#64 誕生日くらい楽にさせてよ
4月10日。
琉嬉の誕生日である。
18歳。
には、到底見えないくらい、幼く見える。
新しい学年になる度にすぐ誕生日を迎える。
そんな朝が来た。
「はよ」
寝巻姿の琉嬉。
半袖短パンという、非常に動きやすそうな姿だ。
「寒くないの?」
「…寒い」
「そらそうだな。まだ4月だしのう。はむはむ…」
パンを食べながら來魅が喋る。
「あ、琉嬉ちゃん、今日誕生日だね。おめでとう」
「あら、そうねー。おめでとう琉嬉ちゃん」
「あ、ああ…そういやそうだったかな…ありがと」
自分の誕生日を意識してなかった。
「18歳かー。うんうん。もう大人だね」
琉嬉の頭を撫でる導。
「んぐ…、子供扱いしてるじゃん」
大人と言ってるに頭を撫でる矛盾。
「ほうかほうか。琉嬉よ、お前様も大人かー。今の時代で18歳は大人扱いなのだな」
「どーみても大人には見えないけどね」
鋭いツッコミ入れる悠飛。
「うるせっ」
いつものようにうるさいと発言して、椅子に座る。
「ケーキ用意する?」
「そんなに気遣わなくていいよ…」
ちょっと面倒そうになる。
「ま、帰りを楽しみにしてるがいい」
なぜか偉そうに言う來魅。
「期待しないでおくよ」
学校。
普段の変わりない。
放課後の部活動。
珍しく集まりが悪い。
生徒会メンバーはいない。
生徒会自体が忙しそうだった。
みゆら一年生姿もない。
あれから前崎香那巳の姿はない。
虚しく入部届が手元にあるだけだ。
本当に入る気あるのか不明だ。
ガチャリと戸が開く音が聞こえる。
「あんれー?琉嬉ちゃんと悠飛くんと…双子ちゃんだけ?」
「まぁね」
見事に彼方家ばっかりだった。
その中に護がやってくる。
「みんな忙しいのかねー?」
「年度の始まりだからね。生徒会は忙しいでしょ」
「そっかぁ」
生徒会面子がいないと寂しい。
それはそうだ。
ふかしぎ部の半分は生徒会で構成されてるから。
「そーそー。護ちゃん。琉嬉姉、誕生日らしいよ今日」
「へー。そっかぁ。18歳?」
「そうだね」
「…ふふーん。そっかそっか……。なるほどねぇ」
納得したかのように琉嬉をまじまじと見つめる。
「これはこれは…合法ロリですなぁ」
「ぷふっ」
クールにしてる悠飛までも思わず吹き出す。
「あはは、合法ロリ!いいねその言葉!琉嬉姉合法ロリ…なるほどなぁ」
紫音が笑い転げるように大笑いする。
隣にいる莉音もなんとか笑いを堪えようとしている。
「うるせえぞこのやろー」
「いったぁい…」
「………」
「大丈夫?」
護と紫音は全力の一撃チョップを脳天に喰らった。
紫音なんて机に項垂れてる。
悠飛と莉音は免れた。
だがその恐ろしい光景に絶句。
「姉ちゃん、やり過ぎ…」
「人を馬鹿にするからこうなるのだ」
踏ん反り返って、スカートのポケットから携帯ゲーム機を取り出してすかさず始める。
3年生になっても部活動にゲーム。
随分呑気過ぎる気もするがそれが琉嬉流ペース。
まだ新学年度が始まったばかりというのもあるのだが。
「あら、誕生日なの?貴方」
ぼふんっと音を立てて現れたのは唯子。
「……幽霊っていうより、最早妖怪だね…唯子先輩」
「失礼ねぇ。それよりお誕生日おめでとう」
クスクス笑いながらもお祝いの言葉を送ってくれる。
「何笑ってるのさ」
「いや、だって……その容姿で18歳とか…嘘でしょ?」
「お祓いしてあげましょうか先輩」
「嘘嘘嘘、ヤメテお願いっ!」
「…皆してまったく……」
悠飛は首を横に振りながら呆れるのだった。
「や」
ガチャリとドアを静かに開けて入ってきたのは凛夢。
なんだかんだで顔を出しに来る。
「凛夢じゃん」
「来たらだめかしら?」
「いえ、そんなコト滅相も御座いません」
「……」
無言で椅子に座る。
何をするという訳でもない。
でも来る。
「素直じゃないのねぇ」
唯子がぬいぐるみに入って、クスっと笑う。
「あれ?先輩方、まだ居たんですね」
隆治も遅れてやってくる。
「すみません、遅れました」
さらに麗未亞もやってくる。
「あれ、今井君遅いね」
「いえ…委員の仕事がいきなりあって…」
「お、同じく…」
どうやら委員会の仕事が早速あったらしく、遅れたようだ。
だから生徒会の方もこの日は最初の会議があった。
なので部活に現時点では参加していない。
「そっかー、委員なんてあったねえ」
紫音が知らない風で言う。
「そんなわけないでしょ」
と、莉音が言う。
双子の掛け合いはいつも通り。
「あの…あ、いえなんでもありません」
何かを言いかけてやめる麗未亞。
「?」
みんな不思議そうな顔をする。
「言わなきゃ分からん事もあるのだよ?麗未亞ちゃん」
「いえ、本当になんでもありません。つい…」
「ふふふー。相変わらず控えめなんだから…麗未亞ちゃんったら」
紫音が不必要以上にいじり倒す。
「もー。困ってるからやめなさいって」
紫音の耳を強く引っ張る莉音。
「おー、さすがはお姉さんだね」
「莉音ちゃんの方がお姉さんなの?」
びっくりしたような顔で聞く護。
知らなかったようだ。
「一応ね。双子だからどっちかどうっていうのは本人達はあまりないようだけど」
従姉妹同士で幼い頃から育ってきた琉嬉と悠飛。
莉音と紫音に関してはさすがに一番理解している。
「ふー、やれやれー。お、今日は集まり悪いのか?と思ったら揃ってますな」
隣の部屋からやって来たのは龍翔だ。
「龍翔君、今日琉嬉ちゃんの誕生日だって」
「お?まじか。オレは三日前だったんだけどな」
「えー、そうなんだぁ、知らなかった」
「ま、言ってもどうこうするって話でもねえしな」
何やら自分の事はどうでもよさげな言い方だ。
「祝って貰えるだけありがたいよな…」
なぜか窓を見つめて遠い目をする。
(龍翔先輩何か嫌なコトでもあったのかな…?)
(そんな噂は聞いたコトないけどね…?)
紫音と護がひそひそと話す。
「さて、帰るか」
「えー。もっと遊ぼうよう~」
すがり付く紫音。
「遊ぶために部活してるんじゃないんだよ」
「いや、琉嬉姉ゲームやってたし」
当然のツッコミ。
「気のせい」
と言って、帰る支度をする。
「あれ、帰るん?」
他の生徒会の者達もぞろぞろとやって来る。
「時間が時間だし、今日は解散って事で」
「そうですねぇ。あまり長く残ってるのも迷惑ですからねー」
「おうおう、そうそう」
「まったく…みゆちゃんも言いたい事だけ言ってまあ…」
「へへへー」
どうやら、みゆは発言はすれど的外れな事ばっかり言ってるらしい。
せっかくわいわいにぎやかになったのに、帰る時間だと言う琉嬉。
面倒そうな顔をしている。
「琉嬉先輩誕生日らしいですよ」
柚羽が何気なく言う。
どうやら会話が聞こえてたようだ。
「え?琉嬉先輩誕生日なんですか?おめでとうございやす~」
「え?マジで?ほんまか?」
「おー、おめでとうございます」
「…そうなの?」
それぞれの反応。
そして琉嬉は益々嫌ぁな顔をする。
「僕の誕生日はどうでもいいだろ」
「よくありませんよ~。おめでたい日じゃないですかー!」
勢いよくぶつかるかのように抱きしめてくる寧音。
琉嬉は抵抗するのを諦めた。
これから小1時間無駄に誕生会として部室で盛り上がる。
「琉嬉ちゃん、一緒に帰ろ~」
「駅まではみんな一緒だろ」
「そうだけどさー」
実妹の悠飛以外で家の近くまで一緒なのは護だけ。
他の者はすぐ違う駅で降りたり別の方向だったり。
意外と家の方向がバラバラなのだ。
学校近くの駅でそれぞれの方向へ帰る。
その駅中で見覚えのある人物が。
「あ、センパイども」
「……なんだお前、わざわざ待ってたの?」
「ちゃいますよ~」
琉嬉、悠飛、そして護らが乗る電車のホームに行こうとした時だった。
琉嬉達の前に現れたのは、同じ制服の眼鏡をかけて髪を後ろにポニーテールのようにまとめ上げている。
いつぞやの新一年生の前崎香那巳が居た。
「偶然ですよー。そんなに睨まないでください」
「睨んでないよ。元からこんな目だ」
「あははは、そうでしたっけ?」
ちっとも臆する事もない態度。
むしろ堂々としている。
「あー、えっと…なんだっけ。あの、」
もの覚えの悪い護。
頭を抱えてまで必死に思い出そうとしている。
「前崎香那巳です。ふかしぎ部に入りたいんですけど…ね?」
「却下」
「そんな~。なんでですの?」
「だってお前怪しいもん」
「そ、そんな~」
わざとらしい演技。
手振り身振り大袈裟で感情を表現する。
地味な見た目と相まってなんかシュールだ。
「…ケンカふっといてよく言うよ……」
「え?何のこと?」
悠飛がキョトンとする。
「いや、こっちの話」
「今日はお帰りですか?」
しらじらしく聞いてくる。
「そうだよ。お前こそ何やってんのさ」
「いえ、人と待ち合わせですー」
独特の関西弁ぽい音の上がり方で喋る。
叉羅沙とはどことなく違う感じがすると方言を知らない琉嬉でも感じる。
「そうかい。それじゃ僕らはお邪魔だね」
「いえいえいえ、そんな事あらへんですよ」
構ってくれとばかりの言い方。
「……なんなのさ」
短気の琉嬉。
イラついてるのが目に見えて分かる。
「まぁまぁ。いーじゃん。ね?」
護が慌てたように割って入る。
「あのさ、前崎さん。姉ちゃんこんなんだからさ。あまり関わらないほうがいいと思うけど…」
あまり琉嬉のフォローになっていない悠飛の発言。
「知ってますよ?凶暴な天使やったけ?」
「そうそう、凶暴な天使」
「学校来てすぐ話題に出とったよー?転校初日でなんか停学になったとかなんとか…」
「黙れ」
ついに手刀が香那巳の頭に落ちた。
「たたた…酷いです…センパイ」
「いらんこと言うからだ」
ご立腹。
本人も実は結構あだ名になった出来事を気にしてるようだ。
天使なのに凶暴。
矛盾かした内容のあだ名がどうも気に入らない。
可愛らしいイメージを持つ天使だけならまあどうにか。
でも凶暴というのがどうも腑に落ちない。
「すんません。でもね」
「?」
「センパイは思ったより有名ですから、気ぃつけといてくださいよ?」
「ハイハイ。気を付けますよ」
適当に返答して、先に階段がある方向へ歩き出す。
反対のホーム側行くのに一旦上の通路を通る必要があるからだ。
「で、目的は何?」
すれ違いさまに小さい声で香那巳に聞く。
「センパイの、力狙ってる方…妖怪だけじゃありませんからね?」
「…忠告ありがと」
ツンとした表情で一応の感謝の言葉を述べる。
「はぁい、また明日」
軽く手を振る香那巳。
「…ごめんね。じゃ」
「琉嬉ちゃーん待ってよー」
悠飛と護も追いかける。
「ちぇー。一筋縄でいかへんお人やな」
ボソっとついつい口に出してしまう。
琉嬉達が行ってしまうと途端に静かになる。
(でも少しはお近づきになられたかな~?)
スマホを取り出して誰かに連絡を取り始める。
時間は丁度夕刻の6時手前。
学生達よりも仕事帰りの社会人達の姿が増えてくる。
「あ、もしもしー?ウチですよー。ふんふん…そや~………」
誰かと会話しながら別のホームへ向かう。
香那巳の言葉が頭にこびりつく。
力を狙ってるのは妖怪だけではない、と。
その意図する意味は…なんとなく思い当たる節がある。
――桜月。
緋黄寺、つまり彼方家に接触を試みに来た。
おそらく真霊気の力を知ってるうえでの、行動だろう。
霊術会に引き入れたいと願って来たらしいのだ。
(まさか…ねえ)
自分の身にも降りかかってくる…そんな予感がする。
「…何?」
琉嬉はじっと悠飛の顔を見つめながら器用に歩く。
「いや、お前は……真霊気ないから大丈夫かなって」
「…どういう事さ」
「んー。こういう事かなあ」
気がつくと、駅前の通りとは思えない程ガランとしていた。
人通りがまったくないのだ。
「あー、やれやれ。またこれか」
「…幻術?」
彼方姉妹は二人して面倒そうな顔をする。
「妖怪?」
「かもね」
姿は見当たらない。
よくある手だ。
自分の姿を見せずに戦おうとする者。
そういう奴に限って、案外弱かったりする。
でも広大は敷地での幻術。
なかなかの使い手である。
「あー………でももういいかも」
「へ?」
琉嬉が親指で差した方向。
ひょこっと小さな女の子の姿。
「やおー。お帰り」
來魅だった。
來魅が片手に引きずってるモノ。
妖怪だった。
「もう片付いたの?」
「んむ。急に幻術の匂いしてな。せっかくの買い物が出来んくなるだろ?」
「たしかに…」
ドサッとその場に投げ捨てる。
妖怪は人型に近く、その辺に居そうなチンピラ風な男性のような姿をしている。
うまく人間界に紛れ込むタイプのようだ。
「來魅が倒したの?」
「ふむ。琉嬉を狙ってたようだの」
「やっぱり?」
「うむ。真霊気がどうのこうのって…」
琉嬉はしかめっ面をしながら腕を組む。
無言ながらも頷いてる。
「やられるって分かってるのに襲うとしてるんだね…バカじゃないのコイツ?」
悠飛が珍しく毒気ある言葉を出す。
「はっは。琉嬉の前にやられてしまったようだがな」
笑い飛ばす來魅。
「そりゃそうだ。お前に勝てる妖怪なんて殆どいない。
でもそろそろ來魅が僕と一緒にいるって話が完全に広がってると思うんだけどさ」
「どうだろな」
いい加減情報が伝わってると思いたい…。
でも思うように伝わってないのだろうか。
度々琉嬉を狙ってくるのがいる。
ましてや家の近く。
來魅がいる確率が高いというのに。
「狙うんなら学校とか、登下校だよねー?」
「学校はだめだろ。僕の他に護とかみゆとか強力な術者が他に10人くらいいるんだよ?」
「あー。だよねぇ」
幻術はすっかり解けてるので人の往来が復活していた。
そして妖怪は來魅がどこかに投げ捨てて来た。
妖怪には妖怪の情報網がある。
今はどうかは分からないが來魅は当時を振り返ってそう言う。
間違って伝わってる話もあるという。
今はネットという情報の発信もあるから多少はマシになってる…と言うが。
帰る前に途中のスーパーに寄り道…ではなく買い物のお手伝い。
來魅は家事の手伝いをしながら居候してもらっている。
普段の行動は人間となんら変わらない。
見た目が子供なので時々警察官などに補導されかかったりするらしい。
「面倒だぞー?あれは。ま、私の上級なる変化の術で誤魔化せるがな」
「だったら最初から大人バージョンでいるとか、別の人間の姿に変身すればいいんじゃないの?」
「お、おー。なるほど。その手があったか」
「…意外と抜けてるんだね…來魅って」
「お子様だからな」
「誰がお子様だ。お前様こそお子様だろ」
「ざーんねんー。今日で僕は18歳です。大人の仲間入りです」
「なぬ?人間は20歳で大人じゃないのか?」
なんとも低レベルな言い合いに。
いつもの光景である。
「エロゲーも出来る年齢だっ」
なぜか胸張って言う。
ゲーマーならではの発言なのだろうか。
いささか、容姿と相まって説得力がない。
「えろげーとな?」
「名称の如く!エロをメインに置いたゲームである!」
「おおっ…それは厭らしいものよの」
エロという単語は理解してるようである。
「姉ちゃん…店中で変な事大きな声で言わないで…」
悠飛が恥ずかしさのあまり、二人の口喧嘩を仲裁に入る。
途中から口喧嘩ではなくなってはいたが。
「フフフ、18禁のゲームが出来る年齢になった…。これでようやく全てのジャンルのゲームを…」
「ちゃんとそこは守ってたんだね…」
「ほむほむ、それは気になるのう」
興味津々となる來魅。
ちょっとだけ呆れる悠飛。
來魅はよく理解してない様子。
ただ、悠飛は琉嬉の見た目じゃ多分最初買えないだろうなぁ…と、考えてた。
買い物も終わり、3人で帰る道程。
「歩くのも面倒だよねー。駅まで自転車にする?」
「でも冬は乗れないよ?」
「んー。新しい自転車欲しいしな…」
「はは。お前様見かけによらずすぽーつまんだな」
「女だからスポーツウーマンて言いなさい」
などとまた言い合いが始まるような会話をしながら進む。
「なんだ?」
琉嬉が違和感に感づく。
途中まで3人で歩いてた筈である。
今はなぜか1人だ。
突然である。
(……まさか、來魅も一緒に居た筈なのに…それを掻い潜った?)
とはいえ、來魅も完全ではなく、普段琉嬉の封じ術である程度妖力を抑えられている。
それを抜きにしても來魅と別々にされた事に驚く。
(立て続けに刺客か…?)
勝手に自分を狙ってくる者を刺客と捉える。
まるでゲーム感覚。
そうでも考えないとストレスが溜まるからだ。
「おーい、ゆうひー。らいみー。みんなー」
誰も答えない。
また先程の似たような幻術だろうか。
近くの公園。
風が吹きまだ芽が出たばっかりの木の枝が揺れる。
明るさはまだある。
でも徐々に陽が沈んでいく。
「はー。何度も使いたくないんだけど…出来れば使わずに…いきたい」
左手の数珠に手をかける。
でも何かの気配に気づき、動きを止める。
「あ、っそう…そう来たか」
一人の男が歩く姿が住宅街の奥から見えてくる。
黒ずくめの服。
レザーを基調にしたような服。
「何の用さ。わざわざここまで来て」
「すまないな。ちょいとおこぼれをもらおうと思ってここまで来たんだがな」
その顔は見覚えのある、しかめっ面。
源聖樹だった。
「なんでアンタが…?」
「おう。久し振りだな。ところで一人か?」
「はっ?」
「言ったままでの話、さ」
眉間にしわを寄せたまま話す。
修学旅行の時に偶然居合わせた。
そして今度は鞍光でバッタリと出会う。
いや、偶然にしては出来過ぎだ。
何か裏があるような気がする。
そう考えるのが妥当。
それに「一人か?」という質問。
「そうかい」
琉嬉は聖樹と同じ方向に視線を移す。
そこには大きな霊気を感じる。
「ようやく掴んだぜ…」
聖樹は勢いよくそちらへ走って行く。
「…説明なしかよっ!相変わらずだなっ!」
イライラ度が最高潮になる。
面倒だから追いかけてこの目で確かめる事にする。
「逃がさないと言っただろう?」
「ぐっ……」
聖樹が追い詰めたのは一人の人間だった。
何やら事情があるようだが。
「……僕にさっぱり」
「フフッ。まあ手伝ってくれよ」
「…なんなんだよまったく…」
ブツクサ言いながらも御札を取り出した。
「巻き添えは勘弁だし」
「ほむ。琉嬉のやつがいない…そして悠飛もいない」
辺りを見回す。
誰もいない。
というか、よくわからない森中にいる。
いつの間にか飛ばされたようだ。
「…ふむ。やはり力を抑えられてるからか。しかも先程の妖怪の術より厄介かの」
幻術とは違う。
何やら特殊の力で飛ばされたようだ。
なんとなく見た事ある風景ではある。
近くの山の中のようだ。
「どうしてここまで飛ばされたのか……。よくぞこの私をこんな目に…フフフ」
ちょっとだけ楽しくなる。
「だが異空間では無さそうだ…」
車の音は聞こえる。
「現実」の世界なのは確かだ。
クンクンと空気の匂いを嗅ぐ。
どこかからの家の夕飯の香りだろうか。
美味しそうな匂いがする。
「ふむ。飯まだだしな。腹も減ったし、少しだけ本気出させてもらおうか…」
その場から凄まじい勢いで飛び立つ。
そして悠飛。
悠飛は無言で立ち尽くしていた。
あまり見た事のない、どこかの路地裏。
駅通りの近くだろうか。
踏切の音が聞こえる。
結構遠く離れた所のようだ。
「……妖怪の術か?」
兎も角、琉嬉達とはぐれた場所を目指すため走り出す。
「終わった?」
琉嬉は退屈そうに近くのベンチに座って足をブラブラ。
口にはペロペロキャンディー。
美味しそうに食べてる。
「おう」
聖樹の手には何か持っている。
「何それ」
「…霊具さ。最近やたらと目に付く物だ」
「…………あー」
琉嬉も何か思い当たる。
悠飛がまだ中学生の頃。
いろいろあった。
隆治も使用していた。
「これを利用した行いが最近多い。
これを取っ捕まえておけば報酬も貰えるってものさ」
「報酬?霊術会?」
「そうだな」
「…ふぅん」
眉唾もの。
霊術会からの報酬?
琉嬉にはよく分からない話。
「ここ一年くらいか。妙な霊具を使った事件事故が多い。
報酬出す代わりにこれを鎮静しろという話があってな…」
「へー。でもあんた霊術会の人じゃないじゃん」
「まあな」
聖樹の発言。
聞いた事ない話を聞く。
「それじゃ、またな」
「……もう行くの?」
「ああ。こう見えても忙しいんだぜ」
「あんたが言うと嘘くさい」
「ははは、それにしてもまったく変わらないな。琉嬉」
「さっさと帰れ!」
聖樹の尻を軽く蹴っ飛ばす。
それにビクともしないでそのまま歩き去って行く。
「なんなんだ毎回……」
まったくもって理解出来ない言動。
マイペースさはトップクラスだろう。
「あ、姉ちゃん」
「ん?」
「何が起きたの一体?」
「んー……。元凶はあれかな」
琉嬉が口に含んでいたキャンディの柄を電柱に差す。
「げっ」
げっと声を出したのは一人の人間の男。
急いで逃げ出す。
「…アイツ、犯人が二人居たってコト知ってるのかな?」
「アイツ?」
悠飛にはまったくわけが解からない。
「追いかけるか」
「あー、待って」
「待てって言ってるだろ?」
「ぐへっ…」
「誰この人?」
琉嬉が捕まえた男。
それなりの術は使えるようだ。
だがあっけなく琉嬉に取り押さえられた。
「來魅は?」
「わかんない」
「そっか。どっかに飛ばされたのかやっぱり」
「飛ばされた?」
「お前がやったのか?」
捕まえた男の襟を掴んで力任せに揺さぶる。
「あぶぶぶ…」
「姉ちゃん、あんまり揺すると気絶しちゃうよ」
「…それもそか」
バッと手を突然放す。
そしてそのまま地面に頭をぶつける。
結局気絶した。
無理矢理頬を叩いて男を起こした。
半分脅しかのように、男から事情を聞く。
「霊具ねぇ…。どっから仕入れたの?」
「知らねえよ…アニキが使ってたんだ…」
「へぇ…」
男はどこかの組の者だったらしく、裏ルートで仕入れた道具で悪さを繰り返してたらしい。
その霊具は聖樹が持って行ってしまった。
「誰から貰ったの?」
「し、知らねえよ!アニキが仕入れて来たんだから…オレは何もしてねえっ!」
「ふぅん…。なんかよくわかんないけど、「ナニカ」が絡んでるのは間違いないね」
琉嬉が後ろを振り向く。
「わっと、見つかってもうた」
「あ、前崎さん?」
「どもー」
前崎香那巳がまたもや姿を見せた。
「お取込み失礼ですけどー、その男こっちに渡してくださいな」
にこやかに引き渡して欲しいと言い出す。
「ひっ…なんなんだお前等?普通の小学生じゃないのか?」
「誰が小学生だコラ」
琉嬉は思いっきり男の頭をチョップした。
そしてそのまま気絶した。
「やり過ぎ…」
悠飛がボソっと呟く。
「なんにせよ捕まえるの仕事が減って良かったですわ~」
「…何?源聖樹と組んでるの?」
「あはは、その名をよくお知りで」
「いい加減にしてほしいよこっちも。一体何が起きてるのさ」
ジリッと変な空気が流れる。
人通りがあるのにも関わらず、気にしないで睨む琉嬉。
変な緊張感が生まれる。
時々こちらを見る人がいるが、異様な状況に目を反らしてそのまま去って行くのがチラホラと。
陽は大分沈んでいる。
「はぁー。それはそうと、ほんまセンパイってこういういざこざ話に良く出てきますよね。なんでやろね?」
「それは僕が聞きたいくらいだね」
「ふふ。黙っててもしゃあないか。
ウチらはこういう霊術を駆使した事件を追い回してる…って事だけでええですか?」
「だからふかしぎ部に入りたいって?」
「そそ。物分かりええですね」
不敵な笑み。
きっと、奥底では別の目的がある。
でも敢えてそこは問い出さない。
どうせ聞いてもしらばくれて教えてくれないからだ。
「そらまたなんで鞍光高校に来たのさ」
「あ~、それはですねぇ。ここが世界でも有数の心霊スポットとでも言うんですかね?
だからこちらを目指しました」
「…僕よりよっぽど物事に詳しい訳だ」
自分は逆にあまり鞍光以外から出ない。
だからこそ情報も入って来ない。
今でこそ、他の五大家や霊術名家と一緒になっているからある程度の話は入ってくるが。
基本的には普通の生活をしてきてる。
ようするに、香那巳もふかしぎ部に居ればいい情報は入る。
そう考えてるように琉嬉は思えた。
「ねえ、この際だけど、テストしてみる?」
「テスト?」
琉嬉が唐突に言い出す。
「うん、テスト」
(姉ちゃん何を言い出すんだ…?もしかして今井君や成田河さんみたいな事?)
隆治や麗未亞に対して行った入部テストみたいなやり方。
でも香那巳は既に術者だっていう事は分かっている。
これ以上なにをテストするのだろうか、と悠飛は疑問に思った。
「僕と戦ってみて、それで決定する。おっけー?」
「……はぁ?何言うてますの?彼方センパイ。いくらなんでもそれは…」
「僕と戦って、僕を認めさせたら入部させてあげる」
鞄から何気なく取り出した紙。
それは香那巳がだした入部届だった。
「あ、それウチの…」
「それとも入部出来なかったら困る事でもあるの?」
「…あー。んー。そういう訳やないんけど…、困ったわぁ。今困ったわぁ」
「姉ちゃん…」
心配になる悠飛。
「で、行くよ」
そして突然香那巳に襲い掛かる琉嬉。
「わっと!マジですかー、こんな住宅中で」
「問答無用」
沢山の御札を放つ。
香那巳は難なく避けていく。
わざとなのか、辛そうな表情をしてる割には余裕がある動き。
(只者じゃないね…)
悠飛は香那巳の動きを見ただけで、普通ではないというのを分かる。
くえないタイプ。
例えば…みゆみたいな。
そういう雰囲気を持っている。
「ほらほら、当たっちゃうよー」
御札をばら撒くように香那巳に向って放っていく。
「うっひゃ!大量やー」
うまい具合に避けたり、小さな紙を出して相殺したり。
香那巳は奥の方へ逃げ込む。
というより琉嬉を誘ってるようにも見える。
「せいせいせいっ」
しつこく攻撃する琉嬉。
「あちゃー、まんまとハマってもうたわ」
反撃に転じる。
突然向かっていた方向を変えて、琉嬉の方へ突撃してきた。
「あら、そう来ますか」
香那巳の掌底。
琉嬉は両腕を交差させてガードする。
「本気出してもいいんだよ」
ガードしながら器用に蹴り上げる。
見事に命中してしまう。
が、香那巳はなんとか仰け反って直撃を避けた。
「なるほどぉ。後輩いびりってやつですか~?琉嬉センパイったらぁ」
「ふふーん。先輩相手は不服か?」
なぜか煽る。
琉嬉もちょっと笑う。
「その手にはノりまへんよー」
わざと挑発して相手のペースを乱す。
そういうせこい手を使う。
琉嬉も案外嫌いではない。
香那巳もどこかひょうひょうとしていて、相手のペースには乗らない性格のようだ。
「でーもさ、人間どうしてもやらないといけない時は…やらざるを得ないよね」
両手に沢山の御札。
琉嬉はそれを空中にばら撒いたと思ったら何かの念じると、自在に御札を操る。
「うそぉ?!それ…自在に操れるんですかぁ?」
「嘘くさい演技だな」
「わっわっわっ…、ほんまですって、びっくりしてますって」
その言葉もどこまで本性なのか。
でも琉嬉も琉嬉で表情をあまり変えずに淡々と攻撃し続ける。
お喋りたおす香那巳。
淡々と暗い喋り方をする琉嬉。
両極端な二人の戦い。
「ふむふむ。何やら楽しそうなコトしとるの」
「來魅…」
二人の戦い。
いつの間にか場所が近くの人気のない公園辺りに。
香那巳が上手く誘い込んだのか。
逃げ回りながらも辿り着いていた。
「ふむ。あのメガネの娘っ子、なかなかやりおるの」
「てか、來魅も吹き飛ばされたの?」
「うむ。そうだな。霊具とか言ったかの?あれは恐ろしいものよのう~。この私まで簡単に吹き飛ばすとはな」
「…飛ばされた記憶ある?」
「ない。だからそれが恐ろしい」
「……だよね…」
二人が飛ばされた記憶がない。
気付いたら近くではあるが、寸前までいた場所から離れた所に飛ばされていたのだ。
「幻術の一種だろうが…確かにこれを放って置くのも恐ろしい話よの」
(こんなのが素人が簡単に扱える事になると…いずれ大事になる…)
それを察してなのか。
霊術会側も動いてる。
しかも報酬付きで。
それを追った者達もいる。
「あっちはあっちで楽しそうだ」
「そう?」
戦いは白熱していた。
無駄に白熱していた。
「んもー、琉嬉センパイったらぁ…」
香那巳が動きを止め、何かの動作に入る。
でも琉嬉はそのまま攻撃を仕掛けていく。
「しつこいの嫌いじゃありませんよー」
ドンッと急に大きな霊気が溢れだす。
香那巳の体の回りを覆っている。
琉嬉の御札がその霊気に触れるや否や、燃え尽きていく。
「……ほぅ」
「ちょいとだけ本気出しますよん」
そして琉嬉目掛けて走って行く。
「望むところさ」
迎え撃つ琉嬉。
(防御を兼ねた霊撃攻撃?)
ブーストされた動き。
香那巳は格闘技も出来るようで、無駄のない動きをしてくる。
「早い…けど」
琉嬉も負けじと、反撃。
「僕もね、武術は負けないように特訓はしてるんだけどね」
「…ほんとか?」
「さあ?」
來魅と悠飛は不思議そうな顔をする。
特訓してるような様子は見られないからだ。
でも香那巳に負けないくらいの動きをしている。
さすがにリーチの面で負けているので徐々に押されててはくる。
「センパイ、なかなかやりますね!でもウチの方が多分強いですよ」
「ばかやろー、それは体格のせいだっ」
攻撃がクリーンヒットしてもダメージが通らない。
おそらく全身の覆ってる霊気のせいだ。
それが防御壁のような役割をしている。
妙に小賢しくて利に敵ってる術。
攻防一体となってる優秀な術とも取れる。
「あら?あらあら?あららら?」
戦いを眺めてる二人の後ろから大人の女性が聞こえて来た。
悠飛の耳には聞き覚えがある声質だった。
バッと振り向くと、スラッと背の高めの金髪女性。
「ルナさん?」
悠飛とはなぜか縁のあるルナフラワードだった。
「ごきげんよう。大きな霊気の乱れ感じたから何かしらと思って」
「見ての通りです」
奥を指差す。
戦っている二人。
「あら、琉嬉じゃない。もう一人の子は…同じ制服ね。ケンカかしら?
「あれがケンカのレベルに見えますか?」
呆れたように言う悠飛。
「ん?妖怪か?」
來魅がルナの隠された妖気に気づく。
「あらやだ、おちびちゃん。妖怪だなんて…否定も出来ないけど肯定もしないわ」
どうも曖昧な表現だ。
「なんなのだ?こやつは?」
「あー、んー。なんていうか…」
「もしかしてこの子が噂の狐の妖怪?」
「お?知っとるかの?」
「まぁ、この辺の妖怪で知らない者はいないとは思うけど」
滅多に会わないルナフラワード。
「フフン。有名なもんだな。私は」
「あまり良い事じゃないと思うけど…」
どうも勘違いしてる來魅。
いちいちツッコミ入れるのも大変だ。
「で、なんで戦ってるのかしらねえ?」
「…うちの姉の性格知ってますよね……」
「まあね」
当然のように笑みを浮かべる。
「オラオラー!これならどうさ!龍神符!」
どでかい霊気の塊が香那巳を狙う。
まるでうねる龍のように。
「わ、まじか!こんなの受け止められへんやん~」
そう言ってかすりながらも避ける。
どうにか当たるまいとその辺を激しく動き回る。
その間も琉嬉は何か念じている。
「はちゃー。どんだけ霊気容量持ってるんですかい。センパイは…」
でも香那巳も負けていない。
スカートの中に両手を入れ、何かを取り出す。
「む?」
スカートの中から出てきたのは銃。
それも、両手二丁。
拳銃タイプだ。
回転式ではない。
「本物?」
「まさかぁ。モデルガンですよー」
「チッ…そう来るか。本来のタイプは遠距離かっ!」
「その通りっ」
琉嬉は急いで防御壁を張る。
ガンガンッと防御壁に銃弾が命中する。
なんとか防いではいるが、徐々に防御壁が崩れていく。
香那巳の持つ銃からは普通の銃弾ではない。
ましてはモデルガンのBB弾のような弾でもない。
霊気の弾だ。
それも超高速。
これを避けるのは、無理と判断した。
「うわ…、マジかいよ…」
木に隠れる琉嬉。
まさかの飛び道具攻撃のうえに、超高速で放たれる霊気弾。
「あらあら、一気にピンチね」
完全に傍観者のルナフラワード。
ずっとニヤニヤしながら観ている。
そして同じように傍観状態の悠飛と來魅。
「おお、あれは銃か。なんとも近代的な霊術攻撃だな」
関心する來魅。
「100年前でも銃はあったんでしょ?」
「あったにはあったが、使う者など私の記憶の中ではあまりおらんかったのう」
「そうね。妖怪相手には殺傷能力は低いから…」
「あー。それ、納得します」
「でしょ?」
などと、完全に面白半分で観てる。
「ふふー。本物なんて持ってたら捕まってしまうますよー。そして重たいし。
ちなみにコレ、モデルガンやけど改造してる霊具の一種ですよ~」
「まったく、ベラベラ喋る女だな…。そっちがそう来るなら…」
琉嬉は木の上に飛び上がり、木から木へと移ってゆく。
「うほ、なんや猿というより猫みたいやな~」
狙いを定めて撃つ。
動いてるのにも関わらず命中精度がいいのかなんなのか。
霊気の銃弾は動きを捉えて琉嬉の体をかすっていく。
「…これならFPSもっとやっとくべきだったかな」
ゲームの種類に例える。
凄まじい銃弾が琉嬉を襲う。
なんとか防御壁を張りながらも移動し続ける。
(くそー。霊気だから弾数制限はアイツ自身の霊力じゃないか…ほぼ無制限と考えていいな…)
そう。
実弾ではないので、ほぼ無限に発射出来る。
厄介な攻撃方法だ。
別に霊具を通して攻撃する者は珍しくはない。
銃もまたしかり。
だが、拳銃タイプでここまで強力な霊力を駆使した攻撃する人間は琉嬉は見た事がない。
自分に命中しなかった銃弾跡をみるとかなりえぐれている。
威力は普通の銃と変わらないように、鋭い威力のようだ。
「センパイー、逃げてるばっかじゃダメですよ~。まあ、逃がすつもりあらへんけどね」
ニヤッと一段と強く笑顔になる。
そして近づくように香那巳も走り出す。
「あ、奥へ行っちゃうわよ」
「追いかける?」
「んー。一応…」
「妹…じゃなくって姉想いね」
「今間違えたでしょ、ルナさん」
「ふふふ、気のせいよ」
気のせいと誤魔化しながら、三人は追いかけた。
予想外だった。
地味目な眼鏡っ子だから地味な攻撃方法だろうと失礼ながら勝手に思ってた。
予想外の武器、しかも銃使いだとは思ってなかった。
「にゃろー……、油断してた訳じゃないけど…想定外だったな…でもね」
琉嬉はかなりの勢いを付けて木から飛び降りた。
しかも香那巳の方目掛けて。
「お?そう来ます?銃だからって接近戦が出来ないって訳じゃぁ、ないんやでっ!」
銃を起用にクルクルと回して何やら銃から刃みたいなのが出現した。
霊気の刃のようだ。
でも琉嬉は構わないで突っ込んでゆく。
「…正気ですか?」
「正気も何も、僕は至って正常だよっ」
最後のだよっの部分がつい強くなる。
琉嬉は左手を前に出した。
数珠が外れてた。
「なっ……?!」
左手から真霊気を発した。
香那巳の霊気の刃が掻き消える。
琉嬉はそのまま左手で銃を掴む。
だが片っぽだけだ。
「ぐっ…それが噂の真霊気ですかっ。でもまた片方残ってる!」
「それはさすがに想定済みっ!」
銃を向けた瞬間だった。
もう片方の銃の銃口にいつの間にか御札がくっついてた。
「んなっ?!」
撃とうとしても霊撃が放たれない。
「呪束縛…てやつさ」
「じゅ、なんやって?」
ついつい聞き返してしまった。
そして琉嬉は左手で銃を抑えたまま、飛び上がって、右足で香那巳の頭めがけてキックをした。
「うぶっ…」
が、届かずに腹部に当たった。
防御霊気は解かれていたようでいとも簡単にダメージを与えたようだった。
「センパイ…女の子のお腹は大事にせんとだめや~…」
「僕も女の子ですけどね」
そう言うと琉嬉は掴んだ銃ごと、香那巳を一本背負いのように投げ飛ばした。
しかし香那巳は体が地面着くと同時に、何かを口から飛ばした。
「おっと」
琉嬉は間一髪、手のひらで受け止めた。
「ちぇっ、当たらんかぁ…。なんつー反射神経…ホンマに強い人やね」
「含み針?」
琉嬉の手のひらに針みたいなのが刺さっている。
そして出血…はしているがその針はフッと消えた。
「針なんか口に入れませんよ。それも霊気」
「だねぇー。小細工な攻撃…やるじゃん」
「くふふ、褒めて頂いてありがとうございます」
「あちゃー。見失ったかのう?」
「ちっさいから見つけづらいんじゃない?」
「この金髪女、失礼な事言うのう」
「まあ本当の事だけどさ」
「それはお主らが背が高いからだろう?」
來魅はともかく、二人は身長は女性ながら170cm以上。
女性にしては高い方だ。
「あら、あそこじゃない?」
ルナフラワードが二人に気づいた。
琉嬉は手をパンパンッと叩いてる。
出血は止まっている。
「ふーっ。お前、強いね。僕に真霊気使わせるなんて、さすがだ」
「それは光栄です」
香那巳も銃を仕舞って、立ち上がる。
双方とも戦いを終えたようだ。
「ホンマはこっちから仕掛けようと思ったんですけどね」
「それも嘘くさい」
「ハハ、信用ないなあウチって…」
眼鏡をかけ直す。
「それにしても…真霊気、あかんでしょ。反則ですよそれ」
「そうな。それは僕も思う。ゲームでいうとチートみたいなもんさ」
「チートねえ。ホンマチートや」
「でも使えるんだから仕方ないじゃん」
「…そらそやな。で、どうでした?入部テストは合格ですか?」
入部テストという名目で、琉嬉から戦いを挑んだ。
結果的にはお互いに手を引っ込めて戦いを終えたのだが。
完全な決着はつかず。
「ま、合格だよね。強さ的には。認めるよ」
「マジですかー?それはありがたいですー」
「にぎやかな女だねお前…」
「見た目と違うってよう言われます」
「なんか終わったみたいだね」
「そうね。それにしても面白いの観れたわ。じゃ、私はここで」
「お?帰るのか?」
「そうね。琉嬉によろしく言っといて」
満足したのか、結局琉嬉とは話さずに帰って行く。
鞄を持っているので何かの帰りだったのだろうか。
こう見るとちょっとセレブな外国人女性にしか見えないのだが。
「…働いてたのかな?」
変な疑問が湧いてくる。
「あんな女はよい。ほれ、琉嬉の所に行くぞ」
「あ、うん」
悠飛の手を掴んで強引に引っ張る。
二人はまだ対峙している。
お互い武器も持っていない。
もう戦いはないと考えていい。
悠飛がそう感じた。
「何が目的か知らないけどさ、あまり変な事考えないほうがいいよ。
ふかしぎ部って、お前と同じレベルの術者の集まりだから」
「それは肝に銘じてますよー」
「……ったく。まどかみたいに底が見えない女だね」
「くふふ、それはどうも」
「おい、早く帰るぞ。けーき食べたいぞけーき」
來魅がもう腹ペコのようだ。
時刻は既に7時半。
結構時間が経ってしまった。
「ゲッ、父さん母さん待ってるなきっと…」
「だねー」
「ケーキ?そらまた美味しそうな話ですね」
「おう、誕生日にけーきという甘くて美味しいすいーつを食べるのが今の日本の誕生日の楽しみ方だそうだ」
「…誕生日ですか?あ、そういえば彼方センパイの誕生日でしたね。今日」
「お前なんで知ってるんだよ」
「あはは、調査済みですよ♪」
「…気持ち悪いな本当に」
香那巳の気味の悪さに呆れ返る。
「では、また後日~」
「はいはい」
香那巳はその場から消えるように、一瞬にして姿を消した。
「なんなんだ一体…?」
悠飛には訳が分かってない様子。
「僕もなんなんだって思うよ」
自宅に戻って来た琉嬉達。
母親の嶺珠が一言。
「またオバケ退治?泥だらけじゃない~。お風呂湧いてるから入って来なさいね」
優しく言われる。
それが逆にちょっと怖い。
「はぁい」
取り敢えず言われるまま、お風呂に向かう。
「あれ、父さんは?靴はあったから帰って来てはいるんだよね?」
「え?ああ、そういえばお風呂入ってると思ったわ」
「…え?」
父親の導。
湯船に浸かってゆったりとしてる。
すると突然ガラッと戸が開いた。
「わわ?!なんだぁ?」
弱い視力なので目を細めてなんとか頑張って見てみる。
「あれー。父さんじゃん」
「る、琉嬉ちゃん?!」
「あー。うん、失礼するよー」
気にせず入ってくる。
「こらこら…年頃の娘が父親入ってる時に来るんじゃない」
「いーじゃん別に」
琉嬉の方は気にしない。
逆に父親が焦るしまつ。
「やれやれ…久しぶりに親子で入るのもいいか」
「どうせ、子供みたいな体つきだし。問題ないでしょ」
「……ううむ」
一緒になって湯船に浸かる。
「前入った時はいつだっけ?」
おそるおそる聞く導。
「…二年くらい前?」
「そ、そうだったけ…?」
父親が照れてしまう。
二年前といえども、琉嬉はもう高校生だった筈だ。
「ああ、そういえば琉嬉ちゃん誕生日だったよね。もうケーキ食べた?」
「夕食すらまだ食べてないよ。まったく…誕生日なのにいろいろな事あって…大変だった~」
珍しく疲れた様子を見せる。
「大丈夫かい?」
「…うん」
顔半分を湯につけるようにわざと沈む。
「でも琉嬉ちゃんも18歳かー。立派な大人…と言いたいけど」
改めて琉嬉の、娘の体型を見る。
直視はしないが、小さくて平坦で、綺麗な肌で。
「はいはい。どうせお子様体型ですよーだ」
「そ、そんな事思ってないよ…(やれやれ…)」
「ふんだ」
「琉嬉ちゃん。確かにね…、親としてもちょっと心配してるのも本当だけどさ。
琉嬉ちゃんも今日で18歳。
次は20歳で成人となる。
順調に成長してて、親としては嬉しいさ」
「……うん。ありがと」
今度は琉嬉が照れくさそうにお礼を言う。
「悠飛ちゃんは中学あがる前からもう嫌がってお風呂一緒に入らなくなったなぁ」
しいじみと思い返す。
「…あっちは僕と違って発育が良いですからねー」
いやみったらしく言う。
自虐も込めて。
「ごめんごめん、そういう意味じゃくて…」
「ふふ、分かってるよ父さん」
「…やれやれ。琉嬉ちゃんには敵わないね」
「しっかし、仲の良い親子だね…」
悠飛がぽつりともらす。
「お主も一緒に入って来たらどうだ?」
「な、なんで私が…」
「恥ずかしいわよねえ?」
嶺珠が微笑みながら理由を言う。
「そうか?」
「そうだよっ。こう見えても年頃の女ですからっ」
女だという事を強調する。
「ふふ。いいものだな、家族というのは」
「あらぁ、何言ってるの來魅ちゃん。來魅ちゃんも家族よ?」
そう言って抱きしめる。
「んむむ。それはありがたひが…息が詰まるの…だ…」
「母さんっ、來魅がまさかの窒息で死んじゃうよ!」
「あら、ごめんなさい」
「何やってんのさ……」
ふと見ると琉嬉が風呂からあがってた。
導もだ。
「おぅ、琉嬉よ。あがったか。せっかくだから待ってたんだぞ!けーきだけーき!」
「あらだめよぉ。まずは晩御飯を先にね?」
「ほんっと…やれやれだよ…。誕生日くらい楽にさせてほしかった…」
嘆く琉嬉だった。
結局前崎香那巳の行動の真相は聞きだせなかった。
問い出してもきっと真実を教えてくれない。
霊具を使用してる者を捕まえてるとは言っていた。
まさかの聖樹との再会。
そして香那巳との繋がりがあると言う。
霊術会からの報酬がある。
きっと、繋がりを辿れば桜月の元に繋がる。
そう考えを整理する。
面倒事厄介事がまた膨れ上がってしんどい気分になる。
でも、それを補える家族や仲間がいる。
そう思うと少し気分が晴れてくる。
「ふぁぁ…眠い。疲れた」
「もう寝るのか?」
「今日は…誕生日なのにいろいろあり過ぎた…おやすみ」
「ふむ」
あっさりと布団にもぐる。
琉嬉はこの日は珍しく早めに就寝する事にしたのだった。




