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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十二章   ~新部活動編~
70/92

#70 とある一日で進む展開

「寒い」

 琉嬉が一言。

そう漏らした。

5月も中旬を過ぎたというのに、一向にあったかくならない。

全国的に…というより、世界的に気候がおかしいと連日のようにニュースで言っている。

琉嬉達が住んでる鞍光市とその周辺。

山に囲まれているし、標高が高い。

夏は暑くなって冬はとことん冷え込む。

基本涼しい気候に部類になるのだが、今年は異常だ。

そう思えるくらい寒い日が続く。

少し山超えたところだと雪が降ったなんて話も聞く。

そんな所に住んでいる人間もそうだが、妖怪達も大概だ。

妖怪が沢山いる地域にしては不思議である。

「どこ行くの?」

「近所の温泉」

「……好きだね」

 悠飛が琉嬉と階段でのすれ違いざまの会話。

既に琉嬉は少し大きめな鞄を用意して出かける準備を終えていた。

午前の終わり際。

「來魅は?いつもなら一緒に行くとか言ってうるさいのに」

「んー。なんか近くの公民館だかで近所の年配方とお話してくるんだとさ」

「…何それ」

「僕が知るか。まあ、それなりに話は合うらしいよ。80歳くらいの方の人達と」

「……でも來魅が封じされる前は100年前でしょ…?いくらなんでも

仮に100歳の人がいても100年前は赤ちゃんだから記憶ないでしょ?」

 そう。

100年間封じられていたため、その時その時の、文明の流れていくさまを知らない筈だ。

「ヘタな妖怪に話聞くより面白いんだとよ。それに昔から生きてる妖怪が少ないらしいし」

「そうなの…?」

「……大討伐」

「大討伐?」

 言うのも少し辛い気持ちになる。

「霊術会が行う退魔大討伐の事さ」

「……あー」

 なんとなくしか聞いた事ない。

でも察する悠飛。

「それはおいおい置いといて、出かけるから」

「ああ、そう…いってらっしゃい」



 父親の導は仕事なのかなんなのか。

休日なのにいない。

フリーな仕事してるので決まった休みの日を決めていないからだ。

母親嶺珠はパートに。

悠飛は一人家に残る。


 最近近くに出来た、大型の温泉施設。

盛況のようで、平日の夕刻にもでもなれば結構は人の出入りを見かける。

駅からも近くで、交通に利便性があって行きやすいようである。

そんな中、一人の小さな少女がその施設に入ってくる。

回りを見れば年配の人達や家族連れ。

若い子らも複数人で友人達と来ているようだ。

(…んー、僕くらいのやつで一人で来てるのは…いないか)

 少し残念そうにしながらも、券売機で販売されている入浴券を買う。

最近はこういう所が多い。

中も綺麗で、清潔感溢れている。

(古くて情緒ある老舗の風呂屋もいいけど新品な所もいいよね)

 兎も角、温泉好き。

古い所だろうが新しい所だろうが狭い所だろうが広い所だろうが秘湯だろうが街中だろうが温泉であればいい。

あまり深く気にしてないようだ。


 券売機で買った券を受付の女性に渡す。

パッと見若そうだ。

「あのー、お嬢ちゃん、間違えてないかな?これ大人券だよー?」

「…へ?」

 思わず聞き返す。

「だからこれ大人…」

 でもすぐ気づいた。

(もしかして子供に間違えられてる?)

 取り敢えず引き返す。

そして、

「えーと、一応高校生なんですが。18歳になったばっかりですが…)

「ええ?そうなの?おばちゃん分からなかったわ~。

………でもいいわ。負けとくから」

「負け?え?」

 そう言うと受付の女性は大人額の半分のお金を琉嬉に渡した。

一瞬、理解が出来なかったが、手に渡されたお金を見てようやく理解した。

つまり、子供額分にしたという事だ。

「えー………」

「ま、いいじゃん。ねぇ?見た目子供なんだから」

「いや…良くないと思うんですけど…まぁいいか………」

 どうも納得いかない様子だが、渋々そのまま脱衣所に向かうのだった。



 何もかも綺麗。

ロッカーすらも新品。

中は他の客がそこそこいる。

当たり前だが、女風呂なので女性しかいない。

大多数は自分より年上ばっかり…のようだ。

若い人もいるが、おそらく20代以上の女性客ばっかりだろう。

自分ひとり少し浮いたような感覚に陥る。

でも同じ女性同士だからといってあまりキョロキョロするのもおかしいと思われる。

なのでおとなしく自分のロッカーを決めて荷物を下ろした。


(…そんなに子供っぽく見えるのかなぁ…)

 風呂の体洗い場。

備え付けの鏡越しに自分の顔を改めてじっくり見る。

もう18歳。

ふかしぎ部部員達やクラスメイト達同級生らの顔を思い浮かべる。

(むむ…。むぅ…。他の奴らと比べるとたしかに…童顔かもしれない…が)

 さらにじっくり考え、自分の顔と睨めっこ。

(顔は元より…、この体が悪いのか?身長が悪いのか?うがーっ!)

 ざぶんっと、桶に入れたお湯に顔を突っ込む。

その光景は異様で、通りかかった人が思わず声をかけていた。




(頭冷やそ…)

 考え過ぎてのぼせそう。

そんな事を思い、露天風呂の方へ向かう。

ガラッと閉まっているドアを開ける。

案外人は少ないようだ。

さすがに大きい施設だけあって、露天も大きい。

肌に冷たい空気が身に染みる。

(5月ってこんなに寒かったけ…?)

 大き目の浴場に入ろうとすると何やら見覚えのある金髪の後ろ頭が目に入った。

護のとはちょっと違う色合いの金色の髪で、ショートカット。

そして浮くくらい分かる透き通るような白い肌。


「……ルナフラワード?」

 ピクッと頭が動く。

そして振り返る。

「あらぁ?どこぞのお子様かと思ったら…彼方家の琉嬉さんじゃない」

「その癇に障る言い方はルナフラワードで間違いないな…」

 振り向いた顔はルナフラワードだった。

勿論、化粧を落としたいわゆるすっぴん顔。

だが同性だからこそちょっとムカつくくらい、綺麗で可愛らしい顔つきだった。



「いつのも一緒にいる狐要素の少ないおちび妖狐ちゃんとお兄さん…じゃなかった。妹さんは来てないのかしら?」

「……悠飛はお留守番で來魅は近所のジジババ達のお茶会に言ったよ」

「あらそう~」

 少しキョトンとした顔を見せるが、いつものように含みのある喋り方をする。

どうもこの裏のありそうな言い方が気にくわない。

「ちぇー。せっかく一人で楽しもうと思ってたのに…。なんでいるの?」

「失礼ねぇ。私だって日本人なんだから温泉くらい楽しみたいわよ」

「よく言うよ。どっからどうみても外国人みたいじゃん」

「あらやだ。国籍は日本しかないわよ。こう見えても…日本人ですからね。

あ、あと受付のお姉さんに観光ですかー?って日本語で聞かれちゃったわ。

近くに住んでる日本人ですけどねーって言ったんだけどね」

「吸血鬼という名の妖怪とのハーフだろ」

「うふふ。そうとも言うかもしれないわねー」

 相変わらずひょうひょうと琉嬉の棘のある言葉をかわしていく。


「に、しても…本当、哀れよね」

「何が?」

「んー、でもそういう趣向の人もいるからいいんじゃない?」

「お前なぁ…」

 直接言ってはいないかなんとなく言ってる事が分かる。

いつもいつも敵意でも出すかのような事を琉嬉に対して言う。

でも琉嬉は琉嬉で面倒なので言い返しはするがそれ以上つっかからない。


 外の空気は冷たくも、お湯は熱くていい具合。

この極端なアンバランスがまたいい。

冬とはまた違った春先の空気を感じて良い感じだ。

「ねえ、琉嬉ちゃん」

「…なんだよ」

「どっから聞きつけたのか分からないけど…私の所にも来たわ。例の」

「ルナのとこに?誰が…?」

 と言いかけたのはいいが、琉嬉はすぐに察した。

「半妖……か」

「ご名答~」

 なぜか明るい口調で言う。

「なんだってルナの所に?」

「まあ、私も半妖だから…かしらねえ」

 普段は普通の人間として振る舞っている。

力を使う時は吸血鬼としての力を見せる、西洋妖怪からの流れを組む一族だ。

何度も話題に出ているが、現在は日本籍で日本に住む。

そしてルナフラワードより前の世代から日本生まれ。

「それって…ルナの存在が知られてたって事?」

「それはそうよ。だって裏の世界じゃバルストゥエム家って…有名じゃん?」

 ルナフラワードの姓名。

どうやら国籍を取得していても日本人名のような改名は行ってないらしく、

いわゆる祖先の祖国の伝わる名前をそのまま使用してるようだ。

ルナフラワード本人も変更するつもりはない。

「有名なのは分かってるけど…それはあくまでも裏世界での話だけってコトだろ?」

「表向きはただの輸入で儲けてる企業に過ぎない一族だけどね」

「…それってお前の親御さんとか親戚の話?」

「そうねぇ。言ってみれば…ほら、五大家の港咲家と似たようなものかしら」

 港咲家も同じように、莫大な資金を持つ家系のひとつだ。

表向き裏向き、同じように稼いで稼ぎまくっている。

夜栄守とはまた違う意味での、霊力とは違う力を持つ一族である。

「…ルナって元々鞍光の人?」

「あー、残念ながら生まれは関東の方ねー。私だけがこちらに自宅を構えて住んでるの。

だって気候が素敵じゃない?涼しいし」

「涼しいを通り越して寒いけどな」

「ふふ、そうね」

 なぜか会話が弾む。

「こっちに支社みたいのがあるのよね。だから私がこちらを受け持ってやってるって話」

「支社長?」

「う~んちょっと違うけど…そんな感じね」

「へー。意外にビジネスウーマンなのか…」

「そうよー♪」


 時々ふらっと現れてはそそくさと去っていく。

そんなふらついたイメージがあるが、どうやら働いてはいるようだ。

「それはあくまでも、表向きの話よ」

 裏の世界ではそれなりに有名。

「でも田舎暮らしもいいわよねー。私は好きよ」

「アンタの住んでる所は田舎というか山の中だろ」

 ルナフラワード宅は鞍光市内でも、琉嬉達とは違う方向の、そして山が連なる奥周辺。

これまた奇妙な好みである。

それだから近所から魔女がいるとか言われる。

「さて、そろそろあがろうかしらね。のぼせちゃうから」

「…はいはい。僕は他のお風呂も楽しむかな」

 二人は一旦露天から内向きの浴場へ移動した。



「やれやれ…奇妙な奴に会っちゃったな」

「失礼ねー。近くに住んでるんだから会っても不思議じゃないでしょ?」

「それはそうだけど…なんでわざわざここの温泉に?」

「え?だって新しく出来たっていうから…」

「………」

 琉嬉は同じ理由で来たとはなぜか言えなかった。

ただの偶然。

その偶然でよくルナフラワードと出会う。

妙な巡り合わせになんとなく関心する。


 休憩所でゆったりと座ってる琉嬉。

まわりは他の客もいて、にぎやか。

テレビが昼間の番組がやっている。

しばらくぽけっとしている二人。

「あ、そうだ。何か冷たいの飲む?それともソフトクリームがいいかしら?」

「…奢ってくれるの?」

「あら、年上なんだから当然じゃない~。一応社会人だし?」

「……じゃ、飲み物でいいよ」

 そこはおとなしく貰い受ける。



 20分程度の休憩を終え、そろそろ帰ろうとした時。

「家近いのかしら?なんなら送ってあげるわよ~?今日は車だしー」

「運転出来たんだ」

「まぁね」

 何から何まで厄介になる。

何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうくらい。

元々は仲が良いという間柄ではないからだ。

「何か狙ってたりする?」

 疑いかける琉嬉。

「あらぁ、そんな風に見える?」

「見えない事もないけどね」

「フフ、疑り深いのねぇ」

「疑いをかけるのが僕らの生業です」

「そうよね」

 そのまま二人は車に乗り込む。


「あーあー、どうせならイケメン~♪な男の子と一緒にドライブしたかったわあ」

「よく言うよ…。悪かったね、イケメンじゃない男で」

「でもね、美少女もありかもね」

「美少女言うなっ」

 美少女と言われて何か腹立つ琉嬉。

普通は嬉しい筈だが、ルナフラワードに言われると何かと嫌味に聞こえてくるからだ。

「家近いんだっけ?」

「まぁ歩いては行ける距離だから…すぐだけど…どんどん離れてる気がするんだけどサ」

 自分が通う道をは外れていくのが分かる。

「んー、まぁそうなるかもしれないわねえ」

「……厄介事引き連れたか…」

 既に気づいていた。

何かにつけられている。

ルナフラワードの車。

カラーリングは薄ピンク色の普通の軽自動車…だが、綺麗で高そうである。

その丁度後ろを走っている、黒い普通の乗用車。

こっちが曲がってもついてくる。

「もう一度曲がってみるかな」

 そう言うルナフラワードは、急に車線を変更。

そして急旋回して反対車線に出る。

急激な旋回のせいで琉嬉は体が一瞬浮いた。

「曲がるっていうレベルじゃないんだけど?」

 それでも冷静な琉嬉。

「曲がるには曲がったからいいじゃない?」

「屁理屈~」

 驚く事に、後ろの車も急旋回してついてくる。

「バレる気満々だろ……あの車」

「さて、スピード出すから気をつけてね」

「耿助さんで慣れてるから大丈夫だよ」

 と言いつつ、琉嬉の両手は手すりをガッチリ掴んでいた。



 駅前近くの、のどかな街並み。

だが突如、キュキュッという普段の住宅街では聞き慣れないタイヤが擦れる音が響く。

ルナフラワードの卓越したドライビングテクニックで狭い通路を通り抜けていく。

「警察とか通報されてないかな?」

「その辺は琉嬉があの刑事さんに言ってどうにかしてくれるでしょ?」

「…あの人は交通課じゃないだろ。関係ないよ」

「でもそこそこ偉いんでしょ?」

「偉いっていうより…特殊なだけらしいけどね」

 こんな状況でも割と冷静に会話する二人。

余裕があるように見える。

「ルナさんルナさん」

「うーん、そうねぇ」

「まんま罠でしたよこれ」

 わざとらしい丁寧語。

フロントガラス越しに二人の目の前には、一人の女性と大柄の男性。

女性の方は琉嬉が何度か見た事ある人物だった。

「あー、猫さんか…」

「猫?」


 車を降りる琉嬉とルナフラワード。

「知り合い?」

「お前は会った事ないの?」

「初顔だわ」

「そっか。デカイ方は俺も見た事ないな」

「にしも…厄介ね」

 分かってる風に言う。

「お久しぶり…かな?まさかここまで来てるとは思わなかったよ」

「お前達は有名だからな。足取りくらい簡単に突き止めれる」

 以前、京都や雪女の里周辺で会った、猫妖怪の壬珠だった。


「やれやれ…ストーカー行為はいけませんよ」

 両手には多数の御札。

ルナフラワードも終始にやついてはいるが、右手部分に霊力が高まっているのが琉嬉は気づいてた。

最初から全力で行こうとしている。

「壬珠よ。この娘らがあの五大家か?」

 異常すぎるくらいデカい男が喋る。

筋肉隆々。

身長も叉羅沙や沢村刑事ら背の高い者よりも遥かに高い。

その辺のプロレスラーよりもでかいんじゃないかというくらい。

ゆうに2mは超えてそうだ。

隣にいる壬珠が子供に見えるくらいに。

「主。あの小さいのが彼方家の者です。もう一人の金髪の女は吸血鬼です」

「なるほど……話には聞いていたが」

 改めて二人を見る巨漢の男。

背丈なら來魅の知り合いの阮醐より大きいかもしれない。

顔は外国の映画に出て来そうな、いかつい感じで日本人ぽくない印象。

髪も少し長め。

後ろ髪だけが襟足より長くしている。

「にしてもデカい奴だな……」

「そうねぇ。私も見たコトないわぁ」

「ふむ…」

 ジリ…と地面についてる足を少しだけその場からズレるように動かす。

互いに動きを読みあっている。

「まあ、そんなに警戒する事もない。俺の名は充盛じゅうせい。よろしくな」

 男は充盛と名乗った。

日本人名っぽいようだ。

「……何の用?」

「なんとかそこの吸血鬼のお嬢さんを仲間に引き入れたいと思ってね」

「………ルナを?」

 ちらっとルナフラワードの顔を伺う。

「あら嫌ねぇ。私はそっち側には回らないわよ?」

「かと言ってこっち側でもないだろうに」

「少なくとも私は私のしたい事を邪魔されたくないけどね~♪」

 こんな状況にも関わらず、顔色ひとつ変えない。

それほど余裕なのか開き直りなのか。

こういうノリはみゆや、香那巳に近いものがある。

「バルストゥエム家は非常に重要な存在だ。半妖の中でも…な」

「そうなの?」

 琉嬉はあまり事情を知らない様子だ。

首を傾げてまで。

「あんた案外知らないのね」

 逆に呆れるルナフラワード。

「しょうがないだろー。僕は普段は普通の女子高生なんだから」

「小学生の間違いじゃなくて?」

「うるせえあいつらの代わりにぶっ飛ばすぞ」

「いやん♪」

 そうやり取りしてるうちに壬珠が動き出していた。



「格闘は不利か…」

 琉嬉は壬珠とは二度対戦している。

相変わらず琉嬉は小さいので格闘では有利にたてない。

「ふん、前よりはやるようでないか」

「鍛練は怠ってませんよーだ」

 そうして札を投げつける。

壬珠はなんなく避ける。

動きだけなら護や悠飛以上。

「ルナの方はだいじょーぶ?」

「うーん、戦いは苦手なのよねぇ私ったら」

 ルナフラワードはまるで逃げてるかのように、チョロチョロしている。

充盛と名乗った男はその場に動かずにいる。

壬珠一人相手に手こずっている。

ここであの男が入ってこられたら…と考えたら恐ろしい。

あの壬珠が主という相手。

壬珠より強いのだろう。

「ねえ、琉嬉ちゃん」

「何?!」

「あの力使ってさっさと追っ払って頂戴よ~」

「そう易々と使えるわきゃ…ないよ!」

 壬珠の手刀を喋りながら避ける。

「話す余裕があるのだな」

「あっちから話かけてくるだけ!」

 イライラしているのが伝わってくる。

だが、壬珠はより深く間合いを詰めるような事をしない。

なぜなら以前琉嬉が動きながらも策を練って、結界の陣を張っていたからだ。

迂闊に飛び込めば自分がやられてしまう。

そう感づいているのかどうなのか。

必要以上に踏み込まない。

「ちぇー。相手さんも警戒しまくりじゃないの…」

「そうねぇ」

 得意の誘い込みが出来ない琉嬉。

一度手の内を見せてる。

相手も突撃してくるだけの馬鹿ではない。

「どうするの?逃げる?」

「車で?」

「でも逃がしてくれないねー」

 部下なのだろうか?

ルナフラワードの車の後ろには二台の黒い車が道を塞いでる。

中には黒ずくめのいかにも怪しい男達が乗っている。

加担はしようとしてない。

おそらく加担出来る程の力を持つ者ではなさそうだ。

「…住んでる所分かるなら寝てる所でも首獲りにでも来ればいいのに。なんでこんな回りくどいコトするのさ」

 率直の疑問。

それを壬珠にぶつける。

「卑怯なやり方は主が好まんのでな」

「へぇーえ」

 その主の方を見る。

少しにやついているが、戦いに参加しようとはしてない。

「その余裕面がなんとも、気にくわないですねー」

 琉嬉は左手に拳を作る。

逆の右手は大量の御札。

その御札を空にばら撒く。

「ちょっとぉ…何をする気?」

「僕が短気なの知ってるでしょ?」

「……あんたと一緒にいると厄介だわね」

「お互い様っ」

 舞い散った御札が霊気を放つ。

そして自在に操るり、壬珠や充盛を狙う。

「むっ」

「主っ!」

 充盛は避けようともせず両腕でガード体勢。

壬珠は充盛の所に駆け付けようとするが、数枚の御札が追いかける。


「なんという攻撃…さすがだな」

 なんとか弾く。

しかししつこく飛び回る御札。

「だが、この程度で私を止める事は出来ん!」

 次第にスピードが上がる壬珠。

「ならこれはどう?」

 琉嬉は拳作った左てから、強力な霊撃を放った。

「なっ?!」

「龍神符!」

 極太の霊撃砲が壬珠を充盛を襲う。

「ぬぅ…!」

 そのまま直撃。

ズドンッと鈍い爆発音が響き渡る。

「派手ねぇ…仕方ないわね」

 ルナフラワードは何を思ったのか、くるっと向きを変えて車の方へ体を向ける。

そしてそのまま走り出す。



「げげっ…命中したのに…」

 爆風から姿を現した二人。

特に大きなダメージも負ってないように見える。

充盛が突然琉嬉の目の前に大きな体を現す。

「中々やるようだな。だが…」

 大きな腕で琉嬉を殴るように、パンチを放つ。

「うわおっ」

 両腕手のひらを前に出して受け止める。

すると鋭い衝撃が琉嬉の前身を走る。

「ぬぬぬっ!」

「ほう、小さき体でよく受け止めた」

「こんなか弱き少女に容赦ないね、巨人さん」

「ハハハッ。ならこちらはどうだね」

 次はアッパー気味の鋭い腕の振り。

間一髪避ける。

すると次は蹴りが飛んできた。

「うぐっ」

 まともにガードが出来ずに、吹っ飛ばされる。

が、空中で何かを呟いた。

その瞬間充盛の体を囲む複数の御札。

「むっ!?」

 バチンッと電気がほとばしるような大きな音を立てて充盛を中心にまた爆発が起きる。

「むおおお!」

 そしてまた爆風が巻き起こる。


「琉嬉ちゃぁん、逃げるわよ~」

 なぜか車に乗ってるルナフラワード。

吹っ飛ばされながらも反撃した琉嬉。

受け身をうまくとってたのか、倒れ込んではなかった。

そうしてすぐ体勢を立て直し、車へ走る。

「ルナ…いつの間に……」

「いーからいーから。飛ばすわよ~」

 急いで助手席の方に乗り込む。

「なんかハリウッド映画みたいだな」

「でしょー?なんか楽しいわ」

「…あれ?塞いでた車は?」

「ぶっ飛ばした」

「お、おう?」

 すぐに納得した。

琉嬉がやり合ってるうちにルナフラワードはどうにかして塞いでた車を避けたらしい。

後ろを振り向くと、二台あった車の姿がない。

いや、ないというより両サイドになぜか移動している。

というか、明らかに移動したという形跡じゃない。

一台は引っくり返っているし、もう一台は頭を下に建物の壁に直立していた。

「どうやったのあれ?」

「んー?ちょっとねぇ、避けてって言ったら避けてくれたの」

「嘘つけ」

 しらじらしい。

でも琉嬉は聞くのも野暮だと思い、特にこれ以上会話を続けるのをやめた。

「私のドライビングテクニックとくとごらんあれ!」

 ブオゥン!と、軽自動車とは思えない音を立てて急に走り出す。

ギャリギャリとタイヤの擦れる凄まじい音。

「おわっ」

「捕まってないと頭ぶつけるわよーん」

「あいつらより、こいつに殺されそうだ…」

 そしてその場をあっという間に後にした。



 静寂が戻る。

「主。ここにこれ以上居たら騒ぎが大きくなります。

それにあ奴らの姿はもうありません」

 壬珠が建物の上から降りて来る。

「うむ。そうだな。しかし…あれが彼方琉嬉か。

それとバルストゥエムの娘。期待以上に面白い者達だ」

 そう言いつつひっくり返った車を元に戻す充盛。

体に見合った、凄まじい怪力だ。

「すみません…充盛様」

「大丈夫だ」

 部下達が車からなんとか脱出する。

「これからどうします?」

「そうだな…。これ以上動くと霊術会も感づくだろう。今日のところは撤退だ」

「はい。ですが…主、体は?」

「問題ない…とは言い難いな。

彼方の娘…、吹き飛びながらも反撃してきた」

「それは目視しておりました」

「反撃だけならまだしも…、まだ何か細工をしていたようだ」

「細工?」

「これを見るがいい」

 そうして地面にパンチをする。

ボゴンと強烈な音と砂煙が舞う。

アスファルトがいとも簡単に崩壊して、下の土まで見えた。

「これは…紙切れ…、もしや符?」

「そうだ。あの娘っ子…地面にも何か細工していたようだ」

「…私の時のように…。彼方琉嬉め」

 小細工度なら、みゆ以上に猪口才。

単なる力押しで行くほど余裕があった訳ではないようだ。

「くっくっくっく。楽しませてくれる」

「……主」

 心配をよそに、充盛は笑い続けていた。




「なんなんだよまったく!せっかく温泉に行ったのに、汚れちゃったじゃんか!」

 ご立腹琉嬉。

なんとか逃げ出せた。

「くそー。こういう時に限って來魅がいないんだから…」

 最強とも呼ばれた來魅。

その來魅の封印を一時的に解いてでも一緒に戦うべきだった。

今更ながらそう考える。

だが肝心の時に一緒にいない。

運が悪い。

「ねえ、折角だから違う温泉行かない?」

 ピクッと反応する。

「でも…」

「奢ってあげるから、ね?元々私を狙ってたみたいだし」

「むむ……お言葉に甘えようかな」

 奢る、という、魔法のようなその言葉で即決するのだった。



 別の温泉施設に行き、本日二度目の入浴を済ませた二人。

休憩所でまた一休み。

休日だというのに、なんだか働いたような気分。

時刻は午後3時を超えたあたり。

いつの間にかこんな時間になっていた。

本来の予定では、正午くらいには家に戻ってゲーム三昧だった予定。

それがぶち壊された。

「ところで…なんなの?あいつらって?」

 ルナフラワードが琉嬉に聞く。

実際、あの者達がどういう組織なのか知らない。

「あー、それねぇ…。僕も良く分からないんだけど、半妖で構成されているって話みたいだよ」

「半妖だけで?変なの」

「片っ端から仲間に入れるように声をかけてるらしいね」

「それで私の所にも来たの?行動力凄いわね」

「見習いたいね」

 これまたルナフラワードから奢ってもらったアップルジュース。


「毎度の事、どうしてこう巻き込まれるかねえ…」

 ストローをくるくる回す琉嬉。

自分の運の悪さを嘆く。

「逃れられない宿命…」

「は?」

「宿命とか言うとなんかかっこよくない?漫画やゲームみたいで」

「…ルナってそういうの結構興味あるの?」

「そりゃあね、人並みには。こう見えてもまだ25だしー?」

「年齢は関係あるのかよ…、って結構いってるんだな」

「んま、失礼なお子様ね~。そりゃ琉嬉から見たらおばさんかもしれないけどー?」

 拗ねるルナフラワード。

それも演技ったらしくわざとらしくだが。

「誰がお子様だ。今年で僕も18ですー」

「あらそうなの?」

「真面目な顔してキョトンとするな」

「あー、そうなのー。ふぅん…。初めて会った時は…5年くらい前かしら?私がまだ20歳くらいで…、

琉嬉は中学生の頃?でも今とあまり変わってないわよねえ?髪型以外」

「だまらっしゃい」

 ぺちっと、ストロの先でルナフラワードの額を軽く叩く。

「やだ、汚いわねぇ」

「にしても…奴等の狙いは一体なんなんだ?」

 同じ半妖仲間を探している。

それだけの目的じゃない。

それは分かっている。

裏に何かきっとしようとしている。

霊術会も警戒をしている。

「まったく…おかしな状況よねぇ。この町ってこんなに物騒だったかしら?」

「いや…僕がこっちに来る前はそんなんでもなかったような…」

 以前は鞍光には住んでなかった。

勿論、まだ琉嬉が幼かったのもある。

でもこういう世界に生きていれば子供の頃でも何かと家柄情報が入ってくる。

こんなに頻繁に何かあるという事件事故は聞いてはなかった。

「退屈するよりはいいんじゃなくて?」

 アイスコーヒーをすするルナフラワード。

妙に大人らしさを強調している。

話すと子供っぽい発言が多いのだが。

「退屈は嫌だけど…命に係わる程退屈凌ぎする出来事は勘弁だけどね」

「言えてる」

 二人は小さく笑った。



「今日は悪いね。奢ってもらって。しかも二度も」

「あら、こう見えてもお金持ちなのよ」

「そこは謙虚にいけよ」

 結局、自宅近くまで送ってもらった。

あれから追ってくる様子も、それらしき者の気配もない。

完全に手を引いたようだ。

「でもルナを狙うならまだしもなんで僕まで狙うんだ」

「それは…だって、ほら、貴方彼方家の中でも一番の有名人じゃない?今」

「…「真霊気」?」

「そう、それ!」

 急に声のボリュームを高くする。

ルナフラワードも勿論知っている、彼方家に伝わる力。

「風の噂じゃ、真霊気ってやつを狙ってる妖怪がいるって話じゃない」

「來魅のせいでね」

 最強妖怪來魅を倒したとされる真霊気。

それをなぜか妖怪達が逆に狙ってくる事がたまにある。

もしかして半妖達も狙っているのでは?

ルナフラワードはそう解釈をしている様子。

「にしても奇妙よね。半妖って…あんなに見た目が人間と変わらないのね」

「自分でそれ言う?」

「だって私は半妖と言っても、ハーフとかあとから妖怪化したような血の濃い存在じゃないし?」

 そう。

吸血鬼の子孫なだけで、ほぼ人間と言っても過言ではない。

「でもまあ、純粋な人間じゃないし半妖なのは間違いないんだけど。

あの人らも祖先が妖怪の半妖なのかしらね?」

「さあ、それは今度会った時に聞いてみたら?」

「フフ、会うのは遠慮したいわ」

「……嫌な奴だな。ルナって」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 そう言ってルナフラワードは車のエンジンをかけ、そのまま走り去った。


「どうして僕の回りはくえないような奴ばっかなんだ」

 少し文句を垂れて、歩き出す。

すると物凄く見覚えのある後ろ姿が目に入る。

眩しいくらいの明るい橙色に長い髪。

「來魅ー?」

 名を呼ぶと、くるっと背を向けていた姿が正面を向く。

「おー、琉嬉。今帰ったのか?」

「來魅も今帰って来たの?」

「うむ。そうだ。元気か?」

「元気…ではないけど。何それ?」

 手提げ袋を片手に持っている。

「おう、これは老人達から貰って手土産だ」

「……はぁ、そう」

「何やら旅行行った先で買った饅頭とか大福とかだな」

「へー」

 あまり興味を示さない琉嬉。

「皆で食べようぞ♪」

 鼻歌混じりで楽しそうに歩く來魅。

マイペースというか、能天気というか。

でもその姿がなぜかホッとする。

「ま、いっか…楽しそうなら」

「何の話だ?」

「いやー。なんでもない。しかしそういうのが好きなの?」

「昔は和菓子が主流だったのだ。今は洋菓子も沢山あってどれも美味しいけどな。

やはり慣れ親しんだ食べ物の方が私はいいのう」

 年寄りくさい…と、一瞬思ったが來魅が封じられる前の時代を考えるとなるほどなと納得する。

「無理もないか」

「何が無理なんだ?」

「あ、こっちの話」

「むむ、さっきから何を一人で抱え込んでいる?」

 少しドキッとする。

何気なく鋭い。

そこは自分よりも何倍も生きている妖怪。

察し能力が高い。

とはいえ、琉嬉が意味深のような言い回しをしてるせいもであるが。


「…さっき半妖の奴等と会った」

「本当か?」

 表情が変わる。

「どこだ?とっちめてやってもいいぞ?」

「今は多分ここから撤退したと思う」

「ふむ。そうか。で、どうだった?」

「ヤバイくらい強い。來魅とは違う感じで…強いかも」

「ふむー。私くらい強いのか?」

 琉嬉が本気の顔をしてそう言う。

だから、來魅も真面目な顔をする。

「だが、本気を出せば良かろう?私を倒したように」

「いずれはそうなるだろうけどね…。なんせ、今日の相方はルナフラワードだったし」

「るなふらわーど?ああ、あの吸血鬼とかという…」

「今回は味方だけど…いつも味方とは限らないからね」

「ほうか?」

 いつの間にか饅頭を頬張っていた。

「…真面目な話してる時に……」

 呆れる。

「僕にもひとつよこせ」

「あ、こら」

 半ば無理矢理袋から饅頭を取り出す。

「あ、買い物頼まれてたんだ。面倒だけど仕方ないか」

「おお、私も行くぞっ」

 琉嬉の後についてくる來魅。

まるで妹のようだ。

年の近い姉妹…には到底見えない。

どっちかというと年の近い友達のようだ。

「要するに…大将同士の顔合わせみたいなもんだったな」

「大将?誰がだ?」

「僕に決まってる」

「ふむ…?」

 來魅はなんとなく納得しない。

でもまた余計な事を言うとケンカになりそうなので何も言わずに近くのスーパーへ入って行った。


 毎度の事だが、結局当初の予定通りにはいかないのが琉嬉の運勢。

自分自身でも理解している。

いわゆる「運の尽き」が、鞍光高校に転校した時に来ていた。

そう解釈したのだった。


「さて、買ったぞ。しかし便利よのう。このけーたいの連絡用あぷりというのは」

 來魅がスマホを取り出す。

嶺珠との連絡チャットをしていたようだ。

その中に買い物してほしい内容も書いてあった。

「…益々古代の妖怪のイメージなくなっていってるよな……來魅って」

「そうかの?」

 自動ドアを出る。

すると、カラスの鳴き声やムクドリのうるさい鳴き声が聞こえてくる。

夕陽が眩しい。

琉嬉の曇った心とは反対に晴れやかに綺麗な橙色の夕空が見える。

肌寒い風の中、二人は徒歩で帰って行くだけだった。


 ただ、琉嬉が把握出来た物。

それは半妖の連中が、この鞍光にも足を延ばしていたという事。

つまり……この街が妖怪達が多いのを知っている。

だから、拠点を移そうしている。

そう捉えた考えを出す。

いずれ近いうちまたぶつかるだろう。

琉嬉達ふかしぎ部。

霊術名家が中心となる、日本霊術会。

それに属さない五大家ら。

純粋な妖怪達。

そして、半妖達。

これまでにない面倒事だ。

コレ以上考えないように琉嬉は明日の学校の事に考えを切り替えて帰宅したのだった。



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