#59 昼下がりの神隠し 其ノ二
表には出さないが、心の中では後悔していた。
いつもいつも後手に回るクセがある。
生徒会に入ったのも二年になってから。
二期続けて副会長としてとしている。
そんな、後ろから見守るような立場。
一歩引いた位置からいつも行動していた。
今までこれといった、大きな危険な状態になった事もない。
琉嬉と戦った時。
がしゃどくろ事変の時。
あれこれ先頭に立つ事もなく、バックアップをしてきた。
そんな平和な生き方をしていた矢先。
それが今となってあれこれ考えてしまう。
暗闇の中、後悔の念が渦巻いていた。
「う……ここは?」
龍翔が気づくと薄っすらとした闇の中。
回りを見回す。
「うぅっ、寒みっ。まずったなー……。おい、遊希。いるか?」
しかし返事はない。
さっきのいざこざで遊希ともはぐれたようだ。
暗闇の上、不気味に静寂が続く。
「ちっ、真っ暗じゃねーかよー」
携帯を取り出し、最近の携帯にはついているライトを点灯させる。
その明かりを頼りに少し歩き出す。
軋む床に、腐ったような木の匂い。
最近どこかで見たような作りの部屋、そしてどこかで嗅いだ様な匂い。
「ここは……もしかしてもしかして…?」
手を壁に当てる。
ひんやりどころか、かなり冷たい。
凍えるような冷たさ。
(なるほどな…)
「…龍翔君達の霊気が消えた」
急に立ち止まる琉嬉。
「ほへ?」
琉嬉が微かな変化に気づく。
「マジですか?」
「うーむ。もしかしたら龍翔君も被害にあった可能性が…」
「それは、やばめ?」
「うん。やばめ」
冷静に返す琉嬉に護もたじろぐ。
「あわわわ、龍翔さんが…?!」
寧音が慌てだす。
自分と同じような術者の霊力が消えたとなると、かなりうろたえる。
「このままだとみんな…神隠し?」
「いえす」
なぜか英語で返答する琉嬉。
さすがの護もツッコミを入れる事も気づけず、焦っている。
逆に冷静さを保っている琉嬉。
その琉嬉は壁に手をつける。
「………ふむ」
「何か分かるの?霊視ってやつ?」
「…てーんで、分からない。霊が居たって痕跡すら残ってない」
「ありゃっ」
お約束のようにずっこける護と寧音。
「でも、霊の痕跡がないけど、嵯藤眞太朗が居たっていう痕跡があるからね。
そして、龍翔先輩の霊気とお付き妖怪の力も消えた。理科室の方」
「んでんで?」
「…悠飛の出番」
『なるほど。消失ポイントを照らし合わせたらなんとなく見えてきたよ』
「おっけー。じゃ、次のポイントを教えて」
『あくまでも、確定じゃないからね。それだけ注意して』
「おけおけ」
琉嬉がこっそり生徒会室からコピーしておいた学校全体図を持ち帰っていた。
その全体図を頼りに悠飛に頼んだ。
悠飛は学校の全体図案を見ながら、生徒達がいなくなったポイントを記し、次に現れるだろうと思われる予想を立てた。
何か関連付けがあるのかもしれないと思ったからだ。
闇雲に探して行っては捕まえれるのも捕まえれない。
なんとかして、予測通りに捕まえたいものだ。
『気になる点は、術者であるその先輩達もあっさりといなくなってる点。
術者、一般の生徒など関係なく、あっちの世界に引きずり込んでるっていう推測…なんだよね?』
「まぁね」
琉嬉の予想では、幻術で別世界とも呼ばれる空間に引き寄せているのでは?
そういう予想だ。
以前まどかや、他の妖怪との戦いで幻術を使い異空間に飛ばされた事がある。
『根気よく狙えば、姉ちゃん達にもチャンスあるんだよ』
「どういう意味?」
『事情を知っていたり出来てる妖怪とかの仕業なら、姉ちゃん達術者の力くらいすぐ分かるんだと思うんだ。
わざわざ自分のやりたい事を潰すような事出来る相手をちょっかい出さないと思うし。
ただ、今回は術者をも捕らえている。
よっぽどの自信のある者か、意志力の弱い「霊」の仕業…』
術者ですら捕らえていると思われる。
それだけの強力な術だ。
「…妖怪系統とは考えにくいけどね。さすがに、今回は。僕達も有名になっちゃたし」
妖怪達にも知れ渡っている琉嬉達の名。
迂闊に動いてしまえば相手もそれなりに対策してきて来る筈である。
『とまあ、それは取り敢えず置いといてさ、次に来るポイントは…』
「ここで間違いないわけ?」
琉嬉らが来たのは、二年生の教室がある二階の一番奥の階段。
なぜそこになったのか?
それは悠飛のなんとなく推理の答えだった。
二年生中心に失踪している点。
そして最後に目撃された生徒の通ったであろう場所。
そもそもなぜ悠飛がそんな情報を仕入れれたのか?
こんな情報を流してくれるのは、沢村刑事。
彼のおかげである。
彼方姉妹には自らの立場を省みず情報を提供してくれるのだ。
「…さて、確信ない僕と悠飛の推理だけど…、二年生中心なのは理由あるのかな」
琉嬉は心底、不安ながらその辺をチョロチョロする。
悠飛の指定されたポイントに着いた二人は辺りを見回しているがこれといった違和感は感じられない。
小柄だけあってなんだかこまい動きが可愛らしい。
それを見てる寧音は顔がほっこりしている。
隣で見てる護は少しひきつった顔している。
「言われてみれば二年生ばっかりだね」
他のクラスも同じ二年生が行方不明になっている。
「龍翔君程の使い手が簡単に捕まる?」
「どうでしょうねぇ……」
この中では生徒会として一番龍翔とは旧知の仲の寧音。
その寧音が首を傾げて疑問に思う。
「でも、さ。どんな使い手でも「絶対」はないもんだよ」
琉嬉が諭したように言う。
「それはそうですけど…」
それぞれ思い当たる節はある。
自分の絶対的力を確信してても、上には上がいる。
「うーむ。そもそも二年生だけを狙ってるって訳じゃないでしょ。多分」
「まあ、そうだよね…」
不可解過ぎる。
琉嬉はそう思う。
元々思慮深い性格ではあるが、ここまで深く考えるとは思ってもなかった。
今までにない、近くて遠い霊的事件。
あれやこれや考えてしまう。
「……悠飛の言うとおり、たしかに、二年生の教室に近い場所…だな。って、事は…」
「事は?」
「確定ではないけど、犯人は、「二年生」に関わりあった人物…なのかもしれない」
「ほへぇ…」
「なんでですかね?」
「ん~。ま、自分で言っといてなんだけど、さすがに僕もそこまでは分からないよ」
琉嬉が足をトントンとしながら言う。
「さぁて…僕等は、なんとなく待つ事にしよう」
「…冷静だね琉嬉ちゃーん」
待つ事20分くらいだろうか。
これといった出来事もない。
みゆ達から時折連絡アプリのチャットの会話や、電話の着信があるだけ。
と言っても他のメンバーも進展はない様子。
外はすでに真っ暗。
護は誰もいない教室を覗き込んで時計を確認する。
時刻は夕方6時半を示していた。
教室を一応左右上下と見回す。
「何も起こらないねぇ」
「そうですね。私達は別の所見ましょうか?」
そう言いながら教室を出ようとした途端、だった。
「……琉嬉さん?」
「琉嬉ちゃん」
「うん。分かってる」
小さい琉嬉の姿の後ろの空間がぼやけて見えた。
2人にもはっきり分かる。
「何か」居ると――。
「来なすたったかい。神隠しの犯人さん?」
「あら?何の事かしら?」
いつの間にか居た。
見慣れない女生徒。
黒髪ロングが綺麗な。
「今なら解かる。アンタ、幽霊だ」
「なぜ?」
女生徒が聞き返す。
表情は一切変わらない。
「僕達にはそれを感知する能力がある。生きてる人間と生きてない人間の違いが」
「あらそう。それは凄いわねえ」
「何の目的か知らないけど……生きてる人間を「そっち」の世界に引きずりこまないでくれる?非常に迷惑なんですケド」
ツンツンした言い方する琉嬉。
それに大した動じもせず淡々としている謎の女生徒。
「ようやく会えたけど、祓ってあげるよ」
ビシッとどこに持ってたか、琉嬉の手には数枚のお札がすでに出ていた。
少し離れた所にいる護も霊力剣を出している。
「幽霊でもなんでも学校の風紀を乱すのは見過ごせませんね」
寧音も両手拳に霊力を込めている。
戦闘態勢だ。
「あらあら、そんなに慌てなくてもいいのに」
なぜかそれでも動じない女生徒。
逆にそれが不気味さを増している。
尚も表情は一切変化させない。
(……なんだコイツ……。異様だ。攻めてくる気配もないのに…なぜこんなに余裕ある雰囲気を出しているんだ…?)
今まで会った事ないような態度の相手にさすがの琉嬉も警戒を強める。
静寂さが増す校内。
三人は謎の女生徒と対峙したまま動かない。
否、動けない。
奇妙な女生徒に対して、行動が取れないのだ。
琉嬉は意を決して、相手に問いかける。
「ひとつ聞きたいけど、目的は何?なんで僕達の目の前に現れたの?」
「………それを聞いてどうするの?」
少し間をあけながら、女生徒は答えなき答え。
「連続失踪事件を止めたいだけなんだけどね…」
「そう…」
これ以上の答えは期待出来無さそうだ。
何を聞いてもおそらく無駄だろう。
強靭な意識を持っているようだ。
「でもそれももう無理ね。フフ」
(コイツ…人を見下したような言い方して…)
一歩も引かない態度を取るような女生徒。
その様子は幽霊とも思えないような、はっきりとした意志力を示している。
(こんな…霊ははじめてだ。てか、本当に幽霊か?こいつ…もしや)
そう心の中で少し認識を変える所だった。
「琉嬉ちゃん!ヤバイ!」
「!!」
一瞬の気の緩みだった。
突然黒い闇が琉嬉達の体をまとわりついていた。
警戒はしていた筈なのに気づかなかった。
否、気づかされなかった。
「こ、これは…!」
「なんですか?!これ?」
寧音は腕を振り回して消そうとする。
しかし形が一定してない物。
物理的な攻撃は意味がないようだ。
「あなた方も強い力持ってるのね。嬉しいわ。連れて行きましょう」
「力が…弱まる…?!」
謎の闇は一段と広がって、その場の空間を全て暗闇化とさせた。
「琉嬉ちゃん!!このぉ!」
護が霊力剣を振りかぶるがやはり動きが思うように出来ない。
「護!剣を伸ばして!」
「え?」
「いいから!」
「ぐぅ……んなろーっ!!」
強引に霊力剣を伸ばし、天井を突き破る音がした。
「なんか音したーっ」
みゆが逸早く反応する。
「たしかに…ズドンッって音がしたような」
「ふふん、そして一気に大きくなる霊力圧…。これは、戦闘開始したねこりゃ」
そう言うとみゆはすかさず音のした方向へダッシュで向かった。
「あ、待て!みゆ…って早っ…。チッ、御琴!私らも追うぞ!」
「わっわっ、ちょっと待ってください~」
みゆにも負けない勢いで走っていく凛夢。
御琴もなんとか追いかけるが、既に姿は見えなくなっていた。
「こらまた…えらいこっちゃやねえ」
「騒ぎ大きくなっちゃいません?」
「そやねえ。こんな時にまどかがいれば…って思うんやけど…面倒やなあ。もう~。副会長もいないし…」
騒ぎに気づく叉羅沙と柚羽。
何かが壊れるような音。
その音に気づかない教師もいない訳ではない。
まもなく何事かと、駆け付けるのが容易に想像できる。
それのフォロー的なのを出来るかというと、難しいかもしれない。
「どうします?確認しに行きますか?」
柚羽は手にした竹刀を袋から出す。
一応の戦いの準備をする。
「むしろ先生達に気づかれる前に向かうしかないやろうな」
とにかく、叉羅沙はその音がした場所へ向かう。
護の霊力剣が天井を突き破った。
かなり凄い音がした。
この騒ぎでおそらく教師などが駆け付けるであろう。
そんな事を少し頭の隅で思い浮かべながらも目の前の状況は苦しい状態だった。
琉嬉と護は謎の闇に体を包まれている状態。
そんな状態を打破したのが天井を突き破った護の霊力剣。
突き破った天井の穴に闇が流れ込んでいく。
「…な、何?」
一瞬たじろぐ女生徒。
「余所見はいけませんよ」
瞬間、寧音が攻撃を仕掛ける。
「何っ?!」
が、惜しくも避けられてしまう。
その隙に琉嬉が真霊気を使った技を放つ。
「真霊気・発彗!」
キュイーンと高い音を立ててその場が一瞬だけ光り輝く。
「これは……?!」
女生徒が異変に気づく。
その一帯を占めていた闇が琉嬉の放った琉嬉の真霊気の光でかき消される。
放った琉嬉はわずかな真霊気にも関わらず一気に足元がふらつく。
「あなた…一体?!」
「おっと…危ない危ない」
寧音がふらつく琉嬉の体を受け止める。
「相変わらず、燃費悪い術だねえ」
「うっせい」
護が皮肉を言う。
「……くっ」
分が悪くなったのか、女性はその場から逃げ出す素振りを見せる。
「お!逃がしはしないよ!」
護が追いかける。
「深追いはするな!護!」
「え?でも…」
「術重視相手とは相性が悪いだろ…お前…。他の人達みたいに捕まるぞ」
「うぐっ、そんな事も言ってらんないっしょっ!」
「そうですよ琉嬉さんっ」
「んまあ、とっ捕まえたいのは分かるけど、分散したら相手の思うつぼだよ」
「………」
二人は顔を見合わせ、しばし考える。
お互いコクンと頷く。
「仕方ないわねぇ」
ガシッと、琉嬉を軽々抱える護。
「わっ」
「しっかり捕まってなよ~。琉嬉ちゃんが本気の技出したんなら、私も本気出すよ」
そう言うと、護の瞳の色が真紅に変化していく。
妖怪の力を解放したようだ。
「護さん…?」
「話はあとあと!」
寧音が気にかけるが、そうも言ってられない。
寧音にも直に分かる。
護の霊力が増幅していくのを。
琉嬉自身も護の本気バージョンとまともに戦って勝てるかどうか…そう思っている。
だが今はそんな事考えてる場合じゃない。
「琉嬉ちゃん、相変わらず軽いね。よし、追いかけるよ!ってどこ行った?!」
「…あっち!」
琉嬉が指差す方向。
旧校舎方面だった。
「じゃ、私がフォローしますね!」
「おっけい、頼んだ!」
3人は旧校舎目指す。
みゆ達が到着したのも遅かった。
「ありゃー、ちょいと遅かったようだね。
穴の開いた天井。
かすかに残る霊気。
粉々に落ちている瓦礫が少し散乱しているが、天井を破壊したと思われる物はない。
何をどうやればこんな破壊の仕方を出来るのか。
そう思うくらいに綺麗な穴の開き方だ。
穴も少し細長い。
「みゆ。窓開いた様子もないわ。ここから外に出た様子もないし。窓下の雪は足跡もない」
「…これはもう感で行くしかないか~」
「感?」
御琴が不思議そうに聞き返す。
みゆは珍しく一瞬黙ってこう切り返す。
「……旧校舎。」
「…旧校舎ぁ?!」
あたふたする御琴。
「…あんまりいい思い出ないわね。旧校舎。何か繋がる当てでも思いつくの?」
「あんだけ探しても居所が分からない失踪者。
なんらかの術者の能力なら、霊力の強い旧校舎なら、強力な結界が張れるのかもしれない。
もしかしたら……ってね」
「ふーん…。たしかに何処へ行ったか分からないのなら、なんらかの関わりがありそうな旧校舎しかもうないかも」
「へへー。実は悠飛くんの考えでもあるんだよね」
「え?」
「いつの間に…」
琉嬉と同時に、みゆにも連絡を取っていたようだ。
琉嬉と同じくらい、能力と頼れる行動範囲、そして全体を仕切れるコストパフォーマンス。
念のため、琉嬉はみゆとも情報のやり取りをして欲しいと言っていた。
「仕方ないわね、旧校舎へ行くか」
「だねっ」
凛夢は大きくため息を吐きながら歩き出す。
嫌々ながらも最後まで付き合うつもりだ。」
「またですか…」
先に2人が走り出した。
そして御琴は辛そうな顔で、またひたすら走り続けるのだった。
「クソッタレェ…。強力な結界が張られているみたいだな…」
龍翔は閉じ込められた部屋から出ようと扉に手をかけた。
だが、静電気が走ったようにビリッと痛みが走った。
人間すらも寄せ付けない強力な結界が部屋を囲うように張られているようだった。
龍翔ほどの術者でもこの結界を破れそうにない。
「…さて、どうしたものか…。この寒さで他に捕まったヤツ達は…大丈夫なのか?」
忘れかけていたが、今現在真冬である。
この地域は山中に囲まれていて、夏は暑く、冬はかなり冷える。
夜になると氷点下なんてざらである。
ましてや旧校舎などという古い建物。
ほぼ廃墟状態に近く、暖房なんぞありゃしない。
「遊希もいないし……、まどかの姿もねえし。わけわかんね。さみぃし…」
使われていない建物。
それはとても寒く、屋内といえでも暖房つけなければ10度以下に冷える。
「ちっ…俺もヤキが回った……ってヤツか…。しゃーねえ」
龍翔はそう独り言をブツブツ呟きながらも静かに目を閉じて、霊力集中する。
「いっくぜぇ…」
龍翔の利き手の右腕がうっすらと光り輝く。
拳まわりはさらに光が強く輝いている。
そして…。
「スーパー…うんたらなんたらかんたら…
パンチ!!」
ドゴンッ。
と、少し鈍い音が響いた。
「!まもっ!」
「んお、どした?!琉嬉ちゃん」
担がれたままの琉嬉が何かを感じ取った。
「一瞬すんごい霊気を感じた…。あっち…」
「本当ですか?私には気付かなかったですけど…」
寧音も気づいてない。
「おぅ、まじかいっ。てかあの女はどうするの?」
「あ、そっか。あの女幽霊追ってたんだっけ…」
「幽霊なのかどうか知らないですけどね」
幽霊かどうかすら危ういくらい、はっきりとした存在感を持っていた。
慣れてる筈の護や寧音でさえ、未だに判別が完全に出来ていない。
「…アイツは幽霊だね。それもかなり強い力の持つ…」
「……」
護は無言で納得したかのように頷く。
「護、僕は大丈夫。降ろして」
「あ、へいへい」
ストッと軽やかに降りる琉嬉。
でもなんとなく足元がおぼつかないように2人には見えた。
結局旧校舎前に辿り着いていた。
靴は上履きのままだ。
雪が染みてくる。
「やっぱり開いてる形跡ないよ」
「開いてないのなら開けるまで…さ」
琉嬉が力ずくで正面の扉を開けようとする。
勿論鍵がかかっていて開く訳もない。
ガタガタ音を立てても無駄である。
「どうする?またこの前みたいに、斬って開けちゃう?」
「そんな事したんですか…?護さん…」
「あ、いや。あははは、あの時はさ…」
笑って誤魔化そうとする。
寧音はひどい目つきで護を見る。
「正面はマズイ。裏口から行こう」
そう言って琉嬉を先に裏に回る。
「…ですよねー」
「…暗い…闇の中……」
「でも…息苦しいコトは…ない………」
意識がハッキリとしている。
でも何かするという気力が起きない。
喉の渇き、空腹など一切感じない。
「ああ、そうか…私は…」
真っ暗な古ぼけた教室。
でも寒さや暑さはない。
窓から見える景色も真っ暗。
教室の中はぼんやり見える程度の暗闇。
目が覚めるとまた同じ教室の風景。
まどかは目を擦りながら起き上がる。
「…はぁ、情けないですね。こうもあっさり捕らえられるなんて」
まどかはとりあえず教室中歩き回るが、外へ出ることも出来ない。
不可思議な空間に閉じ込められていた。
結界のようなものだろうか。
「あれから何日経ったんでしょうかね」
まどか自身もハッキリとした事は思い出せない。
突如、見慣れない生徒と出会った瞬間、今の現状である。
(こんな事出来るような者が…まだ学校に居たなんて驚きですね)
驚いたような顔をしてないように笑顔。
だが、本心は自分自身の不甲斐なさや、怒りなどいろいろ混ざったような、変な感情で一杯だった。
そもそも、挫折なんぞ味わったことのない、エリートな街道を走ってきたまどかだけに、今回は相当応えていた。
(ふむ…。これは……確実に詰みましたね。うむ)
何もする事もなく座り込む。
「参りましたね~」
思いつくことの限り、結界を破ろうとしたが中々破れない。
壁を崩そうにも謎の力でかき消される。
コレほどまでの強力な結界はそうそうないだろう。
そんな事をあれこれ珍しく考えてた。
(……幻術使いが幻術に掛かるとか…お笑いですね)
自虐的に反省する。
(…琉嬉さんの真霊気なら簡単に打ち破れるのでしょうが…私だけの力では破るには力不足…)
そう思ってた矢先だった。
ドスンッと音がまどかの背後から聞こえた。
「………あ」
まどかが振り向いた目線の先にはよく見覚えのある和服の女性だった。
琉嬉護寧音トリオは旧校舎になんとか入り込んだ。
封鎖された裏口の扉を強引にこじ開けた。
目立たないように進入するのは得意分野だ。
雪にまみれた靴が冷たくて気持ち悪いがそんな事は言ってられないのは分かっている。
中も外とあまり変わらないような冷たい空気。
風がない分それだけでもかなりのマシな部類だが。
コツコツ、と足音が響く。
床も木造だが、革靴の護と寧音の足音が凄く響く。
琉嬉はスニーカーなのでそれほど音はしない。
「まあ、あれだな。こんだけ暗くてもお前達の金髪銀髪は目立つな」
「…うー、そうかい?」
「こんな時に何を言ってるんですか~。琉嬉さんはぁ…」
暗闇の中の旧校舎を携帯の明かりだけを頼りに進む3人。
そんな状況でも琉嬉呑気そうに2人をからかう様な事を言う。
「…しかし、護は綺麗な金髪だよね。真っ黒黒だらけな僕には羨ましいよ。
それに…寧音も光加減で綺麗。神秘的というか…幻想的というか」
「そ、そうですか?」
眼鏡が少し曇っている。
寒い所から暖かい所に入ったせいだからだろうか?
それとも照れてるからだろうか?
寧音は恥ずかしそうにしている。
「……こう見えてもね、中学生の頃は黒髪でストレートで綺麗って言われてたんだよ」
「へぇー。見てみたいね。黒髪の護」
少し疑いの目を向ける琉嬉。
「…でもあんまり期待しない方がいいよ」
「そうかい」
「…琉嬉ちゃんの綺麗な長い黒髪も可愛いよ」
「おだてたって何も出ないんだぜ」
「う…」
ケチくさい琉嬉の発言。
実際にケチだが。
「でもさ、そんな綺麗になった金髪…いろいろ言われないか?ウチの学校だって緩くはないだろ?」
「そうね。いろいろ面倒だよ。届けも一応出してるし」
「届けって?」
「地毛ですよーって」
「そんなのあるの?」
「あるある」
「あ、ちなみに私も出してますよ。風紀係委員をしてるのにも大変なんですよ?」
ぽかんとする琉嬉。
「…それでもなんか言われるの?」
「言われるよー。目立つから黒く染めなさいとか言われるし。ていうかね!逆に染めたらね!どんどん黒いの抜けて明るい色が出てくるのよ!」
「ああ、そうなんです。私も中学の頃に試しました」
「ヘンテコな髪の色になるじゃんか!逆に目立つじゃんか!って思うけどね」
そう。
黒い部分がどんどん毛先の方になっていく、変な髪色になってしまうのだ。
それが嫌で黒に染めるのをやめたという。
「ふぅん……。大変だね」
「大変です」
「うんうん」
「寧音はよく風紀委員なんてなれたね」
「そこは人徳ですっ」
キリリッとした表情で決める。
「ああ、そう…」
きっと裏で何かしたんだろう。
そんな予感がしてならない。
琉嬉はちょっとだけ寧音が怖くなった。
「他にも茶色っぽいやつとかいるのにね。みゆとかさ」
「みゆってたしかクォーターとかじゃなかった?」
「そうなの?僕は知らないなあ。どことの?」
「さあ」
結局護も知らない。
なんとなく噂で聞いた程度だ。
毎日のように顔合わせてる割にはその事を詳しく知らない。
何より家の話なんぞあまりしない。
「…でもさ。護はスタイルもいいから外人とかに間違えられたりしないの?」
「護さん…素敵ですもんねぇ…」
うっとりした顔で護を見る寧音。
その目つきは危ない。
「うーん、顔は純粋な日本人だけどねー。たまにそんな風に言われる事あるよ。面倒だからハーフとか言って誤魔化すけど」
「ほへぇ。そうなんか。その紅い目だとさらに外人っぽくね?」
「…ただの妖怪の力を出してるだけなんだけどね」
護はまだ妖怪モードだった。
「そういえば妖怪って…どういう事なんです?」
寧音は詳しい話は知らない様子。
「あー、話すと長くなるんだけどね…。一応半妖なのよね。あたしって」
「え?そうなんですか……?そんな感じしませんけど…」
「いやいや、ほら。こことかこことか」
体に浮き出る紋様を見せる。
「…たしかに…霊力とは違う成分の力を感じますね…」
護から感じる、普通とは違う力を感じ取る寧音。
「てっかさ。ムカつくんだよね。教師共は。
地毛だって言ってるのに不当な処分された事あるけどさ。琉嬉ちゃんがこっちに来る前とかだね」
「…学校生活で苦労してるんだな、護」
さすがにちょっと可哀想と感じ思う琉嬉。
寧音も無言で頷いてる。
「へぇ…寧音も?」
「ええ。まあ自分がこの髪色ですからね…。風紀的にはあまり強く言いません。
だって説得力ないですから」
風紀係委員としての苦労話。
髪の色なども風紀の対象なのだが、自分自身がこういう派手目なのでそこの部分だけは強く言えないらしい。
なんとも奇妙な立場だ。
「まぁねぇ……。おかげで一年留年したけど。今は地道に卒業目指すよ」
「うむ。えらい」
(……てか、あたしの方が年齢一個上なんだけど…なんで琉嬉ちゃんはこうも上から目線なんだろう…まぁ可愛いからいいけど)
護も密かに琉嬉の可愛さに惹かれていた。
そんな今しなくてもいいような会話をしてる時だった。
「琉嬉ちゃん、寧音ちゃん。あれ」
「うん。確認できた」
ほんの、数m先。
先程の女性との姿が、あった。
「こうもあっさりとまあ…姿を現すとは」
即座に臨戦態勢にに入る2人。
「もしかしてあっちから決着を付けに…来たって事かしら?」
「かもね」
目の前には女生徒の姿。
しかしこちらを見るや否や、何処かへ向かうように走って行く。
「幽霊なのに走るの??」
「そんな細かい事気にするなばかっ」
追いかけるために走り出す琉嬉と寧音。
ちょっと遅れて護も追いかける。
「罠ですかね?」
「…罠にしてはありきたり…かな。2人共、分散しないでね」
「はいっ」
「オッケー!」
兎に角、追いかけるだけ。
手がかりになるものならなんにでもすがってやる。
それだけが頼りだった。
「意外ですねぇ。まさかあなた達まで捕まってたとは…」
まどかと話している相手。
龍翔の使役妖怪の遊希だった。
「…うぅ…痛たたた…。う?お前は……まどか!」
まどかと気づく途端に、間合いを取って少し後退る。
かなりの驚きようで、まどかも逆に驚く。
「そんなに驚かないでください…。なんか傷ついちゃいます」
それでもいつもながらのニコニコ笑顔のまどか。
でも眉毛は下がっている。
「…お前、こんな所に居たのか…。とゆうか、ここは何処なんだ?」
「旧校舎の教室だと思いますよ。ただ、現実世界とは違う、強力な結界らしいので私には打ち破る事が出来ません」
「…そうか」
改めて遊希は辺りを見回す。
言われてみれば見覚えのある木造建ての学校…。
徐々に記憶が蘇る。
「でも、純粋な妖の貴方なら何か出来るかと思うんですが…」
「単刀直入過ぎるな。相変わらず…」
なんだかんだで琉嬉らよりも前から顔見知りの二人。
しばし、妙な沈黙時間が流れる。
その間1、2分だろうか。
笑顔のまま何も喋らないまどか。
遊希は遊希でずっと教室中を見回す。
「龍翔様…は………やっぱりいない」
「そうですね。でも他の生徒さんなら居ますよ」
そう言って教室の後ろの方を指差す。
そこには嵯藤や他の生徒の姿があった。
だが眠っているのだろうか。
みんな倒れている。
起きるような気配は一切ない。
「…なぜ、みんな寝ている?」
「それも分かりません。意識が戻らないんですよ。この結界のせいかもしれません。恐ろしいですね」
淡々と答えるまどか。
「…逆になぜお前は大丈夫なんだ?」
「それも分かりません。多分ですが、高い霊力を持つからじゃないでしょうか?憶測に過ぎませんけどね」
自分の三つ編みを手で弄り回しながら言う。
手持ち無沙汰で仕方なさそうだ。
「ふむ…。霊力高ければこの結界の影響も最小限で住むという訳か」
「そうかもしれませんね」
「…って、なんでお前とと会話しなければならんのだーっ!」
なぜかキレだす遊希。
それでも動じずニコニコしてるまどか。
「それより、ここを突破しませんか?このままじゃ永遠にここに居る事になりますよ」
「……たしかに…。(このままでは龍翔様とは…会えなくなってしまう)」
このまま居れば何もする事なく永遠と過ごす事になる。
妖怪の遊希ならまだしも、人間であるまどかにとっては辛い状況になるのには間違いない。
1年、2年。
10年20年と居るのは間違いなく問題ある。
「分かった。どうにかここを出よう」
「では、共同作戦ですね」
みゆ達は旧校舎に入る前に、叉羅沙達と合流していた。
だが、肝心の核となる琉嬉の姿がない。
先に入って行ったからだ。
「何処行ったんだろうね~」
「さあね…。手当たり次第探す?」
琉嬉に次ぐ霊感知力を持つみゆを持ってしても琉嬉らが何処にいるか分からない。
元々ある強力な霊磁場なうえ、あの謎の女生徒の強力な結界が全体的に張られている。
進入出来たとはいえ、中に入ると迷宮でも入ったように、琉嬉達に出会わない。
携帯の電波も表記ではきちんと電波があるのに、繋がらない。
最早、別世界、別次元のような場所になっているようだ。
一応がしゃどくろが封印されていた部屋にも行った…が、特に何もなかった。
「こりゃ、またまたお手上げだねぇ~」
「チッ…あたしらはのけ者かよ」
小さな声で本性モードでぼやく凛夢。
「だねぇ…今回はちょいと、仲間外れだね」
落胆するみゆ達。
「はぁ…。ここまで来てリタイアってとこかぁ。残念やなあ…」
「…琉嬉先輩の「真霊気」でもあれば…」
真霊気があれば。
みゆですらそう思い始める。
何をどうすればいいのかまったく見当がつかない。
兎に角策を出そうと考える。
「でもさっきの凄まじい霊力は…多分真霊気だよ。みゆちゃん」
「……なぬっ、やっぱり?」
そう。
先ほどの一瞬学校中を駆け巡った巨大な霊力は琉嬉が放った真霊気そのものだった。
「まじかい…。だとしたら琉嬉先輩は…しばらく真霊気を使えないんじゃ…?」
いつも何も考えてなさそうなみゆの表情が珍しく険しい表情になる。
「…相手は術者を簡単に捕らえるような敵やえ。厳しいやろな」
お手上げポーズを取る叉羅沙。
それをみて不安になる御琴と柚羽。
「術者を捕まえれるような手錬…。相手は妖怪なのかしら…?」
神妙な顔つきになる凛夢。
ボソっと喋る。
「妖怪とは違うと思うよ。妖怪は妖怪で厄介だけど…妖怪よりもある意味厄介なヤツ…」
「妖怪よりも?」
「…人間」
一瞬ザワっと、世界が止まったような錯覚に陥った。
御琴の体全身が謎の震えが駆け巡った。
「み、みゆちゃん…それってどういう意味…?」
「んー。言葉の通り。多分、生きた存在ではないだろうけど。幽霊…だろうね。人間の」
凛夢が何かに気づいたようにみゆに問い出す。
「それは…まゆみみたいなヤツってコト?」
「そうだね。強い意志力…つまり「怨念」を持った人間が霊になると…強力な悪霊になる。
何の目的で生殺しするような活動をしてるのか分からないけど、今回の敵さん…かなり強いと思われるよん」
明るいノリで教えるみゆ。
言い方は陽気だが、言ってる事はかなり怖い内容だ。
「非常に嫌な予感しまくり…ってやつやな」
さすがに全員しばらく言葉を失くす。
「はぁー、今回は琉嬉先輩と護ちゃん先輩と寧音先輩、そして龍翔先輩頼みだね。私らはちょっとどうしようもない」
「隈なく探しても何も手がかり出てこない…。結界のようなもののせい?」
「かもね。幻術の一種かもしれない。時間はかかるけど解除する事は不可能じゃないけど…そうしてる時間もなさそうだし。
ましてやこのでかい建物を…。がしゃどくろの時のようにまた巨大な陣書くのは骨が折れちゃうよ。
うん。これからこういったために何かできる策を…」
みゆが滅多に人前には出さない考えるポーズを取る。
ここまで真剣なみゆの姿を晒すのは初めてかもしれない。
それだけみゆ自身も切羽詰ってるといった様子だ。
しばらく考える事、数分間。
みゆはある事に気づく。
「悠飛くんの情報が正しいのなら……あれか…」
一人で納得したようにブツブツ言う。
他の者は黙っているだけ。
「鳴神さん…僕らはどうしたらいいんだろう…?」
「…私ももう少し力があれば…。剣術ばっかり習うんじゃなかった…
ここに来て柚羽も肩を落とし始める。
「おいおい、みんなしてネガティブ発想したらあかんえ」
悪い方向へ流れていく場の空気をどうにか止めようとする叉羅沙。
その叉羅沙も力ない喋り方だ。
「ね、みんな…お願いあるんだけど…」
みゆが何かを思いついたようだ。
「ほんまか?」
「ええ。悠飛くんからの最後の情報で、琉嬉先輩とのやり取りで導き出した答えなんですけど…」
みゆがスマホの画面をその場の者に見せる。
そこにはある情報が書かれた文字列。
それをじっくり読ませる。
「悔しいけど、そうなのかもしれんなぁ…」
叉羅沙が髪を縛り直す。
気合いを入れ直しているようだ。
「そうですね。まだ終わりじゃありませんもね!」
柚羽もやる気を取り戻す。
「ぼ、僕も出来るだけ手伝うよ」
「みこっちゃん、期待してるよお~?」
変に熱い眼差しで御琴を見るみゆ。
なんかやらしい。
そのやらしさが御琴には痛かった。
「ほなら、行こか」
髪を縛り終えた叉羅沙が先頭を切って歩き出す。
「はい、行きましょう」
「いざ出陣!ってね」
「ノリが明るいな~」
(……頼むでぇ…。琉嬉ちゃん達…)




