#71 可愛いとも言われるの憂鬱
時は6月。
その第一週目。
ようやく暖かい日差しを受ける時期に来た。
そんな気も晴れやかになると思われるが、ふかしぎ部の中に一人だけ気が滅入ってるのがいた。
神楽御琴、現高校二年生。
「あー…やだなぁ……」
「何がやなの?」
みゆがぴょこんと顔を机に乗せて御琴の顔を見ている。
「みゆちゃん…何その姿勢」
机に突っ伏している御琴の顔。
その顔の目の前にみゆの顔があった。
「ほらほら、楽しい昼休みですよー?」
みゆは御琴の顔を両手で掴んで無理矢理起こす。
「いだだだ!痛いよ!みゆちゃん!」
「元気出た?」
「元気というか…痛さが出たかな」
「ふひひー。若者が今から元気無かったら世の中生きて行けないぞ!」
バンッと背中を平手打ち。
御琴は最早声に出せないくらい痛みが走ってて悶絶していた。
「はぁ?痴漢?御琴が?」
素っ頓狂な声を珍しくあげたのは琉嬉。
「だって…男の子なのにねー」
「ぷふっ……嘘ですよね?」
まどかも笑ってしまっている。
「いんや、先輩方。今時珍しくないんですよ?男を狙う男…いや、女もいるかもしれませんよ?」
そして珍しく香那巳が部室に居た。
昼休み。
部室は皆の集いの場として、琉嬉が解放している。
放課後はいろいろ予定があって部活に皆来れない。
そういう時もあるので、昼休みを利用してなるべく皆が会えるようにしているのだ。
名目上は、の話。
本当は元々琉嬉が静かにゲームやりたいと思ってただけだが、いつの間にか部員達が集まるようになっていた。
「しかしまた、面白い…こほん。いえ、難しい問題の話ですね」
「女性に間違えられたのでは?最初僕も女性かなと思いましたし」
隆治が眼鏡を直しながら言う。
「私なんか男に間違えられるけどね」
「悠飛は仕方ないよ~。ねー?」
悠飛の自虐を肯定する紫音が莉音に同意を求める。
「う、うん…」
「みゆちゃん…なんでみんなに言ったの?」
「ごめぇん。ついうっかり…」
「……すみません、今日は帰ります」
突然立ち上がり、弁当箱を仕舞い戻る準備をする。
「帰るって…まだ昼休みだよ?」
「失礼します」
部室を出ていく御琴。
静まり返る部室内。
「あーあ。みゆちゃん、さすがに失礼やない?」
「んえ…まずったですかねこれ?」
コクコクとその場の全員が頷く。
「ええと、港咲先輩。神楽先輩は男なんですよ。男としてのプライドが傷ついたと思いますよ」
数少ない男子部員の隆治。
男同士、どこか分かり合えてるのだ。
「はっちゃ~。こりゃ、私の考えが足りんかったね…。みこっちゃん待って~!」
追いかけるように走り出すみゆ。
「うおっと!何?みゆ?」
部室に入ろうとした凛夢。
危うくぶつかるところだった。
凛夢に目もくれずに走り去るみゆ。
「…えと、どうしたのかしら?みゆ」
「珍しくみゆが失言」
琉嬉が手をヒラヒラしながら言う。
「失言なんていつもの事じゃない?」
みゆの事を誰よりも知っている凛夢。
その凛夢がこう言うのだから大抵は変な事をいつも言っているのだろう。
「言っていい失言と悪い失言もあるだろ?」
「失言に言っていいのも悪いのもあるの?」
琉嬉の更なる意味不明に近い言葉に、首を傾げてしまう。
「人間関係っていうのは難しいものですよね」
「香那巳。お前が言うのかそれ」
「てへ」
舌を出す香那巳。
「やれやれ…仲が良過ぎるのもいい事ばっかりじゃないよね」
「ほんとね」
「あ、いたんですか、唯子先輩」
「いつもいるわよ」
その唯子にも気に掛ける事もなく、琉嬉は食べていた好物のクリームパンを残し、席を立ちあがった。
「琉嬉ちゃん?」
「仕方ない。フォローするか…みゆを」
「みゆちゃんをフォロー?そこは御琴君じゃないの?」
誰しもが思った疑問を叉羅沙が代表するかのように琉嬉に聞く。
「いいお灸をすえる事になるだろうね。ほんっと…やれやれだ」
ブツクサ言いながら部室を出て行く。
「なんや…大変そうやな」
声もあまりかけずにただ座りながら見送る叉羅沙達。
「ああ見えても部長ですからね。姉は。本人なりに部員を気にかけてるんですよ」
悠飛が素っ気なく言う。
「うんうん」
「昔から…結構他人を気にする人ですから…」
双子姉妹も言う。
やはり血の繋がった者は理解力がある。
「それは…なんだか分かる気がしますね」
まどかは納得した。
教室に戻ったみゆ。
だったが…御琴の姿はない。
鞄もない。
「あれー?みこっちゃんは?」
「あ?神楽?なんか体調が悪いから早退するって…」
「まじかー」
胸がなんか痛い。
ただ冗談交じりに言っただけなのにそこまで思いつめるような事があったのか。
みゆは変な汗が出て来た。
(……私、バカだな…)
いつも自分が御琴に対していろいろと接してきた。
同じクラスメイトだし、同じ部活、生徒会。
当たり前のようにしていた。
でも、実際は過去の事を知らない。
高校生になってからの御琴しか知らない。
勿論、それは他の部員達などにも言えるが、今一番近しい存在は御琴だから。
尚更ショックが強い。
(どうしよう…謝らないと)
「おーい、みゆすけー」
「ひゃいっ?!」
ビクンッと体をおもいっきり反応させる。
背後から甲高い声が自分を呼ぶ声が聞こえた。
「琉嬉……先輩…?」
「正解」
琉嬉だった。
「お前ねえ…人それぞれ超えてはいけないような、ボーダーラインみたいのあるだろ」
「はい…。反省してます」
ボフッと、みゆのお腹辺りに軽くパンチをする。
「おふっ…何するんですかぁ?」
琉嬉は怪しい笑みを浮かべた。
とは言っても口元は笑みを作っていても目は笑っていない。
むしろ冷めたような、普段の据わったような目をしている。
「御琴の家行くぞ」
「え?今からですか?午後の授業は…?」
「そんなの後回し」
「いや、今日の授業後回しとかないですよ~?あ~鞄鞄!」
小柄とは思えないパワーでみゆを引きずるかのように引っ張って行く。
鞄も何もかも学校に置いたまま。
強引な琉嬉の行動にさすがにみゆも抵抗出来なかった。
御琴が住んでる(と思われる)マンションにやってきた。
築30年以上経ってそうな、マンションと言っても古いマンションだ。
薄緑色の外壁。
よく言えばどこにでもありそう。
でも目立つので目印には最適。
何回か塗り直されているようではあるが、作りが今の新しいマンションとは違う。
古き良き時代の名残を見せる大型マンションだ。
「ここで合ってる?」
「実はよく知らないんですよねぇ~。住所だけしか聞いてなくって」
スマホで地図機能を使いながら辿り着いた。
みゆは尚もキョロキョロする。
近くの自販機を見て住所を確認する。
自販機には大抵その場所の住所が書かれている。
地図を照らし合わせて自分の居場所の統合をさせる。
「まあ、そういうもんだよね。良く考えたら僕も御琴だけじゃなく、他の人の家知らないし。
行ったのはまどかの家くらいか」
今更ながら他の者の住んでる家などに行った事がない。
近所ならまだしも、住んでる地域が遠ければあまり行く事もない。
ましてやまだ免許もない、お金もない学生。
「んー、と……。このマンションは~、あれかな?ほら、入口でいるかどうか確認取るやつ」
「入口で確認?ですか?はて…」
二人共マンションなどでは暮らした事はない。
今の時代は警備的なシステムなのか、マンション一階の入り口で各階の住人と連絡するためのインターホンがある。
そこを確認取らない事には、直接住人の住んでる部屋の前まで行けない。
「このマンションもそういう類の物かな?」
「さあ?古そうだしないんじゃない?」
いまいち現代マンションのシステムを理解していない二人。
取り敢えず、中に入る。
しかし、そういったシステムはないようだ。
案の定あっさりと目の前のドアまでやって来てしまった。
「さて、ここまで来たんだし…どうする?」
だが…。
「みこっちゃーん、ごめんね~。謝りに来たから~。開けて~!」
ピンポン連打しながら大声で叫ぶようにしている。
琉嬉は右手を顔に当てて、無言で首を振った。
「ちょっと!みゆちゃんうるさいって!」
「あ、みこっちゃん」
「あ」
「あ」
耐え切れずに御琴が思わずドアを開けた。
「や、やあ…みこっちゃん」
「……何しに来たの?琉嬉先輩も?」
嫌そうな顔する御琴。
まだ学生服だ。
「謝りに来ました!」
ビシッと形の綺麗な敬礼姿をする。
何から何までどこかずれた感が強い。
「……そ、そう……」
「すまん、御琴。こいつがここまでぶっ飛んでるとは思ってなかった」
「ここでもなんですから、とりあえずあがってください」
あっさりと家中に案内するのであった。
なんの変哲もない、普通の部屋、間取り、家具。
琉嬉からしたら一般的な家庭の家の中の風景だ。
ただみゆからしたら大した事ないようにも見えるのだろうが。
そんな大金持ちのお嬢様とは思えない言動を繰り返してるのにはさすがの琉嬉も頭を少し抱える。
「ごめんなさい!みこっちゃん!私はみこっっっちゃんの事をみじんにも考えずに言ってしまって!
この通り!土下座します!」
入るや否や、突然の土下座。
「ちょっと…やめてよ!みゆちゃん!頭上げて!」
「いいや、私の気が済むまで…このままでいさせて!」
頭を上げようとしない。
変に頑固だ。
「琉嬉先輩も何か言ってやってくださいよ~!女の子に土下座されるなんて悪夢見そうです」
「ったく…ほら、話が進まないだろ」
みゆのツーサイドにしてる髪の毛を両手て掴んで、引っ張りながら無理矢理頭を起こす。
なんとも強引にて、力ずくだ。
「いだだだだっ、いだいです琉嬉センパイ~!」
「黙れ」
ぽいっと投げ捨てる。
尻餅つくみゆ。
何か不満気な顔をしている。
「御琴。お前さんの事はなんとなく感づいてはいる…つもりだけどさ」
「はい?」
「率直な疑問あるんだけど聞いていい?」
「あ、はい…答えられる範囲なら」
ドカッとソファに堂々と座り出す琉嬉。
みゆはソファの隣で正座している。
みゆなりの反省の誠意なのだろうか。
二人は別に気にもせず、話を続ける。
「あのさ、その…男とはとても思えない容姿…自分自身では嫌い?」
いきなり核心を突くような、質問。
「え?そ、その…」
「本当は女…なんてコト言わないよね?」
「いやいやいや、当たり前です!僕は男ですよ!」
「ふむ…確かめていい?」
「はえ?ややや、駄目です!」
身構える御琴。
「なんで?」
変な手つきをする。
「当たり前です!」
「おかしぃな~?」
「そんな訳ないでしょう!仮に僕が女の子だとしてもとっくの間にばれてますって!」
「ごもっとも」
「そうだよね~。だって体育とか研修旅行とかの時もちゃんと男子と一緒に寝食してたもんね?」
「ふむ」
いまいち納得しない顔をする琉嬉。
改めてまじまじと御琴の顔を、凝視。
目を細めてまでじーっと集中している。
「あ、あの…?先輩?」
「あ、うん。あれだね。その辺の女より可愛い顔してるもんな。御琴って」
「そうそう!休みの日一緒に街中行っても声かけられる時あるもんねー?」
「それってナンパ?」
「声も高いから私と一緒にいる友達の女の子と間違られるみたいなんですよ?」
「やめてよ…みゆちゃん」
「男だって言っても信じてもらえないんですよー?」
「そういう事をズバッと言うから御琴が気落ちするんだぞ」
「あ、ごめん…なさい」
先程の反省が一蹴する程、思った事をすぐ口に出してしまう。
「お前はもう黙ってろ」
琉嬉が一枚の御札を取り出す。
そしてその御札をみゆの口元に塞ぐようにくっつけた。
「んー!んんんんんんんん~!んんんんんんぃ~!」
そして喋れなくなった。
「御札ってそんな使い方も出来るんですか…?」
「まーね。初歩的な術だけどね。相手の音声発動の術を封じる技さ」
「はあ…」
「基本的には僕の解除をしないと解けないけど…みゆくらいの能力なら簡単に解けるだろうけど」
そのみゆを見る。
でも解こうともせず、諦めたのか黙るジェスチャーをしている。
黙っていても動きがうるさい。
腕をわたわたと動かしている。
「…喋らなくてもうるさいって凄いよお前…」
「で、だ。御琴。答え聞いてないけど」
「あ、答え…ですか?そうですね…。嫌だとは思いますけど……」
自分では嫌だとは言う。
「男らしくはありたいと思います。けれど、せっかく生まれ持った顔ですから。嫌ですけど嫌いじゃないです」
「矛盾してるなー。気持ちは分かるけどね」
琉嬉も自分自身の年相応には見えない体格に重ねて考える。
でもここは自分の事は置いといて、御琴に少し強めに当たる。
「他の人はどうか分からないけどさ、お前、他の男に触れるの嫌だろ?」
「え?そ、それは同性としては当たり前じゃないですか……、同性愛じゃありませんよ!僕は…」
ふーっとため息ついて腰に手を当てて立ち上がる。
そして御琴に近づく。
「え、と…?」
「違うんだ。そうじゃない。同性とかそういうレベルじゃない。現に僕が触れても大丈夫だろ?」
そっと御琴の手を握る。
少し恥ずかしそうにしながらも御琴には何も起きない。
小さい手だなぁくらいに密かに思っていたが。
「でもね。…隆治が握手しようとした時、咄嗟に拒否反応みたいの出てたよね」
「……よく見てますね」
「んんんーんんー?」
みゆは何を言ってるのかは分からない。
「僅かな念の流れとかついつい感じてしまうんでね」
それがいい事なのか悪い事なのか。
その念の為に、かれこれいろんな出来事に巻き込まれてるのも事実。
「どうなのさ?」
琉嬉は至って真剣な表情で御琴の目をみつめる。
「ええ、と…」
ゆっくりと口を開いた。
「僕は……中学生の頃、男の人らに暴行を加えられました。それ以来…男の人が苦手で」
「………ふぅむ」
それ以上は深く聞かない。
あまりにも簡潔な説明。
おそらくこれ以上の何かがあると思われる。
琉嬉は微妙に感じる念を通じて理解する。
だから敢えて立ち入った事を、聞く事はしない。
「ひとつだけ教えて」
「なんでしょう?」
「それは、御琴が男とは思えないから?」
「…かもしれません」
深く頷く琉嬉。
なんとなく分かる。
「だろうね。御琴可愛いもん」
「…う、そうですか…ね?」
止めを刺すような言い方をする琉嬉。
女の琉嬉からしても可愛い。
男相手に可愛いは多少不本意かもしれないが、事実なのだから、仕方ない。
「逆にさ?それを自分の武器にすればいいと思うよ。例えば…僕が子供のフリするみたいにさ」
半分自虐交えて言う。
用意されたお茶を自分ですする御琴。
動揺しているのは分かる。
「それって…どういう意味ですか?」
「んー?あれ、ほら、今流行りのジャンルの…男のむすめって書いて男の娘ってやつ。
それを極めたらいいんじゃない?」
「やめてくださいよ~。去年の学際思い出すじゃないですか……」
みゆの方を向く。
戦犯の。
「んむむむ?!」
無理矢理メイド姿に女装をさせられた。
あれは嫌で仕方なかったのだが。
それが案外どっこい、型にはまり過ぎて好評だったのだ。
「すみません、ちょっと失礼します」
飲みかけのお茶を片づける。
何かソワソワしてる様子だ。
「ふーん…」
「んーんーんーんーんー!」
さっきからんーんーうるさい。
口を塞いでもうるさい。
とんでもない騒がしさだ。
「逆にうるさいから解除するよ」
ぽんっと、みゆの口元に人差し指を重ねる。
するとぼふんっと口を塞いでいた御札が破裂する。
「えほえほっ…ヒドイですよぉー琉嬉せんぱぁい~!」
「少しは落ち着け」
「はぁい…」
ちょっとだけ反省したのか。
正座のままで座り続けている。
時折足を組み替えている。
痺れてるのだろう。
「やれやれ…。情緒不安定っぽいな御琴は。誰かさんのせいでさらにひどくなったようだ」
「すみませんって…」
しつこいくらい何度もペコペコと頭を下げる。
まるでヘッドバンキングしてるみたいだ。
「お前は動きも落ち着け」
ベシッと脳天チョップがさく裂した。
「しかし…」
部屋を見回す。
部屋…と言っても、居間に当たる場所。
マンションなので一軒家とは違い部屋が少ないし、なんとなく狭い。
みゆであれば尚更狭いと感じているだろう。
大富豪のお嬢様で自宅も大屋敷。
違いがあり過ぎる。
でもみゆは狭いとかそういうマイナスな事をほとんど言わない。
むしろ本当にお嬢様か?と思うくらい、ぶっ飛んだ性格だからだ。
「……なぁ、みゆ」
「はい、なんでしょう?」
「最近御琴に変わった様子なかった?」
「変わった様子ですか~?いえ、特に」
「……むー」
腕を組んで何かを考える琉嬉。
すっと立ち上がり、辺りを回る。
「どうしたんですかあ?先輩?」
「いや、何か気になるんだよな…。「何か」が」
「?」
みゆにはさっぱり理解出来ない。
でもこう言う琉嬉は、本当に鋭い感性を発揮する。
「私には何も感じませんけどね?」
「いや、霊的干渉ていうか…女の勘?」
「…………」
みゆは珍しく、琉嬉に対して疑いの目になる。
「なんだよその顔」
「いえ、琉嬉先輩が女の勘とか言うと違和感が凄いなぁって」
「どういう意味だコラ」
正座してるみゆの太ももを軽く蹴る。
ぷにぷにしてて足でも解かるくらい気持ちいい。
「やーなんとなくですよ?琉嬉先輩って、あまり「女の子」~って感じしないんですよね~。
勿論見た目じゃないですよ?性格ですよ?
なんか素行の悪い少年っぽいていうかさぁ~」
「本気で蹴るぞ」
「やめてくださぁい」
「何やってるんですか?二人で…」
戻って来た御琴。
まるで二人がじゃれ合ってる様に見えて少し引いた。
顔も少し引きつってる。
「あいやっ、別にそんな関係じゃにゃいよ!」
「さらに誤解招くように言い方するな」
とどめのかかと落としが頭に命中した。
悶絶するみゆを放置して琉嬉は御琴に直接聞く。
「最近変わった事ない?」
「変わった事ですか…?」
きょとんとする。
「可愛い後輩が心配でね」
しらじらしい言い方。
「あの……僕なんかヘンですかね?」
逆になぜか心配になってくる。
いつも泣きそうにしてる顔がいつも以上に泣きそうな顔をしている。
「いや~。御琴自体がヘンって事じゃないと思うけどね」
「え?」
「にしても…弱々しいなお前って本当に。緋瑪斗の方がよっぽどたくましいぞ」
「緋瑪斗さんって…、たしか元々男の人で」
「今は妖怪化したうえに女化した。でもあいつは前より心も体も強くなった。妖怪としての力を抜いたとしても」
「はぁ…」
どことなく頼りなさそうな御琴。
最初はどこか同じように頼りなさそうだった緋瑪斗と重なる部分があった。
だが今は緋瑪斗は成長して、強くなった。
「一回さ、とことん鍛える必要あるな。御琴は」
「えええ?!」
「でもそれは後回しにして」
くるっと後ろに回る。
そしてトコトコと歩き出す。
「あ、先輩!どこ行くんですかっ」
一直線に向かった先。
和室の一室に向い、ガラッと強く襖を開ける。
すると小さな仏壇が出て来る。
琉嬉の家柄はお寺なので、別に珍しくもない。
でもその仏壇に写真が立てられていた。
「この人はお父さん?」
「いえ、祖父ですが…」
「若いね」
写真の人物の男性。
40代くらいのように見える。
御琴が言うには祖父だと言う。
「…何歳で亡くなったの?」
「45とかだったかな…?僕が小さい頃に亡くなりましたから」
「そっか……ふむ」
写真の人物と睨めっこするかのように見る琉嬉。
「あの…祖父が何か?」
「てか、イケメンだねー。なるほどー。だからこんな美少年が生まれたんだね」
御琴の顔に目線を移して納得。
「美少年とか……恥ずかしいんでやめてくださいよ~」
手をあたふたと振りながら否定する。
「墓参りとか行った?」
「え?お墓参りですか…?最近行った記憶ないですね。近いんですけど」
「なるほどねぇ」
琉嬉は仏壇の前に正座して座る。
そして鈴を鳴らして手を合わせる。
「多分宗派違うけど、いい?」
「え?」
何の事だか理解出来ない。
「琉嬉先輩、もしかして読経ですか?」
「1分くらいだけどね。日方宗ていう胡散臭い宗派だけどね」
「はぁ……多分大丈夫だと思いますけど」
「じゃ、ちょっと失礼」
琉嬉はブツブツ、と呟くように何かを唱える。
何か、とは、お経だ。
宗派によって読まれる経が違う。
琉嬉はそれを一応聞いたのだ。
でも琉嬉の家は日方宗という宗派の形を一応取っている。
それはあくまでも表向きの顔で、実際は退魔メインの霊術師としての活動をしているのだが。
読経が琉嬉の言った通り、本当に1分程度で終わった。
「いやあ~琉嬉先輩がお寺っぽい事するなんてレアですねー」
楽しそうに言うみゆ。
「ま、何をするにも「形」っていうのは必要さ。
僕自身は別に信じてるとか、そういうのはあまり強く考えてないけど」
琉嬉らしい考え方である。
「お寺継ぐんですか?」
「さぁねえ。若いうちには継ぐ事はないと思うけど?
うちのじーさんだって60超えてるとは思えないくらいガタイいいし元気だし。
それに次は双子姉妹の父親が継ぐし」
「そうなんですか~。でも女性の住職とかなんかかっこよくないですか~?」
「かっこいいのか…?」
みゆは目を輝かせながらはしゃぐ。
「正統にいけば天叔父さんの次は双子だろうし」
「莉音ちゃんと紫音ちゃんですね?でもどっちかじゃないんですか?」
「うちは適当だからね。だからうちの親も簡単に独立させてもらってるし」
「琉嬉先輩の家も複雑なんですね~」
「そういうこった」
琉嬉は御琴の鼻の頭に指をくっつけるくらい、指差す。
「御琴。祖父のお墓案内して」
「……え?」
「墓参り行くぞ。お前…ていうより、お前の家族が、邪気に蝕まれてる可能性がある」
「………えええぇぇー?!」
御琴はおろか、みゆまで大袈裟に大声で驚く。
みゆが腕時計を見て、時間を気にする。
針は夕刻の4時頃を差していた。
「御琴の両親って何してるの?」
直球で聞いてくる琉嬉。
「あ、ええと…父親はいないんで何してるか分かりませんけど、母親は占い師してます」
「へー。母子家庭かー」
「ま、まあ…」
(琉嬉先輩複雑な家庭環境を軽く流すっ)
さすがのみゆもドン引き。
「お母さんが占い師だから御琴も占い出来るの?」
「ま、まあ…そうですね」
「へー。有名な人?」
「神野マリナっていう名前でやってますよ。忙しくてたまに帰って来ない時もありますけど。
ちなみに本名は神楽真理って言いますけどね。本名をもじってます」
「じんの……まりな…?聞いた事あるな…」
琉嬉は記憶の中を彷徨い始める。
隣でみゆはスマホで画像検索し始めた。
「その世界では有名らしいですけどね」
そう言う御琴は冷たい言い方。
あまり関心がなさそうに見える。
「あ、出ましたよ!神野マリナさん~。美人さん~」
みゆが出した画像。
そこは確かに神野マリナと書かれた文字列。
そしてその文字列の上には、綺麗な女性の写真が映し出されている。
占い関係のサイトだろうか。
他にも何人か並んでいる。
よくイメージするような東洋的なドレスのような服装ではない…が、黒いスーツのような服装。
「ねえ…御琴のお母さんって何歳?」
「え?ええと、40、1、2くらいだったかな…?」
「ふーん…40歳には見えないねぇ」
「そういう琉嬉先輩のご両親も40歳超えてるとは思えませんけどね」
「うちはいいんだよっ」
「さて、御琴のお母さんは今どこに?」
「へ?仕事だと思うんですけど」
「帰るまで待つか」
「え?もしかしてそれまで待つんですか?」
「うん」
表情変えずに返事をする。
琉嬉らしいといえば琉嬉らしい。
「あの…それは……?」
「いーじゃんいーじゃん~みこっちゃーん」
みゆが御琴にくっついて頬を合わせる。
「おいおい、いちゃつくのはやめてくれない?」
ジト目で二人を見る。
「あ、これは失礼」
「もう…」
(こりゃあ、違う意味での一波乱ありそうだな…。みゆって人気あるみたいだし)
「ただいま…あれ?お友達?」
少し待ってると母親の神野マリナ…つまり、神楽真理が帰って来た。
「どうも、お邪魔してます」
「はじめまして~、同じクラスの港咲みゆですっ」
「…珍しいわね、御琴が友達連れて来るなんて…しかも女の子。一人は小学生?中学生」
「先輩です」
誰もが琉嬉を勘違いする。
「…?で、なんで居間にいるのかしら?」
「えーと、御琴のお母さんに話があります」
「話?」
琉嬉がこれまでの経緯を説明する。
御琴は黙ってるだけ。
みゆは適当に頷いてるだけ。
真理は話を聞くだけ聞く。
「お墓参りね~。たしかに最近忙しくて行ってないかしら」
「母さん、琉嬉先輩は彼方家の一族なんだよ。多分言ってる事は確かだと思うよ」
「そう?今日は疲れたわ。ちょっと休ませて」
真理はそう言い残し、奥の自室へ向かった。
「あらら」
「ま、まあ…結構気難しいところありますからね」
フォローにもなんにもならない御琴の言葉。
「…まあたしかにお疲れ気味だね~」
明らかに、不機嫌そうな表情していた。
仕事の疲れもあるだろう。
「いっつもあんな感じなの?」
「いえ……本当はもっと、きさくなんですけどね…。今年に入ってからあんな感じで」
「ふぅん。そっかー。…………」
意味深な言葉。
琉嬉は無言になる。
「ねえねえ、みこっちゃん。みこっちゃんの部屋見せてよー」
「え?そ、それはちょっと…」
「ねえー?琉嬉先輩も気になりません?」
「んー?あー、部屋ねぇ…たしかに」
琉嬉も賛同。
「じゃ、れっつごー!」
「あ、ちょ…待ってよ~」
御琴の部屋。
ベッドと机がある。
飾り気のない、グレー色の、なんとも地味な机椅子。
本棚があるが漫画は少々。
それ以外の書物は占いの本や、心霊関係の本。
そして教科書など。
なんとも面白味の欠ける内容。
マンション暮らしなので部屋数が少ない。
母親と二人暮らし。
ギリギリの状況のようだ。
勿論、高級と言えるマンションではないので広くはない。
悪く言えば狭い。
「これが御琴の部屋か」
「うわー、なんかシンプル~」
「そりゃお前の家に比べたら当然だろ?みゆの部屋なんて知らないけど」
みゆの家は何度か行った事はある。
でもみゆ自身の部屋には入った記憶はない。
いつも別室を用意してもらう。
それもどでかい部屋。
まるでホテルの一室のような、豪華で綺麗な一室。
「だめだめ、私の家は家って感じしないじゃないですか~」
「ま、飾らないそういう所があるからみゆは好かれるんだろうな」
「ほえ?」
家柄は大金持ちでも庶民派。
誰でも通えるような高校に進学した。
勿論、鞍光市にも高級なお嬢様学校やボンボンが通うような学校はいくつかある。
でもみゆはそちらを選択しなかった。
「あの…それはそうとこれからどうするんです?もう日が沈みますよ?」
「そうだなぁ…」
唇に指をかけて、トントンと軽く唇を叩く。
何かを考えてるようだ。
「でも先輩。みこっちゃんもみこっちゃんのおばさんも何かに憑りつかれてるような気配ありませんよ?
そもそも憑りつかれていたらみこっちゃんも気づく筈だし…」
それもそうである。
弱い霊程度なら御琴でも封じる事が出来る。
それにあれから鍛練を積んで霊力が強くなっている。
「それはそうなんだけど…違和感が」
「違和感?」
「僕の母親がですか?」
「なんていうか、言葉に説明しにくいっていうか」
琉嬉にもうまく説明出来ない。
いや、説明出来ないのは「普通」とは違う、何かを感じてるからだ。
だから説明が出来ないと言う。
「……何もかもうまくいってない、て。そういう感じするけどね」
「ああ、たしかに…最近あまりうまくいってないって、言ってましたね」
「ふぅむ」
琉嬉はさらに考え込む。
「あの…先輩、あまり考え過ぎると禿げるって言いますよ?」
みゆが琉嬉の頭のてっぺんを撫でながら言う。
「余計なお世話だっ」
ぽかっとみゆの頭をお返しにとグーで殴る。
この日は仕方なく、帰宅する。
後日、なんとか母親を説得して墓参りさせるように言い聞かせる。
渋々御琴は納得した。
「あの~、なぜかみこっちゃんの悩みから墓参りになっちゃいましたけど…」
「女顔で困ってるって話?」
「そうですそうです。でも男らしい髪型や服装しても…絶対似合わないと思うんですけどね~」
「はは、言えてる」
ついつい琉嬉も笑ってしまう。
でも本人としてはかなり傷ついている様子。
「それは本人次第なんだけどなぁ…。気が弱いから。あれでよく霊封じとか出来るな」
「そこが不思議ですよねー。まさにふかしぎなみこっちゃんという存在。うん、まさにふかしぎ部!」
「お前は一人で何を納得してるんだ?さて、帰ろう」
「あ、待ってください~」
二人は御琴宅を後にして、おとなしく帰る事にした。
二日後。
神野マリナこと神楽真理、御琴の母親が休日だということで墓参りに行く事になったと言う。
なんとか説得した。
お彼岸でもお盆でもないのになんで墓参りと散々言われたようだった。
なんとなく気になる琉嬉は一緒に行くと言い出したのだ。
「ま、僕は一人でも十分なんだけどね」
こう言う琉嬉がなんだかちょっと不安だったのでみゆもくっついて行く羽目に。
ちょっと季節外れの墓参りとなるが、それらしい恰好を一応してきた琉嬉とみゆ。
琉嬉はゴシックな洋服。
黒を基調とした、少しひらひらしたのが付いている。
下はいつもの短いホットパンツに黒のニーソ。
そして珍しくツインテールではない、髪を下ろした状態だ。
みゆもあまり目立つような服でなく、こちらも黒っぽいシャツにスカート。
「珍しくツインテールじゃないですね」
「まーね。大人っぽくしようかなって」
(髪を下ろしても可愛いなぁ琉嬉先輩)
という、男御琴の意見。
「琉嬉先輩、ゴスロリですね~」
「バカ言え、どこがゴスロリだ」
否定する琉嬉。
しかし、
「いえいえ、琉嬉先輩が着るからただのゴシックな服装もゴスロリになるんですよ~あいたっ」
喋り終える前に琉嬉からの制裁をくらったのだった。
「もちろん、琉嬉先輩は十分凄い術者ですよ。でも…」
「でも何?」
「いえ、なんでもありませーん(なんでわたしも連れて来られたんだろ…?)」
みゆまで誘われた理由。
それは解からない。
琉嬉が何か考えがあるのか。
それとも先日の話し合いで当事者として巻き込んだのか。
元々といえばみゆが発端であるのだが。
なぜか他人の家の墓参りに付いて行く琉嬉。
琉嬉は何やら不穏な影を感じ取っている。
御琴も釈然とはしてないが、琉嬉が来るとなると何かあるだろう。
はそう思う事にした。
「ええと…なんで御琴の友達も一緒なのかしら?」
「ああ、それは…、あれだよ、琉嬉先輩は有名な霊能力者の一族の人で」
「??よくわからないけど、霊くらいなら御琴でも祓えるでしょ?」
「そうなんだけど…」
(先輩、どうやらみこっちゃんの母君も霊術者のようですね)
(みたいだね)
コソコソと小さい声で会話する。
真理の発言からすると、御琴の家系も霊術師の家系のようである。
「あの、マリナさん。やっぱり神楽家も力あるんですよね?」
直球で琉嬉は聞く。
「え?ええまあ…そうね。でも霊感高い人って昔から多いって聞くけどね~。鞍光って」
「うんー、たしかに~」
わざとらしく頷くふりするみゆ。
「ねえ御琴。あんまり他人の家庭に深入りしたくはないんだけど、さ。お前の母親も霊力高いのは祖父譲り?」
「ええ、そうらしいですけどね。僕はあまり知らないんですけど」
「ふむ…。若い小娘の僕が言うのもなんだけど、やっぱりご先祖様の事は知っておいた方がいいよ」
「はぁ…」
なぜか説得力ある。
五大家のひとつである、彼方家の人間だからこそ言うから尚更強い説得力だ。
みゆの家も同じ。
御琴の家は五大家や他の名家には及ばないかもしれないが、強い霊感力がある一族のようだ。
だが御琴はイマイチ理解をしていない様子。
「一度家系を調べた方がいいよ。ひょっとしたら名家に匹敵する所の出かもしれないし」
「そうですね。そうします」
「調べるなら力貸すよ~」
「……御琴、あんたって、女の子の友達しかいないの?それにしても仲良いわね?どちらさんが彼女さん?」
突然とんでもない事を言い出してきた真理。
「いやはや~やだなぁ~、彼女だなんて~」
お約束のようにみゆがにやけながら御琴の背中を力強く叩く。
「痛いよ…みゆちゃん…。母さん、そんなんじゃないよ」
「ほんとに?いっつも一緒にいるじゃん」
信憑性の高いような言い方をする琉嬉。
「琉嬉先輩もー」
「そう?でも女の子連れて来るなんて…思いもしなかったけどね」
別段驚くようでもない。
むしろどこか冷めた様子だ。
(……本当に元気ないな。親子揃ってまあ)
墓のある場所はそう遠くない、鞍光市内の外れにある山中の霊園。
だがそこはだだっ広く、心霊スポにも数えられないくらい綺麗な霊園だ。
近くに変な像があったり、海外のパワースポットとも思える変な石碑みたいのがあったり。
異様な雰囲気を出している…が、れきっとした立派な霊園だ。
草木がだいぶ生い茂って来て、よりにぎやかな風景になりつつある。
「こっちですねー」
御琴母の所有する車で到着。
「なんか変な気持ちねぇ…こんな日に墓参りなんて」
「だね」
4人は取り敢えず神楽家のある墓へ進む。
「あのさ、あんまり他人の家庭の深い所聞くのもなんだけど、御琴のお母さんって離婚とかしてる?」
「えっ?ああ、まあ……いろいろありましたからね。一度名字は籍を入れた時変わったんですけど戻りました。
僕も母親の元に引き取られたんで、元は違う名前でしたね」
「へぇ…。あの祖父も神楽家?だよね」
「そうです。母方の祖父です」
「そっかー。ふぅむ…」
「何をコソコソ話してるの?」
「いや、なんでもないよ、ささ、母さん」
慌てて母親を引っ張るように自分の家の墓へと向かう。
「やれやれ…」
奇妙な話になってきた。
みゆは珍しく無言で、事態を見守る。
墓の着いたが、特別なお墓でもない。
そこらにあるお墓と変わりない。
少し昔に新しく立て直されたらしいと、御琴は話す。
「別に何もありませんね~」
「そうだな」
一応、無関係ながらも琉嬉とみゆも手を合わせる。
静寂。
4人以外は人ひとりっこいない。
いわゆる山を隔てた幹線道路沿いで、非常に分かりやすい位置にあるのだが、車が通らない。
木々にざわめきだけが聞こえてくる。
異変に気づく御琴。
「あの…なんか不気味じゃありません?」
「どうしたの?御琴」
真理も何かに気づく。
「僕の推理は当たってたかなあ……?」
琉嬉は懐から御札を取り出した。
「あのー、なんです?この異世界みたいなのは」
みゆも当然気づいている。
今までとは違う異様な雰囲気に。
「な、なんなのこれ?!」
真理が大声をあげた。
見てみると真理の腕を黒い影が掴むようにしている。
「母さん!」
御琴が急いで真理の腕を両手で掴む。
まるで引っ張られるような、強烈な力。
「…やっぱりな!みゆ!」
「みこっちゃん!」
先ずは琉嬉が御札で黒い影目掛けて投げつける。
バシンッと強い音を立てる。
その瞬間みゆが御琴の隣に入り、何かを念じる。
「みこっちゃん!気持ち負けしちゃだめだよ!」
「は、はいー?!」
訳も解からず。
でも取り敢えず負けない気持ち、という事で力いっぱい真理の腕を掴む。
「霊感高いから引っ張られたんだ!思ったより強かったんだな」
琉嬉が御札の上から左拳で思いっきりパンチを放つ。
すると影が千切れた。
「ふひょー、なんつー力技」
みゆが唖然とする。
御琴と真理にはハッキリと見えている。
自分の家の墓から黒い影があふれ出てるのが。
「なんなの?これ…?」
「邪気を含んだ、悪霊の塊…って事ですかね。
こういう墓場がある所って、宛てのない浮遊霊などが行き着く時があるんですよ。
で、一際霊感の高い神楽家の墓を拠り所にしちゃってたみたいですね…」
「そうなの…?」
「でも思い当たる節あるんじゃないですか?マリナさん?」
「いや…私は、そんな力は…」
何かを言いかける。
だが…。
「それどころじゃありませんよ!先輩!」
影がうにょうにょと沢山触手みたいな手を飛ばしてくる。
それを斬り払うみゆ。
どこに持ってたのか、よく使用している短剣を持っていた。
「なんとか僕が抑えたいけど…」
御琴の方を見る。
真理は腰が抜けたように座り込んでいる。
御琴はあたふたしているだけ。
どこまでも頼りない感じだ。
「…なあ、みゆ」
「はい?」
「お前の将来の旦那様に気合い入れてあげて」
「はええ?しょうらいのだんなさまぁ?」
「いーから行けっ」
どげっとみゆのお尻を蹴飛ばす琉嬉。
容赦ない。
「あたた…みこっちゃん…」
「みゆちゃん!どうしたら…」
困り顔。
何をしていいのか分からない。
「みこっちゃん。今こそ男を見せる時!みこっちゃん…得意でしょ?霊相手なら!」
「……でも」
「お母さんを守ってあげて、そして私を守れるくらいになってよ」
最後の方は完全に演技。
わざと泣きそうな表情を見せる。
みゆは琉嬉の言葉を察した。
御琴を自信をつけさせる。
おそらくそういう事だろうと。
「わ、分かった…やってみるよ!」
御琴は立ち上がり、その辺に転がっていた自分の鞄から水晶玉を取り出した。
「御琴…あなた、それは…」
「ごめん、母さんの水晶玉勝手に借りてたんだ」
「………そう」
これ以上何も言わない。
「御琴!こいつはなんとか抑えておくから、自分の手で、自分の家族を守れ!
自分自身を守れ!自分の……意志を守れ!」
「はいっ!」
御琴の水晶玉が光り出した。
元々封じる力は持っていた。
それなりに鍛練をしてきた。
今それを試す時。
御琴は霊気を一気に解き放つ。
バシュンッという、鈍い音が響き渡る。
黒い影が、水晶玉に吸い込まれている。
強すぎる怨念だったのか、ヒビが入った。
「よくやった、御琴!とどめだ!」
「はいっ!」
「私も力貸すよ!」
みゆが御琴の手と合わせて、力強い霊撃を水晶玉に向って食らわす。
まばゆい光が辺りをまき散らした。
光の屈折の問題なのだろうか?
琉嬉の目には虹色に輝く光の柱が見えた。
(………これは…御琴の眠る力……?神楽の力は…もしかして、五大家や名家に匹敵するかも…)
綺麗さっぱり、落ち着いた。
ただ水晶玉は大きくヒビが入ってしまって使い物にならないレベルだ。
残念ながら破棄するしかないだろう。
「マリナさん、気づいてるんですよね?」
「ええ、まぁ…。私はそんなに力強くないから」
「強くないって言ってもそこらの霊感ある人より遥かに力強いッスけどね」
そう。
普通の人間には見えない、感じないような悪霊の塊。
それを確実に判別していた。
売れっ子占い師だけあって霊感をそれなり以上の力を持っているようだ。
ただ対処する力はないようだった。
「それよりさっきのなんなの?」
「僕が思うに、多分ここらで神楽家の力が強くて、悪い気をこのお墓に集めちゃったんですね。
だから、当然神楽家の血筋である、マリナさんと御琴が影響を受けていた。
「呪い」って分かります?」
「呪い…」
御琴の背筋がゾゾゾと寒気がほとばしる。
「厳密に言うと呪いの一種だろうと思います。ただ、さすがに呪いって霊術をもってしても解明されてないんですけどね」
「へー」
みゆが知らないような言い方。
「お前はもっと知っとけ。それはそうと、よく話でありません?
霊に憑りつかれたら不幸な目に遭うって」
「そうね」
「それと同じような要領です。
霊の種類にもよりますけど悪霊が憑りついたら、様々な霊障を引き起こします。
運が悪くなったりとか、そういう影響起こしますから」
真理は思い当たるような節が沢山ある。
この頃うまくいかないのもそれのせいかもしれない。
確証はないが。
ただ、自分自身が憑りつかれてる訳ではなかった。
それは霊感が高いから理解はしていた。
まさか、先祖が眠る墓に憑りついていてそんな霊障を引き起こしてたとは思ってもなかった。
「ようするに、ご先祖様をないがしろにしちゃだめって話です」
「……そうらしいわね」
「うち、お寺さんの家柄なんで忠告しておきます。
多分うち以外でも言われると思います。
よく聞く話ですけど、ご先祖様って守ってくれる存在なのできちんと供養してあげてください。」
「…そうするわね。ありがとう、小さな霊媒師さん」
「小さい…ぷぷ」
みゆが隣で笑う。
そして切れ味鋭い目つきでみゆを睨む。
「すんません」
神楽親子はその後自分の家の墓を綺麗に掃除した。
そして改めて手を合わせる。
「なんとかまるく収まった感じですかね?」
「だといいけどね。それにしても…お前の名演技、良かったよ」
クールな表情で、グッと親指立ててみゆに言う。
「そ、そうですよ、演技ですよ~あはは」
と言いつつ、顔を赤くしている。
どうやら演技でも半分本気のようだった。
「でもね、神楽家を助けるという意味もあったんだけど、御琴の男気をあげるためでもあったんだよね」
「そうなんですかー?てか、琉嬉先輩、もしかしてこういう風になるって思って行動したんですか?」
「いやいや、全部シナリオ通りにいくとは思ってないよ」
相変わらずの無表情ぶりで会話する琉嬉。
「荒療治だけどうまくいって良かったよ」
そう言うと、近くのベンチへ座りに行く。
「ほんと、琉嬉先輩…凄い人だなぁ」
なんだかんだで世話焼き。
部員の事を想ってる。
みゆは改めて感じた。
後日。
御琴の表情は晴れやかだった。
「おーみこっちゃん、今日はいい顔してますなぁ」
「おはよう、みゆちゃん」
「…相変わらず可愛いですのう」
ほっぺを指で突っつく。
「ふふ、なんとでも言うといいさ。僕は、あの悪霊も倒せるくらいの力があると知ったから!」
「ありゃりゃ、変な自信つけちゃった?」
「なんて、ね。たまにはこう考えてもいいでしょ?」
冗談だった。
席に座り、鞄から教科書などを出しながら会話を続ける。
「で、おばさんどうだった?」
「前より明るくなったかな?前は一緒に居ても会話があまりなかったけど…」
「そうなんだ」
「困っちゃったのは「あんた、やっぱり男の子なのね。女の子二人連れ込んだりして」とか言われて…」
「親からも男扱いされてなかったの?」
「みたい。あはは」
でもこうやって笑い飛ばすくらい、元気になった。
むしろ最初に会った頃より、明るくなった。
(琉嬉先輩に感謝かな~。無理矢理だけど、その無理矢理が功を奏するのはさすが、琉嬉先輩)
ここに来て、強く感謝する。
そして偉大なる先輩として尊敬するのだった。
「みゆちゃん?」
「は、はい?」
心臓が止まるくらい、びっくりする。
「これからも鍛えたいから、よろしくね」
綺麗な顔が笑顔を見せる。
本当に男か?と思わせるくらい、可愛い。
でもあの時見せた本気は、男らしかった。
多分これからも男らしい所を見せてくれるだろう。
そう考えるとみゆはなんだかこそばゆい気持ちになる。
(これって…「恋」なのかなー?よくわかんないや)
「私も負けないからね~」
変なポージングを取る。
相変わらず動きがにぎやかだ。
二人は笑いが止まらなかった。
「元気出たみたいですねえ」
「だね」
わざわざ御琴の様子を見に来た琉嬉と、まどか。
前よりは幾分ましな顔つきになった御琴にホッとする。
「ねえ、ひょっとして神楽家って、霊術名家かなんかなのかな?」
「さぁ?私には分かりませんけど…どうしてです?」
「母親も祖父も霊力高いって。一族で高い力続いてるみたいだから」
「どうでしょう?はっきりとしている霊術名家以外にも居てもおかしくありませんけどね」
まどかはこう言う。
「違いないね。さて、戻ろうか」
「いいんですか?声かけなくて」
コクンと頷く琉嬉。
そしてちょっと嫌味ったらしく、
「あれから余計にあの二人仲良くなっちゃってさ…」
「あらまあ…それは羨ましいですね」
「何?お前も彼氏欲しいの?」
「あらやだ、そんな風に聞こえちゃった?」
「突然砕けた喋り方するなよ…調子狂う」
「フフ、今は生徒会などでそれなりに忙しいですから」
「そうかい。じゃ戻ろうか」
フッとやれやれと言いたそうな表情で琉嬉は歩き出す。
そして琉嬉の後に続くまどか。
結局は二人の仲がさらに良くなった。
そこだけはちょっとだけ、誤算だった琉嬉だった。




