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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十章   ~新規怪拓編~
60/92

#60 昼下がりの神隠し 其ノ三

「やべ。やり過ぎたかな?」

 龍翔の渾身の一撃で教室の壁に大穴が空いていた。

それはそれは見事に。

綺麗に。

「でも、ま、もう使われない建物だからいいよな?分からんけど」

 都合いいほうに解釈する龍翔。

穴の開いた壁側の向こうからさらに冷たい空気が流れ込んで来る。


「まったく。遊希のやつ…。俺を捕らわれないように守りやがったな…」

 謎の女生徒に会った途端に得体の知れない力で龍翔は捕らわれそうになった。

いや、実際捕まったには違いないが、連れて行かれる際に遊希がなんらかの方法で龍翔を守ったようだ。

おかげで「神隠し」状態にされなく済んだようだった。

「闇」の中ではある程度自由が利く遊希ならではの力であろう。

だが遊希の姿はない。

代わりに遊希も龍翔を守るのが精一杯で自分が捕らわれてしまったようだった。

その肝心の遊希はというと…。



「いや~、まったく何も効きませんね~。困りました」

「本当に困ってる顔か…?それ?」

 ニコニコ笑顔のままのまどか。

その表情からは困った様子には見えない。

琉嬉みたいな普段無口無表情な人物とはまた違う、逆に何考えてるか分からない人間の1人でもある。

「…お前、人間のくせによっぽどな精神してるな」

「あらぁ?そうでもないですよ?これでも結構焦ってますから」

「………嘘だ」




 琉嬉と護は旧校舎内を大体回った。

しかし足取りはまだつかめてなかった。

一瞬だけ姿を現したのにまた姿を消す。

まさに幽霊のように神出鬼没。

そろそろ万策尽きる頃だった。

「お、きた」

「…電話?」

 琉嬉が再びスマホを取り出し、通話開始。

「ほい。僕だよ」

『それは分かってるよ、姉ちゃん。てか、情報ゲットしたよ』

「おーけーおーけー。で、教えて」

 急かすように聞く。

『……2年4組。「志崎唯子」(しざき ゆいこ)という生徒がいたクラスは』

「ほい。あんがとさん。では早速行ってみるぜ」

『……無茶はいけないからね』

「分かってますよー。護も寧音もいるからね」

「え?あたしが何?」

『……護さんは相変わらずだね…』

 イマイチ話に乗れてこない護であった。


「その、今話してたシザキユイコって誰?」

 いつものように理解出来ないといった感じで質問する護。

「私も気になりますね」

 琉嬉はやれやれといった表情でこう答える。

「20年以上前に、存在していた生徒…らしいよ。この旧校舎がギリギリ使われてた頃だね」

「え?マジ?その…20年前の事がなんで?」

「昔からこの地域に続いている、術者の1人…だったそうだ」

「え?そなの?なんでそんなコト分かるの?え?もしや」

「さーすがにオツムがぽけぽけさんの護でも気づいた?」

 人差し指で護の額をつんつんしながらも話を続ける。

「どういう理由で死んだかは知らないけど、悪霊化して僕達の前に姿を現しているって訳。

かなり端折ったけどおーけー?」

「???」

 やっぱり足りない頭の護ではあまり理解出来てなかった。

「あの……それってもしかして」

 寧音はさすがに気づく。

「うん。簡単に言うと、志崎というのは、霊術名家のひとつ…。かつて霊術会に在籍してた志崎家だね」

「名家……!」

 2人は納得したような顔をする。

あれだけの力を持つ者。

霊術名家程の力を持つのなら納得できる。

「ま、地道に説明してる暇はないけどね。さあ、行くよ」

「あ、ちょ…待ってよ~」




「……他の奴等は大丈夫なのかね…。てて…」

 龍翔は体のあちこちが痛みを走っていた。

いろいろぶつけたのかなんなのか分からないが、捕獲された時に痛めた。

きっと捕獲された瞬間にでもぶつけたのだろう。

そう思いながら暗い旧校舎を歩いていた。

闇雲…でもなく、琉嬉らの発する強い気配と霊力を頼りにそちらへ向かっていた。

(…しかしまた、この学校来て以来のピンチだな。がしゃどくろ…の時とは違った、ピンチだ)

 一応、連絡手段の携帯をまどか宛に連絡を取ろうとするが繋がらない。

「やっぱりか…。まいったね。こりゃぁ、他のヤツでいいか」

 そこで、ある事に気づく。

「…俺ってば、他のヤツの連絡先知らねぇなぁ…。ハハ。どうしよう」

 普段学校でしょっちゅう会う訳で。

連絡先の事をあまり気にしてなかった。

連絡と言っても、他の人間が回してくれるのもある。

まどかや叉羅沙ら生徒会メンバー伝に情報が入ってくるのもある。

そこがかえって盲点になってしまった。

「…せめて彼方の琉嬉さんの番号でもなんでも聞いとくべきだったな。あっちゃ~」

 暗闇の中少し歩き続ける事数分。

あれやこれや考えながら歩き続けて行く。

が……。

「…ところで、敵さんの目的はなんなんだ…?ここの生徒をさらってどうする?」

 よくよく考えると、相手の目的がはっきりと見えてこない。

そもそも、「人間」ではない説が濃厚である。


 琉嬉らと連絡が取れない事には全体像がまったく見えてこないのだ。

不気味さが増していく校舎内。

「困ったね。うーん。困ったね~」

 フラフラ歩き回るしかない。

「しっかし、他の子達が来てる筈なんだけど、一向に出会わないな。

これ…まさか幻術のせいだったり?んなワケないか」

 そう言うとしばらく黙ってしまう。

自分で言っといて不安になったのだ。

(う~ん……遊希がいないと立ち回りが不安だな…。

1人で居る時の辛さ……か)

 あれこれ考える。

こんな状況で考える。

独りで置かれた状況だからこそ、余計な事を考えついてしまう。

「しゃーねえ…なぁ…」

 龍翔が右手に霊力を込める。

ブーン、と、虫が飛んでるような音を立て次第に強く光り始める。

その拳をとりあえず、壁に向かって突き立てる。

再びズドンっと鈍い音を立てながら少し崩れる。



「!!」

 琉嬉達は今度は明確に感じた。

音と共に感じ取った霊気を確認した。

「今の…」

 三人は顔を見合わせる。

罠かもしれない。

もしかしたら、捕らわれた誰かかもしれない。

そう思い始める二人。

「音した方へ向かってみる?」

「気になるしね」




 二人は結局、よく見慣れた顔と出会う。

「龍翔…クン…だね」

「だね」

 琉嬉と護は安心したというか、ガッカリしたというか。

「よっ」

 と、いつもの調子で手を上げながら合流した。

「んで、何か解かったか?」

 早速状況を聞きにくる龍翔。

「ん。まあね。旧2年4組の教室に行ってみたいと思う」

「ほほう」

 何か掴めたのか、と勘繰る。

ニヤっとする龍翔。

「にしても、無茶するねぇ。龍翔君」

「人のコト言えねえだろー」

「はいはい元気で何より」

「…ここまで来て言い合いとは、琉嬉ちゃん…その性格どうにかした方がいいよ」

「うっさいうっさい。行くぞ」


 結局龍翔と合流しながらも教室前に着く。

ガラランッと景気よく思いっきり教室の戸を開ける。

中は後ろに固められた机椅子達。

これといった不可解な様子はないように見える。

立ち止まったせいか、寒さが体に再び染みてくる。

埃が舞う教室内。

琉嬉達は黒板を背に教室の真ん中の方に視線を向ける。

懐中電灯を向けるが特に変わった様子はない。


「そろそろ出てきてよ。先輩さん」

 琉嬉が小さい声で呼びかける。

「フフフ……、自ら飛び込んでくるなんて…頼もしい後輩ね」

 いくら慣れた状況でも体がぞわっとする感覚。

そう。

「幽霊」が現れる状況。

暗闇から姿を現したのは龍翔が見かけた女生徒だった。

何度見ても、何も無い所から人の姿が現れるのは見てて気持ちのいいものではない。

「…あんたが、シザキユウコさん?」

 琉嬉がそう問う。

女子生徒はまたしばらく間をあけて答える。

「あら、もう調べついたの?さすがねぇ」

「僕らには情報通がいるんでね」

「あらそう、それはいいわね」

「…龍翔君」

 受け答えをする相手の様子を見て、小声で龍翔に話しかける琉嬉。

「ん?」

「……こんなにはっきりとした受け答えする幽霊って…相当ヤバイかも」

「んー。それもそうだな。なんせうちの会長さんやら遊希をもとっ捕まえた程だしなあ」

「??」

 護だけ話について来れてない。

「…ここまではっきりと話が出来るなんて…やっぱり術者だね。それもランク高い」

「そうだな。俺らみたい…レベルのな。いや、それ以上…」

「まあそりゃあ名家だしね」

「…え?」

 琉嬉は残りの札を左手に持つ。

いつ何があっても対処出来るように。

「護。護もすぐ攻撃されても反応出来るようにしといて」

「え?あ、ああ。そうね」

 そう言われてすぐ霊力剣を作り出す。

「寧音は僕と一緒にお願い」

「分かりました」


「単刀直入に聞くけど、シザキ先輩。アンタ、何が目的なの?」

 ドストレートに質問する。

ややこしいのは好みじゃない琉嬉ならではの言葉。

「…フフ。直球ね。いいわ。教えてあげる」

「それはありがたいね」

 話を聞くがいつ攻撃されてもいいように各々武器構えを崩さずにいる。


「私はね。「器」が欲しいの。そう。体。新しい体」

「…器?体?それって…もしかして」

「そのもしかして…かもしれないわよね」

 不気味な笑みを浮かばせるシザキと呼ばれた女子生徒の霊。

前髪で目元が少し隠れていて見えにくい。

そこが余計に不気味さを増している。

「なるほど……。お前さんはつまり、生き返りたい…ってことかい」

「正解ね」

 ようするに、シザキは霊体のままではなく、新しく肉体を得たいようだ。

「バカな…。そんな事が出来る訳…。いや、憑依…?」

 琉嬉が何かに気づく。

「どうした?琉嬉?」

「寺でなんかの文献で見たんだ。人間は生き返る事は不可能だって。

…でも、可能性があるとしたら、生きてる人間に乗り移れる可能性はあるって……。

アイツは…それをやろうとしてるのかも…しれない」

「マジかい」

「…よくあるでしょ。霊に獲り憑かれるって。それを強化版みたいな事をしようとしてるんだ。あの幽霊」

「……それは困るね」

 シザキは無言で頷く。

そして自分のやろうとしている事を話し出す。

「そうよ。私の体はもう「死」んでない。でもね、生きてる体なら、また現世に戻れる。

この縛られた空間から。

私は、また世界に出たいのよ」

「…未練たらたらの霊かい」

 クールに装ってた龍翔も冷や汗をかき出す。

こんなバカげたような発想だが、こんなにも強い霊が言っているのだ。

もしかしたら可能なのかもしれない、と思い始めてしまう。

それだけ相手は本気だ。

「何があったのか知らないけど…そこまで現世にしがみ付きたいんだね。

同情はあるけど…他人の体を勝手に使うのは……良くないんじゃないかな~」

 御札を構える琉嬉。

「そうよね。うふふ。でもただの体じゃあダメ。一番適応力あるのがいいんだけど、ネ」

「…だからって手当たり次第はイケないんじゃない?」

「あら、力がある方がいいじゃない」

 クスクス笑いながら答えるシザキ。

「……力…ねぇ。だから会長が狙われたんだ」

「体格も近いのもあるからかでしょうか…?」

「かもね…」

 狙いは、霊力が高い者。

そして近しい体格の者。

まどかが当てはまっているようだ。

「なぜか、妖怪さんまでも捕まえちゃったけどね」

「……」

 無言で睨み付ける龍翔。

ともかくだ。

目の前に犯人がいる事には違いない。

琉嬉は冷静にシザキにこう語りかける。

「取り敢えずー、捕まえた会長達を解放してもらおうか?」

「嫌だ…と言ったら?」

「…断ったら断ったで…勿論力づくだよ?」

「あら、意外と過激派なのね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

(なんでやねん!)

 と、護は心の中でツッコミを入れるも何かの殺気に気配に気づく。

さっき襲ってきた黒い影だ。

「うわっと!」

 すぐ気づき、護が霊力剣でなんとか切り裂いて避ける。

「まったく、油断も隙もありゃしないってか」

 琉嬉もすぐさま戦闘態勢に入る。

「やるしかない…か」

 龍翔も構える。

「いつでも準備はOKです!」

 寧音の両手が光り輝く。

かなり強力な霊気だ。

「自我を保ったままこの霊気……厄介過ぎるぜ。どう思う?琉嬉ちゃんよ」

「大ボスクラスと思ってやるよ」

「はは、いいね。その冷静さ」



「アッハハハハハ!届かないわよ!その程度じゃ!」

 うじゃうじゃ迫り来る黒い影が鬱陶しくて、シザキ本体に攻撃が届かない。

琉嬉も先ほどの真霊気の消耗で全力が出せない。

なんとか寧音のフォローで攻撃を凌いでる。

「大丈夫ですか?琉嬉さん?」

「おっけーおっけー、全然大丈夫」

 影攻撃が厄介過ぎて近づけない。

しかもその影にも攻撃が当たらない。

避けるしかない。

「面倒な先輩だよ…まったく」

 龍翔や護みたいな接近戦タイプには厳しい状況。

琉嬉も残りの霊力をみてか、あまり果敢に攻めていかない。

否、攻め入る隙がないのだ。

相手はかなりの術者。

寧音も反撃に移ろうとはするが、どうにも反撃の隙すら見つからない。

「困りましたねぇ…」

「せめて、みゆがいてくれたら…」

 琉嬉と似たようなタイプのみゆ。

力づくではない、こう裏をかくような戦い方をするみゆと連携取れれば戦況は変わるかもしれない。

そう考え始めていた。

「連絡取れなかったの?!琉嬉ちゃん!」

「残念。この教室付近結界のせいなのか分からないけど、電波届かないんだよね~」

「なんて好都合な…いや不都合か…おっと!」

 しつこいくらいに迫り来る黒い影。

それを防ぐだけでも精一杯だ。

「護。少しの間時間稼いで」

「え?」

「お願い」

「……おっけーおっけ~。本気出していくよ!」

 特に何か聞くこともなく、お互い解かったように護は再び妖怪化する。

紅い目となり、霊力剣の色も青から赤へと変色していった。


「寧音」

「はい、なんでしょう」

「僕はいいから護のフォローに当たってくれない?」

「しかし…」

 不安げな顔をする寧音。

ぽんっと寧音のお尻を叩く琉嬉。

琉嬉なりの気合いの入れさせ方。

「な、何を…?!」

「五大家の力…ていうより寧音自信の力を見せつけてやって」

「……またまた琉嬉さんったら…」

 眼鏡を直す仕草。

照れながらも護の元へ向かう。


「龍翔君」

「…なんだ?」

「正直、あのシザキユイコって人にこのまま勝つには僕らだけには辛い。でもね」

「でも…?」

 琉嬉は目線を教室の戸に一瞬向ける。

誰かが来るかのような期待した目で。

「もうちょっとしたら、みゆ達も来るはずだから大丈夫。

んで、この結界を解くために僕は全力で真霊気開放するんで…後は護達とみゆ達と協力してよろしくどうぞ」

「…マジかい」

 コクンと首を縦に振る琉嬉。

喋らないまま動き出す。

何かの作戦に出るらしい。

「ま、お前さんを信じてやってみるよ」




 みゆ達は旧校舎の中を彷徨っていた。

というより、彷徨いさせられているのかもしれない。

「琉嬉の妹の話だとこのクラスじゃないの?」

 凛夢が指を差す方向。

教室の入り口にある、クラスの表記。

2-4と書いている。

間違いなさそうだ。

琉嬉達と同様にみゆらも悠飛の連絡取り旧2年4組の教室に辿り着いた。

「そうなんだけどね~。おそらく私らは幻術の一種にハマっちゃったのかも」

「幻術?」

 だが、教室の中は特に変わった様子もなくガランとしている。

琉嬉達の姿はない。

みゆの考えによると、琉嬉達はおそらく別空間。

そう思い始めている。

「ん~……。誰もいない。ってなると…」

 またブツクサ言い出す。

「みゆちゃん?」

 叉羅沙が気になり声をかけようとする。

「大丈夫です。先輩。

みゆちゃん…考え込むと回りが見えなくなるくらい集中するんで」

「そ、そうなんか…(意外やな)」

 みゆの集中力が凄まじく、一旦大きく考え込むと回りが見えなくなるらしい。

いつも陽気に明るい顔を見せてるが真面目な面とのギャップが激しい。


 しばし考え込む事、5分近く。

柚羽と叉羅沙は教室内を何か探すようにガサゴソしていた。

が、何も見つからない。

思ったより物も残っていない。

「何もありませんね…」

「そやなー。はー。あかんわぁ…。本気で泣きそうになるわ」

「駄目ですよ。くじけちゃっ。私まで泣きそうになるじゃないですか…」

 お互いに悔しい思いが強すぎて涙目になる。

教室内では2人がほぼ泣いている。

その教室の外側の廊下ではみゆと御琴、凛夢が居る。

そこでみゆが手をパンッと叩く。

その音にビビる他の者達。

「なんやなんや…?ビビったわあもう…」

 大きい図体して飛び跳ねるようにびっくりする叉羅沙。

当の音を発した本人は…。

「んー。これはやっぱり…私達が別空間に居ると考えた方が無難かな…」

「別…空間…?」

 御琴が声を裏返しながらも聞き返す。

「そ。別空間。琉嬉先輩達やまどかかいちょ達が別空間に居るとにらんだけどね~。

多分私達が別の所に居ると思うんだ」

「ほんまかい…」

「そう考えるのが妥当かな」

 みゆが下した判断は自分達が別の空間に飛ばされた。

そう解釈する。

むしろこちらが別空間に居るという可能性を示唆したのだった。

「なんせ、相手さんは人知れずに人間を拉致できる程なんだよ?」

「む、むう…たしかに……」

「誰にも察知出来ないような空間を作り出して、人さらい。おおっ怖い怖い」

「ひぃ…」

 わざとらしいみゆに大して本気で怖がっている御琴。

「…だとしたら、ここから出る事は可能?」

 凛夢が壁に寄り掛かりながら聞く。

「残念ながら、この幻術を打破出来るのには私の力では無理」

「ええ?みゆちゃんでも?!」

「でもでもでも~。この道具さえあれば…」

 みゆが背負っていた鞄の中から出てきたのは大量の大きな釘なようなもの…。

教科書とかではなく、他の霊術道具一式がわんさか出てくる。

「何コレ?」

「これを一定の間隔で突き刺していって、我が陣術をぱわーあっぷさせる特別な霊具なのだ!」

「ほぅ~」

「なんせ、突き刺すのが面倒であまり使われないんだけどね。もっとじっくり除霊する時なんかに使うんだけど。土地除霊とかに」

「…だろうと思ったわ」

 ため息つきながら言う凛夢。

面倒くさそうにしながらも凛夢は釘を受け取る。

教室の窓側ギリギリから、廊下を出て隣の教室の辺りまで次々とみゆの言うとおりに刺していく。


「こちらはこれで大丈夫ですか?」

「おっけーおっけー」

「あ、でもこれ届かない…」

 背の低い柚羽では届かない箇所。

地面だけでなく壁や天井に突き刺して空間範囲を広げるとより強くなるという。

「はいはい、そこはお姉さんに任せときー」

 叉羅沙が柚羽の手から釘を貰い受ける。

そしてそのまま高い壁に突き刺す。

「はぁ~、さすが叉羅沙先輩…」

 少し背伸びすれば天井すれすれまで届く手。

自分もジャンプすれば届くのだが、それはそれでズレたりして刺しにくい。

安定している叉羅沙だからこそ出来る芸当。

「…先輩、背、また伸びました?」

 こっそり聞く柚羽。

「………あんま言いたくないんけどな、半年前よりはちぃと伸びた」

「…その身長分けてください」

「琉嬉ちゃんと同じと事言うとるなぁ…」

 そう言われても困るだけだった。


「ほら、出来たぞ」

 余った釘を返す凛夢。

「さんきゅさんきゅ」

 そしてゴソゴソとポケットの中から何か取り出す。

日本の物とは何か違う数珠のような物。

それをじゃらじゃらと左手に持つ。

右手には良く持っている細くてナイフよりも長い、日本硬貨の10円玉みたいな色をした剣。

「さーて、ここじゃなかったらもったいない損失だけど、やるっきゃないよね」

 みゆが術を込める呪文のようなものを呟く。

そうすると、一定の間隔に置かれた釘を解して陣が浮かび上がる。

「おおっ!」

 凛夢と御琴が驚きの歓声をあげる。

「出てこぉ~い!」

 真霊気とも劣らない凄まじい光が発せられる。

ブワッと音までもかき消されるくらい明るくなる。



 突然琉嬉達の目の前にパッとみゆ達が現れた。

だが、皆着地を失敗したように尻餅着いたように座り込んでいる。

「!!な、何?!」

 シザキが驚きの様子を見える。

いきなりみゆ達が姿を現したからだ。

予想外だったのだろう。

「なんだ~?みゆと…凛夢?叉羅沙と柚羽と…そして御琴?」

 護がぽかんとする。

「ふへ~。ようやっと出れた」

 しかめっ面ながらも、立ち上がるみゆ。

他の者も埃まみれになりながらも立ち上がる。

「出れた?」

「や、龍翔先輩。私らが多分術にハマってたんだねこりゃ。こっちが現実空間」

「よく分からんが、戦力が大幅増大って感じだな」

「そゆこと」

「ぬう…」

 シザキの表情は歪めながらも攻撃を繰り出す。

「おっと!させない!」

 凛夢が間一髪巨大鎌で攻撃を防ぐ。

「あとは任せた!」

「あ?なんだと?!」

 琉嬉は凛夢に任せてすかさず何かの行動へ出る。

凛夢はワケが解からないまま琉嬉を守るように動くしかなかった。

段々と凛夢の口調も荒くなる。

「何企んでるか知らんが、何かやるんなら早くしろ!この攻撃半端ねぇ!」

「あいあい」



 黒い闇の攻撃は凄まじく、こちらが攻撃しても何も通用しない。

しかし捕まると大きな力で持ち上げられてしまう。

何度も捕まれては投げ飛ばされる。

「いったい…わねぇ…」

「こんちくしょー!」

「こらあかんなぁ…どないしよ」

 各自懸命に戦う……が、決定的な一撃が届かない。

「……大技行く?」

 みゆが凛夢にぽつりと言う。

「…やってみる価値はあるの?」

「やらないと分からないよん~」

「気楽ね」

 2人がタイミングを合わせて動く。

「何かやるみたいですねあの2人」

「…五大家同士の合体技ってやつ?僕らも出来るんじゃない?」

 琉嬉は寧音と顔を見合わせる。

よくよく考えたら、みゆは港咲家。

凛夢は水無月家という五大家の中の二つの子孫だ。

「またまた~、琉嬉さんって結構ユーモアありますよね」

「お前さんには負けるけどね」

 そう言いつつ琉嬉と寧音は攻撃を避ける。


「せーのっ!」

 2人は一斉に同じ掛け声で、巨大な霊気をまき散らし、突進して行く。

2人は遠い親戚同士でもある。

多分他のふかしぎ部員達には知らない2人だけの共通点があるのだろう。

その見事な連携がシザキを狙う。

「……さすがね。さすが五大家…」

 シザキは闇の衣を纏い、自身を守る。

凄まじい音が鳴り響くが、シザキの姿がない。

「当たった?」

「外れたようだな…チッ」

 咄嗟にその場から離れる2人。

強烈な闇の一撃がその場を直撃する。

「あら、当たらないわね…お互いにね」

 不敵な笑みを浮かべる。

「厄介過ぎる…」

「そうだね。厄介。そう。この戦場が相手のフィールドだからね」

「どういう意味だ?」

「…スポーツとかだと分かると思うよ。相手チームの地元で戦う時とかのアウェイ感?」

 スポーツに例えて説明するみゆ。

「……つーコトはだ。この教室一帯付近はあの霊の有利な場所ってコトか?」

「そそ。だから私達は思うように攻撃当たらない?」

「…だからって諦めるのはごめんだね。私は」

「同じく」

「こっちもですっ!」

 寧音も混ざる。


「やれやれ、皆さん血気盛んだね」

「龍翔君も頑張りぃな」

 叉羅沙が龍翔の隣に来る。

「へいへい。いっちょ頑張りますか」

「その意気ですっ。龍返し!」

 柚羽も竹刀を取り出して迫ってくる闇を追い払う。

「後輩がやる気なん、先輩として負けてられへんな」

 叉羅沙も本気モードになる。

その目つきはいつになく鋭い。

無言のまま闇を一気に切り裂いていく。

(…叉羅沙先輩、こわっ)



 この攻防一体は数分間続いた。

なんとかシザキ本体まで辿り着いたと思えば、思ったよりダメージが当たらなかったり。

この狭い教室内では戦いにくい。

体力が尽きかけた頃だった。

「そろそろやばくね?」

 龍翔がバテそうに弱音を吐く。

「みんな、後は頼んだ!」

 琉嬉が不意に叫ぶ。

それと同時に左腕にしていた白黒の数珠を取った。

「真霊気・発彗!!」

 本日二回目の真霊気の技。

両手の手のひらから発せられる眩い黄金色の光。

その光はシザキ本人を攻撃する訳ではなく、シザキ周辺を照らすように命中する。

「この光は……また…あの時の…?!」

 光を放った反動で琉嬉も後方へ飛ばされていく。




 みゆの時のようにまた凄まじい光が教室中を照らした。

陣の力以上に強いせいか、光だけではなく、嵐が起きたように突風が巻き起こり、辺りを撒き散らした。

琉嬉以外の者も軽く吹き飛ばされてしまった。


「てて……一体何が何やら…」

 少し強めに頭をぶつけた護。

周囲を見てみると机椅子が凄まじく散乱していた。

「うっわ……ぐちゃぐちゃ…。でも校舎が吹き飛ぶよりはマシか…」

 辺りを見回す。

静寂が戻りつつあるこの旧校舎内。

暗闇の中空しく一辺倒だけを照らす懐中電灯をすぐ手に取る。

「みんなー?元気ー?生きてるー?」

 大声で安否を確認する。

「なんとか、大丈夫さ」

「うおぉう。龍翔くん!」

「頑丈さには取り得があるつもりだったんだけどな。やれやれ」

 ヒョイっと軽々と龍翔が抱き上げていたのは琉嬉。

「琉嬉ちゃん!」

「ドジった…もっと手加減すればよかった……」

「…全力でやったの?もしかして」

「…まあね。龍翔君、恥ずかしいからもう降ろしていいよ」

 そのまま降ろしてもらう。

とはいえ、手足がおぼつかないほどフラつく。

そのまま座り込む。

「おいおい大丈夫かよ」

「だいじょぶだいじょぶ。それより他のみんなは?」

「生きてるよぅ」

 埋もれた机椅子から出てくるみゆや御琴。

「問題ありませんっ!」

 ドカンッと勢いよく机を吹っ飛ばして登場する寧音。

眼鏡が泥だらけだが元気そうだ。

「私らいる事を無視して無茶苦茶やるんじゃねえよ…まったく」

「そりゃごめんよ。でもね…」

「!」


 ほっとしたのもつかの間。

すかさず黒い影の攻撃が目の前を横切った。

「……何を…したの…?!」

 シザキはそこに居た。

真霊気の影響だろうか?

先ほどのような霊気や覇気を感じられない。

「お前を倒しても術が解けなかったら困るから、思い切って先に術を解かしてもらったんだよ」

 琉嬉は淡々とシザキに向かって言う。

「先に…?」

 ようするに人質解放を先に優先したという事である。

術をかけた本人が気絶、もしくは死んだ場合大抵の術は自然と解ける場合がある。

だが呪いのような強力な術に関しては解除されない事もある。

琉嬉はそれを懸念して先に捕らえられた生徒達を解放しようとしたのだ。

「…くっ……」

 シザキはこれでは不利だと悟ったか、姿をくらまそうとした。

が、その瞬間だった――。


 ズドッっと鈍い音と共に床に突き刺さる槍。

その槍はシザキの腹を貫いていた。


「がっ……これ……これは…?!」

 一気に崩れ落ちるシザキ。

槍が地面に突き刺さると同時にシザキも崩れ落ちるようにがっくりと動きが止まる。

「この槍……!まどかか!」

 龍翔が槍を放った主に気づく。

「いやぁ、うまく命中しましたね。ふふ」

 気がつけばまどかと遊希、そして大勢の生徒達の姿があった。

まどかと遊希以外の生徒は気を失ってるのか、倒れたままだ。

「助かりましたよ。こちらからは何も手出せなかったので…」

 いつもと変わらない調子の笑顔を見せるまどか。

「……龍翔様!」

「おう、遊希。無事で何よりだ」

 シザキを貫いた槍はそのまま消え行く。

貫かれた、シザキ本人はその場に崩れたままだ。

しかし姿が掻き消える事もなくまだその場に居る。

余程の高い霊力を持った霊だと、改めてその場に居たメンバーは認識した。


シザキは消えずにその場に留まっている。

つまり、まどかの槍の一撃でも倒すには至ってなかったようだ。

ふかしぎ部員達はそれ以上攻撃する事もなく、黙って見守っている。

「さてさて、何故私達を捕まえたのでしょうか?」

 捕らえた理由を自ら聞くまどか。

いつものように笑顔。

近づく足はどこかゆっくりで、頼りない。

こう見えても結構の体力霊力が消耗しているようだった。

「ああ、そういえばまどか達は理由知らなかったよね」

 琉嬉がフラつきながらもまどかの隣へ来る。

「……さっきも言ったでしょ。器が欲しかったのよ。現世に戻るための…。

力が強い…あなた達が適応できそうだったからよ……。

一番適応出来そうだったのが……そこの三つ編みのあなたよ」

「あらまあ。それは嬉しいやら何やら複雑ですねぇ」

 さすがのまどかも微妙な表情をする。

「それはそうと、私の槍を受けてもまだ存在を保ってるなんて、凄いですねぇ」

「…伊達に悪霊やってないわよ」

 自覚があるようだった。

それに対して琉嬉は、

「何を偉そうに…」

 と、呟く。


「はんっ、とんだ迷惑な話だね。そもそもあんたなんで死んだのさ。大体霊術名家だろ?

志崎家……今は何処にいるんだよ?」

 琉嬉がここぞとばかりに質問攻めする。

「…この校舎にいた妖怪を倒し損ねたからよ」

「妖怪?」

 旧校舎の妖怪といえば…そう。

「それってがしゃどくろ?」

「…そうね。残念ながら私はがしゃどくろとの戦いで死んだわ。情けないったらありゃしない。だからこうして未練たらたらで

この世に留まってるって事。分かる?」

「そ、そうなんですか…?!」

 柚羽が上擦った声で言う。

「…そこの小さい子…鳴神家ね…。貴方は死ななかったのね」

「はい…」

 鳴神家の事情も知り得ている。

本来なら鳴神家の仕来たりとも言える術で柚羽も命が無くなっててもおかしくなかったからだ。

「……ここまで意志のハッキリした霊は初めてだ…まったく。がしゃどくろなら僕達が倒したよ」

「…そうみたいね。さすが私の後輩達」

「…そこあっさりと流すんだ…」

 あっさりとした態度に脱力する琉嬉達。

「つくづく感に触る言い方する先輩だな…もう一回とっちめるか?」

 凛夢もシザキの態度にご立腹だ。

「まぁまぁ」

 珍しくなだめるみゆ。

 

 シザキの言い分は、とにかく昔の姿を捨ててでも現世に「蘇りたい」一心だった。

例えそれが男でもあろうが、まずは手当たり次第生徒をさらった。

そこで力を持つ術者がいる自分達のようにいる事が分かり、術者を狙った…と言った内容だった。

「それにしても、この私を捕まえるなんて、さすがは先輩ですね~。

尊敬します。むしろその術を習いたいですね」

「…何を言い出すんだまどか…やーれやれ」

 まどかのポジティブ思考にも呆れる龍翔。


「はぁ~、とんだ事件だったな…。まったく。完全な悪意はなさそうだし…。

かと言って許される訳でもないよね」

 ぐしゃぐしゃになった頭をさらにぐしゃぐしゃ掻きながら言う琉嬉。

「…じゃあどうするの?私をこの世から完全に成仏でもさせる?」

「せっかくの鞍光高校OGだしね~」

 みゆの言う通り、言わば鞍光高校ふかしぎ部の先輩に当たる人物だ。

「体はあげれないけど、もうしばらく居てもらおうかね?」

「どゆこと?琉嬉ちゃん?」

「僕にいい考えがある」

 と、ひと差し指を立てながらある提案を出した。




 ひとまずの連続生徒疾走事件は幕引きとなった。

犯人は霊術名家のひとつ、志崎家の術者の霊だった。


 その力は凄まじく、ふかしぎ部が束になってようやく収めたというかなり骨の折れる事件だった。


 志崎唯子。

その処遇はふかしぎ部に任せられた。




 連続生徒失踪事件が解決してから丸一日が経った。

この時期に警察沙汰にもなり、かなり大事になったのはたしかだった。

失踪した生徒らは特に怪我や衰弱もなく元気な様子だった。

「やあ、眞太朗。大丈夫?」

 琉嬉が珍しく自分から声をかける。

相手は事件に巻き込まれた嵯藤眞太朗。

「…琉嬉か。まいったよ。変な女子が声かけてきたと思ったらその後の記憶がなくって…。これも心霊現象なのか?」

「ほんっと鋭いね。ま、心霊現象って事で。これ、あんたの携帯」

 ひょいっと投げ渡す携帯。

「あ、なくしたと思ったのに…お前が持ってたのか」

「……あんまり大きな声では言えないけどね。この携帯のおかげで事件解決に動いたんだよ」

 小声で喋る。

「……マジで?」

「ていうのは大げさかもしれないけど。ま、おかげで解決の糸口になったのはたしかだけどね」

「それは良かった」

 案外素っ気無い態度にキョトンとする琉嬉。

「…あんまり驚いてないね」

「いい加減慣れてくるさ。夏の時だって、文化祭の時だって…」

「……だよね。大体僕もこの学校来てから驚く事ばっかりだし」

(ああ、そうか。コイツ…転校生だったよな)

 眞太朗は忘れかけていた。

琉嬉が転校生だったという事を。

異常に慣れ親しんだからだ。


 続々と他のクラスメイトも登校してくる。

だんだんにぎやかになっていく教室。

「…なあ琉嬉。やっぱりあの時みた女子って…幽霊か?」

「………幽霊だとしたら…?」

「いや、ただ気になるだけさ。琉嬉の行く先々で幽霊騒ぎ起こってるような気がしてね」

「それを研究して解決するのがふかしぎ部なんだし」

「ふぅん…良く解決出来たな…さすがだな」

 遠慮なくストレートに褒める。

真っ直ぐな感想に琉嬉が少し照れる。

「…お前探偵にでもなった方がいいんじゃないか?」

「探偵ね…それいいかもね」

 まんざらでもない顔する。


「…ま、ぶっちゃけると眞太朗が見た人は霊だね。それも僕らの先輩に当たる人」

「…へぇ。そうなのか」

「信じるんだね」

「あんな事起きりゃ……な」

 特別大きく驚きはしない眞太朗。

つくづく慣れとは恐ろしい……。

琉嬉は思った。




「で、その志崎先輩が…なぜここに?」

 部室に入った叉羅沙が驚いていた。

あれほど暴れまわっていたシザキ事、志崎唯子がここに「居る」のだから。

叉羅沙は面識ないはずだがすぐに分かった。

「いいじゃないんですか?これほど頼りになる先輩もいませんよ?」

 毎度のごとく笑顔のままのまどか。

「そ、それはそうなんですが……」

 柚羽が引きつった顔をしている。

「そうだな。俺らがいなくなってもお前らが三年になっても、ずっと頼りになる先輩だぜ?」

 龍翔もこう言う。

資料をまた何か漁りながらだった。

「一応、これでも私は生徒会やってたのよ!」

 ちゃっかり生徒会室と繋がっているふかしぎ部室二つに居ついている唯子。

「…琉嬉ちゃん?これどういう事や?」

「え?だって僕らと同じくらいの年で死んだなんて可哀想じゃん。

だから、もうしばらく学生生活みたいにしてもらったほうがいいんじゃないかなーって思って。

だって20年以上も先輩だよ?」

「……どういう理屈どすかそれ…」

 呆れかえる叉羅沙。

「特殊な結界を常時作り出せるように仕込んであるから、一応四六時中唯子先輩はこの部屋なら常駐してられるよ」

「そういう問題じゃあらへんて…」

「ま、いいんじゃない~?幽霊も妖怪もいる学校。私達らしくて~」

 みゆも楽しそうにノリ気だ。

「ちょっと、妖怪って誰のこと?あたしの事じゃないよねー?みゆさぁーん?」

「うふふー。誰も護ちゃん先輩とは言ってませんがー」

「…じゃあ他に誰がいるんだよこらー」

 そのまま逃げ出すみゆを追いかけていく護。

「何やってるんだあいつら…」

 子供っぽい行動に笑いすら起こさない琉嬉達。

「まったく…にぎやかね」

「そうですね」

 すっかり場になじんだ唯子。

昨日まで争っていたとは思えない状況だ。

「……あかん。どんどん変な方向へ向かっとる……(こんなん予想してへんわぁ…)」



 すっかり真っ暗になった外。

生徒会室もまどからも帰りすっかり静かになった。

だが、帰ってない生徒がまだいる。

琉嬉と唯子がまだ部室にいた。

「どういうつもりなの?私をこのままにしといて。もしかしてまた「器」を狙うかもしれないわよ?」

「…そん時はまた祓ってやるだけさ。でもね」

「でも?」

「……アンタはもうそんな事しないと思うよ。」

 予想外の返答に逆に少し動揺してしまう。

「……どっからそんな言葉が出てくるワケ?呆れちゃう…」

 プイッと反対側向いてしまう。

そんな様子を見て少しだけ笑みがこぼれる琉嬉。

「今日は月が綺麗だ…」

 窓の外を見ると雲が一切ない夜空。

冬の特徴なのか、この季節は夜でも星が煌びやかにに見える。

勿論、月もはっきりと見える。

「……?意外とロマンチストなのね」

「そう?」

「………」

 お互いに無言になる。

琉嬉はじっと窓を見続けている。

「……唯子先輩」

 すると琉嬉の方から話しかけて来た。

「な、何よ?」

 戦いの時とはまるっきり逆の目をする琉嬉。

それは何か優しい眼差し。

「寂しかったんでしょ?本当は?「器」うんぬん言う前に…。誰かに存在を知られたかった。

そんな気がしてならないんだけどネ。僕には…」

「………な、何言ってるの!バカバカしい……」

「…それに、美人さんだしね~。背も高くて胸も大きそうで、あー羨ましい」

「……バ、バカじゃないのアンタ?まったく…子供のくせに…」

 珍しく子供と言われても怒らない琉嬉。

「さてと、僕も帰ろう。じゃ、また「明日」。唯子先輩」

「……え、ええ…。さよなら」

 バタンッと静かにドアを閉めて帰っていく琉嬉。

一人残った唯子。

とはいえ自分は幽霊である。

皆が居なくなればまた昨日までと同じ、孤独な状態だ。

「………」

 無言のままその場を動こうとしない。

まるで瞑想でもしてるかのように目をつぶり、じっとしている。

(…変な子ら…。あんなに酷い事したっていうのに……。

特に彼方琉嬉…。

変な子。本当に。ちっちゃくて可愛らしい…って何考えてるのよ私)

 ススーっと幽霊らしく足を動かさないように移動する。

ペラペラと龍翔が見ていた資料を漁る。

(…当時の生徒会の名前…)

 当然、唯子の名前も書いてあった。

「フフ…。もう一度、生徒会…やるのもいいわね」

 これまでずっと孤独だった。

でもどこか懐かしい気分になる。

そして、今までと違う事がひとつ。

これまで長い間なかった、自然とこぼれる笑みが唯子にあった。




「…志崎唯子。享年17歳。死因は不明――。か」

「どうしたんです?先輩」

 こちらはほとんど人の気配がなくなった警察署の刑事課の一室。

その末端でもある特係の部屋。

正式名称は「刑事第3課特殊事件特別捜査係」。

その一室の唯一刑事の沢村。

沢村刑事が手に持っているのは鞍光市周辺の事件性がある人物などの死亡履歴など書かれた書類。

その沢村の背後から覗く後輩に当たる刑事の吉田。

「ああ、別に。深い意味はないんだけどな。もう終わったヤマの話だしな」

「…??よく分かりませんねえ。でもこの死因不明ってなんです?鑑識とかで分かる事じゃないんですか?」

「今の鑑識ならそうかもしれねえけどな、昔のだし。それに……どうしても分からないって出来事も世の中あるもんなんだぜ」

 本気混じりに言う。

「そうなんですか?まったく…怖い事言うなあ…先輩は」

「へへ。オカルト刑事で悪かったな」

 どうやら怪奇事件ばっかり追っているため「オカルト刑事」という通り名があるようだ。

(琉嬉ちゃんも粋な事するよな…。琉嬉ちゃんだけじゃないか…まったく。あの学校のお子さんらは…)

「どうです?先輩?帰りに一杯」

 グイッと飲むような仕草をする吉田。

「お前が特係に配属されたら行ってやってもいいんだけどな」

「ちょ、待ってくださいよ…それは勘弁ですって…」

「一人は寂しいんだぜ」

 本気か冗談か分からない言い方。

そして立ち上がって、帰り支度をする。

「…そろそろ特係にも相棒が欲しいんだけどな」

 チラッと吉田を見る。

「ぼ、僕はやりませんよぉ?」

「だよな。ま、違う部署のままでの連携は必要だしな」

 ぽんっと吉田の背中を叩く。

そして部屋を出て行った。




 こうして鞍光高校の謎の神隠し事件は幕を下ろした。

犯人であった唯子は幽霊であるため、逮捕とかそういう話でなくなったのもある。

結局、この事件は世間的にはふかしぎな、「神隠し」で終わってしまった。

失踪していた生徒も体調に大きな問題もなく、混乱は大きくなる事なく終結へ向かったのである。


 事実を知る者はふかしぎ部と、沢村。

そして一部の生徒の眞太朗。

事件の真相は決して漏れないように港咲家が圧力をかけている。

鞍光高校の学校七不思議みたいに語られる事になってしまった。



「おっはよぅ!」

 いつものように勢いよくドアを開けるみゆ。

「あれれー?一番乗りだと思ったのに…」

「よっ」

「みゆちゃんや」

「おはようございます」

「…みんなはやいねぇ~」

 みゆよりも先に来ていたのはいつものふかしぎ部達。

早朝から部室に集まるのが日課となっているようだ。

「さーすがに、琉嬉先輩や護ちゃん先輩はいないか~。あの2人いつも遅いもんね」

「たまに早く来るけどな」

「わおっ!」

 みゆの後ろにいたのは琉嬉だった。

「よっ」

「んもー。びっくりするですよ~」

 変な喋り方になる。

それだけ驚いたようだ。

胸をなでおろす。

「唯子先輩も、おはよ」

「……何よ、居たのバレてたの…?お、おはよう…」

「霊に対しておはようってのも変だけどね。ふふ」

「う、うっさいわね!」

 照れる唯子。



「さて、今日は部室を飾るイイモノを、耿助さんから頂きました」

 そう言いつつ、琉嬉がどかっと机に置いた物。

人形…というかぬいぐるみっぽい人形。

そのぬいぐるみ人形は日本人形のような容姿をしている。

長い黒髪。

綺麗な和服。

良くみるとなんとなく志崎唯子に似てる。

「なぁにこれ…?」

 みゆが持ち上げる。

「あ、パンツ見える」

「こら、変な所覗くなするな」

 みゆの頭にチョップする。

「琉嬉先輩…それはもしかして」

「気づいたかね?柚羽君」

「ええと…その人形は志崎先輩を憑依させるため…?」

「正解っ」

 みゆとは正反対に柚羽の頭を撫でる。

「えへへ…嬉しいです」

「あーいいなー。私も撫でて欲しいです」

 寧音も割り込んで来る。

「お前は何も言ってないだろ」

 琉嬉を中心にゴチャゴチャし出す。

「相変わらずだねぇ…琉嬉ちゃん」

 龍翔やまどからも部室に生徒会室側から入ってくる。

「忙しそうな琉嬉ちゃんに変わって説明すると、このぬいぐるみ人形に志崎先輩が憑依すれば学校外にも出れる…。

ってさっき琉嬉ちゃんが言ってたよっ」

 一番遅く入って来た護が代わりに説明する。

「へぇー…」

 みゆ達が納得する。

「…これがあれば、自縛化している唯子先輩もいろんな所行けるよ」

 皆から離れきった琉嬉が改めて説明する。

「で、私にこれからどうしろと?」

「……ふふ」

 いつも真顔で表情変化が乏しい琉嬉の口元がニヤッとした。

「先輩としてその知識を頂きたいので、これからふかしぎ部幽霊部員として唯子先輩を歓迎します」

「……は、はぁー?」

「幽霊部員って…意味違わねーか?」

 笑いながら言う龍翔。

他の者も笑っている。

「文字通りリアル幽霊部員ですよっ。凄いですねっ。ふかしぎ部っ!」

 楽しそうに寧音が話にノッてくる。

「フフ……フフフフ…。あっははっは。

本当、面白いわね…琉嬉。貴方って子は…」

 大笑いする唯子。

「なぁにそれー琉嬉ちゃん~!」

「お、にぎやかですね朝から」

 耿助が入ってくる。

朝からやってくるのは珍しい。

「耿助さん!」

「おー、今日も五大家揃い踏みですか」

「はは、やめてくださいよその言い方…。皆さんも名家だらけでこっちはこっちで緊張してるんですからね」

「どっちでもなあたしらはどーすれば…」

 護が拗ねる。

「お前はお前で特別だから胸張っていいんだよ。あ、胸張っちゃだめだ。タダでさえ大きいのに」

「セクハラ発言やめてっ」

 顔を両手で隠して護が照れる。


 やんややんや。

まだ授業前というのにみんなが集まってワイワイする。

元気な若者達。

「ほんと…敵わない訳だわ…。彼方琉嬉。本当の意味での「器」があの子にあるのね…」

「ね?そうでしょう?うちの部長は面白いんです。強くて、可愛くて、世話好きで…」

 まどかが唯子に琉嬉について語る。

「まどか…だったかしら?」

「ええ、そうです。宮森家です。一応」

「宮森……貴方のお父様の事少しだけ覚えてるわ。悪かったわね…」

「いえ。その事はもういいんです。名家の術者死んでもはやっぱり只者じゃないって事が分かりましたし」

「…何気なく毒吐くわね貴方…」

 ちょっと失礼な事を交えて言うまどか。

相変わらず笑顔のままだ。



 一年が終わる。

その締め括り前に、新たなふかしぎ部員を得た。

それもかなり特別な。

別れの季節と共に妙な生徒とまた新たに出会いがあった。


これで琉嬉達の一年間が終わりです。

次からは新学年度となって、琉嬉達が最上級生になり、新たな後輩達という

新キャラ達が出てきて大所帯になります。

ゴタゴタ度が上がってきますが

まだまだ続きますので気長に御付き合いください~。

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