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ふかしぎ真霊奇譚  作者: 猫音おる
第八章   ~冬季心霊編~
47/92

#47 クリスマス・ホラー 後編

 運命のクリスマス・イブである12月24日が来てしまった。

学校ではチラっと顔を合わせたふかしぎ部の面々。

何も言わないが、準備は出来てるのだろう。

そのまま午前の授業をいつものように終え、昼休みにパラパラと部室に集まってくる。


「しかし、クリスマスだってのにあたしらは何をやろうってのかねぇ」

 護が愚痴をこぼし始める。

「そうですね~。こういう日はあれでしょー?仲の良い恋人達が夜な夜なあつぅ~い時を過ごすのがクリスマスっていう…」

「下品っ」

 ぺちんっとみゆの頭を叩く琉嬉。

「いたぁう。もー。ところで、皆さんは彼氏いないんですかー?」

「………」

 全員反応なし。

どっちにしろ、みんなそんな相手なんぞいない生活。

返す言葉もなく黙り込むみんな。

「じゃ、じゃあなんだ!みゆはいるっての?!」

 なぜか焦るように質問を返す護。

「ふっふー。クリスマスはうちで盛大にパーティーするのですー。そしてイブの今日は終わったらみこっちゃんと遊ぶのだー」

「へ?」

 みんな唖然とする。

「ちょちょちょ!みゆちゃん何言ってるの?!僕そんな約束した覚えないぞーっ!」

 突然の発言になぜか御琴が驚く。

あたふたしながら両手で思いっきり否定ポーズをひたすら繰り返す。

「へへへー」

 冗談なのか、なんなのかヘラヘラ笑うみゆ。

「なんだ、そうなのか…驚いたー。付き合ってるのかと思ったよ」

「…まったく…」

 ほっとなでおろす御琴。

(コイツの言う事はいつも翻弄する事ばっか言うけど…多分、半分本気なんだろうな…)

 なーんとなく、琉嬉だけはみゆの言ってる事が理解出来つつあった。


「叉羅沙さんは何か予定あります?」

「…それをウチに聞くん?あんさんと同じようなもんやって」

「うふふ。それじゃ私と過ごしますか?」

「……どういう意味や」

 生徒会メンバーも何も予定なさそうだ。

だが、龍翔はというと。

「副会長は何か予定あるんですか?」

 どこか、裏がありそうな笑顔で聞くまどか。

「…別に何もないぜ…。家で過ごすと思うけどな」

「まーたまたー。先輩は遊希さんと過ごすんでしょ?」

 みゆがまた茶々を入れる。

「……あー、そうなるかもなー、って、オイ!!」

「ふひひー、サーセンー」

「あながちそうなのかもしれないんですね」

「まどか…。他人のそういう話は興味あるのもええけど、自分の事も気にせんのかいな」



「あ、みなさん…集まってましたか」

 ドアを静かに音を立てて入ってきたのは柚羽だった。

「おー、ゆずにゃーん」

「ゆずはちんー」

 護とみゆは独自の呼び方をする。

「ゆ、ゆずにゃんにゆずはちん…。ま、まあ、それはいいです。ところで…水無月さんは…?」

「後で来るってさ。一応」

「そうですか…。琉嬉先輩を中心に見て欲しいんですが…昨日撮った写真です」

 柚羽はポケットの中に入れてた写真を取り出す。

そして、琉嬉に手渡す。

例の廃墟の画像だ。

「ちょっと真っ暗だったので、分かりにくいと思いますが…」

「ふむむ」

 琉嬉はしかめ面になりながら写真を見る。

他のみんなもその写真を除き込む。

「凄いですよねー。今の携帯やスマホの撮影の機能ってここまで鮮明になるんですよ。なんとか画素って書いてた気がしますけど」

「なんとか画素って…1000万画素とかって意味でしょ?」

「あ、そうそう、それです」

「…わざわざプリントしたのか(しかし、どこか抜けてる部分があるんだな…柚羽って)」

 琉嬉が心の中でツッコミを入れつつ、写真を改めてにらめっこする。

「この明かりは…懐中電灯か。この窓の影は…あきらかに不自然だな」

「頑張ったんですよ。いつも使ってる強力な照明器具でここまで照らして…そしたら写ったのがこれでした」

「何々?心霊写真ってヤツ?」

 興味深々に護も琉嬉の背後から除き込む。

「おいこら、お前のデカ乳が頭に当たる」

「あらぁ、ごめんあそばせ」

「…わざとかこのやろう」

「なーに、女同士だし、いいじゃん~」

「女同士だから余計にムカつくんだよ」

「じゃ、私もー」

 寧音も混ざる。

「お前等嫌味か…?」

 なにやらひと悶着がありそうな状態。

同じ女同士なのに、自分にはないモノを付きつけられてさすがにちょっとムッとしたようだ。

いっそうにぎやかになっていく。

そんな風景をみてる龍翔と御琴。

「なあ、御琴少年」

「あ、はい?なんですか?先輩」

「ここまで緊張感のない女達も他にいないよな。女子高だったらこんな感じなのかもな」

「……ハハ、たしかに…そうですね」


 わいわいがやがやと、いつになくにぎやかの生徒会室。

最後に遅れてやってきたのは事件に巻き込まれた張本人の凛夢だった。

「…な、なんだ?この騒ぎは…?」

 戸惑いながらも部屋に入る。

いつも以上に騒がしい生徒会室に困惑する。

「あ、凛夢ちゃんー」

 抱きつくみゆ。

「みゆ!なんなのいきなり…」

「ふふふー」

「ばか、胸に顔くっつけるな!」

「はいはい。二人でいちゃついてな」

 琉嬉がずいっと二人を奥へ押しのける。

「琉嬉!コラ!やめろ!」

 話があまり進まないまま、昼休みは終わるのだった……。




 クリスマス・イブ当日。

「準備出来た?」

「おーけーおーけー」

 ふかしぎ部のメンバーは夜の9時頃、例の廃墟の近くの丁度開けた広場へ集まっていた。

凛夢、護、みゆ、御琴、龍翔+遊希、柚羽、叉羅沙、寧音、そしてまどかとかなりの大人数。

遅れながらも琉嬉がやってきた。

後ろにはついてきた來魅と銀杏もいる。

みんな各々私服姿で集まる。

特に、まどかの私服姿なんぞ、あまり見る機会がない。

「おうおう、ずいぶん集まってるのう」

「本当じゃな」

「ここまでの人数いるのか?」

「いらなさそうも気がするが…」

 二人の大妖怪もさすがに来て意味あるのかと疑問に思う。

これだけの手練の人物が集まっていれば妖怪の力も必要ないくらいだ。

「うっはー、これで耿助さんと中学生チームいたらフルメンバーじゃない?」

 キラキラした目でみゆがはしゃぐ。

「あいつらはうるさいから必要ない」

 スパっと琉嬉が断る。

今回は中学生チームはお留守番、というより双子には何も話していない。

耿助も忙しそうだ。

「んじゃ、乗り込む前衛チーム…決めようか」

 リーダーシップを取るのは琉嬉。

まずは前衛を決める話になる。

「今決めるの?」

「…まずは護、柚羽、銀杏、凛夢、寧音、僕の6人。おっけー?」

「ちょちょ、なんで私ー?!」

 護が拒否の姿勢をとる。

「え?なんで?ぴったりじゃん。RPGで言えばいわゆる戦士とか剣士タイプでしょ?」

「あ、え…まあ、そうだけど…………、うん。……………え?」

「うん、決まり。で、第二陣は、みゆを中心に叉羅沙とまどか」

「チーム分けるのは理由があるのか?」

 少し龍翔が疑問に思った。

「うーん、そんなに大きい建物でもないし、大人数じゃ動き取れないだろうし、僕らが失敗したら…ていう理由」

「…なるほどね…。それほど、危険なのか?」

「万が一ってヤツ?」

 失敗…琉嬉からのセリフに妙に納得する。

それほど、今回は危険なモノなのだろうと。

「僕は…?」

「御琴は、外で來魅と龍翔君と待機。最終手段だから」

「あ、そうですか…。たしかに僕が行っても足手まといだし」

「だいじょーぶだ、少女!眠いが、私がついておる!」

「あ、いや…僕、男ですが…」

「…おう、そうか!男だったか!すまぬ。女みたいな顔しておるからなぁ」

「……今までそう思われてたんですか?僕?」

 ガッカリが二重になる御琴。


「依存はない?」

 琉嬉がほとんど自分勝手に決めたチーム編成。

「ないよ~」

「OK」

 と、みんなはOKサインの様子。

護だけは納得いってないみたいだが、どっちにしろ中に入るので仕方なく琉嬉と一緒に最初に行く事になる。

「なんか楽しみですね?ワクワクします」

「遊びじゃないんだって…寧音。お前どんどんキャラ崩壊していくよな…」

「あら、失礼ですね。私は最初からこんな感じですよ」

 腰に手を当てて威張る。

「…そうなの?」

 まどかを見る琉嬉。

「ええ、まぁ…そうでしたね。取組む姿勢は真面目ですけど…」

 思い当たる節があるようだ。

「ま、いっか。じゃ、出発しよう」



「これかー。さすがにオドロオドロシイものじゃの」

 舌を巻く銀杏。

さすがに、妖怪でも驚くくらい邪悪な霊気に表情は真剣になる。

「うっへ…これは気持ち悪さ100%だ…」

 霊感が強いものだけが感じる、胸が締め付けられる程の霊気。

長い間居たくない場所だ。

それは霊感がない者でも感じるだろう。

建物の状態と雰囲気。

同じ空間にあるとは思えない、不気味な世界。


「みんな、用意はいいかい?」

 琉嬉を中心に第一陣がゆっくりと、廃墟へと進んでいく。

「よーし、琉嬉ちゃん達が入ったらあたし達も続くよー」

 みゆも琉嬉達が中に入ったのを確認して続く。

廃墟の大きさは3階建ての大きな屋敷。

規模は大体その辺にありそうな、小さなビル程度くらいなイメージ。

おそらく、かなりの金持ちが住んでたのだろう。

後に残った來魅達。

「大丈夫かな…?みゆちゃん達…」

「なーに、大丈夫だろう。なんせこの私やがしゃどくろを倒すヤツらだぞ?」

「はぁ……そうでしょうけど…」

「くっくっく。そりゃそーだ。そこのおちび妖怪ちゃんの言うとおりだ。「ふかしぎ部」は、日本で…

いや、多分世界で最高峰の術者達の集まりだと思うぞ?」

「そうなんですか…?僕はあまりそういう世界わかりませんから…」

「ところで、おちび妖怪ちゃんはなんで前衛チームに入らないんだ?」

「ん?私か?私は単に、悪霊相手が苦手なだけだ」

「…へ?」

 御琴と龍翔は二人して顔を見合わせる。

龍翔の後ろにいる遊希も不思議そうな顔をしている。

「いや、何、対処出来ないわけではないぞ?ただ、妖怪と幽霊は似て否になる物。基本的に違う」

「それは分かるけど…」

「霊の対処なら琉嬉達や銀杏の方が得意だろうしな。あやつの術は多彩だ。

かくいう私は、闇とか炎とか、そういうだーくな術主体でな。相性がとーっても悪いんだ」

「…そ、そか。よく分からんけど、本人がそう言うのならそうなんだろうな…」

 変な沈黙が流れる。

それ以上來魅も話さない。

「……ま、待ってる間暇だし、俺達みたいな術者の世界の話でもしてやるか?」

「あ、それ気になります。霊術会や名家の話を聞きたいです」

「それは私も気になるのう。100年の間でどんな事になってるか聞かせてくれ」

「いいぜ~」

 と、待機組は何やら退屈凌ぎに龍翔の話が始まったのだった。



 第一陣の琉嬉達。

さすがに入った瞬間、やたらと悪霊めいたものが渦巻いてる。

まさに幽霊屋敷。

そして、どんよりとした瘴気みたいなのが見える。

「なんだ…これ?黒っぽい…煙?」

 護が不思議そうにキョロキョロする。

「くー…まさに瘴気だね。こりゃ。なんだかわからんけど。霊が居すぎて変なもの撒き散らしてるのかな」

 息もしたくないような酷い惨状。

埃も舞っているし嫌な霊気も散乱している。

「この間より…酷い……」

 凛夢も絶句する。

これは、もう凛夢を攻撃した霊だけの仕業ではない。

おそらく、そこらじゅうのモノや、浮遊モノなど、全てをここに集めてるといった状態だ。

「ハハ、これは凄いね。よくこんなの放置してたもんだね。お化け屋敷レベルMAXって感じだ」

「いい迷惑だけどね」

 さっきから機嫌が悪い護。どうやら前衛部隊に入れられたのがまだ納得してないようだった。

「ほらほら、来たよ!護!」

「だぁっ!うるさいっ!分かったよ!」

 そう言うと両手から霊力剣を作り出す。

「ゆずにゃん!」

「は、はい!」

 柚羽も刀を取り出し、襲い掛かってくる霊物質に対して対処していく。

「あーもう、面倒だーっ!」

 凄まじい勢いで護が突進していく。

踏み切り事件の時にも見せた、二刀流での突撃スタイル。

「おうおう、凄い凄い。人間を超越しておるのう」

 感心する銀杏。

負けずと銀杏も何やら腰にかけてるバッグから葉っぱを取り出す。

何か念じると突然葉が長めの棒に変化する。

「おおっ、さすが狸!すっかり妖怪だって事忘れてたよ」

 銀杏の術を見て琉嬉が感動の言葉を出す。

「む、何か引っかかるが…まあ良い。さて、久々に本気出して行くとするか」

銀杏が繰り出す術はそういえば見た事無かった…と今頃気づく琉嬉。

「よし、じゃ、凛夢!場所案内して!」

「…しゃーねえなぁ」

 相変わらずぶっきらぼうな言い方で大きな鎌をどこからともなく出す。

「わお、いつ見てド派手な鎌だよね。それに名前ってあるの?」

興味津々に護が聞く。

「…「紅」……って言うらしいんですけどね…」

「言うらしいって…自分の武器じゃん?それどころじゃないか。じゃ、凛夢ちゃんよろしくぅ!」

「………はい」

 凛夢が先頭に立ち、奥へ奥へ進んでいく。

それにしても、かなりの幽霊屋敷ぶり。

至る所に霊物質があふれている。


 ホールにある二階へ続く階段を上り、部屋のある三階へ目指す琉嬉チーム。

「これって…毎年毎年クリスマスの時だけこんな事になってるのかな…?」

 琉嬉が呟く。

「……かもね」

 それに答えるように言う凛夢。

「………だとしたら悲しいクリスマスが毎年…って事なんだね」

 全員が黙り込む。

進んでいた足取りがピタっと止まる。

「フム。クリスマスとやらがそんなに大事なのか妖怪のわしには解からんが、根源元を解放してやればどうにかなるだろう」

「そ、そうそう、銀杏ちゃんのいうとーり、ね?」

 謎のフォローの護。

「考えるのはあとあと。頼むよ、凛夢」

「……うん」



 一方、みゆチーム。

「あちゃー、こんなにワンサカいるんだったら陣描いておくべきだったかな…」

「今からでも遅くないんとちゃう?」

「そもそも陣で解決できるレベルじゃないと思いますけどね…」

「むむむ…そう解釈しますか…先輩達…」

 こんな雪が積もった状態で陣を描くのもつらい話だが。

倒しても倒してもどこからか沸いてくる霊物質。

どうしようもないくらい、進みにくい。

迂闊に触れたりしたらたちまち憑かれてしまう。

そこが妖怪といった類のものと違う性質。

だから、かえって性質が悪い。

「しかし…かいちょさん、その槍みたいのは凄いね~」

「そうですか?フフ」

 ぶんぶん大きな槍を振り回すまどか。

まどか自身、未だに謎が多い。

どういう経緯でそんな力を持ってるのかも謎。

叉羅沙と龍翔あたりなら知っているだろうと思われるが。

なんとも緊張感のない戦いぶりだが、突如みゆの足が止まる。

止まったみゆにぶつかる叉羅沙。

「おおっ?どうしたん?みゆちゃん…」

「……家全体が…ヤバイ」

「は?ヤバイ?」

「いいから、戻ろう。先輩達!」

「わわっ?な、どうしたん?」

 みゆは二人の腕をガシっと掴んで強引といってもいいほどの力で進入した窓まで戻る。


「どうしたんですか?みゆさん?」

 心配そうにみゆの変貌ぶりにまどかも驚く。

「家全体が…私達を拒絶…してる……」

「…なんや、知らんけど琉嬉ちゃんと同じような言時々言いはるなぁ…」

 琉嬉くらいまでとは言わないが、みゆもかなりの霊感持ち。

危険な言とかすぐ察知して回避しようとする。

今の状況がまさにそうだ。

普段とは違う険しい表情のみゆ。

声をかけづらい。

「このまま居たら…魂持っていかれそうな感覚…。多分、霊力、体力を奪われてしまうよ…」

「…この家に居たら…、て事ですか?」

「…そうですね。この家全体が悪霊化してる…。例えて言うのなら、でっかい悪霊の中に私達が入ったようなもの…」

「そりゃ、なんていうか、食べられた状態みたいなもんかえ?」

「かも…」

 言われてみれば、さっきから少し体がふらつく。

叉羅沙は妙な感覚は嘘ではなかった。

ただでさえ、大量の霊物質を退治していた。

琉嬉達に追いついたとしても、体力なく何もできなくなってたかもしれない。

「なるほど。通りでいつもの力が出なかったんですね?」

 ちゃっかりまどかも気づいていた。

「とりあえず、先輩達、この家からでましょう~」



「あら?会長達出てきたぞ?」

 まどからが家から出てくる。

琉嬉達が入ってからほんの10分ほど。

みゆチームが入ってから5分くらいしか経っていない。

「どうした?」

「…危険過ぎるので入るのやめました~」

 あっけらかんと言うみゆ。

「だそうです。龍翔さん。私達はリタイアですね」

「…マジかい。だからって琉嬉達は…」

 突然の出来事に開いた口が塞がらない気分の龍翔達。

「多分、琉嬉ちゃん凛夢ちゃん達は…大丈夫。特に、凛夢ちゃんは一度根本なる相手に接触してるし…多分…大丈夫」

「うーん…先に入った者勝ちみたいなもんか」

「龍翔様……どうしましょう」

「どうするったてなぁ…。みゆらがどうしようもないなら俺らも無理じゃね?」

 降参ポーズをとる龍翔。

仕方ない。

「あの瘴気みたいなのが、霊気とか奪うのかな…?例えて言うのなら、ゲームで毒の沼地を歩くようなもん?」

「なるほど、それは分かりやすいですね」

「琉嬉ちゃんの受け入れみたいなもんだがな」

 ゲームに例えて言う龍翔。

分かりやすかったのかそれに納得するまどか。

「しゃーねーなぁ…。それにおちびちゃんもいつのまにか寝てるしさ…」

「ハハ…」

 御琴の背中でおんぶされる格好で寝てる來魅。

何もしないでいる時の夜は本当に苦手なようだ。

「まあなんだってさ、どうせならこの建物毎デッカイ霊撃でふっ飛ばせばいいんだろうけどさ。それじゃ根本的な解決にならないしな」

「そうですねえ」

 会長副会長の会話。

それに対しみゆは…。

「んじゃ、それに近い事やっぱりしますか」

「何か思いついたんか?」

「気合で、大きな陣を作りだし、琉嬉ちゃん達を出来るだけフォローに回る…OK?」

 中でチラっと話をしてた、陣を作っての術。

陣は不思議な力がある。

さまざまの呪力めいたものが働き、普段では考えられないような力を発揮する。

魔術などでもよく使われる、簡単にして高度な儀式術。

陣を描き建物全体の霊化を解こうと言うのだ。

外にいる者は全員無言ながら頷き、早速みゆの言うとおりに従って陣を描いていく。

御琴は來魅のケアのため動けず…。


「なぁ、それよか、なんで琉嬉ちゃん達は大丈夫なんだ?」

「感ですけど、一度接触した凛夢ちゃんと柚羽ちん、そして琉嬉先輩の力でなんとか無効化を保ってると思います」

「…なるほど…な」

 陣を作る準備をしながら会話する。

「って事は…凛夢さんは受け入られていると……?」

「かもしれません」

 いつになく真剣な顔をして答えるみゆ。

「なぁんとなく納得するわぁ」

 叉羅沙はふと建物を見上げる。

暗闇を懐中電灯で照らす。

外観を特に変わった様子はない。

時折ガタガタっと物音がするだけ。

おそらく琉嬉達だろう。

光も窓から漏れたりする。

「………解かってるとは思うけど、何かあれば今度は俺達も行くからな」

「そうです…ね」

 命顧みず。

そう決心する龍翔。




 琉嬉達が戦闘に入ってる同時刻、沢村刑事は調べ物を警察署でしていた。

「どうしたんです?先輩?」

「ん?ああ、吉田か。ちょっと気になる事があってな…」

 後輩刑事が沢村が夜遅くまで調べ物してるのに疑問に思い沢村に問う。

特係の部署に明かりがついてるのに気づいたようだ。

「もう夜遅いですよ?帰らないんですか?」

「んー、いやな、この事件についてだが…」

「なんです?これ?」

 吉田と呼ばれた後輩刑事に手渡す資料。

20年以上前のあの豪邸で起きた事件。

もちろん吉田も20年前はまだ子供だった頃。

沢村刑事も同じだ。

「これって…犯人捕まってますよね?当時話題になりましたからね~」

「だよな…」

 そう、この事件については、全国ニュースにも流れている。

あまりにも田舎過ぎて、通常より発見が遅れた事。

誰もが犯人が特定できないかと思えば、犯人の出頭。

そしてそのまま謎の獄中での死。

それでまた話題にのぼったのだ。

「死んだ日は…捕まって一ヶ月も経っていない。死因は不明。衰弱死だろうと思われるが特定出来ず。

これはまず、その殺された霊によっての…だろうが…。それでもまだ恨みは晴れず?」

「何をブツブツ言ってるんですか?先輩。大体これってもう終わった事件ですよね?」

「そうだけどな…どうも引っかかることがあってな…」

「仮ですよ?仮に。仮に、別に犯人が居る…とか、そういう話ですか?」

 ガタンッと、椅子を倒れる程の勢いで立ち上がる沢村刑事。

「わわっ?どうしたんですか?!自分、何か変な事言いました?」

 背が凄く高い、沢村刑事の急な行動にさすがにびびる吉田。

迫力が他の人間と違いすぎる。

「なるほどな…。もしかしたら、別に犯人が…もしくは、共犯者がいた…。可能性があるな」

「え?え?」

 困惑する吉田。

「共犯者がいたとしても、もう時効じゃないですかね?今の法では…」

「吉田」

「ハイ?!」

「世の中…人間の作った法が通じるような事のない世界があるんだぜ」

「……は、はぁ?」

 吉田にとっては意味がまったく解からない。

沢村が言ってるのは妖怪達や、霊達の事。

「人間」ではない者達にとっては人間の作り出した法なんぞ意味がない。

「…ふっ、ふふふ。久しぶりに腕がなるじゃないか。吉田、お前も手伝っていけ」

「ええ~?そんなぁ…」

 数少ない資料の中や、インターネットなど駆使して当時の事件に関わる事を徹底的に調べる事になった。




「あれ?」

 琉嬉が異変に気づいた。

「どうしたんじゃ?」

「いや…みゆ達の霊気が遠ざかったんだけど…」

「ふむ。畏れをなして逃げたとかじゃろ?」

「ま、逃げるのもありだけどね…。この建物じゃ」

 琉嬉は気づいていた。

建物全体が生ある者の生気を奪っていく空間になっているのを。

「しかし、銀杏…やっぱり凄いな」

「当たり前じゃろう。上級なる高貴な妖怪をなんだって思っておる!」

「ほんと…あたし達…ちょっとガス欠気味~」

 護や柚羽、寧音はそんなに動いていないのにバテ気味だった。

琉嬉はそうでもないが、凛夢も少しフラついていた。

ここが人間と妖怪の差なのだろうか?

元のポテンシャルの霊気や体力の量が違う。

「くそう~…こうなったら…私の隠されたぱわーを…」

「な、なんか自棄になってませんか?芹澤さん…?」

 柚羽も心配そうにする。

「わ、私だって…夜栄守家に伝わる神天流の…秘奥義を…」

 寧音も負けまいと両手を組み、何かをしようとする。

「まぁまぁ。その力はまだ後。凛夢。そろそろだよね?」

「まあね…。ここの部屋よ」

 この前も来た、部屋のドア。

ドアには「マユ」と書かれた文字の飾りがある。

以前とはさらに増した、邪悪なる霊気がひしひし伝わる。

今にも爆発しそうな、強烈な霊気だ。

「さぁーて、開けるよ」

 琉嬉がドアノブに手をかける。

息を飲み込む瞬間。

そして勢いよく開ける。

ゴォッと、凄い勢いの霊圧が流れ込む。

「………これは…。こんな邪悪で巨大な霊気…がしゃどくろ以来だね」

 凛夢はふと、琉嬉の顔を見る。

今までどうって事ないような余裕の顔してたのが、今は嫌な汗をかいている。

「…琉嬉」

「……あ、え、何?」

「援護頼む」

 少し小さい声で聞き取りにくかったが琉嬉はなんとなく理解出来た。

自分の巻いた種。

自分の力で決着をつけたいようなのを琉嬉は感じ取った。

「凛夢のくせに…フフ。やってやろうじゃん」

 いつものように両手にいっぱいの符を取りだす。

実に鮮やかに取り出すものだ。

「少々、派手にいくとするかの」

 銀杏も行動に出る。

「…………」

 悪霊の中心にいる小さな影。

見た目ではよくわからないが、何か言ってるような気もする。


 物凄い数の触手のような攻撃。

それをなんなくはじき返す銀杏。

「まだまだ!」

 それに続く凛夢。

だが、深追いはせず、かなり高い警戒で前へ進む。

琉嬉も凛夢の後ろにつき、飛んでくる攻撃を自慢の防護壁を張りながら凛夢を援護する。

「もらったー!」

 隙をついて護が一撃を決める。

本体には届かないが、小さな影の回りを覆う物質に亀裂が入る。

「そら、ゆずにゃん!」

「てぇい!!」

 護の攻撃した部位をさらに攻撃する。

ようやく切り裂いたように見えた…、が。

すぐ再生する。

「うっわ…硬い上に再生力半端ない…」

 とんでもない防御力に唖然とする二人。

「再生させないように連打をすれば…」

 寧音が再生中の部分に攻撃を仕掛ける。

何度もパンチを打ち込む。

が、再生の方が早い。

そうしてる間に攻撃される。

「きゃっ」

「おっと、大丈夫?寧音?」

「あ、はい…」

 護に受け止めてもらう。

「なんの、これなら…どうじゃ!木枯らしよ!」

 銀杏が大きな妖気をこもった棍棒を振りかざし、突風が巻き起こる。

「…………!!」

 悪霊の行動が一瞬だけ封じられた。

その瞬間を狙い銀杏が突撃する。

「妖五葉・炎!」

 少し至近距離気味だが、炎が炸裂した。

ドォンという音をたてるがそんなに微動だにしない。

「なんじゃと?」

「危ない銀杏!」

「のわっ!!」

 銀杏の胸元が触手をかすめた。

「ぐっ!」

 さすがに避けきれなかった。

十本二十本というレベルではない触手なような攻撃。

100本以上あるだろう。

「銀杏!そんなでかい胸してるから…」

「阿呆か!琉嬉!そんな事言ってる暇はなかろう!しかし…まともに喰らうと…わしや來魅でも耐えれるか分からんぞ…」

「ゲッ、マジで?」

 いやな顔になる琉嬉。

尚も続く攻撃。広くない部屋での攻防は厳しかった。

そして悪霊からまばゆい光が放たれる。

「うわっ……」


 気づくと壁際に吹き飛ばされていた。

「あたた…」

 柚羽はもう立ち上がれずにいた。

体力霊力を奪うこの建物の中では思うように行動できない。

そのうえこんな強力な相手と戦う。

並みの術者では耐えられない。

ここまで持っただけでも柚羽はかなり高等な術者。

「柚羽…大丈夫?」

「…さすがに…きついですね…」

 琉嬉が駆け寄る。

厳しそうな顔で護もなんとか立ち上がる。

「もう面倒だから建物ごとぶっとばしちゃうってのはダメ?」

 何かそういう力が残ってるような言葉。

「それじゃ…解決にならない…」

 凛夢は何か、訴えるこの霊の気持ちが分かっている…。

そんな思わせぶりだった。

「…「マユ」は、寂しさと恨みと…負の感情が沢山ある。それを…取り除くコトをしなきゃ…いけない…」

 フラつきながらも近づく凛夢。

「…あの馬鹿…。どうやら自分の過去と何か重ねてるんだな…。だから、「マユ」に呼ばれて…」


 凛夢が過剰に霊感知し、この建物と「マユ」にこだわってしまった理由。

琉嬉や他のみんななら、感知しても無視してたかもしれない。

なにせ、よくある事だから。

だが、凛夢はこの廃墟に最初にやってきた。

無視できない、何かがあったから。


「マユ…だろ?どうして、そんなにまでなって、この世にとどまり続ける?」

「…………」

 凛夢は足元がおぼつかないまま悪霊の元に近づく。

「アンタのされた事も分かる。だが、こんな事しても、ここに居続けても、あの事件が起きてから、もう戻れないんだ…」

 見守るしかない他のメンバー。

「犯人はもうお前の手で復讐したんだろ?それでもまだこの世に恨みが残るのか…?なあ?マユ?」

「………私は…私は…」

 悪霊の方から「私は…」という、声が聞こえだした。

小さな影がまるで古い、チラついたテレビのように少女の姿を映し出している。

10歳くらいの…小さな少女。

肩よりさらに長めの、栗色に近い髪の色。二つのおさげにしている。

服装は、今とはなっては古い印象の、白いブラウスにかわいらしい長めの黒いスカート。

頭を抱えて、少し苦しそうな状態だ。




「どうだい?うまく描けたかい?」

「OKどす」

「こっちも完了だぜ」

「同じく」

 積もる雪をなんとか掻き分け、陣を描ききったみゆ達。

多少雑だが、なんとか形にはなっている。

「さて、うまくいくかどうか分かりませんが…」

 みゆは何か呪文のような言葉を呟く。

「少し離れたほうが良さそうだな」

 龍翔の一声で待機しているメンバーは陣から5mほど、離れる。

(………さあ~、うまくいってよ~)

 どんどん高まるみゆの霊気と、陣から放たれる霊気。

青白い光が辺りを照らす。

「汚れき邪悪なる霊を、浄化したまえ!!魔封塵ッッッ!!!」

 キィィンと、耳鳴りのような音と共に一瞬だけ凄まじい霊気が一体を駆け巡る。

「うわおっ!?」

 來魅もさすがに飛び跳ねるように目を覚ました。


 ドンッっと、建物全体が揺れたような、凄まじい霊気がほとばしった。

「こ……これは…?!」

 琉嬉は気づいた。

「おお……これは…破邪の術…か?」

 銀杏も何やらこの強力な霊気の謎が分かったようだ。

「みゆの霊法陣か…。あいつ…あんな性格のくせして超強力な術繰り出すんだから…」

 これまであった、体力などを奪うような邪悪な瘴気がなくなった。

とはいえ、奪われた体力霊気は回復はしないのだが。

「最初からこうすれば良かったかもね。今度からそうするかな」

 今更感だが、こういう戦法もありだなと思い始める琉嬉。

「マユ」と呼ばれた悪霊も多少なりの効果があった模様だ。

苦しんでいる様子が見取れる。

「さて、あともう一息かな」

 琉嬉が銀杏らを呼んで、少し作戦を立てる。

凛夢が注目を引き付けてる間に琉嬉の考えを伝える。



「いい?みんな分かった?」

「うんうん。理解したよ。ほんと、琉嬉ちゃんって、他の人の特性とか技とか理解して考え付くよね」

「リーダーの素質ありですね」

「それだから私は琉嬉さん大好きです」

「本当じゃな。頼むぞ、琉嬉」

 他の4人は承諾し、行動に移す。

「みんな、信頼するよ!さあ、行くぞ!」

 琉嬉が凛夢の元に走って行く。


「凛夢!!」

「…琉嬉」

「油断しちゃだめだよ!まだ敵は、全然弱ってなんかいないんだから!本体じゃなくって、本体を覆っている「回り」が敵!!」

「……そうね」

 改めて、大鎌の紅を手に取り構え直す。

「さぁ、銀杏、やっちゃってー!」

「おっけーじゃ!行け!木枯らし!!」

 さっき放った風を巻き起こす術を再び放つ。

突風が部屋中をまた荒らす。

「グアア!」

 悪霊がうめき声を出す。

「続けて弐号!!」

 触手が風で思うように出来なく、攻撃を外す。

「そーらそらそらー!!」

 そして勢い良く、護が突撃する。

目が赤く光っている。

手や胸元が痣のような模様なような、浮かんでいる。

どうやら最後の手段の妖怪化を使ったようだ。

普通でさえ、人間以上の動きするのに妖怪化によってさらなる動きを見せる。

触手をみるみるうちに切り刻んで行く。

「ガァァ!!?!」

 とてつもない動きに翻弄する。

妖怪化してるからこそ、この突風の中で動けるのだ。

「ひぃ~、もう死にそう~」

 しかし、護の体にかなり負担がかかっているみたいだ。

元々体力、霊気がかなり消費してたのもある。

それに妖怪化は少し力の消費が高いようだ。

悪霊の攻撃の雨がやんでいく。

だが一本の大きな触手が護を目掛けて命中する。

しかしその護の後ろから寧音が現れた。

「後はよろしく~」

「お任せあれっ!」

 飛び込んだ寧音の体が一回転と、捻る。

そして両手から蒼白い光を放つ。

回転しながら撃っている。

見事に部屋全体を覆うような触手を破壊していく。

切り離された触手も命中していく。

「なんつーボディバランスしてるんだろうね寧音は…次は…」

 琉嬉は次の行動に移る。


「ごめんなさいね」

 どこから現れたのか、柚羽が本体の少女、マユの目の前まで来ていた。

あの状態の中潜り抜けたのだ。

マユ本体に、陰陽術の御札を貼り付ける。

「…え?…きゃ、いやぁぁ!!」

「痛いのかどうなのか分かりませんが…本当ごめんなさい~」

 謝りながらもマユの体を無理やりマユの体を覆っている悪霊物質から引き離そうとする。

しかし何かの力なのか、思うように剥がれない。

「こういう時は力づくで行くのみです!っしゃーおらー!」

 寧音が柚羽と一緒にマユを無理くり引っ張る。

そうはさせまいと、触手攻撃を柚羽を狙う悪霊物質。

「甘いねぇ~」

 その触手ひとつひとつを空中で浮かぶ符が柚羽や寧音を守っていた。

意思を持つように琉嬉の符が自在に動きまわる。

「そのままどっかん!」

 触手を受け止めていた符がどっかんという掛け声と共に、突然雷帯びて爆発する。

そのまま触手を伝って、悪霊本体にダメージとなる。

「ガァァァ!!」

「やっちゃいな~凛夢」

「言われなくともやってやらぁ!!」

 ここぞとばかりに強烈な霊気をこめた大鎌紅を振りかざす凛夢。

「この暗黒の世界を…斬れ………紅!!」

 今まで見せた事の無いようなほどの、強力な一撃が悪霊を切り裂いた――。



 ズドンッと、何か鈍い音がした。

「お!」

 眩い光が三階の部屋壁から飛んでいったのを確認する。

外で待っている待機組も大きな音が何発かして、静かになったのに気づく。

「邪悪な霊気が…消えた…」

 みゆがぽつりとまた呟くように言う。

「倒したみたいやんなぁ…」

「ほほほ、本当ですか!」

 喜ぶ御琴。

「今回は、役立たずでしたね。私達は」

「ほんまやなあ」

「そんな事ないですよ」

 みゆがにっこりと微笑みかける。

「そうか?」

「だって皆さんの強力な霊力で描かれた陣ですもん。効果抜群でした」

「…毎度、お前さんは策士だな」




「しかし…ちょいとやり過ぎたんじゃない?凛夢たん…」

「…いや、これは…しかし…仕方なく」

「どこのだれだっけー。建物ごとぶっとばせばいいって言ったのは~?」

「うっ…」

 琉嬉にツッコまられる、護。

凛夢の一撃で部屋の壁が綺麗に横に切り裂かれていた。

廃墟といえども、破壊行動は良くないのだが。

そして、柚羽がひっぱり出したマユは…その場にまだ居た。

「………」

 分かるのは霊体だという事。

喋り出す出す事もなく、俯き加減でじっとしている。

「んで、どうするの?この娘」

「どうするったてねぇ。無理矢理祓うとでも?僕には無理だね」

「…まあ、たしかに…」

 なんとか、一息つけたメンバー達。

「しかしまあまあ、琉嬉の作戦というか、関心するのう」

「うん。なんとなく、上手くいって良かったよ。計算通りってわけでもなかったけど…みんなの術を見て思いついたっていうかさ」

「なるほどね~。さっすが我が琉嬉ちゃん」

「素晴らしいですっ」

 琉嬉に抱き着く寧音。

「ふむ。わしも驚いたぞ」

 ワイワイ反省してる連中を置いて、凛夢はマユの方へ近づく。

「……マユ…だったな。お前。話せるか?」

「………」

 答えようとしないマユ。

凛夢はそっとマユの肩に手を置く。

どうやら交信を試みるようだ。

「大丈夫…かな?」

「大丈夫でしょ。ああみえて、みゆの親戚筋らしいし?同じ五大家だし?」

 親戚といっても遠縁。

とはいえ、霊感が高いのはきっとその血筋のせいでもあるのだろうか。



「お前は…なぜここまでして悪霊化したんだ?まだ恨みが晴らせないのか…?」

「……わたし達を殺したのは……二人…。もう一人…やってこない…」

「そうなのか…。じゃあもうひとつ聞くが、その犯人のもう一人は捕まったてそのまますぐ死んだらしいが、それはマユがやったのか?」

「…わたしが、念じたら、不思議な力が出て…わたし達を殺したおじさんを…絞め殺すような感じで…」

「…なるほど…ね」

 凛夢はなんとか話を聞きだしていた。

そこへ琉嬉がちょっと割って入る。

「ハイハイ、その話は後で、いいかい?」

「何よ、人形小娘……むっ」

 ぴとっと、琉嬉は人差し指を凛夢の口元に持って行きこう言う。

「それは後日、沢村刑事が全部解いてくれそうだよ」

「な、なんでそんな事解かるのよ?」

「それは、裏情報ありき、ってね」

「……まったく…」

 ようやく落ち着きを取り戻す。

まるで止まった時間が動いたように、急に寒い空気、風が流れ込む。

それもそのはず。

凛夢が豪快に家の壁も切り裂いて横穴が出来てるからだ。

「おーっ、雪だ!」

 護がテンション上がった声で言う。

そして強引に窓をぶち破って窓から外を覗く。

「あー、あー、あー、護まで壊して…」

「いいじゃん、この際」

 マユはそんな状況を見てクスクス笑っていた。

「…なんだ、マユ。笑えるのね」

「……いや、お姉ちゃん達…面白くて…」

「まーね…。こいつら、ちょっとまともじゃないから。外にも変なのまだいるけどね」

「フフ」

 またクスクス笑うマユ。

今までのが嘘のような状態だ。


 たしかに、マユの意志であの攻撃をしていた。

だが、自分の意志であって意思ではない。

いわゆる暴走モードだったという見解の琉嬉。

それも、今のクリスマスという時期の限定。

それを20年以上も蓄えていたのだから…。


 皮肉な、クリスマス・イブ。

雪が舞ってホワイトクリスマスといった感じか。

「終わったみたいだね~」

「うん」

「あれ?凛夢ちゃんと琉嬉ちゃんは?」

 先に戻ってきたのは、護、柚羽、寧音、そして銀杏。

中にはまだ琉嬉と凛夢が残っている。

「もうちょっとだけやる事あるみたいだってさ」

 爽やかに金髪をサラっと髪をかき上げながら言う護。

「うわ~…なんかボロボロなのに嫉妬する美しさですね…まもたん」

「…ん?」

 さすがのみゆもなんかひいた。




『おっけー。あんがとー、沢村刑事~』

 沢村刑事と連絡をとっていた様子。

「…で、どうするんだ?」

『今すぐ行動する…おっけーですよね?』

「……まったく…。元気だね…本当に」


「先輩、誰と話してたんですか?」

「ん?誰って…若い女の子かな」

「…へー、先輩、すみにおけませんね~」

「ま、そういう間柄でもないけどな。仕事上の繋がりかな。うし、俺は今から帰るついでに寄る所あるから、お前も帰っていいぞ」

「…敢えてもう何も言わないですけど、法律とかにひっかかるような事しないでくださいよ」

 ポリポリ右頬をかく沢村刑事。

そのまま無言で後ろを向き手をひらひらして去っていく。

「解ってるよ」という素振り。

「世の中…人間の作った法が通じるような事のない世界……か。先輩はそういう世界をきっと知ってるんだな…」

 吉田は薄々気づき始めていたようだ。

部署は違えど毎日のように一緒に仕事をしている。

さすがに、沢村刑事の事も「特係」という部署の事も理解してくる。

「…俺も帰ろーっと」



 ふかしぎ部員達は各々解散する方向になる。

だが、琉嬉と凛夢は別行動となる。

「じゃ、琉嬉ちゃんと凛夢ちゃんは沢村刑事と一緒にその人の所に行くんだね?」

「最後の仕上げ…て、やつかな」

「おい、わしらはどうするんじゃ?」

 銀杏と來魅は先に帰ろうとも帰る手段がない…訳でもないが、先に帰るという事になる。

「だいじょーぶ、この港咲家のカーで送ってあげるよ」

 そう言うと、いつのまにか高そうな車が到着していた。

それも数台。

「むむ…そうか…來魅、先に帰るぞ」

「うーん…ねむぅいぃ…」

「…子供だな…本当に…」

 銀杏は來魅を担ぎ上げ、みゆのお言葉に甘えて車に乗り込む。

「他のみんなも乗って乗って」

「そいじゃ、俺らも乗るか」

 龍翔達生徒会メンバーも乗り込む。

「じゃ、琉嬉ちゃん、先に帰るけど…後でちゃんと全部話してね」

 護が琉嬉の左手を取って言う。

「ほいほい。そいじゃまた」

 ここはやけにあっさりみんなと別れる。

実際みんな結構疲れていて、一刻も早く帰りたい状況だったのだ。


 凛夢と琉嬉、そしてマユはその場で沢村刑事の到着を待っていた。

その間、この20年間の世間の移り変わりなど話し、マユの寂しさを紛らわせようとする。

「さて、どうやって連れ出そうか…自縛霊…に近いな…」

「どうするの…?」

 心配そうにマユが琉嬉を見つめている。

「ちょーっと、荒いけど…いいかな」

「何をする気なんだ?」

 凛夢も心配になる。

琉嬉はおもむろに左手首にしている数珠を外した。

「真霊気」を使う気だ。

マユの胸部あたりに左手、そして建物方向へ右手を向ける。

琉嬉は目をつむり集中し始める。

そして…

一瞬だけ凄い霊気がほとばしる。

みゆ達が作った霊法陣とはまた違う、強力な霊気。

マユはぽかーんとした顔をしていた。

「……おっと…。危ない危ない」

 足がもつれる琉嬉。

これだけの微量の真霊気使っても一気に体力が奪われるようだ。

「…この建物とマユの「縁」を解いた。だから、自縛される事もなくなった…ハズだから。マユはもうどこでも行けるよ。

とはいっても、マユは霊だから出来る事限られるけどね…」

「ほ、本当?ありがとう。同じくらいの年なのに…」

「プププ…」

 凛夢は笑いをこらえる。

「もう、ツッコむ気力もないよ…」

 琉嬉も疲れきって、いつもの覇気がなくなっていた。

「あれ?わたし…何か変なコト…言った…?」

 オロオロするマユ。

「いいや。別に変でもないわ。誰もがそう思うから」

 滅多に見せない心からの笑顔の凛夢。


「よう、琉嬉ちゃん」

「ども」

 沢村刑事が到着する。

「…この人は…?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。このお兄さんは頼れる人」

「……この女の子がマユちゃん?」

 沢村刑事には視えてるようだ。

(この刑事……何者なんだ…?マユの事視えてる…?)

 妙な警戒心をみせる凛夢。

「さて、行こうかね」

「何処行くの…?」

「だいじょーぶ。マユ。マユを殺したヤツの元へ…行くのさ」

「え?」

「凛夢も分かってるでしょ?」

「…しゃーねーな。付き合ってやるよ」



 とある、アパート。

そこへやって来た。

「さすが、警察だね。すぐ場所掴める」

「しかしこんな時間に…来なくても…」

「凛夢も心配性だね。さてさて、マユ」

 マユの方へみんなの視線が集まる。

「…ここは…?もしかして…」

 琉嬉が答える前に、沢村刑事が答える。

「…まぁ、お前さん達を殺した、犯人の共犯者の家…かな」

 瞬間、ゾワっとする。

マユの表情が変化していくのが怖かった。

「復讐の手助け…でもないけどさ。なんの罰も受けないでのうのうと生きてるってのが、どうも警察側の人間としては嫌でさ」

「しかし、沢村刑事も良くわかったんですね」

「まぁな。執念燃やし尽くしたけどな」

決定的になったのは凛夢がマユから問い出した言葉だった。

犯人は二人。

それを確証した琉嬉は沢村に連絡をしたのだ。


 沢村が探し当てた資料の中から、捜査線上に二人の犯人候補があった。

だが、一人の物証証拠もあり、当人から出頭もあり捕まった。

だがもう一人は証拠不十分として逮捕に至らなかった。

どっちにしろ、当時の捜査の限界もあり、そのまま時が流れ時効となってしまったようである。

犯人は、殺されたマユの家族の親戚にあたる人物達。

財産がどうのこうの、という、人間の泥臭い金目当てのしょうもない、本当にしょうもない理由だった。

罪も無い子供までもが殺される。


 そんな悲しい事件があっていいのか…。

沢村の正義感がどうしても許せなった。

沢村の行動は、もはや違反スレスレ、いや、違反そのものに達してるのかもしれない。


 だが、今起きることは、「生きている人間」が起こす事ではない。

ゆえに、警察での介入は意味が無い。

沢村自身が手を出している訳でもない。

罪には罰を。


 「人間」の世界での法が通用しない世界。

それが目の前にある。



 静かな夜の中、不気味な悲鳴が響き渡った。




「なんか、この前もこんな同じような事あったなー」

 ふと、腕を組みながら琉嬉が言い出す。

奈々という、小学生からの情報提供の学校での幽霊目撃事件。

あの事件も殺された恨みからその場から霊はひたすら殺した相手を待っているという状態だった。

マユもそれと一緒だった。

「マユ…もういいの?」

「うん」

 複雑な表情をしている。

凛夢も悲しそうな顔をしている。

「お前は…運が悪く殺されたんだな…。私は…運が良かったのかもしれない…それに違いだ…。悲しいな」

 自分の過去と完全に照らし合わしている。

「コォーラ。もう終わったんだ。帰るよ」

 ぺちんっ…と、

後ろから凛夢のお尻を軽く平手打ちする琉嬉。

「んぁぅっ!何をしやがるてめー!」

「おー元気元気。さて、帰るよ」

「あ、てめ!」

 追いかけようとするがひとつ気になる事ができた。

「マユ…これからどうすんだ?」

 琉嬉がマユに問う。

目線は同じくらいだ。

「………とりあえず、家に帰ります」

 行くべき所は結局はあの廃墟。

「そうか…しかし…ここまで自我の強い霊ってのも凄いな」

「…ふふ。お姉さん達、ありがとう」

「…なんか霊に感謝されるなんて不思議な感覚」

 頭を掻き、照れる凛夢。

「それじゃ……また…。本当にありがとう」

「ああ……。また…」

 マユは感謝をし、後ろを向き、そのまま歩いて行く。

静かに、ゆっくりと姿がフェードアウトしていく。




 街の明かりはすっかりクリスマスの明かり。

というより、冬になると綺麗なイルミネーションとなる。

雪がちらほら降っていて幻想的だ。


 クリスマス本番。

大いに盛り上がる港咲家。

盛大なクリスマスパーティをしていた。

もちろん、凛夢も来ているがいつも以上に口数も少ない。

「ほらほらー、凛夢ちゃんもこっち来てー」

「あ、おい!みゆ!」

 強引に手をひっぱり、輪の中に入れるみゆ。

「ささ、楽しもう!凛夢ちゃんそんな顔してたら、マユちゃんも浮かばれないよ!」

「まったく…。良くあるセリフを…」

 ちょっとだけ笑顔を作る。


「新倉まゆみ。これが本名みたいだね」

 マユと呼ばれた幽霊少女の本名。

詳しい話を聞いた琉嬉は前日の関係者達だけに話ていた。

「なるほどーね。マユっては略称あだ名だったんだ」

「捕まった犯人は新倉聡。そして昨日謎の死を遂げた共犯者の新倉信二。これが犯人。身内での事件…か」

「怖い話やなぁ」

「資産家惨殺事件…。同じ身内同士で醜い争いが多かったみたいだね」

 財産での発端。

それがどうやら悲しい結末になってしまったようだった。

「沢村刑事の話によると、新倉信二の死因は…自殺と判断…だってさ。その時には死ななかったみたいだね。

まったく……。どんな事したのやら…」

 恐らくは、なんらかの苦しみを与えて、それに耐え切れなくその場で命を絶った…という判断。

死に方は手首を切り、出血多量での死。

「ま、こんな話をしても面白くないから、おとなしく楽しもうよ」

「おー、琉嬉がこんな事言うなんて珍しいな」

「るせー、來魅。今回役に立たたなかったくせに」

「何をー?」

「何だー?」

 そしてすぐケンカになる。

「あーもう、どうしてここまで来てケンカするんだよー!」

 妹や従姉妹達が必死に止める。

「なんなんだ…アイツは。本当に喧嘩っ早い女だな…」

 もう一人のケンカ相手の凛夢もさすがについていけないといった感じだった。

それは、それで楽しいクリスマスパーティだった。



 それから、マユは完全に姿を消し、何処かへ消えていった。

あれから、数日―――。




 メンバーは、あの日の事をあまり触れる事もなく学校生活をおくる。

一年の締めくくり、ついに冬休みが始まる。

終業式も終わり、メンバーはテンションが高くなっていく。

「終わったねー」

「…今年も終わるー」

 各自、好き勝手言いたい放題。

最後という事で部室に集まっている。

琉嬉やまどかからいろいろと何か来年に向けての抱負みたいなのを言っている。

勿論、半妖とか今後の事も。

凛夢は話をほとんど聞いてなかった。

「では、みなさん、良いお年を~」

 という具合で解散する。


 相変わらず、凛夢は一人でちょっと町外れの田舎にある自宅へと帰る。

そして、帰りに道の近くの廃墟がある付近。

(マユ……成仏ってやつしかたのか…?)

 トボトボ歩いていると、ふと何かの気配がした。

バッと振り返ると、見た事ある少女の顔…。

「こんにちは」

 にこやかな、可愛らしい笑顔が。

「マユ!なんで…いるんだ?!」

「……どうしてかな~。それはわたしも聞きたいです」

「ハハ…幽霊なのに、居てくれたら嬉しいって思ったのは…変だなまったく」

「…まだ未練があるみたいなんで…もう少しよろしくお願いします」

 ペコリとお辞儀する。

凍ったようになっていた凛夢の顔がゆっくり笑顔に変わる。

「……ああ、そうだな。よろしく」



 ――クリスマスも楽しいけど、クリスマスより楽しい日々の方が、いいかもしれない。

そんな風に考えるようになったのかもしれない。


 ―――凛夢の心がようやく、晴れた。



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