#49 旅行先は雪女の里にも征く
年が明けて二日経った。
その間は琉嬉らは淡々とゲームやら少し出かけたりしながら、お寺で過ごしていた。
冬休みはまだまだある。
学校によっても違うが、琉嬉の学校は20日くらいまでは休みが続く。
冬が厳しい地域なので冬休みが長めなのだ。
その長さを利用して小旅行…と行きたかったが、仕事の都合上や一応受験生もいる訳なので一泊という話になった。
これから、その旅行へ向けて出発するのだが…。
生憎の曇り空。
雪が降ってないだけまだマシだろう。
「ま、世の中うまい具合にいくもんじゃないよね~」
仕方なさそうにしててもどこか楽しそうな紫音が言う。
「準備できたかい?出発するよ」
導がみんなに声をかける。
「はぁい」
元気よく返事したのは莉音と來魅。
車は二台。
行くメンバーは、まず導、嶺珠、琉嬉、悠飛。
もう一方の彼方家は、天、三月、莉音、紫音。
そして、妖怪お二方、來魅と銀杏。計10人。
「みんなどっちに乗るんだい?」
導車は大型で7、8くらいは乗れる。
天車は普通サイズ。
5人が限度だろう。
「んじゃー、琉嬉姉、導叔父さんの方乗ろうよっ」
「ハイハイ…」
紫音の言われるがままに琉嬉も付き合い乗る。
「私もそっち行くぞー」
「私も…」
來魅と莉音も乗り込む。
何かとうるさそうな車だ。
結果、導車は運転手導をはじめ、琉嬉・莉音・紫音・來魅・悠飛。
子供達メインになる。
天車は三月、嶺珠、銀杏という割合になった。
「それじゃー出発するよ~」
「おけーっ」
益々テンション高くなる面々。
お寺から、車で約3時間以上かかる道のりを出発した。
お寺、緋黄寺がある利頓町からさらに北西へ向かう事、3時間。
隣町の前仲村をさらにどんどん超えていく。
向かうべき町は、かなり遠い。
「高速道路とかないの?」
「ないよ、田舎町だもん」
「ぶー。そういう言い方は失礼なんだよー導叔父さん」
「はは、そうかい?ま、お寺も僕らが今住んでる所も山ばっかりで田舎だけどね」
「たしかに…」
頷く來魅。
高速道路を通らない分、信号や制限速度のおかげで結構時間かかる。
仕方ない事である。
「電車で行くよりははるかにマシだろ?」
ゲームしながら言う琉嬉。
相変わらずのゲーマーぶりだ。
「そうだよね」
「琉嬉姉の言う通り!かな?」
「なんでお前が自信なさげに言うんだ…」
紫音の勢いだけの発言にどうも、ツッコミを入れてしまう琉嬉だ。
「ほぅ、では彼方家の現在の住職はお前さんなんじゃな」
「住職…と言ってもまだまだだけどね。親父がまだ現役だし」
天車の方ではどうやら彼方家についての話題になってるようだ。
「しかし…彼方家ねぇ……。特殊な力を持っている一族だとは聞いておるが…」
「へぇ~。妖怪達でも有名なんだな、オレ達って。光栄だな」
「光栄でいいのかしらね…?」
いつもの陽気でどこかズレた言葉に三月も少し呆れ顔。
「結婚して20年近くになるといろいろ分かってくるわよねぇ~」
「ほぅ、そういうもんなのか」
嶺珠の発言に少し興味を抱く銀杏。
結婚システムは各世界にあるとはいえ、未だにピンときていない銀杏。
自分自身も女の身(一応)。
少しの憧れがあるのかもしれない。
150年以上生きてきて、特に恋愛らしい事もしてきてない。
ただ、ひとすら強さと求めてるのと、放浪という名の旅を楽しんできた。
少しは定住を決めて過ごすのもいいのかもしれない、と、少しだけ思う。
「來魅が封印されたと聞いた時は驚いたもんじゃ」
「それについては100年前の話だしなー。オレ生まれてないし、親父も生まれてないしなぁ。
ご先祖様はなーんで文献みたいなの細かく残さなかったんだろうな」
「面倒だったとか?」
「でも、明黄燐神社がメインでやってたことなんでしょ?」
「ご先祖?どんな名前じゃ?」
「なんだっけ…、たしか…彼方…彼方…、柳樹さんだったけ?」
「りゅうじゅ……柳樹…。フム、聞いた事あるな」
顎に指を当てて、記憶を辿る。
「凄腕の退魔師……100年以上前…。彼方柳樹。
当時としては珍しく女だてら、かなり気性が強くて荒い霊術師だったと聞く。
わしは直接会った事はないと思う」
などと、いろいろ会話が弾んでいく。
こちらは大人の落ち着いた雰囲気ながらも、彼方家の話がメインでされていた。
そしてもう一台の状態は…というと。
ひたすら紫音と來魅と導がしゃべくりしていた。
大人しい琉嬉と悠飛と莉音。
かなり対照的なグループに別れていた。
時折、琉嬉がするどいツッコミが炸裂したりしていた。
そんなこんな会話が続くとあっという間に目的地の温泉街への町へ入る。
「ここは……」
窓から町の景色を眺める悠飛。
長い海沿いの風景から抜け出して、山中に入って行く。
湖へ向かう方向の見覚えのある大きな看板。
そう、悠飛が行きたいと言っていた、雪女達が住む地域…。
その町なのである。
町の名は、「朱雪内町」。
地域の特性なのか、毎年雪が沢山積もる鞍光市よりもはるかに積もる豪雪地帯。
2m3mは当たり前の世界だという。
気温もかなり低くなるので氷点下20度も当たり前の極寒の地だ。
雪女がいてもおかしくない世界。
「2年…いや、3年ぶりくらいか?」
琉嬉も同じように悠飛の顔隣に自分の顔を出す。
「そうだね…」
「とりあえず、もうすぐ着くから。一旦宿に着いてからでいいかい?その後は自由に行動していいからさ」
「ま、そだね」
「うん…」
双子も悠飛の事は知っているが、あえて無言。
來魅だけ疑問そうな顔していた。
「近いっちゃぁ近いよね」
「うん…」
琉嬉悠飛姉妹のコソコソした会話。
「なんだ?何の話だ?」
來魅が不思議そうに質問する。
「ん?いや…ちょっとね…」
まだ宿の受付の所。
手続きを終えた導らが琉嬉達の元へやってくる。
「そいじゃ、みんなお部屋行こうか。部屋割りは…子供達は子供達にしといたからね」
「ほーい」
「………」
終始悠飛だけは無言だった。
「なんだなんだ、どうしたんだ?」
「実はね…」
悠飛の力の事を來魅と銀杏に話す。
今まで一緒にいて一切話した事はなかった。
むしろ、話す必要性はなかった…と、思ってたのかもしれない。
だが、本人からもう一度力を得た、雪女の里へ行くという理由が出来た。
悠飛が勝手に思ってるのかもしれないが…今のままではどこか、レベルアップが出来ない。
そんな気がしていた。
「ほーぅ。雪女ねぇ。私は会った事ないのう」
「來魅のものぐさな性格じゃ遠くにいるやつらとは会う事ないじゃろ」
「なにをーっ?」
「わしみたいに高貴で世界中まわる妖怪となると雪女くらい…会った事…あったかな?」
「……」
ジト目で銀杏を見る來魅。
「ま、行ってみない事には分からないけどね」
あっけらかんと琉嬉は言う。
「そもそも、雪女の伝説なんて日本中各地にあるんだし、移住とかしてる雪女達もいるだろうし。
別にここだけに居るって事じゃないらしいよ」
「そ、そうなのか…?」
來魅が強く驚いている。
「そ、そうそう、雪女はいろいろな所にいるんじゃ!な?琉嬉」
「……さて、旅館にチェックインしたんだし、早速行動する?」
「無視するな~」
泣きそうになる銀杏。
「うん…」
さらに無視するかのように悠飛は静かに返事をする。
「あたしらも行っていい?」
双子姉妹も名乗り出る。
「別にいいけど…。あまり目立つような事しないでね」
「ぶー。なんだい、それじゃあたしらがうるさいっていうコトかい」
「…まさにその通りなんだけどさ…」
相も変わらずギャーギャーうるさい紫音。
それを傍目にみているだけの琉嬉。
「やれやれ…。行き先が不安だね」
「いいのかい?子供らで行かせて」
少し心配そうにする天。
「大丈夫だよ。しっかりしてるし。それに大妖怪様もついて行ってくれるって言うし」
「うーん…。父親のお前さんが言うのなら大丈夫なんだろうけどよ」
「それに僕らが行っても足手まといだろうしね」
「………遺伝というかなんというか…。同じ血筋でも才能の差…か。お前さんには苦労かけたな」
「なんのなんの。そこそこの相手くらいなら対処出来るしね」
父親同士の会話。
その会話を同じ部屋で聞いているその妻達。
「僕も妖怪からでもいいからそういう力もらえば良かったかなぁ」
「はは、誰もそんな発想しなかったもんな。悠飛ちゃんはそう考えると凄いよな」
悠飛の力。
妖怪、雪女から得た力だと言う。
だからあのような冷気を操る事が出来る。
それには多大な努力もあった。
それを直に見てきたのだから、しみじみ不運にも思う。
「霊力が他の一族の人間より乏しいのは僕の受け継ぎなんだろうけどね…悠飛ちゃんは凄いよ。我が娘なら」
今回の接点で何かが変わるのだろうか。
悠飛の思いつめる部分は後に明らかになる。
そんなこんな彼方家の事を尻目に銀杏は旅館街を歩いていた。
「ここは始めてじゃな」
あの後、琉嬉達と別れて別行動を取っていた。
旅して回った所を写真に撮ったり、何かメモをとったり。
旅好きの放浪者としては欠かせない趣味だった。
そして、今旅館近くの大きめな公園へやってきていた。
冬だけあって真っ白だがそれはそれで綺麗だ。
こうした、季節で姿をかえる風景を楽しんでいる。
「ま、琉嬉も來魅もいるし問題ないじゃろ。わしはわしで楽しむかの」
陽気な銀杏。來
魅とは違った、どこか別のマイペース差がある。
それだけ、力を持った妖怪でもあれば自由度は高いのである。
「狭い狭い日本かと思っておったが、いろんな所あるのう。
しっかし……寒いし、雪が半端ねーのじゃ。
鞍光や利頓より半端ねーのじゃ」
自分の背より高く積まされた雪。
「ほほーう…まだこの地は来た事なかった…」
何かと楽しみがまだまだあるといった様子だ。
「へいへい~、そこの派手なおじょうちゃーん」
途中若い男の声が聞こえてきた。
しかし、たいした気もせず夢中に写真を撮っている。
「あれあれー?無視?つれないな~」
男は1人ではなく3人いた。
どうやら銀杏に話をかけているようだ。
「ん?なんじゃ?お前らは?」
「うお?随分な口調ですな」
いやらしい笑みを浮かべながら近づいてくる。
「ここで会ったのも何かの縁。一緒にお茶でもどうですかね?」
細身の男がこう言う。
しかし銀杏は…
「んむ。断る。すまぬが、1人にさせておくれ。しばし趣味に没頭したいのでな」
「趣味?いいじゃん~?そんなの後で~」
突然銀杏の手首をグっと掴み出す。
半ば、強引的だ。
が、しかし……。
「あれ?」
銀杏の手首を掴んだ男は宙に待っていた。
一回転、いや、二回転くらいしただろうか。
ふわりと軽々浮かされてそのまま近くの広場へ落ちる。
雪が下敷きになりそんなに衝撃はなさそうだ。
「いってぇーっ?!」
「何が起きた??」
あわてめく男達。
「言ったじゃろ?今は1人にしてくれとな」
少しきつめに睨む。
「あ、ひ、ひぃー?すみませんでしたーっ!!」
情けないまま男達は去っていく。
銀杏は疑問に感じていた。
(……なぜ、若い人間の男達がわしに話をかけてくる?謎じゃ…)
どうやら自分が思っているよりも美人なので声をかけられている事に気づいてない模様。
おそらく、100年以上それに気づいてない節がある。
こんなに長い間生きているのにこうやってあしらって来た。
だから、大した出会いもなく、今に至る。
「寒いーっ!!」
「うるさいなー」
「だってー寒いんだもんー」
「雪国暮らし慣れてるだろ?何言ってるんだまったく…」
「だって、利頓より雪多いんだもん琉嬉姉がいる所より雪多いもん」
「…まぁな、そりゃ。鞍光より田舎だしね」
「ですよねー?」
莉音はスマホで今いる場所の気温を調べている。
「-5度…。昼間でこれだから夜はもっと冷えるみたいだね。
最低気温が……-24度って書いてる」
「ひょえー。うちの所より寒いよそれ」
「今の時期でこれだから一番寒い二月に入ったら…どうなるのそれ?」
「さぁ…」
双子姉妹で顔を見合わせて驚いている。
「ハイハイ。鞍光も-20度くらいは行きますよ」
「そ、そうなのか…?」
來魅はなぜか必要以上に震えている。
「…お前も寒さに慣れろ」
(うるさい…)
悠飛は心の中で紫音と琉嬉の止まらぬ会話に少々ウンザリしていた。
「ほいで、悠飛くんよ。まだかい?」
「…もうそろそろだけど…」
「しっかし、悠飛は弱音ははかないねー。さすがは雪職人」
「…誰が雪職人だ」
いちいち紫音の言う事にツッコミを入れなければいけない。
「紫音…ちょっとうるさい」
「へーい」
莉音の注意で少し大人しくなる。
腕を頭の後ろに回して少しひねくれるそぶりを見せる。
「しっかし…見た目は区別つかんのに、性格がまるで違うのう」
一緒に同行している來魅。
その來魅も双子姉妹の性格の違いに不思議顔だった。
「まあまあ、そんな事気にしなくていーじゃん」
「…そもそも双子とそんなに会う機会ないけど、ここまで性格違うのは珍しいかもね」
「ふむ、なるほどのう…」
「だーかーらー、あたしらの事はいいから」
少し照れだす紫音。
莉音もうつむいたままほとんど声を出していない。
「あ、みんなちょっと気をつけてね」
悠飛が突然足を止める。それに怪しげな事まで言って。
「え?」
ボフンッ。
そう言った途端、紫音が姿を消した。
「え?え?」
「莉音っ?!」
足元が突然の落とし穴状態。
莉音は見事に落っこちたようだ。
結構深い穴。
「いったぁ…」
「気をつけてね。雪女の里の周りは深くて長い落とし穴だから」
悠飛の遅すぎる忠告。
琉嬉はどうやら知っていたみたいで、悠飛と一緒に立ち止まっていた。
「それを早く言ってよー!ったく…うまく受身取れたから良かったもの…」
「…周りをあまり気にしないで歩いてるからだよー、しのーん」
姉の莉音からもさらなるお言葉。
とはいえ、突然の落下にもすぐ反応して受身をとったという紫音。
やはり、彼方家の人間だけあって咄嗟の出来事には対処が出来るのはさすが。
「まったく。世話の焼ける娘っこだな」
來魅が紫音が落ちた穴に飛び込む。
そのまま自分より大きい紫音を軽々と抱きかかえ、常人には計り知れないジャンプで上へと戻る。
霊力を抑えられているというのに凄まじい運動能力だ。
「ほいっと」
「あ、ありがと、來魅ちゃん」
「うむ。気をつけるといいぞ」
一応雪が積もっていながらも道はある。
雪女達が生活用の道なのだろうか?
街から近いながらもまるで人間の手の入った様子がない、森奥地。
そんな場所はいくらでもあるが、今いる場所は明らかに違う、雰囲気、空気…何かが違うのが分かる。
「ふむ。大きな妖気を感じる…ような気がするのう」
「…「気がする」じゃなくて、その通りだと思うけど…」
「とりあえず先に進もう?」
悠飛がひょいっとジャンプで落とし穴であろうと思われる場所を飛び越える。
「むー。ヘタなトラップより単純なトラップの方が逆にウザいね…」
ブツクサ言いながらも琉嬉も飛び越える。
莉音らも後から続く。
「これはなんで、こんな罠みたいのしてあるの?」
不思議そう紫音が琉嬉に聞く。
「な、なんで僕に聞くのさ?人間とかを遠ざけたいためじゃないの?」
「ふぅん?」
琉嬉の言う事は正しい…と思っている。
なので納得し出す紫音。
「いや、そこは悠飛に聞くべきじゃないのか……?」
いつもボケ役の來魅もさすがにツッコミを入れざるをなかった。
「…人間を遠ざける…のも、あるけど、こうやって境界線を入れる事により、一族としての絆を外にむやみに出したくないとかなんとか…」
「ふーーん」
「……お前、本当はどうでもいいと思ってねぇ?」
いつも以上に、ジト目で紫音をみる琉嬉だった。
やっとことで、里の入り口までやってきた。
家が何軒かある。
人間の家となんら変わらないような、三角屋根が多目の住宅地。
辛うじてあるような雪道を進んでいく。
オシャレ心のせいか、冬用とはいえ、靴だと歩くのがつらい。
「…長靴でも用意しとけば良かったね」
「靴がもうビシャビシャで冷たいよぅ~」
少し歩くと、フワっと人影が見えた。
雪は降ってはいないが、空はグレー色の曇り空。
薄暗いうえ、沢山積もった雪の中では人かなにか判別がつきにくい。
琉嬉らは人影の辺りまで歩く。
そうすると、人影は案の定、人だった。
というか、何やら一所懸命除雪をしているではないか。
40代くらいのような、女性。
だが、美人。
服装は至って普通の、現代的な服装のジャンパー姿である。
「あの…」
悠飛が声をかける。
「おやまあ。珍しいわね。純粋な人間がここの村に来るなんて…」
女性の言葉から察するに、やはり人間ではないようだ。
「ん…?あんたら…普通の人間…じゃないようね…?」
「やおー!私だけが純粋の妖怪だ!こいつらは人間だぞ!普通の人間じゃないけどな!」
明るく陽気に説明する來魅。
何が楽しいのだろうか?と琉嬉は來魅の態度に不思議そうに見ている。
「ここが、雪女の里ですか?ですか?」
さらにテンション上げて紫音がずいっと前へ出てくる。
「え?あ、ああ。そうだけど。よくここに来れたわねぇ。微弱だけど結界もあったはずだけど…?」
「結界?そんなのあったの?」
双子姉妹と來魅は結界なんぞ気づかなかった。
そんな顔をしている。
「それは、私が通るときに一時的に解除して…」
悠飛がそう言う。
「…え?結界の解除って…そんな事出来るのは私達雪女だけの妖気にしか…。もしかしてあんた、雪女…?」
「え、ええ、まあ。それに近い存在ですけど…」
「そうなの?……ところで何しに来たの?あんた達…」
「…「きさり」は今、この里にいますか?」
「きさりかい?きさりならいるけど、きさりに用あるのかい?家まで案内しようか?」
「いえ、場所は分かります。おかまいなく」
「…そうかい。でも、あんた達どこかで見た事あるような…」
女性が悠飛達をしばしみつめる。
「あ、もしかして、あの時の人間かい?たしか…か、か、かななんとか…」
「彼方悠飛です。こっちがあの時いた姉です」
「あー、そうそう、思い出した!人間の子供が紛れ込んだ時があって…、その時の!」
どうやら、女性は当時の出来事を思い出したようだ。
双子姉妹と、來魅には知らない出来事。
「なんだ?私らが知らん話があるのか?」
ちょっとむくれた様子の來魅。
「…後できっちり話すから。とりあえず行くよ」
「むむぅ」
一緒に家にいながら、自分の知らない事があると気づくと、ちょっとだけなんか悔しい気持ちになる。
「ここだ」
一行がやってきたのは、とある一軒家。
至って普通の家にしか見えない。
とはいえ、かなり古い作りの家だ。
木造でおそらく50年近くは経っているのではないのだろうか…?というくらい。
所々、リフォームした形式はあるが、基本は古いままだ。
「すみませーん」
悠飛があまり出す事のないくらいの大声で呼びかける。
「…ねえ、インターホンないの?」
キョロキョロ見回す紫音。
「挙動不審者だね。紫音」
「んな、うるさいなー、莉音のくせに」
「ハイハイ」
軽く流す莉音。
「古い家だし、インターホンなんてある妖怪の家ってのもちょっとイメージ崩れるけどね」
しばらくすると、ガチャリとドアが開く。
出てきたのは10代くらいの若い女の子。
黒い、長い髪をして白い肌。
おとなしそうな雰囲気の女の子が出てきた。
「…あ、あなたは……もしかして、悠飛?!」
「そうだよ。久しぶり……。きさり」
悠飛らは家の中にお邪魔していた。
ほんのり、あったかい家の中。
雪女だから、てっきり寒いままなのかと思っていた紫音達。
決してそういう訳ではないようだ。
雪女といえども、精神体のような存在ではなく、「生きている」体を持つ。
いわば人間や動物と変わらない。
なので極度の寒さには死ぬ事はなくとも、ただただ、辛いようである。
だからこういった住宅を構え、適度な保温を保っている。
とはいえ、通常の人間の家よりは数段寒いが。
「これ、何度だろうね…?20度なさそうだけど…」
「そだね」
家中は昔懐かしいような、作り。
物もそう多くない。
何気にテレビなど、現代家具もござれ。
ちゃっかりテレビも現代的に薄型だ。
「妖怪って言っても、なんか人間と変わんない生活なんだね…」
人の目気にしないで豪快にキョロキョロする紫音。
「ま、そだろね。知能ある生き物だし。人間と変わらんでしょ。結局は」
「そんなもんかね…」
「來魅見れば解かるだろ」
「ほへ?」
來魅の顔を見て納得する紫音達。
何もなければ一日中ネットやゲームやらやっているのだから。
「悠飛……。どうして突然来たの?」
「近くまで旅行に来たからね…。せっかくなんで、会いたいと思って」
「…そう」
女の子はみんなに暖かいお茶を差し出す。
だが、少しお互いによそよそしい感じだ。
そんな少し張り詰めたような空気を解き放つように紫音が話しかける。
「あのね、あたし、紫音!こっちが双子で姉の莉音!んで、このちっこいのは來魅ちゃん!あなたの名前は?!」
「は、はあ…私は「きさり」です。ひらかなできさり。漢字表記はないです…」
「そう!きさりちゃん!よろしく!」
きさりの手を握り思いっきりぶんぶん振る紫音。
「…言っとくけど、きさりは私達より年上だよ?同じくらいに見えるけど…」
「え?そなの?」
「…一応、今年で25歳ですけど…」
きさりは何も知らない紫音達のためにわざわざ説明をしてくれた。
現状生きている雪女は純粋の妖怪ではない。
というか、元々昔から純粋に妖怪だけという血筋ではないようである。
現状の雪女達はいわゆる、半妖であるのだ。
雪女だけあって、この一族は女性しか「基本いない」のである。
女性だけでは子孫を残すことは出来ないので、年頃の娘などは子孫繁栄のために里を出て、人間や種族が近い妖怪との子を宿す。
そうして今まで今日まで続いているのだと言う。
やはり、妖怪だけあって通常に人間よりは寿命が長いため、成長が人間より遅く感じる。
若い時期が長いのだ。
ちなみに、不思議な事に男児は生まれない。
世の中うまい事出来てるようだと、きさりは笑いながら話してくれた。
「なるほろろー。きさりちゃんはきさりさんなんだね」
「はあ…?」
「ワケワカらんコト言うなっ」
琉嬉チョップが紫音に炸裂した。
「それはそうと、きさり…。「せつの」に……会いたいんだけど…。いいかな?」
「…そう。分かったわ。準備するから、待ってて」
そう言うときさりは居間から出て行く。
「ねえねえ?「せつの」って誰?また重要人物?」
「重要人物中の重要人物だね。悠飛にとっての」
「ほぅぅ」
きさりに言われるがままに、外へ出て、きさりの後について行く悠飛達。
少し里のはずれまで進む。
「あれれ?家に行くんじゃないの?」
疑問だらけになる。
どんどん家がない場所へ向かう。
すると、雪に埋もれているが、墓が見える。
どうやら墓地のようだ。
綺麗に除雪されている。
「墓地だのう」
くるくるっと回転しながら來魅は辺りを見回す。
「まったく…來魅ちゃんは可愛くていいね~。しかしー、ここはお墓ですねー。うんうん」
「言われなくてもわかってるわよ紫音」
悠飛は一直線にある墓へ向かっていく。
「悠飛?」
紫音達が追いかけようとする。
だが、琉嬉が制する。
「ここはしばらく一人にしてあげよ。詳しい事は僕が言うから」
(せつの……久しぶり。私は、せつののおかげで、なんとか生きてるよ。せつの……)
しばらく手を合わせたまま、寒さも動じずにじっとしている。
(……せつの…。せつのの力で、なんとか私戦いに生き残っている。本当に感謝するよ)
すくっと立ち上がり、墓に手をかざす。
ゆっくりと、現在の気温よりもさらに低い冷気が悠飛の右手に集まる。
強烈な霊力と妖気が混ざり合った冷気が悠飛を包み込む。
まるで、墓から吸い上げるように悠飛の体に集まっていく。
(せつの…せつのの、残した最後の力……ありがたく受け取るよ)
まるで儀式なような光景。
それが終わると、墓裏に積もった雪を掻き分け、蓋のような所から何かを取り出す。
「ふー、冷た…」
蓋を開けると、何やら綺麗なネックレスのような物。
青白い宝石がついている。
(……妖力や霊気は一切感じない…。やっぱりこれに込められたのかな…。
形見……とでも言うのかな?せつの…ありがとう)
首飾りをそっと、自分につけてみる。
「ハハ、似合わないだろうね…私」
苦笑いしながら、蓋を元に戻し、せつのの墓から離れる。
雪がちらつき始める。
「…これから冬本番…か………」
悠飛は振り返り、せつのの墓石を数秒間だけみつめる。
「またね」
その間琉嬉は悠飛の事をみんなに話していた。
「簡単に言うとさ、悠飛の力は雪女の力。そして、その力はここで貰った物」
「いや、それはさすがに知ってるけどさ」
「私は知らんぞ~」
双子は知ってても來魅は知らない。
「その力は、きさりのお姉さんの、せつのって人から貰った物なんだ」
「ほぅ。妖怪の力を人間が授かる事が出来るのか」
「…理論上不可能ではない…ていうか、現に使ってる訳だし…それに」
琉嬉の頭の中ではある人物を浮かべる。
紫音と莉音が気づく。
「あ!もしかして…緋瑪斗さん?」
「そう。悠飛と同じで、妖怪の力を受け取った人間…。
いや、元人間とも言うべきか。
半妖となった狗依緋瑪斗」
「ヒメト?」
妖怪の力を受け継いだせいで、男から女へと性別が反転してしまった。
現に悠飛と同じように人間に妖怪の力を受け取った人物がいるのだ。
琉嬉とは何度も会って一緒にお寺で修行をしたり遊んだりしている。
「緋瑪斗の事は置いといて、実際に同じ事をしてるのが何人かいるのも事実だね」
「ふむ。そうだな」
「それに、少しでも使役出来るような強さをもつ術者なら契約とかの技術で、妖怪の力を使う事だって出来るし」
「ふむむ。それもそうだな」
「悠飛もちょいと訳アリでしてね。人間でありながら、妖怪の力を使う、あまりいない特殊なヤツなんだ」
「ふむー。なるほどな。納得したぞ。人間でありながら妙に強い妖力を発していたからの」
來魅は大きく頷く。
「でも、護は、悠飛と同じかと思ったけど、違うんだな…。半妖でもないみたいだしね…」
「護が?」
「護も別にして、悠飛は、沢山努力したって事さ」
「おお~」
みんな拍手をする。
なんだかよく分からない中盛り上がりの中悠飛が戻ってくる。
「…なんで、みんな拍手してるの?」
せつのの墓参りを終え、再びきさりの住む家へ戻ってきた琉嬉達。
「それにしても…人間が雪女の力を使いこなしてるのは凄いわ。悠飛」
「…それについては、彼方家一族としての力のおかげかもね。普通の人間だったら使うどころか、継承すら出来ないと思うし」
「ふむ、悠飛はやはり、特別凄いんだな。さすが、彼方一族」
関心する來魅。
「あの…この小さな女の子は…?」
「聞いて驚くなかれ!雪女の娘よ!私は最強とも呼ばれた妖狐の巳薙來魅だ!聞いた事はあるだろう?」
「みな…ぎ、らいみ?それって…100年前に封じられたって言われてなかった?」
きさりは驚いた。
伝説上の妖怪と聞かされていた存在が目の前にいるのだから。
「どうだ!驚いただろう…うぷ」
莉音が來魅の口を押さえ、黙らせる。
「まあまあ、今は來魅の事じゃなく、悠飛がメインだから」
「うむ、そうだな」
変に聞き分けの良い來魅である。
これ以上口出しをしない。
「ねえ、ところで、なんでせつのさんはお亡くなりになったの…?」
そこをあえてストレートに聞く紫音。
「紫音!」
莉音がちょっときつめに怒る。
「いえ、別にイイですよ。死んだのは事実ですし」
「…それは私から話すよ」
悠飛自ら語りだす。
3年ほど前、彼方姉妹と炎良や天達が以前雪女の里に訪れている。
理由は、とある妖怪討伐のためにだ。
琉嬉と悠飛も同行していた。
その討伐以来は雪女の里から近くに住む、人間の村だったが、どうやら雪女の里にも危害が及んでいたという。
雪女といえども、半分妖怪、半分人間でもあるので、純粋な妖怪とはまた関わりがあまりなかった。
そもそも、妖怪同士といえども、種族の違い過ぎる者では争いがあるわけでもあるのだが。
結構厳しい戦いだったらしく、少し戦いが長引いていた。
討伐妖怪も数が多く、苦戦しているうちに悠飛がピンチに陥り……といった流れとなった。
「しばらく滞在してたせいもあって、情が移ったんだろうね…。せつのは私に」
「悠飛が殺されそうになったところに、せつのが庇ったのさ」
さすがに、おとなしく話を聞いている面々。
「せつのが死ぬ前に…私に継承する力を全部渡してくれた…って事」
「そうだったのか。辛かったのう、悠飛」
「その時はね」
せつのという人物は余程、素晴らしい性格をしていた。
人間である悠飛らとも隔てなく接していた。
「…私達、雪女達は、力の継承を次世代の子孫達に残す事ができます。
しかし、姉のせつのは、子供がいなかったため、継承しないのも勿体無いと思ったんでしょうか…。
一番仲の良かった悠飛に力を与えたみたいです」
「良くまあ、拒否反応も出ないで継承できたよね。「純粋な人間」相手に与えるなんて前代未聞じゃない?」
茶化すような言い方をする琉嬉。
「フフ、そうですね。姉は少し、ズレた感覚でしたから」
きさりも笑いながら言う。
「ねえねえ、それって掟破りだーっ!とかそういうのなかったの?こう、お約束的な…?」
「いえ、ありませんよ。そもそも、子孫残すために人間と交わるんですから」
「ま、まじわ…ッッ?!」
紫音の顔が真っ赤になる。
さすがにこういった手の話には年齢的に恥ずかしかったようだ。
「そもそも今いる雪女達はほとんど、半妖です。
半分妖怪であり、半分人間である。
なので、悠飛にも継承が出来たんだと思います」
「半妖……か」
純粋な雪女は現状、いないと思われる。
当の雪女のきさりでさえ、分からないと言うのだから。
「なーるほどのぅ」
複雑ながら大体の話に納得する來魅。
双子も無言ながらも頷いてる。
「んで、何か掴めたコトあるのか?悠飛」
「ん?………まー、ね…」
「そか。ん、こんな時間か」
スマホの画面に出ている時間を確認する。
午後4時。
「もうちょっとゆっくりしたいけど、そろそろ戻るかなぁ」
「そうだね」
「あら、そう?もっとゆっくりしていってもいいのに…」
少し残念そうなきさり。
「二度と会えないって訳でもないし、また今度来るよ。あ、逆に来てもいいんだよ」
「うふふ。そうしようかしら」
特にわだかまりもなさそうである。
帰る仕度をする悠飛ら。
そんな中、琉嬉がきさりにある事を話す。
「きさり、ちょっといい?」
「…何?」
「雪女といえども、半妖だろ。この頃、半妖だけの妙な組織があるみたいだから…」
「……その噂なら知ってるわ。京都中心の…でしょ?」
「やっぱり知ってたか。で、ここに来たの?」
「…里長が詳しいはずよ」
「……そか。んー。どうするかな。帰るとは言ったけど…」
「琉嬉。あなた何か絡んでるの?」
しかめ面になる琉嬉。
「絡んでるも何も……当事者に近いからね」
「…どういう事?」
「いや…」
そして腕を組みしばし考える。
ほんの、数秒程度。
すぐ答えは出た。
「ちょっとだけ会っていくかな。うし。みんなに言ってくる」
そう言いながらその場を離れる。
小柄な体なので余計素早く見える。
きさりはやれやれと言った表情。
「やっぱり、何か絡んでるのね…」
「こっちよ」
琉嬉だけ残り、里長に会う事にした。
ゴチャゴチャうるさい紫音を強引に説得させながらも。
会うと言ってもほんの短い間だが。
話を聞くだけである。
「こんにちは。里長」
一際大きめの家。
ここに里長が住んでいる。
「あらあら、なんだい。ん?この娘は?」
出てきたのは60代くらいの女性。
と言っても、人間でいえばの見た目年齢である。
実年齢はおそらく、確実に100年以上生きていると思われる。
「こんちは。いつぞやはお世話になりました」
「…お前さんは、琉嬉か?」
里長は思い出した様子だった。
「……お前さん…全然変わってないねぇ。あの時…小学生だったけ?」
「いや、中学生だったけど…」
「琉嬉、あんたももしかして普通の人間より寿命長いかもよ」
会った時から全然変わってない琉嬉に対してきさりは言う。
「うるせぃっ」
「…え、半妖のヤツが来たのか…」
「そうさね。なんか、力にならんか?ってね」
「ふぅむ…。それっていつの話?」
「つい、2、3日前の事だよ。まだこの辺にいるかもね」
「マジか…」
里長は半妖達に力を貸す事を断ったと言う。
「もしかして、全国中の半妖を捜し回ってるのか…?もっと人手がいるというコトか…?」
いまだ見えてこない半妖組織の考え。
つい最近までここに来ていた。
誰が来ていたのかは分からない。
不安要素が出てくる。
(…これは、本格的に調べる必要性があるのかもね…)
「じゃ、あんがとさん」
「今度はこちらから琉嬉達の所へ行くわ」
「おう、そうしてくれると良いね」
僅かな滞在時間だったが、久々に会った雪女達に会えて嬉しさが琉嬉にもあった。
大した会話もなかったがこのままあっさりと別れる。
別にまったく会えなくなるという訳でもない。
またいつか会う必要性があれば、出向くだろう。
お互いに手を振りながら雪女の里から出て行く琉嬉。
30分くらい経っただろうか。
温泉街から3、4キロ程度離れた雪女の里。
歩いて行ったものだから、30分近くかかる。
ましてや、冬の雪道。
余計に時間かかるだろう。
琉嬉は通ってきた道を戻っている。
「………ふぅん…。やっぱりお前か…」
琉嬉が何かに気づいた。
琉嬉の一言を発した後、静けさが増す。
ただでさえ雪が積もっていて音を吸収して静かなのに、さらなる静寂が襲う。
「………仕掛けないならこっちから仕掛けてもいいんだよ」
素早く琉嬉は札を取り出す。
チリリンと、髪飾りの鈴が音を鳴らす。
魔除けの霊気を込められた鈴がいつもより反応しているようだった。
琉嬉は札を数枚、空中に制御し、いつでも攻撃されてもいいように備える。
(…どっから狙う…?)
キラっと、何かが光る。
琉嬉はそれに反応し、空中制御していた札で受け止める。
(これは…妖気の弾?フフ、やる気だね!)
他に制御してた札を一斉に木々が集まっている部分に放つ。
ドドンッと音と共に爆風が巻き上がる。
雪があるせいか、一瞬吹雪のように雪が舞い上がる。
尚も、琉嬉は油断せずにその場から走り出し、間合いを取る。
「お見通し…だっ!」
一瞬見えた黒い人影に向かってとび蹴りを放つ。
「くっ!」
だが、簡単に弾かれる。
狙いは完璧だったのに。
跳ね返されたが、バランス崩すことなく着地する。
「…もしかして、半妖がうろついてるって聞いたけど…もしかしてお前か?壬珠」
「……驚いたな。まさかこんな所で再会するとはな。人間の子供」
「子供言うなっ」
現れたのは、壬珠だった。
京都にて、結界が解けて現れた猫の妖怪の壬珠だった。
「…凄い殺意みたいの感じたけど」
「……内に秘める霊気を持つ人間を感じたもんでな。まさか、お前だったとは」
「ふぅん……そういうコトか…(しかし…この猫妖怪、…なるほどね)」
琉嬉は何か感じ取った。
「壬珠…お前、例の半妖達の組織の一員だろ?」
「……だったら?どうするの?」
「…いや、半妖のヤツらに、ケンカ売られたからさ…だったら買おうかなって思って」
「……見た目に反して喧嘩っ早い女だな」
「それはよく言われる」
妙に、息苦しい空気に変わっていくのがお互いに分かる。
(この猫さん…普通の妖怪じゃないな…。どっちかというと…僕達に近い、霊感知に長けてるタイプだな…」
一瞬のぶつかり合いで分かった琉嬉。
一番、戦いたくないタイプだ。
以前、護や叉羅沙とガチ勝負をしている。
護に関しては「真霊気」を使っている。
あの時は琉嬉自身も今よりはレベルが低かったのもあるのだが、戦いにくい相手。
ましてや、ふかしぎ部複数人で戦ったのに、1人で相手した壬珠。
強さはかなりのものだ。
琉嬉1人でどうにか出来るのか…。
「とりあえず、さ。答えてくんない?」
「何をだ?」
「半妖の組織……何を企んでる?」
「……さあな?私の知らない所で他の者が勝手にやってる話しだろう。私は主のために動いてるに過ぎん」
「…主?……ボスがいるのか」
「……たてつく気ならば、容赦はせん」
「はぁーっ?まったく…こう堅物は…」
だんだんイライラが募っていく琉嬉。
自分自身でも分かる、堪忍袋の緒が切れそうだってコトが。
「まったく……面倒が重なりまくるな…。霊術会もそりゃ本格的に動くよね」
桜月梓葉の顔を一瞬思い浮かべる。
「……さあ、やる気か?」
「…やったろうじゃんか!!」
短気な琉嬉は感情に任せて、攻撃を仕掛け始める。
「せいっ!」
ありったけの札を壬珠に投げつける。
弾幕代わりに沢山放つ。
それを軽々と避けていく壬珠。
「当たるとは思ってないよ!」
さらに、琉嬉は大きな術を繰り出す。
「空翔符!」
切り裂き能力のある、札の術を解き放つ。
「フン!」
壬珠は防御のバリアを作り出し攻撃を受け止める。
この一瞬で遅れも取ることなく術を負けすに繰り出している。
動きだけで熟練した、戦い方を見せていく。
「なら、これはどう?」
水がほとばしる、札攻撃。
雪が多いためかいつもより強めだ。
「そのような攻撃なんぞ…!」
見事にかいくぐり琉嬉の目の前まで接近する。
「やるな!」
琉嬉の腹目掛けた拳を放つが、琉嬉は後ろに飛び込み、直撃を避ける。
かすったような当たり。
「まだまだ!!」
さらに追い詰める壬珠。
(…く、動きが半端ない!さすが猫妖怪…)
体術で攻めて行く壬珠。体の小さい琉嬉は格闘では不利な場面が多い。
(この子供…並みの術者とはかけ離れた動きをする…!)
しばらく凄まじい攻防が展開される。
お互いに駆け引きを取るように、今一歩踏み出すことのない攻撃を出していく。
(さて…そろそろ狙いますか…)
琉嬉が不適の笑みを一瞬浮かべる。
その様子を見逃さなかった壬珠。
「……もらった!」
琉嬉は壬珠の足元に向かって札を放つ。
壬珠はもちろん、避ける。
「フッ、何を狙うのかと思えば…」
飛んだ所を狙う琉嬉。
強力な符が壬珠を狙う。
「そんなところだと思ったよ!!」
壬珠は両手から強力な妖気を繰り出す。
符をことごとく焼き払う。
「無駄だな!子供よ!」
「だから何?」
「む?!」
琉嬉の狙いはそれではなかった。
壬珠が飛んだポイントから、霊気の柱が下から急に飛び出してきた。
それにぶつかってしまう壬珠。
「ぐっ?!」
だが、またしても直撃をしなかった。
「んなっ、命中し損なったか~」
残念そうに悔しがる琉嬉。
「……なんという一人連携だ…」
壬珠の腕が少し焦げたようにダメージを受けている。
とっさに両手でガードしたようだ。
「あーあ、せっかく当たると思ったのに…。なんちゅー反応だよ。さすが猫だね…」
(………この人間の娘…。もしかして予め仕込んどいたのか…)
壬珠が飛んでいく場所まで計算していたのかは不明だが、琉嬉はどうやら予め、符を地面に仕込んでおいたようだった。
もしかしたら、そこら中に陣も組み込んでいるのかもしれない。
そう思い壬珠は少し、後ろに下がり間合いを取る。
(フム……。この小娘……。危険だな…。しかし………ここでは…)
何かに気づいたように、その場からさらに下がる壬珠。
その行動にもちろん気づいている琉嬉。
(……ん…?退くか…)
とにかく、琉嬉も油断しないように符に霊気を込めて空中制御を取る。
いつでも攻撃や防御が出来るように。
(まともにやり合っては簡単に行かない相手か…やるな。彼方家の人間め)
壬珠は飛び上がり、木の枝に移動する。
「ん?やっぱ逃げる?」
少し、嫌味含んだ言い方の琉嬉。
「まあ、そうだな。ここはおとなしく逃げとくさ」
あっさりと身を引く壬珠。
「あ、コラ!待て!!」
逃がさぬよう空中制御しておいた符を一斉に壬珠に向けて攻撃する。
「フッ、次会う時を楽しみにしとくよ!」
そう言うと、森中奥に姿をくらます。
符攻撃も追いつく事もなく、素早い動きであっという間に奥へと消えていった。
「むぅ…逃げ足の速い…。さすが猫…」
一瞬にして、虚しさが琉嬉に襲い掛かる。
「くっそー!なんなんだ!まったく…!」
やり場のない怒りだけこみ上げる始末。
琉嬉は単に運が悪かったのかもしれない。
地面に積もった雪をおもいっきり蹴り上げる。
「なんだって…旅行に来てまで半妖の奴等と、戦わないといけないんだ…まったくまったくー…」
お得意のブツクサ言いながら帰ってくる琉嬉。
「お帰りー琉嬉姉」
「…どうしたの?機嫌悪そうだけど?」
「…実はね…」
先ほどの出来事を琉嬉は悠飛達に話した。
「なるほどね…雪女達も仲間に引き入れようとしてたって事か…」
「もしかして、日本中の半妖達を仲間にしようとしてるのかな?」
「かもしれないね」
みんなして、腕を組み、ため息をつく。
この先の事が思いやられるのだろう、と。
そう考えたからだ。
「そもそもその猫の妖怪も半妖の一員?」
悠飛が聞く。
「いや、そうとは答えてなかったし、主がどうのこうのって言ってたな」
「ふむ?主とな?」
來魅が暖かい缶のココアを飲む。
「美味しい?」
「美味であるぞ」
「おー、いいねぇ」
緊張感のない紫音。
「半妖と関係あるのかどうか…」
「それより、早く帰ろうか。みんな待ってるかもよ」
「そだね」
親達が待つ旅館へ戻る琉嬉達。
とりあえず、余計な戦いがあったが、目的の一つは達成した。
「わぁー!すごーい!」
早速琉嬉達は温泉へ入るところだった。
「紫音!走ったら転ぶよ!」
「へーい!!」
落ち着きのない紫音。続いて來魅も走って行く。
「ま、冬道の歩いた汗を流すにはいいよね」
先ほどの怒りはどこへ。
琉嬉は珍しくにこやかな笑顔を見せながら湯船へ浸かる。
「ほぅー、琉嬉のヤツ、珍しいのう。あんな笑顔もみせるんじゃな」
ちゃかり合流していた銀杏。
「風呂好きみたいだけどね。姉ちゃんは」
「ほう。そういえば、家でも何かと温泉の素を入れて楽しんでたな」
「風呂好きっというより、温泉好きなのかもね。しかし…」
銀杏の裸姿をまじまじとみつめる悠飛と莉音。
「ん?なんじゃ?」
「いや、なんでもない…」
「う、うん…」
「ふうん?」
莉音はそっと悠飛に話しかける。
「ねえねえ、銀杏サンって…胸大きいし、細くてスタイルいいよね…」
「…なんで、私に言うの?」
「…アハハ、なんでだろうね?」
こうして、彼方家の旅行は終わる…ハズだった。
雪女の里、そして突然の壬珠との遭遇。
旅行に来てまでややこしい展開の連続だった。
そして、残念ながら、この後もややこしい展開を待ち受けるのだった。




