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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第十章   ~新規怪拓編~
55/92

#55 怪しい登校者 前編

 何がどうすれば、こんな事になったのだろうか。

まったく把握の出来ない3人。

頭を抱えて悩んでるのは、彼方悠飛と莉音、紫音の3人。

卒業を控えて、こうも面倒な事件になろうとは思ってもなかった…、と思いたい。

いずれにせよ、こういう世界にいればならざるを得ないだろう。


 話は少し前に遡る。

三学期が始まって、すぐの事だった。


 悠飛の頭の中でははてなな事が沢山だった。

今まであまり周りの人間をそこまで気にしていなかった。

でも「明らかに」おかしい。

普段見る事のなかった生徒…。

そう、名前は良く思い出せない。

けど、三学期になって登校してきた生徒がいる。

いわゆる不登校というモノだろう。

悠飛は別段気にはしてなかった。

その生徒が今更登校してきた。

他の生徒はひそひそ話す。

時折、なんで今更出てきたの…?みたいな言葉を耳にする。

何があったのかは悠飛は詳しくは知らない。

その生徒とは違うクラスだからだ。

悠飛、莉音と紫音。

全員違うクラスだ。

でも悠飛と莉音は隣のクラスなのでそれなりに情報が入ってくる。

少しクラスが離れてると、近いクラスよりは情報が入って来ない事もある。

でも今回はどのクラスにもその情報が入って来ている事実。


 その生徒とは、莉音のクラスの生徒だと言う。

でも担任がいろいろその生徒の事を気にしてたのはなんとなく分かる。

他のクラスメイトは忘れかけていた。

忘れかけてた頃に、やってきた生徒。

見た目は、どこにでもいそうな、眼鏡をかけた、細身の短髪の少年。

今井隆治、という男子生徒だった。



 不登校の理由。

いじめ―――。

そんな理由を聞いた。

「そうなの?」

 悠飛は莉音と紫音と一緒に昼の弁当を食べていた。

普段は紫音がいない時が多いのだが、この日はたまたま居合わせた。

「へぇー。莉音のクラスってそんな陰険なんだー」

 他人事のように言う紫音。

「去年の話だよ。今思えばいじめだと思うけど」

「どんな?」

「……んー。物隠したり、教科書とかに嫌がらせなコト書いたり?よく知らないけど…」

「そうなの…?そんな話聞いた事ないけど…」

 悠飛が首を傾げながら過去を振り返ってみる。

「正直……私は分からない。見えない所ではよっぽど酷い目にあってたのかも…」

 まるで怯えてるかのように縮こまった感じで喋る莉音。

こういうろくでもない話をするのも嫌そうだ。

「じゃ、その今井って人がひっさびさに来たってワケだ!」

「突然の事だったしね。みんな少し呆気にとられてたっぽいけど…。それが、前と少し印象が違うような気がして…」

「…印象?」

 前と印象が違うと言う莉音。

そもそも、一年近く来てなかったものだから、結構変わっていてもおかしくない年代ではある。

「ふーん…。でも登校してくるくらいなのなら良いんじゃない?」

 悠飛は特に気にしてもない様子だった。

「そもそも印象が違うってどんな雰囲気なんだろ」

 疑問に思う莉音以外の二人。

「…誰も話かけてなかった。なんていうか…、無視とかじゃなくって、こう、なんていうのかな?みんなチラチラ見ては何もしないっていうか」

「それは不気味ですなぁ。あたしだったら思いっきり話かけちゃうかも」

「お前はずっと黙ってろ」

「むぎゅ」

 うるさい紫音の頭を抑え付ける悠飛。

話をややこしくしそうなので余計な口出しをさせない。

「………気にしすぎじゃないの?」

「…悠飛はそう思っても…私は…」

「んー。同じクラスじゃないし、なんとも言えないな~。少し様子見るといいよ」

「そうそう、受験生で忙しいんだし?」

「そうかな…」

 それでも、莉音はかなり気にかけている。

「ふぅむ……。莉音がそんなに気にするんなら注意はしといた方がいいかもね」

 莉音は無言でコクリと頷く。

紫音は紫音でどうでもよさそうに弁当にがっついている。



「なんて事をさ、言うんだけどね」

「へぇー」

 悠飛は早速、莉音の気にかけた出来事を姉の琉嬉に話す。

こういう時一番身近で頼りになる姉の琉嬉。

知識も実力も豊富だからこそ、相談できる。

「…莉音がそう言うならそうなんだろうね。うん」

 話を聞きながらもゲームをしている。

やってるのはアクションでもRPGでもない。

いわゆる恋愛シミュレーション系のギャルゲーってやつだ。

ゲームなら手当たり次第やるのが琉嬉のポリシー。

「何々、面白そうな話か?」

 それに乗っかってくる來魅。

楽しそうならなんでも良いのか。

「お?ぎゃるげーってやつか?楽しいのかの?」

「今はゲームの話じゃないよ」

 悠飛がむくれたようにして言う。

「ほむ。で、何があったんだ?」

「あ、いや、莉音がさ、今まで来てなかったクラスメイトが突然来るようになったんだけど、以前と印象が違うとか言うから」

「…うーん。一番近い所にいるのが莉音だろ。気のせい…とは言い切れないかもだけどさ」

「そうだよね…」

 兎も角も、莉音にも話して、しばらく様子を見る事にする。




 そんなこんなで、莉音が気にしてから二日経過。

これまで何もなかった。

そして誰も話かけないし、かけようともしてない。

ただただ、学校来て授業受けてるだけといった形だ。


 現時点では琉嬉に話しても、学校が違うのでどうしようもない。

いいアドバイスもらおうとしても、まだ何も具体的な情報が乏しすぎるからだ。

「変化あった?」

 悠飛が聞いても特に見受けられないので莉音は無言で首を振るだけ。

「あたしが、直接聞いてあげようか?」

「だから、お前は黙ってろ」

「うぎゅ」

 またもや紫音の頭を抑え付ける。

同じ事をまた繰り返してる。

「……莉音の杞憂であればいいんだけどな…」



 あれから、さらに日が経つ。

受験シーズンなものだから、基本的には三年生達にはピリピリムードが漂う。

そんな素振りを見せない紫音も変な意味で天晴れなヤツだが。


 そこで、事態は動き出した―。



「お前ら席につけー」

 悠飛のクラスの担任が教室に入ってくる。

ここまではいつも通り…かと思っていた。

「えー、突然だが、隣のクラスの生徒の4名が重症を負った。何があったか分からんが、事故だろうと思われるらしい」

 担任の教師の発言に少しどよめくクラス。

一気に不穏な空気が立ち込める。

(……事故?この時期に大変だなぁ…)

 などと、悠飛はこの時点では他人事だと感じていた。

「数ヶ月の怪我だそうだ。この時期に困ったもんだな…。お前らも気をつけろよ。冬道、夜道には十分気をつけろ」

 少し軽い言い方のようにも聞こえる。

隣のクラスの話だし、仕方ないかもしれない。

「大怪我って…なんだろうな…?」

「うん…怖い…」

 ざわつくクラス。

「はい、静かに。一時間目始まるから、しっかり授業受けるようにな」

 そう言い、担任は出て行く。

悠飛は少し考える。

4人も重症を負うくらいに遭う事故。

しかも、詳細は分からない。

何か引っかかる。

(………!隣のクラスって…莉音のクラスか?!)

 気になる事が大きくなりすぎてすかさず動こうとする。

席を立ち上がろうとした時クラスメイトが悠飛の所へやってくる。

「あの…さ。彼方…さん」

「ん?」

 一人の別のクラスの女子生徒。

見た目は少し地味目…だが、可愛らしい感じのする生徒だ。


 以前心霊事件に遭ったという堺という人物だった。

その堺が何か言いたそうに悠飛の席へやってきた。

「えと、何か?」

「……あの、ちょっとお話いい?」

「ん。いいけど。ここじゃ出来ないような重要な話?」

「重要…か、どうかは分からないけど…」

「?」

 周りの目を気にする。

「チラっと聞いた話なんだけど…」

「話?」

 堺には、悠飛の霊能力の事を話した事がある。

あれから少しは仲も良くなった。

事件の加害者である者に関しては一定の距離を保ったままだが。

相手方からは特に何もしてこないし、話してもこない程度。

でも以前の反省からか、攻撃的な部分は一切なくなっていた。

「事故…に遭った人達が、なんか心霊現象みたいの家で起きてたって…話があって…」

「…え?」

 ガタッと思わず立ち上がる。

「すっげー嫌な予感するんだけど…」

 悠飛はすぐ莉音の元へ向かった。



 同時刻、莉音のクラス。

莉音はいつも見ていた顔がいないのに気づく。

そして担任からの衝撃の話。

4名の生徒が重症を負う事故に遭ったという話。

クラスは騒然となった。

不可解な事故。

何処でどんな事故かも担任の口からは言わない。

いや、知らないのだ。

(……事故…?)

 どこか、なにか、嫌な空気になるクラス。

(………何コレ…。何、この居心地の悪い空間…)

 不穏な空気にさらされるクラスに人一倍、感受性の高い莉音が息苦しさを感じる。

決して、心霊的な霊気も感じないのにだ。

「…先生、少し気分が悪いんで、ちょっとお手洗い行って来ます」

 その空気を断ち切るかのように、莉音が足早に教室から出て行く。

「あ、こら、彼方!」

 担任の言葉に耳向けず、そのまま行ってしまう。


「え?出て行った?」

 悠飛が莉音のクラスの教室に着いた時は既に莉音がいなかった。

お手洗いへ行くと行ったまままだ戻ってきてないようだったのだ。

他の生徒に話を聞き、近くのトイレへ向かう。


「りのーん」

 何人か生徒がいたがお構いなしに声かけてみる。

そして、一番奥の個室から莉音が出てくる。

「大丈夫?気分悪くなったって聞いたから」

「あ、うん。もう大丈夫…」

「……あのさ」

「うん。言いたい話、分かるよ」

「なら話が早い」

 

  あらかた、思い立った話を悠飛も莉音もした。

堺が小耳に挟んだという噂話の事も。

この奇妙な話に悠飛は憶測だけの推理をする。

「あ、一時間目始まっちゃうよ…?」

 莉音が時間を気にする。

しかし悠飛は…。

「一時間目より、今の状況。後々放って置くと…今度こそ死人出るよ」

「…死人……!」

 今は重症で済んだからよかったかもしれない。

次は死んでしまうかもしれない…。

それも自分のクラスメイトが。

そう考えると、莉音はまた気分が悪くなる。

「うぅ…。それは嫌だ」

「ふう。腹黒なお前さんでもそれは嫌だよね。さすがに。私も嫌だし。とりあえず、保健室行こうか。サボっちゃえ」

「…うん」


 悠飛は一時間目の授業に少し遅れる。

あまり気にもしないで教室の戸を開ける。

担当の教師がもう来ていた。

「コラ、何やってたんだ」

「あー、ちょっと、気分悪くなった隣のクラスの従兄妹を保健室に…」

「む、そうか。それなら仕方ない」

「…はい」

 実は、教室に戻る前に少し莉音のクラスをちょっと覗いた。

これといった怪しい気は感じなかった。

そもそも、琉嬉みたいに細かく感じる能力がある訳でもないのだが。

(うーん…。姉ちゃんだったら何か分かるのかもしれないけどな…。頼りは莉音…か。紫音は教室離れてるしな…)

 一時間目は国語。

いきなり眠くなりそうな授業である。

(…てか、どれが今井って奴なのか分かんねえしーッ)

 肝心な人物が分からないでいたため、この授業中は少しも頭に入らなかった。



「エーーッ!莉音が保健室に?!」

「声デカイよ…」

 一時間目が終わり、悠飛が紫音に莉音が保健室に向かったという情報を伝える。

「あわあわ、マジかッ。ちょっと見てくる」

「ああ、おい!まったく……行動力だけは早いんだから…」

 なんだかんだいって、双子。

いつも大げさにうるさい紫音でも、双子の片方が倒れたとなると豹変してしまうようだ。

「やれやれ…。普段強気なのに莉音の事となると突然乱すんだから…」

 ゆっくりと追いかけるように移動する。


 一方保健室では。

「もう大丈夫だと思います。落ち着いたんで」

「本当?大丈夫?」

「次から授業出ます…」

 そして保健室から出て行く莉音。

養護教諭は心配そうにしてるが、特に熱もある訳でもなく、問題はないと判断した。

そんな瞬間だった。

ガタンッと、さっき出て行ったはずの顔がまた入ってくる。

「…え?」

 養護教諭は元気そうに戻ってきた顔に驚く。

「あなた…さっき…」

「あれ…?莉音は?先生?」

「いや、あなた…あれ?」

 キョロキョロ見回す紫音。

莉音とすれ違ったようだ。

そして養護教諭は莉音と紫音を間違えてる様子。

だがふと、すぐ気がつく。

「ああ、もしかしてあなた、彼方姉妹の…どちらかさん?」

「おう、いえーすいえーす!紫音ッス。莉音出ていっちゃった系?」

「そうね。教室に戻ったと思うけど」

「あ、そう。んじゃー」

 言いたい事だけ言って嵐のように去っていく。

双子姉妹は結構有名人のようだ。



「おいっすー!はぁはぁ…」

「…なんで息切らしてるの…?」

 悠飛が冷静に紫音にツッコミを入れる。

ハァハァと気色悪い紫音。

なんとか探し当てて合流した。

「あ、いや…莉音が保健室行ったからって言ってたからさ、行ったけ、誰もいないんでやんの。

んで、保険の先生に聞いたら戻ったていうから、急いで戻ってきた」

「はいはい。まったく。行動力あって羨ましいよ」

「で、大丈夫なの?莉音」

「うん。大丈夫」

「…で、何があった?」


 一応、莉音が感じた事を紫音に話す。

少しおとぼけさんな紫音に対して理解してくれるかどうか謎だが、説明はする。

「ふーん…。なるほどねぇ。ぶっちゃけ、悠飛の推理的にはどう?」

「うーん……。ま、推理ってほどでもないけどさ、莉音もなんとなく気づいてるでしょ?」

「…そうだね」

「どゆこと?」

 紫音はやはりよく分かってない顔する。

そんな紫音を無視するかのように話を続ける。

「……噂レベルでしかないけど…ね。薄々感じてるだろうけど、莉音の言うとおり、その突然やってきた今井ってヤツと入れ替わるように

大怪我負ったていう、4人の生徒…何か関連あるよね。おそらく…」

「おそらく…?」

「………確定は出来ないけど、今井が、なんらかの方法でその4人の生徒に大怪我を負わせた…と、思う」

「え?なんで?」

 そこで、莉音がはっと気づく。

「…いじめ……?」

 何か心当たりがあるようだ。

「あー、なんかそんな話去年あったようなないような」

「うん…去年」

 去年、莉音のクラスでいじめ問題が発生してたようである。

二年生から三年にあがるときはこの学校ではクラス替えがなかった。

その二年生の時である。

今井はいじめを受けてたようであると。

すぐ今井は学校には来ず、不登校になった。

その後、時折話題には出るがほとんど忘れられていったようだ。

「でも今更出てきて…どういうこった?」

 紫音には想像つかない行動に理解できない。

「そこまでは分からないけど。嫌なやつがいなくなって来れる様になったとか?」

「さあ…」

「本人に直接聞く訳にもいかないか…?」

 そこは躊躇してしまう。

それ以前に、本当の事は言わないだろう。

「うむ。私が鎌をかけてみよう」

 ふんっと、胸を張り突然言い出す紫音。

そういう空気読まない行動が逆にいいパターンを生み出すかもしれない。

一瞬そう思う悠飛と莉音の二人。

「…なるほど、紫音のバカみたいな突撃力なら大丈夫か。学年一の問題児さんなら何か情報聞けそうだな。本人から」

「そうだね。みんなが出来ない事をしてくれる。我が妹。そこだけが頼りね」

「…とりあえず、二人が褒めてないのは把握した」

 なんとなく、話がまとまり、紫音は昼休みに行動をとる。


「でも悠飛ちゃん、なんで今井君が登校したからって直結に考えがつくの?」

 莉音がふと思う。

なぜ悠飛がそんな事を言い出したのか。

何か確証があって言い出したのかと。

「それを聞かれると困るんだけど…女の勘?ってやつ?」

「…………」

 莉音は呆気にとられた。

悠飛から女の勘などという言葉が出て来たからだ。

「ちょ、何か言ってよ莉音…」

「あ、いや。その…悠飛ちゃんから女の勘なんて言葉出て来たから信じられなくって…」

「失礼だな」

 プイッと後ろ向いてしまう。

莉音はクスクス笑いながら、

「そうだよね。悠飛ちゃんも女の子だもんね」

「その言い方が失礼なんだよ~。私はお、ん、な!」

 悠飛は莉音の肩をゆすりながら必死に女アピールをする。




「おいっす」

「……?何?彼方さん」

「あんたが今井君?」

「…………?そうだけど?同じクラスだろ?」

「あちゃー、もしかして莉音と間違えてる?そんなにそっくりかな?あたしは莉音の妹の方の紫音だよっ」

「あ、ああ……。そうだったけ…」

 ストレートにぶつかってみたものの、莉音と勘違いされて出鼻をくじかれた。

莉音の方と勘違いされたからだ。

無理もない。

見た目背丈髪型声などほとんどそっくりなのだから。

だが、そこはあまり深く考えない紫音の持ち前を発揮する。

「いやさ、あんたさ、なんで今頃学校に来るようになったの?って、莉音が言ってたからさ、聞いてみたんだけど」

「…え?」

 遠くから様子を見ている悠飛が顔を手の平で抑える。

「あそこまでストレートに聞くか?普通…」

「まあまあ、基本「バカ」だし…。紫音は」

 双子の実の姉までバカ呼ばわりされる妹の紫音。

「……なんで、僕が、君に…しかも違うクラスに君に言わなきゃいけないんだい?……僕は僕の意志で学校に来ただけさ」

「ああ、そう。それならいいんだ」

「ってオイ!!そこで引き下がるんかいっ!!」

「声大きいよ…悠飛…」

 紫音の極端な引き下がりに思わず大声でツッコミを入れてしまう悠飛。

そのままツカツカ戻ってくる紫音。

「いやぁー、ダメだったわ~」

「…ダアホッ」

 ぺちんっと頭を叩く。

「痛いなぁ。何するんだよぉ」

「…それにしても、案外冷静に返してきたな…今井ってやつ」

 どこかヒステリックにでも返事するのかと思っていた悠飛達。

案外そうでもなかったようだ。

そこが逆に薄気味悪さを感じる。

「どうするの?」

「そうだな…。あんまりしつこく聞くのも回りに変な噂立てられそうだし」

 まるで恋してる女子中学生が猛アタックしてるように思われても面倒になる。

ひとまず、遠くから様子を見守るしかないのかもしれない、と、考える。

「んー……ていうか…今井が何かしたっていう訳でもないんだけどな……」

 不可解な事件は暗礁に乗りかけてしまった。

そもそも今井が犯人だという確証もなければ、まだ事件めいた話すら出て来ていない。

「大怪我したっていうやつらんとこ言って話聞くってのは…どうかな」

 現状今井に聞いても仕方ない。

ここは大怪我したという、4名に話を聞く事が望ましいかもしれない。

「…私は…遠慮しときたいな…」

「え?なんで?同じクラスじゃん?」

 不思議そうに莉音の顔を覗き込む紫音。

「まあ、あまり関わりたい様な人じゃないのも確かだし」

「…なるほどね…」

 悠飛はなんとなく察した。

「どうゆうこと?」

 紫音は理解できてない。

「つまり、あまり好かれてない連中なんだろうね。ま、隣のクラスだし、なんとなく分かる気もするけどさ」

 クラス近ければなんとなく目立つ人物は目に入ってくる。

「ほぅ~」

「莉音の性格考えたら分かるだろ?」

 悠飛は紫音の胸元を拳で軽くつつく。

「んー。かもね」

「重症だかなんだか知らないけど、会えるのかな。そもそも」

「それもそうだね」

 違うクラスメイトが突然行っても不審と考える。

立ち回りが少し困難になってきた。

3人はその場でいろいろ考える。

昼休みもそろそろ終わりそうだ。

「あ、そうだ」

 悠飛が何かに気づく。

「なんかいい案できた?」

 ワクワク顔の紫音。

「警察の力借りればいいんだよ」

「け、警察?」

「そう。沢村刑事がいるじゃん」



 ドゴンッと、いい音が響き渡る。

駅前のゲームセンターの室内に響いた音。

パンチングマシンからだった。

数値は800オーバーの数値を出している。

一気に一位に躍り出た。

二位は400程度だ。

「うーん。リーチが届かないからあまり出なかった」

 甲高い声とは裏腹にギャップのある言葉。

この数値を出したのは琉嬉だった。

久々に寄ったゲームセンターで、少しハッスルしていた。

最近体をあまり動かしてない。

冬という理由もあるが、悪霊退治事件もない。

「琉嬉ちゃんすげー」

 関心するのは護。

一緒にいるのはいつものふかしぎ部メンバーの護、みゆ、御琴、叉羅沙、寧音に凛夢…のはずだったが、

凛夢だけは例のごとく格闘ゲームのあるビデオゲームコーナーに行っていた。

「しっかし…こんなちっこい体でどこにそんなパワーがあるんだろうねぇ」

 みゆも関心する。

見た目子供が凄まじいパンチを繰り出してるからだ。

霊力でのブーストをしておらず、素での力だ。

「…他のみんなもやるの?」

「僕は遠慮しておきます。多分200も出ないと思いますから」

「ウチもやめておくわ~」

「あ、あたしも…」

 叉羅沙、御琴、護は遠慮する。

「護が本気でやったらぶっ壊しちゃうもんね」

「…う、うるさいっ」

 ついこの前の話。

倒れた慰霊碑を妖怪パワーを使って元に戻したという、怪力ぶりを見せた護。

その話を出されて顔を赤くする。

「力比べなら自信があったんですけどね~」

 寧音は肩をぐるぐる回す仕草をする。

ちょっとやりたそうだ。

「んじゃー、私がやってみよう~」

 みゆがグローブをはめて、慣れたような構えをとり、思いっきりストレートぶちかます。

「ほあちゃぁ~ッッッ!!」

 ズドンッと鈍い音を立てる。

「おおっ」

 数値は999。

カウントストップしてしまった。

「ありゃー」

「案外パワーあるんだねみゆちゃん」

「ふっへへへ~」

 ヘンに盛り上がる。

「みゆさん凄いですねっ。私もやります!」

「どぞどぞ」

「じゃあ、遠慮なく……せいっ!」

 ドズンッとまた凄まじい音が響く。

みゆと同じ数値が999。

「同じですねっ」

「本当ですね~」

 両手合わせて喜ぶみゆと寧音。

傍から見てると可愛らしいが、二人が出した数値は999という化け物級の数値だ。

遠くて見てる他の客が茫然として見てる。

「しっかし、受験シーズンにゲーセンで遊ぶ女達…ってのもおかしな話だな」

 ボソっと琉嬉が呟く。

「受験関係あらへんからええんとちゃう?」

「それもそうだね」

「あ、あの、男の僕もいるんですが…」

 御琴が小さな声で抗議。

「お前は男として認められん」

「ええぇ~……」


 テストも終わり暇を持て余してるふかしぎ部メンバー。

受験シーズン真っ只中、呑気に遊んでる。

「琉嬉先輩達は来年度三年生ですよね?進学とかするの?」

 そう言われた琉嬉護叉羅沙の3人は腕を組み、ふと考える。

「うーん。ぶっちゃけ何も考えてないな。進学かぁ…。寺を継ぐ準備とか…?んー、それは天叔父さんが時期中心住職だろうし…。

父さんみたいにフリーで何か立ち上げるってのもありかな…。

それをするには大学行く必要性があるなぁ」

「……とても女子高生の発言とは思えない…」

 琉嬉の発言に思わずツッコむ御琴。

「そやな~。ウチもどないしましょかね。霊術会に戻るのもしゃくやしな~」

「私もどうしよ~。本格的に退治屋業をやっていくしか…」

「…揃いも揃って女子高生の発言じゃない……」

 そんな発言をよそにみゆは笑ってるだけだった。

結局はまだみんな大した考えてなかった。

余裕があるのか単にのんびりやなのか、と。

まったりと楽しんでる時に、琉嬉のスマホに着信が入る。


「お、誰だ」

 画面に表示された文字を見る。

見た瞬間気にもせずに、通話に出る。

『あー、姉ちゃーん?私だよ。悠飛だよ』

「……なんだ。どうした」

 絶妙なタイミングでちょっと嫌な予感がする。

ついこの間面倒な妖怪絡みの事があったばかりに。

『ちょっとねー、警察の力借りたくって…沢村刑事と連絡取れる?』

「………なるほどね。好きだねお前も」

『姉ちゃんの事件巻き込まれるよりはいいじゃん』

「…うるせぃ。今からでいいの?沢村刑事が動けるのかどうか知らないけど」

『なるべく早めがいいから、出来れば今日…』

「へいへい」



「なんだなんだ、突然」

 すぐさま、沢村刑事が琉嬉達がいたゲームセンター近くにやってくる。

「ごめんね、沢村刑事」

「また何かあったのか?」

「ちょっと、我が妹が聞きたい事があるらしくて」

「ふむ…」


 少し話した後、沢村刑事はすぐ去って行った。

丁度空き時間があったから会えたという。

今は事件を担当はしてない状態ではあるらしい。

特係とは暇なんだ…と自虐的に話していた。

警察の仕組みがどうなってるかさすがにそこは知らない琉嬉。

少し頭を傾げながらも、情報を得た様子。

「で、なんだったの?琉嬉ちゃん」

「ん?ま、ちょっとネ」

「まーた何か事件?」

 叉羅沙が皮肉混じりに言う。

「事件っちゃあ、事件なのかな?」

「まじまじ?気になるですねー」

 そこですかさず嗅ぎ付けるみゆ。

「今回は、うちらは手出し出来ません」

「え?ふかしぎ部の出番じゃないの?」

 護が不思議そうに言う。

「残念です」

 不満気に言う寧音。

なんだかんだふかしぎ部としての行動が楽しんでるようだ。

「ん。ふかしぎ部の、中学チーム担当で頑張ってもらうさ」

「…中学チーム?悠飛くんとか?」

「そう」

「ほへ~…?」




 その後、ある程度の情報が手に入った。

琉嬉だから貰える特別な情報。

それを有意義に利用できる手立てがある。

これも琉嬉達の強みだ。

早速手に入れた情報を家に帰って悠飛に伝える。

「ゆうひー」

 悠飛の部屋の戸をノックする。が、返事がない。

「いないのー?」

「おう、琉嬉。悠飛ならまだ帰ってきとらんぞ」

「えー。まあ、家から学校まで遠いのは分かるけど…なんで僕より遅いの?」

 琉嬉も帰りに寄り道してきたから帰りはいつもより遅くなってる。

だがそれ以上に悠飛がまだ帰ってきてないようだった。

「んぬー。しゃーない。それまで早速、途中までのゲームを…」

「ただいま」

 そう思った矢先に悠飛が帰ってくる。

「…なんでこけてるんだ?」

 來魅の足元にはずっこけた琉嬉がいた。


「なんで遅かったの?悠飛」

「…結局、双子と一緒に今井の家まで尾行してて…少しだけ張り込みしてて…寒かったから引き上げてきた…」

「……ああ、そ、そう…(何バカな事やってんだ…)」

 軽く呆れる琉嬉。

どうせ、紫音が発案して行動しただろうと読む。

それに押しに弱い莉音が拒否できることもないし、悠飛もその場のノリに流れる傾向ある。

「雪女のくせに寒いのかよ…まあ、それはいいとして、聞けた情報話すよ」

「うん。あ、寒いっていのは冗談だけどね」

「……だろうね」


 聞けたと言ってもそれほど長い内容ではなかった。

「とまあ、ワケですよ、悠飛さん」

 沢村から分かる範囲での情報を話す琉嬉。

「事件性…としては高くないとしてしか言い様がないみたいだね。そらそうだ。突然顔も見えないようなのに殴られ続けるんなんてな」

 どうやら、負傷した4人の生徒は場所、時間がバラバラに負傷したようだ。

だが共通する事は何かに殴られたように打撲が多い。

骨折などするくらい、かなり強烈のようだ。

そしてさらにもうひとつの共通点。

何か黒い、人影のようなものがひたすら殴ってきたようだったと。

こちらが抵抗しても何も通じなかったという話。

それ以上の事は警察では分からないと。

琉嬉は首を振ってお手上げポーズを取る。


 証拠も何もないため、一気に捜査が難航した。

沢村はそう言っていた。

不可解な事件のため、特係の沢村も動き出す…そう沢村は言っていたが現状はあまり大した動きをしてないようだった。

「……それって、堺さんの時みたいな…予感がする」

「うーん。なんとも言えないけどね」

「おい、私には何の話かさっぱり分からんぞ~」

「はいはい。おこちゃまは黙っててねー」

 割り込んできた來魅を無理矢理抱きかかえて移動させる。

「んなッ!誰がお子様だ!お前様こそ子供みたいな顔しおって!」

「何を~」

 ドタバタしだした為、悠飛は無言で出て行く。


「うるさいったらありゃしない…。普段静かに姉ちゃんも家帰ると毎日騒いで…」

 ふと、考える。

(…なんか、來魅もすっかり「家族」みたいになっちゃったな…)

 軽く、嫉妬心が出る悠飛。

(性格が似てるんだな…。私と姉ちゃんはまるっきり反対だな…。見た目も性格も…)

「おっと、何こんな所で突っ立てるんだい?」

「あ、父さん」

 やり残した仕事のため、自室の部屋へ戻る途中に悠飛と鉢合わせする。

「何か浮かない顔してるけど、悩みでもあるのかい?受験生だしね。大変だろう?」

 ぽんっと、悠飛の頭を撫でる。

「あ、いや…別に…と、言いたいけど…」

「ん?」



「そうなのか~。前にあった、怪奇事件みたいな事件…実に興味深いけど…あまり無茶しちゃだめだよ。警察の厄介になったら面倒だからね」

 まるで自分の体験したかのように言う。

「…うん。分かってるけど…。このままじゃ卒業しても心残りが出来そうで…」

「なるほどねぇ。教師達は何か言ってるのかい?」

「…特に何も…。噂ではあまり関わりたくないんじゃないかって話も…」

「卒業間近だもんねえ」

 ゆっくり椅子に腰掛けながら会話を続ける。

「ふむ。それといじめ問題かぁ…いつの時代も大変だけど、今は特に問題化されてるねえ」

 結局悠飛は親にも相談する事になってしまった。

導の部屋で会話をするが、隣の部屋では琉嬉と來魅がまだ言い争っている。

いつもの事だから気にする事はないのだが。

「残念ながら、僕がどうこう言える立場じゃないから力にはあまりなれないかもしれない。

でもね、死人が出てからじゃ遅い。悠飛ちゃん達が止めようとしてる行動が、正しいとは思うよ」

「………うん」

 唐突に無言時間が流れる。

「そうだなぁ。親としても、心配だから、少し学校側に発破…かけてみるか」

 意味深な発言をする導。

保護者側としての考えがある様子。

「あれ、琉嬉お姉ちゃんも知ってるの?そういえば」

「一応…」

「なるほどなるほど」

「?」

 どちらにしろ、導は何か策が出来たようだった。




 翌日も、特に何も変化はなかった。

そしてこの日も紫音のやる気で無駄に尾行しては意味のない時間を食う。

仕方なくこの日も引き上げる事にした。

「…受験生なのにこんなコトやってて言いのか…我々わ」

「まあまあ、堅い事言わなーい」

「楽天家でいいよな…紫音。お前は」

「…あー、寒っ」

 莉音が寒さに震える。

真冬真っ最中。

冷え込みが今の時期が一番ピークである。

深夜早朝にもなれば氷点下20度近くいく日もある。

「そんなに寒くはないと思うけど」

 悠飛はそうでもないと否定する。

「…そ、それは悠飛ちゃんが、雪女だからでしょっ」

 珍しく反論する莉音。

「ゆ、雪女じゃないって!雪女の力だけっ」

「どっちも変わらんっ」

「う、莉音…お前、今日は珍しくやる気だな」

「…う~。だって寒いんだもん」

「雪国育ちだろ」

「寒いものは寒いのっ!」

「ハイハイ。帰るよ莉音。じゃね、悠飛」

 ずるずると莉音をひっぱていく紫音。

いつもと立場が逆だった。

「…あ、ああ。また明日」

「ん」

 ギャーギャー言ってる莉音を引きずりながらも手を振って去っていく紫音。

「…しゃーない。今日も帰ろう…」

 いつもより力抜けた感じで、トボトボと駅へ向かう。



 いつも通る鞍光中央駅。

この辺で一番大きい駅。

そこを通り越して鞍光東駅で降り、自宅にいつも帰る。


 琉嬉達が普段利用している中央駅を通るので、時々帰るとき琉嬉と一緒になる事がある。

逆に言えば、朝家出る時は一緒の電車で通ってる事が多い。

時々琉嬉が寝坊して遅刻したりしてるので、別々になる時もあるのだが。

そんな中で見た事ある顔を発見する。

(…あ、あれは…叉羅沙さんだ)

 叉羅沙を見つけ、何を思ったか中央駅で降りてしまった。


「叉羅沙さん~」

「…お?」 

 見覚えのある中学校の制服。

叉羅沙は見た瞬間気づいた。

「はぁはぁ、やっと追いついた…急いで降りたんですよ…」

「……えーと、なんで悠飛くんがここにおるの?」

 唐突に現れた悠飛に驚いてるばかりだった。

「あ、いや、私もなぜ電車降りたか…分かりません。アハハ」

 細い目が少し大きく見開く。

珍しい組み合わせとなった二人。

「はあ……そか~。ま、ここでもなんやし、ちょいと近くの喫茶店でも行こうか?」



 叉羅沙のオススメで向かった喫茶店。

ふかしぎ部の生徒会メンバーがよく行く喫茶店だという。

個人経営の独自の喫茶店。

店内がオシャレで若い人がよく来るそうだ。

イメージとかけ離れた、明るい装飾でまとめられている。

そんな店内で少しまったりと世間話。

「はは、悠飛はん、身長いくつ?」

「え?身体測定で計った時は…大体168くらいだったから…ちょっと伸びてるかもですけど」

「そうやろうな~。今だったら、170くらいあるんではおまへん?」

「…かもしれないです」

 最近身長を測っていない。

自分では伸びてるのかどうかはあまり分からないものだ。

「ふふ、ウチも見ての通り、おっきいから背の高い女子見ると気になるんよ」

「そうなんですか?」

「でっかい女子学生二人歩いててさぞやおもろい光景やったと思うよ」

「……で、ですよね…。(たしかに、私より大きい女子生徒そんなにいないしな…)」

 叉羅沙は相変わらず、人見知りをしないように、明るく接する。

誰とでもこんな調子。

いつもニコニコしててつかみどころがない。

「で、なんかあったん?」

「ええ、少し……」

 悠飛は自分におかれてる現状を話す。


 あったかいココアを少し飲み、カチャリと音を立て置く。

「ふむふむー。それは厄介やな」

「そうなんです…」

「姉ちゃんはなんかしてくれへんの?」

「いえ、姉ちゃんは十分すぎるほどの情報くれましたけど。こっから先は一番身近な私達で解決しないと…」

「…そっか~。…ま、そりゃそうやね。部外者が立ち入る訳にも実際いかないしなぁ」

 言われるのももっとも。

学校側がどうこう出来る話でもない。

ましてや、警察もお手上げ。


「……悠飛くん」

「はい?」

 いつもにこやかな顔が一転、少し険しい表情になる叉羅沙。

「アレコレ考えすぎではおまへん?姉ちゃんみたいに、もっと気楽に自分に自身持っていくとええよ」

「姉ちゃん…みたいに…ですか?……ああ見えてもいろいろ悩んでる時もあるみたいだけど…」

 気楽そうには見えない琉嬉。

でもなんでもかんでもネガティブには考えない、いつでもポジティブな思考の持ち主だ。

「んー、なんちゅーか、ウチも長い付き合いやないから分かれへんけど、結局はどうにかしちゃうから、そう見えるだけかもかなあ」

「…はぁ…」

「多分、多分やけど、身内には見せない顔をウチらに見せてるはずやえ。

ちょっと遠い目線のウチらからにしたら、そーこまで、グシャグシャに悩んでる様子は見えへんけどなぁ」

「…………そうなんですか?」

 叉羅沙は細い目をさらに細めて腕を組み考える。

「も少し、責任感を分散させたらええんちゃうかな?ほら、あのなんやっけ…双子の……かたっぽがうるさい…」

「紫音と莉音ですか?」

「そうそう。もっと彼女らの力を過信してええと思う」

「それはそれで不安もあるんですけどね」

 笑いながら答える。

「ハハ、そうなん?」


 悠飛は、なんとなく店内を見回し時計が目に入る。

時刻は夕方5時を過ぎていた。

すでに外は真っ暗と言ってもいいレベルになっていた。

「んー、明日もあるからそろそろ帰りますか」

 両手を挙げてググッと体を伸ばす叉羅沙。

「あ、ハイ。ありがとうございます。わざわざ…」

「んー、ええよ。別に。ほんで、ここは先輩らしくウチが払っときますよ」

 テーブルに置いてある伝票を手に持つ。

椅子から立ち上がるとスラっとした長身が綺麗に感じる。

悠飛は少し見惚れた。

「いえ…どうも、すみません…」

「ごめんな。大した助言できなくて。放課後は…生徒会の仕事あるから難しいかもしれへんけど、もし行動起こすんならウチも手助けしますえ」

「じゃあ、助けてもらおうかな?フフ」

「ハハハ、そう笑っとけばかわええのに、悠飛くん」

 そう言ってぷにっと悠飛のほっぺを優しくつねる。

「ちょ、叉羅沙さん…。可愛いと思うのなら君付けで呼ばないでくださいよ…」

「フフ、ごめんなぁ」

 ぺろっと可愛く舌を出す叉羅沙。

そして真っ赤に照れる悠飛。

こんなに慌てたのも久々だった。


 店を出て、駅に戻る。

ここで方向が違うため別々の列車に乗る事になる。

「悠飛はん、来年度鞍光に来るんやろ?楽しみやな~」

「は、はあ……多分双子もセットで来ると思いますが…」

「ハハ、そらもっと楽しみやわ」

 多分、叉羅沙は本心で言ってる、と思う悠飛。

基本、叉羅沙も楽天家である。

いろいろと回りに流されるタイプではあるが。

「フフ、悠飛くん、ほんま、かっこかわええなあ。あれやろ、女にもモテるタイプとちゃう?」

「うっ……それは否定はできないかも……たしかに、過去に…変な手紙もらった事もあったりとか…って何言わせるんですかっ」

 後半の方は小声で少し聞こえづらくなる。

しかし、以前に女子生徒からどうやら怪しい手紙を貰った事があるそうだ。

「あ、そうそう、この前護はん痴漢に遭ったらしいどす。悠飛くんも気をつけときー」

「えぇぇ…。マジですか…。でも私みたいなのでも…?」

「分からんえ」

 自分自身は男っぽいので大丈夫だと思っている。

現に痴漢に遭った事はない。

「そうですか…」

 と、最後まで変な不安煽る事を言って別れる。



 アドバイスなのかなんなのか、叉羅沙なりの、助言だったのだろうか。

悠飛は応援のメッセージとして受け取った。

ちょっとだけの勇気を貰った気がして、そのまま帰宅する。




 ――しかし、事件は止まらなかった。



「……先生、それ本当ですか?」

 普段静かな莉音が思わず身を乗り出してまで担任に聞き返す。

「あ、ああ。そうだ。今度は別のクラスの生徒が重症を負った。事故とみなしてるが…。こんな時期にまったく…。みんなも気をつけなさい」

「……………そう…ですね…」

 莉音は力が抜けたように静かに座る。

恐る恐る、今井の方へ少し目を向ける。

だが、今井は特に変わった様子もなく黙って担任の方を見ている。


 担任の話によると、次は違うクラスの生徒が同じように事故に遭ったという話だ。

それも二人。

こう立て続けに起こるとなると、生徒達の間にも変な噂めいた事になる。

まるで呪いじゃないかと――。


「ねえ、彼方さん。彼方さんの家お寺でしょ?なんかこういうの祓うのとかないの?なんだか怖いし…」

「………そう言われても…関連付けるモノないし…」

「それもそうだよね…」

 同じクラスの女子生徒達がかなり不安がっている。

早速聞きつけた悠飛が莉音の元へやってくる。

「莉音!ちょっと…」

 それに気づき、無言で立ち上がり悠飛の所へ行く。


 ついでにレベルだが紫音も呼び、合流する。

「なんか…やばくないか…?」

「私もそう思う…」

「これで6人目……。それもいずれも、目立つような嫌なやつから、一見そうでもなさそうなやつまで…」

「益々…危険だなこれは…」

 事態は悪い方向へ、悪い方向へ向かう。

「ねえ。二人とも」

 悠飛が静かに声を発する。

「何?」

「…いい案でも浮かんだの?」

 悠飛の発言に期待がかかる。

「…もうここは強行突破…しかないかもね」

「きょ…強行…?」

 二人とも目が点になった。

慎重に行こうと言ってたのは悠飛である。

だが、こうしてる間にもいつか死人が出るかもしれないという状況の中、なりふり構ってられないのもある。

3人は今井の元へ向かった。




 一方、沢村は単独で動いていた。

気になる点が浮上したからだ。

琉嬉の話を聞いてから、立て続けに謎の負傷をする生徒について。

調べていくうちに、判明した事が出てくる。

実際にその生徒に会って話を聞く事が出来た。

特係としてついに大きく動く事になった。

早い話、訳の分からない奇怪な事件を暇な部署で専門でもある特係に回ってきたのだ。

「ふむ…。なるほどね…。僅かに、霊気を感じたな」

 おそらく、何かしらの術か何かで攻撃されたのだろうと。

これは警察ではどうにもできない。

そう判断する。


 ある生徒が口を割った事。

何人かの生徒に嫌がらせをしていた事が分かる。

学校側は把握をしていない模様。

いや、もしかしたら見て見ぬふりだったのかもしれない。

沢村は警察という手を使って、怪我を負った生徒に関わりがあった者達に当たった。

学校には敢えて行かずにだ。

今井の方を当たろうとしたがそこは後回しにした。

(恐らく口を割らないだろうし…、今まで登校してなかったからな。白を切られれば詰まってしまう)

 細かな事を考えながら、琉嬉に連絡を入れる。


『あいあい~。沢村刑事ありがと~。悠飛に伝えておきますよ』

「ああ、こればっかりは俺も動けるのも限界だな」

『オッケー。任しといて。後は悠飛に何とかしてもらいますから』

「頼んだぜ、優秀な術者達」

『うん』

 プチっと通話を切る。

「……さて、どうなる事やら……」


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