#52 鬼滝村の旋律(メロディ)・後編
体が凍てつくように冷える。
何も考えないように走る。
そうしてるつもりだった。
神楽御琴は、何も見ないように駆け抜けていた。
大量の霊達から逃れるために。
もう少しで広場に出そうな時、一瞬凄まじい霊気のような光が駆け巡った。
「これは…?!」
その一瞬の光が収まり、暗闇がまた覆う。
静寂がまた訪れると、何事もなかったかのように霊達も姿を消した。
シーンとなる。
転んだような体勢を立て直し立ち上がる。
「……な、なんだったんだ…?」
御琴は事態が収まった周囲でも警戒を解かずに進む。
そのまま、3、400m程だろうか?結構な距離を歩く。
そして開けた場所へやっと出る。
一台の車を発見。
それは御琴達が乗ってきた車だ。
「お、みこっちゃん。お帰り」
出迎えたのは護と正木さんだった。
「あの…他の人達は?」
「ん?さぁ。でもそろそろ戻ってくると思うけどね」
チラっと正木さんの方も見る。
先程とはちょっと雰囲気が違うような。
どこか満足気のような表情をしてるようにも見える。
でもいつもの平静を保ったような表情でもある。
「…それにしても…ここヤバイですよね…」
「うん。そうね。みゆも本当好きだよね。こういう所」
「…ですね」
その肝心のみゆと琉嬉はゆっくり歩いていた。
道なき道を行く。
時折積もってる雪の中を掻き分けながら。
靴に雪が入ったりしてぐちゃぐちゃ状態。
冷たさに耐えながら進んでいく。
「ふぅ…。この力は、霊力だけじゃなく体力を奪うもんだな…ヘトヘトだよ」
「だいじょーぶですか?琉嬉先輩」
「なんとかね…。しっかし…みゆ。なんでこんな所に来たの?」
「ん?えー、それは楽しそうだからっ」
「…どうせお前のコトだから、何か企んでたんだろう?」
「ヘヘヘー、解かります?」
「一年近くも一緒にいれば性格なんて分かってくるよ」
歩きながらみゆは琉嬉に説明する。
「企んでるって事は特にないですよ。ただただ、自分の趣味にみんな付き合わせただけ…かな、今回は」
「…本当か?」
「なんていうか…、この場所の存在を知った時、うちのじい様に聞いたんですけどね」
「じい様ねぇ…会った事ないけど」
「一瞬で人がいなくなった…何者かに殺された、とか言われてる村だけど」
「だけど?」
「大体40年も昔の話…と、言ってもそう遠くない話だよ?実際。じい様くらい60歳以上の人間からにしたら
20代やそこらの話だから、こんな強烈な話は、覚えてるみたいで」
「…みゆのじいちゃんが真相知ってた…と?」
「まぁ…そうですね」
みゆの祖父が何やら知ってるという事。
関係者ではないが、みゆの家もそういった不可思議な事件などを取り扱う、裏家業。
祖父の代も当然ながらこういった事をやっているので裏の情報は知り得ていると、みゆは話す。
「なるほどね。うちの爺は知ってんのかな…この「鬼滝村」のコト…」
「知らない事はないと思いますよ」
「…で、真相は、分かるの?」
「真相は…ズバリ!」
「すばり…?」
「妖怪の仕業!!」
「ほう」
「というのが一番の説!」
「説かよ」
淡々と冷静にツッコミを入れていく琉嬉。
みゆの無駄なテンションを流すのもおてのものとなっていた。
車には次々とメンバーが合流していた。
まだ戻って来ないのは琉嬉とみゆだけ。
だが、まだ戻ってくる気配はない。
こちらはこちらで事件の真相や、大量の霊達がまだ存在する理由を推理していた。
「まぁ~、たしかにそうやな」
「そもそも、小さな集落としても、相当な人数居る筈です。それが一気に居なくなって霊として居続けるのは…とても…悲しい事ですよね」
柚羽が悲しそうな顔する。
何かの念を受信してるのだろうか。
体が少し震えている。
柚羽に小さい体を支えるようにする叉羅沙。
「ん。ま、何があったのか知らないけど、このまま見過ごして帰るってのは…「霊能者」としてないよね?」
皮肉込めたように言う護。
「そ、そうですよね…でも僕には何も出来る力はないけど…」
「ここは、やっぱり頼りになる…ふかしぎ部の部長に何か聞いてみる?戻って来たらだけど」
「エースがそう言うのなら」
「エース?」
「護はんの事やな」
「やめて」
両手で顔を覆ってそっぽ向く。
ふかしぎ部の頼りになる部長。
つまり、琉嬉の事だ。
「…ねえ。みゆ」
「ん?なんですかい?」
しばらく歩いてる途中に琉嬉から喋りかける。
「お前、まだ真相というか、まだ隠してるの言ってないだろ」
「おういえい。わかりますか?」
舌を出して頭を掻くポーズ。
なんとも、古くさい仕草だ。
「…妖怪の仕業だとかなんとか言って…。裏の裏の裏あるだろ。あ、裏の裏の裏は結局裏か。
ん?なんか訳わかんなくなっちゃった」
自分で言ってて意味不明になる。
「…ふひひ。バレちゃあ仕方ない。いいでしょう。我が使命」
「何言ってんだ…」
歩みを止めるみゆ。
それにつられて、琉嬉も歩くのを止める。
その瞬間、冷たい空気がより一層肌に感じるのが分かる。
「実はさ、うちの親が以前ココに訪れてるんだよね」
「……そんなこっちゃだろうと思ったよ。で?それで?」
「20年前程に来た事があるらしく、一度浄霊を試みようとした事があるらしくって、来たんだけど」
「だけど?」
肝心な部分を言わず、喋るのを止める。
琉嬉はもしや…みたいな事を頭の中によぎる。
「ま、大きな妖怪が住み付いててそいつを倒すのに精一杯だったらしくて、それ以来ここに来てないらしいですね」
「…ああ、そう…そう」
自分の予想とは違う答えにホっとしたような複雑な気分の琉嬉。
「…なあ、お前の家柄ってなんだ?道士だかって言ってたけど」
「中国からのルーツがある日本ではあまり浸透してないマニアックな霊術式…かな?」
「中国ねえ…歴史はありそうだけど」
「ま、御祓い業務を慣わししてるから、こういう霊達を鎮める仕事してるんですよ。親が出来なかった事をここでやろうと思って」
「…それならそうと言えばいいのに。説明もなしに旅行気分で行くからこんなバラバラになるんだよ。まったく…回りくどい…」
「ふひひー」
「ふひひじゃねえよ…」
面と向かって言うのも気恥ずかしい。
みゆなりの気難しい部分。
本人なりの照れ隠し…なのかもしれない。
琉嬉は口にせずともなんとなく察する…気持ちでいる。
「でもね、ここは想像以上でしたよ。これは簡単にしてくれない」
「そうだね。何か考えでもあるの?」
「手がかりはありますよー。あ、琉嬉先輩。さっき裏の裏の裏って言ったしょ?」
「は?」
「結局はループして元に戻ったと思ったら結果は違ったーみたいな?」
「はぁー?」
言ってる意味が琉嬉にも解からない。
みゆの言う事。
意味不明にしても意味がちゃんとある。
それは過去に立証済み。
無言で琉嬉は首を軽く振って、黙って付いて行く。
周囲を警戒しながら、待機しているメンバー達。
寒いながらも、外で警戒待機している叉羅沙と柚羽。
白い息が段々虚しく見えてくる。
柚羽が何かの気配に気づく。
「あ、先輩達です」
「にゃー、ゆずたーんただいまー」
「わっ、ちょっと…」
勢いよく柚羽に抱き着くみゆ。
「あら、お帰り」
ゆっくりとやってくる叉羅沙。
「…相変わらずのん気な感じ出すなぁ…叉羅沙」
「それが取り柄やからねえ。んで、さっきの一瞬の光は…例の力?」
「まぁね~。さて、どうしたものか…」
「…何かあったん?」
琉嬉が何か理解したかのような表情。
叉羅沙にはまったくよく分からない様子。
でも琉嬉なら…と考えると、自分からは特に動こうとしないと決めた。
みんなのいる前ではみゆは自分の事は一切語らない。
うまく誤魔化しのきいた話術でこの辺一体の苦しんでるであろう霊を鎮めようと。
とだけしか言わなかった。
ただただ、自分の興味のある廃墟というノスタルジーに浸る理由もあるのだが。
「で、どうするの?」
口を開いたのは琉嬉だった。
「んー、どうするったってね~。この数じゃぁねえ」
一時的に琉嬉の真霊気で辺りを一層した。
しかし、今はまた状況が戻りつつある。
「祓うってのも…気が乗らないしな」
「かといってこの状況みたまま帰るってのも納得いかないしなぁ」
「…みゆの考えは?さっきから何も言ってないけど」
「………うーん」
肝心のみゆさえも何も言い出せない状況。
どうにかしたいのはやまやまではあるが、現状が現状だけに、かなりの問題。
琉嬉はそっとみゆに近づき耳打ちする。
(なあ、みゆ。お前の親が妖怪倒したって言ってたよな?その妖怪って…どんな風に倒されたんだ?)
(んー、さあー。どうだったかなー)
(…倒した術者の子供なのに…頼りがいないなあ…)
(あ、じゃあこうしましょ!その妖怪を倒した場所へ行くってのは)
(…そんな場所あるのか?っていうか、分かるの?)
コソコソと喋る二人。
そして…
「じゃーんっ。この写真がその場所でありますっ」
「…慰霊碑…?」
写真にはよくある慰霊碑のようだった。
「この慰霊碑がどうしたの?」
「ここに行けば何か分かるかもしれんね~」
気楽に言うみゆ。
半ば呆れる琉嬉。
その様子を呆然と、見てた他のメンバーも何が何だか分からないといった状態。
なすがまま、みゆについて行くしかなかった。
琉嬉の広域に放った弱い真霊気によって霊の出現が抑えられている。
すんなりと行動が出来る状態だ。
さっきまであった不気味な雰囲気も、なんとなく収まっている感じもする。
とはいえ、真霊気の微量な力だけではいずれ元に戻るだろう。
どっちにしろ、早めになんとかしなければいけない。
写真を頼りに進んで行くみゆ達。
「ねえ、こんだけのすぐ辿り着けるの?」
心配になってくる琉嬉。
「おっけーおっけー、まだ慌てるような時間じゃない」
「いや、ちょっと何言ってるか分からない」
「お二人さん、コントはいいから」
妙に息の合った琉嬉とみゆのボケっぷりにツッコミを入れざるを得ない護。
「…なんやこのトリオ…。緊張感ないなぁ」
「そこがふかしぎ部らしくていいところですよ」
フォロー?をいれる柚羽。
この中では出会って一番日が浅い割にはすっかり信頼を得てるようだ。
村の少し外れた広場。
そこに出た面々。
少ないとはいえ、雪が一面に広がってる。
と言っても靴でも歩いて進んでいける。
「ここら辺だと思うんだけどなぁ~」
キョロキョロ見回すが慰霊碑らしき物もない。
「ねえ、その慰霊碑が何かあるの?」
「うーん。それはー、うちが出資した慰霊碑でもあるんですよね」
唐突に言うみゆ。
「…へ?」
琉嬉らが目が点になる。
「ほらほら、昔うちの親が来たって言ったしょ?まあ、うちの親もその親も立派な道士様であって…。
あ、いわゆる霊能者ってやつ?裏の世界ではそこそこ有名でさ」
「いや、それは分かるけど…」
「妖怪を退治して、犠牲になった人を慰霊するために、うちの財力を出して建てた…って話なんだけど…見当たらないなぁ」
さらに見回すみゆ。
あちこち走っては見渡すがそれらしきものはまったく見えない。
「……お前の家って…なんか凄いな」
琉嬉の家も代々伝わる優秀な霊術者の一族だが、みゆの家系も中々どうして。
いろんな地域で何かと役に立ってたようだ。
「さて…どうしようか…」
さすがのみゆも困り果てる。
「お嬢様。これを」
正木さんが出したのは、一個のスコップ。
雪国には欠かせない道具である。
「えー、と。それをどうしろと?」
さすがのみゆも気づいてながら敢えて、問う。
「掘ってみるんです」
「……なるほどー」
わざとらしく手をぽんっと叩いて納得する。
「…お前、言いだしっぺなんだから自分で掘れよ」
「あの~。交代の人はいないの?」
一所懸命そこら一体の雪を掘り返す。
「ここは、リーダーが最初じゃない?」
「そうだよね」
「…がんばりぃ」
「頑張ってね。みゆちゃん」
「ファイトーです」
「もうひと踏ん張りです。お嬢様」
全員代わろうとしてない。
正木さんもだ。
「…普通、ここはメイドがやるべきじゃないの…?」
「まあまあ、難い事言わないで。頑張ってね」
「うー、みこっちゃん…覚えてろ~」
そうしてる間に琉嬉のスマホに着信が入る。
しかも電話番号じゃなく、連絡用アプリでの無料通話だ。
こんな器用な連絡の仕方をしてくると言えば…。
「誰だ…?ってPCからか…。つまり…」
とりあえず通話に出る。
すると案の定聞き覚えのある声だった。
『おぅ!琉嬉かっ!ロリロリで可愛い來魅だぞ~』
「…お前、意味分かってて言ってるのか…?」
露骨に嫌そうに言う琉嬉。
『それはそうと、電波がある場所なんだな。良かった良かった』
「で、用件は何?」
『いや、なに。お前様がいる「鬼滝村」についてネットでいろいろ調べてな。お前の祖父にも話聞いてみた』
「……どんどん情報通になってきたなお前…。まあいいや、で、どういう情報?」
『大した事ないんだけどな。聞いて損はないと思うぞ』
來魅の話した内容はこうだった。
以前慰霊碑があったが、何者かに倒されたという事。
それまではその情報までが噂までしかなかったらしいという、ネットでのよくある話の類だ。
だが、話には続きがあり、昔はそうでもなかったが最近になって鬼滝村での幽霊目撃談が多くなったという事。
この村を訪れた物が事故に遭っただの、なんだの、最近になっての話が極端に多くなっているという。
書き込みなど丹念に調べた結果、ここ数年の書き込みが多いという。
その後、琉嬉の祖父の炎良にも話を聞いてみたと來魅は話を続けた。
詳しくは不明らしいが、港咲家が昔慰霊のために訪れてるとかなんとかという、曖昧な事だけは知っていたらしいと。
なんだかんだ同じ五大家の家系であるため、ちょっとした情報でも入ってはいたようだった。
「…なーるほどね…。ここの霊やその念が酷く強いのも、その慰霊碑が関係してるのかな…?」
納得する琉嬉。
「だから、港咲さんは慰霊碑を探してるんですね」
柚羽も尊敬のまなざしをする。
「あははー、まあ、さっき気づいただけなんだけどネ」
「…え?たまたま気づいた事って事…?みゆちゃん?」
「そだね」
御琴と柚羽は項垂れる様になぜか肩を落とす。
(ま~た、照れ隠しな事言いやがって…)
琉嬉はジト目でみゆを見たまま通話を続ける。
「ま、來魅、ありがとさん。何も理由ないままこんな事やっても僕らも面白くないしね」
『おう。ま、頑張るといいさ』
通話を終える。
スマホをポケットに入れて、服装を整える。
「電話の相手はあのちびっこ妖怪やったん?」
「そだよ。本当は付いて行きたかったのかもしれないけどね」
「…見た目と同じように子供っぽい所あるんやな」
「ま、たしかにね。妹のようでもあり、頼れる姉のようでもあるし…って、そういう話してる時じゃないだろ」
「ハハ、そうどすな」
まわりがあれこれ言ってるうちにみゆのスコップが何かをみつける。
ガツンっと音をたてる。
「おー、何か発見~」
ぶつけてしまったが、どうやら何かの物体を発見したようだった。
「おー。みゆ。何か出て来たよ。ほら、もう一頑張り!」
「まもちゃん先輩も手伝ってくださいよ~」
「あたしは応援係。ふれーふれー、み・ゆ・ちゃ・ん!」
ヘンテコな踊りで応援する。
ゴワゴワしたジャンバー着てるせいで余計に滑稽に見える。
「あはは、護はんおもろいわ~」
柚羽達もクスクス笑っている。
「え?あたしなんか変な事してる?」
「場が和むからいいんじゃない?」
いつになく冷静な琉嬉だった。
見えて来たのは岩にしては綺麗に形作られている。
文字が書いてあるのを確認。
どうやら慰霊碑に間違いないようだ。
結局他の者も手伝う事に。
「あちゃー、ごめんなさい、慰霊碑さん。ぶつけちゃった」
「まあまあ、助けてるようなもんだから怒らないって」
琉嬉も手袋はめた手で雪を掻き分け掘り起こす。
次々に他のみんなも助けるように掘り起し作業を進めていく。
なんとか掘り起こしてみるが、見事に倒れたままの慰霊碑が出てくる。
大体、3、4mくらいだろうか。
そこまでは大きくないが、一般的な墓石よりはかなり大きめ。
「これはひどいねぇ。誰か倒したんだろうか?」
「数人がかりじゃないと普通の人間は倒せないと思うけどね」
「じゃあ熊か何かが?」
「アホ。熊が慰霊碑に興味向ける訳ないだろ」
「そか~」
「じゃあ狐が?」
「狐がそんなパワーあるかよ。來魅なら出来ると思うけどさ」
「えー。じゃあ鹿?」
「鹿もするとは思えない」
「狸さん?」
「だから狐と同じでそんなパワーないだろ。銀杏なら出来ると思うけどさ」
「じゃ、じゃあ、猪?」
「猪なんかいないだろここに」
などとバカバカしいやり取りが続く。
「普通に考えたらどこぞの人間の阿呆が倒したと思うけど…」
叉羅沙の言う事がもっともである。
「しっかしまあ…こうも見事に倒されたうえ、放置されたまま雪に埋もれてるなんて…そりゃ霊達も鎮まらないよ」
「だね~」
琉嬉達はどうにかして直したいと思い、動かそうとする。
しかしあまりの重さのため、なかなか作業が進行しなかった。
「ここは国かなんかに言って直してもらうのが得策じゃないの?」
クタクタになりながら提案をする御琴。
「そうだなー。ここはクレーンとかないと無理じゃない?」
琉嬉もお手上げと言った感じだった。
「これを持ち上げるとなると…厳しいか~。叉羅沙…でっかいんだからもっと力あるでしょ?」
「そないな無茶言わんでください」
「ですよねー」
「仕方ないね~」
護がおもむろに前へ出てくる。
「叉羅沙、フォローよろしく」
「え、なんでウチ?」
「いいから」
そうすると、護は何か集中するように動きをじっと止める。
「…護もしかして」
琉嬉は護が何かしようとすることに気づく。
「バランス保ちたいから…お願いね」
凄まじい霊気が護の体から発するのが全員分かった。
霊気と交じり合う別の力。
護の瞳の色が赤く変色する。
妖怪の力を解放したようだ。
「いっくよ~!!」
気合いの一言。
そして一気に倒れた慰霊碑を持ち上げる。
持ち上げた瞬間、叉羅沙やみゆらが一緒に慰霊碑を一緒に持ち運び、元にあったであろう場所になんとか戻す。
「おお、凄い」
「おー」
出遅れた琉嬉と柚羽。
二人は呆然と見てた。
護の瞳の色が通常に戻り、落ち着く。
「え?何何?今の?護ちゃん!」
みゆが驚く。
護の妖怪の力を詳しく知らないのだった。
「いやー、ちょっと…ネ…」
あまり語りたくない力でもある。
「それよりホラホラ、ちゃんと元に戻ったよ!」
どさくさに紛れてうまく誤魔化す護。
残念がるみゆ。
そのみゆの腰あたりにぽんっと平手で叩く琉嬉。
「そのうち自分から話してくれるって。今は慰霊碑」
「あ、ああ、そうでしたね」
この慰霊碑は港咲家の財力や、霊術の元で作られたものである。
そしてこの場所が特殊な陣形を作っており、より強い力を作り出しているという。
悲惨な事件を鎮めるためにこうした計らいがあったというのだ。
その中心の役割をしていた慰霊碑が倒れたため、力の均衡が崩れて再び霊が呼び起こされた形になったのかもしれないと、みゆは言う。
こういう場所は関係ない浮遊霊なども呼び寄せてしまうため、早めに手を打ちたかったようである。
「そういうこ・と・を!先に言え!まったく…」
琉嬉が怒るのも無理もない。
「ふへへーごめんよ」
「…ま、まあ、旅行代とかほとんど出してもらってるんだし…うむむむ」
あまり強く文句が言えないも事実だった。
「さて、…始めますか~。次こそはわたしの番ですね」
みゆのいつも探索や悪霊退治に使っている黒い鞄の中から何かを出す。
経文のような物とお札が三枚ほど。
それと細長い、刃渡り40cm程の短い剣。
「うまく出来なかったら、琉嬉先輩、柚羽ちんよろしく」
「…え?」
「な、なぜ私!?」
「まあ、ええやんか。こういう術が得意なのはアンタ達やろ」
回りを見るとぐっと親指を立てた護。
御琴も正木さんも頑張って欲しそうな顔をしていた。
「…もー。失敗すんなよ、みゆ」
「おっけーおけー」
「…緊張感も臨場感もないやつだな」
もしかしたら、霊感ない者すらも感じるかもしれない。
それ程、強力な術が発動していた。
みゆ自身の最大の、術。
鬼滝村一体が大きな結界化とする。
それまで感じていた、邪悪な霊気がなくなっていったのが全員が感じた。
(うおっ、みゆのやつ…こんな力持ってたのか……)
メンバー1の霊力を持つ琉嬉も驚く程。
「くぅ……!」
肝心のみゆが何やら苦痛にも似た声を出す。
自らの放つ術に耐え切れない程だ。
「まったく…何から何まで世話のやける女だねっ」
「ふふ、そうですね」
琉嬉と柚羽がフォローにまわる。
この強力な霊力を持つ二人も力に加わる事により、さらなる力が増してゆく。
「うっひゃぁ~、すっご…」
「お嬢様…ッ!」
やがて力が安定していく。
まばゆい光が慰霊碑の置いてある場所を中心に辺りを照らしている。
いや、照らしてるというより、まるで真昼のような明かりを放っている。
「凄まじいって…まさにこういう時のための言葉やな」
「でも…心地よい感じがします…」
言葉にはしないが、脳裏にこの村の以前の姿が浮かんでいた。
平和だった頃の。
「鬼滝村」が、存在してた時の――。
村の念が流れ込んでいる。
おそらく、最後の。
しばらくこの暖かさを持つ光は続いた。
綺麗な緑。
見渡す限りの山々。
鳥や虫の鳴き声。
川の音。
時折走る車。
人々の歩いている姿。
鮮明に見える綺麗な風景。
村の在りし日の姿が、見える。
(なるほど……そういう事か)
琉嬉の脳裏に浮かぶ光景。
いや、目の前に視えている光景。
これは……念の一種なのだろうか。
(暖かいな……)
太陽の光にも似たような、暖かさ。
それが心地良い。
(本当に見せたいのは……この姿なんだね)
強烈な念の正体。
それは――これだった。
そう言いたい琉嬉。
暖かい光に包まれて、しばし村の風景を眺めていた。
「う~っ、寒っ寒っ。さっさと帰りませんかね?」
ブルブル震えながら護は弱音をはいている。
「まーたまたー。一番脂肪ついてるくせにー」
みゆが茶化す。
「んな、それは私が太ってるってコト?!自分では細いとは思ってるんだけどねっ。こう、筋肉もほどよくついて引き締まった感というか…」
「…多分胸の事でも言ったんでしょ?」
琉嬉にはみゆの言った事が理解出来てた。
「さてさて、ではみなのもの、旅館に戻りましょうか~」
「賛成~」
そして次々と車に乗り込む。
「では出発します」
「おっけー」
こうして、鬼滝村跡地を離れる。
戦う事はなかったが、思いがけない霊力を使い、疲労感がなくせない琉嬉。
そして柚羽も先程の術の援護で疲労していた。
「あかんわぁ。ウチ今回ほとんどなんもしてへんなあ。もっとこう、琉嬉はんみたいな術使えるように鍛錬せんとあかんかな」
自分の未熟ぶりに反省する叉羅沙。
そしてもっと何もしてない御琴。
表には出さないが、男として情けない…と心の中ではつぶやいていた。
「…はぁー、あたしゃなんであんな事に妖怪の力使ったんだろね…」
「まぁまぁ、いいんじゃないの。しかし、その力凄いね。あんな重い物とか持てるようになるんだ。益々人間離れするね」
「うるさーい。好きでこういう力持ったんじゃないんだから…。生きるためにネ…」
「……ま、その気持ちは分かるけどね。悠飛も似たようなもんだし」
「え?悠飛君が?」
「悠飛もそうだけど……」
琉嬉がさらに小さくぼそぼそと喋る。
「緋瑪斗もね」
「ヒメト?それって…」
「お前さんと同じ、後天性の半妖さ」
緋瑪斗。
半妖として生きる事を強いられた、普通の高校生。
だった、元少年。
現在は少女とでも言うべきか。
「一度会うといいかもしれないね…同じ境遇としての」
「…あたしはよく知らないんだけど、どういう子なの?」
「可愛いよ。愛想良くて、強くて」
「ふぅん…気になるね~」
「近々…緋瑪斗のためにも動かなきゃな…」
何かを抱えてる様子だ。
いろいろと大変な物事が舞い込んでいてある意味大変らしい。
(…いずれ、みんなに話す時があるのかな…悠飛。悠飛だけじゃなく、みゆや護。みんなの過去の事なんて、まだ全部知らない。
いずれ……知る事になるのかな…?)
鬼滝村。
かつて存在した村。
今は廃村として、地図上から姿を消した。
たかが、40年前の事件。
されど40年。
その完全な終焉を、みゆ達が決着をつけたと言ってもいい。
悲劇の村としてまだ人々の記憶に残っている。
今も、これからも。
そう思うと、みゆは切ない気持ちになっていた。
スー、スーと寝息みたいなのが聞こえる。
「…あら。みゆのやつ静かだなって思ったら寝てるじゃん」
「さっきのあの大掛かりの術使ったから…仕方ありませんよ」
「……そうだね」
「あー、そういえば。みゆの親って…健在な訳…?」
ふと、琉嬉がひとつの疑問を投げかける。
「ちょくちょくみゆの親が慰霊碑を建てただのなんだのって話」
「どうなんだろうね」
そこでずっと無言だった正木さんが口を開いた。
「お嬢様のご両親は今の家にはいません。事情により、ご一緒にお住まれていません」
「…ああ、そうなの。だから家行ったときも会わなかったんだ」
「ええ。大体お嬢様の祖父にあたる「海」(かい)様がいらっしゃいます」
「へぇー。でも僕らは会った事ないなぁ」
「慰霊碑建立したのも、海様のご意向です。そのお子様にあたるお嬢様の父親、陸常様もご同行されてたと話です」
「あ、そうなんだ…。みゆの親ねぇ…。さぞや忙しそうでもあるけど。うちと父親とは違うね」
「琉嬉ちゃんのお父さんって、実に普通っぽい人だもんね」
「見た目はね。子煩悩過ぎて少し迷惑だけど」
「ただ、お嬢様のご両親は少々、他の年代の方達の親より年代が高めなので…今はある程度引退なされて、仕切る立場にございます」
「へぇー、それは忙しそうだ…」
会社かなんかの経営なのか?
それとも稼業のなのか?
よく理解出来ないがなんだかんだ言ってみゆの家庭も大変そうだと、全員思う。
「そろそろ旅館に着きます」
話しているうちにあっという間に旅館へ辿り着く。
「おーい、みゆ、そろそろ起きろ~」
「ん…あー?おはようー」
「…まだ夜だけど」
いつまでもどこか幸せそうなみゆに車内は笑いに包まれる。
時刻は深夜の3時を回っていた。
それぞれのメンバーも疲れが見え始めていた。
翌朝…と言っても、既に午前の10時を回っていた。
戻ってきた時間が時間だけに、十分な睡眠がとれなかったのもある。
それでも元気なみゆや護。
逆に御琴や柚羽は眠たそうな顔をしている。
そしていつもにこやかな叉羅沙。
疲れたような顔はしていない。
なぜいつも余裕のありそうな笑顔なんだ…と。
正木さんもいつも通り。
琉嬉は…眠たそうな目つきが一層眠たそうな目をしていた。
「さてー。帰りますかー!」
「おー」
「そして、さらば、鬼滝村っ。またいつか!」
「時々来てやんなよ。それと、みゆ。お前の親とかも一度来るように言っとけ」
琉嬉が忠告する。
「そですね~。言っときます」
まるで鬼滝村の不気味な夜の場所にいた所から一転、清々しい朝。
「あー」
そこで護がある事に気づく。
「どうした?」
「…冬休みもそろそろ終わっちゃうよー。課題…やってない」
「OH…」
琉嬉も気づく。
みゆもニコニコの顔ながら、青ざめる。
「あらあら、そらあかんね。ウチはほとんど終わってるえ」
「叉羅沙~。持つべきものは友人だね」
「ちょ、護はん、抱き着かないで…」
そう、学生である琉嬉達。
冬休みの課題をまだ終えてない者がチラホラ。
帰ってもやる事がまだあるのだった。
学校の始業式の前日、琉嬉はみゆと会っていた。
というか、たまたま偶然、街中で遭遇しただけだが。
近くのファーストフード店へ一休み。
そんな他愛もない会話。
「……ねえ。みゆ。お前さ、「鬼滝村」に行った理由って、やっぱり自分の親、祖父のやってた事を引き継いだワケ?」
「引き継いだっというか、気になったというかさ。うーん…なんていうんだろ。よく分かりません」
そう言って三つ目のハンバーガーを口にする。
一体いくつ食べるんだというくらい、勢いよく。
手元にはまだ二つ残っている。
「…なんとなく気持ちが分からないでもないけどね」
「そうでふか~?」
「…祖先が残したこのが子孫が尻拭いするってかー。うちもそうだったな。來魅の件が一番だろうけど」
「あははー、大変ですね」
「で、他にもまだ何かあったりするの?」
ずずい、と身を乗り出して聞き出す。
みゆは相変わらずの笑顔。
「ぬひひ。それはー、まだ秘密でっさぁ」
なぜか江戸っ子ぽい口調。
「…お前は一番食えない女だよな。あの封印されてた鬼の件といい…。なんで僕を巻き込むの?」
「それはー、一番強くて信頼出来るからですから?」
あまりにもストレートな発言に琉嬉はキョトンとする。
「……よくそんなかっこいいセリフまじまじと言えますな」
「え?だめだでした?」
「…駄目じゃないけど。そういうセリフを女同士で言うってのもおかしな話だな」
「ふひひー。まあいいじゃないですか」
一息ついて注文してたハンバーガーを頬張る琉嬉。
「明日から学校だね~」
「三学期」
琉嬉の学校はいわゆる、普通の三学期制度だ。
翌日から新学期が始まる。
琉嬉にとっては二年生、最後の学期。
課題は終わらせても、まだまだ山積みな問題が残ってる。
それを如何にクリアしていくという悩みがある。
「…さーて、帰ろうかな」
ハンバーガーを食べ終えると早々に立ち上がる。
「え?もう帰っちゃうの?」
「明日から学校始まるし、今日は残りの時間は家でゆっくりしたいからね」
「そうー。残念ー」
「…どうせ明日また会うだろ。放課後に部室で」
「それもそーですね」
ありったけの笑顔になるみゆ。
女同士でありながら、少しドキッとする琉嬉。
(まったく……可愛い後輩なこった)
帰宅した琉嬉。
自室へ入ると、來魅がいつものようにパソコンに向かっている。
「ほんっと…ニート妖怪様だねお前さんは」
背負ってる鞄をどさっとベットに置く。
「んお、お前様か。ほれ、これ見ると良い」
「何?」
モニターに映ってるのは鬼滝村が在った場所の風景写真。
どこかの廃墟のサイトのようだ。
「これがどうかした?鬼滝村跡地じゃないのこれ?」
「綺麗な場所よのう。この廃屋達とのみすまっち具合が美しいじゃないか」
「ミスマッチ具合って…どこでそんな言葉覚えたんだ。
しかし…みゆと同じような事言ってるな…」
たしかに、画像を見ると綺麗な風景だ。
琉嬉は光の中の光景を思い出す。
その光景とは大分違う。
妙な違和感というのだろうか、もどかしい気持ち。
「はたして…あの光景を見たのは僕以外も見てたのか…」
「何の事だ?」
「うんにゃ。こっちの話」
「ほうか。今の日本はこういう所が増へてふほうだな」
ロールケーキを咥えながら喋る。
琉嬉はそれをスルーしながら、來魅の隣に無理矢理座る。
「過疎化……か。仕方ないよね」
「ほむ」
「慰霊碑を倒した馬鹿は今頃……どうなってんだろうね」
不気味な笑みを浮かべる琉嬉。
「おおぅ…いつになくだーくな琉嬉だな。そっちの方が似合うぞ」
「うるせっ」
ぷにっと來魅のほっぺを指でつつく。
人が去った鬼滝村。
いや、鬼滝村はもう存在しない。
慰霊碑がある広い空間。
狐がピョコンっと、顔を出す。
心なしか、春の兆しが見えるような、爽やかな風が吹き込んでいた。




