#48 そして、年が明ける
今年も終わる、と、誰しもが思う大晦日。
一年の締めくくりだけあって、いろいろな場所が混雑したり一層賑やかになる。
この、独特の雰囲気はこの日ならではであろう。
琉嬉達彼方家は、父親の実家であるお寺の方へ帰って来た。
ほんの、3年程前一時的に住んでいたので、使っていた部屋などはほぼそのままの状態。
帰ってきてもすぐに住める状態ではある。
だから、変に荷物は大して多くは無い。
と、いいたいのだが…琉嬉はどうせ暇だろうし、という考えで沢山のゲーム機やらソフトを持ってきていた。
慌しい12月も終わりを告げ、新年を迎える準備の日。
お寺ではあるので、重要な除夜の鐘の作業があるのだ。
そして今回は、復活した最強級妖怪の來魅と、それと同等とも言われる妖怪の銀杏もいるという不思議な状況だ。
「またここに来たのう」
何度か来てるのだが、まだどこか新鮮さが來魅にとってはある。
「わしは初めてじゃ。ほうほう。これが噂の名高い彼方家の緋黄寺か~。中々大きいんじゃな」
「……結構~、こういう世界では力強い方らしいけどね」
将来を背負って立つであろう琉嬉はどこか無関心。
「なるほどのう」
周りを見渡しながら境内に入って行く。
すっかり真っ白に覆われたお寺。
これはこれで、中々芸術的な風景を醸し出している。
これぞ、日本の冬といった景色だ。
「ただいま~」
元気よく入って行く導。
自分の生まれ育った場所だからテンションも上がる。
「おお、お帰り~!」
祖父の炎良が導以上なテンションで出迎える。
琉嬉をみつけるやいなや軽々とすぐ抱きかかえる。
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいから毎回抱っこはやめてくれないかな…じいちゃん」
「ハハハ、そうか?」
ひょいっと降ろす。
「やおー、炎良」
「おー、來魅ちゃん」
そして來魅も抱き上げる。
來魅はなぜか嫌がらない。
抱き上げたまま新たな顔に気づく。
「お、こちらの派手な髪色のお嬢さんは…例の狸さんか?」
銀杏の方へ目線を向ける。
「ウム。高貴なる妖怪じゃ。よろしくの」
「ふむふむ、なんか気の強そうなお嬢さんだ」
「こう見えても100年以上生きておるからな。ここにいる誰よりも年上じゃ。ま、生きてる妖怪の中では年齢的にはまだまだじゃがな」
どこか、こう変に威張るような態度。
「ほう~そうか~。しかし若々しいなあ」
ぴちぴちの若い10代くらいの女の子にしか見えない。
妖怪の割には若すぎるような気もしないでもない。
寿命が普通の妖怪より長いのだろうか?
いろいろと会話をし始める。
「しかしまた…異国のお嬢さんみたいな子だなぁ」
しつこくまじまじと銀杏の事を見ている。
「むむ…。(じいちゃんの目線がなんかいやらしいぞ)」
「まあまあ、中にお入り。寒いだろう」
「お帰り」
「おっかえり~!」
天と紫音も出迎える。
「あれ、莉音と三月おばさんは?」
「んー。お母さんは台所にいるよ。莉音は出かけてる」
「あ、そうなんだ」
どうやら莉音は珍しく出かけてるようである。
普段おとなしいが、ああみえても人間関係は良好らしく、ちょくちょくクラスメイトと遊んでるとの話。
「しっかし…お主は…紫音なのか。まだどっちがどっちだか分からんな」
「ふふー。來魅ちゃん。まだまだだね。実は私が莉音なのだよ」
「ぬっ!?そうなのか?!」
「違う違う。騙されるな來魅」
「おおぅ?!」
莉音も紫音も性格以外は見た目はほとんど一緒である。
髪型も体格もまったく同じなので來魅には見分けがまだついてなかったようだ。
「ん?お主は双子なのか?」
「そだよー」
両手腰に当ててふんぞり返る紫音。
銀杏はまだよく分かってないようだ。
「この前みゆの家で会っただろ?」
「そうじゃったかの…?」
「意外と物覚え悪いんだな…」
「む?あの時は人数が多すぎてだな…」
「あー。たしかに…みゆの家の使用人とかも一杯居てゴチャゴチャしてたからね…」
「人混みは苦手じゃ」
「…人混みという程人は居なかったと思うがな」
來魅はいつの間にか手に持っていた御煎餅を食す。
「って、コトで、大丈夫かい?」
「問題ないよ」
導と天の大人同士の会話。
といっても怪しい会話ではない。
年明けすぐに家族での旅行の話だ。
一度寺に帰ってきたのもこの企画のためでもある。
「ま、一泊になっちゃたのは残念だけどね」
「仕方ないさ。俺も仕事あるし。親父一人…でもないけど、寺に残すのも不安だしな」
「…違う意味ででしょ?」
家庭を持ったとはいえ、仲が良い兄弟。
会話も幾分はずむ。
「おとうさーん、買物行くけどー、どうします?」
声の主は三月だ。どうやら天に向かって言ってるらしい。
「うーん、これからちょっとやらなきゃいけん仕事あるしなぁ」
「この時期は忙しいね、兄さん。いいよ、代わりに僕が行ってあげるよ」
「ああ、そうか。すまないな」
大人数だから、買物の量も半端ない。
お寺の若い衆も含めると20人以上いる。
人手が少しでも多い方が良いという事で、買物には琉嬉ら子供らも付き添う事になった。
「んじゃ、來魅ちゃんらは私と遊ぼう!」
「おう、何して遊ぶんだ?げーむか?」
紫音と來魅、銀杏はお留守番。
「…わしはこの辺を散歩でもしてくるかのう」
そう言ってお寺から出ていく銀杏。
自分の知らない土地に来ると何かと周辺探索したくなるようだ。
琉嬉達の町に来た時も町内をいつも散歩していた。
琉嬉と悠飛、導に嶺珠、三月は買い出しに出かける。
なんの変哲もない、普通の家族みたいだ。
「ほら、行くよ姉ちゃん」
「あ、ちょ、待ってってば」
慌てて出て行く。
所変わって、他のメンバーの大晦日。
護は一人寂しそうに街中を歩いていた。
身寄りになる親戚など、あまり関わりがないのか、この若さで一人。
(はぁ~。今年も一人か…。寂しいねぇ~。あたしは)
トボトボ歩く護。
大晦日だけあっていろんなお店が活気付いている。
近所のスーパーで買い物をしてきたのだが、かなり混んでいた。
それもどこか楽しそうな家族やら何やら…。
(……気が滅入りそう……)
せめてものと思い買ってきたのは年越し用の蕎麦。
それもカップ麺程度のもの。
(…うう、虚しい……)
こういう日に限ってやたらと天気が良かったりする。
すっかり雪景色なのだが、それを相反するように綺麗な青空。
なんとも見事は空色だ。
スっと携帯電話を取り出す。
そして意味もなく電話帳を見る。
(……琉嬉ちゃん達はお父さんの帰省に伴い居ないだろう…。來魅ちゃんも銀杏ちゃんも一緒について行ったていうしなぁ。
みゆも多分盛大に年越しするんだろう。
みこっちゃんもゆずにゃんも家族のとこあるし、耿助さんも神社で忙しそうだし…。
まどかちゃんも龍翔君も同じく、家族で過ごすらしいし。
寧音ちゃんも本家に行くとかなんとか…五大家も大変だね。
…凛夢ちゃんは…今住んでる家で過ごすって言ってたなぁ…)
ここでふと、ある人物に気づき、電話を早速かける。
「やっほー?叉羅沙ー?わたくしだよー、護さんだよー」
『もしもしー、護はんどすか?なぜに急に電話を…』
「ねえねえ、叉羅沙ってさー、年越しはどうするの?」
『…どないしはるって、まあ、一人やけど…』
「じゃあ、私と一緒に過ごそう!」
『…………へ?』
しばらく沈黙の後、思わず出てしまった変な声。
「今さー、街中なんだけど、叉羅沙も来れる?」
『あ、いや…なぜに?』
「いいからいいから。寂しい者同士、一緒に遊びましょ」
こうして、護は一人を回避したのだ。
「はぁー、今年が終わるかー…」
ぽけーっと窓の外の何もない風景を眺めている。
凛夢は何も考えず窓の外を見ている。
引越ししてさらに引越し。
大変な一年だったと自負する。
たらい回し……でもないが、親戚の家を転々としていた。
みゆの進めもあって現在の街へやって来た。
しばらくこの街で滞在する事になるだろうと思いつつ、新年を迎える。
「暇……」
夜まで何もする事がない。
ということでフラっと街中へ出発する。
朝から準備に追われている、明黄麟神社。
初詣のための準備が毎年の事ながら、忙しくもありながら楽しい一時でもある。
宮司を務める耿助はてんやわんや状態だった。
まだ若いので何かと経験不足が身に染みてくる。
一応、巫女バイトも雇っているのだが、どうも事が上手いこといかないようだ。
「一年前は…いろいろ手助けしてくれたけど…今回はいないからなぁ…大変ですね。これ」
ニコニコしながらも汗がにじみ出ている表情。
去年までは、先代の宮司もいたのだが今年は体調不良のためいない。
結局他の親戚にも手伝ってもらっているが、どうも仕事内容は完璧ではないためてこずる。
毎年のように、参拝客がどんどん増えているという状態。
地域全体が発展していってるので人口が増えているのだ。
そのおかげでもあるのだが、嬉しい反面辛さも増えている模様。
よっぽどの事ない限りこういう年間行事を人生終えるまで続けていく。
神社の家に生まれたという誇りでもあるのだ。
「はぁ…ふかしぎ部の皆さんにも手伝ってもらえれば…」
「ふかしぎぶ?」
お手伝いさんが近くにいた。
「あ、いえ、何でもありませんよ。あはは」
笑って誤魔化す。
得意技だ。
「さて、次は……」
手の休まる暇が無い。
猫の手も借りたい…いや、狐の手も借りたい。
そんな気持ちだった。
「今年も暮れるなー、なあ遊希」
「はい。龍翔様」
こちらは、龍翔が住む屋敷。
あまり知られてないがみゆ程でもないにしろ、いいところのおぼっちゃんなのだ。
無論、それも表向き。
昔から代々伝わる陰陽師の家系で、土地成金みたいな感じなのだ。
「強烈な一年だったな…今年は」
「そうです…ね」
遊希も姿を出している。
「ふかしぎ部ねぇ…。来年もやるんだろうな」
「………」
そう言う龍翔は終始笑顔だ。
「龍翔様」
「ん?」
「私はずっと着いていきますからね」
「なんだ?突然?」
無言で龍翔の隣にいる。
「あー、さみーなー。今外何度なんだろうな」
「氷点下だそうです」
「……そっか」
すっかり冷えた廊下を歩きながら、寂しそうな背中をみつめる遊希。
「でも、ま、あと一年以上あるしな」
そっと、遊希の肩を近くに寄せる。
「ここにいても寒いだろ、部屋に戻ろうぜ」
「ハイ…」
結局いちゃいちゃしていたのだった。
ひっそりとした少し田園風景がある筈の場所。
雪が積もってただの白いじゅうたん化している。
その中の小さな一軒家。
柚羽宅である。
「はい、お母さん。準備出来たよ」
柚羽が支度していたのは、蕎麦のつゆ。
あとは蕎麦の麺を入れるだけ。
料理も慣れた手つきで作るのが上手い。
「あら、おいしいわね。ゆずちゃん、いいお嫁さんになるといいわね」
「お母さん…まだそんな話早いよ」
「フフ、またまたー」
柚羽の父親はがしゃどくろの時に取り込まれて命自体を落としてしまっている。
現在は母子家庭。
母親元の実家の所には帰らずこのまま二人で過ごすようだった。
「今年は…いろいろあったなぁ…。来年もいい年になるといいなぁ」
「そうねえ…」
母親も柚羽や父親程でもないが、霊感持ちである。
学校などで起きた事は全部知っている数少ない人物の一人である。
「どれも琉嬉先輩達のおかげかな」
少し手を休め、小休憩しながらしばしこの一年を振り返っていた。
「何より…お父さんの仇を取れてよかった…」
柚羽の目には少し涙が浮かんでいた。
「そうね…。ゆずちゃん…頑張ったから…」
「…えへへ。さ、頑張って、来年もみんなと仲良くするよ」
「なぁなぁ、阮醐のおっさん。今日で一年終わるよー?」
「うむ?そういえばそうだな。どれ、買い出しにも出かけるか」
「…金あんのかよ?」
こちらは久しぶり萩厘と阮醐。
何かと貧乏っぽい暮らしをしている妖怪の阮醐。
必要最低限の暮らしをしているだけに、若い妖怪の萩厘には理解し難い事だった。
「金か?金なら…それなりだな」
一応、それなりの金は貯めこんでいるらしい。
顔をポリポリかきながら言う。
巨体をヌゥっとお越し、外に出て行く。
「さっみー」
「犬のくせに寒がるのか?」
「寒いもんは寒いんだよぉー。おっさんみたいに筋肉という厚さに覆われてるわけでもないし。
つか、犬が寒くないってコトはないだろう~」
「フ、よく言うやつだ」
「くっそー、なんでこんなムサイおやじと一緒に過ごさなきゃいけないんだ…俺には、こう、かわいい女の子と…」
「なーにブツクサ言っておる。行くぞ」
「ちょ、俺もかよー?!」
軽々と掴みあげては山里に下りていく。
「あ、莉音!」
近くの大型スーパーに来ていた彼方一家。
悠飛が莉音の姿を見つけ、声をかける。
「あー、悠飛ちゃーん」
「な、なんだその気が抜けるような声は…」
「迷っちゃって……」
「お前…地元民だろう…」
どこか、紫音とは違うマイペースさを持ち合わせている。
「あれ、なんで莉音がいるの?」
「あ、それはおばさんが連絡したからよ。買物に来てーって」
三月が明るく言う。
どうしても人手が欲しかったようだ。
それも我が娘を使ってでも。
「…それなら、他の僧の人達でも良かったんじゃないの?」
「いやいや、今の時間帯忙しくてね~」
「ふーむ…」
「半分くらいは実家に帰っちゃってる人もいるし」
「あ、そだったけ」
「入れ替わりで戻ってきて、次の半分の人が帰るのよ」
少しだけ住んでたとはいえ、あまりお寺の事を知らない。
むしろ知らな過ぎる。
ただ、若い弟子達は優遇が効くらしく、帰る人は帰れるとかなんとか。
修行僧が多いため、こうした処置が取れるのだ。
「さてさて、琉嬉ちゃんと悠飛ちゃん、何食べたい?」
「肉ー」
琉嬉はいち早く答える。
体格に似合わず肉好きなのだ。
「私は、お刺身が食べたいかなぁ」
「おっけー。今日はがんばって作るわよ」
やる気を見せる三月。
「普段、結構やっつけのくせに…」
ボソっと珍しく毒をはく莉音。
「何か言ったかしら?莉音ちゃん?」
「何も言ってないよ。フフ」
「フフフフフ」
(この親子…腹黒さがにじみ出ている…)
どうやら、莉音の隠された腹黒さは親譲りのようだ。
人通りが多くなってきた鞍光市の中央駅前通り。
時間が時間だけに、仕事帰りなどの人達で多くなるのだが、目に付くのは旅行風な姿もチラホラ。
おそらく里帰りの人達だろう。
かなり混雑している。
そんな中、一際目立つポニーテール状の髪型の頭一個分大きい姿が。
叉羅沙である。
「ほはー。なんや、こんな時間に呼び出してー」
「やっほー。叉羅沙ー」
護に呼び出された叉羅沙は少し不満げだった。
かといって、別にこれから用事もある訳でもないし実家に帰る事も無い。
すこーしばかり、複雑な気持ちだ。
「いやいやいやー。お互いに、若い娘が一人で年越しなんて、寂しいじゃん?寂しい者同士、いいじゃない?」
「……ま、否定できんけどねぇ……」
細い目がさらに細くしかめる。
「で、どうしようか?」
「どうするって、何がどすか?」
「…いや、どこに遊びに行こうかなって」
「遊びにって…。うーん…」
「冬だしねぇー。とりあえずゲーセンでも行く?」
「…なんでや」
言われるがまま、叉羅沙も渋々付き合う。
大晦日の日でだろうが、関係ないような人達なのだろかというくらい意外に混んでいる。
実際、特別な日でもないのでただの休日みたいな人もいる。
「…何が楽しくて、女二人でゲームセンターなんて…虚しい…」
いつもよりゴチャゴチャした感のなる店内。
「…………ま、一人でいるよりはええか…」
少しでも前向きに考えていかないとやりきれない。
この若い年齢で独り身。
自分の選んだ道とはいえ、仕方ない。
そこで、ふと思いつく。
「ゲーセンといえば……」
すばやい動きで護は店内の奥の方へと進んでいく。
「あ、護はん。どこへ…て、早っ」
「ほーら、やっぱり居た~」
「…………な、何で見つけるんですかっ!」
案の定というか、やっぱり凛夢が居た。
いつものように暇になるとゲームセンターに来ては格闘ゲームをやっている。
「家でも出来るじゃないの?今の時代ならさ、オンライン対戦~って」
「…そうなんですけど…こういう雰囲気が好きなんですよ」
「ふーん。ゲーマー気質ってやつかー」
「琉嬉じゃないけど……そんなとこです」
「そうなん…?」
解ってるのか解ってないのか…護はいつも謎の発言をする。
叉羅沙にはまったく理解できなかった。
「で、どうしたんです?一体…」
「どうしたって…暇だからね。凛夢ちゃんも一緒にどう?」
「…………なるほど」
詳しく聞かなくとも、凛夢は薄々納得する。
少しの間凛夢は腕を組み考える。
そして、考えた結果、出した答え。
「…どうです?私の家にでも」
「え?」
「え?」
それは、凛夢からのお誘いの言葉だった。
「という訳でお邪魔しまーす」
「…どうも」
「あらあら、凛夢ちゃんがお友達を連れてくるなんて…」
「……おばさん…いいから」
照れる凛夢。
「今日はこの家もにぎやかになるわねえ」
こうして護と叉羅沙は凛夢の今住んでいる家にやってきた。
このまま年越しをするそうだ。
たまにはこういうのもいい…と、凛夢は考えていた。
「おお?なんだなんだ?凛夢のお友達かい?おお、でかいな…」
叉羅沙の背の高さを見て驚く。
「おじさん…すいません。ちょっとにぎやかで…」
「ハハハ。いい事じゃないか。お友達と過ごすのも」
「ですよね~?よし、じゃ、凛夢ちゃんのお部屋へれっつごー!」
「あ、ちょ…それは待ってください…!」
「…あの子は…外国の子?」
「さぁ?」
ドタバタ一気ににぎやかになる。
いつもなら静かな家。
凛夢自身も騒がしいタイプでもないのでこういうのは非常に珍しい。
「ほんま、申し訳ないどす。では」
大の大人の男性より頭一個分背が大きい叉羅沙。
その見た目裏腹に長い髪の毛をなびかせ凛夢達の後に続く。
「随分大きい女の子だな…」
「京言葉みたいの喋ってたわねぇ」
「地元から離れて住んでるのかな?ま、何より凛夢がいろんな友達を連れてくるようになったなんてな…」
「本家もいろいろあったから…良かったわ」
「そうだな…」
凛夢を現段階で引き取ったような形となった夫妻。
水無月家の遠縁だけあって、多少なりの霊力関係の事は知りえている。
とはいえ、普通の人間と変わらないのだが、理解は得ている。
本家の出来事ももちろん知っているわけである。
「さあさあ、ご飯の支度しなきゃ」
二階からドタドタ物音がする。
「…なんだか、激しいなぁ…」
こちらまた変わってとあるマンションのひとつ。
御琴は家族とマンションでの暮らしだった。
そして、自分の部屋でゴロゴロしている。
特にやる事もなく、いつものように。
そんな中、スマホに連絡アプリから通話が来る。
(ん…?なんだろ。誰かな)
画面を開いて、メールを開封する。
みゆからだった。
(……えーと、何々…?今年一年ありがとうみこっちゃん。来年もよろしくね~。初詣行くの?行くのなら一緒に行こうよ~
耿助さんの神社へ行こう~。って……これは…お誘い?!)
妙にテンションがあがる。
が、不安もあがる。
(…今日は家族で過ごして、明日はみゆちゃんと初詣デートか~。って、あれ?なんで僕こんなに嬉しがってるんだろ?)
しかし、そのニヤニヤは止まらない。
いつの間にか、二人の距離が縮まっていたようだ。
そして、みゆの住む屋敷では盛大な年越しパーティとなっていた。
各その世界ではの著名人や財界有名人も参加している。
よっぽどの重要的な有名な港咲家なようだ。
「やほー。正木さーん」
「お嬢様。どうなされたのですか?パーティの方は…?」
「えへへへー。飽きたからこっち来ちゃった」
正木さんら、使用人達も別部屋で打ち上げみたいに盛り上がっていた。
メインパーティの方を抜け出してやって来た。
「みんなー、今年一年ありがとう~。来年もよろしくねっ」
「みゆお嬢様…こちらこそ。これからもよろしくお願いします」
訳の分からん大人達と居るより、普段から顔合わせているメンバーの方と一緒に過ごす方が楽しいに決まっている。
みゆは、いつもいつも、楽しいコトを優先する。
「さてさて、来年も忙しくなるだろうしね~」
実は誰よりも先を見据えている。
半妖の事や、まだ解決していないであろう怪奇事件の類の物。
みゆもまた、家系柄、そういう力を持つ一族として油断はしないつもりだ。
(でも、今だけはいーっぱい、楽しんでいいよね?琉嬉先輩、みこっちゃん)
車から飛び降りるような恰好で琉嬉が勢いよく出てくる。
着地と同時にぼふっと粉のような雪が舞う。
「子供じゃん姉ちゃん…」
「うるさい」
車の後ろに回って、荷物を降ろす。
もう一台の車も止まる。
「元気ねぇ」
三月の運転する車。
こちらにも買い物袋が大量。
「沢山だのう」
來魅らが出迎える。
「來魅ちゃんも手伝って、ホラ」
「ほいほい」
紫音が來魅に重たい袋を渡す。
だがそれを軽々と受け取る。
「力仕事でも頼もしいやっちゃ」
横目で見てる琉嬉。
「そういう姉ちゃんも軽々しく持っていくよね」
「子供じゃないんだから」
「はいはい」
彼方家に戻って、ようやく食事の準備を進める。
なんせ、人数が多いので量も沢山で大変だ。
母親らと一緒に悠飛や莉音らも手伝う。
「悠飛ちゃん…手際いいわねぇ。いいお嫁さんなるよ~」
「え…?そ、そうですか…?ははは…」
三月に褒められかなり照れる悠飛。
普段から男だの、琉嬉の弟だの言われるのでお嫁さんなどという単語に気恥ずかしい気持ちになる。
そんなんで豪華な料理が出来あがっていく。
「いちおー、私も手伝ってるのだぞ」
「ふふ、來魅ちゃんも有難うね」
「お前は野菜の皮剥いてるだけだろ…」
悪態つく琉嬉。
「あら、それだけでも効率があがるのよ」
「そうだそうだ」
「…むぅ」
ふくれっ面の琉嬉。
「可愛いお顔が台無しだよ~」
ほっぺをつつく嶺珠。
「母さん!」
「仲の良い親子じゃな」
銀杏がいつの間にか帰って来ていた。
薄っすらと赤い顔している。
相当寒かったようだ。
「いやはや、こっちは寒いよのう」
「風強いよね、海近いから」
莉音が気を利かして暖かいお茶を渡す。
「うむ。すまぬ」
「鞍光よりは気温自体はマシだけどね」
そっけなく言う莉音。
「どっちもどっちじゃ」
ずずっと飲み干す。
鞍光市から遠く離れた場所。
夜栄守家の本家がある関東某所。
寧音は年越しのために本家へ来ていた。
大きな敷地、大きな建物が何軒もある。
どれがメインの建物なのか分からないくらいだ。
大きな壁伝いにようやく着いた正面入り口。
立派な構えだ。
こちらは雪は降っていない。
寒さもそこまで冷える事もなく、寒さに慣れてる寧音にとっては大したものではない。
「お帰りなさいませ。寧音様」
使用人だろうか。
一人の着物姿の女性が出迎える。
「こんにちは」
寧音は何処にでもいそうな、地味めなコート。
それを預けて中に入る。
「よっ。お久しぶり」
気前よく手を挙げて挨拶してくる、銀髪のスラっとした着物姿の人物。
肩くらいまで伸びた髪。
寧音とは違うタイプの、少し明るめの銀髪だ。
「お久しぶりです。当主」
「当主はやめてくれ。名前があるんだから名前で呼べ。「咲希璃」と」
「ええ、咲希璃様」
「様もやめろ」
「咲希璃さん」
にっこりと微笑みながらわざとらしくゆっくり言う寧音。
「……相変わらずだな、お前さん…」
夜栄守咲希璃―――。
五大家のひとつである、夜栄守家の若き当主。
現在高校二年生。
ぶっきらぼうな喋り方だが、綺麗な顔立ちで中世的だが、女性である。
大人びた雰囲気を持っている。
「同い年なんだから丁寧な言葉で話しかけるな」
「んー、それは無理ですよー。昔からのクセだし」
眼鏡を一旦取って、曇ったレンズをハンカチで拭う。
「…学校でもそんな感じなのか?」
「そうですよ♪」
そして眼鏡をかけ直す。
「………表情、明るくなったな。寧音」
「そうですか~?」
スマホを取り出し画面を確認する。
「神社の方も来てるぞ」
「え、そうなんですか?」
「…まったく。親はどうした?」
「後で来ますよ。私だけどうせ暇なので先に来ちゃいました」
「………マイペースというか、なんというか…。
それは置いといて、話はいろいろ聞いてるぞ」
「何がですか?」
しらばっくれるように言う寧音。
「…「ふかしぎ部」。楽しそうだな。それも五大家が揃ってるんだって?」
「ええ、そうですよ」
躊躇なく答える。
スマホをポケットに入れて、建物奥へ案内されるがまま進む。
「………しかし奇妙な街だな。鞍光市って」
「そうですか?私は生まれて方ずっと鞍光ですから」
「そうだったな」
咲希璃は腕を組んだまま歩く。
寧音の顔を見る。
「どうしたんですか?」
「………楽しそうだなって」
「ええ、楽しいですよ。今度縁があったらふかしぎ部の皆さんご紹介しますね」
「……フッ、お前がそう自信持っていうのは…直系達にも劣らずか」
「どうでしょう?」
「その笑みが答えを出してるよ」
立派なお皿に盛りづけられた美味しそうな食べ物達。
一所懸命運ぶ琉嬉達。
「ほぅ、これはいつになく素晴らしい出来だな」
どうやら、例年以上に豪華のようだ。
今回は特別なゲストで來魅と銀杏もいる。
ぞろぞろと集まってくる。
結構な大人数に膨れ上がる。
お弟子さんも集まって20名以上集まる。
「おお、すごい人数じゃな」
「いつも孤独の銀杏には分からんだろうな」
「むむ…お前も似たようなもんじゃったろうが」
「今は違うからいいんだよ。さて、飲むぞ飲むぞー」
今回の年越しは最強妖怪も交えての宴。
ここぞとばかりに、炎良が乾杯の音頭をとる。
「はてさて、今年もいろいろあったが、来年も良い年になると良いな、かんぱいー!!」
「かんぱーい!!」
「おい、來魅、お前酒なんか飲んでいいのかよ」
「なーに言っておる。私は妖怪だぞ~。こう見えても150歳以上なんだ。問題ない…」
と、言いながら、既にほろ酔い状態。
「…ちなみに、わしの方が年上じゃからな。実働はな」
「はいはい。それは分かってるよ」
どう見ても10代くらいの女の子にしか見えない二人が、誰よりも年上なのがなんだか納得いかない琉嬉。
二人の大妖怪はどう見ても子供くらいにしか見えないからだ。
「琉嬉姉っ食べてる?食べないと大きくならないよ!」
「うっせぇ!余計なお世話だっての!」
「えへへー」
無駄にテンションの高い紫音。
必要以上に絡んでくる。
未成年なので酒を飲んでる訳でもないのにやたらと変なテンションだ。
その横の莉音は大人しく食事をしている。
時折、悠飛と何か会話をする。
大人しい者同士気が合うのだろう。
「はぁー、来年度は…こいつらがうちの学校に来るのか…」
まだ完全決定ではないが、悠飛と莉音紫音は鞍光高校に通う事を決めていた。
おそらく問題なく受かるだろう。
にぎやかなのがまた入ってくるとなると、琉嬉のやすらぎが訪れることはない。
琉嬉や護達は今度3年生になる。(護は一つ留年者だが)
一番の上級生として、どんな学校生活になるか…。
少し不安もありながらも期待もある。
ポーカーフェイスな琉嬉でも内心、いろいろ不安がある。
「ぷふぅ……飲んだ飲んだぞぉ~…。にゃむむ…」
うつらうつらしてる來魅。
「子供の姿で酒飲む姿は…なんだかヤバイ気もするな…」
悠飛の膝枕で來魅がいい気持ちでいる。
その來魅の頭を撫で回す悠飛。
まるで兄妹のように仲が良い。
「ま、いいんじゃない?一応子供の姿でも年齢は子供じゃないし、精神年齢も大人だし」
「…そうか?すごい子供っぽい行動するけど…」
琉嬉は少し疑問に感じていたようだ。
双子姉妹は仲良く年越しまでのバラエティ番組を観ている。
親達も落ち着きながら居間でいろいろ会話しながらくつろいでいる。
どこにでもある、普通の家庭のように。
「お、そろそろ年が変わるぞ」
銀杏が時計を指さして言う。
「久々じゃな。こうやってにぎやかに年越しするのは」
「たまにはこういうのもいいんじゃない?」
「そうじゃな…」
スマホに着信が来ていた。
(…メールか?)
緋瑪斗からメールが来ていた。
今年もよろしくといった内容だ。
ただ、ちょっとだけフライングだ。
年明けまでまだ20分程ある。
「…よくもまあ、回線が混む時間帯に良く上手く送れたもんだね…」
よくある新年明けましておめでとうメールというやつだ。
だがその後に続く内容が、険しい内容だ。
その内容はこうだ。
『新年明けましておめでとうございます!また今年も修行等よろしくお願いします!
そこでですが、冬休み中に決心して、焔一族の里へ行こうかと思います!
出来れば琉嬉さんとご一緒したいのですが都合つかなければこちら一人ででも向かいます。
お金は…なんとかします。
こちらでも負担します…。
どうか、ケジメつけたいので、応援お願いしたいですが…
メールですみません。
後日一度直接話します。
それでは!』
(………なるほどね……)
「ぬ?どうしたんだ?お前様よ」
フラフラの來魅が琉嬉の隣にやってくる。
まぶたが今でも落ちそうだ。
「いや…緋瑪斗がな…」
「ん?」
「…焔一族の里へ目指すんだとさ」
「……ほぅ。焔一族とな」
「でも知らないだろ?」
「まぁな」
「丁度いいや。悠飛の事もあるだろうし」
「悠飛の事?」
意味深に言う。
「お前様はどうするんだ?ヒメトやらの事は?」
「んー、そうだなぁ。興味はあるんだけどね」
「ふむ…」
來魅は琉嬉の表情の変化に気づいていた。
少しもどかしいような、不安そうな。
でもなんとなく行きたい雰囲気を持っているのを察する。
「どれ。お前様が行くのなら私も付き合おうぞ」
「……その為にはお金が必要だなぁ~…」
そう言うと祖父の方を見る。
「んー?どうした?琉嬉ちゃん?」
普段見せない思いっきり強い笑顔を作る。
「あのさ、ちょっと友達と遠くの旅行行きたいから、お年玉ちょーだい」
にぱっとしながら言う。
「お年玉かぁ。まだまだ欲しい年頃か~」
言いながら立ち上がって奥へ行く。
するとすぐに大きな財布を持って出てくる。
「包むもんねえが…いいか?」
琉嬉の手に渡したのは、ほんの万札10枚程。
「おおぅ…ありがと、じいちゃん!」
遠慮なく頂く。
「ちょちょ、琉嬉ちゃん、父さん!そんな大金…」
その様子を見ていた導が驚く。
「なんだ?お前も欲しいのか?」
そしてなぜか導にも渡そうとする。
実際実の子供なのだからお年玉として渡してもおかしくはない…のかもしれないが。
「…だめだあのじじい本気で酔っぱらってるな」
天が大きなため息まじりで言い放つ。
「ほら、お前達も貰って来い」
「え?いいの?やったー」
そして娘二人の背中を押すように行かせる。
「…お寺ってそんなに儲かるのか?」
不思議そうに疑問に思う銀杏。
「……これでも五大家彼方の総本山だからね」
冷静に悠飛が言う。
本家から独立した形であれ、導側の方にも裏の仕事が舞い込む。
そこから流れてくる資金もそこそこあるという。
だから、導はフリーライターしがならも一軒家を買えた。
というのも導が裏の仕事でも稼ぎがあるからだ。
それだけ大人数の僧の弟子達も抱えてる。
お金が何かとかかるのもあるし、儲かるやりくりもしているのだ。
「ふむ。今後考えておこう。五大家と繋がりあると良い事がきっとあるな」
「…それって、港咲さんの事?」
「そうそう、あのちゃらんぽらんしたような娘っ子のな」
「夜栄守家も凄いって聞くしね。もしかしたら耿助さんもかなりのもんなんじゃないかな?車高そうだったし」
琉嬉が戻ってくる。
手には大量のお金のお札。
「ここは媚びを売っといてもいいようじゃな。うんうん」
強く頷く。
心に強く留めた銀杏であった。
彼方家もにぎやかだったが、凛夢宅もにぎやかだった。
「凛夢ちゃ~ん。そろそろ年変わるよ~」
「ふえ、あ、はい…」
護がゆすりながら凛夢を起こす。
どうやら一瞬寝てたようだ。
「フフフ。迂闊やな。凛夢ちゃん」
「…う、うるせぇ~。眠いのは眠いんだよぉ」
凛夢の部屋では護と叉羅沙。
「はしゃぎすぎたね~」
「ほんまやなぁ」
「次は琉嬉ちゃんとか、ふかしぎ部みんなで祝いたいなぁ」
「それは無理難題やでえ」
こちらはこちらで楽しそうだった。
「あらあらまぁ。そろそろ年明けますか…」
窓から外を覗いているのはまどか。
自宅にて、ゆっくり過ごしている。
(みなさん…楽しんで過ごしてるんでしょうね。ふふ)
琉嬉と同じ二年生。
来年度には三年生になる。
現状は引き続き生徒会長職を受け持つ予定だ。
どっちにしろ、後任を決めなければいけない。
霊力持ちがいいのか、それとも、「普通」の生徒でもいいのか。
立候補者が出るのだろうか。
しばし、悩みの種が残るのだが。
(う~ん……順当に行けば…まぁそれはおいおい考えましょうかね)
炭酸入りの缶ジュースを一気に飲み干す。
炭酸をものともせずに飲んでしまうという荒業を見せる。
「おいしぃ」
今は後任を考えずにゆっくりと年明けも楽しむのだった。
「3、2、1………新年明けましておめでとうございまーす!」
一気に盛り上がる瞬間。
紫音らにぎやか担当が一番ヒートアップする。
來魅も一緒に混ざって声を張り上げる。
何が楽しいのやら。
すっかり人間生活に慣れ親しんでる。
「うるさいなぁ…」
耳を塞ぎながらもお祝い事に参加している琉嬉。
お寺の人間らは忙しく、鐘鳴らしをしてたりしていた。
一方、お寺よりさらに大変そうなのが神社。
耿助は深夜にもかかわらず、初詣の客らを出迎える。
これからずーっと朝、昼間で途絶えることのない初詣客を快く迎えるのである。
「ひぃ~。これは大変ですね…」
耿助が思わず弱音を吐く。
宮司になってまだ間もない。
(こ、こんなに大変だったとは…。先代……凄い人ですねぇ…)
天を仰ぐように、夜空を見上げる。
「参堂さん、空を見てる場合じゃありませんよっ」
「あ、ええ。そうでしたね、すみません。今向かいます」
パタパタとまた走り出す。
(こんな姿ふかしぎ部の方達に見せられませんね)
大変そうながらも笑顔を絶やさない。
ある意味プロ根性。
耿助は忙しいながらも楽しそうだった。
日本全国で新年のお祝い。
琉嬉達も癒されながら、楽しみながら、ゆっくり過ごしていった。
この後、彼方家は小旅行へ出かける予定がある。
楽しい(?)日々はまだ続く………ハズ?




