#66 滅びし炭鉱の都市
連休。
大型連休。
また長い休みがやって来た。
いわゆる、ゴールデンウィークというやつである。
世間はすっかり連休に心奪われている時期。
長い人で10日間くらい休みになる人もいる。
それは平日でも休日を取る人もいるからだ。
それが出来ない学生達や、まったく休みじゃないサービス産業の人達もいる。
その連休の初日。
琉嬉とみゆの二人。
なぜか二人は誰も近寄らないような廃墟に来ていた。
「なあ、なんで僕達はこんな所に居るんだ?」
「さて、なぜでしょうかね?」
ぺろっと舌を出すみゆ。
目の前には大型の廃墟。
マンションだろうか?
それはそれは大きな建物だ。
木々に囲まれているし、全ての窓に板張りがされている…が、下の階の方になると破られてるのも多い。
琉嬉は廃墟にはそれほど興味はないが、なんとなく気がそちらに向く。
今は誰も住んでいない。
人の生活していた跡という、まるで別空間のような雰囲気は変に意識をする。
好き好んで行く訳ではない……が、なぜか行く機会が多い。
(それもこれも、コイツが元凶だけどな…)
チラっとみゆの顔を見る。
「…参ったね~。琉嬉先輩、どうします?」
「どうします?じゃねえっつーの。せっかくいい温泉に連れてくれるっていうから…」
ブクツサ文句を言う琉嬉。
すっかり不機嫌顔だ。
普段表情をあまり変えないだけにこの時はさすがに嫌な顔している。
「んー。こんな所に温泉があるとは思えませんよね?さすがに…」
スマホを取り出して地図を出して確認を取る。
その画面に映る地図には現在地が表記されている…が、地名などが書かれていない。
「しっかりしてくれ……、あのメイドさんは何処行ったの?」
「正木さんの事ですか?さぁ………。さっぱりですね?」
お手上げポーズを取るみゆ。
専属の正木さん運転の元、近くの温泉施設があると思われる場所までやってきたのだ。
だが、みゆの廃墟好きが発動したため途中で見かけた廃墟に急遽突撃する事にになった。
琉嬉も渋々付き合う事に。
連れて貰っているので大きく文句も言えない。
それが仇となった。
「ココドコ?」
イラつきながら琉嬉が下に落ちてる枝を蹴っ飛ばす。
「…んむむむ………。やっぱり無理ですね。
ケータイも電波繋がりません。
おかしいなぁ…?」
「…電波が繋がらない程の山奥か…?ここ?」
「ですよね…」
言われてみれば、街中からそう遠くない所。
一応の地図上の距離で見たらそんなに離れていはいない…筈なのだが。
琉嬉も地図の本を眺めているが、首を傾げるばっかり。
「これってやっぱりさ…」
琉嬉が口を開いた瞬間。
みゆは琉嬉の口元に人差し指を持ってくる。
「先輩、言わなくても解かってます。うん。解かってますよ」
にっこりとした笑顔で琉嬉の喋りを止める。
「……ふぅん」
納得する琉嬉。
「つまり、「何者」かのせいだよね?これ」
「そうとも言えますよね~」
取り敢えずその辺を歩き回る。
でも手がかりになるような物はない。
「歩いて進む?」
「二人だけならいいんですけど、正木さんが心配ですよ~」
変な手振り身振りで言う。
心配してるのは分かるが動きがヘンテコ過ぎて本当に心配してるのか不明になってくる。
でもこの変な言動がみゆだというのを認識させられる。
「はぁー。せっかくのゴールデンウィークだっていうのに…まだ初日なのに…困ったなあ」
ちょこんとみゆが近くの道路脇になる大きな石に腰を下ろす。
「…ループしてるねこれ」
琉嬉が何かに気づいた。
しばらく歩いてた筈なのに見覚えのある建物が見えて来たからだ。
「さっきのマンションの廃墟ですね」
「ねえ、この辺って集落みたいなのあったの?」
詳しくは知らない。
来た事もない土地だ。
少し見回すが周りは山々。
茂り始めて来た草木。
でも不思議と野鳥の声は聞こえない。
「この際ハッキリ言うけど……これってさ、何処かの結界か幻術なのか知らないけど別空間に入ったよねこれ?」
琉嬉が事実を述べる。
「あー、そうとも言えますよね~。さっすが琉嬉たん先輩~」
「誰が琉嬉たんだこら」
べしっとみゆの脳天をチョップする。
回っても回っても同じ所に辿り着く。
「どうしてこう…巻き込まれるんだろうね。
これはなんだ?探偵物の主人公みたいに殺人事件ばっかり巻き込まれるのと同じくらいの確率じゃね?」
「まあまあ…落ち着いて下さいよ先輩…」
なだめるみゆ。
「……分かってるよ。自分でも。
なまじ霊力高いとこういうのに引き込まれるんだよね…。お前もそうだろ?」
「そうですけど」
「僕は!温泉に入りたかったの!みゆが余計な行動出なきゃ良かったんだよ!」
激昂する琉嬉。
「それは謝りますから、ごめんなさい先輩~(こわっ…)」
本気で謝るみゆ。
「このとーりです!」
土下座までする。
本気で怖いようだ。
「しゃーないか…この巻き込まれ体質はどうしようもないもんね」
一気にヒートダウンする。
気性のアップダウンの激しさに戸惑うみゆ。
(扱いにくいこの人……)
いつも能天気なみゆもさすがに琉嬉の気持ちの変わりように扱いにくさを感じて来た。
「すっげー嫌な予感するけど……どう?」
「どうって…思ってもー。先輩こそなぜ敢えて言わないようにしてません?」
「…………」
無言。
その間1分。
みゆですらもその沈黙が辛く感じる。
「あ、あのー?琉嬉先輩?」
「はー。ねえ、やっぱさ、突破するしかないのかな?」
「あ、え?はい?」
「お前も気づいてるだろ?」
「…………」
コクンと、ゆっくり首を縦に無言で振る。
琉嬉の言葉。
みゆも術者なので勿論気づいてはいる。
「あーあ。僕らは閉じ込められたねこりゃ」
琉嬉が手を頭の後ろに組んで、伸びるように力入れる。
体を伸ばしてそのまま準備運動みたいな動きをしだす。
「さて、この無限地獄を作り出してる元に向いますか」
首をポキポキと鳴らしながら歩き出す。
「うわー、いつになくやる気満々ですな~」
「誰のせいだ誰の」
二人が歩いて向かったのは大きい廃墟となったマンション。
向かうのはいいが、入口がどこか分からない。
草木が激しくて道がまるでない。
ない訳ではないが、かろうじて道があるといった状況だ。
「アスレチックするための恰好じゃないから辛いな」
「ほんとですねー」
みゆが肩掛けにしているバッグから懐中電灯を取り出す。
「…お前、そんな物普段から持ち歩いてるの?」
「いや~。まあ、そうですねー。いつ何時何があるか分からないじゃないですかぁ~」
「……備えあるのは感心するけど…、まあいいけどさ。僕も人の事言える義理じゃないし」
自ら引く琉嬉。
本当は女子高生としてどうなんだ?と言いたかったが、自分も同じようなもんだ、と感じたからだ。
「このマンションに何かあるんですかねー?」
「今のところ、何も感じないけどね。ただ、念が沢山残ってる」
「ですね」
二人が感じ取る念。
生きていた人間などが微量の霊力などを通してその場に留まらせる生霊みたいになったもの。
それを感じ取った人間が霊の類ものに勘違いして幽霊騒ぎになったりする。
「そもそもここ何?村でもあったの?」
「あー、ええっとですねぇ。ここは炭鉱跡地ですね。今から50年近く前に閉山になったんですよ。
有名ですよ?心霊スポットとしてね」
「ふむ……。父さんがなんか記事にしてた事あったかな…。廃炭鉱の怪奇!みたいなの」
「へー。琉嬉先輩のお父さんって雑誌記者でしたっけ?」
「フリーのライター兼お祓い屋?みたいなのやってるよ。稼ぎは祓い業の方がいいみたいだけどね」
「なるほどぉ」
世間話っぽいのを挟みつつ、奥へ進む。
ようやく見つけた入口。
そこまでの道のりが険しく、途中の木の枝をバキバキ折ったりしながら突き進んできた。
「琉嬉先輩アグレッシブ~」
「お前程じゃないけどな」
みゆも負けずに転がっていた今は懐かしいブラウン管テレビを蹴っ飛ばして避けたりしてた。
「てか、何も寄って来ませんね。霊達が」
「…多分、この髪飾りのおかげだと思う」
「ほぇ?そうなんですか?ほほぅー」
物珍しそうに今更ながら琉嬉の髪を止めている髪飾りの鈴を眺める。
「いいですね。私もこういう霊具調達しようかなー?これって結構高価なんですか?」
「さぁ?じいちゃんのお母さんがしてたものらしいけど」
「來魅ちゃんを封じた人?」
「それはじいちゃんのばあちゃん」
「あ、そっか」
「封印したのはお前のご先祖様もだろ?」
「そうでした~」
などと緊張感のかけらもまったくない会話をしながらマンションへ入る。
別に何かいるから…という話ではない。
霊らしきものが確認出来るが別に襲ってくる気配もないし、こちらに興味も示さない。
ましてや琉嬉の魔除けの鈴の髪飾りのおかげで低級の霊が寄り付かない。
霊ではなく…妖怪の仕業。
そういう線も考えられたが現状は全く把握出来てない。
「なんにもないねー」
「案外綺麗ですね。基本的にドア窓板張りされてるからですからね~?」
「…そーかもね」
「なーんもないな」
諦めた言葉が聞こえてくる。
琉嬉が奥の部屋から出てくる。
「そうですねー」
「まったく…お前と来るとろくな事ない。てか、前も炭鉱の所に来たよね?」
「えへへー。でもあっちはまだ街として機能してましたよね?」
「あ、そっか」
以前、みゆたってのお願いで炭鉱跡地に出向いた事がある。
あの時はみゆ自身の私情がもろもろ挟んでいたのだが。
今回は意図しない出来事でやってきてしまっている。
そうしてる間にもみゆは適度にチョロチョロする。
「何か探してんの?」
「いえ、こういう廃墟に来るとその当時の歴史みたいなのが分かるんですよ。
ホラ、50年前の新聞ですよ」
そう言って拾い上げるボロボロの新聞の切れ端。
物はあまり残ってないが、部屋によっては物が残ってたりする。
「おー。残ってるもんなんだな」
「ですね」
「…思ったんだけどさ。ここに限らないかもしれないけど、どうして離れてった人達って物を残して行ってるんだろうね」
いかに強力な術者でも所詮はまだ10代の若僧。
琉嬉らは先人達の考えなぞ、まだまだ理解はあまり出来ない。
「確証はないですけど、夜逃げとか…理由があって持って行く事が出来なかったとか…。
あとはそこにいた人が綺麗さっぱりと突然姿を消した…」
「つまり死んだって話?」
「そういうのもありますよ♪なんせ建物壊すのにもお金かかるし、管理者許可なく取り壊す訳にもいかないですからね」
「…面倒な話だね」
妙に詳しいみゆ。
「でもさぁ……。こんな都市部から離れた山中に人が沢山居たなんて考えられないよ。
たかだか50年で、こーんなに草とか木がボーボーになるもんなの?まだ寒いから葉っぱ全然ないけど」
「なるんですよ。人の手が入らないと」
人差し指を口元に持っていき、説得力ある言葉を放つ。
琉嬉は変に返す言葉もなく、黙って聞き入るだけだった。
琉嬉とみゆはマンションを後にして付近を別に探索をし始めた。
少し歩き回っても正木さんと車の姿はない。
完全に別空間に飛ばされたかのようになっている。
「大掛かりな幻術でしょうかね?」
「んんん~…」
普段しないような濁声で唸る。
可愛らしい声が台無しのような声だ。
「仮に幻術だとしても、普通なら僕らをもう仕留めにかかってくる筈だけどね」
「いやいや、日が暮れるのを待ってるのとか」
「あちゃー、時間経過はそのままなのか…」
スマホの時計を見るときちんと時間は経っているし、日もちゃんと傾いている。
午後の3時。
早くしないと温泉に辿り着けない。
「いっその事あの力を試すとか?」
軽々しく言うみゆ。
つまり、真霊気の事だ。
「最終手段。それは。だから原因となる物を先ずは探すのが先!」
「ええー、つれないなぁ琉嬉たん先輩わぁ」
「気持ち悪い喋り方すんな」
ズカズカと先へ進んで行ってしまう。
小柄の割には歩くのが早い。
「待ってくださぁい」
少し丘になった所を登る。
と言っても、別に全体を見回せる高さではない。
ちょっと奥行けば森中である。
無闇に進んでは何処に居るのか分からなくなってしまう。
「工場みたいなの見えるなぁ…」
木に登り、さらに高い所から見回す。
近くに居住する建物とは明らかに違う作り。
でも見た目でボロボロなのが把握出来るくらい朽ち果てている。
「あ、神社跡はっけーん」
「ん?」
気づくとみゆが近くの小屋らしき所に居た。
琉嬉も近寄ってみると、こちらも朽ち果てた社らしきものがある。
鳥居も残っている。
「廃神社?」
「いや…違う。ご神体、ないだろ?」
「ほへ?ご神体?」
「そ。ご神体」
みゆがそーっと小屋の中を覗いてみる。
と言っても扉が開いたまま。
簡単に中を拝める状態だ。
「やや、ありませんぞ!部長!」
「なんだよ突然部長って……」
なぜか敬礼ポーズ取るみゆ。
それを無視するかのように琉嬉も覗き込む。
社の中には何も残ってなかった。
「あれまー。ってことはぁ~、ここに祀られてた神様も一緒にどっか行っちゃったてことですかね?」
「だといいけどね」
注意深く琉嬉は社の中を見回す。
そして中に入って行く。
人が入れるくらいの大きい小屋だ。
「やっぱり何にもないですよね?」
みゆの言葉に耳を向けない琉嬉。
何か集中している。
「先輩?」
「みゆ。ちょっと外を気にしてて」
そう言って一番奥のひな壇になってる所へ向かう。
「へ?何ですか?急に~。たしかに霊らしきものはたまにいますけど害をなすようなのはいませんよ?」
「何かに見られてる気がする…そんだけだから」
「…はぁ…」
腑に落ちないみゆ。
こういう不思議少女状態になる琉嬉は何かと「気のせい」で済まされない。
みゆも重々承知だ。
(これって……なるほど)
琉嬉はひな壇をみて一人納得する。
「どうしたんですかぁ?」
「ここ……おそらくご神体があった場所」
「ほほぅ。で、それがどうかなさりましたかな?」
「…どっかのおっさんかその喋り方…。まあいいや。何か置いてあった…跡が残ってる」
「ふむ。そうですね。でも二つ跡が残ってますよ?」
丸型の跡が二つ残っている。
琉嬉は指でその跡をなぞる。
埃や砂やら枯葉が散乱している。
「…先輩っ。ズルいですよ。一人だけ」
ちょこん、とみゆも一緒になってその場に座りこんで一緒になって指でなぞる。
「お前…外気にしてろって言っただろ」
「私も覗きたいですー」
にっこりと可愛らし笑顔を見せる。
ほんわかするタレ目の目をより目尻を下げる。
「大した視えて来ないけどね」
「またまたー」
そう言いつつ二人して霊視に入る。
なんにもない神社跡。
中身は何もない社と虚しく残された鳥居が一基。
二人は社から出てくる。
「さーて、行きますか」
両手を腰に当てて、琉嬉はまた歩く準備をする。
「琉嬉先輩ー、どうします?」
「手当たり次第…って訳にもいかないね。時間が時間だし」
時計を見ると午後4時を回りそうだ。
急がないと益々面倒になる。
いくら日が長くなってきたとはいえ、まだまだ寒い。
夜になるとグッと冷えて来るし、何かと面倒だ。
「早く温泉に行きたいしね。汗を綺麗に流したいよ」
「それは賛成~」
ザザザッと草が風で揺れる音がする。
冷たい風が頬を突き抜けていく。
「ふーん………」
琉嬉が見つめる方向。
それはマンションでも神社跡でも工場みたいな建物でもない。
学校のような建物。
いや、学校だった建物。
校舎がなんとか形を保っている。
コンクリート建てなのだろうか?
頑丈そうな作りをしていて、大きな崩れはない様子だ。
「なんでまた、こう廃墟巡りツアーしてるんだろうかね…」
愚痴を漏らす琉嬉。
「いいじゃないですかぁ。いずれ来ようとは思ってたんですよぉ?」
「一人で行け」
「一人じゃ怖いじゃないですかー」
わざとらしい怖がり方をする。
「そんなタマじゃないだろ」
「タマはありませんっ」
「……よくこんな時に下ネタ言えるな…」
「明るさが取り柄ですから!」
威張るように言うみゆ。
その底抜けのなに陽気さに琉嬉は呆れ返る。
「はー。じゃ、副部長よろしく頼むよ」
「あいあい」
学校の入口に辿り着いたふかしぎ部部長と副部長の二人。
どうやらふかしぎ部活動として行動するようだ。
勿論、入口はどでかい板で封じられている。
中に入れそうな場所は無さそうである。
「せんぱーい、二階の窓入れそうですよーっっ」
遠くからみゆにでっかい声が聞こえてくる。
「いつの間に……やれやれだね」
意外に身軽さを見せる。
「どうやって登ったのさ…」
近くに木もなく、どうやって登ったのか不明。
「えへへー。人間ガンバレばなんでも出来ますっ」
フン、と胸を張る。
大きい胸が琉嬉にとってちょっと気にくわない。
「はいはい。良かったね。大きくて」
「はい?」
なんとか中に侵入する。
学校の中はかなり物が残っている。
荒らされた形跡はあまり無い。
人があまり入ってないようだ。
ただ、動物が時折入ってるのだろうか。
獣臭が少しする。
「やや臭いですな」
「……そうだね」
「あ、違いますよ?おならしたとかじゃなくって」
「分かってるよ」
琉嬉が御札を取り出して、霊気を込める。
「あちゃー。そういうコトですかい」
二人の目線の方向。
暗闇から異形な者が出てくる。
「げっげっげ…美味そうな奴が来たな。人間の子供か」
「子供言うな」
一目で分かる。
妖怪だ。
その姿はまるで犬のような狐のような。
とにかくイヌ科の生き物が人型をしてるのようだ。
「お前か?この区域は閉じ込めたのは?」
「なんの事か知らないが、久々の獲物だ。美味しく頂くとしようか…げっげっげ」
「会話になりませんね」
「………みゆ。やっちゃって」
「ちょっ、先輩はぁ?」
「こんなのに構ってられないや。図書室行ってくる」
「ああぁん。しょんなあ~」
足早にみゆを置いて先へ進む琉嬉。
「なんだ?仲間割れか?げっげっげっげ」
「うぬー………。琉嬉先輩も結構身勝手なんだからー」
お互い様…と自覚しながらも目の前の妖怪に集中する。
みゆも鞄の中から、短剣を取り出した。
「痛くしちゃやーよ?」
「痛みも感じさせない程度に喰ってやる」
「やれやれだ本当に…まだ外が明るいから助かってるけど…」
少しだけ漏れてる明かりを頼りに、図書室へやって来た琉嬉。
妖怪の相手をみゆに任せて、マイペース行動を取る。
(資料になるモノ…は……と)
ガサゴソ探す。
棚には本が残っている…が、びっしり詰まってる訳ではない。
やはりある程度持っていかれてるようである。
「あ、あった」
お目当てとなる本が出て来たようだ。
新聞の切り抜きなどをまとめた本。
「良く残ってたもんだね…どれどれ」
埃やらなにやらで激しく劣化している。
開く度に埃や砂みたいなものが舞う。
(マスクでもあれば良かったな…うえっぷ)
息を止めながら我慢して読んでいく。
(何々…。閉山決定。ふむふむ)
丁度椅子と机があるので、汚れを気にせずにドカッと座る。
読んでいくうちに解かってきた内容。
閉山決定してもある程度は人がまだ残ってた模様。
しかし次第に、早い歳月で人があっという間にいなくなっていった。
そう記述してある。
誰かが残した日記のような物も出てくる。
(…ここに居た人は、若くても60歳くらいか…。うちのじいちゃんくらいの年代か)
時の流れをしみじみと感じさせる。
琉嬉には念がいろいろ流れて来る。
人々の生活音。
坑道などのトンネルの風景。
そこを通るレールとトロッコ。
通り過ぎるバスの姿。
この本から沢山流れて来る。
(……炭鉱都市…か。かつては2万人近くの人が住んでいた…か。
僕達が住んでる地域でも1万人程。
それが閉山してから一気に人の姿がなくなり……妖怪が住み着いた?
それだとしても気配が無すぎる。
あの妖怪は昔から居る奴じゃないな)
ふと、振り返る。
チリン…と魔除けの鈴の音が鳴る。
「理解したよ。あんた達が僕らを呼んだんだね」
魔除けの鈴を掻い潜って現れた霊達。
作業服をまとった姿。
ヘルメット姿。
どうやら探鉱作業員達のようだ。
「言いたい事は分かってる。うん。だから、探しに来たんだよ。在り処を教えて」
琉嬉はゆっくりと椅子から立ち上がる。
そして指をくるくるっと回して、御札を操る仕草。
明るさが増す。
霊達はゆっくりと琉嬉を導くように歩き出した。
「こうやって人を呼んだけど…気づかれないか、恐れられたか…だろうね。
みゆさんや頑張っておくれ」
まるで他人事のようにして、霊の後を追った。
その頃、みゆの方。
(あ、コイツちょっと強いかも)
少し舐めてかかっていた。
犬型の妖怪は案外妖力が高い。
少しだけみゆは手こずっていた。
が、力の差は明らかだった。
「ぐげげ…貴様……何者だ…」
「まだ戦えるのー?私ちょっと疲れてきちゃったよ~」
「質問に答えろォー!」
「あひゃっ、怖い怖い…そっちこそなぁんで人があまり来ないようなところにいるのさー」
てんで会話が繋がらない。
みゆはちょっとだけイラついて、ちょっとだけ本気を出した。
持っている短剣を一旦投げ捨てて、数回ジャンプを繰り返す。
「ささ、ケリつけようよ!」
「ぬっ…?!」
そう言うとみゆは目にも止まらぬ動きで妖怪に接近する。
「うごっ?!」
素早い蹴りが妖怪の腹に命中する。
「終わらないッス」
すかさず連続で蹴り上げる。
ドドドッという鈍い音がする。
「ぐっげっごががっ」
「四重脚からのぉ~」
くるっと体を捻り回して、両手で掌底を妖怪の顎もとに命中させる。
「うげっ…」
フラつく妖怪。
止めと言わんばかりに、みゆは足元に落とした短剣の元に行き器用に足で空中に放り投げる。
空中に浮かした短剣を何か唱えた瞬間、短剣が光り出す。
「せいっ!」
すると短剣が空中に静止したかと思うと指先を妖怪に差すと同時に、短剣も飛んで行った。
「うぐぉっ!!!」
妖怪に胸元に見事に当たる。
強力な霊気が流れ込んでいるようで、苦しんでいる。
バチバチッと電線が切れたような音を立てて。
「ふー。上手くいったね~。どう?痛いかな?かな?」
みゆは笑顔。
が、その笑顔がとても怖く見える。
「なんなんだお前等は…」
倒れた妖怪の目の前にみゆがしゃがみ込む。
「ねえねえ、さっきの人間食べたって話ほんとー?」
「は、はぁ!?」
「ほんとかなぁって聞いてるの」
げしっと妖怪の顔を思いっきり蹴っ飛ばす。
「ぶげっ……。食ったとしたらどうするんだっ?」
「この世からいなくなってもらいます♪」
両手ぎっしりに広げる琉嬉が使う御札とは違うデザインの御札。
それを見せつける。
「ひ、ひぃぃぃ…」
妖怪の悲痛の叫びがこだました。
変な叫び声が聞こえてくる。
だが琉嬉は冷静に判断する。
(…あっちは終わったのかな?)
目の前の状況に集中する。
作業員達の霊が示す方向。
そのまま学校の裏口の方に出る。
無論、板張りされたままである。
「ここを通れって?無茶言わないでよ。僕は霊体じゃないし素通りなんて出来やしないよ」
腰に手を当てて立ちながら少し休むポージング。
そして出した答え。
「戻るのも癪だから、ぶち開けるか」
結局締められた裏口を破壊する事にした。
バゴォン。
激しい音がする。
琉嬉が物理的に蹴破った。
とても小柄の子がやったとは思えない威力で。
「……あんたらのせいだからね」
他人のせいに、というか霊のせいにする。
作業員の霊達は見守っているかのように表情何ひとつ変えずに琉嬉が動くのを待っている。
「…別に怒らないのね」
そのまま後をついて行く。
「琉嬉先輩~どこいっちゃったですかー?」
大声で叫んで捜す…が琉嬉が見当たらない。
「うー…。ここ圏外だし携帯繋がらないしなぁ…。霊気を辿るしかないかぁ」
目を瞑って、しばし霊視をする。
あまり時間経ってなければその場に強力な霊能力を持つ物が居れば微量の霊気を感じ取れる。
それを辿って行けば後をついて行けるだろう…そう魂胆だ。
「うむむっむむむ??たーっくさんの霊気が入り混じっている…琉嬉先輩沢山の霊気に混ざって何処行ったんだろ…」
意味も分からなく、取り敢えず辿って行く事にした。
霊達に導かれるように着いた場所。
坑道のトンネル。
草むらが激しく歩いて進むのが大変だ。
木の葉がまだ生い茂ってないのが嬉しいくらい。
「んもー。こんな所にまで連れて来るなんて…一端のか弱き乙女をなんだと思ってるの…」
ブツクサと自分をか弱き乙女などと言いながらもちゃんと着いてくる。
気づくと霊達は姿を消していた。
「連れて来るだけ自分らはもう役目終わりって?勝手だねぇ…」
たまもや文句を垂れる。
仕方なく奥底へ進む。
スマホの明かりと、霊気込めた御札の明かりを頼りに先へ先へ進む。
外よりより、ひんやりした空気が全身を包む。
幸い、この日は裾の長いズボン姿。
七分丈なので足首が少し冷たいが、大した気にもせず突き進む。
時折ピチャリ、と何かの液体が落ちた音が聞こえる。
その音に少し驚きながらも奥へ向かう。
古く錆びたレールがなんかもの悲しさを感じさせる。
長い時間放置されたのだろう。
時々コウモリが飛んでくる。
琉嬉達の街中では普段見る事のない動物だ。
他の地域であれば話が別なのかもしれないが、少なくとも琉嬉は普段生活していてほとんど見る事はない。
(…そういえば学校中にもコウモリい居たなぁ…この辺に住み着いてるんだろうかね)
なんとも言えない感想。
「それはいいとして……さて…ここか」
明かりを照らした場所。
トンネルの横に突然小さな道が出て来た。
が、板やらなにやらで塞いでいる。
「壊すのは忍びないんだけど…」
グッと左手拳に力を込める。
「龍神符・弱で!」
掌を広げた瞬間凄まじい霊気と御札が飛んで行く。
またどでかい音を立てて破壊活動。
「アンタらがやれって言うからだからねっ」
とにかく霊のせいにする。
「しかし……炭鉱都市ね……。今の日本の時代に合わなくなったというのか…たった50年で…」
時代の流れをひしひしと感じる。
たかが20年もまだ生きてない若者。
それでも感じる物は感じる。
砂煙舞う中、奥へさらに進む。
「ははーん。なるほどねぇ……こんな所に隠されてたのか」
奥の突き当り。
部屋みたいに綺麗に隔離されている広間がある。
わざわざ造り上げた部屋のようだ。
戸があったが、鍵はかけられておらず、簡単に入れた。
(開いてるじゃん…なんなのもう)
部屋の前の通路の入口がガチガチに固められていた。
だが部屋の戸は鍵がかけれてない。
なんとも厳重なのかそうでないのか意味不明だった。
長い年月かけて鍵が壊れた…とも考えにくい。
単に鍵をかけてなかっただけなのだろう。
50年以降の人が入った形跡はまったくない。
一応の管理をしている筈の自治体などが調査に来ててもおかしくない。
だが調査などされた形跡もまったくないのだ。
まさに、崩壊してそのままとなった炭鉱都市のようだ。
「さて……あまり時間もかけてらんないから……。そこか」
明かりを灯した御札を気になる奥の金庫らしき鉄の箱に向かわせる。
するとボンッと音を立てて小さな爆発を立てる。
「さっきから手荒な事しかしてないなぁ…ごめんよ」
これで破壊行動3回目。
そろそろ破壊神とでも言われそうだ。
などと思いながら箱に近づく。
(…言われるんなら、多分破壊天使とかか…?まったく嫌になるね…)
心の中でも文句を言いながらも箱の中身を確認する。
出てきたのは、小さな鏡。
ボフンッと、鏡の中から煙が舞う。
「ふー、やれやれ…ようやく出れたわい……ん?」
出てきたのは小さな子猫のような、生き物。
着物を着ていて二足で立っている…が体自体は毛に覆われている。
おそらく妖怪だろう。
琉嬉の掌に納まるくらい小さい。
白い、綺麗な毛並み。
「…お前か、この異空間を作り出した張本人は」
「んんん?誰かいの、お前さんは…人間の子供?はて、見た事のない童だのう」
「子供扱いするな」
有無言わさず子猫妖怪の頭に手刀をした。
「あだだ…何をするんかいの」
「子供だの童だの言うからだ。僕は18歳だ」
「………はて…人間の18歳とはこんなに子供っぽかったかね?」
「…それはいいから、お前…この街……、いや、街だった所の神社の主だな」
「おおう、そうそう。炭鉱としての活動を終えたと言ってのー。役目を終えたからとか言って
神体を移すと行ってそれからの記憶がないのだ」
頭をぽりぽり掻きながら言う。
一応、炭鉱都市としての役目を終えた事は覚えてるようだ。
「少しだけ調べさせてもらったよ。あれから50年経ってる。
人間だったら気の遠くなるような時間だけどね」
「フム……」
少し考える。
そしてすぐ理解する子猫妖怪。
「にゃふ。そっか。我はずっと眠っておったのだな」
「………残念ながらね」
「あーいたー。琉嬉せんぱぁい~。捜しましたよ~」
突然大きな声が響く。
みゆだとすぐ分かるくらい。
「てか、なんですかー?そのちいちゃい猫ちゃんー!可愛い~!!」
凄まじい速さで琉嬉の手から奪い取るかのように自分の手に取る。
「おおい、なんだいな、この娘っ子は?!」
「うるさいのが来てしまったか…」
「うむむ?」
「…こんな暗い所にいるのもヤダから、さっさと出るよ」
琉嬉は御神体となる鏡をそのまま手に取る。
子猫妖怪はみゆが両手に持ちながら移動する。
いちいち説明するのが面倒。
そう思いながらもこれまでの事を説明する羽目になった。
坑道から出て、近くの道路脇の少し広い所に休憩をかねて琉嬉らは説明した。
子猫妖怪は胡坐をかいて話を聞いていた。
あらかた説明し終わると静かに立ち上がる。
「なるほどのー。我が寝ておる間にそのような事にな…」
「おそらく、作業員含む人間達の霊の念が僕らを誘ってしまったんだね。
偶然にしては面白いくらいにね」
「偶然とはのー」
説明をしていくうちに子猫妖怪は表情がどんどん沈んでいくのが分かった。
意図しない程にこの街が衰退しきって廃墟群となっていた事に、寂しそうにしていくのを。
「前にさ、廃村となった所にも訪れた事あったけど…。ここも似たように強力な念が渦巻いてるんだよね。
村とは比較にならないくらい強いけど。
それだけ人々が多く活気があったんだろうね」
「フム…」
納得する子猫妖怪。
「でさ、子猫ちゃんさ。御神体がもう一個ある筈なんだけど…ここにはない?」
「ううむ…。たしか…北なんちゃらという村だかに持ってくとか…管理しておった人間が言っておったぞ」
「それって北神居町?」
「おう、それそれ。北神居!今は町なのか?」
「人口も増えて6万人くらいいるらしいよ。面積に対して人口が少ないくらいだから密集度は低いらしいけど」
なぜかやたらと詳しい琉嬉。
自分の住んでる地区の隣の駅が北神居だからだ。
「ほほぅ…。ここにあった街の名前…知っとるか?」
「さっき学校の図書室で見た。狭間入市でしょ」
「そう。そして、この地区は神居地区と呼ばれておったのだ」
「…この山一帯が神居岳って言うんだよね~?」
「そして神居炭鉱…。……もしかして」
何かに気づく。
「うむ。ここからきっと移動した人間が作り上げたのだろうな…」
遠い目をする子猫妖怪。
「理解した!北神居町は神居地区の人達が移設して出来た町だったんだね!」
テンションあげるみゆ。
「お前一人盛り上がってどうするんだよ」
「てへへー」
「で、お前さんの力で、この異空間どうにかしてくれない?」
「おお?お安い御用だ」
子猫妖怪の目が光り出す。
するとバシュンッと力強い霊力が強い風となって琉嬉とみゆを照らす。
いや、その場その地域その一帯をほとばしる。
しばらくすると何事もなかったかのように、静けさを取り戻す。
日が少し傾いてる。
時間を確かめると、午後の5時近くになっていた。
「ちゃー。正木さん…ずっと待ってるかもしれないよ~」
みゆが突然走り出す。
急に責任感じたのか、琉嬉を置いて行こうとするくらい。
「おいおい…。…………」
じーっと琉嬉は子猫妖怪を見る。
「うむ。我も連れてってくれぬか?駄目もとでお願いだがの」
「祀られてる神格の妖のくせに願い事かい…普通逆じゃん」
「すまぬ。我一人では動く事が出来ぬのだ」
「……ああ、そういうコトね…」
琉嬉は静かに目を閉じ、念じるように霊力を高めていく。
「おお……」
先程とは違う、黄金色ににも似た光が一瞬広がった。
車は走る。
予定とは遅い時間に。
「良かったです…。お嬢様に何かあったら私、クビどころか殺されちゃいますから」
「あはははー、そう簡単に私は死にませぇんよ!」
「何気に恐ろしい会話してるな…まったく…」
ぐったりする琉嬉。
後部座席でゆったりと座っているみゆ。
運転してるのは正木さん。
あれからなんとか合流した。
予定時間を2時間以上オーバーしてしまった。
それも神居炭鉱に閉じ込められたからだ。
「結局持ってきちゃったんですねー」
「…んー。連れてってくれって言うから」
「そうですか~」
琉嬉の横にはタオルに包まれた御神体となってた鏡。
子猫の姿はない。
「子猫ちゃんはどうしたんですか?」
「さぁ。多分鏡の中にでもいるんじゃないかね」
「憑依…ですか」
「なんでもいいよ。温泉行こ温泉っ!」
先へ急ぐのだった。
後日。
琉嬉とみゆは北神居町へやって来ていた。
そして炭鉱とゆかりがあると思われる神社で出向いていた。
「うち…お寺なんだけどね…。神道ではないんだけど」
「まあまあ固い事言わないで、ほらほら」
琉嬉の知識量と港咲家の力と情報力であれば簡単に割り出せた。
北神居町のとある神社。
そこに炭鉱との繋がりがあると思われる所をすぐ発見する事が出来たのだ。
「…他の部員は連れて来なくて良かったんですかぁ?」
「お前一人で3人分くらいやかましいよ」
「おっふっ…それ言われると辛いッス…」
二人がちゃごちゃ喋ってるところに一台の車が止まる。
その止まり方はギャギャッと高音を響かせ雑に止まった。
そして眼鏡かけた男性が出てくる。
「すみませんお二方…ところでここの神社に何か用あったんですか?」
現れたのは、耿助だった。
忙しい間をぬって出て来たのか、服装が宮司の服のままだ。
「すみません、耿助さん。どうせなら同じ神社の人がいれば話がスムーズかなあって思いまして」
「いえいえ、ふかしぎ部顧問として頑張りますよ」
「…あの、そんなに気遣わなくてもいいんですよ?」
なぜかみゆが耿助に対して少しは遠慮してもいいような事を言う。
「構いませんよ。琉嬉さんの取る行動に意味ない事なんて、ありませんからね」
いつになくキリッとした表情で言い切る。
「何やってんのー?早く行こうよ」
先に進む琉嬉。
早く来いと促す。
長いツインテール状の髪がなびかせながら先へどんどん行ってしまう。
「うみゅう~。みんな琉嬉先輩信頼してるんですね」
「貴女もそうじゃありませんか?」
にこやかに問う耿助。
みゆは意表をつかれたように一瞬たじろぐ。
「はぁ~、そりゃそうですけどねぇ。そういう所琉嬉先輩に敵わないんだよな~」
ため息交じりで率直な感想を吐く。
ちょっとだけ羨ましく思ってるようだった。
「すんませーん。どなたかいますかー?」
琉嬉の甲高い声が神社の境内に響く。
人の気配があまり無い。
散歩する年配の人間が時折通るくらいだ。
「ハイハイ。どなたかな?」
出てきたのは70歳を超えてそうな、おじいさん。
完全白髪頭で、その辺に居そうな年配の男性だ。
「すみません。事前に連絡しとけば良かったのですが…」
耿助も琉嬉の後ろから礼をしながら、謝る。
「ん?学生さんとその先生かな?」
「いえ、部活の顧問をしております」
「…?その恰好で?」
「いろいろ事情ありまして…」
おじいさんには良く理解出来ない。
おじいさんでなくても、おそらく理解出来ない組み合わせだろう。
宮司服を着た男と制服着た女子高生二人という、あり得ない組み合わせなのだから。
「はて、何用かな?」
おじいさんはここを管理している神主のようだ。
耿助も同じ宮司として、話がすんなり通ってどうにか通してもらえる事になった。
「えっとー。これ、なんだか分かります?」
琉嬉が臆せず出したモノ。
小さい箱の中にタオルに包まれたもの。
広げると炭鉱跡地の坑道部屋で見つけた、鏡。
あれから子猫の妖怪は姿を現さない。
呼びかけても出て来なかったのだ。
「…なんと!あんた達、これをどこで?」
「えっとぉー。なんだっけ。神居炭鉱跡地でゲットしたもの?ですよね?先輩っ」
「そーですね」
なんでお前が代わりに言うんだ?という睨みつけの顔をみゆに向ける。
それに気づくみゆは舌をペロっと出す。
「そうそう。この御神体は同じ型のがもう一個あってだね。
ここの神社に祀られてるんだよ」
そういうとおじいさん宮司は皆を連れて、社本殿の方へ向かう。
「ねえ、神主さん。いろいろ知ってるんですよね?」
「知ってるも何も…移設をとなえたのは私のおじいさんでな。それも50年近く前かな」
「やっぱり……」
「なぜ、このお子さんらがそれを?」
「僕も詳しく知りませんが、どうやら炭鉱跡地でお世話になったらしくって…」
「……ほほう」
歩きながらも宮司のおじいさんは説明してくれた。
宮司が当時20歳前後の時。
その宮司の祖父が移設前の炭鉱の神社を管理していた。
だが閉山となった時に移設を決め、ここの北神居町にやって来たそうだ。
町作りの発展の決定的になった話だという。
「…って事は、ここの街の人は神居炭鉱で働いてた、もしくはそれに関連してる人が大勢いるかもしれないって事?」
「1割くらいだろうけどね」
神主はそう言う。
細かい状況は把握してないようだ。
大体は近隣、もしくは別の遠い場所から移住して来た物達が大半なのだろう。
「緋瑪斗は…関係ないのか。親の実家が海の方だって言ってたしな」
「緋瑪斗君の親御さんの話まで知ってるの?琉嬉先輩…情報通ですねぇ」
「友達だからね」
(友達だからって…そんな話するかなぁ?)
みゆはふと、ふかしぎ部の面々やクラスメイトらの友人の事を思い出すがそんな話をした記憶がない。
耿助は何を思ってるのか、相変わらずまどかに劣らないくらい笑顔のままだ。
(自分が言うのもだけど変わってるなぁ。琉嬉先輩も)
宮司に案内された社。
そしておもむろに社の中を開ける。
すると、琉嬉が今手に持ってる鏡とまったく同じ型。
こちらは綺麗にされている。
「あー、同じ鏡~。」
「二つあったとは聞いてたが…まさか見知らぬお嬢さんが持ってくるとは思いませんな。はっはっは」
笑い飛ばす。
「あ、神主さん炭鉱に住んでたのなら閉山当時の事覚えてるんじゃないですかぁ?」
「そうは言ってもね、若輩者の頃だから、成すがまま。上の者が進めた話だからね…」
寂しそうに話す。
「…時代の流れってやつですか……」
琉嬉はその話を聞きながら、優しく御神体の鏡の隣に、自分が持ってきた鏡を置く。
心なしか、キラっ二つの鏡が光った気がした。
「これでよしっと」
綺麗に並べられた鏡。
「なんで御神体になる物が二つなんでしょう?」
自分の神社を管理する者として、興味津々で聞く。
「ほっほ。昔の人の考える事なんざ現代人には分からんて。御神体がひとつだけとは限らないでしょう?」
「いやまあ、確かにそうですが。まったく同じ形を模した御神体が二つ。何か意味があるのかと思いまして」
「どうだか。二個あればその分御利益が倍になるとでも思ってたのかもしれませんな」
「…神職なのにそんな事言っていいの?」
少し疑問を感じた琉嬉。
鏡は二つ安置され、静かに社の扉を閉める。
「随分あっさりしてましたねー」
なんともあっけなさに物足りなさを感じる。
「なんか、こう…変な妖怪とか出てくるとか…」
みゆは耿助の車の中で不満を漏らす。
「あ、そういやあの妖怪ってなんだったの?」
琉嬉が今頃になって思い出す、廃炭鉱でみゆが戦った妖怪。
そこそこの強さだった。
「あー、あの妖怪さんですかー。それなりに強かったけどちょおっと本気を出したら余裕でした~ん」
Vサインを出す。
「妖怪と戦ったんですか?それは災難でしたね」
「日常茶飯事ですよそんなの」
今でも時々琉嬉の力を狙って勘違いした妖怪が襲ってくる。
完全に休まる日が来ないのも事実。
「人を喰ってたとかでしたっけ?それが本当かどうかは知りませんけど、人間を狙ってたのは間違いないと思います」
不敵な笑みを見せる。
陽気ながらもどこかしら、Sッ気を見せるのだった。
振り返ると、社の上に小さな猫が乗っていた。
手をペロペロと舐めている。
あの時いた、子猫の妖怪だ。
白い毛。
「…あの妖さんですか」
耿助が運転席から眺める。
子猫の姿を。
「今頃になって出てきてまぁ…」
こちらを見て手を振ってる。
「また会いに来ますからね~」
みゆが窓を開けて叫ぶ。
こちらを見て微笑んでるのがなんとなく分かる。
猫だけど、表情が分かる。
そしてそのまま姿が消えた。
「出発しますよ」
「あのさ」
「はい?」
帰りの車中。
先にみゆを自宅に送り届けるという事で、しばしちょっとしたドライブになってる。
静かになりかけた時に琉嬉が静かに口を開いた。
「さっきの屋根に居た猫って、多分僕が持ってきた鏡に居た猫じゃないよ」
「…え?嘘だぁ。同じ白い子猫ちゃんでしたよ?」
「着てる服違ったし」
「え?そうでした?」
さすがに服までは覚えてない。
「よくよく考えたら、二つの鏡。同型。多分、双子の……猫の妖怪」
「双子…ですか。つまり、二匹の子猫さんが本来の御神体としての妖だったんですね」
「詳しい話はまた遊びに行った時にもですればいいさ」
なんとなく子猫を思い出す。
「しかしまあ、どうしてこう琉嬉さん達はこういうのに巻き込まれるんですかね?」
ニコニコしながら言う耿助。
「んー。どうしてですかね?でもここ二年間くらいですけどね」
「運命だよ運命。んふふふー。かっこいいねぇー運命って。ですてぃにーですよー琉嬉先輩~」
そしてなぜかくっついてくる。
頬をくっつけてすりすり。
「琉嬉先輩のほっぺやぁらかーい」
「やめろっ、寧音と同じようなコトするなっ。女同士で気持ち悪い」
「あらら、急ににぎやかになりましたね。あまり暴れないで下さいよ、車が転倒してしまいますから」
こうしてこの件は終わりと告げた。
「のう、お前。元気だったか」
「お前こそ。長い眠りだったそうじゃないか」
「良く言うわ。でもな、あの人間の子供が来なかったら永遠に会えなかったかもしれんの」
「私もだ……。人間……いや、あの者が不思議な存在よの」
「まったくだ」
「炭鉱都市か…懐かしいわい」
「我にとってはつい最近かのように思えるがのう」
「寝ておったからか…ま、これからの生活楽しむと良いぞ。
あの頃と変わらない活気さがこの新しい「神居」にあるのだからな」
「そうだなぁ……」
二匹の子猫がじゃれ合ってる。
二匹同時に空を見上げる。
時々、この神社で真っ白な子猫が遊んでいる。
そんなほのぼのとした話題がのぼるのもそう時間かからなかった。




