#67 呪われたビデオ・前編
なんだかんだで新学年度になってから一か月が経とうとしていた。
あれから特に大きな怪奇現象など起こっていない。
時折、低級の浮遊霊が見られるくらいだ。
以前に比べて毎日現れていた怪異が大分減った。
ふかしぎ部も特に動く様子もなくなってしまった。
いつもグダグダと部室にいるだけの日が増えてしまった。
コレといった事件もあれからなく、なんとなく過ごしてる。
いや、むしろない方がいいのだが。
紫音は刺激が足りないと嘆いたりしている。
琉嬉はそれをみては軽くスルー。
元より面倒事が嫌いな琉嬉にとってたこうした状況の方がいいとさえ思っている始末だ。
部活メンバーが全員揃う事があまりなくなってしまった。
生徒会達も忙しそう。
それに新たに入った前崎香那巳もあまり姿を現さない。
結局何の為に入ったのかよく分からない人物だ。
時折ちょろっと顔を出しては「用事がある」などと、いいながらすぐ帰っていく。
本当に用事があるのだろうと琉嬉は薄々感づいてはいる。
そんな放課後の事だった。
「おいっす」
と、ぶっきらぼうな挨拶で琉嬉が静かに部室に入ってくる。
「やあ、琉嬉ちゃん」
「…なんだ?護だけ?」
目線だけを動かして見回すが護以外の姿はない。
その護というと、チョコ菓子を頬張りながら何かの漫画を読んでいる。
「なんだ、護。漫画なんて読んで余裕だなー。テスト…悪かったんじゃないの?」
「赤点じゃないから大丈夫だよ。多分」
そう、テストシーズンなのだ。
テストだから、部活にはあまりみんな顔を出さない。
一応琉嬉は部長であるから顔を出す。
「…鍵、どうしたの?」
「んー、まどかちゃんから借りたの」
「まどかのやつめ…」
部室の鍵管理は部長の琉嬉か、キャプテンのまどか、顧問の耿助、もしくは名ばかり担当の桜川先生の管理となっている。
とはいえ、放課後になれば鍵管理してる者の許可が出れば琉嬉ら以外でも鍵は貸してもらえる。
「みんなはもう帰ったの?」
「さぁー、あたしはわかりませーん。みんな勉強に必死なのさ」
「そのお前は必死さが全然見当たらんけどな」
「え?」
琉嬉が持ち込んだノートパソコンをポチポチいじる。
以前に自分が立ち上げたサイトがあるのだが、最近はめっきり更新もしなくなり、またある程度の情報、
そして依頼もまったくなくなってしまった。
(ふぅむ……)
考えられる理由はなんとなく掴んでいる。
旧校舎を結界で封印した事。
それともうひとつ。
霊術会が本気を出して動き出してる事。
ほとんどの霊能力者達は霊術会をバックに背負っているという噂…。
バックアップが強力になり裏の力がより表で活発になってる事だろうと推測する。
(ここにたどり着く前に霊術会関係で解決されてるんだろうか…?)
前はそれなりに依頼やら情報やらが来ていた。
今はパッタリなくなってしまったのだ。
謎の霊術道具の情報も一切途絶えた。
最近はその手の話が聞こえてなくなったのだ。
(つまり…香那巳や聖樹のように霊術会からの依頼で動いてるフリーの霊術師もいるから…って事か)
報酬をネタにフリーで動ける霊術師がいるから解決力が上がってる。
そう予想する。
(うーん。そもそも需要がなくなっただけかな?僕のサイトが…)
カタカタいってたタイプ音がピタッと止まる。
護はその様子に気づき琉嬉の方を見る。
「ん?どったの?」
少し不思議そうに琉嬉の方へ移動してみる。
「あ、いや、自分のサイトを閉鎖して新しいのにしようかな、と」
「へぇ。そりゃまたなんで?」
「せっかく「ふかしぎ部」なんて作ったんだから、それにあわせたものを作ろうかなっと」
「へぇ。………え?」
「うむ。そうしよう。よしゃー。やる気出てきたぞー、と!」
早速止まってた手が動き出し激しくタイプ音もまた復活した。
「…琉嬉ちゃん、テスト勉強は?」
猛烈な勢いでパソコンを操作する琉嬉。
その異様な光景をみたたまたまやってきた後輩の莉音と麗未亞。
怯えるような表情をしている。
「…ちょいちょい。琉嬉ちゃん」
護が琉嬉の肩をぽんぽん叩いて呼ぶ。
「んあ?なんだい?」
少し面倒そうな顔をして振り向く。
「莉音ちゃんと麗未亞ちゃんが来たよ」
「お、なんだ。おとなしい組じゃん」
「……」
おとなしい者同士、気が合うのか最近は仲良く行動してるらしい。
勿論、悠飛達とも行動はしてるのだが。
「今日は特別な事ないよ?どーしたの?」
「あ、あ、その…」
「?」
相変らず麗未亞はオドオドしている。
見てて可愛らしいがそれが逆の少しイラっともくる。
「麗未亞。言いたい事があるのならハッキリするんだ」
ずいっと、ない胸を張って先輩面をふかす琉嬉。
でも小さい麗未亞よりさらに小さいので先輩に見えないが。
(しかしまあ…今までこんなんでよく生活してこれたな…。いじめられたりしなかったのか?)
チラッと、莉音の方を見る。
(莉音は……、うるさい紫音がいたからな…寄り付くような人間はあまりいなかったんだよな…)
なぜかしみじみと思う琉嬉だった。
「で。何?」
改めて琉嬉が問う。
無言で麗未亞が差し出したもの。
USBフラッシュメモリ。
「これは…?」
「……あの、友達から借りたんですけど…映像が入ってます…」
「映像?」
「……見てもらえば…分かります」
「エロいのとかじゃないだろうね」
「ち、違いますっ!」
慌てめいて否定する。
「琉嬉姉、変な事言わないで」
莉音も顔を赤くしながら言う。
「ふむ」
早速使用してたノートパソコンにUSBメモリを差し込む。
出てきたのは麗未亞が言ってた通り、映像ファイルである。
サイズはギガバイトを超えているそれなりの長時間ファイル。
そして躊躇なくファイルを再生する。
「……特に何も感じないけど?」
「琉嬉姉、これの15分過ぎくらいを見て」
莉音の言われるがまま、15分程度くらいに進める。
映像の内容はこれといったことのないホームビデオのようである。
麗未亞のクラスメイトが最近撮った映像のようである。
複数人の女子生徒らしき若い人物が映っている。
「よーく見てて琉嬉姉。琉嬉姉ならすぐ分かると思うよ」
「ふむ…」
琉嬉はすぐ気づいた。
ピリッと、霊気的なのも感じたのもあるが、自分の眼ですぐ解かるほどの不可解なモノが映りこんでたこと。
一人の女子の背に「明らかに」他の人物と違う顔が映っている。
黒い影のようにはっきりと映ってないが、人の顔だと分かる。
「これ、いわゆる心霊映像ってヤツ?これがどうかした?」
別段何かが映ってるという映像は珍しくはない。
「…この動画に映ってる子が…失踪して、行方不明らしくって…」
「……ふむ。よくある話だね。で?」
「ふかしぎ部なら解決出来るかな…と思って、借りてきたんです…。でも私の力じゃあ…」
琉嬉はピンッと感づいた。
麗未亞は半ば強引とはいえ、ふかしぎ部に入部したからには何か行動しようとしての事だ。
おとなしい麗未亞なりに頑張った行動。
「…映ってるのは女の顔のように見えるけど」
麗未亞は無言でコクンと頷く。
「琉嬉姉、これって…やっぱり幽霊?」
「んー。断定は出来ないけど幽霊じゃないかね。ただ、映像だけじゃなんとも言えないけど」
じっくり見入る琉嬉。
「心霊のスペシャリストでも映像のスペシャリストじゃないからさ、加工された物とか言われてもよく分からないし」
霊的な物であればすぐ分かる。
でも映像自体に何か加えていれば正直分からない。
そもそもいっぱしの高校生に映像を加工する技術がそんなに高いとも思えない。
とにかくじっくり見る必要性があると考える。
「これ他にも映ってる箇所ある?」
「…分からないです。もしかしたら…あるかも…」
「ふぅーむ。しゃーない。倍速にして見てみよう」
と言っても、時間も限られているので映像を早めに送る事にした。
こうして、しばらくの時間一通りの動画を見た琉嬉達。
だがこれといったモノは映ってはなかった。
「映ってるのはここの部分だけだよね?これ」
ちゃっかり護も一緒になって見てた。
「そだね。この映ってる顔を背にしてる子が行方不明…ねぇ。それいつから?」
「……先週くらいからです…。違う学校の子なんですけど…。友人の友人…です」
「ふむ。麗未亞は面識ないの?」
「ほとんどないです。でも…友達として……心配で…」
いつも泣きそうな顔しているのがさらに泣きそうな顔になる。
「ね、可哀相でしょ?琉嬉姉…どうにかしようよ」
「…珍しく紫音じゃなくて莉音がこう、行動起こすなんてよっぽどなんだね。あ、いや…もしかしてお前紫音か?」
「そんなわけないでしょっ!」
ぺしっ、と琉嬉の頭を軽くツッコミたたきを入れる。
「…まずは行方不明になった経緯を調べないとね。もしかしたら唯子先輩みたいな力だったら厄介だし」
「あら、失礼ね」
「おわっ、いたのか先輩」
「ずっと居たわよ。まったく…、本物の幽霊がここにいるってのにそんな本当かどうか分からない動画で…」
なんの嫉妬か分からないが、しばらくブツブツ言う唯子。
「どうにか……なりますか…?」
心配そうに言う麗未亞。
「ま、ね。行方不明になってるってコトはぁ、警察に届けてるはずだから…まずは警察からの情報を頂戴いたしましょ」
警察。
そう。
こういうのはまず手始めに琉嬉のお得意先。
沢村刑事との連絡だ。
「…電話出てくれるかな~、その行方不明になってる子の名前教えて」
「ああ、そうですね…。……」
行方不明になってる人物の名は赤坂有美。
麗未亞の別の学校の友人の友人…だという。
ちなみに麗未亞の友人の名は三笠。
麗未亞自身はその赤坂とは特別面識はない。
「……琉嬉先輩って…凄い繋がりありますね…」
「なんだかんだでコミュニティ強いのよね。琉嬉ちゃんって」
護も不思議がる琉嬉のコミュニティの広さ。
琉嬉の知り合いは幅広い。
それもお寺経由での知り合いや、沢村刑事のように警察関連。
裏ルートの人間、妖怪の知り合い等々。
一番お世話になってるのは沢村刑事なのだが。
護らが少し世間話していると琉嬉の電話する声が途絶えた。
通話が終わったのだろう。
「で、どうだったの?」
「…現段階は警察でも行方わからないって」
「ふぅむ。しかしまあ、こうも警察側から情報を気前よくくれるよね。大丈夫なの沢村刑事?」
「さあ、いいんじゃない?あの人はあの人でけっこうメチャクチャなタイプだけどね」
「……へぇ…?そうなの」
普段サングラス姿でおちゃらけた姿を沢村を思い出す護。
「詳しくは知らないけどねぇ…。いろいろ無茶するからこっちの田舎の方に飛ばされたらしいけどね…。本人談だけど」
「へぇー…。ま、まあ…見た目からにして刑事とは思えないけどさ」
自分以上に無茶してる人物がいる…と認識する護だった。
「さぁて、今日はもう遅いし、帰ろう」
「へーい」
部長の琉嬉が言うのだから今日の部活が終わりなのだろう。
結局この日は進展があまりないまま終える事になる。
「ま、勉強もしないといけないしね」
「ああ、テスト期間でしたっけ…」
後輩二人組みはもしかして忘れてたのか…。
わりと大変な時期にこんな妙なものを持ってくる。
早く解決して欲しいのもあったのだが。
「あの…琉嬉先輩…お願いします」
ペコリと深々と頭を下げる。
「…わかってるよ。でも麗未亞。お前も一緒に手伝ってもらうからね。僕だけじゃ情報捕らえきれないし」
「は、はい…」
外は真っ赤な夕焼け。
カラスの鳴き声もする。
外での部活をしている生徒が後片付けしている様子が見える。
「んなこと言っちゃって~、琉嬉ちゃん今にも行動しそうだネ」
「……下調べは必要です…ってね」
「ふぅむ。私も手伝ってあげようか?」
「…場合によっちゃ…ね」
二人はすぐに行動を起こした。
被害者だと思われる人物、赤坂が通う学校の校門付近へやってきた。
すっかり夜になってしまっている。
静まり返った住宅街。
テスト勉強そっちのけでやって来てしまった。
「ふああ…眠くなってきちゃったね。勉強疲れかな?」
「嘘言うな」
「で、何か解かる?」
「んー。学校に来たからって解かる訳じゃないけど…ね」
何か手がかりがないか、とりあえず学校へやってくる…が、少々来るのに時間が遅すぎたようだ。
時刻は夜の8時半を過ぎている。
残ってる生徒はいるかもしれないが。
「来るのが遅すぎたかもね」
「…警察の介入も少しはあるはずだから…難しいかな」
腕を組み、その場で何かを考える仕草をする琉嬉。
護はその隙に携帯を取り出し流行のアプリゲームを起動させ出す。
なんて緊張感がない。
「生徒がいないのなら直接教師に聞くとしますかね」
「…へ、マジで?」
堂々と学校の敷地内へ入っていく琉嬉だった。
あっさり、案外、楽に話が聞けた。
とある教師によると噂段階であるが、失踪する数日前から赤坂自身に不審な動きがあったという。
やたらと怯えるような行動。
何かをみてるかのようなうわのそら状態に度々なっていたという。
しかしそれ以上の話は聞けなかった。
「しっかしまあ、よく聞けたよね」
「普通は面倒事だと思って通してくれないもんだけどねぇ。ま、友達だって言ったらすんなり通してくれたけど」
「…いいのかそれで…」
意外とザルだった。
「……後日にでも麗未亞のその友人に会って詳しい話聞かないとさすがに僕等も手は打てないな。今日はおとなしく帰ろう」
「うーん。そうね」
あっさりと身を引く。
これ以上無茶したら余計に動けなくなってしまうかもしれない。
なので学校側の方へこれ以上他校の生徒である琉嬉らが関わるのは危険だ。
「勉強しないといけないし」
「…そ、そうね…」
嫌そうな顔する護。
でも納得するしかない。
この日は琉嬉の言うとおりにおとなしく帰る事にしたのだった。
翌日の放課後。
「ちゅー事で、麗未亞くん。君の友人と会わせたまえ。じゃないと話が進まない」
「は、はぁ…。そう…ですよね」
ともかく、今は手がかりが無すぎる。
まずは赤坂の友人で麗未亞の友人でもある三笠に会ってから、手がかりを掴む作戦。
思い切って家に行って親に会うのもありかもしれない…と、琉嬉は考えたが、うまくいくかどうか怪しい。
「なになに?楽しいことでもしようとしてるの?」
いつものようにみゆが首を突っ込みかける。
テストも終わり一気に部室はにぎやかになっていた。
「まぁーった、変な事件に巻き込まれたん?」
「巻き込まれたんじゃなくって、巻き込んできたのは麗未亞の方」
「へぇ」
琉嬉がそう言うと、みんなの視線が麗未亞の方へ向く。
「あ、いや……そんなつもりじゃ…」
「なぁに。解かってるよ。麗未亞がそんな子じゃないってのは」
ぽんぽんっと軽く頭を叩く護。
「芹澤先輩…」
なぜか軽く涙ぐむ麗未亞。
「おいおい、なんで泣くの~?しかしまあ……麗未亞ちゃん…」
「はい…?」
「可愛いなぁ」
ほっこり顔になる護。
そんなやり取りを無視するかのように琉嬉が前にずいっと出る。
「まぁ、まずはこれを見てくれれば分かるよ」
琉嬉がパソコンに取り込んだ映像を再生する。
先日麗未亞が持ってきた心霊映像だ。
「ほほーん、これっていわゆる心霊映像ってやつですね」
「…僕等みたいな仕事してれば別段珍しいことでもないだろ」
霊的現象に関わる事をしていれば映像なんぞ珍しくもない。
珍しくない、それはたしかにある。
とはいえ、見ず知らずの他人が映っているのに映りこんだ不可解な物は、別な次元で不気味さがあるのもたしかだ。
「……で、どーするの?琉嬉ちゃん?」
「…麗未亞がさっそく友人との連絡をやり取りしてるから、まずは親しい人物から詳しい話を聞くことが先決だね」
「そういって、昨日フライング気味だったくせにー、いだだだだっ!」
「?」
護が急に痛がる。
琉嬉が無言で護のお尻をつねっていた。
「しかしまあ……なんだな…」
しかめっ面をしながら悠飛がボソっと喋る。
「なんか感づいた事でもあるの?」
「いや……なんだろう…この違和感…というより…」
「違和感というより?」
「前も似たような事もあったような…」
「前も…?」
前も似たような事…。
悠飛が以前あった事件。
同級生や隆治が霊的事件に巻き込まれた事。
「もしや…悠飛?」
琉嬉が悠飛を顔を見る。
「いや、断定は出来ないけど…」
「だよねー」
どこかしら、以前の事件と同じような雰囲気、状況を感じ取った悠飛。
思い過ごしかと思いそれ以上は何を言わずに黙り込むのだった。
悠飛らが巻き込まれた事件。
それは普通の人間にも扱える霊具の存在。
それ絡み?
いや、それにしてもそう断定するのは悠飛が言うとおりまだ早い。
「ふむふむ。これはもう少し解析が必要だぬー。」
ひょいっとUSBメモリを取り上げた手。
その手の主はみゆだった。
「…みゆ?」
「ちょいとデータコピーしてお家に帰ってもちょっとだけ解析するよ~。明日にでも解かると思いますよん」
と、楽しそうに笑顔で言う。
何か裏でもありそうだ。
「そんな技術あるの?」
「なぁに、港咲家をなめちゃぁいけませんですぜ」
「…何キャラだよそれ…」
翌日の授業が全て終わり、さっそく琉嬉達は行動に出る。
琉嬉は一旦部室へ向かう。
一応鍵は自分も持って管理している。
でも戸に手をかけると鍵が開いていた。
一番乗りかと思いきや、最初に部室に居たのは珍しくまどかだった。
「まどか、早いな。生徒会は?」
「今日はお休みです。たまには部活に顔出さないと…ですね」
ニコッと微笑む。
それがまた琉嬉が悔しくなるほど可愛らしい。
「むぅ、まあいい。これから麗未亞と合流して例の映像の問題の核心に向かおうと思うよ」
「そうですかぁ。私はどうしましょうか」
「…そーだな。まどかは基本的にはドッシリと我々の陣地に構えて居てもらおうかな」
「あら、そうですか?」
「僕らはいわゆる先発部隊。まどかは指揮を執る将軍みたいな存在。でオッケー?」
「…やれやれ、琉嬉さんったら」
ゆっくりと琉嬉と対面になるように椅子に座る。
三つ編みにしている髪を胸元に持ってくる。
「たしかに、私はリーダー的に動いてはいますけど、実質の頭は琉嬉さんですよ?」
「そう?」
本人はあまり自覚ないようだ。
「うふふ。まあ、表向きのリーダーは私が努めます。
琉嬉さんは「裏ボス」としていて下さい。一番先頭で動いてる琉嬉さんが本当はリーダー。
なんか、楽しそうですね。悪の組織っぽくないですか?うふふふ」
「…?そ、そう?悪い事はしてるつもりないんですけどね…まあいいや」
おもむろに琉嬉は立ち上がる。
そして琉嬉は低い背を一所懸命伸ばしながら高い所にある資料に取り出す。
「あ、私が取りますよ」
琉嬉の頭の上から伸びた手。
すぐに誰だか分かった。
わざわざ近づいてこんな事するのは寧音だと。
「寧音。近くない?」
琉嬉の丁度後ろから抱きしめれるくらい、近い。
「いえいえ、気のせいです」
「…まったく…」
「それ、なんです?」
琉嬉が取り出した資料。
「これ?僕じいちゃんの家のお寺にあった資料をコピーしてこっちに持ってきたの」
「へぇ…」
バササッと、クリアファイルからいっぺんに資料を広げる。
お寺のものだからさぞや古い文献などで手書きなのかなと思いきや…。
「…綺麗にワードで綴れられてますね」
「そうね~。お寺の若い集にパソコンで作らせたみたいだよ」
「……現代的ですねぇ」
まとめられた資料の中身。
霊に関しての内容。
どういった状況で霊が発生するのか。
事細かにまとめられているようだ。
お寺にて対応した状況が細かにまとめられている。
「コレの他に、データ化されたのまとめてるのもあるんだけどね」
「え?そうなんですか?」
琉嬉の手元にあるUSB。
「そちらの方が楽なのでは?」
「パソコンの方は寧音、よろしく」
ポイッと寧音に投げ渡す。
「ラジャー!」
準備万端の寧音。
持ち込んだパソコンに差した途端、手慣れた手つきで動かしていく。
しかも琉嬉のでなく、自分のパソコンのようだ。
いつの間にか持ち込んでいた。
パソコンのモニターをこっそりと後ろから見るまどか。
「……現代人って感じしますねぇ」
「…何言ってんだ?まどか?」
後から来た龍翔。
まどかの発言に少し呆れた様子だった。
「今回の事例に当てはまりそうなのあります?」
「…現代社会の心霊現象ねぇ…」
しばらく資料に目を通す。
「なんか分かります?」
琉嬉の背後から顔を覗き込むまどか。
何やら小難しい言葉が並んでいる。
無論、まどかは家系的にも似たようなものなのでどういう事が書いてるのかはなんとなく解かる。
「そこから何かヒントになるものでも?」
「…あればいいなあ…ってね。ふむー。お?」
何かに気づく。
「ほほぅ……そういう事かもね」
「およ?いいのありました?」
「もち」
オーケーサインを出す琉嬉。
「んむむむ…これは…」
みゆが人目気にせず、こちらも自前のノートパソコンで動画を再生してみていた。
しかも電車の中で。
「ぴりぴり感じますぞ~」
独り言が激しい。
他の乗客は見て見ぬふり。
可愛らしい女子校生がブツブツと一人で喋りながらパソコンを使用している。
怖い光景だ。
「……はぁー。今日もお家での仕事なければ琉嬉先輩達と行けたのになぁ…」
肩を落とす。
何やら家での用事があるようだ。
鞍光周辺でも1、2を争うくらいの財閥。
いろいろと大変らしい。
そこの跡取り娘となると段々面倒事が入り込んでくるようである。
「さてさて、夜中にじっくり観察しましょうかね…にひひひ」
不気味な笑みを浮かべる。
麗未亞は悠飛らと一緒に麗未亞の友人のもとへ向かっていた。
待ち合わせ場所を決め、後から琉嬉らと合流するためだ。
「あ、三笠さん」
麗未亞が友人を見つける。
「…あ、成田河さん…」
三笠側も麗未亞に気づく。
だがその言葉は力弱い。
「……この人達は…?」
悠飛らの存在にも気づく。
一見すればなんとも統一感のない人物達。
同じ顔同じ髪型の双子姉妹らしき者達に背が高めのショートカットの女子生徒。
そして何の変哲もない眼鏡の男子高校生。
「あ、私達の同級生で同じ部活の…」
「彼方紫音だよ!よろしく!」
「…同じく莉音です…」
「…この双子のいとこの彼方悠飛です」
「今井隆治…です」
「はぁ…」
紫音以外の挨拶がやけに暗め。
とはいえ、突然の大人数に少し困惑する三笠。
「ごめんね、三笠さん。突然で…」
「いや、それはいいけど…」
「この方達は力強い味方だから、きっと解決するよ」
「…う、うん…」
「そうそう!後で琉嬉姉も来るから!あたしらがいれば全て問題解決っ!」
「はぁ…」
勢いだけがある紫音の言葉。
「紫音はちょっと黙ってて」
紫音を遮るように悠飛は早速本題へ入る。
「いきなりで悪いけど、あなたの、友人の事で…ね。いい?」
「は、はい。いいけど…」
ある程度の話は行き届いてるようだ。
麗未亞が予め伝えておいたのかもしれない。
「ここでもなんだから近くの喫茶店とかで」
「そうですね…」
どこか場所を変えて話を聞こうというスタンスだ。
(何か古いナンパみたい…)
と、こっそり思ってた莉音だった。
「さぁて、悠飛からメールきたし、僕らも行こうかね」
スマホの画面を確認し終えて、ポケットにしまう。
「…面白そうですね、私も一緒に行ってみていいですか?」
「面白そうって…まぁ断る義理もないし。ついさっきまでどっしり構えててって言ってたんだけどな…。一緒に行く?」
「はい。是非」
にこやか笑顔になるまどか。
「あー、ずるいですー」
「寧音はお留守番」
「えー」
ちょっとわざとらしい声。
と言いつつパソコンの画面を見たまま。
「あと龍翔君も」
「オレもか」
珍しく残念そうな顔をする。
「最小限の人数で行動する。二人が望ましいかな」
利にかなっていると言えば言える。
大人数でゾロゾロ行動するのも目立つし動きづらい。
「ここは私達に任せておいでください」
笑顔を緩めないで言う。
「まどかさんがそう言うなら」
少し不服そうだが、寧音はおとなしく留守番する事にした。
「……そういや、まどかと二人っきりの行動ってないよね」
「そうですね。これを機会にどうですか?」
「よっしゃ、行こっ」
そう言って二人はすぐ行動を開始した。
あっという間に部室を出て行く。
「はやっ…」
なんの躊躇なく琉嬉とまどかの二人は部室を出て行った。
もしかして戻ってくるつもりなのか、二人は鞄など自分の私物を置いたままだ。
「…ああいうのせっかちて言うんですよ、龍翔様」
「だなー」
久々に出て来た遊希。
やれやれといった表情をする龍翔。
その龍翔はパソコンをいじる寧音の方を見る。
「ふふふ、でも私に任されたって事ですよね…これ」
資料や映像をそのまま。
寧音はパソコンを睨んだまま気味の悪い笑いを浮かべていた。
校舎から出て行く二人を偶然廊下の窓からみつけた叉羅沙。
「あらあ、珍しい。あの二人が一緒に」
たまたま部室へ向かう途中だったのだが、二人は居ない事は確実になった。
「でもあの二人がいないとなると部室…誰かおるんかな?」
ちょっとした疑問。
一応向かう。
そのつもりだった。
「あらまあ。楽しそうな事してますねえ?」
急に自分に似たような喋り方をする女子の声が聞こえる。
いつの間にか隣にいた眼鏡の女子生徒。
「…えと、最近入部した前崎さん、やったけ?」
丁度琉嬉らと入れ替わるように部室に向う最中。
その途中に叉羅沙は香那巳と出会った。
「城樹さんは一緒に行かないんですかー?」
「タイミング悪くってなぁ。前崎さんも行きたかったん?」
「そーですねぇ。せっかくふかしぎ部入ったんですから」
「そかー」
「城樹先輩の喋り方も関西系ですね。出身はどこですかー?」
お互いに関西地方の訛りが見られる。
変な仲間意識なのだろうか。
と、そう叉羅沙は思いながらも答える。
「生まれは京都やな。一応ね。でも今は京都弁崩れやけどな」
「あは、そうなんですかぁ。ウチは大阪ですー。お互い関西出身でよろしくですね」
「うん?まあ、そやな」
同じ関西訛りでもなんとなく違う。
自分以外で同じような喋りする人物に会うのは久々だ。
「せっかくやし、ウチも一緒に連れてってもらおうかなー」
「琉嬉ちゃんらと?」
「そうですねぇ」
うすら笑い。
「…なんか企んでおまへん?」
「いえいえ、そないな事ないですよー」
「ホンマに?」
「ええ、そうです」
「そっかー。気ぃつけてな、まどかはともかく琉嬉ちゃんは気難しい子やから」
「はぁい。ほな、先輩。またー」
「ほいほい」
軽く手を振る。
元気よく返事して部室とは違う方向へ向かった。
本当に追いかける気だ。
(くえなさそうな子やねえ…)
何かの意志が見え見え。
でもそんな行動はまだしてない。
なんとももどかしい存在の後輩。
(…一応部室に顔出すか……)
叉羅沙は取り敢えず部室へ歩みを続けた。
「すみませーん、遅くなりました~、って、あれ?お二人だけですか?」
叉羅沙より前。
みゆが先に到着していた。
「二人じゃありません。四人です」
寧音がチッチッと人差し指を振りながら訂正する。
「遊希さんと、唯子先輩がいます」
ひょいっと、ぬいぐるみを机に置く。
「あのねえ…」
勝手に動かされて唯子がちょっと嫌そうにする。
遊希も姿はない。
が、龍翔もちょっと呆れたような顔している。
その空気のへんてこさにさすがにみゆも、
(あー、寧音先輩って、空気の読めなさはふかしぎ部首位争いするよねぇ…)
と、感じた。
「で、寧音先輩は何してるんです?」
「ええと、琉嬉さんに頼まれて現代心霊現象をまとめたものを確認してたんですが…」
「ほへぇ、そうなんですね。私もなんとか解析したんですけど…肝心の先輩いないし」
「でも今はスマホという現代機器がありますから。その結果を琉嬉さんに送ればいいんですよ」
寧音の眼鏡がキラッと光った。(ように見えた)
「何か分かったのか?」
「ええ。見てくださいな~」
早速みゆがUSBを取り出して、パソコンに接続して確認する。
「琉嬉先輩が言ってたんですけどね。鞍光周辺、そして麗未亞ちゃんの友達の…なんだっけ」
「三笠さん?」
「そそ、その三笠さん。その三笠さん周辺の学校の女子生徒の顔を全部調べて、解析したんですよ」
「…どこでそんな調べ方を…」
「ふふっ、港咲家をなめちゃあ、いけませんぜ」
両手に腰を当てて威張るポーズ。
無駄に会話の中での動きが激しい。
落ち着かないのがみゆらしいといえばみゆらしい。
「誰だか分かったんですか?」
「もちのろんですよっ」
次はビシッと親指を立てる。
(動きがウザイ…)
唯子はぬいぐるみ姿のまま、敢えて外に出さないようにツッコミを入れていた。
「私の方もまとめましたよ」
寧音が新たに作ったテキスト。
そこにまとめられた事件。
一応彼方家でまとめられた怪奇事件の中で似たものを集めたようだ。
「ほほうー。さすが彼方家ですなぁ」
「面白いですね。本職といいますか…夜栄守家とは違いますね」
「夜栄守の人おお祓いしてるんじゃないですか?」
「退治するというより守ってる…と言った方が正しいかもしれませんね」
「へー」
同じ五大家。
でもやってる事は違うらしい。
「それに…私の父親が神社の息子でして元々は神社の…と、それは置いといて、
……これに、ふかしぎ部としての事件を照らし合わせて…っと」
出てきた事件。
「いつの間にまとめたんや?それ…」
叉羅沙が自分の言葉のようにいつの間にかいた。
「いたのか…叉羅沙。でっかいのにいつも気配なくして入ってくるよな」
「んま、なんて失礼な龍翔君」
「暗殺者出来るぜ、お前さんなら」
「はは、考慮しときますわー」
カタカタッとみゆに激しいタイプ音。
それがピタッと止まる。
「フフフー。これですよ、これ」
「なんですか?この方は…?」
「琉嬉先輩が調べて欲しい…て言ってたんで」
どこからか入手した、生徒画像。
なぜこのようなものが港咲家にあるのか不明。
「この人がどうやらキーかも…って」
「そうなのか?」
「ええ。あくまでも予測らしいですけど、ネ」
「それを確定させるために、調べに言った…と?」
ふーっと大きくため息つきながら腕を組む龍翔。
「余計なオプションもついて行ったけどな」
叉羅沙も大きいため息と共に言う。
「オプション?」
変な遠回しの言い方にみんな疑問符を付ける。
「こらまた失礼やかもな~」
「?」
「?」
「叉羅沙さん、言ってる事がよく分からないんですが…」
「気にせんといてええよ」
「くしょっ。むむむ…。まだまだ寒いなぁ。欲張って短いスカートなんかしなきゃよかったわあ」
豪快にくしゃみする香那巳。
「…結局追いつけんかったわ…さて、どうしよ」
琉嬉達に追いつこうと思ったが、やはりタイミングが遅く電車一本乗り逃がした。
それに琉嬉との連絡先を交換してなく、連絡出来ず。
おかげでどこへ向かったのか分からずじまい。
「…しゃあないなぁ。ここは紫音ちゃんに連絡しとこ」
まだ全容がまったく見えてこないこの事件。
辿り着くまで時間がかかってしまった。
だが被害者に近しい人物との接触のおかげと何かに気づいた琉嬉。
すぐに事件の間近に着けるかもしれない。
そんな期待がようやくみんなの心の中で生まれたのだった。




