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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十二章   ~新部活動編~
69/92

#69 小学校怪奇再び

 5月の真ん中。

まだ夜は冷える。

こちらの地方ならではの気候。

そんな中、ふかしぎ部の中心となる席に座っている琉嬉。

琉嬉が机に置いておいたスマホに着信が入る。

と言っても、通話でない様子で、手に取り画面をしかめっ面で確認する。

「…いつも面倒そうな顔して取るよね」

 よくその様子を隣で見てる護。

その護ならではの発言だ。

「そう?ポーカーフェイスには自信あるんだけどね」

 琉嬉が自覚あるように言う。

言われてみればあまり表情変わらない…と護は思い返す。

琉嬉はそのまま画面をみつめている。

「なんか面倒事でも迷い込んできた?」

「そうとも言えるね」

 護の予想はビンゴだった。


 メールの着信だった。

内容は、以前小学校での怪奇事件を持ち込んできた、奈々からである。

今でも連絡のやり取りはそこそこあった。

その奈々からの連絡。

「何かあったの?」

「…うーん、そうとも言える」

「んー?どゆこと?」



 早速琉嬉は奈々に会うべく、学校から帰る前に奈々に会うために奈々の小学校近くの公園にやって来た。

まさかの二回目の依頼に首を傾げながらだった。

暇だと言うので護も一緒に来た。

「あ、琉嬉さん」

 手を振る眼鏡の小学生の女の子。

「やあ」

「おー、大きくなったねえ」

 護が奈々の頭を撫でる。

「お久しぶりです」

「そだね。で、用件を聞こうか」

 早速連絡した事を聞く。

「ええと…ですね…」

 奈々が鞄から出したモノ。

何かの御札のようだ。

それも数枚。

「御札?」

「そうです、ね」

 奈々の手にある全部で3枚。

「ねえ、これって…」

「…だな」

 護と琉嬉は顔を見合わせる。




 二人は奈々と別れた後、帰る途中。

琉嬉は奈々から怪しい御札を受け取り、そのまま手に取って睨めっこしている。

「琉嬉ちゃん…なんか分かる?」

「見た事ない形式…とでも言うと?」

「へ?」

「…隆治が使用していた図式に似ている…」

 スマホを取り出し、隆治が使用していた札の画像と照らし合わせる。

「あ、模様が似てる」

「似てるというかそのままだけどね」

「え?そう?」

 この手の細かい技術は護が苦手らしく、どれも同じように見えるらしい。

元々独学で鍛え上げられてきた霊術と身体能力+妖怪の力。

道具に頼らなくても十分強いからだ。

「……もしかして、小学校の間でも流通してる…って事なのかなあ?」

「かもね。怖い話だ」

「ふぅむ……」

 二人共黙り込む。

「…でもなんだって奈々ちゃんの手にあったんだろ?」

「友達から巡り巡ってやって来たとか言ってたな……。使おうと思っても適正がちゃんとないと使えないからね」

「あたしでも使えない?」

「あほか。お前なら簡単に使えるよ。霊力高いんだから」

「そか。………でも霊力低いと一切使えないの?」

 琉嬉はそういう護の考えに、無言で腕を組む。

そして小さく口が開く。

「一概に…まったく使えないとも言えない。これまでも似たような事件見てきたけど…素人腕で使用出来てる。

それが…何故だか…使えてる。それが怖い話なんだよ」

「……本来なら使えないのに?」

「そう。この術式…というより道具そのものに強力な霊力が込められている。

こんな高等な術式道具を沢山振りまいているって…凄い事なんだよ」

「へぇ…」

 素人の人間でも簡単に扱える程の道具。

隆治の場合は元々霊力が普通の者より高かったため、ある程度制御して使用出来ていた。

ただ、霊力が高くない物が使うと思わぬ所で暴走する。

その結果、麗未亞の友人繋がりの井沢のような非情なる結果になり得る。

「にゃーるほどねぇ…。で、どーすんの?琉嬉ちゃん?」

「……小学生達に直接潜入してみる」




「……で、なんでまた私なんですかっ」

 突然のご立腹な柚羽。

珍しい私服姿。

トレーナーの上着に、ショートパンツに黒タイツと、女の子らしい服装だ。

「と言いつつちゃんと来るじゃん」

「…そ、それは…先輩であり部長である琉嬉先輩の命令ですから……」

 結局従う。

真面目な柚羽らしい言葉だ。


 人通りが少ない公園。

天候はそこそこな曇り空時々青空。

時刻は午後の4時頃。

「あ、あのぉ…一応、私服の中でも一番子供っぽく見える…の、チョイスして見ましたが……」

 柚羽の後ろから恥ずかしそうに出て来た少女。

それは麗未亞だった。

「…うん、可愛いね。ちゃんと小学生っぽく見えるし」

「それ、褒めてませんよね…」

「ま、僕も人の事言えないけどねぇ」

 自虐的に言う。

そう言う琉嬉もいつものツインテール。

でも服装が子供が着てそうな派手な柄のトレーナーに黒いふりふりのスカートにニーソ。

麗未亞もパーカーに琉嬉と似たようなスカート。

そして皆、小柄である。

見た目がとても高校生徒は思えないくらいに、幼く見える。

「しかしまああれだね。日本人には見えないね」

 琉嬉は麗未亞の見た目を率直に感想を述べる。

明るい髪色。

少し日本人ぽくない、少し彫りの深い顔つき。

でも小柄で童顔。

「外国人っぽいよね?なんつーか、ハーフ顔とでもいうのか」

「え?ああ……その…それはですね…」

 いつになく小さい声で続ける。

「一応…ハーフじゃなくって…クォーターなんです…。

祖母がノルウェーの国の人でして…」

「へぇー。ヨーロッパか…なーるほどね…」

 ジロジロっと麗未亞の方を見る。

「あ、だから名前の「れみあ」も外国風なんですねっ」

 柚羽がそこに気づく。

しかし、

「ええと…そうなんですけど…、ノルウェー関係ない語感なんですけどね…」

「あ、そうなの?」


「…あの、今回は何をするんですか?」

 手に持った刀…を入れた長い袋を肩から降ろす。

一応持ってきているようだ。

「それがねえ…結構怖い話なんだけどさ…」

 琉嬉が柚羽らから視線をずらす。

そのずらした視線の先には、奈々の姿。

「あ、奈々さん?」

 柚羽とは面識がある。

「お久しぶりです」

 ぺこりと丁寧にお辞儀する。

「今回は…事前に事故を防げたらいいなあって話」

「…はぁ……」


 琉嬉はこれまでの奈々からの話を説明した。

ようするに、今現在奈々の小学校の間でオカルトな出来事が流行ってると。

そして出て来た数枚の御札。

まだ大きな事件は幸い起きてないらしい。

万が一、小学生と言えども霊力がある者に手に渡るとなると危険だからだ。

「でも、なんで奈々さんが?」

「あの…あれから私、霊的な物になんとなく気づくようになったんです…なぜでしょうか?」

 少し不安そうな顔をしながら淡々と話してくれる。

元々気配を感じてる程度のようだった。

だがここ最近幽霊めいたモノを見たり、感じたり。

それが段々強くなってるようだと。

「フツーはさ、子供って感受性豊かだからあまり力なくても視たり感じたりする事が多いんだよ」

「そうですね」

「でも大人になるにつれて霊を視れなくなった…ていう人もいる。

これは余談だけどさ」

 一旦一息をつく。

そして琉嬉はまたそのまま口を開く。

「奈々の場合は、微かに人よりちょっと強かった霊感が僕らのせいで開花しちゃったのかもね」

「え、そうなんですか…?」

 驚く奈々。

「ほら、よく言うだろ?霊感ある人と一緒に心霊スポット行ったら霊感無い人も釣られるように目撃するって」

「確かに…」

 軽く頷いて納得する柚羽。

「わ、私は正直幽霊さんは見たくないですけど…」

 怯えながら言う麗未亞。

本当に苦手のようだ。


 琉嬉の考えは、これから奈々がいつも遊んでるグループに混ざってみて、御札の出処を突き詰めてみる。

そう考えだ。

もしかしたらこれまでの事とは打って変って真実に近づくかもしれない。

そんなに期待しないながらも、取り敢えず動く事にしたのだった。


「で、こちらさんは?」

 琉嬉が見上げる人物。

頭一個分大きい。

「ええと、同じクラスの友達のさゆちゃんです」

「どうも…はじめましてー」

 奈々の隣にいる女の子。

ふかしぎ部3人の誰よりも背が高い。

「…同じクラスってコトは…同じ6年生って事か」

「ですね」

 3人は愕然とする。

さゆと呼ばれた女の子はどう見ても中学がそれ以上にも見えるように大人っぽい。

身長も160以上ありそうだ。

反面、奈々は年相応なのか、誰がどうみても小学生だと分かる。

と言っても、琉嬉らと大した変わらないが。

「えーと、さゆちゃん?だっけ。随分と大人びてるね」

「あ、いえ…そんな事ありません…」

 見た目とは裏腹に、少し落ち着いてておとなしそうな性格のようだ。

セミロングの黒い髪。

スラっとしたスレンダーな体格に、パンツルックで動きやすそうな服装だ。

でも胸は小学生に似つかわしくなく、大きい。

「…私自分に自信持てなくなってきました」

 めまいでも出て来たかのようにフラフラしだす麗未亞。

メンタル部分が本当に弱々しい。

そんな麗未亞を押しのけて琉嬉がさゆの前に出る。

「んー。で、早速案内してほしいんだけど?」

「あ、はい」

 しかし、身長差は激しいほど残念だった。


 いつも遊ぶグループの所へ向かう。

遊び場は…その内の誰かの家。

「まあ…あれですね…。琉嬉さんだから言えるんですけど…」

 口籠ったように言う奈々。

少し辛そうな顔をしている。

「クラスメイトの付き合いって大変です」

「あー。女子はそうかもねー」

 自分も一応は通って来た道。

小学生と言えども、高学年になるといろいろ人間関係が複雑化してくる。

さゆも無言で頷く。

「はー…、小学生も大変なんですねぇ」

 逆にあっけらかんとした表情で言う柚羽。

「その素振りだと、お前さんは人付き合いが大変でもなかったようだな」

「え、ええ…まあ、それは…剣一筋でしたし……。友人も少なかったので」

「…うん。柚羽は武士だもんな。皆とは違う世界を通ってる」

 脇に居た麗未亞も思わずクスクス笑う。

「ブシ?サムライ?」

 きょとんとした顔する小学生二人組。

「まあまあ、気にするな。さ、行こうよ」

「いやいや私が気にしますって」

 柚羽自身が気になって仕方ないのだった。


 とある一軒家。

そこには奈々らのクラスメイトの自宅。

さゆがインターホンを押して、出て来た友人。

その辺に居そうな子である。

セミロングの可愛らしい女の子。

表札を見たら桜井と書いてあった。

「えと、この人達は?」

「奈々ちゃんの友達ー。つまり友達の友達…かな?」

「あ、そ、そう…準備してくからちょっと待ってて」

「うん」

 琉嬉達を見てもあまり不審に思わないでまた戸を閉める。

「え…と、何も言ってきませんでしたね」

「うむ。変装はバレてないようだ」

「変装してる訳じゃないんですけど…」

 どうやら奈々の友人の琉嬉一同は年上だと思われなかったようだ。

その状況にどうも複雑な琉嬉以外の二人。

「にしても…変に勘繰られる事ないですね…」

 大きく肩を落としたようにして言う麗未亞。

「ま、小学生くらいの子供なんて案外鋭どそうに見えて気づかないよ。

奈々みたいに鋭い子もいるけどね。

あとは髪型服装の問題だよね」

 自分のツインテール状の髪を片手でぽんぽんと跳ねるようにして触る。

「大人になるって…難しいんですね」

 麗未亞も自分の髪を触る。

「あ、あはは…あまり気にしないで…ね?」

 慰める柚羽。

「なぁに。ロリボディでもたまには役に立つさ」

 もう自虐的に自分でも認めてる琉嬉。

「…私も自信なくなってきました………」

 結局柚羽も肩を落とす。


「じゃ、行こうか」

 準備を終えたさゆの友人。

名前は桜井と言うらしい。

下の名前は言ってくれなかったので分からない。

どこか大人びた雰囲気がある。

「どこかに行くの?」

 どうやら遊び場は桜井の家ではないようだ。

琉嬉はさゆに一応、質問する。

「まあ、人気のない所ですかね」

「ふむ?そか」

 琉嬉達は黙って着いて行く。


 近くの公園。

と言っても少し丘になっている、自然と一体化したような公園だ。

晴れていてもなんとなくまだ肌寒い。

「何処行くんでしょうかね?」

「さぁってね…」

 どんどん奥へ進む。

少し道から外れていく。

(おいおい…段々変な所に行くぞ?)

 着いたのは誰が建てたのやら、小さなプレハブ小屋。

しかし使われてる形跡はなく、扉は開きっぱなし。

他の女の子二名が先に到着していた。

桜井の友人だろうか。

「えーと、ここは?」

「ねえねえ、さゆちゃんのお友達さんも見る?」

「…ん?」

 案内された小屋に入ると、怪しげな箱が目に入った。

「先輩…あれって…」

「……だね」

 柚羽が琉嬉に確認を取るように言う。

琉嬉は敢えて何も言わずに、分かってるといった風にコクンと頷く。


「これって、面白いよねー。何かの儀式とかに使うのかなー?」

「ねえねえ、さゆちゃんのお友達さん…何か分かります?」

「さあ…なんだろうねー」

 琉嬉は白を切る。

と言っても、詳しい事は琉嬉にだってさえ分からない。

だが箱や中身の様子からするとなんらかの霊具には間違いない。

この女子小学生達はどうやら偶然見つけたようだ。

こういうオカルトめいたものに興味を向く子供は多い。

どういう訳か、奈々の耳にも届いて一緒に来てみれば…というようだった。

(なるほど)

 何かに気づく。

「奈々。ちょっといい?」

「あ、はい?」

 スマホを取り出してついでにと奈々を呼び、外に出る琉嬉。

「ごめん、ちょっと電話…」

 電話するふりをして奈々も出る。

「あ、そう?中にいるから」

 桜井はあまり関心を向けないまま、他の者とお喋りを続ける。



「奈々。もしかして桜井達は何も知らないままか?」

「はい。おそらく…」

「そっか…。ふーむ」

 ブツブツといつものように呟くようにして腕を組んで考える琉嬉。

お得意のポーズだ。

短い時間であれこれ一気に集中して考えを巡らせる。

「あの…琉嬉さん。やっぱりやめさせた方がいいですよね?」

「ん?あー、そりゃ、まーね。そもそも大人でも子供でも無断でこういう小屋の物漁っちゃだめだし。

人の事は言えないけどさー」

 喋りに少し気楽さが見える。

まだ何か起きたという訳ではないからの余裕だからだろうか。

「ぶっちゃけさ、小学生なんてほんと子供だから。

これがほんの数年年を取っただけでどえらい事件起こすもんだから…子供の成長って怖い怖い」

 悠飛の中学時代の時の、似たような霊具で起きた事件の事を言っている。

こんな事を言う琉嬉はなんだか奈々にとっては大人に見えた。

「奈々の性格上こういうの言えないのも分かってるよ」

 ぽんっと奈々の頭に手をのせて軽く撫でる。

と言いつつ琉嬉が少し背伸びしてだが。

「はい…」

「だから僕を呼んだ。でしょ?」

 コクリと頷く奈々。

「友達付き合いって大変だからね」

 気怠そうに言いながら小屋に戻る。

「あの…」

「大丈夫。なんとかする」




 小屋の中は軽いパーティでもしてるかのように、物が拡げられていた。

怪しげな御札が数十枚。

怪しげな巻物みたいのが二つ。

そして怪しげな短刀が一本。

こんなもの小学生に持たすにはいかない。

なんでこんな霊具らしき物が人知れずな小屋にあったのか。

不明だ。

「嫌な予感します」

 柚羽が小声で琉嬉にだけ聞こえるように言い出す。

「柚羽がそう言うならそうなんだろうね」

「あ、いえ、確証があるというわけじゃないですが…」

「あれだけの念を飛ばすお前さんの事だから、感知力も只者じゃないでしょ?どうせ」

 分かりきってるような言い方。

柚羽程の能力者なら事前に何かを察知するのかもしれない。

「しばらく周囲を見張ってようか」

「…そうですね……、って。私…刀置いてきちゃいました」

「………家に?」

「はい…」

「………」

 琉嬉は無言のまま。

柚羽も止まったかのように微動だにしない。

その様子を見ていた麗未亞もまた何も言わない。

「あ、あの?どうしました?」

 心配そうにする奈々。

「まあ、持ってきたら持ってきたで不審に思われるから、いいんじゃない?」

「そ、そうですよね。アハハハ」

 自分の専売特許でもある、剣技。

万が一のためにもあった方が良いのだが。

肝心の武器がない。

「でもまあなければないでも強いでしょ?」

「は、はい…」

 どうも頼りなさそう。



「で、いつもここで何してるの?」

 率直な疑問。

それを琉嬉は桜井にぶつける。

「ええとねー。なんか起きるかなーって思って…。ね?」

 周りの友人に同意を求める。

「うん」

「そうだよねー」

「なんかって…例えば?」

「お化けが出たり?とか?」

「ほほう」

 何かを期待してるようだ。

「なるほど……ね」

 事態を見てるだけ。

かと言って何もしない訳ではない。

何かが起きる前に対処したいのだが、そうも言ってられない。


「あのー、変な事起きそうですか?」

 心配そうに奈々が琉嬉に小さい声で聞く。

「さぁ…ねえ。毎日来るっつーわけにもいかないしなぁ」

 ぼやく。

でも現状見てても特に何か起きるような現象は見受けられない。

そもそも、なんでこんな所にあるのかが謎だ。

「あのさ、これって前からここにあったの?」

「んーと…どうだったけ?」

「前からあったよー」

「桜井さんが偶然みつけたんだよねー?」

「そーそー」

 甲高い声が飛び交う。

高校生とは違う、若々しくて耳が痛いくらいの。

(うるさい…)

 キャイキャイする高音の会話の中、琉嬉は一個だけある棚にある何かの気づく。

古ぼけた、怪しい壺みたいなもの。

「……?これは」

 いや、壺だろう。

小さくて、茶色のような灰色のような混ざったような汚らしい色。

一瞬なんかの価値でもあるのだろうか。

そんな事を思い浮かべたが、そんな高価な物がこんな所にある由もない。

でもどうしても気になる。

「琉嬉さん、どうしたんですか?」

「ん、奈々。これは…何?」

「壺ですか?」

「あー、それ…変な御札貼ってあるんだよねー」

 桜井がそう言うと棚から取り出す。

そして壺の口の方。

桜井が言う通り御札が貼ってあった。

「これがねー。外れないんだよねぇ」

「………封じの札」

「え?」

 琉嬉の呟き。

「あ、ごめんなんでもない。ちょっと見せて?」

「どうぞ」

 手渡される壺。

琉嬉の手に取ると少しだけ霊力を感じた。

「琉嬉先輩…それって」

「んー。あまり良くない……のかもね」




 楽しい時間はあっとういう間に過ぎていく。

公園近くの住宅街の端。

「じゃ、今日は解散ね」

「はーい。またねー」

 この日の遊びは終わりとなる。

夕方6時のちょい前くらい。

夕飯の支度をしている匂いがどこからかしてくる。

「じゃあねー。ばいばいー」

「ばいばい」

「彼方さん達も今日はありがとうー。またね~」

 桜井達と別れる。


「…どうします?」

「んー。そうだねぇ」

 くるっと振り返り、公園の方に体を向ける琉嬉。

「奈々とさゆ。お前達は帰って大丈夫だよ。この後は僕らがなんとかする」

「でも…」

「分かってるよ。桜井達は悪くはない。

とは言っても、小学生がこんな危ない所で遊んじゃだめだよ」

「はぁ…」

「でもね…そのうち…取り返しのつかない事になる前にさ。

…なんとかしちゃおうか。可愛い後輩のためにもね」

 そう言うと琉嬉は奈々の頭をぽんぽんと叩く。

ちょっと背伸びしてだが。




「でも先輩…いいんですか?あの子達に何も言わないで」

「そこは奈々がどうにかしてくれるよ」

「しかし…」

 琉嬉達3人は少し時間を置いてから先程の小屋に戻る。

日も暮れ始めて寒さが強まってくる。

ガサガサと草音を立てて、小屋に戻って来た。

「でも随分奈々さんに肩入れするんですね…」

「将来のふかしぎ部員候補だからね」

「そうなんですか?」

 麗未亞は事情は知らない。

柚羽は以前琉嬉と共に奈々の依頼を聞き入れて行動をしている。

なので琉嬉がなぜこうした動きを見せているのかを理解しているのだ。

「ま、前にちょっとね。それに…奈々は霊感が強いから」

「そうなんですね」

「今からでも鍛えれば術者に負けないレベルになれるかもねー」

「それは本人次第ですけどね」

「そういうコト。さて、いきますか」

 再び戻って来た小屋の入口の前。

ガラッと引き戸タイプの戸を開ける。

さっきとはうってかわってがらんとした静かな小屋の中。

物はきちんと片づけてあるので元の場所に戻っている。

中に入る3人。

「そもそも…鍵はあるのに鍵はされていない。それに…なぜこんな所にあるのか。

そこから推理だね」

「…理由ですか」

「ここの土地主を調べたらすぐだろうけど。んー…一応調べる?」

 スマホを取り出す琉嬉。

「土地主と小屋の持ち主を割り出せば答えは見えてくるんだろうけど…面倒だけどこれは後でいっか」

「出たー。琉嬉先輩の面倒くさがりや発言」

 皮肉っぽく言う柚羽。

「あ、壺取って、麗未亞」

「な、なぜ私がっ?!」

「面白そうだから」

「うう…ひどい先輩ですぅ…」

 軽く涙目になりながらも壺を棚から降ろす。


 外に運び込まれた壺や、霊具達。

「で、どうするんです?そろそろ日が完全に落ちちゃいますよ」

「決まってるでしょー。処分します」

「でも勝手にそんな事していいんですかね……」

「未来ある少女達がこれで命を落としたらどうする?」

「それもそうですが…」

 非常に難しい問題である。

誰かの所有物でもあるだろうし、勝手に処分するともなると面倒事になるかもしれない。

「直接彼女らに言ってやめてもらえば…」

「ああいうタイプは言っても聞かないだろうしね。ただ、力づくでいいなら…」

 目が怖い。

二人は敢えて何も言わない。

多分、琉嬉も言っても聞かないタイプなので。

「霊具はお寺に持っていくか…。壺は…」

 壺に手を触れる。

なんとなく、妙な空気を感じる。

御札はしっかり貼ってあって、なぜか力を入れても剥がれない。

奇妙な力が働いている。

おそらくは、封じの術込み。

「誰がやったのか分からないけど…。んー……心当たりが出て来たなぁ」

「心当たり…ですか?」

「ここの住所は………と…」

 スマホをまた取り出して現在の居る場所を確認している。

そして電話を誰かにする。

「出るかな…」



『ああ、そこですか…。たしかにそこの山の所有者はうちになってますねえ』

 通話の相手はふかしぎ部顧問である、耿助のようだ。

「やっぱり…どっかで見た事ある封じの術印だと思ったんですよね」

『あはは、すみませんねえ。きっと先代が封じてそのままにしといたんじゃないんですかね~』

 なぜか明るい口調。

「……でもまあ…、耿助さんだけが参堂家じゃないですもんね…」

『それはもちのろんです』

「所有者が分かったので…被害が出る前に処分していいすか?」

『どうぞどうぞ。僕が許可しますんで』

「すみません」

 通話が終わる。

どうやら持ち主が特定出来たようだ。

耿助自身…ではないが、参堂家の者の仕業のようだ。

どうしてこんな所に小屋があってこんな小屋に霊具があるのかは分からない。

言われてみれば霊具自体は古いようだが。

「参堂家も耿助さん一人じゃないしな…。もしかして夜な夜なこっそり回収してたのが

回収し忘れた物かな?」

「よく話が見えて来ませんが…」

 柚羽と麗未亞は置いてけぼり。

「ふぅむ……怪しい。ねえ、麗未亞。ひとつお願いがあるんだけど」

「は、はいぃ?!」




 麗未亞はなぜか桜井宅へ向かわされていた。

琉嬉がある理由を…というか推測を立てたからだ。

その推測が正しいのかを確かめるために。

気が気でない。

ただでさえ気が弱い麗未亞なのに、一人で向かわせるという鬼な先輩。

(…もう夜なのに大丈夫なのかなぁ…。ここは…奈々さんの力を借りるしか)

 ここで奈々に力を借りる事を密かに決心した。



「ありましたよー。先輩」

 柚羽が葉っぱまみれになりながらも見つけたモノ。

それは小さな社。

「こんな所に…まったく…参堂家は迷惑なんだから」

「やはり…結界が破れてますね」

「どれどれ…。ずさんというかなんというか…。どっかの妖怪が結界破ったのかな?」

 首を傾げながらも社に近づく琉嬉。

躊躇なく、社の扉を開ける。

中は空。

何もまったくない。

「こっから持ち出されたのか…」

「変な話になってきましたね」

「多分だけど、参堂家でも力ある人とな人がいるんだと思うよ。うちみたいにさ」

「はぁ…」

「その、ない人がこうやってこっそり集めたりしてたんじゃないかな。

別に耿助さんが悪いって訳じゃなくって、同じ家系の人でもいろんな人いるからさ…」

「あー。そうですね」

 納得する柚羽。

自分も一応霊術名家と呼ばれた一族。

かつていろいろな人間がいたものだ。

それをなんとなく思い出してしまう。

「結局処分しきれず、ここに封じたけど…力ないから結界が取れちゃったんじゃないかな」

「ふむ…」

「いや、処分…しないで何かに使おうとでも思ってたとか?」

 変な考えに向かう。

だとしても根拠はない。

ただ、なぜこのような危険な代物があるのかがいまだに不明なのだが。

「考えるのはいいや。壺、貸して」

「あ、はい」

 

 琉嬉は壺を受け取ると、あっさりと封じの札を取った。

すると中から煙状の物が浮かび出てくる。

そして何かの形を作る。

その形は獣のような、4本足の動物の形になる。

「やれやれ。そういう話か」

「どうします?」

「やっちゃいます」

「了解です」

「剣ないのに?」

「がんばります!」

 二人は仕方なく、戦う方向になった。




 結局仕事を終えた耿助も呼び出し、霊具一式を近くの四阿のある公園のテーブルに広げる。

なんとか承諾を得て桜井を連れて来た麗未亞。

「高校生だってバレマシタ」

 なぜかカタコト。

「ばれましたって…お前から言ったんだろ?」

「……そうです」

「しゃーないね」

「あの…なんなんですか?一体?」

「桜井さん…だったけ?」

「…?奈々ちゃんの友達の?」

「そ。彼方琉嬉。一応高校三年生なんだけどね」

「…え?」

 驚く。

無理もない。

自分と同じか、ちょっと下かも思っていたからだ。

「奈々。悪いね」

「いえいえ、琉嬉さんが言うなら」

「さてと、桜井さんやら。話を聞こうかな?」

「な、何の事ですか…?」

「これについて…だけど」

「あ…ええと…?」

 そこで耿助が割って入るかのように話に混ざる。

「すみませんねえ。我が一族が面倒事増やして…」

「この人は?」

「そこの山の所有者…になるんですよね?」

「一応ですね。先代からただ譲り受けてるだけなので。はっきりいって面倒なので

あまり手つかずだったんですが…これは反省しなければいけませんね。僕も」

 事態はどうやら掴めてるようだ。


 その場に広げた霊具一式。

桜井は黙って見ている。

「ていう事でこれがどういう物か、実際に見せてあげよう」

「いいんですか?」

「現実に起こり得る事を見せてやれば…文句はないでしょ?」

 半ば強引とも取れる行動。

琉嬉は霊具の中の巻物を手の上に乗せる。

するとプルプルと巻物が震えだした。

「え?え?」

 ビカッと光ると思いきや、何かが出てくる。

「ええー?!」

「おおー。これは…低級妖怪ですか」

 変な鳥みたいな妖怪が出て来た。

キシャーッと言いながら耿助の方へなぜか向かう。

でも耿助はなんなくペシッと、どこからか取り出した木の棒で叩き落す。

「あら、あっさりとまあ」

「これくらいはさすがに」

「ですよねー」

「な、なんですこれ…?」

 驚く桜井。

声もあまり出ていない。

「妖怪だって。世の中は幽霊や妖怪が沢山いるんだって」

 桜井とは対照的に奈々は落ち着いていた。

幽霊は見た事あるのに妖怪に対してもなぜか落ち着いている。



 大きな事件にもならずに、なんとか事態を収拾させた。

桜井達が山中へ行った時にあの社を見つけたようで、その中から勝手に霊具を持ち出したという。

そして丁度いい所に小屋が有ったのでそこに運んだという。

壺も同じように持ち出した。

「桜井さん、勝手に持ち出したらだめだよ。子供だろうが大人だろうが、駄目なものはダメ。

まあ、僕らも人の事を言えないけどさ」

「はい…すみません」

 涙を浮かべる。

「でもね、危なくなる前に分かって良かったよ。奈々のおかげだね」

「えへへ、ありがとうございます」

「正直言うと…これは陰陽師が使用してたものだ。

いわゆる妖怪や悪霊を退治するためのね。

こんなものがリアルにあるんだよ。

桜井さんも、もう小学6年生なら現実を理解出来るよね?」

「………」

「脅す訳じゃないけど…、これを使用して、実際に死んでる人もいる」

「…」

 麗未亞も険しい表情になる。

柚羽は話には聞いてるが、こういった物を誤って使用して死亡した人間も実際に居る。

それが麗未亞繋がりであったという話を聞いているのだ。

「実際に見てみるといいか」

 琉嬉は一枚の札を取り出す。

自分のではなく、小屋にあったモノだ。

「いいんですか?参堂さん…」

「ああ、構いませんよ。どうせそこらに置いてあったという事はろくな力ないでしょうから」

 ばっさり切り捨てるような言い方。

なかなかどうして、この人物も案外ドライな所がある。

そう話してるうちに琉嬉が手に持っていた古ぼけた御札に少しだけ霊力を注ぐ。

すると御札は形を変えていく。

人の大きさまでに巨大化する。

「おおっ!」

「わぁ」

「なにコレ…」

 驚く桜井。

「凄いよねー。こんなふうになるんだよ、桜井さん」

「……ッッ!」

 声にならないようだ。

知らなかったとはいえ、もし何かのはずみで起きたら…と考える。

「でもこいつは安定してないからだーめ」

 琉嬉が自分の御札を取り出して、巨大化した御札にぶつける。

するとパンッと音を立てて破裂する。

気がつくとパラパラとビリビリに破れたただの紙切れになっていた。


「いちいちやる事がかっこいいですね琉嬉さんは」

「かっこいいとか言わないでください。こう見えても女なんですから」

「いや、どっからどう見ても琉嬉先輩は女の子にしか見えませんよ」

 本気のツッコミの麗未亞。

どこか抜けてるというか、なんというか。

若干世間の子とはズレてるようだ。

「これにてこういう怪しい物には手を出さない。分かった?」

 いつも表情が乏しい琉嬉。

その無表情気味な顔をしてる事が多いせいか、より怒ってるように見える。

「はい、反省します…」

「おっけー。じゃ、今日はこれで終わりますか、と」

 あっさり引き上げようとする琉嬉。

「あの…ありがとうございます」

 再び頭をさげてお礼を言う奈々。

「なーに。未来のふかしぎ部なんだから。ここは恩を売っとかないとね」

「先輩。言ってる事がやらしいです」

 琉嬉の背中をつんっとつっつく柚羽。

「はいはい。じゃ、あとはよろしくね」

 すれ違いざまに誰にも気づかないように、奈々の上着のポケットに何かを入れる琉嬉。

「あの…これ」

 琉嬉は小声でこうささやく。

「いいかい?言われた通りにしてね。奈々は…きっと術者になれる素質がある。

本気で習いたかったら僕と一緒に特訓…考えておいてね?」

「そ…そうですねぇ…考えときます」

 にっこりといい笑顔で返す。

「何を考えるんですか?」

「いーのいーの。二人だけの約束だから」

 奈々と顔を見合わせて二人でクスッと笑う。

「あー、ずるいですねー。女同士の秘密ですか」

 ちょっと寂しそうな耿助。

「じゃあ、帰りましょうか。送りますよ」

「耿助さん運転荒いからな~」

「大丈夫ですよ。女性には優しいですから」

「ハイハイ」

 もう突っ込む気すら起きない琉嬉。

(…しかし、なんだか小学生の子達を連れ回してるように見えませんかねぇ…これ)

 ちょっとだけ心配な耿助だった。




 すぐ翌日。

奈々からの連絡。

桜井は大変反省してる様子だという。

ただ、もしかしたら自分の知らない所で出回ってるかもしれない。

それは奈々がこっそり持ってたように、桜井以外の誰かが持ってるのかもしれない。

ということで二人で小学校の中を調べるようである。

「んー…大丈夫かな、二人で」

「なんならまた潜入します?学校に?」

 嫌味そうに言う柚羽。

「うーん。それは勘弁したいね。少し顔割れてるし」

「じゃ、麗未亞さんを単独で」

「おお、それはいい考えだ」

「やめてくださいっ。もしかしたら…バレないかもしれないじゃないですか…うう」

 また泣きそうな顔をする。

「おっつー、ってなんの話?」

 護が元気よく部室に入ってくる。

今日は満員御礼のように大勢集まっている。

例の如く凛夢はまたいないようだが。

「琉嬉ちゃんが小学校潜入が嫌なんやと」

「当たり前だ。僕は18歳だ」

「こんなにちっこいのにねえ」

「みゆ。お前ぶっ飛ばす」

「やめて~」

 楽しそうに言う。

「はー、気楽だな…お前ら」

 呆れる龍翔。

「いいんじゃないんですか?」

「ほら、主将もこう言ってます」

 まどかの隣に座ってフォローする寧音。

今日はおとなしく本を読んでいる。

おそらくBL小説…のようだ。

カバーはしてあるが、龍翔がちょっとだけ中身の文字を見てしまったがなんとなくすぐ内容が理解出来た。


「やれやれ…奈々も不思議だよな」

「何がです?」

「あんな御札にすぐ気づくとか…やっぱ素質あるんだね」

 普通は霊力がない者が手に取ってもただの紙にしか思えない。

ただ、何らかの力を感じ取っていたようで、すぐに琉嬉に連絡してきた。

ひょっとするとひょっとする。

そんな事を頭の中で巡らせる。

「変に感じ取ってなかったらそれはそれで終わっちゃうもんなー。僕らだって結局はさ」

「そうですねぇ…。今後が楽しみですね」

「たしかに」

「よくわかんないけど、期待できる新人が出来たって事?」

 悠飛が少し興味を抱く。

「残念ながら悠飛が居る時にも年齢的に入れないけどな」

「…へぇ?」

 奈々は現在小学6年生。

悠飛ら1年生が3年になっても残念ながら奈々はまだ中学生だろう。

「耿助さんみたいに僕が特別顧問として居るのもありかなー?」

 将来のビジョンを作り始める。

「わお、やる気満々ですねー琉嬉先輩~」

 みゆがくっついてくる。

そして琉嬉の長い髪の毛を触っては指でとかしていく。

「…そういうのもありかなって。自分で作っといて2年間しかいれないから。

だって僕は2年の頃に作った部活だよ?

みゆとか悠飛達は1年の頃から居れるなんてラッキーじゃん。

3年間バッチリ楽しめるじゃん」

 少し寂しそうに言う。

「卒業したらの話だけどね」

「あら、琉嬉さんは留年でもしそうなんですか?」

「バカ言うな。こう見えても成績は中の上くらいだ」

 そう。

遊んでそうでしっかりやる事はやっている。

赤点も取る事なく、無難に過ごしてきた。

「やばいのはそこの金髪くらいだろ」

「んなっ、失礼だ~琉嬉ちゃん失礼な子だ~」

 わざとらしいわめき方だ。


「それにしても…小学生も侮れませんね」

 テーブルにあったお菓子をつまみながら言う柚羽。

「そーだね…。小さい子でも…霊力高いヤツがうっかり手に取ったら…隆治とかと変わらない事になるからね」

「…あ、あの時は失礼しました」

 何度も話題に出てくる。

隆治の復讐話。

「やれやれ…やる事がまだまだ多そうだ」

 ポケットから取り出した1枚の御札。

先日の御札の残りの物だ。

それと睨めっこするかのように、一瞬見つめながら丸めて破り捨てた。

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