。
鳥はくわえていた物を離すと、すぐ飛んでどこかへ行った。
紙は床にひらりと落ちる。
「…おそらく、ルリの妖術でただ命令されてただけだろ…」
琉嬉は落ちた紙を拾う。
「これ、写真だな」
「写真とな?」
來魅も覗き込む。
「これって…」
そこには人の姿ので優しく微笑むルリと、同じように微笑んでる大沢とのツーショット。
その二人が写っている写真だった。
裏には「感謝します」と、一言だけ、稚拙だが文字が書かれている。
ルリが書いたのだろう。
「おお、これはなんとも…羨ましい限りだの」
「……傍から見たら年の差カップルみたいだ」
ルリは素顔で写っている。
少し黒目がちで幼さが残るような、童顔。
「ふむ、これはルリの素顔か」
「仮面で隠してた理由は分からないけど…隠すような顔じゃないくせに…」
「むしろ美少女だな」
「……妖怪と……人間か……」
思わず口に出して言う。
「愛は国境を超えると言うしのう」
「どこで習ったのそんな言葉…てかこの場合国境じゃないと思うけど。
やれやれ…いい人と再会出来て良かったな。ルリ」
「というコトは…ルリは受け入られたって話になるのう」
「だね」
琉嬉はその写真を、じっくりと眺める。
なんだか自分もつい笑顔になってくる。
「幸せになれよ、まったくもう」




