#51 鬼滝村の旋律(メロディ)・前編
銀杏が去ってから、一週間が経った。
冬休みも佳境に入ってくる頃。
琉嬉は休み期間中の課題などはほとんど終わらせていた。
と言っても、みなっちやゆう達、クラスメイトの答えを半分くらい聞いたりしてだが。
勉強よりもゲームの方が優先、という事で少しでも時間のロスをなくしたいために。
隣の部屋からは時折ポロンポロンとギターの音が聞こえてくる。
最近の悠飛は音楽にハマってるらしい。
前々から音楽CDなどで曲を聴いてる時間が多かった。
聴くだけではなく、楽器で弾く事にも手を出したようだ。
琉嬉はパソコンをいじるのをやめ、ボフッとベッドの布団に座る。
ふと窓をみると雪がチラホラ降っている。
「やまないなー」
一層積もるような気配がする。
こう雪が積もられては行動範囲が狭くなる。
仕方ないとえいば仕方ないのだが。
何気なく部屋を見回す。
布団に置いてあったスマホを見ると、着信を示す光が点滅している。
開けて見るとやはりといった表情する琉嬉。
メール着信はみゆからだった。
「……どうせろくでもない内容だろ……?」
こうやって何回も余計な事に巻き込まれる。
お決まりパターンだ。
「えー、何々、どうやら廃村があるらしいので、一緒に行こうー……だって?」
とてつもなく、嫌な予感がよぎる。
なぜか、デジャヴを感じる。
いや、デジャヴじゃない。
何度も同じようなコトがあった。
今回も同じような、内容のメールだった。
「……んー。暇だしな…」
そして、ちゃっかり断りきれないこの世話好きな性格。
どっちにしろ、みゆの方もほとんど無償で旅行など連れて行ってくれる。
少しお金にがめつい琉嬉はなんだか得な気がしてならなくなってくるのだ。
「よし。今からその話ノるかもしれないから、詳しく話を聞きたいから駅前の例のラーメン屋で待ち合わせ、と」
言葉に出しながらメールの返信をする。
電話でもいいと思いながらも、実際に会って聞いたほうが分かりやすいかもしれない。
そう思ってすぐ仕度して家を出て行く。
この日は來魅がどこか出かけてるようで、静かだった。
こうやって一人で街中に出てくるのもなんだか久しぶりな気がしていた。
世間はすっかり、正月気分から気持ちを入れ替えて普通の日々となっている。
琉嬉達が御用達のラーメン屋「とと」へ到着する。
「いらっしゃいませ~。おー?お嬢ちゃん今日は一人かい?」
「ども。ちょっと待ち合わせに…」
「そうかいそうかい」
すっかり店主と顔なじみになっている。
サービスは餃子がタダになる事くらい。
それはそれでおいしいものだが。
待ち合わせの時間に遅れる事もなく、みゆが入店してくる。
「おいーっす、琉嬉せんぱーい」
「…こういうのにはキッカリしてるのな」
「でだね、琉嬉くん。誰々を連れて行きましょか~?」
「……お前、ほんと、自分勝手な女だよな………」
「ほえ?」
頼んだラーメンを啜りながらみゆに対してのツッコミを忘れない琉嬉。
とやかくも、みゆが行きたい所の話を聞く。
「ね、ね、あたしがさー、こういう場所好きって知ってるでしょー?」
「ハイハイ。知ってますよ」
「こういう、ノスタルジー感がいいよね?」
「ハイハイ。いいですね」
「でねでね、ここっていろいろ残ってそうなんだよ」
「ハイハイ。残ってそうね」
「だからっ、我が心霊解決部は、この地図上から消えたこの廃村、「鬼滝村」(きだきむら)を探索するのだっ!」
「ハイハイ。この雪の中頑張ってね…、って、どこ?そこ」
「ん?南の方だよー。雪があまり積もらない所~」
「……前の町より遠い?」
「遠いね~。一泊になるかも」
「………分かった。行ってもいい。だけど、僕から条件一つあるけどいい?」
「ほへ?なーに?」
琉嬉はみゆに詰め寄るような姿勢になる。
そしてしばらく無言でみゆの目をみつめる。
さすがのみゆも少し緊張する。
「僕の条件は、ズバリ、「温泉」にも連れてって欲しいってコト!」
「お、おおう……?おけーおけーデース」
ビシっと、人差し指を意味もなくみゆに向けて自身満々に言う琉嬉。
その様子がなんだか可愛らしくも見える。
そんなこんなで、琉嬉やみゆ達はその今は無き、「鬼滝村」があったと所へ行くコトになったのだった…。
琉嬉とみゆの密かなラーメン屋トークから二日。
冬休みも残り一週間という時期にそれぞれ呼ばれたメンバーがみゆ宅に集まっていた。
時刻は午前10時程を時計の針が指していた。
「なんで…僕まで…?」
なんだか嫌そうに言う御琴。
護をはじめ、メンバーが今回は少し異色だった。
琉嬉、みゆ、護。
そして御琴、叉羅沙、柚羽。
今回はメイドの正木さん含む7人。
來魅は「廃墟なんぞ、大した興味ない」と一蹴し、悠飛も正直旅行はしばらくいいと、引きこもり宣言。
他のメンバーも事情があったりして来なかった。
そこで、半ば強制的に同じ学年で暇そうな、御琴と柚羽を連れてきたのだった。
渋々着いてきた柚羽と御琴だが、叉羅沙は暇だという事と、護も楽しそうだからという理由で来たのだ。
「今回は少ないね~。仕方ないか。ま、楽しみましょう~。正木さん、よろ~」
「かしこまりました。お嬢様」
「…正木さんもお嬢様のきまぐれに付き合って大変そうだねぇ」
「いえ、そんな事ありませんよ。お嬢様直々の従事してる訳ですし」
「さすがだ」
正木さんの真っ直ぐな仕事熱心な姿に関心する琉嬉ら。
正木さんが運転する10人まで乗れるようなワゴン型の車に乗り込む面々。
「僕は…一番後ろにしてもらおうかな」
「じゃ、私は琉嬉ちゃんの隣~」
護が琉嬉の後に続く。
一応一番の先輩になる二人。
誰も口出しする事もなくすんなり座り配置が決まっていく。
「今回はあのうるさい双子ちゃんは来ないんだね」
「うるさいのは片方の紫音だけだけどね。ま、今回はあの子らには言ってないし」
「でも來魅ちゃんも来なかったのは意外だね」
「うーん。よくわかんないけど、最近コソコソどこか出かけてる事多いんだよね。何かやってるのかな?」
最近の來魅は何か外出してる事が多いという。
琉嬉も把握していない様子。
同じ家に住んでるとはいえ、プライベートな部分まで詮索する必要はない。
「何考えてるかは分からないのは、今に始まった事じゃないしね」
あっけらかんと言う。
「それもそうだね」
「…高速に入ります」
運転手の正木さんがみんなに聞こえる大きさの声で言う。
普通の道路で行くと時間がかかるため、高速道路へ入るようだ。
金持ちならではの簡単に高速料金を払う。
最近は高速道路無償化とかなんとかと言われてるが、現実、まだ全然有料の状態である。
「ほいほい~。頼みますー、正木さん~」
みゆが明るく正木さんに声がけする。
いざ、出発する。
走る事既に4時間が経過していた。
途中パーキングエリアなど寄ったりして、昼食をすましたり。
距離を進むごとに、雪がどんどん少なくなっていく。
こうも、同じ島なのに雪の量が違うようだ。
相当な距離を走った。
それぞれ疲れが見えてきていた。
二回目の休憩に入る。
「ねー、みゆちゃん。まだー?」
ぐったりしかかってる御琴。
足元が少しフラついてる。
「んー。そろそろ高速降りて、着くと思うよー」
「あのさ、場所って把握してるの?」
「なんとなく」
「なんとなくかよ……」
いつものみゆの対応に琉嬉は呆れる。
以前もみゆの主催で旅行に行っている。
その時もその時で、なんとかなっていた。
運が良いのかなんなのか。
当てずっぽうな、その場の勢いでどうにかしてくる。
今に始まった事ではないのだが。
「じゃ、行っくですよ~」
「ヘイヘイ」
「…では叉羅沙先輩は…元々霊術会の…?」
「そやなー。京都に居た頃はなんとなくの事しとったん、今は完全に手を切っちゃた形で…てな感じ」
「そうなんですか…」
「柚羽ちゃんも霊術会の組織に?」
「…いえ、父親が死んでから所属を打ち切られました…」
「……そうかー」
車に揺られながらも否応にでも耳に入る会話。
琉嬉は少し興味をひかれながらも聞いてないようなふりする。
隣にいる護は寝ている。
みゆと御琴は、まるでカップルのようにイチャイチャ仲が良い感じに会話している。
正木さんは黙って運転している。
叉羅沙と柚羽の会話。
何やら暗い感じでもある。
「ま、今更気にしても仕方ない事やしな。これからどうするかって事やなあ」
「そうですね…」
なんだか深刻そうな感じだ。
(……霊術会ねぇ…。あそこはあそこで面倒な所だってじいちゃん言ってたっけ……)
琉嬉にも正直霊術会がどういう所は知らない。
かつて所属していたという、叉羅沙。
そして柚羽。
そのうち何か大きな接触がありそうな予感がする。
霊術会のトップ、桜月梓葉。
一度だけ会っているが、隠された大きな力を秘めているのは話しただけで感じる。
(ぶっちゃけ関係ないしー)
気楽に思ってるうちに寝てる護が琉嬉に寄りかかってくる。
「うぎゅ」
小柄な琉嬉にとっては護みたいなそれほど大きくない体でも重い。
「おーいー、まもるー。こっちに寄りかかってくるなっ」
「ほふふふー。むにゃあう…」
「……完全に熟睡かコイツ…」
それからさらに走る事1時間程度。
ちょっとした村からさらに山奥へ進んでいく。
会話もどんどん減っていく中、みゆは地図とにらめっこしている。
もちろん、車にはカーナビがついているが、カーナビには示されていない道を走っている状況。
更新しても出ない道。
つまり、廃道となっている道。
ボロボロのアスファルトから草が生えてるのだろう。
今は冬なので枯れた草木ばっかりだ。
所々、何かの跡地のようなボロ過ぎるコンクリ作りの建物があったりする。
ほとんど草木に囲まれててなんだか判別がつかない。
「ねえ、みゆ。ここって何かの炭鉱の跡地とか?」
「んー、そうみたいね~。炭鉱で栄えてたみたいだけどね」
「…なーるほどね…」
「ふにゃ」
「いい加減起きろ!護っ」
お得意琉嬉チョップが護に直撃した。
「ここら辺だね!」
勢いよく車から飛び出していくみゆ。
それに続く叉羅沙達。
「寒っ…。でも雪ないね」
震えながらもみゆの後に続く御琴。
雪の少なさに驚く。
積もっていても僅か5センチもないくらいだ。
道路には完全に雪がなく、自転車でも楽々乗れる。
「ふーん。雪が少ないから炭鉱業みたいなの栄えたのかな。よく分かんないけど」
キョロキョロ見回す琉嬉。
「しかし、今回は割りとたやすくたどり着いたね。前の廃墟探索の時は迷ったのに」
「あ、あははー。そんな事もありましたね」
道がまったく無いという訳ではないが、この先道という道が無くなっている。
オフロードカーでもないととても行けそうにない。
「この先は厳しいですね」
「そだね~。よーし、準備して回ろう~」
「……どうしてそこまでテンション高くいけるのかな…お前は」
時折風で枯れた草木が揺れる音がするだけ。
とても静かな山中。
だが、かつて人が住んでた形跡がある。
ポツリポツリと家であろうと思われる建物跡が見受けられる。
「こんな山奥に人が住んでたもんなんだね」
「日本舐めたらあかんで」
「うーん。そう考えたら僕らってまだまだ都会っ子なんだね」
「そうですねぇ」
普段から想像できない風景になぜか感慨ふける面々。
「もっと奥行ってみようか~」
どんどん前に進むみゆ。
それに続いていくメンバー達。
一番後ろに琉嬉が後に続く…のだが。
「!!」
ドクンっと、何か大きな、心臓が動くような感覚に襲われる。
「あ……え…?何…これ…」
琉嬉がその場に立ち止まる。
意識してないのに、何かの念が琉嬉の中に紛れ込んでい来る。
「…これって…この村の……?過去?」
強烈な意識が入り込んでいくる。
両手で頭を抱えてその場に座り込んでしまう。
目からなぜか涙がこぼれてくる。
悲しくもない筈なのに。
「………誰?僕の中に入ってくるのは…?」
頭の中に、今いる村の映像が入ってくる。
(…ひとり、ふたりじゃない…。大勢の人間の念だ…これ………くっ…)
琉嬉の異変に護が気づいた。
「ちょっと!琉嬉ちゃん!大丈夫?!」
背中を優しくさする。
琉嬉はしばらく返事をしない。
「琉嬉ちゃん!」
異変にみゆ達も気づく。
「琉嬉ちゃん!」
「琉嬉先輩!」
そのまま琉嬉は倒れてしまった。
このまま寒い中寝かせとくにもいかないので車の中に連れて行く。
ほとんどのメンバーは、一旦車に戻り、琉嬉の意識が元に戻るまで待つ事にした。
正木さんは外で警備するかのように待機している。
そのまま、琉嬉は意識が遠のいた様子で、眠っているような状況。
「琉嬉先輩…もしかして何かの念を受信したのかもしれません…。以前私が放った念のように」
「…マジか…」
「あわわわ…琉嬉先輩…大丈夫なんですかね?」
「うーん。だいじょぶだと思うよ」
根拠なしみゆの自信。
琉嬉の意外に図太い神経はみゆも知っている。
これしきの念で許容オーバーはしないだろうと。
車に運ばれてからほんの、5分くらい。
琉嬉はすぐ目を覚ます。
「う……あ、あれ?」
「やほー。琉嬉先輩。だいじょぶ?」
「あ、うん…大丈夫……、てて」
右手が少し擦りむいていた。
念を受けて倒れてしまった時に擦りむいたようだ。
「さっきのは…この村の…「鬼滝村」の…意識?」
「へ?」
全員が目が点になる。
「あ…いや……ごめん。村の意識っていうか、多分住んでた人々の意識…それも、あまり良くない…」
「どういう意味どす?」
「…みゆ、この村の過去、教えて」
そういえば、この鬼滝村の話を聞いていない。
それに今更気づいたみんながみゆに注目する。
「あー、あー、そうだったねー。あたし何も言ってなかったけ~」
「みゆちゃん…」
みゆは簡単に説明した。
以前、何者かに村人が惨殺されて死人が何十人もいたという。
この手の村の話ではよくある話だ。
日本全国…とまではいかないが、何十人も殺されて村が廃村になったという伝承話がよくある。
この鬼滝村も例外なくそういう噂があるのだ。
どっちにしろ、この手の話はニュースにもなるだろうし、資料として残ってるは筈である。
しかし、既に40年も昔の話。
残ってる資料が少ない。
みゆが独自に調べた結果は、情報があまりにも少なく、そういった事件があったらしいとうのは本当だという。
裏ルートで警察から聞いた話によると、犯人は不明。
事実、死人がたくさん出てるのはたしかだという、
「本当かどうかは分からないけどさ。でも琉嬉ちゃんがその念とやらを感じたんなら事実に近いと思うよ~」
「……ほんまかえ」
「………どうします?このまま先行きます?」
柚羽が心配そうながらも琉嬉に言葉をかける。
「ん。大丈夫。次来たら、入り込まないように祓うから」
「あ、そ、そうですか…(琉嬉先輩、目が笑ってない…)」
なんとか、気を持ち直し先へ進んでいく面々。
正木さんもついてきている。
以前の事件で、正木さんもそこそこ強い術者としての力を持っている事が判明している。
さっきから護が正木さんをチラチラみている。
「護はん?どうしたん?」
「あ、いや…別に」
「いや、正木さんを気にしてるね?もしかしてそっちの趣味がおありで…?」
琉嬉が冷ややかな目で護を見る。
「違う違うっ!そうぢゃなくって、正木さん、なんか私の知り合いになんか似てるなーって思って」
「え?そうですか?」
「その人女の人ー?」
みゆも興味深々に聞く。
「あー、女じゃなくって男なんだけどさ、なんか線が細くてどこでもいそうでいない男なんだけどさ、正木さんに雰囲気というかなんというか…」
「……?」
当の本人、正木さんはよく分からないといった表情をしている。
「うーん…似てるような似てないような…」
「そもそも、その似てる気がするって人は男でしょ?」
「そうなんだよね~。あ、あれだ、なんか耿助さんみたいな、優男みたいだ」
「ふーん、耿助さんみたいな感じで正木さんに似た男ねぇ。変わってるね」
「そうそう、変わってるヤツなんだそれが…」
何かを思い出したのか、少し護の表情が一瞬曇る。
でもすぐさま、元に戻る護。
「まーまー、そんなに気にしないで、ささ、行こう行こうーっ」
みんなが注目するとすぐ照れだす護。
自分の事は気にするなと言いながら話をなかった事にしようとする。
「ふふ、護先輩も可愛らしいですね」
「そやな」
あらかた探索し終わった。
何度かこういう廃墟的探索はしてきた面々であるが、足場が悪かったり道がなかったりして余計に体力を使う。
だが、全員が気づいた事。
こういう廃墟群では必ず一体や二体、いや数十体といった霊物質が飛んでたりするのだ。
相当な手練れの琉嬉達。
その全員が霊を一体もまだ見ていない。
「不思議だね。霊らしきものまだいないよ」
「…みゆの言うとおり、「誰」もいないな…さっきのビジョンはなんだったんだろ…」
琉嬉すらも頭を傾げる。
あまりにも不可解な状況に、薄気味悪さをおぼえる。
「しかし、雪がなくとも寒いな…」
白い息を出しながら喋る琉嬉。
冬真っ只中でもある訳だ。
寒くて当たり前。
こう極端に寒いと行動力も自然となくなってくる。
やっぱり人間適した気温が一番良い。
そんな事お構いなしのみゆ。
(どこにそんな元気があるのか…)
と、心の中で呟く琉嬉。
「満足したー?みゆちゃん?僕はもう疲れたのなんのって…」
「んー、そだねー。夜にまた来ようか?」
「……えー…」
大げさにする力もなく、呆れた感じで驚く御琴。
他のメンバーも分かりきってるのか、あえて何も言わない。
「ハハ、相変わらずやね。みゆちゃん」
「今日は一旦近くのホテルに行こう~」
琉嬉が倒れた意外、コレといったこともなく終了する。
また夜に来ようというみゆ案に誰も特に否定する事もない。
逆に言えば、みんながどこか不可解に何もない事が「気になった」からである。
車は動き出し、鬼滝村跡から一旦出て行く。
「うっはー、いい温泉~」
さっきの琉嬉の沈んだようなテンションから一転、温泉に来るとテンションがあがっていた。
それだけ温泉好きなようだ。
「ほんまやなあ、さすが温泉大国日本」
「ですねえ」
平日でもあるためか、客は少し少なめ。
正月も完全に過ぎてる。
社会的には学生や一部の者を除いてごく普通の日々になっている。
「移動の疲れが取れる気がしますね」
いい笑顔の柚羽。
「それにしても…柚羽ちん」
「…は、はい?」
みゆの目が柚羽をロックオンする。
「君ー、ちっちゃいのに、胸は立派だねぇ」
と、言いつつ直に柚羽の胸を揉みだす。
「わっ、ちょ!何してるんですかっ!ひゃあ~」
「あーらら、楽しそうね」
護も混ざる。
「いやぁ~~!」
「何やってるんだ…あいつらは…」
冷めた目で見る琉嬉。
「琉嬉ちゃんは混ざらんでええの?」
「ばか言ってんじゃないよ」
ぷいっと別の方向を向いてしまう。
「ふふふ。そうつんけんせんでも」
「うっせい」
「それよか、琉嬉ちゃん大丈夫?」
さっきの琉嬉の状況を心配する叉羅沙。
突然倒れる琉嬉を見る事なんてそうそうないから、より一層心配になる。
「う?全然大丈夫。意識乗っ取られるとかはないから。ただ、念が強烈だった。よっぽどの無念の意識というか…」
「…そら、惨殺された村人の…って事?」
「確証はないけど、多分、その村人達だと思うけどネ」
「ふぅん……。これまでずっと成仏みたいなのしてへん事ってなるのかな?」
腕を組んで考えをまとめ出す叉羅沙。
「長年誰も訪れる事がなく、そうなったとか…?かも。僕も詳しく分からない。ただ…」
「ただ…?」
一息ついて琉嬉が喋り出す。
「僕らはこうやって足を踏み入れたコトによって、無関係じゃなくなったかもしれない…。
ま、余計な事してるのには間違いないのだろうけど」
「………そか」
叉羅沙も軽く頷く。
「それとネ、気になるのがあってさ…」
「気になる?」
「そう…。村の人間だけじゃなく、なんか、こう…人間ではない意志もあるというか…」
「人間…ではない意志?どういう事ですか?」
みゆの頭を悪い絡みから脱出してきた柚羽もちゃっかり話しに混ざる。
「僕の予想だと…恐らく、人間だけの問題じゃないのかもしれない」
唯一、男の御琴は一人空しく男風呂の方に居た。
「あんまりこういう大きなお風呂ある所来ないけど…一人は寂しいなあ。
それに……なんかみんな、ジロジロみてくるんだけど…なんで?」
疑問に思う御琴。
なぜか顔も知らない他の温泉客の視線が気になる。
(…僕なんかおかしいのかな…?)
急になんかの焦りが出てくる。
その視線の理由は周りの客が皆、こう思っていた。
あの子は女の子ではないのかと。
普段からよく間違えられるくらい可愛い顔してるから、まわりが女の子が男風呂に入ってきてるのではと勘違いしてるのだ。
だから御琴に視線が集中している。
そんな事露知らずか、まったりと湯船に浸かるのだった。
再び一行は鬼滝村跡地へやってきていた。
湯冷めもなんのその、気にしない。
みゆはただの好奇心、と言った形。
ようするによくある肝試しみたいな感覚なのだろう。
元々廃墟巡りが好きなようで、廃墟の醍醐味は夜!とまで思ってる。
それに付き合わされる形だが、皆もそれなりに乗り気にになっている。
とまあ、無料で旅行に行けると思えば安いものである。
「さぁて、再戦と行きましょかーっ。夜はまた違った顔を見せるよー」
「ハイハイ…。分かったよ」
懐中電灯の明かりが至る場所を照らす。
これといって変わりないように見える。
「…しかしみなさん、よくこんな場所平気ですね…」
少しビクつきながらついて歩いてくる御琴。
「なーにー?みこっちゃんー。男のくせに怖がりだなー」
「…男も女も関係ありませんよ…こういうのは…」
たしかに、こういうのは大の大人の男だろうが怖いものは怖い。
「別に平気じゃないよ。かといって怖いって訳でもないけど」
琉嬉はこう答える。
「いつまでも怖がってたら仕事にならないしね。特にうちらみたいな裏家業な者は」
護もあっけらかんと言い放つ。
昔から慣れてる者の発言には説得力はある。
「でもみこっちゃんも視える人なんやろ?慣れてるもんとちゃうの?」
「ええ、まあ…ある程度は慣れましたけど…」
「ま、これからもっと修行していくといいよ」
みゆが御琴の肩をぽんっと叩きながら得意げな風に言う。
「修行って…」
完全にこちら側に入れ込もうという魂胆なのかもしれない。
元々少し霊感が高いだけの、一般人の御琴。
なんやかんやでふかしぎ部の一員としていつのまにかいる。
「普通」と「異常」の境目。
そこに居られる御琴は結局は、同類なのかもしれない。
そんな、御琴だが、いつのまにかみんなとはぐれていた。
「あれ?あれ?みゆちゃーん?琉嬉せんぱーい。あれー?」
誰もいない。
静かな空間と化していた。
雪が少ないので歩きやすいが、自然と足早になり、転びかける。
(…まさか、僕は…迷子になった?!)
携帯電話をみても電波がない状態。
つまり圏外だ。
「こういう時に役に立たない文明の機器…くそー」
携帯の意味のなさを痛感するやいなや、ダッシュしだす。
無言のまま2、3分だろうか。
走ってると先程とは見た事のなに風景の場所に出てしまう。
「あれ?ここは?」
全部見て回った筈だと確信していた。
だが、実際にはまだ全部回っていなかったようだ。
昼間とはいえ、鬱蒼とした山奥の廃村。
地図からも消えてるためかうまく全部回れてなかったようだ。
「ヤバイなぁ……。戻らなくちゃ」
目の前には一軒の廃屋。
御琴は無意識のうちに廃屋の近くに寄っていた。
「………あれ…なんで…僕ここに…?」
まるで、呼ばれたかのように足が自分の意識とは別に動いてた。
いや、実際に「呼ばれた」のかもしれない。
御琴は、自分の視界の端っこで何か人型のような影が見えたのを確認できた。
普段から霊物質などは視える程、霊力は高い。
見間違いではないのが、くっきりと分かる。
目線をそちらに向けないように、心の中ではかなりビビっているが冷静に意識を保つようにする。
(ひぃ…怖い怖い…怖いけど…)
確実に、誰かいる―。
そう認識した途端、廃屋の中から影が出てくる。
そして、御琴に近づいてくる。
影がはっきりと姿を現す。
色が薄い人間。
そう、間違いなく幽霊だ。
廃屋から出てきた霊の表情はかなり虚ろである。
それに、妙にただれたような…痛々しい状態。
目の端でなんとなく分かる、霊の存在。
「………ごめんなさい…ごめんなさぁいーい!!」
大声で謝りながら御琴は猛ダッシュでその場から逃げる。
振り返ることなく、なんとかさっきの場所まで戻る。
戻る。
戻る。
途中何回も転びかけながらも。
自分自身でも信じられないくらいの走り。
普通の霊ならなんとか対処できるかもしれない。
だが、どうみても普通ではない。
今まで居なかったのどうしてこの時間になっているのか。
余程の、何かの理由があるに違いないと。
御琴はとにかく逃げた。
その頃、他のメンバーもバラバラになっていた。
「どうしてこうなった?」
みゆが少しふざけたような口調で言う。
「知らん」
素っ気無く答える琉嬉。
いつの間にやら琉嬉とみゆ。
二人だけ。
「まっずいね~。油断してた訳じゃないけど…なぜかバラバラですよ?」
いつも明るいみゆだが、さすがに現状では少々焦り顔を見せる。
「磁場が歪んでるのかな…。それとも何かの幻術の結界なのか…。余程の大きい霊磁場空間になってるね…今」
「ですねぇ…」
とりあえず、臨戦態勢に入る二人。
大きな霊など感じないが、いつの間にか大量の霊物質を感じるくらい、増えていた。
いつ襲ってきてもおかしくない…そんな状況。
やはりというか、時間帯で変化する場所なのようだ。
実際、こういう場所がよくある。
昼と夜との顔が違う―。
そんな話をよく耳にするであろう。
ここはまさにそんな場所であったというしかない。
昼間はみんなが感じないほど霊気が「無かった」。
しかし、夜になり一定上の時間帯を過ぎるといつの間にかこのような状況に。
「これは…だから並の術者は来ない筈ですね」
「みゆ…知ってたのか」
「まぁ~、そうともいいますね」
「…肝心な事を…。相変わらず回りくどいというか、腹黒いというか…」
「アハハー。ごめんよ~。ま、この方が楽しそうでいいかなーって。でも想像以上にきっつい場所ですね」
「…後でお前覚えておけよ」
琉嬉は現状を打破するために、あまり使いたくない力を使う事にする。
バラバラになったメンバーは他にもいる。
叉羅沙は単独になっていた。
「なんや、えらい事になったな…」
こちらも気づくと一人になっていたパターン。
こうもあっさりと幻術めいたものにハマってしまう。
「ふぅ……面倒やなあ…。さっさと琉嬉ちゃん達と合流せんと…」
最近めっきり実力を発揮する機会がないだけに、腕のなまり用を戻すには持って来いの状態。
なんなく先へと進んで行く。
といっても、どこがゴールかも分からない先の見えない先。
歩くこと数分間、途中に見覚えのある大きな建物。
(これ…一度通った…)
恐る恐る近づいていく。
そして、ドアがあったであろう入り口付近まで足を踏み入れる。
折れた枝など建物に入り込んでいる。
パキッと音を立てながら入り口の手前まで進む。
(………あかん、なんでこうも中に入ろうとしてるの、ウチは)
呼ばれるかのように中へ入ろうとしてる自分に気づく。
(戻ろう)
戻ろうとして後ろを振り向いた瞬間、左手首が掴まれる感覚が襲った。
「!!」
かなり力強い。
「離さんかいっ」
強引に振りほどく。
しかし、後ろ向いても誰もいない。
「そうくるんかい…」
気味の悪い静寂の中、叉羅沙は警戒をする。
どこに持ってたのやら、短剣を取り出す。
特殊な術がかけられている短剣。
これで霊力を持つものを切りつける事が出来る。
(…いや、しかし、何の罪もないような霊を断ち切るのも…あれやなぁ…)
思わず躊躇う。
「ここは…、逃げるが勝ちやっ」
と、発しながらその場から駆け抜けていく。
常人ではない動きを見せる。
先程入ろうとした建物から勢いよく飛び出す。
「それにしても…あかんなあ…。面倒な場所やね…ほんま」
どれもこれも、まるで誘われるような感覚に襲われる建物。
他にメンバーは見当たらない。
さすがにこう広くてはすぐに合流は難しいかもしれない。
とはいえ、立ち止まるのも危険と感じた叉羅沙はこの場を離れる事にした。
さっき掴まれた腕がまだ変な感触を感じたまま。
「琉嬉せんぱーいー。叉羅沙せんぱーい。港咲さぁーん。神楽くーん。だめか…。ここはどこだろう…」
柚羽も単独になっていた。
こういう場は慣れてる筈だが、どこか背筋が薄気味悪い。
肩に背負っている刀をおろし、左手に持つ。
いつでも抜刀出来るような形を保ちながら、周辺を歩き回る。
この寒さが感じないくらい、体温が上がってくる。
「…みなさん…大丈夫なんでしょうか……?」
心配そうに真っ暗な空を見上げる。
フワっと枯れた葉が落ちてくる。
「…せいっ」
それを見事に一刀両断する。
「……ただの葉っぱか…」
ただの葉っぱ。
だが、「ただ斬った」だけではなかった。
霊力込めた抜刀。
これを威嚇にし、周辺の霊を近づけないようにした。
こうしとけば無闇に襲ってこないようにしたのだ。
(……早く合流しないと…。携帯も圏外だし……。大きな、生きてる霊力感じる所へ…!)
「あらら、二人だけになっちゃった」
「そうですね…」
こちらは護と正木さんの二人。
「……さあーて、どうすればいいかな」
「…携帯も通じませんので…合流は難しいかと」
「そだね~」
「こういうことならば無線機持ってくれば良かったですね。今後お嬢様の冒険には持ってくるとしましょう」
「…おお~。それならば携帯なしでもよっぽど遠くなければ届くよねっ」
「はい」
「………」
「………」
途端にお互い沈黙状態になる。
護は護で、普段明るいキャラで行っているのだが、相手が無口タイプであれば深く突っ込んで行くコトが出来ないタイプ。
何を話せばいいのか分からなくなるのだ。
だが、ここで何かピンっとくるのがあった。
昼間に話した、正木さんと似てる人物がいると護が話した事。
「あ、あのですね?正木さん」
「はい、なんでしょう」
「正木さん…私の勝手な勘なんだけどさ、男の兄弟いない?」
「…兄弟…ですか?」
「うん。兄弟」
「………」
正木さんはしばらく俯いたまま言葉を発しない。
(あ、あれ?あたしゃ、何かまずい事聞いたかな?)
焦る護。
だが、すぐに正木さんは口を開いた。
「私には…兄がいたんですけど…幼い時に別れました」
「は、はあ…そうだったの…それは悪い事聞いちゃったかな~、って。エヘヘ」
「いえ、大丈夫です。単に親の問題で…離婚とかなんとかで、私は母に引き取られて、兄は父親の方へ引き取られました」
「え?あ、ああ……そうですか…」
かなりドキマギしてる護。
変な汗が背中や脇にかいてるのが自分で分かる。
自分で聞いといて情けない。
「10年以上会ってませんから、何とも言えませんが…いつかはと思ってます。ところでなぜその様な事を…?」
「あっ?え?あはははー。いや…その…正木さんに似た雰囲気の男の人いるって言ったでしょ?」
「はい…」
「もしかしたら兄弟なのかもって…思って…」
「!!」
「本当ですかっ?!その人は…護さんと知り合いなんですか?!」
急に血相を変える正木さん。
無理もない。
普段クールにしているのだが、自身の肉親の情報。
気になるのも仕方ない事である。
「あ、うん…その人の名前は御衣木丙って名乗ってたよ」
「…みそぎ…ひのえ……。もしかして…」
「あ、もしかしてビンゴ…?」
「ビンゴかもしれません…!」
今までいつも冷静な顔しかしてなかった正木さんが見せた事ないような嬉しそうな顔をする。
「父方の姓が御衣木で、兄の名前は丙でした…そんな珍しい名前…他に居ないと思います」
「たしかにねー。って、あらら、本当にビンゴかい…」
「今兄は何をしてるんですか?!」
「あー、一年くらい会ってないんだよね…。連絡はたまにしてるけど、とある戦いで、殺されかけちゃって。丙もあたしも」
「こ、殺されかけ…?!」
「そう、今みたいにね」
「えっ?」
突如、護が険しい顔つきになる。
そして両手にはお得意の霊力剣を作り出す。
その剣で黒い、触手の様な物質をはじく。
正木さんもその様子に気づいた。
いつのまにか、大量の悪霊に囲まれていた。
「…これは、退治していい霊だよね…?」
これまで目撃していた霊ではなく、完全なる人の形を保っていない異形の霊達だ。
「正木さん…ちょいとやばめだけど、いい?戦いの準備?」
「あ、は、はい!なんとか…」
「フフ、そうこなくっちゃ。コイツらをどうにかしないとあの楽天家お嬢様達と合流しないとネッ」
護はそう言いながら突撃していく。
それに続く正木さん。
一応対処できる能力は持っている。
護の援護に入る形だ。
「琉嬉先輩、もしかしてあれやる気ですか??」
「おうよっ」
「おうよって…もうちょっと女の子らしい受け答えしても…」
「うっさいっ。この状況打破するにはこれが一番なんだよっ!」
「へいへい~」
琉嬉が使用しようとしてる術。
それに巻き込まれないようにみゆは遠くに離れる。
「何かあったらみゆ、よろしく。いくよ…真霊気・発彗!それ!」
両手を空に掲げて、神気を僅かながらも解き放つ。
ブワーッと広がっていく強烈な霊力がみゆにも感じ取れた。
「うっへ…まぶしっ」
そこらじゅうに居た霊の姿が消えていく。
これまで充満してた嫌な霊力も立消えて行く。
「わおっ、すごーい」
肝心の琉嬉はまたもや足元がフラつく。
「おっととと…。まったく…真霊気ってやつは燃費悪いね…」
自分自身の霊力どころか、体力まで奪っていくようだ。
「お疲れさんっ。琉嬉先輩。後は…このみゆちゃんにおまかせあれっ」
「は?何を言って…って、うわわっ」
琉嬉を軽々とおんぶした状態にする。
「軽い軽い~」
「軽いって言うなっ!ていうか、歩けるって!」
「なんの、琉嬉先輩にまた倒れられたら困るので~す」
みゆは琉嬉を背負ったままこの場を離れ、車の置いてある方向へ向かっていた。
とりあえず、集合場所となる所は車の置いてる所しかない。
各々もなんとか車のある方へ向かおうとしていたのだった。




