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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第九章   ~新年怪奇編~
53/92

#53 それぞれの方向性…なんだけど

 真冬の明るい空。

澄み切った空気が逆に肌に冷たい。

先日の夜から雪が積もったのか。

辺りはより一層白い一面になっている。

バッと無駄に両手を広げる琉嬉。

運動不足がちで、少し肩がこってる。

何回も腕をぐるぐる回しながら駅へ向かう。


 この日から新学期。

3年生は卒業へ向けていろいろと忙しい時期でもある。

「おー。あけましておめでとう」

「…遅い新年の挨拶だな」

 久々にクラスメイトと顔をあわせる。

遅めの新年の挨拶してきたのはみなっちとゆうの二人。

にやにやしている。

「相変わらず辛気臭い顔してるね~」

 いきなり失礼な事を言ってくるのはみなっち。

「うるさい」

「おほー、冷たい返しも相変わらず~」

 こちらも変わらず、ノリが良いゆう。

「あ、もう一人の有名人さん来たよ」

「…んあ?」

 静かに戸を開け入ってくるのは凛夢。

冬休み中はほとんど会ってない。

凛夢側からも連絡は来ないし、琉嬉からもあまりしない。

おそらくお互い、どこか意識してはいる筈なのだが。

どちらもおそらく、ほとんどゲームもために引き篭もってたに違いない。

琉嬉はそう思っていた。

…琉嬉が実際にそうだったからだ。

「おはよう~」

「あ、う、うん。おはよう…」

「元気ないね~?」

「いや、そんな事はないですぅ…よ。あはは」

「本当?」

 と、クラスメイトの言う事にも耳を傾けることなく自分の席へさっさとつく。

何かあったのか疑いたいが、お互いの性格上聞くにも聞けない。

琉嬉はそう感じたのか凛夢には話しかけなかった。



 始業式のこの日は、午前中で学校が終わる。

勿論帰宅する生徒もいれば、やる事がある生徒達もいる。

琉嬉達ふかしぎ部のメンバーも、なんとなく生徒会室へ集まってくる。


「あ、あの…なんで生徒会の私より先に皆さんがいるんです…?」

 いつもおっとり何も動じなさそうな、生徒会長・まどかが部屋に入った途端、唖然とした。

既に何人のも知ってる顔がそこに居たからだ。

「おー、かいちょさん。改めてあけましておめでとーさん」

慣れ慣れしい挨拶はお得意、みゆ。

「よっ」

「ども」

 みゆの他に、御琴、柚羽の一年トリオ。

護や琉嬉の姿もある。

「おー、まどか、来たか」

 龍翔も来ていた。

寧音の姿は見当たらない。

まだ来てないようだ。


「……や。まどか。おひさし」

 ちょこんと奥の椅子に座って小さく左手を上げて挨拶する琉嬉。

「琉嬉さんも…何かあったんですか?」

「いや。別に。」

「………はあ」

 休み期間中でもちょくちょく学校には来ていたまどか。

その時は静かだったが休み明けとなると一気ににぎやかに。

別に、それが嫌な訳ではない。

訳ではないが、どうもこうもどこか納得いかないような気がしてならない。

「まあまあ、邪魔はしないから~」

「いや、なぜ生徒会室にいるんです?」

「んー、なんとなく。たまには雰囲気変えようかなっと」

「……いや、意味が分かりませんが」

 手を顔の前でぶんぶん振るまどか。

「ところで、まだ生徒会長続けるらしいね。まどか」

「そう…ですね」

 珍しく無言のまま話を聞くまどか。

そこでしばらく俯く。

「まどか?」

 少し心配そうに叉羅沙が覗き込む。

「一年生の皆さん」

 いきなり立ち上がる。

「現状の後任がいなかったのです。

それは勿論私が後任を育てなかったせいでもあります。

そこで……」

 思い立ったように発言する。

その目はいつになく見開いている。

「皆さん、生徒会に入ればいいんですよ!後任を考えなければいけませんしね」

「…へ?」

 他の生徒会のメンバーも時が止まったように止まった。



「私たちは来年度に三年生になります。

引退を考えなければいけません。

そうすると、今の一年生の方達から、後任を輩出しなければ…いけませんよね」

「まぁそうだな。先生達からも言われてるし」

 龍翔も乗っかる形で話題に入る。

「後任は誰ですか~?」

 みゆが挙手して質問。

まどかはゆっくりと柚羽の方を見る。

「……え?私ですか?」

「適任だと思いますよ?」

「はぁ……こんな目立たない私でいいんでしょうかね?」

「生徒会の事を詳しく知り得ているから大丈夫なんじゃない?」

 琉嬉はぶっきらぼうに言う。

「しかし…」

「考えておいてくださいね?」

 にっこりと微笑む。

その笑顔の裏に何かありそうで、ちょっとだけ身震いした柚羽だった。

「それと……」

「ほえ?」

 みゆの方を見る。

「みゆさんや神楽さんは…いかがですか?」

 笑顔がなんとなく恐い。

怖過ぎる。

「あ、ええと…、私も生徒会に参加しろ…と?」

「手ほどきお教えしますよ?」

「ひぃ…」

 二人は震えあがった。




「つか、みんな将来どうするか決めてるの?」

 護が唐突に話題を変える。

自身も来年度は三年生。

進む方向性を考える時期…。

「将来かぁ…あまり考えてへんかったわ」

「へぇ、意外だね。叉羅沙がそんな事言うなんて」

「ウチはなぁ…あまり考えなしでこっちに出て来たから…」

 深い理由がありそうなので敢えて皆は詮索しない。

「ところで、龍翔先輩は、卒業されたらどうするんです?」

「んー?」

「一応、大学行くよ。ま、まったりまだ学生生活送るよ。バイトでもしながら」

「そうなんですか?てっきりそのまま家業継ぐのかと」

 まどから生徒会の人間は龍翔の事は詳しい。

「いや、まあ、それなりに継ぐ修行みたいのはしていくよ。でもまだまだ、社会ってのを知るために、さ」

「へー、龍翔君ってボーっとしたイメージあるのに考えてることは考えてるんですね」

 琉嬉が少し嫌味っぽく言う。

事実、そういうイメージだから仕方ないかもしれないが。

「ハハ、言うねー、琉嬉ちゃん。そういう琉嬉ちゃんこそどうするんだ?」

「卒業したらお寺に行って本格的に御祓い業やるつもりではいるんだけどね。

でも進学するつもりではいるよ」

「へぇー…」

 みんながみんな想像する。

こんなちっこい子供みたいな女の子が、御祓い業。

「違う意味で売れそうだよねッ!」

「…は?」

 みゆはなんとなく濁した言葉で言った。

「なんでもないなんでもないですー。うへへ」

「……?また変なコト言ってたのか」

「おうっするどーい」

「…言えっ!何言った!」

 琉嬉の短気っぷりは健在。

すかさずみゆの背中の飛び乗り後ろから羽交い絞めにする。

「うぐおーっ琉嬉ちゃーん、それはヤバイってぇぇ~」

「うるさい!お前また僕の事なんか言ったんだろ?!」

「うっひー」

 ドタバタ。

「…こんなにうるさい生徒会室なんてあるんやろか…」



 なんだかんだで、この日は解散となる。

それぞれ散っていく中、まだ残ってるまどから生徒会メンバー。

一年生達は先に帰ってしまった。

琉嬉らの姿もない。

入れ違いになるように、後から寧音も合流していた。

「まどかも中々大胆やなぁ。あの面子らに生徒会やればええなんて」

「そうですか?面白そうじゃないですか?特にみゆさんは」

「……あの陽気ガールが生徒会ねぇ…」

 不安そうになる龍翔。

「来期の話ですか?」

 ピシッと制服を正しながら寧音も話題に加わった。

「叉羅沙こそ会長か副会長…どうだ?俺は引退して…」

「いやいや、ウチはもっとこう、影から支えるみたいな、そういう部分どす」

「うーん、それは、それでも、うちのあの濃い人達を候補ってのも問題ありじゃないです?」

「……生徒会としても実務やれそうな連中か…?」

 するどいツッコミを入れる龍翔。

冷静に考えれば考えるほど、まともに働いてくれるような連中ではなさそうであはる。

「あ、でも柚羽さんとかしっかりしてそうで良さそうじゃないですか?」

「…あの中ではまあ…一番真面目でしっかりしてそうだけどな」


 あれこれ、引継ぎ、世代交代問題を出す。

元々、人数が少ない生徒会。

ある程度兼任してる部分もあり、担当顧問の教師も手伝ったりしている。

一応他の生徒会の人間もいるのだが、頻繁には顔を出さないようでもある。

実は、いろいろと面倒事が多いのだった。



 下校する面々。

各自方向が違うので駅前で何人か別々の方向になる。

その中でみゆと御琴が電車待ちしていた。

「はうはふ。寒いね~」

 白い息をわざと沢山吐くみゆ。

それだけ冷え込んでいる。

「…………」

「…およ?みこっちゃん。どうしたのさ?元気ないぞ~」

 可愛らしい黄色い手袋をつけた手で御琴の頬をぷにぷにする。

「おっほ~。みこっちゃんのほっぺぷにぷに~。女の子みたい~」

 手袋を外してさらにぷにぷに触る。

「ちょちょ、何やってんの…みゆちゃん」

「いやー、元気なさそうだったし。熱でもある?」

 そう言うと、手袋を外した方の手で御琴のおでこに触れる。

「うひゃ、ちょ…」

「熱はなさそうだけどねん~」

「ね、熱はないよ!」

「そっか~。よかった」

「……もう」

 あまりにも突然な行動にあたふたする。

みゆの言動にはあせりっぱなしである。

いいとこのお嬢様のはずなのに、電車で通う。

それだけで不思議なのに、実はかなりの霊術者の達人という、実に不思議っ子。

御琴自身も一応、霊感はあるのだが、みんなには遠く及ばない程ではある。

それでも少しは鍛錬してある程度の術は見に付けてる…つもりではいるのだが。

「あのさ…みゆちゃん」

「ほへ?」

 いつの間にだしたのやら、むしろ、いつ買ってたのか、板チョコを噛り付いていたみゆ。

「……僕さ、考えたんだ」

 見事にスルーの御琴。

「考えたってー、何を?」

「…これから通常の術者レベルに到達できるように、修行しようと思うんだ」

「ほ、ほう~…修行とな」

「冬休み中は何も出来なかったけど…春休み中ならしばらく集中できそうだし。

みゆちゃんが良かったら…僕のレベルアップのためにいろいろ教えて欲しいんだ!」

 ガッとみゆの両手を掴み、力強く頼み込む。

「お、おおぅ…そ、そう?みこっちゃんがいいなら私はいつでも大歓迎さっ」

「ほんと?ありがとう!みゆちゃん!」

「修行を重ね、立派な男になるといいッ」

「うん、頑張って…強くなりたい!」

「おう、その意気だ!みこっちゃん!(…って、言っても…みこっちゃんが男らしいってのもなんか嫌だな~)」

 などと、心の中で思うみゆだった。

そんな話してるうちに電車がくる。

「お、電車来たよん」

「あっ、ちょっと待って…」

 急いで飛び乗るように電車に乗り込む。

帰りも一緒なほど仲が良い。

学校でも周囲の目も気にしてないというより、気づいてない様子の二人。

はてさて…。



 そしてこちらはちっこいコンビの琉嬉と柚羽。

何かとあれから少し仲が良くなっている様子。

二人は学校近くの駅前のファーストフード店に来ていた。

以前みゆと打ち合わせした同じお店だ。

昼食をかねるために来ていた。

他のメンバーは用事があったり生徒会の仕事あったりと忙しそう(?)だったので

この二人だけになっていた。

「琉嬉先輩達…来年度は3年生ですね」

「…そうだなー。すんなりいけばいいんだけどね」

「フフ。私も生徒会引き続きやってみようかな~て、思うんですけど。琉嬉先輩はどうします?」

「んー。僕はパスパス。そういう目立つ役割は苦手でね。目立つのは裏の世界だけで十分だよ。あ、いや、裏の世界でも目立たなくていいんだけど…」

「あはは。先輩らしいですね」

 目立つのが好きではない。

そう言いながらも目立つ事ばっかりやっている。

「…ところでさ、柚羽」

「はい?」

「お前さ、いつも剣みたいの担いでるけど…大丈夫なの?それ」

「ああ、一応竹刀ですので大丈夫です」

「へぇ…」

 どうやらいつも刀を持ち歩いてたと思ってたようだ。

「んーと、剣道部?」

「そうなんですけど、私、これでも早碕流剣術の師範代でして…剣道部には一応属してますが、試合とかは一切出てません」

「そうなの…?」

「ええ、指導してます」

 柚羽が言うには、どっちかというと指導してる立場だという。

とはいえ決して強いところでもなく、人数も多い訳ではない。

だが学生生活においても剣の心を離さないために、剣道部へ所属はしているという。

というか、あまりの強さのため…という理由もあるそうだが。

「なるほどねぇ。早碕流かぁ…。どっかで聞いたようなないような」

「まあ、表向きではあまり有名じゃないと思いますけどね。

というか、一般世間には剣の流派の名前なんて知ってる人は少ないと思いますけどね」

 笑いがながら言う。

「そりゃそうか。早碕流ねぇ……」

 琉嬉は組んでいた足を組み直して話を続けた。

「護のやつも剣みたいなの使うけど、あいつは我流なのかな」

「そうですね。型、太刀筋、動きなど、大体が不規則なので…おそらく護先輩が自らの戦い方だと思います。

それに、あの人間離れした動き…半端じゃないです。本当に人間なんでしょうかね?」

「…あははっ、半分は人間だよ。護は」

「……え?」

「まあまあ、いずれ分かるコトだろうし」

「はあ…?」

 元々半妖状態の護ではあるが、そもそも妖怪の力に頼らなくとも異常なまでの動きはしているが。

大体、琉嬉自身も護の妖怪化の理由は知らない。

そのうちゆっくり聞きたいと思ってるくらいだ。

「人間離れしてたといえば…寧音もそうだったなぁ…」

「寧音先輩ですか?私はあまり戦ってる所見た事ありませんね…そういえば」

「護に似たタイプを感じるな。僕は」

 そう言ってひょいっと口にポテトを投げ入れるように食べた。


「あー、そういえば、寧音も來魅封印した一族のヤサガミ?だったけ。同じ五大家に数えられているのに全然知らないや」

「…夜栄守家…ですか?どうなんでしょうね?」

 柚羽はメモ帳を取り出し、字を書き始める。

何かを書いているが、なんの文字かは分からない。

多分会話と関係ない内容だと思われる。

「寧音は格闘術だったな」

「私聞いた事あります」

 メモしている手を止めて話す。

「…夜栄守家の人たちに伝わる、「神天流」っていう流派があるんですが、剣術、格闘など合わせた総合武術です。少し興味あります。

ただ、噂程度でしか聞いてなかったのですが、寧音先輩に話聞く限り本当でしょうね」

「へ、へぇ~…。そうなんだ。詳しいな…。お前…普通の陰陽師じゃないんだな…」

「普通じゃ、この世界生き残れませんから」

 ニコっと可愛らしい笑顔をみせる。

普通じゃ生き残れない。

それはたしかに、と思う琉嬉。

「一度手合わせしたいと思います」

「……何その戦闘狂みたいなセリフ」

「えー、そうですか?剣にしろ、格闘にしろ強い相手と戦うのは当然の事じゃないですか?

スポーツでも学術でも。あ、それにゲームとかもそうじゃないですか?」

「………ん、それもそうか…な?」


「あの…琉嬉先輩」

「何?」

「ひとつ…お願いがあるんですが…」

「お願い?何の?」

 柚羽はすぐには言わず少し溜めたように言う。

「私の…刀。月天がそろそろ持たなさそうなんです。がしゃどくろの時に大分やられていて…」

「…折れそうとか?」

「はい。その通りです」

 琉嬉は無言で、ふうっとため息つく。

とりあえず、何か言いたい事がなんとなく分かった。



「なるほど。つまり、このままだと刀が使えなくなるから代わりになるものをみつけたいと」

「はい。出来れば…他のみなさんが使用してるような霊具に近いのがいいんですが…。うちにはそういった伝手がなくって…。

だから、琉嬉先輩なら詳しいかなっと思いまして」

「ふーむ。なるほどねえ」

 現代に刀鍛冶はいない訳ではないが、お金もかかるだろうし、実戦に耐えうるものを作るとなるとかなり限られてくる。

「僕は武器方面は詳しくないからなぁ。それってたしか…妖刀じゃなかったけ?」

「そうなんですが…思ったよりがしゃどくろに力を奪い取られていたようで…」

「マジで?」

 それだけがしゃどくろの力が強大だったようだ。

さすがに琉嬉も驚くだけ。

「まぁ…そういうのはうちのじいさんにでも聞こうか」

「本当ですか?頼りになります!私も護先輩みたいに自力で剣作り出したり出来ればいいんですけどね…」

「ああ、そういうのは得意不得意あるだろうし、お前は物を媒体にして戦う、陰陽師だから。人それぞれだよ」

「そうですね」

「ふむ…」

 そこで琉嬉が何か考えるように黙り込む。

その間柚羽はマイペースにジュースを飲んでいる。

「なんか、あれだな。RPGみたいだね。最強の剣を入手するために未知なる場所へ行く…!みたいな」

「…え?」

「うむ。ちょっと楽しそう。

僕も最強の武器欲しいねぇ~」

 上を向いて何やら想像している。

完全にゲーム脳である。

「は、はあ…。琉嬉先輩が楽しそうであればそれは良かったです…」

 ちょっと不服そうである。


 まったりした空間。

琉嬉からはあまり話しかけてこない。

かといって、柚羽もお喋りなタイプではない。

琉嬉は何やらスマホを覗いている。

しばし沈黙時間が流れゆく。

(…う…本当に琉嬉先輩って、興味ない事は無関心なんだな…)

 少し焦る柚羽。

そしてこう切り出す。

「……あの、琉嬉先輩って転校生なんですよね?転校する前と比べてどうですか…?ここは?」

「…え?」

「なんていうか、昔の琉嬉先輩の事知りたいな~って…。あ、必要あれば私の事も話しますよ」

「…あ、え、うーむ…」

 あまり喋りたがらない様子。

「なんていうかさ、苦い思い出ばっかりというか…うん。まあ。ね…」

(…あまり聞いちゃイケナイようなコトなのかな…)

「いや…その……。知ってるとは思うけど…僕さ…」

「ああ、凶暴な天使って言われてますよね」

「…おま、よくストレートに言えるな…」

「ああああ、すいません!!私、なんか思った事をそのまま口に出しちゃうらしくて…(まずったー?!あたしー!!)」

 見事に地雷踏んだ柚羽。

「…でも、噂通りだと思うよ」

「はあ…」

 自分自身で変な空気を作り出してしまった柚羽。

その後話しかけることも出来ず、完全なる自爆となった。


「ふむ…。まあいい。すこーしだけ語ってあげよう」

(ホッ……殴られるかと思った…)

「転校した理由は~、……前の学校でちょっとやらかしたから……」

「やらかした…ですか…(想像した通りというかなんというか…)」

 琉嬉が一年生にやらかした事件は当然柚羽も知っている。

なぜなら琉嬉は有名人だから。

「いや、ほら、高校ってさ、よっぽどの田舎じゃない限り、学力とか合わせていろんな地域から集まる訳じゃない?」

「まあたしかに」

「……まあ、こういう感じだからちょっかい出されるわけよ。僕は」

「………はあ」

 148cmの自分よりさらに小さい。

そのうえ普段おとなしく、根暗そうであれば意地悪したくなる…とは琉嬉には言えなかった。

小さいうえに黒髪ロングツインテール。

いそうでいない。

そんなタイプ。

「最初はそうでもなかったんだけど、時間が経つに連れてね…」

「…それで…?」

「イジメってやつかね?教科書とかノートにいたずらされてね~。一日くらい我慢したんだけどね。でもすぐ頭にきちゃったワケで」

 その後の答えは聞かなくてもすぐ予想ついた。

「なんとなくやるようなヤツは想像ついたからね。だって他の人間にも嫌がらせみたいのしてたから。

高校ともいなると、ちょいヤンキーっぽくみせたがるバカとかさ。おかげで、犯人はすぐわかったし。

片っ端からむかつくヤツをとっちめって行って…すぐさま停学ってやつ?」

「………本当に見た目と反対の人ですね…」

「なんかさ、そういうむかつく嫌なヤツを徹底的にシメあげないと気がすまないんだよね」

「はあ…」

「こんな趣味ないけどさ、粋がってた奴が途端に怯える姿は…面白いよね…」

そう言いながら琉嬉はクスクス笑う。

かなり不気味だった。

柚羽の脳裏にはなんだか怪しいコトしてそうな、黒魔術でも使いそうなイメージの少女を思い浮かべていた。

「んでもってー、居心地悪くなってバツ悪いし、親の引越しかねて転校したってわけ」

「…いじめられて転校とかじゃなくって、相手をボコボコにしてしまったから転校って…凄いですね」

「……ま、ここでも同じ事しちゃったんだけどさ、教師も教師だし、他の生徒もちょっと変わったやつ多いから、

特別目立つ事なくなったんだけどね。面白い事に」

「……た、たしかに…」

 柚羽は心の中で変わった人間が多い、という話に思い浮かべる人物像を確認していた。

変わっていて目立つ人物。

みゆ、護、凛夢、生徒会のメンバー…などなど。



「じゃ、私はここで…。ありがとうございました。また明日会えるタイミングあれば会いましょう」

「…おー」

 駅手前で別れる。

柚羽は学校から近い場所にある。

琉嬉はちょっと離れた所になるので駅の前で別れる事になるのだ。

ここで一人になる琉嬉。

この日は特にこれ以上、何処も寄る所もなく帰る事にする。



 カチャリ、と飲んでいたコーヒーカップを置く。

学校自体は午前中で終わったが昼飯を食べてしばらく街中をブラブラしていた。

すっかり日が暮れてしまいさらに気温が下がる前に帰る事にする。

「卒業か~。私も休学してなければ今頃卒業生だったのかな~」

 と、思わず口に出して言ってるのは護。

休学していて一年留年扱いとなっている。

護自身、学校行く必要はないくらいの稼ぎはあるのだが、理由がある。

それは中学の頃までにお世話になった施設の職員達に恩を返すため。

それが学校に通う事。


 でも当初はなんとなく通う節があった。

でも今は違う。

信頼出来る仲間が出来た。

そもそも、琉嬉を最初狙わなければもしかしたら琉嬉以外、みゆ達とはこんなに仲良くならなかったかもしれない。

そんな事をなんとなく思いながら帰宅するために店を出て、駅へ向かう。


 電車の中。

丁度帰宅ラッシュと重なり混雑する車内。

(毎度毎度面倒だ)

すぐ降りるにしても丁度街中の真ん中を通るため人の出入りが一番激しい。

護はそこを通らなければいけなかった。

そんなラッシュの中で起きる、事件。

(…!こ、この感覚は…)

 護はお尻の方に変な感触があるのに気づいた。

そう、痴漢…である。

(これはー、もしかして痴漢ってやつですか~?!)

 でも、近すぎてただ手の甲でも触れてるだけかもしれない。

そう思い、ちょっとの時間様子をみていた。


 が、しかし。

どうみても離れる様子もなく、明らかに「触っている」状況だ。

なんだかんだで気が強い護。

ガシッと勢いよく触っていた手を掴む。

「…痴漢は犯罪ですよ~」

「えっ?!」

 手の主は、どこでもいそうな中年のサラリーマン風のスーツ姿の男性。

少しハゲかかっている眼鏡のオヤジだ。

「どうせ狙うのならもっとおとなしそうな子にするといいよね。あ、でも痴漢しろって意味じゃないよ」

言ってる事がおかしいのも護も護だが。

「あ、いや…」

 焦るオヤジ。だが、むなしく…。

「このエロオヤジ!」

 ガツンっと、おもいっきり顔面に鉄拳が炸裂した。

オヤジは人ごみの中を掻き分けるくらいに吹っ飛んで行った。

回りの客も何人か巻き添えをくらって倒れて軽く混乱が起きた。

「あ。」

 やってしまった。

そんな顔する護。




 その後、駅員やら警察やらが来て少々面倒な事になる。

痴漢したオヤジはかなり大ダメージ。

警察からは過剰防衛的なうんぬんかんぬんと言っていた。

護の頭では少し理解が足りてない様子だったが。

「それにしてもグーパンチでノックアウトさせるなんてね…。何か格闘技でもやってるのかい?」

「あ、いや…あはは。まあ、そんなところです」

 格闘技というより剣技だが。

「あの…私もやり過ぎてなんかすみません」

 オヤジは意識を取り戻し、ひたすら家族がいるからどうのこうのと謝っている。

護もやり過ぎに反省していた。

結局お互いに残念な事になってたので、和解とまではいかないが両成敗みたいな形になってその場を終わらせる。



 結局かなりの時間をくった。

自分の家のある地域に着いたのは夜九時をまわろうとする時間帯だった。

「…はぁー………」

 ふと、自宅近くのちょっとした商店街の店のショーケースに映る自分の姿を見る。

どこにでもいそうなギャルっぽい女子高生風な自分の姿。

(うーむ。自分でもなんだけど、ド派手な金髪だなぁ。金髪外国人の人でもここまでマッキンキンなのいないんじゃないの?っていうくらい…)

 自分の金髪姿にちょっと嫌気をさしてるようである。

そうは言っても、実際には地毛なのであるから最早仕方ない事。

(…黒に染めても…無駄だろうしなぁ…。昔は真っ黒だったのにな~)

 とある事件にて、自身が妖怪化してしまい、髪など体毛の色が変化し綺麗な金色に輝く髪になってしまった。

(目立つ目立つ~。はぁー)

 極力目立つような状態になりたくないが、どうしても目立つ。

ましてやスタイルの良さ、美貌も兼ね備えている、ずるい存在だ。

あまり自分では意識はしてない。

見た目裏腹に自分のファッションは動きやすさ重視。

ちょっとミリタリーっぽいファッションを好む。

どこかしら、普通の同じくらいの年代の女の子とはズレている。

それに自覚がなさそうでもある。

足りない脳みそであれこれ考えるが、結局家につくと忘れてしまう。

自宅の部屋に入るといろんな事を忘れて風呂場へ向かったのだった。




 一人寂しく冬の公園。

公園といっても、雪に埋もれている。

ほとんど道しかない。

凛夢にとってはこの道を通るのがちょっと近道。

そこを通り過ぎると、以前の廃墟が近くにある。

新倉まゆみ。

通称マユという少女の霊が居る廃墟。

時折、気にかけて様子を見に行く時がある。

普段は姿をあまり見かけない。


 一度、マユらしき姿を窓から何度か見かけた。

彼女は今でも成仏せずにまだ「居る」らしい。

「……はぁー」

 結局その廃墟に向かってしまう。


 その廃墟は、以前凛夢達が戦ったせいでかなりボロくなっていた。

一部の壁なんぞ、崩壊している。

おそるおそる入っていく凛夢。

「…マユー、いるのかー」

 返事はない。

いや、普通は当たり前なのだ。

誰か居る訳がない。

浮浪者が居てもおかしくないのかもしれないが、今は真冬。

こんな所に居たらそれこそ死んでしまう。

「……あん時のままだな」

 一階には気配がない、そう思い二階へ行く。


 ボロボロの階段をのぼる。

真っ暗闇を携帯電話の明かりだけで進む。

そして、マユの部屋へ進む。

壁が崩壊している。

そこから近くの街灯の明かりが見える。

雪が積もっているせいで、光が反射して雪が無い時より明るい。

「…誰もいないか」

 そう思い振り返ると、目の前にマユがいた。

「おわっ!!い、いたのか!!」

「いましたよ」

「…さすが幽霊……」

 久し振りに凄い胸がドキドキしたのか、凛夢は苦笑い。


「で、どうかしたんですか?」

「あ、う…いや、別に。なんとなく…」

「ふーん…」

「……」

「寂しいんですか?」

「…そういうんじゃないけど…」

「じゃ、どうしたんですか?」

「うーん……、幽霊のお前に話してもなぁ…。ましてや子供」

「いえいえ、でも現世にいる年数は凛夢さんより長いですよ」

「……う、たしかにそうね…」

 妙に納得する。

「どうかしたんですか?少しイラついてるようにも見えますけど」

「…幽霊に言われるなんて、私も焼きが回ったわね」

 自分でもなんだか分からない。

過去の出来事から未来に対しての道筋がなかなか見えない部分もある。

今後どうなるか分からない自分に対して少しイラついていた。

「なんていうかさ、今後どうしようかな…って」

「…?今後って…卒業後とかって意味ですか?」

「んー。そんなトコかな」

「なるほど…。私には経験ない、まさに未知なる話ですね。なんせ、小学校すら卒業できてないんですからっ」

 けらけら笑い飛ばすマユ。

たしかに、死んでるのだから形ある卒業という訳でもないからだ。

「これだけは言えます。凛夢さんに何かあったのか知らないですけど、「生きてる」のですから。

ずっとあたしより未来はありますよ」

 しっかりとした答えを導くように言う。

「…フフ。そうね。子供の幽霊に言われるなんて、私の方がよっぽど子供よね」

 凛夢も笑顔を見せる。

「…お金はそこそこあるし、大学でも目指そうかな。

仮にも…五大家のひとつだし」

「そうそう、その意気です」

「……ありがと。マユ。じゃ、私は帰るよ」

「はい。また」

「おう」

 何か吹っ切れたようになる。

あまり言う事のない、心からの感謝の言葉。

普段そういうのには気にするものが、今は気にする事もなく、足早に出て行く。

「まだまだ、凛夢さんも子供ね。人のコト言えないけど」

 マユはそう言いながら闇に姿を消す。




 自宅に着く琉嬉。

さっさと家の中に入って暖まりたい気分だ。

夜中の気温は氷点下10度以下。

とても寒い。

「うー、寒い寒い…鞍光って冷え過ぎだろう…。あっちに居た時はこんなにならなかったような…」

 素早く靴を脱いで、一旦居間へと向かう。

「ただー」

「おぅ。おかえり。琉嬉」

 居間のソファで寛いでいる派手な髪の色。

居間にいたのは來魅だけだった。

普段なら母親の嶺珠が大抵いる。

「あれ、うちの親達は?」

「んー。出かけたぞ。二人でご飯食べに行くとかなんとか。らぶらぶってやつだな」

「……えー…。僕達の晩飯は…?」

「自分で作れって事じゃないか?」

 対面キッチンの向かいにある、テーブルに目を向ける。

すると、白い紙が目に入った。

それを手に取りじっくり読む。

「…お出掛けしてくるからご飯は自分達でお願いねー。だとさ」

「まあまあ、いいじゃないか。たまには自分達で作るってのもいいかもしれないぞ」

「……料理か。どうすればいいのかあんまり分からないんだよな」

 得意ではないという。

とはいえ、何かやればそれなりに出来る琉嬉。

冷蔵庫を開けていろいろ調べる。

「…何かしら揃ってはいるっぽいな」

「のう、悠飛のやつは料理できないのか?」

「……たまに何か作ってるような気もしないでもないな…。お寺にいた時いろいろ手伝ってたっぽいし」

「ほぅー。悠飛の方が女の子らしい一面あるじゃないのか」

「それはどちらにとっても失礼な話だよっ」

 チラっと、時計を見る。

午後の6時を針が示している。

「腹減ったなー。琉嬉が作る気ないのなら、私が作るとしよう」

「ちょ、ちょっと待て!お前作れるのか?」

「ん?料理か?さっぱり作ったことないのう」

「…封印される前どうしてたの?お前…」

「んー、それはまあ、貢いでくれるヤツもいれば、勝手にご馳走になってたり、金がある時はちゃんと金払って食べてたぞ」

「…ああ、そう……。意外と律儀な妖怪だなお前…」

 ちっちゃい二人の料理が始まる。


「ただいまー…って…。ん!?」

 悠飛が帰宅する。

珍しく帰る時間が遅くなった。

元々、琉嬉より通ってる学校が遠いのでどっちみち遅いのだが。

この日は従兄妹の双子姉妹とごちゃごちゃしてたせいでもある。

帰ってくるなり家中の異変に気づく。

怪しい煙が立ち上っているのだから。

「……な、なななな、何してんの!?」

 猛ダッシュでキッチンへ向かう。

「あ、悠飛」

「おお、おかえり。見てのとーり、料理をしてるんだが…琉嬉のやつがな」

「お前が火を全開にするからだろー!」

 フライパンから立ち込める怪しい煙。

肉を焼いたつもりが焦げすぎてえらい事になっている。

「ちょっと…窓開けて換気して!」

 備え付けてある換気扇も全部が全部の煙を処理できるレベルじゃないほどに煙が蔓延している。

「…火事でも起こす気かっ!!二人とも!!冬は火事が多くなるんだから…まったく……。まあ、いざとなれば私の冷気で……って、

火事になってからじゃ遅ーイッッ!!」

「ひいっごめんなさい!」

 悠飛の凄まじい剣幕に二人は驚いて、同時に謝る。

普段クールな悠飛もさすがにご立腹になるのだった。


 悠飛が結局メインとなり、作り直す。

琉嬉が単身やれば良かったものの、來魅が余計な事をしだしたので料理がうまくいかなかったと琉嬉の弁明。

來魅もそれに反論している。

いつもの光景となっているので悠飛も別段止めるつもりもない。

否、止めないでお互い反省出来るようにするつもりでいる。

二人とも見た目は子供でも、住んでる所を破壊するくらいのバカでもない。

なんだかんだで、本当に家族みたいになっている。


 だが、悠飛はそこでハッと気づく。

(…來魅……いつまでここにいるつもりなんだろ…?)

 來魅の気まぐれ次第…といったところか。



 結局ほとんど悠飛が料理を作った。

簡単ではあるが、生姜焼きや、味噌汁、サラダ類。

質素にも思える。

琉嬉と來魅がある程度の材料を焦がしてしまったからだ。

焦がした物も勿体ないという事で琉嬉と來魅が我慢して食べていた。

「まったく…私も、そんなに得意じゃないんだから…」

 ブツクサ言いながらも作ってくれた悠飛。

少しザックリした作りだが、琉嬉と來魅が作るよりはマシ。

「あのさ」

 唐突に琉嬉が何かに気づく。

「何?」

「…ご飯って、炊いたっけ?」

「え?炊いてないの…?」

「炊飯器とやらには何も入ってないのう」

「……」

「……」

 つまり……、

「おいー!!ご飯忘れてたじゃんかよー!」

 すっかり白飯の事を忘れてたようだ。

「…てっきりそっちは作ってたのかと…」

 悠飛も肝心な事を気にしてなかった。

「…じゃぱーんの飯は白い米ないといけないと決まっておろう!」

「……変な言葉使いするな…はぁ」

 結局の結局、炊くのはさすがに面倒なので臨時的に使うパックの白飯を食べる事にした。



 なんやかんやでお腹がふくれたのは午後8時を回っていた。

それでも腹がふくれればさっきの妬み合いは終わり、二人仲良く居間でゲームやってる始末。

さすがに呆れ返る悠飛。

そんな中、両親が帰ってくる。

「ただいまー…って、なんかコゲ臭くないかい?」

 導が早速異変に気づく。

「あらあらまあ。本当ね。何かあったの?」

 悠飛が二人の方を見る。

案の定二人は言うなと言わんばかりにシーッシーッと人差し指たててやっている。

はぁー、と大きくため息つく。

「母さん。実はね…」

「わーっ!言うなーッッ!!」

 ヒラリと悠飛は二人のタックルを避ける。

そのまま二人は冷蔵庫に激突する。

「うぎゅう」

「ダーメ。二人にはちゃんと反省してもらいます。母さんの説教で」

「…何があったの?」

「うっ…」

 嶺珠の明らかな、笑顔の向こうの怒りが琉嬉にも伝わった。


 事実確認を悠飛は嶺珠に話す。

どっちにしろ、焦げたフライパンや食べれなくなった食物だったもの。

隠し切れない訳である。

その後二人はみっちり一時間程度、嶺珠の優しい言い方なのに内容は厳しいお説教をくらったのだった。


「やれやれ。僕達が二人で出かけたのがいけなかったのかな。

少しは女の子らしく料理でも出来るのかと思ったけど…そうでもなかったみたいだね」

「姉ちゃんのやつ、連絡聞いてないというか、連絡メールみてないんだ。來魅も來魅だけどね」

 導も実際料理が出来る。

琉嬉としばらく二人で暮らしてた時も料理をしてた。

だが、導と嶺珠の二人がいなくなった事により、こういった悲劇が起きたようだ。

「なるほどねえ。まったく何のための連絡手段の携帯なんだかだよね」

(あんたもあんただよ…まったく怒らない親父…)

 どこかしらズレてる父親に少し不満持つ。

(…まったく。本当に血が繋がってるのかっていうくら性格似なかったな)

 とはいえ、どことなくそこがいいとも思ってしまう。

「母さんも母さんだよ。普段温厚なのが爆発すると怖い怖い」

 悠飛の横目には琉嬉と來魅がじっくり説教をくらっている。

とばっちりを受けないうちに自分の部屋へ逃げ込むのだった。



「ぷ~っ」

 可愛らしく琉嬉がむくれる。

「はぁ、疲れた疲れた。嶺珠もあんなにニコヤカに説教せんでもいいのにな。琉嬉もむくれるな」

 ふくらましたほっぺをつっつく來魅。

「うっさい。お前が悪いからだろ」

「……お前様もなかなか負けを認めんやつだな…。女にしとくのがもったいないくらいだな。男だったら重宝されるだろうその性格」

「うっさい」

 ブツブツ文句言いながらもゲームをつける。

さすがにこれ以上言い合う事もなくゲームに集中する。

唐突に部屋の戸付近から声がする。

「…終わったの?」

 琉嬉の部屋を覗き込む悠飛だった。

「ああ、終わったぞ。あんな変わった説教は初めてだ」

「…それ以前に來魅に説教した人っているの?」

「ああ、いるぞ。阮醐とかっていうデカブツ坊主がな」

「…へぇ」

「そういえば雪降ってから会ってないな。今度会いに行くかな」

「それはそうと…姉ちゃん結構凹んでますな~」

 さっきから一言も発してない琉嬉。

黙々とゲームをやっている。

「そうか?いつもの一緒な気もするが」

「フフ。來魅。まだまだ甘いね。不機嫌なんだよ、あの状態は」

「ほうぅ。さすが姉妹。似てないけどな」

 ジロっと、いつも以上のジト目で悠飛と來魅をにらむ琉嬉。

何か言いたそうだ。

悠飛はこう説明する。

「…母さんの説教久々に喰らったからね。転校する前の時以来だ」

「てんこう?前も何かあったのか?」

「まあね。ほら、姉ちゃんって気性荒いから」

「うっさい。言うな」

「はいはい」

 実は昼間に琉嬉自身が柚羽にちょっとだけ話した出来事。

転校する前の学校での事件の時にも母親からの説教を受けた。

滅多にない事だけに、今回も嶺珠はそれなりに頭にきたらしい。

今回はおとなしく琉嬉も反省する。

「あ、そうだ。姉ちゃん」

「…なに?」

「私も、莉音と紫音も鞍光高校に願書出すから。よろしく」

「…ああ、そう…(こりゃ来年は来年でうるさそうだ)」

「がんしょ?なんだそれは?」

 不思議そうに質問する來魅。


「高等学校という種類の学校に行くために出す書類みたいなもんだよ。

それを出して入試っていう試験を受けて合格したら、その学校に通えるようになるのさ」

「ほぅ~。てことは琉嬉もちゃんと合格してるってことか」

「…馬鹿にするな。こうみえても成績はそこそこいいんだ」

 と、自慢げの琉嬉。

ゲームばっかりじゃないぞ、と言わんばかり。

やる事はやるタイプなのだ。

少しずつ、次の年度に向けて進んでいく。

不安も混じりながらもわくわくするような期待感もある。

「ほれほれ、琉嬉。もう夜遅いぞ。寝ないのか?」

「んあ?」

 時計を見ると12時を回りそうだった。

「…そうだな…。今日なんか疲れたから寝るかな」

「そだね」

「そうそう。それがいいそれがいい」

「…お前、ただ、ゲームとかを夜通しやりたいだけだろ」

「ふふーん。バレたー?」

 舌をペロっと出す來魅。

「……まったく…。妖怪らしさも子供らしさもないな…」

「うむ。なんとでも言えっ。つか、子供じゃないわっ!」

「はいはい。寝る」

「おやすみ」

 悠飛は部屋から出て自室へ戻る。

來魅はここぞとばかりに、琉嬉と変わりゲームを始める。

最近のハマり事はゲームのようだ。

「……ふに」

「ん?」

 琉嬉が寝ようとした時、ほっぺに何か当たるのを感じた。

目を開けると、來魅が触っていた。

「…何してんの?」

「いや、柔らかいなーって」

「…………??意味が分からない…」

「フフフ」

 どうしても、何か構って欲しいそうだ。

自分で寝ろと言っといて矛盾する行動。

気まぐれ過ぎてもう怒る気もない琉嬉。

「あー、うるさいなー。ひと勝負だけだよ」

「おう」



 かくして、ドキドキな三学期、琉嬉の二年生最後の学校生活が始まるのだった。


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