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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十一章   ~新学年度編~
65/92

#65 日曜日に雨とレインコート

 新学年度が始まって3週間目。

丁度その週の日曜日。

学校は休み。

部活動も休み。

なぜなら、雨が降ってるからだ。

雪だけじゃないだけでましだ。

それでも外の空気は冷たく、上着が必要だ。


 

 先日の新一年生の前崎香那巳。

入部テストと称して琉嬉から喧嘩を売った。

結果、明確な勝敗が決まらずに終わった。

どっちにしろ、琉嬉が手こずるくらいの能力を持っているのが分かった。

やむを得ずに真霊気も使ったからだ。

あの後、部室に一度だけ顔を出して、

「今度こそお世話になりますー、前崎香那巳ですー。よろしゅう」

 などと非常に明るいトーンで自己紹介した。

また濃ゆい奴が入ってしまった…と琉嬉は悟った。



「朝から雨かー。つまらんのう」

 來魅が退屈そうに窓を眺めてる。

「…あんまり外に出ないくせして何を言うかニート妖怪」

「むむ、たしかに一回も外に出ない日もあるがの。大抵は外に出て気晴らしに散歩しとるわい」

「交通機関使わないで100キロ離れた所まで行って日帰りで帰ってくるくせに」

 そういう超人的な部分が妖怪らしい。

ピピピッと琉嬉のスマホが鳴る。

通話アプリの着信のようだ。

「誰だ?」

 拾い上げてみると寧音からの着信のようだ。

「寧音?どうしたんだ?」

 兎も角出てみる。

『あー、琉嬉さーん。今日お暇ですか?』

 丁寧な言葉ながらも元気な声。

「暇っちゃあ暇だけど…雨降ってるよ?」

『そこをなんとか…』

「……まあ、やれやれ…いーけど、どうしたいの?」

『一緒に街中に出てゲーム買いに行きませんか?最近忙しくて買いに行けなかったので』

「あー。うん、いいけど…僕も丁度気になるのあるしなぁ」

 渋々と承諾する。

でも琉嬉もゲーム好き。

こういうサブカル的な趣味が合う二人。

ただし、琉嬉はゲームオンリーだ。

「のう、琉嬉。どこか行くのか?」

「んーと…寧音からのお誘いなんだけど…、行きたいの?」

「おう!」

 目をキラキラしながら言う。

本当に大妖怪なのか?と疑いたくなるくらい純粋で子供っぽい。

「ねー、寧音ー。來魅も行きたいって行ってるんだけど、一緒に行っていい?」

『來魅さんですか?いいですよ~、勿論』

「……なんか下心みたいなの感じるけどまぁいいか。じゃ、待ち合わせは駅前でいいの?」

「はい。鞍光駅で大丈夫です」

 あっさりと決まって行く。

当日に約束を決めていったのでさっさと行動したいからだ。

「やれやれ…。まぁ、雨の日のおでかけも乙なもんだよね」

 なんとかして前向きに考える。




「やあ」

「あ、琉嬉さん」

「やおー」

 來魅の独特な挨拶。

「……か、かわいい…」

 來魅の姿に目を奪われる。

琉嬉は普通の傘を持っているが、來魅はレインコート姿だ。

その姿がなんとも可愛らしい。

「…なんか変か?この姿?」

 首を傾げて寧音を見る。

「いいえ!おかしくありません!むしろかわゆすぎてたまりません!」

 なぜかスマホを取り出して写真を取り出す。

「おいおい…あんまりそういう事してると同性でも捕まるよ?」

「あ、はい…すみません。風紀係してるくせに…」

「…ほんっと、仕事してる時とプライベートとの差が激しいね…」

 

 雨は止む様子はない。

駅から一歩出ると冷たい空気で、しとしとと雨が降っている。

そこまで強くはないが、傘はいるレベル。

「先ずはあそこ行きましょう!」

「へいへい」

「おー」

 寧音が指差す方向。

近くの電気屋。

今の大手電機ショップはゲームだけではなく、いろんな玩具や、本などを取り扱っている。

そこのお店行くだけで何かと欲しい物が手に入る気がしてくる。

そんなご時世。

「これが駅前のサドバシカメラという店か。凄いのう」

「…電気屋は別に初めてじゃないだろ?」

「ここのお店は初めてだ」

 キョロキョロ見回す姿は子供そのものだ。

「こっちですよ琉嬉さん」

 手を握られ少し強引に引っ張られる。

「こらこら、そんな急がなくても…」

 そう言いながらも楽しそうな寧音の顔を見るとこっちまで表情が緩んで来る。

何をそんなに彼女を動かしてるのだろうか。

なぜかそう思ってくる。

3階にあるゲームコーナー。

休みの日であって、家族連れも多い。

「人多いね」

「そうですね~。休日はいつも混んでます」

「結構来てるの?僕はいつも近場のお店で済ませちゃうからな~」

 自分の家近くの駅前のお店で新作は最近手に入れてる。

以前も近くのお店ばっかりだった。

あまり鞍光など、大きい街に出る事はあまりない。

それは面倒くさがり屋の琉嬉の性格だからだ。

「げーむ買うのか?私も欲しいっ」

「何言ってんのさ、てかお金持ってるのか?」

「んむ…」

 來魅がポケットから出した小銭入れサイズのお財布。

嶺珠から貰ったものらしい。

チャラっと小銭のぶつかる音。

それと出て来た千円札2枚ほど。

「…これではゲーム買えないか……残念だ」

 がっくりと肩を落とす。

「これじゃダウンロード配信のも買えないかもね」

「うむ…」

 新品でも最低3000円くらいはするものである。

今はダウンロード販売というデータだけでも買う事が出来るのだが、ここはパッケージ版が手元に欲しいもの。

そういう琉嬉のコレクション気質が來魅にも自然と移っているようである。

「來魅さん人間のお金持ってるんですね」

「うむ。人間社会で過ごすには必要だろ」

 右手に千円札を手に取ってニコッと微笑む。

「コツコツと導や嶺珠の手伝いをしてるからな」

 買い物や家事などを手伝っている。

そこからお駄賃としてお金を貰っているのだ。

「あ、欲しいのなら私が買ってあげましょうか?」

「余計なコトしなくていいから」

 ぺしっと寧音の頭を軽くチョップする。


「あ、あれ…琉嬉さんと…寧音さんと、來魅ちゃんじゃないですかっ」

 聞き覚えのある声。

でも女の子の声だ。

振り向くと目の前には狗依緋瑪斗だった。

「あ、緋瑪斗」

「緋瑪斗さんっ。お久しぶりです」

「おー、ヒメ。久々っ」

 以前の緋瑪斗とは違う部分。

それは髪の色が黒と赤が混ざっている。

なんとも奇抜な色合わせ。

普通に怒られそうな髪色になっている。

それ以外は変わってない。

「緋瑪斗もゲーム買いに来たの?一人?」

「えー…と…。なんとなくですかね。今日は一人です」

「なんとなく?怪しいー」

「あの時以来ですかね?私とは?」

「あ、ええ、そうですね」

 緋瑪斗の一件で、琉嬉と寧音は緋瑪斗と共にとある場所へ行った。

寧音はそれ以来会ってなかったようだ。

「丁度いいですねっ、一緒に回りませんか?」

「あ?え?あ、はい…」

「…君も大変だね」



 ゲームを買い終わり、4人は軽めに昼食を取った。

時刻が3時を回り少し陽が傾き始めた頃。

と言っても、空模様はどんよりしたまま。

雨は止む気配なく、しとしとと降っている。

「緋瑪斗、最近どう?」

「え?最近ですか?」

「うん。最近」

「どう…と言われましても…」

 なんとなく気疲れしてる感を匂わす。

「どうかなされたんですか?」

 寧音が覗き込むように緋瑪斗の顔を見る。

「わっ、寧音さん」

「お前はどうしていつもそう突撃するんだ」

 寧音の首根っこを掴んで引き離す。

小さい体とは思えないパワーを出して寧音を引っ張る。

「なんか、家族が増えた感じがしてならないですが…ははは」

「ふぅむ…なるほどねぇ」

 事情は知っている琉嬉達。

言わずともなんとなく察する。

「さて、寧音。次も回るの?」

「ああ、そうですね、はい。次行きましょう~!」

 目指す方向は某アニメ系のショップ。

はしごするかのようにいろいろと回ろうというのだ。

「お主はどうするんだ?」

 來魅が緋瑪斗に聞く。

「あ、俺は先に帰ります。買い物も頼まれてるんで」

「ん。そか。じゃ、またね」

「はい」


 緋瑪斗と別れ、再び3人だけになる。

「しかしまぁ…あっちはあっちでまだまだ大変そうだね」

「そうなんですね…。半妖の体って…どうなんでしょう?」

「さぁね。それはなってみないと分からない世界だよ」

 寧音は無言でコクリと首を縦に振る。


 てくてくと雨の中歩き回る。

靴は濡れ、少し染みてくる。

それが歩くたびに不快に感じる。

この日は琉嬉はいつものショートパンツにオーバーニー。

寧音は大体いつもジーンズなどの裾の長いズボンが多い。

その裾が濡れてきている。

「ねぇ、寧音ー。歩くの疲れたし、濡れてきて気持ち悪いよ…」

 上着も少し濡れている。

雨模様の空は晴れる気配がまったくない。

「そうですねー。ちょっと休みますか?」

「てか、こんなマニアックな場所に来てまぁ…。いいけど」

 駅通り沿いの高架下が続くマニアックな通り。

そこにもいくつかのお店が並んでいている。

その並びの近くに公園がある。

「のう、公園があるぞ。行ってみよう」

 來魅が反応する。

「雨の中公園ー?誰もいないじゃん」

 当たり前のように、誰もいない。

時折素通りして近道していく大人達の傘を差して歩く姿。

少し物音が届かないのか、駅前とは違って静かである。

たまに電車が通って騒音をまき散らすが、すぐに静穏が訪れる。

「雨だし座る所ないじゃん」

「そうですねー。どうします?」

「まったく、軟弱な奴らのう。私も見るがいい」

 ちょこんと、ベチャベチャなベンチに座る。

「お前はレインコートだから大丈夫なの当たり前だろ…」

「……レインコートだからって、まったく濡れない訳ではないですよね…?」

 ちょっと疑問に思う寧音。


 ふと琉嬉はキャッキャと子供の声らしきものが聞こえてくるのに気づいた。

(こんな雨の中子供の遊ぶ声?)

 声が聞こえた方に体全身を向ける。

すると黄色いレインコートを着た幼稚園か、小学生の低学年くらいの子供が一人遊んでいた。

一年生くらいだろうか?

5、6歳くらいに思える、女の子っぽい姿。

遊んでいる…というより、何かを探すかのように小走りで動いてる。

「ほら、楽しそうに遊んでるではないか?」

「はいはい、そうですね」

 面倒くさそうに返事する琉嬉。

しかし何か違和感を感じる。

「んー、子供は別に珍しくはないけど…」

「琉嬉さん、どうしました?」

「…………」

 見つめるようにして子供の方へずっと顔を向けている。

その顔を來魅の方へ向ける。

「ん?どうした?」

「……ふむ」

 何か一人で納得したように腕を組んで、しばし様子を伺う。


 ほんの、2、3分。

気がつくと子供がいなくなっていた。

「おろ?先程の童がいなくなったのう」

「本当ですね。何処に行ったのでしょう?」

(二人は気づいてない…?妙だな)

 琉嬉が子供が動き回っていた所へ向かう。

「おい、琉嬉」

 追いかける二人。


「やはり……」

「どうした?」

 買っておいた温かい缶コーヒーを飲み干す來魅。

「僕らは一瞬でも、この妙な空間に足を踏み入れたようだ」

 キョトンとする來魅。

でもニヤっと表情は笑みを作り出す。

「……なるほど。そういう事か」

「あ、やっぱり琉嬉さんも気づいてました?」

「お前らも気づいてたなら言えよー」

 少し不貞腐れたような顔をする琉嬉。

どうやら結局全員何かに気づいてたようだ。



 その日は結局何もなく、子供の姿も現れなかった。

妙なのは近くに親も居ず、人気があるのにも関わらず綺麗さっぱりにいなくなった事だ。

「…ちょっと明日も来てみようか?」

「気になりますか?」

「ちょっとね…」

「やれやれ、お前様のお節介な性格は面倒だの」

「悪かったね。僕は心が広くて優しいんだ」

「まあ引っ掛かる言い方だが、お前様の考える行動なら邪魔はせんぞ」

 ぽいっと、空き缶を遠くのゴミ入れに投げ込む。



 後日。

琉嬉は一人で先日来ていた公園へやって来ていた。

この日はまったくの晴れ…とまでは言わないが、青空だ。

学校終わりで最初のテスト期間なので部活はせず、一週間は基本部活なし。

琉嬉達は三年生は受験など控えてるため、ちょっと顔出してはすぐ帰る日が増える。

と、言っても後輩で副部長でもあるみゆにある程度部活動は頼んである。

……ていうのは建前で、先日の奇妙な子供が気になって仕方ない。

それだけの理由でこちらに来てるだけだった。

(…今日は普通に子供やカップル達がいる…チッ)

 カップルに少しイラつきながらも公園内を歩く。

いる子供らは小学生低学年くらいの男の子達。

元気良く自転車に乗ったりして動き回っている。

「はー。今日は現れないか…」

 この日は一時間くらい粘ったが結局レインコートの子は現れなかった。


 その翌日。

日をまたぐ様にして軽い小雨模様。

「今日も行くんですか?」

「まーね。寧音も行く?」

「んー、私は生徒会の仕事が~」

「何々?面白い話?」

 紫音が興味ありそうに話してくる。

が、琉嬉は紫音を左手で制する。

「だーめ。テスト期間だろ?僕も用事すましてすぐ帰るんだから」

「えー」

「紫音。早く帰らないとまた怒られるよ」

「えー、いーじゃん。けちー」

 引きずられるようにして去っていく紫音と莉音。

「大変やな」

「叉羅沙」

 振り向くと女子制服のお腹の部分しか見えない。

その大きさで誰だかすぐに分かる。

「ま、何しとるか分からんけど、あんまし無茶はいけんよ?」

 少し目を丸くする琉嬉。

「…叉羅沙が僕の事を心配するなんて…明日も雨かな?」

「……失礼なやっちゃなあ」

 と言いつつ、お互いに信頼ある笑顔でその場を別れた。



 到着するや否や、小雨程度だが人が何人か歩いている。

でもさすがに遊んでる子供はいない。

時刻は午後3時半過ぎ。

(この前は…4時頃現れたっけな…)

 スマホの時間を気にする。

刻々とその時間帯が近づく。

すると不思議と人通りが少なくなる。

ただの偶然かもしれない。

公園内ではなく、公園沿いの道路などにはなんの変哲なく、人が歩いている。

「ふむー」

 公園内に歩み寄ってみる。

公園内に設置されている大きな時計。

4時ちょっと前。

大体3時55分くらいだ。

小さく、この前聞いた笑い声が聞こえてくる。

すると高架下の方から、この前見たレインコートの子供が走ってくる。

「ねえ、ちょっと…」

 しかし、琉嬉の声に気づかないのだろうか。

無視するように走り去って行く。

(……なるほど)


 雨のせいなのか、遊具で遊ぶ様子はなく、先日と同じように何かを見つけては走り回る。

時折、ブランコに立ちこぎをしたり、滑り台に乗りはするが座って滑る事はせずに器用に足で滑り下りる。

琉嬉には気づいてないのか。

それとも敢えてスルーしているのか。

そこは琉嬉にとってはどうでもよかった。


(この子は、幽霊だ。ループ型の)

 確信を得た。

この女の子は、霊だと。

(それも、雨の日だけに現れる子供の霊…)


 すると女の子は物陰に隠れてしまうと、それ以降姿を見せなくなる。

「偶然……か。ほんと、面白いね」

 少しにやつきながらも、切なさそうな顔をする。




「確信しました。あの子は霊です。それも結構昔からいる」

 テスト終わりで午後で授業が終わった金曜日の放課後。

部活動にて。

琉嬉は部室で部員達と会話。

「ほほぅ。それで、どうするの?」

 護がなんだかやる気ないような目で聞く。

「課外で部活動、いいんじゃない?」

 表情を変えずに琉嬉が言う。

何も言わないが面倒そうな顔する護や御琴。

「楽しそうですよね」

 まどかは手をぽんと叩いて笑顔で返す。

「でもね、雨の日しか出てこないと予測してるんだ。

昨日も雨の降っていない日に行ったけど出てこなかった。

だから、次の機会は週末の日曜日雨予報だからそこにかけてみるよ」

 琉嬉はやる気を見せる。

パリッとクッキーをかじりながらだが。

「へぇ…。日曜日か…、休みじゃん」

 紫音のテンションが下がる。

「お前は無理しなくていいよ」

「う…出た、必殺の琉嬉姉のクールな冷たい目」

「同じような意味繰り返してるじゃんその言い方」

 悠飛の冷静なツッコミをも受け付けない程紫音のテンションがガタ落ち。

「ま、みんなそれぞれ予定あるだろうし日曜日に行きたい人は僕に連絡して」

 その場の皆が黙り込む。

行きたいが行けない者。

行きたくない者。

そもそも今この場に居ない者。

いろいろ思惑がある。

「ちょっと、琉嬉。その幽霊の子って…本当に幽霊?」

 唯子ぬいぐるみがちょこんと机に座って話しかけてくる。

「先輩みたいに幽霊だよ。ただ、ちょっと変な意味で強いね」

「変な意味で強い?」

 霊そのものでもある唯子にも良く解からない言い回しだ。

琉嬉は時々独自に遠回りな言い方をする。

「まぁ、いいじゃないですか」

 机に両手をかけて、ガタッと椅子の音を立てて立ち上がる。

「今日は解散っ。お疲れ様」

 そして琉嬉がその場から帰る準備をする。

「んー、テストで疲れたー。今日はおとなしく帰るかなー」

 護が両手をあげて体を伸ばす。

窓から見える転校は曇りで、既に暗い。

「あーあ。週末は本当に雨また降るかもね~」

 みゆが窓を開けて外の空気を吸って言う。




 そしてやって来た日曜日。

の、午前。

琉嬉は早速行動していた。

例の公園…の付近を歩いている。

立ち止まっては何かの紙を見ている。

この日も生憎の雨。

まだそんなに強くない。

偶然にも一週間前も同じ日曜日に雨だった。

「のう、琉嬉よ。今日は誰も来んのか?」

「んー?来るよ。ホラ」

「すみません~、遅れました~。危うく寝るの忘れてて…」

 バシャバシャと水たまりも気にせずに走って来た眼鏡の女の子。

寧音だった。

「他にも誰か今日は来るのか?」

 そう問う來魅はこの日も同じようなレインコート。

だが來魅の柄が付いていて淡いピンク色で少し派手な柄をしている。

「…普通は來魅くらいの子供だったら合羽とか嫌がって傘にする奴増えるんだけどな…」

「まあまあ、來魅さんは普通に子供さんではありませんから」

「こら、子供扱いするな。こう見えても高貴なる上級妖怪の來魅さまは、150歳以上であってな…」

「それは何度も聞きましたー」

 毎回の如く同じようなやり取りをしてるうちにもう一人やって来た。

小柄で紺色の渋い傘を差す姿。

上下とも暗めのチョイスした色のカジュアルな服装。

「あのー、これで大丈夫ですか?」

 柚羽だった。

「おー、ありがと柚羽」

 琉嬉が柚羽から受け取った書類。

「なんだそれ?」

 來魅が気になって一緒に覗き込む。

ここら一帯の住所で過去に起きた事件や事故。

そう数は少ないが、ここ30年間に起きた出来事の新聞の切り抜きなど。

これらをコピーした用紙だ。

「こんなまとめ、柚羽さんが一人で?」

「ええ、近くの図書館や近所の年配の方に聞き込みしました」

「さすがですねっ」

 雨の中抱き着こうとする寧音。

しかし軽く避ける柚羽。

「なーるほどー」

 書類を読む琉嬉は一人で納得していく。

「何か分かりました?」

「バッチリ。で、そっちの方は?」

「はい。バッチリです」

 柚羽は笑顔でピースサインをする。




 公園内の四阿のベンチに座り、時間を待つ。

その間琉嬉は真相を語る。

「推測に過ぎないんだけどね」

「はぁ…」

「20年前以上に、6歳の女の子が亡くなってる。この公園で」

「え?それはなぜですか?」

「事故さ」

 ――事故と聞いた瞬間、琉嬉以外の者がぞわっと寒気を感じた。

どうしようもない事とは言え、いたたまれない気持ちになる。

「事故か。人間はいかに脆いか知らされる話よの」

「ましてや子供さんですもんね」

 おそらく、遊具の不備か何かに巻き込まれて死んだのではないか?

そう予測する。

当時の記事には詳しくは載っていないようだ。

ただとある遊具の一部が崩れ落ち、それに運悪く巻き込まれたみたいな事を書いている。

しかし雨の日に現れるというふかしぎな光景とは結びついてはこないのだが。

「その子の家族はここの地域にはいないみたいだけどね。そう遠くにはいないみたいだけど?」

「…またあの刑事さんに聞いたんですか?」

「軽くだよ軽く。深いところは聞いてないし」

 少し知らんぷりする。

あまり深入りして警察から情報聞いてると沢村刑事の立場が危うくなるかもしれないからだ。

極秘行動としても少し危ない綱を渡っている。


「で、どうするんだ?琉嬉よ。成仏でもさせるのか?」

「んー。一応考えがあるんだけど…」

「なんですか?協力しますよ」

「はい」

 琉嬉は皆を引き寄せ、あまり大きい声で話さず考えを言う。

こうしてる間にまた午後の4時に近づく。

するとまた子供の声が聞こえてくる。

「…来たか」

 琉嬉がすっくと立ち上がって、そちらに向かう。

「大丈夫かの?」

「琉嬉さんなら大丈夫じゃないですか?」

 寧音は根拠はないが琉嬉なら何かしてくれる。

そう予感させてくれる人物に思える。

「しかし…自縛している霊を解き放てるんでしょうか?」

「………そのための真霊気なのだろう」

 さっきとはトーンを低めにして來魅が言う。

「なるほど…」

 二人は納得した。



 琉嬉は少し強めに、少女に話しかける。

霊相手に接点を作りに行くのは非常に危険な行動だ。

いかに霊能力者であろうが危険なのは変わりない。

「……琉嬉先輩、大丈夫でしょうか?」

 ハラハラしながら見ている柚羽。

柚羽自信もかなりの能力者なのだが、霊相手にはそうそう話しかけないし絡んでいく事もしない。

「ま、あやつは特別だからの」

「だといいんですが…」

 心配そうに見守る來魅以外の二人。

(しかし……私達のご先祖様達が封じた大妖怪がこうやって一緒にいるなんて…未だに信じられませんね…)

 今更に思う寧音。

(…それも、琉嬉さんをかなり信頼している発言…。これがいちばん「ふかしぎ」だと思いますよ)



 琉嬉が霊と交信を試み終えた。

すると先程のレインコートの女の子の姿が消えていた。

そしてみんなの元に戻ってくる。

「終わったのか?」

「まーね。取り敢えず女の子の家族の元に行こうかな」

「それはまた急ですね」

 そう言いながら一応腕時計を確認する寧音。

4時半ちょい手前。

少々動くには微妙な時間帯である。

「で、場所は分かるのか?」

「もち」

 親指を立ててキメる。

どうやらいろいろ情報を仕入れているようだった。

「いつの間に…」

「さっき」

「へ?」

 つまり、霊と対話してる時に沢村にでも聞いたのだろう。

やる事が大胆かつ素早い。

「ほんと、抜け目がないというか…琉嬉さんって凄いですね」

「私もそう思います」




 琉嬉の足取りが鈍い。

真霊気を使ったのかは分からないが、明らかに疲れてそうだ。

來魅達は何も言わないがなんとなく気づいている。

余計な詮索すると機嫌を損ねそうで誰もその部分には触れないでいる。

だが、寧音だけは違った。

「大丈夫ですか?琉嬉さん?もしかしてあの力をお使いに…?」

「あ、うん。歩く分には大丈夫…」

 地雷を踏みかけたかのように見せたが、琉嬉自信は普通に返してきた。

「あ、ここら辺ですよ先輩」

 着いた場所。

先程の公園とは違う、3駅程離れた場所だ。

3駅分と言っても結構な距離になる。

6、7キロくらいになるので歩くにはさすがに無理な距離だ。

「住所は……」

 スマホに入れてある住所の情報。

それを頼りにやって来た家。

「ここですね。ええと…」

 柚羽が指を差してみつけた家。

「なんでこの家に来たんだ?」

 疑問に思う來魅。

「ま、見てなよ」

 琉嬉は小さい声で言うと、呼び鈴を押した。


『はい』

 インターホン越しに声が聞こえる。

声の主は若い女性の声のようだ。

「すみません。ちょっといいですか?」

『………どなたですか?』

 少し警戒したかのようにインターホンからの声は間をおいて返事をした。

「くっくっく。相手がかの幼き女子ならどう対応しようか迷うだろうな」

 少し楽しそうに笑う來魅。

「ま、たしかに…そうですよね。琉嬉さんの声、凄く高めですもんね」

 後ろの者達の会話が少し気にしつつ、琉嬉は自分の方の話を進める。

「あの、「あさみ」ちゃんの…ご家族の方ですよね?」

『…!なぜあさみの事を?!』

 明らかに動揺と驚きの声。

「んーと、ちょっとお話をしたくって来たんですけど」

『お待ちください』

 そうすると、1分後。

すぐにドアが開いた。


 出て来たのは20代の若い女性。

黒髪で肩くらいまでのセミロングで、清楚な感じをさせる女性だ。

「……ども」

 琉嬉が軽くぺこりとお辞儀する。

後にいる來魅らも軽く会釈する。

「…どうしてあさみの事を知ってるの?」

「会ったんです。公園で。何度も」

「……どういう事?」

 意味不明に女性には聞こえるだろう。

だが琉嬉は女性にこう伝えた。

「あさみちゃん…と、言っても生きてたら僕達より年上でしょうけど…、どうでしょうか?」

「…………貴方達が何者か分からないけど、どうぞ、お入りください」

 何かを察したのか、琉嬉達を招き入れる。

「お言葉に甘えて。ほら、みんな」

「あ、はい」

「やおー」

「お邪魔します…」



「雨の日に、わざわざ…」

 そう言って女性は暖かいココアを入れて皆に配る。

「すみません。唐突に。でもどうしても…話をしたくって」

「…あさみの事?」

「そうですね」

 琉嬉は女性の瞳を凝視するように強い眼差しで見る。

「…あさみの友達…て事もないわよね…、年齢が違い過ぎる。

あの子が…妹が死んだのは20年前なのに」

「妹…?死んだ…?てことはやはり…」

 寧音らは納得する。

「そう。あさみちゃんはあの公園で亡くなった。事故で」

「ええ、そうね。でもなぜそれを貴方達が?」

 不思議そうにする女性。

「あの公園で、雨の日だけにあさみちゃんが現れるんです」

「…どういう事?」

「落ち着いて下さいね。みさきさん」

 女性の名前はみさき。

妹はあさみ。

つまりあの公園で現れる少女の霊のお姉さん。

「にわか信じられないかもしれませんが、僕達は霊感が高くて霊を視る事が出来ます。

だから……あさみちゃんの霊が、「雨の日」だけにあの公園で現れるんです」

「………まさか。信じられない」

 みさきの表情が強張る。

信じられないと言った顔だ。

それはそうだ。

突然身内の霊が他人に視えて、しかもわざわざ伝えに来るとは思いもしない。

「バカにするのもいい加減にしてもらえるかしら?」

「まさか、バカにしてるなんて事はないですよ」

 少しイラ立つみさき。

だが琉嬉も引かない態度。

そして…左手の掌を開いて、一瞬だけ念じる。

すると……。


「そんな…まさか………。あさみ…?!」

 あさみと呼ばれる少女の霊をこの場に召喚した。

「ほほぅ。やりおるな、琉嬉め…」

「?どういう事です?」

 寧音には良く解かっていない。

「いえ、霊を連れ歩くのは非常に危険且つ、高度な術です。

ましてや自分との「縁」がない霊なほど危険です。

唯子先輩みたいなのはまた別ですけど…」

「なるほどー。そうなんですね。夜栄守家にはあまり見られない術ですね」

 説明をしてくれる柚羽。

寧音も頭の回転の早さはいいのですぐさま理解を示す。

「会いたかったですか?それとも…?」

「嘘よ!あの時死んだのに…?!」

 困惑を隠せないみさき。

涙を浮かべながら叫ぶ。

あさみは何がなんだか分からないといった顔をしている。

「ま、無理もないか。だってアンタ、その場に居たんですからね」

「…あれは事故よ!だって…事故……」

「そう。事故。ましてや10歳にも満たない子供の頃の話…」

「なんだ?何の話をしとるんだ?」

「さぁ…」

 琉嬉は真相を知ってる風に会話をしている。

來魅達にはちんぷんかんぷんだ。

みさきは崩れ落ちるように涙をこぼしながら座り込む。

「みさきさん。あなたは何も悪くない…、どうしようもない事故だったから。

ただ、あさみちゃんのはあなたを待ち続けてたんですよ」

「うう………」

「琉嬉め…、酷な事するのう」

 

 事態をなんとなく気づいたのか、あさみはみさきに所に来て、手を取る。

「あさみ……?」

 あさみは何も喋らない。

いや、何か喋りかけてはいるようには見える。

「うん……うん…お姉ちゃんよ……。うん……」

「何を喋ってるんでしょうか?」

「さぁ。家族にしか解からない会話かもね」

 琉嬉が戻ってくる。

「何を騒いでるんだ?ん?誰だ…?みさきの友達か?」

 男性の声が聞こえて来た。

父親のようだ。

白髪交じりのそこそこいい年した中年男性。

「みさき、その子は…」

「お父さん、あさみよ!あさみ…。死んだあさみ……」

「あさ…み?あさみなのか?!」

 凄い勢いで父親はあさみの近くへしゃがみ込む。

自分の娘だとすぐに分かったようだ。

「しばらく家族で会話させておいて…僕らはちょっと出てようか」

「大丈夫なのか?そのままで?」

 珍しく心配ばっかりする來魅。

琉嬉は無言で首を縦に振る。

他の二人も何も言わない。

「…お人好しな奴め」

 半ば呆れながらも來魅は少し笑顔で琉嬉の後に続く。




 家からみさきが出て来た。

ほんの、15分くらい。

あさみの姿はない。

「どうでした?」

「……どうもこうも、本当にあさみだったわ…。貴方達何者なの?」

「鞍光高校ふかしぎ部です」

「ふ…かしぎ部?」

 琉嬉の証言にまた驚く。

「しいて言うなら心霊や妖怪物を扱うオカルト研究部みたいなものですかね?」

 琉嬉の代わりに寧音がなぜか答える。

「………不思議ね」

 そういうみさきの顔は何か納得したようである。

そして満足感が出ていた。

「あさみとやらはどうした?」

「消えたわ…。天国にでも行ったのかしらね…」

「成仏したのかな」

 琉嬉は雨降る空を見上げる。

先程よりは雨は弱くなってきている。

「フフ、そこのお嬢ちゃんのレインコート…あさみを思い出すわ」

「ん?私か?似合うだろ?」

 くるっと回る。

言われてみればあさみと同じようにレインコート姿だ。

「雨の日が来る度に思い出すの。あさみが死んだ事故の事…。でも、あさみは……自分の事なんとなく気づいてて…」

「やっぱり……」

「知ってたんですか?琉嬉先輩?」

「…あさみちゃんと話した時、何か違和感あったんだよね」

「違和感?」

 

「微妙に、会話がかみ合わなかったんだよね。

ずっとお姉ちゃんを待ってるって言ってたし。

雨の日にしか来ないとかなんとか……。

意味不明だったけど、ようやく理解したよ。

「雨の日」に死んだんだってね」

「………」

 みさきは黙り込む。

でも、気を強く持って口を開いた。

「でも…良かったわ。謝れて…また会えて……良く分からないけどありがとう」

「こちらこそ。突然お邪魔して、辛い思いさせて…ごめんなさい」

 ぺこりと大きく深く頭を下げて礼をする琉嬉。

寧音と柚羽も慌てて礼をする。

「僕は人一倍…いや、何倍も霊感てのが強いせいか…、困ったもんですね」

 頭をぽりぽり掻きながら、途中から濁すように話を止める。

「ただ言えるのは………、ひとりぼっちってのは寂しいから」

 そう伝えると琉嬉は再三深く礼をしてその場を後にした。

「あ、琉嬉さん、すみません、私達も行きますね」

 寧音達も追いかける。


 ぽかんとするみさき。

來魅だけまだその場に残ってた。

そしてみさきの方を向き、上目づかいで話しかける。

「ま、気にするな、みさきとやら。あやつはいつもあんなんだ。

お人好しで世話焼き。

生きてる者も死んでる者も助けてあげようとする変人なのだ」

「はぁ…」

「うむ。晴れてきよった。これもあさみがもたらしたのかもな」

「………そう…かしら」

「…子供の戯言だと思ってよいぞ。さて、帰るとするか。本当はもっとあさみとやらと遊んでやりたかったんだがな。

肉親に会わせる方が一番良いと選択したんだろうな」

「………」

 言葉が出てこないみさき。

でも言ってる事は理解出来る。

口元を抑え、涙がまたこぼれてくる。

「んー、私が言うのもなんだが、ちゃんと供養してやると良い。ではまたな」

 そうして手を振って來魅も小走りで去って行く。

「本当…ふかしぎな人達…」



 帰りの電車の中。

すっかり空は晴れた。

虹を車窓から探すがみつからないと愚痴る來魅。

柚羽も一緒になって探してたが出てないようで残念がっている。

「にしても…琉嬉さん、いつもこんな事してるんですか?」

 寧音の率直な疑問。

それを躊躇なくぶつける。

「いや…してないけど…。なんだろうね、なんかこう…視えるだけについ行動起こしちゃうっていうか…。

昔ならこんな事しなかったんだけど…自分でも笑っちゃうよ」

 ちょっとだけ笑みをこぼす。

「…でも、ほぼ一年近くご一緒させてもらってますけど、琉嬉さんは多分変わったんですよ。

いえ、変わったというより……気付いたというか…ああ、私も何言ってるんでしょうね?」

 頭を抱えて寧音も恥ずかしがる。

「ふふ、可愛いな寧音も」

「な、何を仰います…もー」

「ああ、寧音先輩!次で降りないと」

「あ、え?あああ、そうでしたね…では、琉嬉さん、來魅さん。また明日!」

 寧音と柚羽は同じ駅で降りる。

「ん。また」

 琉嬉も軽く手を振って二人と別れる。


 二人は無言のまま電車に揺られてる。

途中乗り換えをしてゆったりと座っている。

徐々に人が少なくなっていく。

それは琉嬉らの家が郊外だからだ。

ファミリー層も多く自家用車や自転車などで通勤通学してる人も多いからである。

それにこの日は元々日曜日。

休みの者が大半だろう。

仕事帰りっぽい人は少ない。

「……琉嬉。また妙な事考えおらんか?」

「何?妙な事って?」

「…お前様の事だからまた深くいろいろ考えておるのかなっと」

「子供に気遣われたくないよ」

 ぷにっと來魅の頬を人差し指で突っつく。

「むぐ。お前様より130年以上生きとるわっ」

「100年は封印されてたからカウントなしだろ」

「むぐぐ…それはそうだが…」

「あーあー。結局余計な行動しちゃったかな…。これもお寺の人間だからかな」

「そんなもんかあ?」

 いろいろと考えていた。

将来の事。

進学するか、それともお寺家業を父親の代わりに本格的にするか。

「でも……」

「でも?」

「や、なんでもないよ。ほら、降りるよ」

「んお?もう着くのか?電車とやらは早いのう」

 二人は電車を降りる。




「はぁー、疲れた」

「なんもしてないじゃんお前」

「じっとしてるだけでも疲れるものよの」

 小さな体を精一杯両手を広げて体を伸ばす來魅。

気持ちよさそうに顔もぐぐーっとくしゃくしゃにする。

「晴れたから良かった」

 持ってきた傘が邪魔になってしまう。

雨の日はこれがとても面倒でうざい。

折り畳み傘にすれば良かった。

琉嬉はそう思った。

「ふふん、それにしても……見ず知らずの他人のために動くとは、ほんっとお節介だなお前様は」

「…ふかしぎ部の課外活動って事でいいんじゃない?」

「なんだかがいかつどうって?」

「学校とかで規定されてない活動の事」

「ほむ。良く分からんがそか」

 解かってないのに納得しようと矛盾した事を言う來魅。

結局は別にどうでもよくそこまで興味ない。

「來魅こそそのレインコート脱げば?」

「寒いからこのままでいい」

「…子供かよ」

「見た目はな」

「…減らず口め」

 お互いにグチグチなにか言いながらも自宅へと戻って行く。


 途中で、近くの陽宵がいる神社を通って軽く顔を見て挨拶をする。

そしてやっと家に到着。

出迎えたのは母親の嶺珠。

悠飛と導はいないようだ。

もう気配やうっすらと感じる霊力だけで分かる。

「さて、腹も減ったし、飯でも食おうぞ」

「……もう何も言わないよ」

「おう?」


 家に入る前に今一度空を見上げる。

さっきまでの雨がウソみたいに晴れていて、日が沈むオレンジ色の空色になっている。

雨上がりの匂いと乾き始めているアスファルトの道路や、家の屋根、壁、庭の草木。

(こんな風景をいつも目の前で見てたのかな…?)

 ふと、あさみの事を思い出す。


 雨の日にだけ現れる少女の霊。

それは琉嬉にちょっとだけ特別な思い出となった。



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