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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十一章   ~新学年度編~
61/92

#61 桜舞う前に

 この日は、いや、前日から皆忙しかった。

教師達も生徒会も。

そう。

ついに卒業式である。

三年生が卒業。


 琉嬉達が三年生と関わり合う生徒は殆どいない。

特別な感傷はない。

が、それでもなんとなく寂しい気持ちが出てくる。


 生徒会は忙しそうである。

まどかの表情もいつものにこやかな表情ではない。

部室の隣が生徒会室というおかしな配列。

生徒会の様子が良く目に入ってくる。

そんなのが数日続いて、部活もあまり活動的じゃなかった。


「ふぅん…卒業式ね…。私もいつ卒業するのかしらね」

 ぼやいているのは唯子。

の、人形憑依バージョン。

ぬいぐるみが動いてる姿はかなり不思議で奇妙で滑稽だ。

「唯子先輩…楽しそうですね…」

 部室にいる護と琉嬉。

二人だけ。

「んー、こういうのも中々楽しいわね」

「そ、そうですか…」

「唯子先輩のキャラじゃない感じがして凄くシュールだよ…」

「あら、失礼ねぇ。私がツンツンしてるだけの女だと思って?」

 ぴょこぴょこ動き回るぬいぐるみ。

可愛いといえば可愛いが、勝手に動いてるさまは非常に怪奇的にも見える。

「そうそう。あんた達二年生だったけ?」

「そうだね。あ、でもこっちは留年してるから真っ当に生活してたら三年生だったらしいよ」

 護を親指で差しながら言う。

琉嬉は暇なのか、ゲームをしている。

「あらそう」

「…去年まではお金がなくて一年間休学してたんですー。今もちょっち苦しくて、今日もこの後お仕事に行くんですー」

 ちょっとむくれながら言う。

最近まともに仕事をしてなくて、お金がないそうだ。

「やっぱ今日もあまり人来ないね」

「当たり前じゃんー。だって明日卒業式だし、在校生の方ももう勉強ないし」

 それでもなぜかやってきてる二人。

生徒会メンバーは忙しいのはまだしも、みゆ達一年生も来る意味はほぼないからだ。

「なんであんた達は来てるの?」

 素朴な疑問。

「唯子先輩が寂しくないかなって思って」

「嘘おっしゃい」

「あ、バレました?まぁそれは半分冗談ですけど半分本気ですよ。

ただ部室の掃除や管理のために来てるんだけどね」

 すぐバレる嘘。

と言っても半分は本当。

「…そんな感じしないけどね」

「唯子先輩。琉嬉ちゃんはこう見えてもしっかり真面目さんなんですよ。

ちゃんと遅刻せずには学校来るし、掃除当番や委員の仕事はきちんとしてるんですよ」

「お前、クラス違うのによく見てるな…」

 少し照れくさそうになる琉嬉。

「そう。ちゃんと学生生活送ってるのね」

「まぁね。さて、そろそろ帰ろう。唯子先輩また」

「ええ」

「じゃ、しっつれいしまーす」

 出ていく二人。

静かになる部室。

でも隣の生徒会室からは話し声が聞こえてくる。

最後のミーティングだろうか。

「やれやれ…」

 唯子はぬいぐるみから抜け出て、隣の生徒会室へ向かった。




 翌日。

卒業式当日。

朝から彼方家も忙しそうだった。

導や、嶺珠は綺麗な身支度をしてピシッとしている。

悠飛の姿はもうない。

卒業生なので先へ学校へ向かったようだ。

そこでトントンと階段を上がる足音。

その足音が琉嬉の部屋の前で止まる。

「のぅ、お前様」

「ん?」

 朝の琉嬉の部屋。

まだ着替えてる途中で下着姿だった。

來魅が琉嬉に話しかける。

なぜか來魅は部屋のドア元に顔だけ出して覗いてる。

「そつぎょーしきとやららしいな」

「ああ、うん。卒業式ね。無意味にそつぎょーって伸ばし過ぎ」

「悠飛もか?」

「そう。だからうちの親は悠飛の学校の方行くよ。お前も行くの?」

 にや~と來魅が笑顔を見せる。

「うむ。私も着いて行くぞ」

 そう言って部屋に入ってくる。

來魅の恰好は黒を基調にした可愛らしい正装姿だ。

胸元にはリボンと、かなり気合入っている。

「……何その姿…」

「おー、これか?嶺珠が仕立ててくれたぞ。お前様の服だったらしいの」

「…ああ、そう……ね」

 顔を抱えてなぜか落胆するような仕草。

(…あの服って僕が小学校の卒業式に着てたやつじゃんか…なんで來魅が…)

 完全なるお下がりみたいになっていた。



 学校。

生徒会は当日もバタバタしていた。

「大変だねぇ生徒会は」

 マイペース気味の龍翔。

まどかと付きっきりで動いてる筈だが、どうも緊張感がない。

「余裕そうですね龍翔さん」

「お前さんが全部片づけちゃうからだろ」

 朝早くから聞こえてる声。

生徒会室ではまどかと卒業生である龍翔がいた。

勿論、遊希の姿と先日暴れに暴れまくってくれた唯子の姿も。

「ういっす」

「あら、琉嬉ちゃんやないの」

「おはよーございます琉嬉さん」

 琉嬉がなんとなく寄ってみた生徒会室。

「……早いッスね…みなさん」

 眠たそうな目を擦りながらも琉嬉は部屋に入っていく。

「お前さんはいつも眠たそうな目してるな」

「……お言葉ですが、元からです」

「違いねえ」


 その後生徒会役員達何人かも入ってくる。

これから卒業式のための最終段階に入る。

教師ら走り回るようにせかせか動いてる。

「さて、琉嬉さん。私達は風紀係委員として、これから旅立たなければいけません。失敬!」

 普段見せてる姿をとは違う、キリキリ動いている。

「…おー、いってらっしゃい」

 風紀係達10名程が部屋から出て行く。

それぞれのポジションや役割がある。

そのため先に配置つくようだ。

「まどかはそのまま会長職次ぐの?」

 ふと思う琉嬉の疑問。

「厳密に言うとそのまま引き継いでるんやけどな」

「え?そなの?」

 叉羅沙が代わりに答える。

「他の役員は来年度から決まっていくんやえ」

「ほへえ」

「ウチの学校はどうもあいまいで…」

「え?」

「いや、なんでもないどす」

「……?」

 一応、10月あたりから引継ぎ交代をする。

が、昔から生徒会の権限が他の学校より強いためか、途中からメンバー入れ替えたりしているらしい。

こうした影での「霊術者」の存在があるため、ヘタに教師側も手が出せない…と言った時代があったという。

今はまどかの代で少し温和になったそうだが。

生徒会…というより、生徒会の所属している生徒の家系がいわゆるスポンサーになっていた…そういう話である。

つまりは、霊術名家の力…。

それが学校にも多少なりとも影響があった様子。

今はそんな事もなく、ごく普通の生徒会である。

それも名家出身者がいない時期が長かった時があり、その影響力は失われた。

「…鞍光の特殊な所やな」

「なるほどねえ。ある種術者の育成機関みたいな部分もあったのかな」

「どうなの?唯子先輩?」

「そこで私に振るのー?」

 嫌々ながらも唯子も語りだす。


「学校側も認識はしてるのか…」

「心霊現象はそういう術者に任せっきり。

んで、時代が進むと共に、私やあんたらのような術者の子供が出てきて、この学校に…てな具合?お分かり?」

「ふむ…」

 なんとなく理解する。

変な事件が起きても学校側は変に冷静だからだ。

「この地域が怪奇物の、巣窟やからなあ。ウチもこっち来てびっくりしたわあ」

「叉羅沙って、京都の人だろ?わざわざこっちに来た理由は…?」

「まどかの計らい。後は親戚がこっちに居たからやねえ。結局は術者は集まってるんやな。この街は」

「はぁー、歴史だねえ。うちもそういやそうだったな」


「さぁて、ウチらも卒業生をお送りするために行きますか」

 叉羅沙が立ち上がって、それぞれに指示をしていく。

「それでは、琉嬉さん。また式の後にでも」

 ニコッと微笑んでまどかも退出していく。

「…な~に、青春しちゃってんのよ…」

「嫉妬?」

 琉嬉が少しにやけながら唯子に言う。

「うっさいわねぇ…」

「まったく……本当に生きてるみたいな幽霊さんだ事」

「はったおすわよ」

「すみません」


「何やってるの?」

 生徒会担当の女性教師が部屋に入ってくる。

「げっ」

「ハイハイ、アンタ達も自分の教室に戻りなさい」

 追い払うように琉嬉ら関係ない生徒を自分の教室に戻るように言う。

「…じゃ、式の後にでもまた」

 苦笑しながらも柚羽達も出て行く。

「了ー解」

 そのままテクテク歩いていく琉嬉。

途中窓の外の景色を見る。

旧校舎が見える。

「……こっちの学校に来て二年生…も終るなぁ…」

 ちょっとした先の未来を少し考えながら教室へ戻って行った。



「おっす」

 ぶっきらぼうに挨拶をして入ってくる琉嬉。

既に他の生徒達は教室内にいる。

「琉嬉ちゃーんおはよう~」

「おはよう、ってもっと女の子らしい挨拶しなよー」

 いつもの二人。

みなっちとゆう。

琉嬉はチラっと教室中の見回す。

凛夢の姿も見受けられる。

そのまま凛夢の方へ向かう。

「よっ」

「………おはよう」

「………」

「………」

 互いに無言のまま。

いつもなら犬猿の仲とも言える、言い合いが始まるのだが。

ここは学校。

凛夢的にも、素の本性を現す訳にはいかない。

琉嬉も余計な事をしたくない。

そもそも、今日は卒業式。

いい感じに卒業生を送り出したい訳だ。

「いつになくしおらしいのね」

 凛夢から会話を仕掛ける。

「…まぁね。今日くらいはさ」

「そうかい」

「オラー、席に一旦つけー」

 たいした会話してないうちに担任の桜川先生が入ってくる。

卒業式だけあってか、普段見慣れないスーツ姿の綺麗な服装だ。

「おー先生~、今日は綺麗ですね~」

「いつも先生は綺麗だ」

 他のクラスメイトが茶化しても華麗に流す桜川先生。

「いいかー、お前ら。今日は卒業式だ。これの意味は分かるよな?」

 謎かけでもするような問いかけ。

「今の三年生が卒業したら、お前達が今度は三年生だ。覚悟しとけよ~」

「はーい」

「…覚悟しとけか……」

 桜川先生の言葉に少しだけ重みを感じた琉嬉。

あれこれ話し続ける先生を他所にふと窓の方へ顔を向ける。

ぽけーっとしながら外のうっすら道路などが見える、雪解け途中の風景を見ている。

桜の樹が一応、学校にもあるのだが花はあんまり咲いてない。

蕾ばっかりである。

雪もまだ残ってるしまだまだ寒い。

この地方は雪国でもあるため、まだ春とは感じにくいのかもしれない。

もう少し経てば雪ももっと解けて春が一気に来るだろう。

(……む?)

 何かが通り抜けるような感じがした。

まだ寝ぼけてるのか?

だが目は覚めている。

(鳥かなんかだろ…)

 珍しく気のせいにしてその場は終る。



 ガヤガヤする講堂内。

既に生徒達が集まっている。

在校生が先に講堂内へ座席についている。

「お~、集まってますな~」

 席から立ち上がりながらキョロキョロするみゆ。

その行為がまた目立つ。

「そりゃそうでしょ、卒業式なんだから…」

 裾を引っ張ってみゆを座らせる御琴。

まるで親子のようだ。

「んもー、琉嬉先輩やまもちゃん先輩さがしてたのに~」

「後でもいいでしょ」

「ちぇー。そもそも琉嬉先輩はちっこいから余計に見つかりにくいか~。あ、叉羅沙先輩発見~」

「だから座りなさいって」

「わほぅ」

 ぐいっと無理やりまた座らせる。

そんなやり取りを近くで見てた柚羽。

(何をやってるんだろう…あの二人。仲いいですね…)

 と、二人の仲を少し羨ましそうにみていた。



「ふああ…」

 おっきな欠伸する声。

「芹澤さん、眠たいの?」

「ん?あ、ちょっとね……」

「?」

(珍しく退治屋の仕事してたって…言えないねこりゃ)

 護は眠たい目を擦りながら卒業生が入場して来るのを見てた。

先日は久し振りの、本業の退治屋の仕事をしてた。

深夜だったのであまり寝てない。

「はぁ~……。よく考えたら、ちゃんと学校行ってたらあたしもあっち側だったんだよね」

「え?そうなの?」

 他のクラスメイトが不思議そうに反応する。

「お金なくってさ、一年休学したのよ。お金貯めるために。

あ、だからって敬語とか使うのはなしだよ。同じ学年なんだからサ」

 にこやかに振舞う。

「あたしも、来年はあっちにいると思うから。みんなとね」

「芹澤さんらしい~」

「あー、何よそれー」

 琉嬉達以外の学校での友人クラスメイトの付き合いは良好なようだ。

普段から明るい護。

人との付き合いは得意分野だ。



 講堂舞台裏。

「まどか、だいじょぶかえ?」

「はい。大丈夫ですよ」

 こちらは生徒会役員達。

先日の「神隠し」事件から一週間も経っていない。

卒業式間近での大事件。

助かったのはいいが、少しだけ衰弱してたようだ。

まどかは何も言わないが、本調子ではないのがいつも一緒にいる叉羅沙なら分かる。

見た感じは特に変わり映えしてない様子だが、時折ぼーっとしてる時がある。

「無茶せいでよ。まどか。あんたが倒れたらいろいろ面倒だし」

「ふふ、お気遣いありがとうございますね。でも先輩達の新たな旅立ちとなるこの日。ぶっ倒れるにはいきませんから」

「ハイハイ。ウチも何かあればフォローしとくから。な」




 式自体は特に問題なく、進んでゆく。

校長の話、生徒会長まどかの話、などなどそこらの学校とは変わらぬ内容。

その式も終わりに近づいた頃。

「……飽きた」

「琉嬉ちゃん?」

 琉嬉が勝手に立ち上がり、出て行こうとする。

「だめだよ、まだ動いちゃ」

「ん。ちょっと体調悪いってコトで」

「ちょ、琉嬉ちゃん…」

 などと、強引に話をまとめ講堂から出て行く。

案の定途中で教師の目に止まり何か話かけられるが、教師もあまり取り合わず見逃してしまう。

「すんなり行っちゃったぞ…」

「やっぱり琉嬉ちゃん相手だと面倒だからじゃない…?」

「かもなぁ。ヘタな不良より面倒くさいだろうしな」

 いろいろ言われたい放題。

生徒も教師も分かっている琉嬉の面倒な性格。

誰も大きく取り払う事もなかった。

(何やってんだ…あのバカ)

 凛夢もやれやれといった顔をしていた。



 式が終るまで面倒だったのか、琉嬉は一人で校舎内を歩いている。

ほとんど人がいなくなった校舎内。

その校舎からなんとなく外へ出て行く。

「………やっぱ外の方がいい空気だ」

 沢山人が集まってる所が居心地が悪かったようだ。

テクテク歩き回る。

ふと、数人の男子が目に入る。

「ん?なんだあいつら」

 ちょっと様子をみる様に隠れながら見てみる。

「マジでやるのかよ?」

「このままじゃ卒業できねえからな。一発ぶん殴ってやらねえと気がおさまんねえよ」

「いいね、その話ノルぜ」

 何やらケンカでもしそうな雰囲気。

「…三年か。ぶん殴るって、何を言ってるんだ?」

 そこでピンっと気づく。

「ああ、かの有名なお礼参りってやつか。気に食わなかった先生を殴るという…」

 ちょっと楽しくなったのか、後をつけてみる事にした。


「琉嬉ちゃん何処行ったの?」

 みなっちが琉嬉の所在を気にかける。

「さぁ」

「…自分勝手というか、変にマイペースだな…。団体行動の秩序も守らんとは」

「先生達も面倒なんだろうな」

 などと、クラスメイト達も呆れている。

 式が終わり、それぞれの教室に戻るが琉嬉の姿だけない。

「彼方の事は~、まあ、置いといて…」

 桜川先生も面倒だったのか、特に気にも留めないで話を進める。


 その頃、琉嬉はこっそり男子生徒の後をつけていた。

男子生徒はあっさり目的相手の教師と遭遇する。

「なんだ?お前ら?卒業式はどうした?」

「あん?そんなの関係ねえよ」

「なんだと?」

(あちゃー、本当に絡みだした~。本当にやっちゃうつもりかね)

 何やら揉め出した。

そうしてるうちに一人の生徒がとうとう教師を殴ってしまう。

「ぐあっ!」

 教師は尻餅をつく。

尚も殴ろうとする生徒達。

(しゃあないね)

 ザッとわざと音を立てて、琉嬉が場に姿を出す。

「…ちょいちょい、先輩方、悪さはいけませんよ」

「あぁ!?なんだお前?」

「あ、おい、こいつって…」

「凶暴な天使・彼方琉嬉じゃねえか!」

「おーおー上級生にも僕は有名だねえ。凶暴な天使とかひどい異名つけられてるけど…」

 さすがに変な異名をつけられてはちょっとイラっとくる。

ツインテールにしている髪を触りながら近づく。

「オイどうするんだよ?」

「…どうもこうもねえよ!コイツもぶん殴る」

「オイ!それはさすがに…」

「いいよ、やってみな」

 表情変えずに言う。

「おお!やってやろうじゃんかよ!」

 挑発する琉嬉。

「卒業だってのに、こんな事したら元の子もないと思いますよ。センパイ」

「うるせぇ!」

 さらに挑発する。

ついに、堪え切れなかったのか殴るかかってくる生徒。

勿論、琉嬉に当たる筈もなくなんなくかわす。

「てめぇ!女だからってナメんじゃねえぞ!」

「ほいっと」

 軽く受け流し、そのまま足払いをかけ、生徒が勢いあまっておもいっきり転倒する。

それはもう見事のすっ転びっぷり。

「ぐっ…」

「ほらぁ~、先輩。弱いんだから無茶しないで…」

「んだとぉ!コラァッ!」

「うっさい!」

 ペシッと琉嬉得意の脳天チョップを喰らわす。

「ぐほ…」

 ドサッと音を立てて、チョップされた生徒は倒れる。


「おいおい……マジかよ…」

「こんな小学生みたいな女があっという間に…」

 他の生徒もたじろぐ。

無理もない。

一見小学生くらいにしか見えない小さな女子生徒が、男子生徒を手玉に取るように倒してしまったから。

しかもチョップ一撃で。

「あーあー、先生も大丈夫?」

「う……ぐ、お前は…彼方か?」

「先生も先生だよ。こんなボンクラに殴られるくらい恨まれてたの?いまどき珍しいねえ。こんな田舎の学校で」

「………ぐ」

 少し思い当たる節があるようだ。

「さて…と。後始末するか」

「後始末?」

「先生には関係ないコトでしてよ」

 そう言い放つと、チョップを食らわした生徒の方へ近づく。

つかつかと近づく琉嬉。

他の生徒は何も出来ずに琉嬉が通ると避ける。

「……取り憑いてるのは解かってるんだよ。出ておいで」

 琉嬉が倒れた生徒を起こし、背中を掌で触れる。

その瞬間、一瞬だが風が巻き起こる。

「おわっ?」

 その場に居た者達が急な出来事で目を逸らしてしまう。

何が起こったのか分からない。

「逃がさないよ!」

 ガシッと何かを左手で掴む琉嬉。

左手で掴んだのは何かの尻尾のようなもの…。

他の者には見えてないが、琉嬉にははっきり視えている。

妖の一種だろうか。

ヒラヒラした体をした妖怪が体を琉嬉に掴まれていた。

その姿はまるで紙のような、布のような。

「なんだ…貴様!放せっ!」

 妖怪が言葉を喋った。

「バーカ、放すわけないだろ」

「なんだ?誰と話してる?」

 傍からからみると一人で喋ってる不思議少女にしか見えない。

「ぐぐっ……!そうはさせるかっ!」

 妖怪の目がビカッと光る。

「おわっ」

 不覚にも琉嬉の手から離れ、逃げて行く。

「あー。逃げられた……。しゃーないなー」

 とりあえず逃げた方向へ追いかける。

「な、なんだったんだ?」

「さあ…?」



「なんだ…あのガキは?」

 なんとか逃げてきた妖怪。

逃げた場所は……校舎内。

その校舎内であった。

「………お?妖怪か?」

 偶然居合わせた龍翔。

「!お前!俺が見えるのか?!」

「……今日は卒業式だったんだ。こんなめでたい日まで妖の相手とはね、この学校らしいよ」

「…?何を言って…?」

「ま、この学校には近づかないこった。命がいくつあっても足りないぜ」

「なんだと?!」

「…人に仇名す妖は、祓う。それが俺達の役目。いや、妖だけでなく「人」もだけどな…」

 龍翔の右手がうっすら光る。

そしてその拳は妖怪をぶん殴る。

「ぐえっ?!」

 そのまま妖怪は吹っ飛んでいく。

「…倒し損なったか?」

 妖怪はスルスルっと教室内へ逃げ込む。

「あらら…」

 妖怪は何か言ってたようだが、言葉は聞き取れず終い。


「あ、龍翔君」

「おう、琉嬉ちゃんか」

「さっき妖怪を逃がして妖気辿ってここまで来たんだけど…もしかして先輩がやっつけちゃった?」

「ん?さっきの妖怪か?それならぶっ飛ばしてやったけど…」

「…さーすが、龍翔君」

「まぁなんていうか、逃した」

 目が点になる琉嬉。

「だめじゃーん」

「唐突だったしな。遊希に任せようかと思ったけど…遊希の奴寝てな…」

「……お付き妖怪の意味ないじゃん…まぁいいや」

 そしてダッシュで妖怪を追いかける。

「卒業式だってのに元気だね…」



「チェストー!」

 バシュンッと大きな音が聞こえた。

龍翔から別れたすご近くの教室内。

「…なんだぁ?」

 誰も使ってない教室…家庭科室だ。

中を覗くと寧音が居た。

もう仕留めた後のようで、拳にはうっすらと光る霊気。

「寧音っ」

「あ、琉嬉さん…もしかしてこの妖怪を追いかけてました?」

「ああ、そうだけど。あー、そっか…お前等風紀が居たっけ」

「ええ。てかなんです今の妖怪?」

 眼鏡を取って一旦かけ直す。

「あ、眼鏡取った顔可愛い」

「ちょ、何を言ってるんですか琉嬉さんっ」

 必要以上に照れる。

照れ隠しに服装の乱れを直す。

「ところで何があったんですか?」

「あー、それねぇ…。戻りながら言うよ」



 結局琉嬉は途中退場の理由も聞かれる事もなくすんなりと終えた。

そして部室へ向かう。



 現在の体制の生徒会もついにラスト。

そのせいなのか、朝よりもなぜかさらに騒がしい状況だった。

生徒会メンバーは勿論、次期生徒会メンバーになるというみゆら。

生徒会メンバーではないが、ふかしぎ部の面々。


「その先生って、私の髪の色どうのこうのって言ってたヤツじゃない?」

 自慢の綺麗な金髪の髪の毛をいじりながら喋る護。

「そう言えばそうかもね~」

「あの先生もしつこいからねぇ。私はいいけど他の生徒にはあまりいい感じじゃなかったんじゃない?」

 琉嬉がさっき目撃してた時の殴られた教師の話だろう。

以前護の髪の毛についていろいろ嫌味を言ってた教師だ。

「……あの先生も考え改めてくれるんじゃない?あんな事あったし、何より僕に逆らえる事もなくなっただろうに…」

 不気味にクスクス笑う琉嬉。

「なんかあったのかな?琉嬉ちゃん…」

 キョトンとしてしまう他の部員達。

「何かあったんですよ、きっと」

 楽しそうに言う寧音。

その理由は寧音だけが知っている。




「琉嬉先輩、どこ行くんですか?」

 部屋を出た瞬間柚羽に会う。

柚羽も部室へ行こうとしてたようだ。

「柚羽こそ、遅かったね」

「ええ、剣道部に顔を出してたので…琉嬉先輩はもういいんですか?」

「どうもにぎやかな所が苦手というかさ、うん。まあ、苦手、かな」

「うふふ、琉嬉先輩らしいですね」

「…ちょいと落ち着こうと思ってね。すぐ戻って来るけどね」

「はい、待ってますね」

 可愛らしい笑顔を見せながら、部室へ入って行く。

「……ふぅー」

 大きくため息つく。

しばらく校内を歩く。

すぐ帰って行く生徒。

いろいろ話し込んで教室にずっといる生徒。

教師と話していて、涙ぐんでる生徒。

まだバタバタ移動繰り返してそうな教師や生徒達。

慌しい一日だ。

「…あ、教室に鞄置きっぱなしだった」



 こうして、鞍光高校の卒業式が終わる。

ある者はそのまま帰ったり、ある者は仲間同士でそのまま遊びに行ったり。

「私達はどうしますかー?皆さん」

 みゆの大きな声。

「僕は今日のところは帰るよ。悠飛の卒業式だったからさ」

「そっかー。そういえばそうだったですね」

「ここは各々でええんとちゃう?ウチは暇やけどな」

 暇さをアピール。

「叉羅沙さん、ここは寂しい者同士、帰る前に何処かお食事でもいかかですか?」

 ちょっとやらしそうな笑顔で護が叉羅沙に近づく。

「はは、それもええね」

 チラっと凛夢の方を見る叉羅沙。

その視線に気づく。

「ええと……私も?」

 護と叉羅沙は無言でうんうんと頷いている。

「~~~~っ。ま、まあ、私でよければ…」

「確保ーっ」

 二人は凛夢の体を抑え込む。

「あ、ちょっと…やめてください…変な所触らないでください…」

 ドタンバタンする部室内。


「やれやれ、楽しそうですね。みこっちゃんはもちろん、私達と行くよね?」

「は、はいー?」

 御琴の腕を掴む。

そして反対の腕は柚羽の手をがっしりと掴んでた。

「あのー、私もですか……?」

「おういえーい」

「ありゃりゃ、柚羽御気の毒に…」

 クスッとしながら琉嬉が気の毒そうに見ている。

「あ、あははは…」


「耿助さんは?」

「僕は申し訳ないですけど神社に戻りますね」

「ですよね。忙しそうで何より」

「大変ですよまったく」

 大変そうには見えない身のこなし方をしている。

耿助は案外やり手なのだ。

一応顧問として、卒業式にも参加していた。

来年度も引き続き顧問として学校には来れるという。

「龍翔さんはどうするんです?」

「あー、オレも暇と言えば暇なんだけどな」

「じゃ、ご一緒しますね」

 まどかも真っ直ぐは帰らないらしい。

「んじゃさ、あたしらと一緒に行くー?」

 護が楽しそうに誘う。

「ではお願いしますね」

 半ば強引に龍翔も混ぜるまどか。

「やれやれ…そう来たか」

「寧音さんは?」

「あ、私は家に帰ります。家の方もいろいろありまして…」

 この中では一番大きい家柄の夜栄守家。

何かとあるようだ。

「あー、そういえば寧音の家って行った事ないね。今度みんなで行こうか」

 琉嬉が提案する。

「あ、あの…それは嬉しいですけど…善処しときますね」

「おっけぃー」

 承諾は得た。

「あ、そうだ。唯子先輩はどうする?」



「……さーて、帰りますか」

 ぐぐっと体を伸ばし、椅子から立ち上がる。

「じゃ、みんな。すぐ会うと思うけど全員揃うのは4月かな。

それまでまたね」

 部長の琉嬉の一言で、この日今学年度のふかしぎ部の活動は終了となった。

次は来年度4月。

それまではお休みとなる。

部室外で各自分散していく。

琉嬉は可愛らしく手を振る。

相変わらず顔は無表情だがそのギャップに可愛く見える。

「じゃーねー!みなさーん!」

 みゆのデカイ声が響く。

沈みそうな夕日が綺麗だった。




 同日に悠飛達の中学校でも卒業式があった。

式も終わり、それぞれの道に進む。

悠飛や莉音紫音は琉嬉の通う鞍光高校に進学する事が決まっている。

琉嬉はそのまま自宅には戻らず、お寺へ到着していた。

「おいーっす」

「姉ちゃん」

「お揃いのようで」

 中に入ると彼方家が揃っていた。

「あ、琉嬉姉だ」

「遅いよー」

「仕方ないだろ。こっちも卒業式だったんだからさ」

 愚痴りながらも來魅の隣に座る。

「お前様お帰り」

「いや、お帰りって…別に僕らの家じゃないだろココ…」

「別にいいではないか。導の実家だろう?なら同じ家だ」

「うんうん。來魅ちゃんいい事言うね」

 頭を撫でる。

來魅は嬉しそうだ。

(…本当に100年以上生きてる妖怪なのか…?子供じゃん…)


「悠飛…かっこよかったぞ」

「來魅……。てかかっこよかったてどういう事…?」

「うむ。悠飛のいけめんぶりに」

「イ、イケメン…?」

 來魅のハイカラな発言に困惑する。

そもそも悠飛は女子である。


「ところで後ろの眼鏡少年は誰?」

 双子の後ろの方になぜかいる少年。

そう、以前怪事件に関わっていた、今井隆治である。

「あ、ども……」

「…?仲の良いクラスメイト?」

「莉音と同じクラスの子だよ。今井くん。鞍光高校に行く事になったんだよ」

「ほう~。(微かに霊力が他の人間より強く感じる…)もしかして紫音と一緒にお寺で修行してるっていう…?」

 その話は琉嬉の耳にも届いていた。

最近お寺に行っていない。

狗依緋瑪斗との特訓を兼ねて頻繁に顔を出していたのだが、あちらはあちらでいろいろケジメが付いたので今は来ていない。

「はい。今井です。その節はお世話になりまして…。ところで、莉音さん、この子は妹さん?」

「あははー、妹だって~。やっぱりそう見えるよね~」

「え?違うのか?」

 琉嬉をじっと見る。

「でもなんとなく似てるようなそうでもないような…」

「………」

 無言になる琉嬉。

というか、またかといった表情だ。

「…あのね、今井。このちっちゃいのは、私の姉であり、鞍光高校の先輩になる人だよ。

だから、双子の方と私達の方は従姉妹の間柄」

 悠飛がフォローとも言えない様なフォローをする。

「あ、え?え?この小学生が…?あれ?小学生…、ではない?」

 なぜかひどく混乱する。

無理もない。

「琉嬉姉」

 琉嬉の肩にぽんっと手を置く紫音。

その紫音の顔は何も言わずに、なぜかニヤニヤしている。

言わなくても言いたそうな言葉は琉嬉には分かる。

手を置かれた琉嬉はそのまた無言で紫音の頭にチョップをしていた。


「いたぁい……」

 悶絶する紫音。

その紫音を放置して話を続ける。

「なるほど…例の霊具で術を使用した今井クンね…なるほどなるほど」

 琉嬉が少し興味深く今井を眺める。

「あの…何か?」

「これは緋瑪斗と同じように鍛えがいあるかもねー」

「鍛え…?」

「だーめ、琉嬉姉。緋瑪斗さんとは違うんだから」

 庇うように割って入る莉音。

「まぁ、冗談だよ。でもさ、また緋瑪斗の方から特訓したいってなったら一緒にどうさ」

「……琉嬉姉のはかなり本気だから危ないよー」

「そ、そうなのか…?」

 今井はかなりビビる。

「いーじゃん。それについてこれる緋瑪斗は立派だよ?さすがは男の子」

「え?緋瑪斗さんって女の子じゃない?」

「元々ね」



「次は入学式の時かね?会うのは」

 僧侶服のままの天。

仕事帰りなのかそれとも正装としての服装なのか。

「んー、どうだろね」

「紫音の事だ。どうせ暇なんだから、そっちから来そうだけどね」

「ふへへ」

「ふへへじゃないよ」

 ぽきゃっと軽く紫音の頭を叩く莉音。


 子供らはキャッキャと騒いでる。

大人達は久々の集まりにこちらはこちらで会話が弾む。

「で、どうだい?兄さん。現状は」

「おー。ボチボチって所かな…」

 天と導の兄弟の会話。

仲が良さそうだ。

「……なんにせよ楽しそうだな」

 珍しく一歩引いた立場にいる炎良。

「よーし、今日はゆっくり酒盛りでもするか」

「はいっ」

 弟子達に向って酒を持って来るように言う。

(霊術会も大きな動きがない。やれやれ。何を企んでるのか…)


「のう、炎良よ」

 ちょいちょいと炎良の袈裟の腕の裾を引っ張る。

「ん?來魅ちゃんか。どうした?」

「人間とは、このような楽しみ方をするんだの」

 感慨深い事を言う。

「そうだなぁ。幼い頃からの成長を楽しんでいくものだ。人間とはな」

「ふぅむ…。ま、そこを楽しむのは人間だけかのう?」

「…厳密に言うと人間だけじゃないだろうけどな。動物とか、妖怪はどうかは知らんが。

比較的人間に近い妖怪達も同じじゃないのか?

どっちにしろ子供の成長は見ていて楽しいものさ」

 珍しく真面目に会話する炎良。

普段のおちゃらけた雰囲気はない。

「子供かぁ…」

「ん?なんだ?來魅ちゃんも子供欲しいのか?」

「んー、どうかのう。ま、見ての通り私が子供の姿なのだろうがな」

 自分自身の姿を知ったうえでの発言。

可愛らしい洋服で綺麗に決まっている。

見た目と言ってる内容が一致しない。

炎良は頭をくしゃくしゃ掻きながら煙草に火をつけた。

「…お前さんは変わった妖怪だなぁ。なんにでも興味持つ」

「おう、新しい事の連続で毎日が楽しいぞ」

「なるほどな。來魅ちゃんも目下「成長中」か…」

 ぷか~っと口から煙草の煙を輪っかの形にして出す。

(…そりゃあ…100年間のブランクあったもんなぁ…。オレが生きてる間でさえ急激に変わってるもんなぁ)

 何気なく幼い頃の情景を思い出す。

炎良も60歳を超えてはいる。

少なくとも50年間の記憶はあるので今の世界の変わりようは覚えているものだ。

來魅にとっては、100年前の日本の記憶から一気に今の時代の日本に飛んでしまってるので新鮮さがいっぱいなのだ。

「洋服とやらも、ハイカラで可愛らしくいいよのう」

 クルッと回って、炎良に見せつける。

「くっくっく…」

「む?何が可笑しい?」

「…いや、來魅ちゃんも女の子だなぁと思ってな…」

「んー?一応私は女だが?」

 炎良の言ってる意味が來魅には理解出来ない。

頭を傾げる。

「いやいや、そういう意味じゃなくってな…」

「おーい、來魅ー。ケーキだってー。食べるか~?」

 琉嬉が來魅を呼ぶ声が聞こえてくる。

「おー。今行くー。すまぬな炎良」

 ケーキと聞いて釣られるようにそちらへ向かう。

てってってと、軽い足取り。

その動きはどこか人間の子供らしくもあり、小動物的にも見えたり。

「………なんか孫が一人出来たみたいだぜ」

「師匠、お酒の準備が出来ました」

「おう、すまん。さて、今日はお前等も飲もうか」

「え?いいんですか?」

 弟子達が驚きの顔。

「なぁに。孫達の新たな出発をお祝いだ」

「なぁ、なんでケーキもあるんだ?」

 炎良の後ろから顔を出す天。

「それは俺も知らん」

「あー、じいちゃん知らないんだー?」

 お皿に乗ったケーキを炎良達に渡していく紫音。

「ちょっと早いけど琉嬉姉の誕生日が近いからだよ」

「来月だったけ?」

 莉音も一緒に渡していく。

「ほぅ、そうだったか」

「お祝いだらけだな」

 天が手でつまみ食い。

「あ、お父さんだめっ」

「はは、すまん」




 お寺の庭。

その広い境内にはまだ雪が残っている。

と言っても、鞍光に比べたら雪が少ない。

春がやって来たと感じる少し、あったかい風が吹き抜ける。

(はぁー。三年生かー)

 などと少し黄昏る。

近くに海があるせいか、潮風っぽい。

悠飛は双子姉妹達の卒業&入学祝いと、ついでになぜか自分の誕生日まで祝う事まで。

(………なんだろーなー)

 こう、どうもすっきりしない気持ちがどこかしらある。


 それもあの半妖達が気になるからである。

京都で少しだけ戦った猫妖怪達。

強さは本物だった。

(あいつらに勝つには……)

 自分の左手首に巻いてある白黒の数珠を見る。

手首を自分の目元まで上げてじっくりと睨めっこ。

(この力を使うとしても…來魅とかの時みたいに相手は一人だけじゃない。

そんな奴らが何人も居たら…この力を軽々しく使えない)

 不安になってくる。

「あーあー。深く考え過ぎだ。お前様は」

 ぽふっと琉嬉の頭を後ろから軽く手のひらで叩かれる。

喋り方と声ですぐ分かったが、振り向くと來魅がいる。

何か企んでそうな、そんな笑顔だ。

「……何?」

「ふふん。柄もないよの。琉嬉」

 琉嬉の隣に来て、庭の風景を見る。

背丈が二人ともあまり変わらない。

ちょこまかとどこかの茶色の猫が境内を駆けまわって行く。

「…寺の猫か?」

「いや、何も飼ってないと思ったけど?」

「じゃあ野良猫か」

「……かもね」

 猫を見るとあの銀色の髪の妖怪を思い出す。

「まぁそんなにせかせかするな」

「そんな焦ってるように見える?」

 いつもの冷静な目つきの琉嬉。

そんな目つきで來魅をじっと見る。

「おおぅ、そんなやらしい目で見るな。卑猥よのう」

「なんでだよっ」

 ぽかっと來魅の頭を叩く。

「はは、冗談だ。しかしな、琉嬉よ」

「……何さ」

 ニコッと微笑む來魅。

「もう少し心のゆとりを持たないといけんぞ」

「……はいはい。肝に銘じときます」

「ふふーん。ほれ、温泉行こうぞ。そこの」

「は?温泉?」

 來魅が指差す方向。

特にそれらしき建物は見えない。

「紫音が言うには新しく出来た温泉施設があるらしいぞ。新品で綺麗な温泉施設とやらも興味あるぞ。

それにお前様、温泉好きだったろ?」

「…まぁ、それは否定はしないけど」

「よしっ。嶺珠にお小遣い貰って行くぞっ」

 強引に琉嬉の腕を引っ張り家の中へ戻ろうとする。

「ちょっと、マテって…」

 霊力も封じられてるうえに、体格もただの子供並。

なのに信じられないくらい強い力で引っ張る。

引っ張る右腕の手首には琉嬉が封じのために付けた自分と同じデザインの白黒色の数珠。

(………この封じを解く日が近いうちあるのかもな…)

 封印の術。

それを解く必要性がある。

ふと頭の中で過る。

その來魅の顔は笑顔で満ち溢れていて、恐ろしい程の力を持った妖怪とは思えない。

普通の10歳くらいの女の子にしか見えない。

「やれやれ」


 琉嬉は來魅が温泉に行きたいというので、渋々付き合う事になった。

まもなく琉嬉も18歳になろうというのに、子供料金でいいとか言われたり悠飛は男に間違えられたりして、

早速てんやわんやだったのは言うまでもない。




 かくも、琉嬉達は新たな学年、学校と進級し、新たな生活が始まる。

大きな問題を抱えながら……も。

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