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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十一章   ~新学年度編~
63/92

#63 いい加減に旧校舎

「ほへぇ~」

 ぐてっと部室の机に寝っ転がるみゆ。

顔が溶けそうな表情している。

机にがっつりと項垂れてる。

「はしたないよみゆちゃん」

「だってぇ~。生徒会の仕事疲れるんだもんー」

「自分で決めた道でしょ」

 ぐだぐだなみゆに対して冷たい態度の御琴。

まるで夫婦のよう。

どっちかというと御琴の方が主婦みたいな存在になってるが。

生徒会の仕事はひと段落して隣の部室に居た。

他の生徒会メンバーはまだ生徒会室に居たり、用事あるものは先に帰った。

あとは寧音が携帯ゲームをしながらぽつんと居るだけ。

他の部員の姿もない。

まだ新年度始まったばかりで身の回りが忙しいのだろう。

ただでさえ五大家だの名家だの裏の住人でもあるのだから。

あまり長居しないで先に帰ってしまった。


「よっ」

 静かにガラッと戸を開けて入ってきて「よっ」と素っ気無い挨拶してきたのは、琉嬉だった。

今日は遅めの登場。

「琉嬉先輩~。今日もかわゆいですな~」

 まるでおもちゃを見つけた子供みたいに素早くみゆは琉嬉に抱き着く。

「あ、駄目ですよ、琉嬉さんはみゆさんだけのものじゃありませんっ」

 寧音も負けじとくっつく。

「はーなーれーろー」

 二人を突き飛ばすように離す。

「あん、いけずぅ~」

「気持ち悪いこと言うなっ。毎度毎度なんで抱き着くんだよ…」

「んー?それはねぇ、琉嬉ちゃんが可愛いから。なんか少年っぽくて」

「しょ…少年って……。どうみても女の子らしい格好してるじゃないか」

 反論する琉嬉。

と、自分で言ってちょっと恥ずかしくなる。

「イヤイヤ、なんか、こう、性格がね」

「そうそう。自分の事「僕」なんて言って、ただの僕っ娘ならまだしも、勇敢で獰猛で豪胆ですからね」

 途中から褒めていない寧音。

「…性格だとぅ……むぅ」

 ふてくされる琉嬉。

そんなやり取りを無視するかように御琴が喋りだす。

「今日は遅いですね。他のみなさん帰っちゃいましたよ」

「んー。ちょっとね」

「?何かあったんですか?」

「まっねー」



 時間を遡る事、通常の授業の2時限目の国語の時間だった。

琉嬉の席は廊下側の二番目の前から3番目。

教壇に立つ場所から視界に入りやすい所ではある。

窓を覗いてる最中に、浮遊霊を目撃する事なんぞ鞍光高校ならよくある話。

しかし今は窓から離れた場所。

霊なんぞ、見る事ないと思っていた。

同じ霊を見る事の出来る凛夢は窓際。

琉嬉はあいつも同じように毎度毎度外の景色見ながら霊でも見てるのかなー、と思ったりしてた。


 琉嬉らの通う学校は少し田舎の場所にあるので少し情報源が遅い。

そして学力などある程度高くもないので、少々おかしい学生も入ってくる。

そのせいなのか、琉嬉が少し有名なせいか、勘違いした生徒が揉め事を吹っ掛けてくる事もたまーにある。

新一年生の中にもそういった生徒がいるせいで、琉嬉が呼ばれてしまった。

授業中堂々と、その頭の弱い生徒が琉嬉の噂を嗅ぎ付けやってきたのだ。

「おう、ここに彼方琉嬉っちゅー腕の立つやつがいるって聞いたんだけどどいつだぁ?」

 頭の悪そうな不良男子生徒が3人ほど。

「な、なんだね、君達…。授業中だぞ!」

「うっせぇ、彼方ってやつはどいつだ!」

(……まだ世の中にこんなバカがいるんだ…)

 琉嬉は渋々、手を挙げる。

「彼方琉嬉は僕ですがー。何かー」

「あん?」

 クラス中がシーンとなる。

琉嬉がかなりやんちゃなのを知っているからだ。

この妙な空気に琉嬉を呼んだ不良生徒もなんとなく感づく。

「なんだ…?何言ってるんだ?お前みたいなチビ女が彼方琉嬉なのか…?嘘だろ?」

 度肝を抜かれる。

無理もない。

「こ、こら!彼方…面倒事は…」

 国語担当の教師も勿論、琉嬉の以前犯した出来事は知っている。

「ここで何かされるよりマシでしょ、先生」

「いや、しかし…」

「だーいじょうぶですって、先生。あれから僕も大分反省したので…あの時みたいに大暴れなんてしませんから」

 口元に人差し指を当てて、教師にそう告げる。

教師は何かを察したのか、ふぅとため息をつく。

(……何をやらかしたんだ?琉嬉のヤツ…)

 凛夢は琉嬉のした事はあまり詳しく知らないのだ。

「…マジでお前みたいな女が彼方琉嬉なのか…?」

「そだよ。先生、ちょっと後輩らが用事があるそうなので、ちょっと行ってきます」

「………仕方ない、行ってこい…」

「はーい」

(…いいのかよ?!)

 不良生徒が逆に教師からの公認を受けて驚く。


「琉嬉ちゃん…行っちゃったけど…いいの?

 みなっちが心配そうにする。

「あの時みたいじゃない?」

「それもそうだよね」

「ほっとけよ。さすがにバカじゃないんだから、なんとかうまく治めるよ」

「ぶー、知ったそうに言うんだね。眞太朗君は」

「……うっせい」

 眞太朗が思うに、琉嬉はついこの間の神隠し事件。

自らも巻き込まれた事件に対して、深くは聞かなかったが琉嬉達が事件を解決したと考えている。

ふかしぎ部なる、滑稽な名前の部活も設立したのも理由があってこそ。

そういった心霊事件を解決出来るのなら、今起こってる人間相手の事なんぞ簡単に終らせるだろう…と、考えていた。



「なあ、大丈夫かよ…?コイツ…まじ子供みたいなんだけど…」

「し、知らねえよ!でもたしかに彼方琉嬉と…」

「男みたいな名前だからてっきり凶悪な男かと…」

 何やら勘違いしていた様子の不良達。

「この子供みたいな女子が…あの中嶋をぶちのめしたっていうのか…?」

 中嶋とは。

以前琉嬉がぶっ飛ばした不良生徒の中にいた一人。

この辺では実は、ぶいぶい言わしていた男子生徒らしい。

琉嬉に絡んできた女子の不良生徒と中に混ざって一緒にちょっかい出してきた。

琉嬉はその事をつゆ知らず、まとめてぶっ飛ばしてしまったためか、鞍光高校には恐ろしくケンカの強いやつがいると

瞬く間に噂が広がってしまったという。

転向初日にボス的存在を倒す。

まさに伝説。

だが、この後輩不良生徒達は、その生ける伝説の通り名の「凶暴な天使」という部分までは知らなかったようだ。


「で、何?用がないなら授業に戻るけど?」

「…お、お前があの中嶋達を倒したってのは本当なのか?!」

 琉嬉は目を丸くする。

「中嶋?ああ、僕にウザイ事してきて返り討ちにしたヤツらの事か?」

「……おい、どうするよ?マジみたいだぜ?」

「怖気づくんじゃねえ!どうみても小学生みたいな女じゃねえか!どう考えても倒せるわけねえだろ?!」

 あれやこれやゴチャゴチャ言う男子生徒達。

「ま、あれだね。こんな僕みたいなちっさい女子相手に大の男が三人連れて…やーらしいね」

「な、なんだと?!」

 あえて怒らすような挑発をする。

「あー、もしかして大の男が女子に手かけるのー?最低ー」

「あぁっ?女だからってナメんなよ!」

 と、すぐに拳を繰り出す一人の生徒。

その瞬間、琉嬉はあっさりと避ける。

そして避けたと同時に腕を掴み取り、そのまま投げる。

「え?」

 小さな女の子が自分のより大きい男を投げ飛ばす姿に、唖然とするほかの二人。

ドシャッと派手な音を立てて地面に叩きつけられた生徒。

投げたというより無理矢理叩きつけた形だ。

そして起きてこない。

一発KOだった。

「あ、ま、マジ…?」

「んー。これは正当防衛です。うん。正当防衛。停学になりたくないから、こっちから仕掛けないけど。うん、どうする?」

 相手を気絶させておいて正当防衛と言い張る。

でも他の者はあまりの一瞬の出来事で頭が回っていない。

「あわわ……」

「……かかって来ないなら僕はもう行くけど…」

「いや、しかし…」

「本気でやるんならこんなんじゃ済まないよー?それに…僕みたいに強い人まだ他にこの学校いるし。気をつける事だね」

「…へ?」

 意味深な忠告をしてその場から去ろうとする琉嬉。

ある異変に気づいた。いや、気づいていた。

「おい、お前」

「は、はい?」

 一人の者に琉嬉が質問を行う。

「……「変な」所…最近行ってないか?」

「変な所…?」

「そう、たとえば心霊スポットとか?」

「し…心霊スポット?そんな所行ったか?」

「さあ?」

 この生徒には心当たりがない様子だ。

だが琉嬉にはこの生徒らには見えてないものが視えている。

「…心当たりない?ふぅむ…。だったら………ふむ、なるほど」

「……?」

 生徒にはちんぷんかんぷん。

「これはこれは…ふかしぎ部設立二年目にして早速、面倒事が舞い込んできたな…」

 投げ飛ばした生徒の背中部分から何か出てくるのが見える。

黒い、煙のような物。

「…なるほど。こういう魂胆で、僕にケンカ売ってきたのね」

 一人納得し、その煙のような物質を手で掴むようにして、バシュッと音を立てながらかき消す。

「おい、てめえ、起きろ」

「う……あが…」

 琉嬉が投げ飛ばして気絶させた生徒を無理矢理起こす。

ベシベシと頬を叩きながら容赦なく。

「ひぃぃ…」

 その様子を見てた他の生徒はさらにビビる。


 無理矢理ながらも、気絶させた男子生徒を起こす。

そこで琉嬉は更に気になったコトを質問する。

「つい最近、お前ら…行っては行けないような所行かなかった?」

「……うぅ…。行ってはならないような…所?」

「うむ。立ち入り禁止されてるような場所。例えば…ここの旧校舎とか」

「旧校舎…って、あっちの林の所の…?そういえば行ったような…」

 気絶していた生徒が旧校舎に立ち入った事を白状する。

琉嬉の中で何かの辻褄が合った。

「なるほど。謎解けたネ。いい?君らみたいに力を持ってない者がそういう場所へ、無闇に行っちゃイケナイよ。先輩からの忠告ッ」

「はぁ…?」

 呆気に取られる三人。

(……こりゃ、いい加減に旧校舎周辺をどうにかしないと、こういったバカげた事が起こり続けそうだね…。

そろそろ完全に「封印」レベルにどうにかした方がいいかも)




「とゆーことで!旧校舎をいい加減に、結界で封じます!」

「おぉ~」

 翌日の、部活動の時であった。

琉嬉が唐突に放った言葉。

旧校舎を結界で封じると。

「あ、あの…、ちょっといい?琉嬉姉ちゃん…」

 おそるおそる手を上げて質問したのは珍しく静かな方の莉音だった。

「何?」

「結界って……、あの…たしか、みゆ先輩がやったのでは…?」

「ああ、あれ?この地域全域に結界したけど、その場凌ぎに過ぎないからね~。徐々に弱まってるのかもネ」

 みゆはあれや簡単に残念な事を言う。

「だ、そうなので、僕らの最初の大仕事として旧校舎を完全に霊物質などが入らないように遮断します!」

「はぁ…」

「何かと、僕らにはあの旧校舎とは縁があります。柚羽の家が関係してたがしゃどくろ、そして唯子先輩…。いろいろありまくりです」

「で?」

「いい加減、面倒なので封じます。以上!」

 部長の謎に力強い演説風のセリフ。

面倒な説明は一切省いて決める。

他の部員はイマイチとピンとこないようだ。

「えー、と、あの…。もうひとつ質問いいかしら?琉嬉ちゃん」

「なんだい、護部員」

「……あたしらも行かなきゃダメなの?」

「いえす!」

「あ、そ、そうですか……?」

 少し面倒そうになった護。

「僕一人じゃ時間かかるので、手伝ってもらおうかな…ってネ」

「そう…」

 ここぞとばかりに無邪気な笑顔を見せる琉嬉。

それにちょっと負けてしまう護。

(う…女のあたしですら魅惑するその笑顔…ズルいぞ!琉嬉ちゃん!)


「で、琉嬉姉!いつやるの!」

「紫音部員。よくぞ聞いてくれた。決行は、明日の土曜日に決行する!」

「えー…せっかくの土曜が…」

「なまっちょろいぞ!護!部活動はどんな日でも、休みにでもやるのが醍醐味じゃないか!」

「そうなの?」

「さあ…」

 このままだと休みが休みでなくなってしまうようだ。

「しかしなんで琉嬉ちゃんあんなにやる気なの…?」

「さあ、姉ちゃんよく分からない性格してるから…」

 などと、いろんな人から言われたい放題だ。

「お前ら!いいのか!このままじゃ、普通の学生生活が送れないんだぞ!幽霊がウジャウジャまた集まって来るんだぞ!」

「……たしかに、それは困るかも…」

 悠飛が納得しかける。

「それもそやな」

「うんうん」

「わ、私も…そう思います…」

 みんながバッと後方へ振り向く。

ちょこん、といたのは麗未亞だった。

「あ、あの……この学校というか、地域一帯…幽霊さん多すぎです…」

「そうですね。僕も同感です。修行中の身とはいえ、こうも霊が多いとどうも落ち着きません」

 麗未亞に続き、隆治もこう言う。

隆治はすっかり霊が見える体質になっていて、集中が出来ないようである。

「はい…私も同感です」

 柚羽も手を上げ、琉嬉の意見に一票投じる。

「いいですね、なんか楽しそうです」

 手を叩いて喜ぶまどか。

なんとも呑気そうである。

「…ふかしぎ部全員でやりませんか?いっその事…きっと楽しいですよ?」

 寧音の提案。

「おー、そりゃいいね。凛夢は…今いないけど僕から連絡しとくよ」

「やる気やねえ琉嬉ちゃん」

「じゃ、多数決で決まり!」

「いつ多数決したんだ…?」

 このノリについて行けずじまいの護だった。




 決行日が来た。

というか翌日の放課後だった。

楽しそうについてきたのは紫音、みゆ、まどか、そして寧音。

部活動なら…という事でなんとなくついてきた叉羅沙と龍翔。

面倒くさそうについてきた護と柚羽と御琴と悠飛。

特に深い考えもなく来てしまった莉音と隆治。

ほぼ無理矢理に近く連れて来られた麗未亞。

凛夢の姿だけはない…が、一応来るとは連絡が来ていた。

なので後で現れるのだろう。


 琉嬉は「そういやあの眼鏡っ子と会ってないな~」とか思っていた。

前崎香那巳である。

怪しげな生徒で入部届まで出してきた。

でも一向に部室に姿を現さない。

(やる気あるのかあいつは…?)


 雪はすっかりなくなっている。

旧校舎前にやってきたふかしぎ部のメンバー達。

「いつになくノリノリだね琉嬉ちゃん~」

「うっせい。僕はやると決めたんならやるんだよっ」

「ハイハイ。といってもあたしらは別に出来るような技術はないよ?」

 護や悠飛ら、技術が乏しい者達は手伝う事が出来ない。

いや、出来ない事はないだろうが、足を引っ張るかもしれないから余計な手出しをしない。

ただ見てるだけ。

なんやかんやで着いて来るのも変だと思いながらも着いて来る面々。


「で、なんで今回そう決心したの?」

 琉嬉の真意をまだ聞いてない。

ここは聞いておくべきだと判断する。

「あ、この前さ、僕にケンカ売ってきた一年の男子がいたんだよね」

「へぇ……(こんなちっこい女の子にケンカ売るってのもおかしな話じゃない?)」

「いや、その男子生徒らにさ、ちょっとした霊が獲り憑いてたんだよね。だから粋がった行動が強く出てたんじゃないかな」

「影響あるもんなのかね」

「あるさ。良くも悪くもね…」

「ふぅん」

 よく分かってない風の護。

「僕の調べですが…少しでも気を強く働いたら興奮状態が数倍になって行動を起こすらしいです。

憑りついた霊にもよると思いますが。

ほら、テレビ番組とかでも除霊する時に暴れたりしますよね?

まあ、あれは怪しいですけど……」

「へ、へぇ…詳しいね」

「いえ、これも緋黄寺での勉強で…」

 隆治はこういった知識も鍛練として自分の身に付けているようだ。

「思ったより勉強してるんだね、隆治。偉い偉い」

 琉嬉が褒め讃える。

「あらー、めずらしー。琉嬉姉が褒めてるよ」

「僕は素直に凄いと思ったらちゃんと褒めますー」

 ぶーたれる琉嬉。


「それにしても大胆な行動に出るのね」

 ぬいぐるみ姿の唯子。

麗未亞に抱きかかえられている。

「結界張ったら唯子先輩は戻れないかもしれないけど…いい?」

「……戻る気さらさらないけどね。むしろ居たくないわ」

「ふむ。なるほどね」

 結局唯子もついて来ていた。

「にしても…麗未亞さんがぬいぐるみ抱えてる姿がなんか微笑ましいですね…可愛いです」

 寧音の目が怪しい。

「たしかに…、本当に高校生なん?」

「あ、あの……15歳の高校生です」

「ですよねー?高校生に見えないのはもう一人おるけどな」

「叉羅沙、だまらっしゃい」

 凄まじく鋭い目つきで叉羅沙を睨む。

「はは、冗談やって…こわ~」

「そう言うお前さんも高校生に見えんぜ」

「はーい、龍翔君も黙ってようか~?」

 叉羅沙を睨んだ目で龍翔に目線を向ける。

「はい、ごめん(こわっ)」



「着いたよ」

 目と鼻の先。

大した会話も出来ないままあっという間に辿り着く。

以前より立ち入り禁止のテープが増えている。

元々以前から幽霊騒ぎの多い心霊スポットとしても有名だった。

一応現役の学校の敷地なので管理は行き届いてる…筈なのだが、周りはある程度荒れている。

中はそれほど荒らされていはいないのだが。

それはある程度の結界のおかげ…でもあった。

「結界あっても…完全には無理って話か…。來魅レベルの封じをしないとだめなのかもね」

「そうですよねー。よーし、みゆさん頑張っちゃうぞ~」

 みゆも段々やる気を見せてくる。

「まぁ、憑りつかれたバカとかもいたし…面倒事にならんように結界しないと」

 今後こういった面倒事が学校で起きないように霊の侵入を防ぐため。

そうでもしないと、また延々とああいった馬鹿げた行動を取る者が出てくるかもしれない。

事実、この学校ではこういう不可解な出来事が沢山起きている。

琉嬉らが居ない時代から。


「さーて、どう始末するかね…」

「始末って…」

「ほい、強力結界用御札。んで結界用釘。んでんで…」

 みゆが背負っていた鞄の中からいろんな霊術用の道具が出てくる出てくる。

「…お前、勉強道具以外になんてこんなに大量に入ってるの…?」

「えー、必要になったら困るからいっつも持ってきてるよ」

「……だからいっつも大きめのリュックサックなんだ…納得」

 御琴も知らなかった事実。


「そもそも、この旧校舎があるせいで、関係ない霊達が寄ってくるんだ?」

 龍翔が根本的な疑問を投げかける。

「そうですよね~。なぜでしょう?」

「会長も知らないんですか?」

「まどかも寧音も知らないなら尚更オレも解からねえよ…」

 頭をぽりぽりしながら言う龍翔。

昔から霊術名家を受け継ぐ者としてこの街を過ごしてるが知らない事が多い。

「…んー。なぜなんでしょうかね?」

「僕の見解では、強力な霊磁場があるこの地域。そして使われなくなった建物。結局霊といえでも、元々は人間。

人間はなんだかんだで屋根がある建物がなければ生きていけない。霊も屋根がある所がいいんだよ」

「…そなの?」

 ぽかんとしながら紫音が聞き返す。

「多分」

 少々、無理矢理な解釈ではある。

とはいえ、霊といえども何かにしがみ付きたいのは一緒なのである。

「あ、あの…、琉嬉姉?」

 おそるおそる手をあげ、琉嬉に意見しようとする莉音。

「何?莉音」

「ぶっちゃけ…この建物を取り壊せばいいんじゃね?とかって思ったんだけど…」

「………」

 みんな一斉に黙る。

「たしかに…。それも一理あるな」

 琉嬉がなぜか納得しだす。

「みんなの力合わせばこの大きさくらいならそんなに時間かからずに粉々に出来るかも…」

 物騒な事を言う琉嬉。

「たしかに…大技を叩きこめば破壊出来ますよね?」

 なぜかここにきて柚羽もノッテくる。

「おいおいおいおい!それじゃ根本的な解決にならんだろ!」

 珍しくツッコミにまわる護。

「駄目ですよ。風紀的に乱れます」

「風紀の問題なんやろかそれ…」

「琉嬉姉、護さんの言うとおり、それじゃ解決にならないよ」

「紫音、何か考えがあるというのかね?」

「ない」

「だろ?」

「うむ」

「………」

 なぜ紫音がでしゃばった?と思った莉音だった。


「壊したとしても霊が集まるのは極端には減らないと思うよ。そしたら今度は新校舎の方が危なくなるし」

「そなの?」

「行き場が移るだけ…かもしれない」

 建物がなくなっても解決にならない。

そう考える琉嬉ら。

幽霊の行動など完全に把握なんぞ出来ない。

「唯子先輩ならどうする?」

「そうねぇ…。建物無くなったら別の建物に移動するわね」

「やっぱり」

 意思疎通の出来る霊の唯子もこう言う。

「本当は建物だけじゃなくって、この地域一帯を結界作ればいいんだけど…そうもいかないでしょ?」

「たしかに…。それは無茶な話だね…」

「時論なんだけどさ、霊といえでも外にいるより屋根がある場所の方がいい…とか思うわけだよ。

だから建物に寄りすがり…みたいな?」

 琉嬉が言うのも一理ある。

他のみんなも納得した。




 結局手分けして結界を張る陣を描くため、あちこちに結界用の釘や、札を貼っていく。

手分けしてやってるとはいえ、正確な場所や的確な所に貼っていくとなると慎重にならざるを得ない。

貼るだけで軽く一時間以上かかってしまった。

「…やる前から無駄に疲れる…」

「そやな」

「ん、そこの高い所に、叉羅沙頼む」

「ほいきた」

 叉羅沙の長身はこういう時にも役に立ってた。


「…何あれ?」

「あらら、凄い事してますね~」

 二人の男女の声。

ガササと音を立てながら旧校舎の敷地に入ってくる人物。

凛夢と耿助だった。

「……旧校舎を大掛かりな結界を作って霊磁場を収めるって言ってたけど…本気なの?」

「みたいですねぇ。いやぁ、仕事サボってまで見に来て良かったですよ」

「あ、そ、そう…ですか…」

 つくづくこの顧問の耿助は変な感性をしている。

同じ五大家の人間として、不思議に思う凛夢だった。



 くたくたになってきた莉音達新一年生。

「疲れますね…これ。地道なのがさらに…」

 ぺたりと座り込む隆治。

隣には双子姉妹も座り込んでる。

「ふかしぎ部は毎回こんな事するの…?」

 さすがの悠飛も疲労がみえていた。

「大変でしょうが、頑張ってくださいね」

 柚羽が密かに持ってきていたクールボックスを開いて、冷たいペットボトルを一年生達に渡す。

「用意がいいですね先輩…」

「ふふ、先輩として面目潰れないようにですよ」

「はぁ…」

「しかし、先輩方はえらいタフですな~」

 ぐびぐび飲みながら言う紫音。

紫音は辺りの様子を振り返るように見回す。

建物の周りは鬱蒼としてる林。

見たとこ代わり映えはしてないようだ。

ただ、何かが気になる。

(……?)

「どうかした?紫音?」

「いや……別にー。鳥の声が綺麗だなーって」

「そうだね。雪が溶けて鳥も出て来たね。森中だから鳥多いのかな?」

 特別悠飛は何も気にしてない。

だが莉音だけは薄々紫音の感じてる事に気づいてた。

(…紫音が周りを気にするって事は……「何か」あるんだ…)

 莉音も少し警戒を強めた。


「これで終わりっと」

 みゆが最後の結界用お札を旧校舎裏の壁に貼り付ける。

「こんなに堂々と貼って大丈夫かなあ。剥がされたりするんじゃないの?」

「護よ。そうそう簡単に剥がされないようにするから結界なのだよ。試しに取ってみるとよい」

「う、なんで急に呼び捨てでそんな上から目線な言葉なんだ…まあいいや」

 そっと護が札に触れようとする。

「あっ!」

 ビリッと一瞬強力な電気みたいなのが走る。

「何これ…まさか」

「うむ。霊力が高い者が触れるとビリリッと霊撃が加わるようになってるんです。霊力がない物が触れても何も起きないけど…」

「起きないけど?」

「普通の力じゃ剥がれないようになってるのです」

「へぇ~…。なんて好都合な御札…」

 特殊な念を込められている御札の力。

みゆの持ってきた霊具は高給物が多い。

この御札も特殊な力を持っている特別製だ。

「いや、まあ、想定外の無理くりな力であれば剥がれるけど、そんときは霊撃がピリッってくるかもね」

「そうなの?」

「試した事ないから知らんっ」

 キッパリと言い放つ。

「あ……そう…」

「どっちにしろ琉嬉ちゃんならぁ、「真霊気」でもつこうて簡単に剥がすやろうしなあ」

 奥から作業を終えた叉羅沙がみゆ達の所にやってくる。

「そゆこと」

「なるほど…」

 そうしてる間にみゆがなにやらブツブツ言っている。

「何してるのあれ?」

「全体一箇所に結界を貼るんじゃなくって何重にも何箇所にも同じような結界を作ってるんだよ」

「へぇ…それは面倒そう…」

 実は護が気がついてないうちに琉嬉とみゆは結界を何個も作っていた。

最後に、強大な結界を作るのだ。

こうして何重にもしておけば一つが崩れても一気に全体が崩壊する事がないためだ。

「これもみゆが沢山道具持ってるおかげだね」

「へへー、それほどでも~」

「…金持ちはやる事が違うね~」

「そやなぁ……羨ましいわ…」

 あんまり話題にはしないが、叉羅沙はそれなりにひもじい生活をしてるようで

少々みゆの事が羨ましいようだ。



「これで終わりましたねぇ。いやはや、こういう作業をやるのも楽しいですね」

 本当に楽しそうに言うまどか。

額の汗を拭って満足そうに空を見上げる。

「お前さんもほんと、マイペースだよな。羨ましいっつーかなんつーか」

「龍翔様。こちらも終わりました」

「あら、遊希さん、お久しぶりですね」

 笑顔で遊希を出迎える。

「……そうね」

 逆にあまりいい顔しない遊希。

あまりまどかの事を好かないようである。

その態度が少し表に現れている。

「遊希」

「はい、龍翔様…すみません」

「悪いな、まどか。どうも他の女と喋ってると機嫌悪くしてな…」

「そ、そんな事ありません!」

 慌てめく。

「龍翔さん。遊希さんは妖怪の方ですけど…女性ですから。女の気持ちってのも考えてくださいね」

「…女の気持ち?」

「やれやれ……女の気持ち?なんて言い返してる時点で龍翔さんもまだまだですね」

 遠目で見ていた寧音。

クスクス笑いながら会長副会長のやり取りを見ていた。

「そういう貴方もどうなの?」

「わっ?!」

 突然の背後からの声に驚く。

寧音は首だけ振り向くと凛夢と耿助が居た。

「やあ、寧音さん。みなさん」

 相も変わらず爽やかな挨拶をする耿助。

「びっくりしました…参堂顧問と凛夢さんじゃないですか。手伝いに来たんですか?

でも遅かったですね。既にほぼ終わらせましたからっ」

 なぜかガッツポーズを取る。

変に動きがせわしないのも寧音の特徴だ。

「別に…大規模な部活動するからって…暇だったし」

 寧音は眼鏡をかけ直して凛夢の近づく。

「そういう時ははっきりと言った方がいいですよっ。後々後悔しますからね?」

 にや~っと怪しく笑みを見せる。

「そ、そうね…心に留めておくわ」

 凛夢は苦笑いしか出来なかった。




「では、早速結界を解放します。用意はいい?」

 琉嬉が結界の核となる陣の中央へ足を踏み入れる。

「準備おっけぃ」

「こちらもです」

 みゆとまどか、そして寧音と莉音と紫音がそれぞれ別の陣へ入る。

「んーと、あとは…柚羽と龍翔君もお願い」

「…オレらもか?」

「そう。霊感力が高い霊術名家の人達を中心にして…ほら、凛夢と耿助さんもお願い」

「わ、私も?」

 困惑しながらも柚羽も駆け足で向かう。

「ひょへ~、凄いね、五大家と名家が揃い踏みだよー?」

 テンションが上がっていくみゆ。

彼方、夜栄守、港咲、参堂、そして水無月の五大家の人間が揃っている。

そして霊術名家も複数集まっている。

これだけ小さくても精鋭が集まって規模の組織はないだろう。

その精鋭達の霊力を使った強力な結界を今立ち上げられようとしている。

「いっきますよー」

 琉嬉の合図で結界術が解放された。


 凄まじい光が旧校舎周辺を照らす。

後に爆発でもあったのかという通報が何件かあったくらいに光が走っていったそうだ。


「うっひょー、すっごー」

 けったいな言い回ししてるのはみゆ。

他のメンバーも呆気にとられたような表情をしている。

これまでにないくらい強い霊力の結界が放たれたからだ。

「うわ…これは…」

 それぞれが言葉を失うほどに凄まじい結界の威力に驚く。

(……これほどとは…みゆの道具のお陰か…?)

 琉嬉自身もかなりの驚きよう。

これだけの術者が集まってる力もある。

相当な霊力が舞い上がって行く。

「ま、これで余程の力を持った者じゃないとこの旧校舎には近づけないね」

「そう…だといいんですが」

 まだ不安そうにしている柚羽を後ろから肩を組むように入ってくるみゆ。

「なぁに、そんときはそんときだよ。ま、柚羽ちんの言いたい事は分かるけどね」

 以前、柚羽の父親が「居た」所でもある。

何かと不安があるのは仕方ない。

「あ、あの…、これで終わりです…か?」

 まだ少し震えている麗未亞。

「んー、終わりではないかもネ」

「ほへ?」

 琉嬉の意味深な発言に凍りつく麗未亞。

同じくまだまだ素人の隆治も表情が強張った。

旧校舎の方から只ならぬ霊気が漏れているのが分かる。

「な、なんですかあれ…?」

「結界を張ったためにはじかれた、霊物質達だね~」

 軽々しく言うみゆら。

「ええぇぇぇ?!」

「さ、これを退治してからが、今回の終わりだよ」

 何処からか出したのか、琉嬉の両手には例の御札がバサッと出てくる。

「そうですね、さあひと暴れしますよ!」

「寧音…お前のその切り替えの早さはいつも凄いな…」

 戦いも全力尽くそうとする寧音に脱帽する琉嬉。

「やーれやれ、やりますか」

「これはこれは沢山いますね」

 他の者も、臨戦態勢を取る。

「しゃあないね」

 護も面倒くさそうに霊力剣を作り出した。

「マ、マジですかい…」

 麗未亞とは思えない言葉を発するほど驚いてる麗未亞。

「あわわわ、ど、どうしよう、僕等も戦わないと?!」

 隆治は琉嬉らとは違う一回り大きい御札を出す。

前に使用した式の一種だ。

「無理しなくてもいいよ、私が守るから」

 悠飛も氷の剣を作り出す。

「ぼ、僕だって…修行してるからこれくらい…」

「じゃ、一緒にがんばろ?」

 莉音が優しく隆治に激励する。

「…ありがとう、莉音さん」

「どういたしまして」

「まったく…イチャイチャしちゃってさぁ…莉音は私のものだからね」

「いーから準備しろっつーの」

 琉嬉が後ろから紫音のお尻を軽く膝蹴りする。

「うぐぐ…」


「無茶はしないでくださいね」

 麗未亞の近くには耿助と凛夢。

「まいっか…久々に体動かせて」

 凛夢の右手にはいつの間にか真っ赤の大きな鎌。

「相変わらずエグいデザインしてるよね…その鎌」

「うるさいわね小娘」

「それもなんか久々」

 琉嬉との口論も久々だ。

「麗未亞。私を離しちゃだめよ」

 ぬいぐるみ姿の唯子が麗未亞に話かける。

「唯子…さん?」

「一応幽霊でも幽霊と戦えるから」

 ぬいぐるみからただならぬ霊気が感じられる。

麗未亞を守るかのように覆っている。

「さぁ、ふかしぎ部二年目の軌跡を作ろうかっ!!」

 琉嬉が大声で発破をかけた。

その瞬間、ふかしぎ部員達は一斉に動き始めた。


 なんだかんだで、一筋縄ではいかなかった今回の件だった。

あっさりといけるかと思えば、謎に大量の霊物質達。

ふかしぎ部ほぼ全員がいたので対処が早かった。

大きな問題にならなくて良かったぐらいだ。


「つ、疲れましたぁ…」

 ゲッソリしてしまった麗未亞。

何も出来る事もなく逃げ回ってただけ…かと思われたが、ひとつ完全に理解出来たコトがあった。

「しっかしまあ…。この小さな体でどこにあんなパワーが…」

 メンバーが驚いたのは、麗未亞が逃げる時に林中へ行ってしまい、邪魔な草木を怪力で蹴散らしていった事だった。

あまりにもシュールで凄まじい光景に皆驚いてしまった。

「驚いたわ…それも私を抱えたままね」

 唯子も驚くその破壊力。

「……無茶苦茶だったね…」

「まるでブルトーザーみたいだったね…」

 双子も驚き過ぎて二人して同じ仕草をしてる。

「あ、あの…ごめんなさい…。あんな大量の悪霊見たの初めてで…」

 それは無理もない。

元々先祖が特殊でも、現在はそれに関わった事もない。

普通の人間として生きてきたのだから。

対処法もない麗未亞にとっては恐ろしい事だらけだったからだ。

なまじ見えるものだから尚更である。

「もう…私が一緒についてたのに」

 ぬいぐるみ唯子が呆れている。

「あの…すみません……。幽霊はよく見るんですけど…沢山居すぎて怖くなって…」

 少し涙目である。

「仕方ないじゃん。あたしだって最初の頃怖かったし」

 護がフォローに入る。

「それもそやな。ま、これから慣れるとええ。結界張ったから少しへ減ると思うんけどな」

 軽く麗未亞の頭を撫でる叉羅沙。

まるで大人と子供。

「まあまあ、これで万事解決だよね」

「ハハ、無理矢理締めにかかるんやな」

「えへへー」

 強引に締め括ろうとするみゆ。

「よーし、じゃ、今日はこれで解散。今日の部活終わり。僕は一旦部室戻るけど他のみんなは?」

「鞄置きっ放しだから戻るよ」

「私も…」

「あー、あたしもだー」

「戻る方は戻りましょうか」

「ほいじゃ、戻りますか」

 何事も無かったような事に、あっさり引き上げる面々。

麗未亞はついて行けるだろうか…?と感じていた。



 他の者は先に帰って行く。

残ってるのは琉嬉やまどか、みゆと耿助あたりしかもういない。

でも琉嬉達は隣の生徒会室に居て何か会話をしている。

鍵をどうのこうのとかという会話が聞こえてくる。

今後の事や、部室管理、と何やら真面目な話だ。

時折関西訛りが聞こえてくるので叉羅沙もいるようだ。

凛夢も遅れながらも部室を出て行こうとする。

「あら、帰宅するの?」

 少しにやついた顔で問いかける唯子。

ぬいぐるみから出て霊体状態で机に腰掛けていた。

凛夢は表情変えずにこう答えた。

「ええ、今日は疲れましたし……」

「ふうん…後から来たくせに?」

「…返す言葉ありません」

 幽霊のくせにふぅっと大きくため息ついて机から降りる唯子。

凛夢に近づきながら、小さな声で凛夢に話す。

「貴方、どこか遠慮してるところあるわよね。ここの居場所が辛いの?」

「いえ、そういう訳じゃ…」

「人を襲ってた幽霊の私が言えた義理じゃないかもしれないけどさ、もう少し心開いてみたらいいんじゃないのかしら?」

「…………」

 黙ったまま動かずに立っている。

反論してくる気配もない。

「…でもね、ここの人達はいい子ばっかりだから。

あ、私は信用してはだめよ?」

「…フフ」

 ちょっと笑ってしまう。

「あら、なんで笑うの?」

「…唯子先輩の方こそ…いえ、なんでもありません。私は先に帰ります」

「あっさりしてるのねぇ。もうちょっとみんなとコミュニケーション取ってけばいいのに」

「……また明日も会えますし。問題ないです」

 そういい残しそそくさと出て行く。


「…まったく、あの子は私と同じで正直じゃないのね」

 その数分後、ザワザワした集団が近づいてくるのが分かる。

琉嬉達が隣の部屋から戻ってくる。

「あれ、唯子先輩一人だけ?」

「そうね」

「ふーん…。あの性悪死神女は?」

「帰ったわよ」

「そうですか」

「なんだ~、一緒に帰ろうと思ったのに~。いっつも先に帰っちゃうんだから」

 残念がるみゆ。

血縁関係はないが一応の遠い親戚同士でもある二人。

もう少し仲良くなりたいと思っている。

「それに出席率一番低いしなぁ~。暇そうなくせにいつも帰っちゃうんだよな」

 あまり顔を見せない凛夢。

何か別な事でもしてるのだろうか。

「あの子はあの子なりの考えがあるから仕方ないわよ」

「うーん、なのにこの部活に参加したのか。幽霊じゃないのに幽霊部員にでもなるつもりかね?」

「あは、琉嬉ちゃんそれ面白い!」

 ドッと笑いが起きる。

にぎやかな部室。

「唯子さん、なんかありました?」

 何か気になった耿助が唯子を問う。

「うーん?別にぃ」

「…そこわざわざぶりっ子になっても仕方ありまへんえ」

「……あんた、笑顔でなかなかドギツイコト言うのね…」

「そこが売りどす」

 首を振って疲れたような動作する唯子。

再び机に腰をかける。

「…ほんとに特に変な事はないわよぉ。ただ、凛夢ちゃんはこのノリについていけてないような印象があっただけ」

「ほうほう。それはなんとなく分かりますな」

「きっと、まだ何か「闇」みたいの抱えてるんじゃないかしらね。って私が言うのもなんだけど、サ」

「…闇どすかぁ。なるほど」

 凛夢が時折見せる暗い部分。

みゆなら何か知ってるかもしれないが他のメンバーは家柄など、まったく知らない。

「いずれ見せてくれるといいわね。あなたも」

 切れ長の綺麗な目で叉羅沙を見る。

「……はは、堪忍や」




 なんだかめちゃくちゃな放課後が終わる。

ぐったりする麗未亞と隆治。

「こんなのが続くんですかね…?」

「さ、さあ?」

 他の一年生の悠飛らも少し疲れた様子だった。

一年生チームは部室にはいなかったが、学校の校門辺りにまだいた。

丁度部室のある窓から琉嬉が窓から覗いてるのを発見する。

「姉ちゃーん?帰らないの?」

「んー、悪いね。先に帰ってていーよ」

「…ふーん、じゃ、先帰るね、ほら、行くよ」

「えー?琉嬉姉は一緒じゃないの?」

「ああ見えていろいろ考えある人だから…」

 実姉である琉嬉の性格。

この中では悠飛が一番知っている。

何かと忙しいのかそれともまだ何かあるのか。

そこは敢えて聞かずに帰る。


 部室に一人残る琉嬉。

いや、一人じゃない。

唯子がいる。

「アンタは帰らないワケ?」

「ちょっと気になる事があってね…」

「……?」

 そんな言葉を残して部室に鍵をかけて出て行く。

唯子は少々気になり琉嬉に着いて行く。



 琉嬉はなぜか再び旧校舎に戻ってくる。

先ほどかけた強力な結界が張られている。

人間でも霊力の高い術者でも特定の場所へ行けば弾かれるレベルだ。

「ちょっとぉ、琉嬉ちゃん。何する気なの?」

「なぁに、最後の仕上げですよ。先輩」

「仕上げ?」

 唯子がキョロキョロ見回しても変わった形跡はない。

だが琉嬉は何かに気づいてる様子だ。

草木が不気味に揺らめき始める。

ゾワゾワ…と、霊体でもある唯子でも感じる。


「出ておいで、妖さん」

 琉嬉はいつもの通りの札を取り出す。

その札に霊力を込め、ぽんっと、空に投げる。

そうするとどこかへ一直線へ向かっていく。

旧校舎の裏側へ飛んでいった。

「あっちか」

「あ、ちょっと…」

 気づくとあっという間に琉嬉の姿が奥へ行ってしまった。

「……あの小さな体でよくまああんなに素早く…」

 渋々唯子も追いかける。


 唯子は驚愕の…でもないが、琉嬉が追いかけた真実を目の当たりにした。

琉嬉がとっ捕まえたのは下級の妖怪。

見た目は動物の鹿のような…人型はしているがまったく外見の異なった妖怪だ。

「…なぁに?コイツ?」

「んー、その辺の下級妖怪。さっきの悪霊をばら撒いてた本人」

「やめろっ!放せ!」

 ジタバタしてる妖怪。

強力な何枚ものの札が妖怪の体に張り付いて動きを封じているようだ。

「黙れっ」

 ポキャッと頭を叩く琉嬉。

「で、コイツをどうするの?」

「二度と悪さしないように……再起不能にでもしてやるかな?」

 口元はにやついているが、目は笑っていない。

「…ひ、ひぃぃっ」

「…冗談だよ。ただもう手を出さないように…」

 琉嬉は左手にしている数珠を静かに外す。

まさかの真霊気を使用する気だ。

「…なぁるほどねえ」

 唯子は琉嬉の考えが察したようだ。

一瞬の光が旧校舎からまた放たれる。



 安易に祓ってしまう訳ではない。

勿論、しょうがない奴は始末する事もあるが。

琉嬉は捕まえた妖怪に微量の真霊気をぶつける事で、しばらくの間妖怪の力を封じたのだった。

しばらくは行動出来ないであろう。

これは琉嬉なりの警告でもある。

それを先程の妖怪に知らしめたのだ。

さっきの妖怪は微量ながらの真霊気をくらい、しばらく力を使えなくなってしまった。

仮に、本気の真霊気を使えば、妖怪は跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

それどころかここら一帯が崩壊してしまう恐れもある。

それだけ力の使いどころが難しい技だ。

「まったく…。ここは本当に妖怪多いね。くたびれちゃう」

「…そうね。昔からね」

 真霊気を使ったせいか、琉嬉は既にフラフラ状態。

僅かな力しか使っていないのにも関わらず、一気に霊力体力が消耗する。

「…そういう先輩もその妖の類の中に入るんですけどね」

「……そうね。っておいっ」

「はい、お約束いただきました~」

 普段あまり見せない笑顔を見せる琉嬉。

「…アンタには敵わないわね。つくづく想定外だわ」

「それは褒め言葉として受け取っておくよ」

 唯子も自然と笑顔になる。




 翌日の学校。

何事もないような風景。

朝からスズメの鳴き声が清々しい晴れ模様。

昨日の琉嬉に絡んできた不良生徒が姿を見せる。

見せる…が、どこかビクビクしている様子だ。

「あ、あの怖い先輩は…いないよな?」

「ああ…。多分大丈夫だ」

 そそそ…と逃げるように校舎へ入っていく。

よくあるお約束としてはぶちのめされた相手に敬意をはらって舎弟になるとかあるがこ場合はそういうのが一切なく、

単純に恐怖の対象になってしまってたようだ。



 昼休み。

いつもの部室に集まっている琉嬉ら3年生チーム。

「結局は、悪霊のせいだったって事?」

 パンをくわえながら喋る護。

それぞれ昼食を取りながら会話を盛り上げていた。

「あのバカ生徒は悪霊に憑りつかれてて、あんな行動に出たって訳だね」

「そうなんですか…。でも風紀に乱れに関わる事です…。その生徒をチェックしとかないといけませんね…」

 寧音専用のブラックリストがあるのか、メモを取っている。

「ま、憑りつかれるとろくな事がないってね」

「なるほろぉー」

「食べながらのお喋りは下品やえ、護はん」

「うひょ、ごめんごめん。んぐぐ」

 喉につっかえる。

そう注意した叉羅沙はなぜかカップ焼きそばを食べている。

「叉羅沙…お前、いつの間にそんなの用意してるんだよ…」

「フフフー、最近のポットはお湯も沸かせて楽なんやなー」

「いや…別に最近でもないと思うけど…」

「そうなん?」

「あ、ちなみにこれ用意したのまどかや」

「………そ、うなのか…」

 どんだけ古い家電で生活してるんだ?と思う琉嬉。

それに、ポット用意したのは叉羅沙でなくまどかだった。

「で、今後はもう霊とか現れないの?」

「前よりは数は減ると思うけど…ネ」

 ニヤつきながら唯子の方をチラっと見る。

「そうねぇ。その子が言うのならそうなんじゃないかしら?」

「ふぅん…そっかぁ。それならいいけど」

「数が減るには越した事ありませんけどね」

 でも琉嬉は含みをある言い方をする。

「少なくとも……旧校舎から…はね」

 と。


 不敵に笑む琉嬉の顔。

そして唯子の複雑そうな顔。

他の者は不思議そうにするのだった。


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