#54 冬でもお化けは休まない
降りやまない雪。
ニュースでは鞍光を中心としたこの地方が降雪が多いと言っていた。
「降りやまないねぇー。どんだけ積もるんだろうね?」
悠飛がふっと琉嬉の頭に積もりかけている雪を息を吹きかけて飛ばす。
「…お前なぁ……。一応姉なんだぞ。僕は」
「どう見ても妹だろう、お前様は」
「だまらっしゃい」
冬休みの終盤、半ば無理にスケジュールを組んで狗依緋瑪斗のために数日間一緒に行動した。
結局は緋瑪斗の方は……というと、なんとか自分自身の中でいろんな事が決着ついたようだった。
その緋瑪斗とその時以来に会って遊びに行った帰りである。
(相変わらずな兄妹だったなぁ~……)
直接家に遊びに行ってたようで、今回は悠飛と來魅を連れて行った。
來魅は楽しかったようで緋瑪斗の弟と兄と気が合うように楽しんでいた。
あちらの家族はどうやら「妖怪」についての存在を知っていたようである。
來魅の事を当初どこぞの外国の娘と思っていたらしが、緋瑪斗の方が妖怪だという事に気づいた。
なんとなく自分自身も妖怪の力を持っているので気づいたのだろう。
他の家族は至って普通の人間。
だが、違和感の大きさに気づき、妖怪と薄々感づいていた模様だった。
「やっぱり妖怪と接した事のある者はなんとなく察するもんだね…」
「んー?何がだ?」
「なんでもないよ」
ぷいっと違う方向を見てしまう琉嬉。
3人の足跡が続くくらい新たに新雪が積もっている道。
歩きにくいったらありゃしない。
3人の目の前に薄っすらと視える、何かの影。
その影がゆっくりと近づいてくる。
「なあ、あれはなんだ?」
來魅が指をさす方向。
ゆらめく影。
段々と近づいてくる。
「ふぅむ。あれは所謂あれだね」
「あれって何さ、姉ちゃん」
「わざわざ言わなくても分かるだろうが」
一枚の御札をどこからともなく取り出す。
少し念じると、御札が宙に舞う。
そしてそのままビシッと二つの指を影の方向へ示すと御札が勢いよく飛んでいった。
そしてパンッという銃声にも似たような音を立てて弾け飛んだ。
「おお、容赦ないのう、琉嬉」
「どう考えても僕らを狙ってたよねあれ」
「そう?」
「悠飛、お前もう少し霊感を鍛えような」
「姉ちゃんに言われると怖い」
「私が代わりに教えようか?」
「姉ちゃんと同じ匂いがするから断ります」
などと、淡々とした会話が続いていく。
影が消えた場所。
そこには何かの黒焦げとなった犬や猫くらいの大きさの動物らしきものが転がっていた。
おそらく妖怪の類のモノ。
「最近、僕を狙う者が増えて来た」
「そうだな」
熱いお茶をズズっと飲みながら答える來魅。
マイペースである。
「それもこれも、真霊気のせいである」
冷静に何かの物語でも語るような言い方をする琉嬉。
悠飛は隣で一言も喋らずにうんうんと頷いている。
來魅を倒してからだ。
極端に琉嬉を狙う妖怪などがたまに現れる。
「真霊気」を持つ琉嬉を狙っているのだ。
來魅を倒した真霊気。
その力欲しさに付け狙う妖怪が出てきている。
「だから私がいるのだろう?あれだ。ぼでぃーがーどってやつだな」
「無理して横文字使わなくてもいいよ」
「ふふんっ」
「いや、褒めてないし」
「んふふふ」
「何笑ってるんだよ」
「大変だな、琉嬉」
「…何がだよ」
いつになくやらしく笑い続ける來魅。
「さて、帰るよ寒いから」
悠飛が二人を置いて歩き出した。
「寒いからって…雪女が何を言うか」
「雪女ゆーな」
降りしきる雪の中3人は足跡をつけて帰って行く。
深夜。
コンコンと音がする。
軽く叩く音。
琉嬉はその音に気づき、目を覚ます。
「………?」
窓を叩く音だ。
コンコンとしつこく叩くので目を覚ました。
薄暗い部屋の中。
壁にかけている時計を見ると深夜の2時半くらいだった。
珍しく早めに寝たと思えば何かに目を覚まさせられる。
「…誰だ?」
「琉嬉様琉嬉様~お開け下さい~」
なんとも細高い声が聞こえてくる。
女性…の喋る声にしては少し違う。
言ってみれば小さな子供のような…声に。
「……だから誰?なんで僕の事知ってるの?」
ベッドから降りて、ベッドの脇に置いてある御札を手に掴む。
「琉嬉様~。寒いのです~。開けてくだされ~」
「分かったよ」
カーテンをシャッっと勢いよく開ける。
しかし窓には誰もいない。
「……あれ?たしかに声が…した筈なんだけどな」
寒いながらも窓を開ける。
この日の深夜も氷点下10度以下を回っている。
明けた瞬間とんでもない冷たい空気が部屋に入ってくる。
「うひゃ、寒っ……」
「琉嬉様こちらですルキさまぁ~」
「だからどこなんだよ!」
少しイラつきながら声をする方に耳を向ける。
「…下?」
声が聞こえてくる方向。
それは琉嬉の視線の下。
足元を見ると、小さなリスみたいなのがいる。
いや、リスそのものだ。
服を着ているが、リスだ。
「リス……?」
「失礼なっ!私はリスではありません!チヨベイという名前があります!」
一所懸命喋り倒すリス。
あまりにもふかしぎな光景。
琉嬉はムスッとしていた表情が和らいで…、
「………可愛い」
そしてついつい手に取ってしまうのだった。
「で、何しに来たの?眠いんだけど?」
欠伸を繰り返しながら共に座り込んで話す。
リスみたいな小さな妖怪、チヨベイ。
何らかの理由でやって来たようだ。
「琉嬉様っ!どうか、私の願いを聞いて下さい!」
突然土下座するように頭を下げだす。
大きなしっぽがふわふわしていて可愛らしい。
「いや、願いったって…突然真夜中に来てさぁ、しかも願い聞いてくれって失礼過ぎない?」
あからさまに不機嫌な態度を取る。
イラつくのも仕方ない。
「それは…私が夜行性でして…」
「リスって夜行性なの?昼間にさ、たまにそこら辺の木でリス見るけど」
「うっ……」
ようするにチヨベイは嘘をついた。
琉嬉は瞬時に見抜いたが面倒なので問い詰める事はしなかった。
琉嬉は腕を組んで壁にもたりかかるようにして座ってる姿勢を変える。
「ったく……。夜中でもやってくるってのはよっぽど重要な事なの?」
「その通りで御座います…」
「僕の事良く知ってたね」
「ええ、有名ですから。でもこんな小さなお子様だとは知りませんでした」
「お前の方が小さいだろ」
「ひぃ?!」
一瞬の強烈な霊気がチヨベイにも感じた。
「あのさ、僕の事知ってるんなら來魅の事も知ってるよね?」
「はて?なんの事でしょうか?來魅というのは…?」
「知らないのか?」
チヨベイを手に取って、來魅が寝てる寝室へ向かう。
「これが、來魅。狐の妖怪…らしいけどね」
「來魅…様?もしかしてかの有名な封じられし最強妖怪と謳われた…」
「そ。寝てるけど」
近くで話しているのに起きない。
寝顔は可愛い。
本当に最強妖怪なのか?というくらい油断しきっている。
「來魅は置いといて、何しに来たの?」
「はっ!そうでした!それは…」
「それは?」
「……私共の、住処を返して欲しいのです!」
「住処?なんで?人間が宅地開発でもしてるからとか?」
「いえ、違います…」
琉嬉は首を傾げる。
人間のせいではない?
だとしたら?
「私共を奴等から救い出して欲しいのです!真霊気の力で!」
「……真霊気ねぇ。みんな気軽に言ってくれるけど一人で使うには危険なんだよね」
「そこをなんとか!お願いします!私どうにかして見返りの品をどうにかしますから!」
グッと力強くパジャマのスボンの裾を掴む。
可愛らしい姿とはギャップに結構強い力だ。
妖怪なのも頷ける。
「分かった、分かったから、破ける」
ヒョイッとチヨベイをすくい上げるように両手の上に取る。
「場所は?今冬だからさ、あんまり山奥とかだったら…断るけど」
「えー?!」
高い声が木霊でもするのではないかというくらい大きかった。
「取り敢えず話だけでも聞こうじゃないか」
どかっと胡坐をかいてベッドの上に座り直す琉嬉。
チヨベイは枕の上にちょこんと座っている。
「はい。私共は鞍光山林の奥地…そこに暮らしております。
その私共の一族がとある妖怪共に住処を奪われそうでして……」
「妖怪同士で揉め事ねぇ…。それを人間の僕に助けを求めて来たって訳?」
「さいです」
「……第三者が介入するってのもアレだし…そもそも人間が介入するってなると面倒じゃない?」
妖怪同士にもいざこざがある。
琉嬉も何度かそういう問題の話しに加わった事があるが、ややこし過ぎて面倒だった。
眠たそうな目を擦りながらもじっと話を聞く。
話の内容は至ってシンプルだった。
チヨベイ達がいる住処を戻して欲しいと。
そのためには住処を横取りする妖怪をどうにか退治して欲しい。
そんな話だ。
よくありそうな話ではある。
「ねぇ、その妖怪もチヨベイみたいに小さいの?」
「小さいとは失敬ですっ。相手は私共より大きいから困ってるのです!」
「小さいと言えば文句言うし……まぁ僕もそうだけどさ」
頭をカリカリ掻きながら、部屋の窓際に置いてあったペットボトルを開けて飲む。
窓は自然の冷蔵保存が出来るレベルで冷えてるからだ。
「ん~……今すぐには行けないから、少し時間くれよ」
「私共は急いでるのです!」
「こっちもいろいろ忙しいんだってば」
ヒョイッとチヨベイを片手で掴む。
そしてそのまま押入れからダンボール箱を取り出してそこに投げ捨てるかのように置く。
「あの、琉嬉様…?これは…?」
「僕眠いから寝る。その辺のティッシュでもハンカチでもいいから使って寝床作ってよ。おやすみー」
そして遠慮なく部屋の明かりを消して布団の中に潜る。
実は冬でも室内は結構寒い。
暖房つけていないとどんどん室温は下がる。
「うむむむ……人間とはかくもこう弱ったらしい生き物なのか…ぶえっくしょい」
チヨベイも寒かったのか、大きく激しいくしゃみをした。
「うむ。なんか獣臭いと思ったら、お主か」
「ひっ?貴方様は…狐妖怪の來魅様!」
「おぅ。いかにも來魅様だ」
「ねえ、この女児用の動物ぬいぐるみ人形みたいなリスさん、どうしたの?買ったの?」
「むむ、失礼な男ですね!」
「……窓から投げ捨てていい?」
「ひぃ、やめてくだされ!」
朝からうるさい彼方家。
ごちゃごちゃ言ううるささに目を覚ます琉嬉。
「ん…、早いなお前達…」
「琉嬉姉、そろそろ準備しないと遅れるよ」
時計は朝の6時半。
悠飛は学校が遠いので、7時には家を出ないと間に合わない。
「ん~……」
両手挙げて精一杯体を伸ばす。
「のう、お前様。こやつはなんだ?」
「ん?そいつ?妖怪らしいよ」
「私はチヨベイと申します。私共は琉嬉様に手助けしてもらいたいと…」
「楽しそうだな。私も行くか!」
「待った。今日も学校。学校行ってからにして」
琉嬉は片手で制すると、ベッドから飛び降りるように起きる。
そしてそのまま下の階へ降りて行った。
「………あ、あの…」
ぽかんとするチヨベイ。
「のう、チヨベイとやら」
「は、はひっ?!」
「あやつも忙しいのだ。勘弁してやってくれ」
「…ら、來魅様が仰るのなら…」
「おう、そうだ」
來魅が手をぽんっと叩いて何か閃く。
「お主、琉嬉の鞄の中に入っとるといい」
「は、はいー?」
むんず、とチヨベイの首元を掴む。
そしてポイーッと鞄へ放り込む。
その鞄は琉嬉の通学用の指定鞄だ。
「何をするですかーっ」
「いいからいいから、お主も学校とやらに一緒に行って来い」
強引に無理矢理押し込むように教科書の間に挟める。
「うぐぐぐー苦しいでありまする…」
「妖怪なら死にはせんだろ」
妖怪といえども、小さい。
物理的には弱いだろう。
そんな事も考えずに來魅は、鞄の口を閉めた。
「いってきまーす」
「いってくる」
悠飛の明るい言い方に反して琉嬉はローテンションの言い方。
元気無さそうにして出て行く。
「いってらっしゃいー」
にこやかに手を振って見送る嶺珠。
隣には來魅。
「あら、來魅ちゃんどうしたの?いつも以上に笑顔ねぇ」
「ん?そうか?特に何もしとらんがのう」
正直、笑いを堪えていた。
琉嬉の鞄にチヨベイを入れた事に対して。
「來魅ちゃんはなんかご機嫌だから、今日は一緒にお買い物頼もうかしらー」
「買い物かー。任せろ。今か?」
「あら、今行ってもお店開いてないわよ」
「ふむ。そうか。仕方ない。それまではしばし待機してるか」
ネットサーフィンという名の待機。
軽やかに二階へ上がって行った。
「んにゃー?!」
突然琉嬉の猫のような悲鳴が響いた。
クラス中がピタッと止まる。
朝登校したての、騒がしい状況の中。
「な、何?」
「どうしたの?」
クラスメイト達が驚きを隠せない。
その中からみなっちが琉嬉に近づく。
「どうしたの?琉嬉ちゃん?」
「いやいや、ごめん。なんでもない。なんでもないんだ。ちょっとお手洗い行ってくる」
鞄を持ったまま教室を出ていく。
「琉嬉ちゃん、鞄持ったままだよ?」
聞く耳持たず。
そのままそそくさと出て行ってしまった。
叫んだ理由は、勿論チヨベイが鞄の中にいたからだ。
お手洗いを行くフリをして、ふかしぎ部室に居た。
当然誰もいなく、隣の生徒会も誰もいない。
鍵だけを早朝から借りて誰もバレないようにチヨベイと話をするためだ。
「……あのさぁ。なんでお前鞄に居たの?」
「それは、來魅様がお前も一緒に行けと言われて無理矢理…」
「あの子狐娘が…」
前髪をかき上げ、ふぅと大きくため息をつく。
朝から疲れた顔になる。
「お前もバカな妖怪じゃないから分かってると思うけどね。僕は学校があって忙しいの」
「それは理解しております。学校とやらを終わらせてから我々を…」
「わーってるよ」
「では…」
「邪魔だけはしないでくれる?鞄にいなくていいから。あと絶対に見つかるなよ」
そう強く言い聞かせて、部室のカギをかけて、チヨベイを部室上の換気口に入れる。
「あの…」
「いーから」
そしてそのまま琉嬉は行ってしまった。
「………はて、困りましたな」
そして度々服を来たリスが学校中で目撃談があったのは言うまでもない。
放課後。
ふかしぎ部にて。
「へぇー。じゃあお前さんの住処を取り戻して欲しいと」
チヨベイと会話してるのは龍翔。
「なんや、きな臭い話やな」
「んで、詳しい場所教えてよ」
琉嬉がチョコレートの破片を渡す。
それを受け取るチヨベイ。
美味しそうに食べる。
「リスがチョコ食べても大丈夫なの?」
「さぁ?」
ちょい離れた所で見ている、御琴と柚羽。
「私はただのリスではありませぬ!」
「すみません…」
二人してリスに謝るというシュールな光景。
「で、どうするんですか?琉嬉さん?」
相変わらず炭酸系のジュースを片手にしているまどか。
なぜかいつもより興味津々に琉嬉と一緒に話を聞いている。
「んー、長引かせるのも面倒だから行けるなら今日行っちゃいたい」
「では、早速行きましょう!場所は鞍光市の………」
やって来たのは鞍光市最大の山中の公園……の隣の森林。
だが雪がぎっしりあって何が何だか分からない状態だ。
「こっから来たの?」
「そうです」
結局着いてきたのは琉嬉の他に、まどか、柚羽、龍翔、寧音、そしてあまり乗り気じゃなかった叉羅沙。
他の生徒会ではないメンバーは来ていない。
御琴は家庭の事情、護は久しぶりの「退治屋」としてのお仕事。
みゆは家柄どうしても抜け出せないような用事があるという。
凛夢は最初からいなかった。
そして、少し面白い組み合わせとなる。
本当はさっさと帰りたかった叉羅沙だが、別に用事のなかったので半ば強引に付き合わされる事になった。
「しかし叉羅沙ってなんかあやしい京都弁使うよな」
「怪しいって言わないでくださいな」
「だって時々「どす」とか、京言葉丸出しになるし」
「そらまぁ、小さい頃の話やからなー。人生の9割こっちで過ごしてるからこっちの言葉も慣れて移るもんやね」
「へぇー」
一応京都の一部で使われる言葉を使う。
しかしどうもイントネーションが狂ったり、標準語混じりで喋ったり。
「でもこちらは殆ど標準語に近いですよね?」
「えー、でも語尾に「べ」とか「っしょ」とか使いますよ?」
「ああ。そうかもなー」
「しかし琉嬉様、本当にこの人らと同じ年ですか?琉嬉様に比べて他の皆様はすっかり大人の人間のような…」
「あほな話してないで早く案内してよ」
チヨベイのうなじを少し強めに掴んで案内するように言う。
あからさまに不機嫌。
(…少し怒ってらっしゃる…)
その場のふかしぎ部メンツが感じる。
「あちらです」
チヨベイが指を差す方向。
大きな断崖絶壁な崖が見える。
その近くには川。
冬でも凍り付く事のない、ゆるやかに流れている綺麗な川。
雪との絶妙な組み合わせが違う顔を見せていて綺麗だ。
「ええと…あれを登れと?」
「え?いけませんか?」
キョトンとした顔を見せるチヨベイ。
「無理とは言わないけど…」
着いてきた面々の顔を見る。
案の定、知らんぷりした顔を皆している。
寧音だけ楽しそうにワクワクしてる。
「これを登るんですか?余裕ですよ!」
握り拳を作って変なポージングを決める。
「寧音は元気だね。まぁ、寧音だけ登るとして。別の道ないの?暗くなってきたし」
「そこからだと遠回りで時間が…」
「案内して」
強烈に冷たい目を見せつける琉嬉。
チヨベイは言うがまま、案内する事に。
「待ってください~私もみんなと一緒に行きます~」
「面白いくらい、道がありますね。人の出入りがあるのでしょうか?」
きょろきょろと見回しながら柚羽がカイロを頬に当てながら歩く。
「みたいだね」
「あ、あちらにキツネがいますよー」
呑気そうにまどかがキツネを見つける。
「あら、ほんま」
「キツネなんて毎日見てるよ」
來魅の事だ。
「キツネというよりただの幼女じゃんか」
「一応キツネにも変身出来るよ」
「あ、あちらです」
またもやどうでもいいような会話してるうちに着く。
「案外早く到着したね」
「気づきませんか?」
まどかは何かに気づいている。
「あー、気づかない程僕も鈍感じゃないよ」
「…結界?」
柚羽らも何かに気づく。
そう、結界が張られているという。
恐らく他の人間や動物が侵入しないように。
「我々が生き残る為にはいろいろ細工が必要なのです」
チヨベイが自信ありげに答える。
だから今まで気づかれる事もなく、過ごしてきたようである。
「…本当にお前って妖怪だったんだ」
なぜか、途中まで人の出入りがあるかのように道程があったのに結界がある部分から道がなくなっている。
そこをやむえなく、雪をかき分けて進むはめに。
「靴が……」
「冷たいですー」
「なんでウチが一番前なんや…」
「一番大きいから」
結局一番大きいという理由で最初に歩いてもらい、ぬかるみを少しでも減らすという理由で前を歩く叉羅沙。
「体重だったらオレが一番あると思うんだがな…。こう見えても筋肉あるんだぜ」
と、龍翔が腕をまくろうとしたが分厚い上着のため無理だった。
「龍翔君…体重何キロ?」
叉羅沙がおそるおそる質問する。
「ん?大体70くらいかな。あんま重くねえな。ハハハ」
なぜか笑う。
「そか………」
叉羅沙はそれ以上何も言う事もなく、黙り込んで先頭を頑張って進む。
厳密にはチヨベイが一番先頭に立って案内している。
当然チヨベイは埋まる事ないので楽々と先へ進む。
「一応ジャージ持ってきて良かったな」
「そうですねぇ」
女子達はスカートの下にジャージの下を履いて雪中を進んで行く。
叉羅沙、龍翔、まどか、寧音、柚羽、そしてその順番通りになると琉嬉が一番最後。
「いや、悪いね。うん。僕がちびで良かったよ」
「自分でちびって…いや、私もか…」
なぜか凹む柚羽。
「どうせなら私が抱っこしていきましょうか?」
「うーん、それは断る」
がっくしとする寧音。
辺りは暗くなってしまった。
真っ暗闇…でもなく、積もった雪のおかげで少し明るい。
そしてたまたま空は晴れ模様。
澄んだ空気のおかげなのか、若干明るい。
携帯の明かりなどを頼りに無駄に苛酷な冬道を行く。
「何時?」
「まだ6時やな」
「…まだ6時なの?」
6時でこの暗さ。
冬の間は日が短い。
「はぁー、冬なのになんでこうもお化けのお相手しなければいかんのだろうね」
愚痴を言い出す琉嬉。
ほぼ毎週のように何かと相手している。
タフな性格なので結局こなしているのだが。
「見えてきましたよ」
チヨベイが手を振って示す方向。
よく見てみると、小さな鳥小屋みたいなのが沢山ある。
「チヨベイの住んでる所?」
「その通りでございます」
なんとか敷地内に入ってみる。
無数の小さな足跡がある。
だが人気…というのか、何か動物でもいるという気配があまり感じられない。
「誰もいないのでしょうか?」
少しだけ警戒する柚羽。
すると別の方向から、
「何もありませんね~っ!」
と、寧音の大きな声がした。
目を離した隙に、寧音が木に登って小屋を覗いている。
「あいつ、普段の行いとまったく逆な行動取るよな…」
呆れたように言う琉嬉。
「う~ん。私も最近気づき始めました」
「まどかでも知らなかったのかい……」
奥地へ案内されるがまま、進んで行く。
すると小さな洞窟が出て来た。
「皆様こちらでお休みくだされ」
テテテ、と素早く奥へ一人だけ先へ走って行く。
「外にいるよりかはマシかな。風も当たらないからまだ暖かい」
「そうだな」
「龍翔様」
龍翔がいる=遊希も当然いる。
「あら、お姉さんお久しぶりやねえ」
「…お久しぶり。てか、龍翔様、こんな所まで着いてくるなんて何をお考えですか?」
「おー、遊希。いやなに、楽しそうだったからな」
「楽しそうって…」
必要以上に驚く。
「なぁに。気楽に行きましょうよ!」
ぺしっと遊希の背中を軽く叩く寧音。
「むむ…貴方はいつも…まったく……」
「…僕には寧音というキャラが崩壊してるような気がしてならない」
「私もです」
「同じく」
普段真面目で何事も真剣に取り組む。
学校での表向きの顔はそうだ。
でも学校から離れて、仲の良いふかしぎ部の者達だけといるとこんな様子だ。
「お待たせ致しました」
待つ事ほんの数分程度。
奥からチヨベイが出て来た。
すると、他にチヨベイそっくりなリス達が数匹出てくる。
「ひゃー、リスさんが沢山」
「か、可愛い……」
寧音が飛びつこうとする。
「やめろ。潰れちゃうだろ」
琉嬉が寧音のスカートを掴んで止める。
「おお、こちらが噂の名高い彼方琉嬉殿か」
「あんたは?」
チヨベイの隣にいる、チヨベイそっくりのリス妖怪。
着ている服の違いで判断するしかない。
それくらい見分けがつかない。
「儂は我々一族の長を務めている、ヤスエモンという者です。以後お見知り置きを」
ヤスエモンと自己紹介してくれたリス妖怪が頭を下げる。
それがまた可愛らしい。
「はぅう…かわゆい………」
可愛いもの好きの寧音が度々変に反応する。
その寧音を押しのけて琉嬉が前に出る。
「で、どうして欲しいワケ?」
腰に手を当てて少しだるそうに聞く。
ここに来るだけで疲労してしまったからだ。
「妖怪、人間隔てなく助けてくれる琉嬉殿なら聞いてくれると思いましてな」
「余計な事言わなくていいから」
少し気恥ずかしそうにする。
「へぇ、琉嬉ちゃんいい子だな」
「龍翔君黙れ」
げしっと龍翔の横腹を軽く殴る。
ヤスエモンが言うには、とある妖怪が襲ってくるとの話だ。
その妖怪が一族を食べてしまうとか。
かなりの被害が出ている。
なので、完全なる第三者となる人間の手を借りようとの話が出て、その中で最近有名になってきた琉嬉の名前が出たとか。
独自に調べ上げて琉嬉に辿り着いたという。
「よく調べたね。うちまで来てさ」
チヨベイの方を見る。
「我々の知識を侮ってはいけませんよ」
「はいはい。で、その相手の妖怪とは?」
「熊です」
「……クマァ?」
皆が声を揃えた。
「あー、そいや熊ねぇ。ここ数年住宅近くでも出没するって言うてましたな」
よくニュースで耳にする熊出没の話題。
鞍光市は山中なので、住宅街に出たとかそういった話をよく聞く。
さすがに駅前通りくらいの場所には出ないが、学校近くの山奥でも出たと聞く。
今いる所も出るには出るだろうと思われる場所だ。
「冬なら冬眠してるんじゃないの?」
「普通の熊ならそうでございますが、奴も我々と同じ獣類の妖怪の一種。融通が利く奴なのです」
「で、そいつが襲ってくると?」
「そうです」
琉嬉はお得意の腕を組んでしばし考え込む。
真剣な表情とは裏腹に、可愛らしいコートとイヤーマフ姿。
ギャップが凄い。
「あの、熊と戦うって話ですかね?」
柚羽が背中に背負っていた刀を降ろす。
戦う気満々のようだ。
「熊とは戦った事ありません。剣が通用しますかね?」
「いや、熊よりヤバイ妖怪と散々戦ってるだろお前さん…」
龍翔が引いた目で柚羽に対して突っ込むのだった。
「琉嬉の奴、帰りが遅いのう」
夕食のコロッケを食べながら喋る來魅。
知ってるくせして知らないフリをする。
「またどっかほっつき歩いてるんじゃない?」
負けじとコロッケを口に一いっぱいに頬張って喋る悠飛。
「口に物を入れながら喋らないの」
二人と頭を軽く叩くようにして撫でる嶺珠。
どこまでも優しい。
「二人とも何か知らない?」
「さーってのう」
(心当たりはあるけど確実ではないし…、あのリスさんもいないし)
大抵は家族に何も言わずになんらかの事件に首を突っ込む琉嬉。
毎度の事だろうとして、特に慌てる様子もない。
(うまくやるといいのぅ。琉嬉よ)
「で、そいつが現れるのを待てばいいの?」
「そうですね」
あっさりと答えるチヨベイ。
「で、いつ現れるの?」
「そうですね~。いつでしょうかね~」
「おい」
首根っこ掴んで顔に近づけて威圧する。
「まま、怒ってもしゃーないやん」
慌てて二人を突き放す叉羅沙。
放っておいたらどこまでやるか分からない琉嬉。
「その熊野郎の居る場所まで案内しろ。そいつをぶっ倒せばお前らも僕に関わらなくなるだろ?」
途端に面倒になったのか、逆にこっちから攻め入るというなんとも特殊なケースに持ち込む。
「しかし…」
「いいから」
無表情だが、凄みは伝わってくる。
怖いくらいの冷静な目つき。
「わ、分かりました~」
チヨベイは取り敢えず、熊妖怪が現れるというポイントまでやって来た。
川沿いに進んでいく。
もう靴やジャージの下のズボンはずぶずぶだ。
冷たくて何がなんだか分からない状態のふかしぎ部メンバー。
それでも楽しそうにしている寧音。
辛そうな顔の叉羅沙と柚羽。
あまり表情を表に出していない龍翔とまどか。
そして琉嬉はひたすら黙っている。
極端に分かれた表情をしていた。
「…なんだお前等は?」
「あ。あっさり見つけた」
琉嬉達の目の前にいる、熊のような3m近くはありそうな、大きな熊のような姿の獣類の妖怪だ。
和服のような服装をしている。
赤い目をしていて、顔は熊そのもの。
その場所はチヨベイ達が住処にしている洞窟からさほど遠くない場所。
「居ましたね」
「ああ。居たな」
「熊ですね」
「熊ですね~」
呑気に熊と連呼しているふかしぎ部の者達。
「ひ、ひぃー!出た~!」
チヨベイが悲鳴にも近い大声を出す。
この目の前にいる妖怪がチヨベイ達を襲っていた妖怪のようだ。
「ええと、お前さんがチヨベイらを襲ってたやつ?」
「チヨベイ?ああ、あのリス共か」
「…頼まれたからにはちょっと倒されてくれない?」
「何をふざけた事を言ってる?人間共が」
「あらま、賢いですね。普通の熊じゃないんですねぇ」
少しバカにしたようにまどかが言う。
珍しく挑発的だ。
「まどか、言い過ぎ」
「そうですか?」
「………うん。お前もそういう女だったよね」
なんとなく気づいていた。
まどかは天然気味に、相手をおちょくる事をする。
「フン。リス共に何を言われたのか知らんが、お前等も食べてやろうか?」
「んー、どうします?」
寧音は肩をぐるぐる回してやる気満々だ。
「…多分コイツ一匹じゃないから他のはよろしく」
そう言うと琉嬉は御札を取り出した。
ドサンッと大きく雪上に倒れ込む妖怪。
「死んだのですか?」
「死ぬのかどうかはこいつの体力次第」
気絶してるのだろうか。
倒れ込んだまま起き上がる様子はない。
「お強いですね…琉嬉様」
簡単に妖怪を仕留めたメンバー達。
皆大した怪我もしていない。
強さとしては大した事がなかったようだ。
それにこちらは5人もいる。
「さて、他の奴等もやるかい?」
「やるならやりますよ?」
まどかが槍を突き立てる。
他の似たような熊型の妖怪も複数いたのだが既に戦意を失っている。
「逃げるのなら今のうちですよ?」
寧音が腕をぶんぶん回す。
「ひぃ?!なんなんだこいつらは?!」
逃げていく他の妖怪達。
「琉嬉ちゃん」
「あいよっ。龍翔君は気づいてる?」
「まぁね」
そう言って龍翔は遊希を呼び出してチヨベイを守るようにさせる。
「…あの、まだ何か…?」
「まだ終わってない…ね。これから本番さ」
琉嬉が鞄の中から、大きな数珠を取り出した。
「お?何それ?そんなの使ってたけ?」
「いや、最近使い始めたんだ」
左腕にしている数珠とは違う。
珠の色も茶色一色。
「何をなさるんです?」
「チヨベイ。チヨベイ達を襲ってたのは、こいつの真意じゃない。
こいつを「操っていた」のがいるんだ」
「…操っていた…とは?」
「黒幕がいるってコトさ!」
琉嬉が数珠を大きく掲げて、何か念仏みたいなのを唱える。
すると数珠が白く光り輝く。
「みんな、一応アシストお願い」
琉嬉がそう頼むと、柚羽がまず前に出て抜刀の構えをする。
「しゃあないな」
「どんと来いです!」
パンッと弾けるような音と共に、倒れた妖怪の体から黒い影のようなものが出て来た。
「なんですかこれー?!」
「こら、私から離れるなリスよ」
「は、はひっ?!」
遊希が髪を伸ばして、守りを固める。
瘴気みたいなのが辺りをほとばしる。
その瘴気を髪の毛でガードしていく。
「どうなってるんですかこれ?」
「……かなり凶悪な悪霊…と言ったところね」
「悪霊…ですか?」
「そう。私達妖怪や人間共通となり得る、厄介者の存在だ」
悪霊。
妖怪に憑りついていた悪霊がいるという。
怨念のなった霊体は人間妖怪など関係なく、狙う。
極めて危険な存在だ。
「何の悪霊なのですか?」
「さぁ。それは龍翔様達が暴くわ」
指を差す。
その方向には妖怪の体から出てきてる悪霊の姿があった。
悪霊の姿は、なんとなく獣のような姿をしている。
「……フン、何の恨みか知らないけど、関係ない熊さん達を使うのは感心しないね」
数珠を回収して、再び御札を取り出して戦闘態勢整える。
瘴気攻撃を柚羽や龍翔が防いでくれた。
「悪霊相手なら、素手では無理ですね」
寧音が両手に霊力を込める。
「そやな」
叉羅沙も装備していた御札や短剣を取り出して、本気を出す。
「安心してください、琉嬉さん。バックアップは私達が致します」
「りょーかい」
ニコッと笑顔で了承する琉嬉。
(あら、笑顔ですね…珍しい)
普段笑顔を見せない琉嬉が見せる表情に気づくまどか。
(信頼されてるのかな?)
「さあ、来るで」
凄まじい数の霊気の塊が飛んでくる。
人間離れした動きで攻撃を防いでいく。
時折こちらからも攻撃を仕掛けるが、大きなダメージには至らない。
「これだから悪霊系は嫌なんだよな~」
愚痴る龍翔。
そう言いながらまだ余裕があるかのように攻撃を避けていく。
「まったくです」
ズバッと抜刀で攻撃を防ぐ。
「ひょー、柚羽は相変わらずすげえなぁ…。霊撃を切り裂くとか」
「褒めてる暇ありませんよ」
またすぐ攻撃が来る。
油断してる暇もない。
「あぶねえあぶねえ…。琉嬉ちゃん?」
「だいじょーぶ。寧音、お願い」
「了解ですっ!」
琉嬉の言葉を受け、寧音が単身突撃していく。
「どおぉりゃぁぁぁ」
とんでもない爆発力。
攻撃を掻い潜って、一撃必殺のパンチを決める。
正拳突きの形を取り、放った拳の後から、悪霊の背部から光の衝撃波が見えた。
(すっげぇ…さすが夜栄守家。僕も負けてらんないね」
琉嬉は左腕の数珠を取り外した。
「軽くいくからね。寧音避けてよ」
「はいっ!」
悪霊は体勢を取り戻し、動こうとする。
しかし…。
「はいはい。あかんよ動いたら」
「?!」
悪霊の足元に、短剣が縫いつくように突き刺さっていた。
その数4本程度。
よく見てみると陣が浮き出ている。
「動き封じの術はウチだって出来ますー」
「…でかした叉羅沙っ。真霊気、お見せしよう」
左腕を中心に光り輝く。
黄金色のように光っている。
「それが…真霊気!?」
チヨベイが大きな声で驚く。
「悪いね。恨むのも仕方ないかもしれないけど、お前さんも関係ない者を巻き込み過ぎたね」
琉嬉は大きく両手を振りかがして、悪霊目掛けて真霊気を放つ。
凄まじい光が暗闇を大きく照らす。
「ひゃぁ?!」
「うっひょー」
ふかしぎ部員達も見てられないくらい眩しい光。
「わわわっ、きゃ~っ」
近くに居た寧音が軽く吹っ飛ばされる。
「大丈夫ですか?先輩」
「あ、はい。大丈夫です…いたた…」
頭を擦りながら雪に埋もれた体を起こす。
「いやはや、素晴らしい吹っ飛び方やったな」
「いやぁ、ジャージが邪魔でしたねぇ。ジャージなかったらパンツ丸見えでしたのに。うふふ」
「何を言ってるんですかっ会長…」
「まどかって案外下ネタもいけるんだな…」
「ふふ、そうですか?」
「あの、皆様…何がどうなって…?」
悪霊を退治して盛り上がるなか、チヨベイが話かける。
「あー、うーんと…。てか、お前も薄々気づいてるんじゃないの?」
「………はぁ、まぁ…」
琉嬉がチヨベイに真実を問い出そうとする。
「あの悪霊は、お前達一族の奴だろ?凶暴化してたけどね」
「!!」
「どういう事なんだ?琉嬉ちゃん?」
ふーっと大きくため息ついて琉嬉が木にもたれ掛る。
かなりの霊力体力を消耗したようだ。
「琉嬉先輩、大丈夫ですか?」
柚羽が琉嬉に寄り添って、体勢を崩れないように支える。
「ん。あんがと、柚羽」
「…それは儂らがお教えしよう」
ヤスエモンら、他のリス妖怪達がその場に現れた。
琉嬉は途中から気づいていた。
あの悪霊の正体が、チヨベイ達一族の死んだ霊体が悪霊化したものだと。
「ではなぜあのような状態になったのですか?」
「それは……カンタロウ。
以前そのような同族がいたのですが…、奴は掟を破り、一族を追放された者でして…」
「ふむ…」
「同族裏切り………ですか」
「妖怪の中にもいろいろあるのですね」
しんみりと話を聞く。
「長、あの悪霊の存在を知ってたのですか?」
チヨベイが長のヤスエモンに縋り付くように問う。
チヨベイは知らなかったようである。
ただただ、あの熊型の妖怪が襲って来てただけだと思っていた。
「すまぬ。それに琉嬉殿達も申し訳ない」
「なるほど。真相はあんたら同族の問題だったって事か」
納得する琉嬉。
話の裏にあった真実。
それは同族による問題だった。
「他の者の手を借りるなど、情けない話だが…力無き我々が生き残る為には琉嬉殿の力が必要でした」
「まぁまぁ、頼られるのはむしろありがたいけどさ」
怒る様子も無く、すんなりと受け入れる。
「あの、そのカンタロウという人…じゃなかった。妖怪は何をしたのですか?」
「カンタロウは…我々を売ろうとした者です」
ヤスエモンが小さき弱い声で言う。
一族を売ろうとした。
話がよくまだ見えてこない。
「その話は私も知っております。
かつて我々一族を他の妖怪に売って自分だけ都合のいいように生きようとした者ですね」
「大昔の話だがな」
「人間世界と同じように妖怪の世界も、裏切者みたいなのがいて大変だね」
「ええ…」
なんとなく理解出来る話だ。
人間の世界も大昔から今でも変わらずに争ってばかりいる。
同族での戦いは妖怪の中でもあるようだ。
「それを知った同胞が、カンタロウを処罰、亡き者にしたのです」
「うへ…それってつまり死刑か」
「こわっ…」
震える寧音や柚羽。
ただでさえ冬なのに寒い。
「そのカンタロウって奴の魂が悪霊化して、恨みを晴らすためにあの熊妖怪をに憑りついて悪さしてたのか」
「でもあの妖怪は自我があったように思えますね」
「まどか。鋭いね」
びしっと指を立てて琉嬉が説明を始める。
「あの熊さん自身は、狩りの意欲は元々あった。
ただ、カンタロウってヤツに憑りつかれたせいで、自分自身の意欲が制御出来なくなって、チヨベイ達を襲っていた。
襲う必要性のない者を襲い続けていた。
難しい問題だけど、あの熊さん自身が持っていた精神性でもあったんだよ。
多分襲う切っ掛けは、カンタロウの意識のせいだろうけど」
「……なるほど…理解出来ました」
チヨベイは納得する。
ヤスエモンらは何も言わずに黙っている。
「ま、その通りなんだろ?ヤスエモンさんとやら」
龍翔が少し意地悪そうに言う。
「ええ。そうですね」
「終わった事ですし、ほらほらみなさん、戻りましょう?寒いですし」
まどかが締めるように、移動を促す。
「そうだね。戻ろうか」
一旦洞窟に戻り暖を取る。
その辺の枯れ木を集めて火をつける。
焚き火だけでもかなり暖かい。
「しかし火を付けれるなんて、妖怪だったんだな…」
「当たり前です。これくらい余裕です」
チヨベイが弱いながらも妖力を駆使して火をつける力はある。
「火なら緋瑪斗が得意だったかな」
「緋瑪斗?ああ、例の…」
「そそ。まあ緋瑪斗は置いといて、帰るのが大変だね」
「う、やな事思い出させへんでくれやぁ…琉嬉ちゃん」
「皆一緒ですよ」
なぜか楽しそうなまどか。
決して辛そうな表情や言葉を出さない。
どこかそういう部分が麻痺でもしてそうだ。
「みゆがいたら車チャーターしてくれそうなのにな…今回は仕方ないか」
諦めムード。
ただただ、帰りが面倒な場所だ。
時間も夜10時。
早くしないと終電が間に合わない。
「最悪走って帰ればいいだろ?」
「真冬のこの時期に走るとか、あかんやろ~」
「いえ、心頭滅却すれば…」
「じゃあ寧音だけ走って帰ってね」
「ええぇえ…琉嬉さん意地悪ですぅー」
こんな状態でもにぎやか。
「はぁ、人間とやらはいつでも前向きなんですな…」
チヨベイがぽかんとする。
ポジティブなふかしぎ部の世界観に圧倒されている。
「いえ、人間というより、この方達が特殊なんですよ」
にっこりと笑顔で「答え」をチヨベイに伝えるまどか。
「儂共のために、本当に申し訳ありませんでした。
本当は儂達一族がすべき事なのでしょうが…」
「んー、いいよ別にそんなの。沢山リスさん達をもふもふ出来たし」
「そんな報酬でええんかい…」
知らない間に他のリス妖怪達を遊んでたようである。
「ほれ、チヨベイ。帰りの道案内をせい」
「は、はい、承知しました。では、琉嬉殿、こちらです」
「じゃ、また。今度はあったかくなったら来るよ」
手を振り、その場から去って行くふかしぎ部。
「……いい人間達だったな」
「そうですね。ああいう人間もいるのですね」
「そうだな…」
ヤスエモンは夜の夜空を見上げた。
晴れ間が出ており星や月が綺麗に見える。
あっという間に自分達が抱える問題をいとも簡単のように、一日で解決した琉嬉達。
力の差を感じたが、それを気にしない心優しい者達。
「まったく……つくづく人間とは面白い生き物だ…」
呟くように言う。
白い雪に埋もれた森中は静寂に包まれた。
「とんだ一日だったよ…。せめて休みの日にしてほしかった」
なんとか街中に出た。
「すみません…。それも私共せいでした」
「まったくそうだよ」
むんず、と琉嬉はチヨベイのうなじを掴んで持ち上げる。
「あの、何か…?」
少し怯えるチヨベイ。
「今度何かあったらマシな季節にしてほしいもんだね」
ぽいっと寧音にパスする。
まるでボールのような扱い。
「ふふふ、かわゆいですね。本当に」
「ひぃぃ、この人間は私苦手ですっ!」
逃げるように手から飛び降りる。
「あ、ちょっと…逃げないでください~」
「なんだありゃ…」
「ふふふ、いいじゃないですか」
近くのバス停へ向かう。
まだバスはあるが、本数がいかんせん少ない。
11時台には一本もなくなる。
「おーい、寧音。早くしろー。バス行っちゃうぞー」
「あ、はい」
「それでは皆様、本日は本当にありがとうございました。
ぺこりと深々お辞儀をする。
その可愛らしい姿を見て悶える寧音。
「じゃ、またね」
バスがやってくる。
このバスに乗って、中心の駅に行ってそこからまた解散となる。
それぞれ乗り込んでいく。
チヨベイの姿はもう見えない。
一応、姿を見せる訳にもいかないからだ。
バスは発車する。
他の乗客は少ない。
夜遅いので当然である。
取り残されたようになるチヨベイ。
掴まれた首元を擦る。
「…ありがとうございました。琉嬉殿」
再び頭を下げるチヨベイだった。
深夜。
11時半を過ぎていた。
日付が変わる前。
翌日も学校。
それなのに無理矢理チヨベイの頼みを聞いてきた。
さすがに疲れが来る。
真霊気も仕様したためか、足元が少しおぼつかない。
「お帰り、お前様」
「…お前か?チヨベイを鞄に放り込んだのは」
「おう、さぞや楽しい一日だったろう?」
「お陰様でね…」
その後無言で、來魅のほっぺを両手で引っ張り上げた。
(はぁー。有名になるのも辛いもんだね…)
布団に入ろうとする琉嬉。
真霊気を狙う輩。
それを頼る者。
いろいろ現れてくる。
(冬なのに……お化けって休まないもんだよね。誰が夏は心霊シーズンって言ったんだよ。あー寝よ寝よ」
疲れ切ったのか、目を瞑るとすぐ意識が睡眠世界へ向かった。
コツン。
窓が小さな音を立てる。
しかしその音には誰も気づかない。
翌日の朝。
微かに残る霊気。
琉嬉は気になり、窓の様子を見る。
「ん?」
窓の外のベランダには、小さな袋が落ちている。
「なんだこれ?」
気になり、手に取る。
中を開けると木の実らしきもの。
「………なるほどね~…動物妖怪らしいや」
何かを察し、それを持って窓を閉める。
「母さん~、いい調味料手に入ったよー」
どたどたと音を立てて階段を降りて行く琉嬉。
「…朝からにぎやかだのう、琉嬉は…」
物音うるささに目が覚めた來魅。
(あやつ結局来ておったのか…)
來魅だけはなんとなく感づいていた。
(また会えるかの)
ゆっくりと起き上がり、來魅も居間のある下の階へと降りて行った。




