#45 雪が降り始めて
それは突然の來魅の一言だった。
「おい!見ろ!雪だぞ!雪!!100年ぶりに見たぞ!」
窓を開け、大声ではしゃぐ。
部屋が一気に冷たい世界へ変貌する。
「うわっ、寒っ!何開けてるんだよ!來魅!!」
あまりの寒さに目が一気に覚めた琉嬉。
急いで強引に窓を閉め、來魅を窓から引っ張り降ろす。
「うむむ、何をする!琉嬉!折角の雪を…」
「そういう問題じゃないっ」
ぽかりと來魅の頭を軽くげんこつする。
「痛いなぁー」
「うるさいっ」
「うっわ…雪が積もってるよ」
ギシシっと雪を踏むと音が鳴る。
若干気温が高いのか、湿った雪だ。
すっかり冬景色になってしまった。
「今日も学校だと思うと、憂鬱だよ…」
「大変じゃのう」
「…それはそうと、銀杏はいつまでうちにいるの?」
「まぁまぁ、それは置いといて」
「強引にスルーするな!」
「時間ないよ、姉ちゃん」
そう言ってまた先に外へ。
「むむぅー」
ドタバタいつものように家を出て行く。
勢いよく玄関から出た琉嬉とは対照的に立ち止まって悠飛は空を見ている。
ちらつく雪にも微動だにせず、黙って空を見上げている。
「悠飛?」
「あ、いや、なんでもない…よ…」
「……?雪なんて珍しくもないだろ。急がないと遅刻するよ」
「うん…」
少し急ぎ足で駅へ向かう姉妹。
「おーおー、凄い速さだ」
「速さなら悠飛の方が上手じゃな」
「仲の良い姉妹だ」
「傍から見たらあなた達も姉妹みたいよ」
嶺珠が洗濯物を両手で抱えて通りかかる。
にっこりと微笑みながら。
「嶺珠殿。こやつと姉妹にされちゃぁ…困る」
「もち、私の方が姉だな」
「…お主見た目を考えて言え」
午後には気温がそこそこ上がって積もった雪が少し溶けてしまった。
雪が本格的に積もるのはもうちょっと後みたいである。
そんなグチャグチャな道路に苦戦しながらも琉嬉が自宅へ戻ってくる。
「なんだこれ」と、愚痴を言いながらやっとこさ辿り着く。
琉嬉の自宅の方が山の上の方なので気温が学校辺りより低い。
そこまで激しい溶け方はしてない。
と言ってもそこまで大差ないので溶けるものは溶けるのだが。
この日一日は何事もなく、家に帰ってくる彼方家の者達。
銀杏もどこかへ行ってたのかフラっと帰ってくるのが二階の窓から見える。
こちらは普通に帰って来て玄関から入ってくる。
琉嬉は居間でこたつの中でゆっくるしていた。
來魅は漫画本を読んでいる。
そして一緒に居間のソファに座っている悠飛。
しかし悠飛は一日中どこか上の空状態。
帰ってきても反応が今ひとつ。
「どうしたんだ?悠飛は?」
不思議そうに疑問に思う來魅。
無言で琉嬉に問いかけるように見つめる。
琉嬉はちょっと嫌そうな顔をするが來魅の無言の問いに答える。
「多分~…雪を見て、あのコト思い出してるんじゃないかな」
「あのコト?」
こそこそと悠飛に聞こえないように小さく会話する。
「悠飛の力…知ってるでしょ?冷気を操るの」
「ああ、あの冷気の力は凄いな。人間離れしてる。さすがは彼方家の人間」
関心するように言う銀杏。
「あれは彼方家の力…じゃなくって、雪女の力…らしいけどね。僕は詳しい事は知らない」
「雪女じゃと…?あんな男みたいな感じでか?」
「銀杏。それは余計な事だぞ」
珍しくツッコミをいれる來魅。
「あ、おお、そうか、それはすまん」
ジト目で二人は銀杏を見る。
「………最近自分自身の力についてなんか葛藤でもあるみたいだけどね」
「ほぅ~。さすがは姉妹だな。細かい部分まで気づかんわ」
「夏の時だけどさ、雪女の里に顔見せたいみたいな事言ってたけど。どうかね」
「なら行こうではないか。わしも付き合うぞ」
「私も行くぞ!」
「…ま、お前ら最高ランク妖怪が来るなら頼もしいけど…。(余計な事仕出かしそうだケド)」
ちょっと不安になる琉嬉だった。
「ただいま~」
父親の導が帰ってくる。
「おぅ、お帰り」
偶然一番最初に出迎えることになった來魅。
「ただいま。來魅ちゃん。今日は琉嬉ちゃんは帰ってきてる?」
「おう。いるぞ」
最近父親より娘の琉嬉の帰りの方が遅い事が多い。
それが本当に心配でたまらないらしい。
「今日は私も料理を手伝ったぞ」
「ほほう、偉いね~」
頭を撫でる。
完全に子供扱いだ。
だが來魅は嫌がる事なく、気持ち良さそうに頭を撫でられている。
「ん、父さんか、お帰り」
「ただいま」
そして同じように頭を撫でる。
「…だから僕はもう高校生なんですけど…」
と言いつつ、拒否はしない。
だが顔は嫌がってる風だが。
「はっ、ごめんごめん。ついつい…」
ずっと小学生のイメージのままなのだ。
一家団らんの夕食。
導は唐突にこう切り出す。
「年明けたら、家族旅行へ行きたいけど…どうかな?僕の兄さんのとこ含めてさ」
一瞬その場の皆がぽかんとする。
だが、そんな止まった空気を解除したのは母親の嶺珠。
「あら、いいわね~。行きましょう行きましょう~」
「あの双子もいるのか…紫音いるだけでかなりうるさくなると思うけどね」
「導!たまにはお主もいい事言う!私も行くぞ!」
「オッケーオッケー!來魅ちゃんも銀杏ちゃんも家族だもんね!」
ノリが良い導達。
「オイオイ…。大丈夫かコレ…」
琉嬉が不安な顔する。
「なぁに、わしからも金は出す」
「…だからお前はどこからお金出てるんだよ?」
「ふふふ。それは…秘密じゃ」
人差し指を口の前に出して秘密ポーズ。
「まさか…狸だけに化かすために葉っぱで作った偽札じゃないだろうな?」
「んなワケあるか。きちんとした日本銀行券じゃ」
「…それならいいけど」
益々不安になるのだった。
「家族旅行か…。みんな揃って行くのも久々かもね。何日くらい行けそう?」
少し、興味津々に琉嬉が導に聞く。
「冬休み中にどうだい?二泊三日くらいで」
導はそう言いながら両手の指で「2」と「3」を形作っている。
「でも悠飛ちゃんもあっちの双子ちゃんも受験よね?大丈夫?」
年明けとはいえ、受験も近しい。
遊んでる場合ではないのは実状だが。
「大丈夫だよ。息抜きもたまには大切さ」
いつになく、爽やかに、クールに言い放つ悠飛。
余裕があるのだろう。
毎日毎日勉強だけでは疲れるだけである。
どっちにしろ学区も悪くないどころか、狭い。
所詮は田舎町なのでそうそう難しい事はないのがいい部分でもある。
裏を返せば、倍率が低いのである。
「なぁー、じゅけんとは、なんぞや?」
せがる子犬のように質問する來魅。
「ほんっとーに何にも知らんヤツじゃな。來魅よ。
人間の世界には勉学が盛んでのう、若いうちから試練を乗り越えていく戦いがあるんじゃ。
義務教育が終わった子供達が自分の夢に向かって進学する時に、試験を乗り越える戦いの事を言うのじゃ」
「銀杏サン、それはちょっと大げさすぎだと思うヨ…」
当の本人の悠飛がツッコミを入れる。
「そうか?」
「そうです」
自分の言った事がおかしかったのか疑問に思い出す銀杏。
しばし、首を傾げる。
「ほうほう、なるほどな~」
そして、納得してしまう來魅。
「それじゃ、決まりって事でいいかい?どこかお目当ての場所とかあるかい?」
とにかくも、小旅行へ行く事は決まった。
あとはタイミング、つまりスケジュールを合わせる必要がある。
もうひとつの彼方家も連絡を取り、話を進める事になる。
嶺珠が電話連絡をとってる間、他の家族全員で案を出す。
ほんの、2、3分ぐらい静まり返る。
そんな軽く張り詰めた空気の中悠飛が珍しく最初に口を開いた。
「あの…私行きたい場所があるんだけど……いいかな?お父さん?」
「ん?いいよ。どこだい?」
「………北の方…。雪女の里が近い場所がいいんだけど…」
「!!」
突然の悠飛の発言に琉嬉達はおろか、導まで固まる。
「雪女とはまた…。悠飛ちゃん。何か…考え事でも出てきたのかい?」
「……うん」
力弱く答える。
だが、何かしらの決意があるようにみえる。
分かっている。
父親である導も悠飛が辿ってきた道は分かっている。
そう、悠飛の持つ力についても勿論理解している。
だが、ここであえてその話題が出てくるとは思いもしなかった。
話半分で参加していた琉嬉もテレビを見ながらであったが、しばらく止まったまま悠飛の決意とも取れる姿を見ている。
來魅、銀杏も出す言葉もなく、さすがに黙っている、
「悠飛ちゃんがそういうのなら、考えておくよ。みんなもいいかい?」
「……仕方ないねぇ」
「わしらはオッケーじゃ」
「私もだぞ」
琉嬉らはOKサイン。
「……気が気じゃないけど…」
渋々嶺珠も納得する。
あの嶺珠ですら少し不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、嶺珠ちゃん」
導が嶺珠の手を取る。
旅行は少々、危なげのある旅行になりそうな予感がしていた。
外は皮肉にも、雪がしんしんと降っていた―――。
「はぁ~。昨日の悠飛の発言にはまいったね」
朝。
琉嬉のクラスの教室。
珍しく琉嬉と凛夢が会話をしている。
「…アンタらの事、まだよく知らないんだけどさ。なんか決着をつけたいコトがあるってコトなんでしょ?」
「…そうなのかね~」
「姉でしょ?一応」
「何から何まで兄弟姉妹親子だからって分かる訳じゃないでしょ」
「……ま、そうね………」
おとなしく突っかかる事もなく言葉を受け入れる。
朝からずっと降り続ける雪。
教室の窓からみえる景色も白色一面に広がっている。
昨日とは違い、気温もあがることなく積もる一方のようだ。
本格的に冬突入である。
現状で足首が埋まるくらいまで積もって来ている。
どこも除雪で大変そうだ。
琉嬉達の住んでいる地域は積雪地帯。
冬は除雪など大変である。
それも山が近い、自然あふれる地域だからでもある。
いわゆる、雪国と言われる地域なのだ。
「なあ、凛夢。お前の住んでた所って、雪降るとこなの?」
「……ここまで積もらないけど…。はぁ。帰りが大変になりそう」
琉嬉は珍しく凛夢の困る顔を見てニヤついている。
「な、なによ?」
「いや~、雪国住まいじゃない人は大変なんだろうなぁ~って思ってさ…」
「アホか!」
プイっと顔を背ける。
何か、琉嬉に負けた気がして機嫌を悪くしてしまったみたいだ。
「まだまだ積もるぞ~鞍光は。
2月には僕くらいの背まで積もるよ」
自虐も入ってるのか。
とにかく凄い積もるというアピールだ。
「マジかよ…」
思わず裏モードの口調になる。
「あれ?そういえば凛夢って今一人暮らしだったけ?」
「……違うわよ」
「え?あれ?転校してきた時は一人じゃなかった?」
「今は引越しして、親戚の家にいる……悪い!?」
「いや、悪くないけど…」
「フン……。ばーか」
(結局は教えてくれるじゃん。ツンデレかっての)
なんだかんだで悪態つきながらも教えてくれる。
それだけ心を開いてくれてる証拠だ。
ちょっとだけ、凛夢の事を知れた琉嬉だった。
「寒いですねぇ」
「寒いなぁ」
「暖房効いてないんでしょうかねぇ?」
「会長権限で聞いてみたら?」
「なんですかそれ」
「………お前ら、何しょーもない事話してるんだ?」
まったりしすぎな会話にツッコミを入れざる得なかった龍翔。
この日の生徒会室は割りと静かめだった。
12月に入り、冬休み前に向けていろいろと大変である。
隣のふかしぎ部も静か。
大きな笑い声なども聞こえてこない。
部員達も何かと忙しく、全員揃う事もない。
特別顧問の耿助も顔を出す頻度が減っている。
年末年始に向けて、神社が忙しいのだろう。
時々連絡用アプリで書き込みがあるので、会わなくとも存在感はある。
「寒いのは仕方ないだろ。雪国育ちなんだから我慢しろって」
「でも、ウチは元は雪国出身じゃありまへん」
「一応雪は降るんだろ?」
「降るには降りますが、ここまで積もる程降りません」
「あー…そか~」
「そもそも、何度も言うとりますが、小さい頃にしか住んでなかったので、どれくらい降ったかも覚えてません」
「勿体ない~」
寧音が変な声で勿体ないと言う。
「いや、勿体ないの意味が分かりまへんが…」
「京都っ子って……なんかいいですよね…。おしとやかではんなりしてて…。
育ちの良さが叉羅沙さんから伝わりますが…住んでたらもっと格別なんでしょうねぇ」
「なんや、その遠回しなウチ批判は…。住んでたらってなんやねん」
珍しく叉羅沙が怒ったような素振りで寧音の首元を軽く締める。
「うがー、助けてください~柚羽さん~」
「…先輩、もう少しおとなしく仕事してください。
最近寧音さんサボり過ぎですよね?」
「……うぐ…」
サボりグセがだんだん明るみになってきてるようだった。
「そもそも叉羅沙は10年以上はこっちに住んでるんだろ?」
「まーね」
「そろそろ雪に慣れてもいいんじゃねえか?」
「……ほんま、龍翔君って痛い所突くの上手いんな」
「……」
いつのまにかまったり空気に入ってしまう龍翔。
「龍翔様…」
耐えかねて、遊希も姿を現す。
「おお、いけねぇいけねぇ、いつの間にかこのまったりムードに浸かってしまうところだった」
「うふふ」
クスクス笑うまどか。
「…お前らなぁ…」
こちらはこちらで凄いマイペース。
なんだか心配になってくる。
頭をポリポリしながら龍翔が気の利く事を言う。
「ひと段落したら隣行くか」
「さんせーい」
「はりゃー。よく降るね。これは根雪になるかね」
窓を開けてバカっぽい顔でちらつく雪をみているみゆ。
そのみゆの後ろからその窓の景色を覗く御琴。
「寒いから閉めない?みゆちゃん…」
「おう、そうだね。閉めようか。はぁー寒い寒い」
「………」
無言でみゆをみる。
なんで、こうもちょっとおかしい考えなんだろうと、御琴は思っていた。
「ねえ…みゆちゃん。先輩達が言ってた京都の半妖の事なんだけどさ…」
「んー?京都?半妖?」
「うん、半妖」
特に気に留める事もないしぐさをみせるみゆ。
ただ、半妖とか霊術会の事やら猫妖怪の事やら。
修学旅行中に起きた事を琉嬉らから話は聞いている。
「ノンノン~。半妖だろうが妖怪だろうが、我々のふかしぎ部に敵う者はいません!以上!」
「…いいね。その楽天家な発想…」
呆れ返る御琴。
みゆの底なしな明るさが分けてほしいくらいだった。
「ま~、半妖ねぇ……。今の時代に半妖がそう沢山いるとは思えないけど…」
「それはどういう意味?」
「うーん?多分だけど…今の半妖は、純粋な半妖じゃないと思う。人間の血が濃い、先祖が半妖…だと、おじいちゃんが言ってたの」
「はあ……」
つまり、今の時代妖怪は昔程姿を現さない。
それは人間の科学、技術、そして霊術などの進化により、妖怪側は表沙汰に出る事も少なくなったからである。
そもそも、存在がもう忘れられかけている。
かつて交流があった時期もあり、その時代にいた半妖の子孫が今の半妖達…と、考えられてる。
「わたしは京都で会ったという半妖達に会ってないからなんとも言えないけど~。いずれは…て、状況みたいだし」
「そうなの…?琉嬉先輩達は特に何も言ってないから…」
修学旅行の一件は詳しい事は特に喋っていないらしい。
教えてくれたのは大雑把にそういう者達が居たという事だけ。
「霊術会が慌しく動き始めてるから…そう遠い時ではないかもね」
ますます不安な事を言う。
ビビリの御琴は最早声すら出してない。
「……あ、あの、それって、大丈夫なの?僕達は…?」
「だいじょうぶしょ。琉嬉先輩達他の五大家がいるし。頼りになる霊術名家の先輩達もいるしぃー、
來魅ちゃんと銀杏ちゃんっていう最強部類妖怪さんもいるし」
「…どの程度の戦力なのか知りたいよ…。半妖っていうのが…」
「それもいずれ…だね」
なぜかにこやか笑顔で言い放つみゆ。
(……本当に余裕があるのか…それともただの本当の「バカ」なのか…。みゆちゃんって凄いな…)
「よっ、あれ、部長は?」
「琉嬉先輩は今日は来ないみたいです」
龍翔が覗いたが、琉嬉はいないようだ。
「珍しいな」
「家の事情がどうのこうのって」
「へぇ…まぁ、あの家は大変そうだからな…」
そう言って二人の大妖怪を思い浮かべる。
「…お邪魔します…あ」
「……何が「あ」、なんだ?」
こっそりドアを開けて入ってきたのは凛夢。
「あ、いえ…すみません」
龍翔の後ろ姿と同時に遊希の姿があって思わず驚いたからだ。
「凛夢ちゃーん」
みゆが抱きしめに向かう。
そして拒否する事もなく抱きしめられる。
「…仲良いな」
「じゃ、私もー」
なぜか寧音も混ざる。
「……なーにやってんだか」
「お、叉羅沙。それとまどか」
「琉嬉さんはいらっしゃらないんですね」
「毎日毎日出るっていう事もさすがに無理みたいですけどね」
御琴が代わりに答える。
「なるほどぉ。珍しいですねぇ」
(相変わらず、受け答えにくい喋り方する人だ…)
相も変わらず、ずっと雪が降り続く。
先日とはうって変わって気温が氷点下まで下がっている。
雪もふわふわしている。
琉嬉達の住む街が雪が積もる=耿助の住んでいる地域も雪が積もる。
耿助は除雪作業に追われていた。
そこそこ大きめの神社ではあるが、従業員は少ない。
少ない人手の中、耿助も除雪のためスコップ持って働いていた。
「しかし…一気に降りすぎですね」
汗を拭いながらも爽やかな青年。
それが耿助。
「いよいよ冬到来か~。年明けもこの雪の量だったら大変ですねぇ。さて、もうひとがんばり」
年明けの一大イベントと言えば、神社での初詣。
それに向けて準備も進めなければいけない。
人員の確保も必要である。
12月も半ば。いよいよ持って忙しい時期に差し掛かる。
そんな忙しい神主耿助だが、半妖についても耳に入ってきている。
正直言って、半分以上は関係ないのだが、恩人でもある琉嬉達が半妖に関わってしまったという事も本人から聞いている。
おそらくは、自分もまったく無関係という訳にはいかない…そう考える。
同じ「ふかしぎ部」として。
同じ五大家として。
鞍光市に住む、同じ退魔師として。
「あたた…腰が…。運動不足かな…。ちょっと、体動かさないと、どんどん置いてかれますね…こりゃ」
仕事が忙しいためもあるので、少々戦いの腕がなまってる状況。
来るべき戦いのために慣らしておかないと痛い目に遭う。
最近の耿助はそう感じていた。
「やほー。ゆずにゃん」
「あ、こ、こんにちは…って、ゆずにゃんってなんですか?」
護と柚羽はバッタリ廊下で会った。
学年が違うのでそうそう会う確率は高くないのだが。
放課後、護と柚羽は部室に向う途中だった。
「いいじゃん、ゆずにゃん。かわいくて。なんか漫画見ててさ、にゃんって言われてるキャラがいてさ~。柚羽ちゃんに合うと思ってさ」
「………はぁ…。そうですか」
みゆに負けず、相変わらずの能天気さ。
「これから部室?」
「ええ、ふかしぎ部に」
「奇遇だね~。あたしも掃除当番やら用事終わらせて部室行くのさ」
「そうなんですか」
「ところでさ、ゆずにゃん」
「はい?(あくまでもゆずにゃんで通す気だこの人…)
「今度さ、剣のお手合わせしてもらっていい?」
「………へ?」
唐突の申し出にまたもや目が点になる柚羽。
「いや、だってさ。ゆずにゃんさ、剣士として優秀じゃん?なんだっけ?ハヤなんとか流…」
「早碕流剣術…ですか?」
「そうそう、そのハヤザキりゅうけんじゅちゅ」
(あ、噛んだ)
少しクスっと笑う柚羽。
「あたしさ、剣をモチーフにした霊気で戦ってるんだけどさ、我流でさ、型がめちゃめちゃなのよね」
「でも、我流だと剣技自体のクセがないから動きは読まれづらいと思うのでいいかも知れませんよ?
我流であれば、その本人自身の動きのクセさえ敵に悟られなければその戦法もいいと思いますけど……」
もっともらしい事を言ってくれる柚羽。
ある程度はちゃめちゃの方が、動きを読まれなくていいのかもしれないという事。
「いやいやいや、なんていうかさ、きちんとした流派ならかっこいいじゃん?」
「か、かっこいい…ですか?」
護の言う事が理解できない柚羽。
「…でも、あたしは別に使い手の血筋でもなんでもないんで、完全なる部外者の使い手なんですけど」
「てかさ、私、正統な剣士と戦った事ないから、私の動きがどこまで「剣の使い手」として通用するか…試したいの」
「はあ…なるほど…」
イマイチ理解が出来ない柚羽だが、護の言いたい事はなんとなく解かる。
自分の「人間」としての力がどこまで通用するか。
何も考えてないようで護はしっかりと今後のために何か取り入れたいようである。
実際ピンチの時には「妖怪化」して切り抜けてきた。
それだけじゃ駄目であろう。
もっと精進したい。
護の一心の思いなのだ。
「はぁー。分かりました。生徒会や剣道部の活動がない日ならいいですよ。あ、むしろ部活に来てみたらどうですか?
護さんなら、きっと誰よりもすぐ上になれますよ」
柚羽は一応、剣道部に所属している。
琉嬉にふかしぎ部に強引に入れられたせいで、生徒会もやりながら部活を兼任するような形になっている。
試合などには出場はしないで、どっちかというと指導するような立場らしい。
早埼流剣術の免許皆伝レベル。
そんな力持った者が表世界へ目立つのある意味危険なのだ。
「あははー、部活かー。部に入るのは勘弁かな。面倒だし。仕事する時間削られるのも嫌だしねぇ」
「仕事…ですか」
「お金、必要ですから~。一人暮らしは大変だぞー」
「……そうですよね。護さんも時間ある時でいいので、お手合わせしましょう」
「おっけ~。じゃ、よろしくぅ」
そう言いながらぽむぽむ柚羽の頭を軽く叩きながら去っていく護。
「………はぁ~…」
なぜかほっとする。
それは先輩相手という事もがるが、こうも自分に近しい力を持った者とはあまり関わりなかったからだ。
未だに緊張感が取れないのである。
「…しかし、護さん…美人だなぁ…」
男だけではなく、女まで虜にしてしまう、護特有の美人加減。
当の本人はあまり気にしないで、部室へ向かう。
(……あれ?そういえば護さんも部室へ向かってたのでは…?)
なぜかお互い部室へ向かう筈なのに、護は逆の方向へ向かう。
「あ、やっば…部室向かうつもりが、逆方向へ来てしまった」
案の定道を間違えていた。
「芹澤さ~ん」
「ん?」
「あ、あの……少しいいですか?」
見知らぬ男子生徒から話をかけられる。
(…あちゃー、またか…)
よくある光景。
告白タイムだった。
(……良心が痛い…)
現段階では付き合う予定もない。
なので断る気満々だが、何度もしてきた事。
ちょっとだけ、心が痛むようだ。
一方、所と時間変わって中学校では…。
莉音と紫音、そして悠飛が集まって昼食をとっていた。
高校でもそうだが、中学校も期末テストが迫っていた。
「……紫音、勉強してる?」
玉子焼きを頬張りながら悠飛は紫音に勉強の度合いを聞く。
当の紫音は無言。
「………フフ」
不気味は笑いを浮かべた。
悠飛は紫音に聞くのを諦めて莉音に聞く。
「…莉音、どうなの?」
「……さあ…、頑張ってるとは思うけど…」
「ガンバッテオリマスヨ…」
紫音は少し壊れかけていた。
「…勉強会でも開く?」
悠飛がポツリと呟く。
それを聞き逃さなかった紫音の耳がピクっと動く。
そうするや否や、ガタタっとイスを倒しながらも立ち上がる。
「それいい!よし!悠飛!勉強教えて!!」
急に元気になる。
なんというか、身代わりが早いというか…浮き沈みの早い性格である。
悠飛は机に頬杖をつく。
そしてこう続けた。
「……なんでさ、双子なのにこうも性格も成績も違うんだろうね…?」
莉音と紫音の顔を見ながら真剣に言う。
「そ、そんな事言われても…」
返答に困る莉音。
「んー、そうだよねぇ。莉音は莉音だし、あたしはあたしだしー?」
「…まぁ、見た目はまったく同じだけど別々の人間だもんね。そりゃそうか」
「そうだよ!」
紫音は謎に親指を立ててかっこよく決めポーズしている。
行動がいちいち謎。
「世界一顔体格そっくりで性格真逆双子ってお前達の事だよね」
「…かもね」
「…かもね」
莉音と紫音は顔を見合わせてここは上手い具合に言葉が揃った。
翌日の放課後。
この日は琉嬉も部活に参加。
そして生徒会メンバーも揃っている。
「てゆーことで、みんなで勉強会開く事になりました~」
「ほう、なんでお前がそこを仕切るんだ?」
「えへへー、楽しそうだから」
どこから聞いたのか、みゆは紫音らの勉強会をやるというのを知り企画を作り出した。
放課後の部室。
結局はにぎやかになってしまうようだった。
「で、どこでやるの?」
「ウチでいいかい?そう遠くもないし」
「いいねぇ!みゆの家なら大きいし、みんな行けるよ!」
「ハイハイ、勝手にしてくれ。僕も気が向いたら行くよ」
「なんだ~、つれないな~」
あまり乗り気ではない琉嬉。
他のメンバーはかなりやる気だが。
「うし、じゃ、勉強会は次の土曜日。時間は朝10時くらいからどうですか?昼食とか夕食とかおやつとかなんでも出すよ~」
「OK~」
という具合に、話がどんどん進む。
「参加者は誰でもOK~。うちに来てくれればいいよっ」
来る者拒まず。
ある意味太っ腹である。
「あれ?琉嬉ちゃんは行かないの?」
残念がる護。
「……あまり騒がしいのは苦手だし。大人数で勉強も集中しづらいし」
「そっか~」
「……行かないとは言ってないだろ。気が向いたら、ね」
(…ツンデレだぁ)
(ツンデレですねっ)
なぜかそこに感動する護と寧音。
「会長さん達は来ないんですか~?」
「……みゆさんの家ですか~。少し興味ありますね」
まどかの心が揺れる。
「そやな~。楽しそうやし」
細い目でチラっと龍翔の方を見る叉羅沙。
「…俺もかよ。男は俺だけ……いや、ここにもう一人いたな」
そんでもって、龍翔はチラっと御琴の方へ目を向ける。
「え?え?僕もですか?」
「みんなで集まれば楽しいよ~」
「…勉強会が…おかしな方向へ…」
柚羽は頭を抱える。
来たる土曜日。
週休二日制の恩恵で、週末はゆっくりできる。
とはいえ、期末テストが近いシーズン。
その分スケジュール管理はしっかりとしなければいけない。
ふかしぎ部の面々は続々とみゆの住む豪邸へ向かう。
凛夢はイマイチ乗り気ではなく来ないつもりだったが、みゆの説得により行くハメになってしまった。
「こんにちは…」
凛夢が元気ない返事で玄関をくぐる。
「凛夢お嬢様、こちらです」
出迎えたのは正木さん。
「…あ、ども」
軽く会釈しながらも正木さんの後に続く。
途中長い廊下にある大きな時計を見る。
時刻は午前の10時半前くらい。
そして連れられて来た部屋に入る。
ガチャリと大きな扉を開けると…。
「おやっほ~。凛夢ちゃん~。待ってたよ~」
「……おお…大人数ね…」
みゆを中心にみゆ同学年組、御琴、柚羽。
先輩チーム、護、叉羅沙、まどか、寧音、龍翔(+遊希)。
中学生チーム、悠飛、莉音紫音。
既に10人超え。
それに凛夢もプラスされる。
とはいえ、結構まともに勉強をしているようだった。
「またかわいこちゃん来たか。ハーレムってやつだな」
「龍翔様…」
ちょっと嫉妬したように遊希が反応する。
「ハハ、冗談だよ」
「もう……」
「…妖怪まで…なんなんだこの勉強会…」
そして、琉嬉は…というと…。
バス中で揺られてどこかへ向かっていた。
久しぶりに琉嬉が行きつけの図書館へ向かう途中。
お寺近くの大きな図書館。
そこで一人単身で調べ物や勉強をよくしていた。
早速着くと結構人がいる。
図書館なので静かではある。
少し、目当ての資料などを手に取り、一通り本棚を見て回る。
ちょこんっと開いてる席に座り、勉強道具を広げる。
早速集中モードに切り替え、利き腕の左手でペンを持つ。
やはり昔から通っていた図書館が一番落ち着く。
わざわざ今の住んでる家から長い時間かけてやって来た。
勉強も捗りが早い。
サクサク進む。
このままみゆの家で勉強会に参加してたら…どうなってたか…?
でもそれはそれで一人で煮詰まるより他の人の知恵などで解決する問題もある。
どっちにしろケースバイケース。
個人個人のやりやすい勉強方法でいけばいい。
(………2時か…)
チラっと図書館の大きな掛け時計の時間を見る。
午後2時。
そのまま目線を窓へ移し、外の景色を眺める。
辺りは既に真っ白。完全なる冬。
(あっちはあっちで賑やかにやってるんだろうか…)
段々気になり始めていた。
少しずつソワソワしてくる。
(………むー)
不可解な動きを見せる琉嬉。
それを気になったのか通りすがる女性に声をかけられる。
「どうしたの?お手洗いならあの奥にあるわよ」
「あ、…ハイ……(これって…子供に間違えられてるよな…絶対)」
とりあえず、お手洗いへ向かう。
別段行きたくもなかった用も済ませ、戻ってまた勉強に集中する。
頑張ればもっと上を目指せる成績。
最近は家にいてもいつも來魅や銀杏がいるので勉強が出来ずにいた。
しばらくは図書館通いも良いなぁと、思い始めていた。
「3時か……どうすっかな…」
あれからずっと一時間集中していた。
だが、さすがにずっとはゲームとは違い、集中が途切れてしまう。
「………仕方ない…」
おもむろに立ち上がり勉強道具を背負い鞄にしまい、図書館を出て行く。
外に出ると、スマホを取り出し、みゆの番号にあわせ……ようとしないで、正木さんの番号にカーソルを合わせる。
そして早速連絡する。
どうやら、みゆの家に行く事に決めたようだ。
「……や。」
突然みゆ達が勉強してる部屋にやってくる琉嬉。
あまりにも急な来訪でみゆまでもが呆然とする。
「る、琉嬉先輩~!どうしたんですか?突然!来るなら来るって言ってくださいよ~!」
ダッシュで琉嬉を抱きかかえるみゆ。
軽々と持ち上がり、琉嬉は無言のまま振り回される。
スカートがめくり上がり下着が丸見えになっていた。
「ちょ、ちょっと!みゆちゃん!琉嬉先輩のパンツ見えてますよ!僕達男もいるんだから!」
「おー、今日は縞パンか」
一度琉嬉の下着を見た事がある龍翔が口に出して言う。
(おほっ、琉嬉さんは縞パン派…たまらぬ)
寧音は変な目で見る。
「お前ら、ちょっと黙れ」
琉嬉の静かな怒りがぶちまけられた。
「うう、なぜ僕まで…」
御琴はみゆのとばっちりで琉嬉のチョップをくらっていた。
「アハハ。琉嬉が来ると一層騒がしくなるな」
「本当ですねぇ。卒業してしまうと柚羽さん達は寂しいじゃないんですか?」
「そ、そうですか…?」
少し困惑した表情を見せる柚羽。
「琉嬉ちゃんが留年でもしてくれればいいのにな」
「またまた~」
会長、副会長コンビの会話。
楽しそうに話す。
「…さーて、最後の追い込みでもしますか~」
みゆの一言でまた少し静まり返る。
意外に意外、しっかりとみんな勉強に集中する。
各学年毎に別れていろいろ教えあってやっている。
「琉嬉姉来たんだ~。肝心の琉嬉姉いないからなんかビクビクしてたよ」
「嘘つけ」
あっさりと紫音のボケくさい言葉をかわす。
「でもま、姉ちゃんがいないからちょっと話しづらいのは確かだったけどね」
「そりゃ悪かったね」
「琉嬉お姉ちゃんいないから私は…その…」
「ほんっと……莉音は人見知りさんだな」
莉音の頬を優しく撫でる琉嬉。
ちなみに、各メンバーの成績はバラバラ。
琉嬉はそこそこ良くてその次に寧音、叉羅沙、凛夢、龍翔、護。
まどかは生徒会長だけあって一番良くて毎回5位以内に入る。
後輩チームは柚羽、御琴、みゆの順。
みゆは普通くらいで基準になる。
ある意味みゆのキャラクター性からしても面白くはない位置だが。
中学生チームは悠飛が一番良くて次に莉音、紫音はちょっと厳しい状況。
同じ双子でも極端に成績が違うようだ。
そのまま2時間くらい経ったのだろうか。
琉嬉はふと、部屋にかけられている時計の時間をみてみる。
時刻は夕方6時過ぎだった。
「じゃ、ここら辺にしますか~?」
みゆがペンを止め、一声をみんなにかける。
「そうですね」
当初の発案者の悠飛もペンを止め、両手を天高くあげ、伸びーのポーズを取る。
「うひー、疲れた~」
「護さん、あんまりはだけた姿しないでくださいよ」
いつの間にか上着も脱いで、シャツの上元のボタンも外していた。
「うひゃ、ごめんごめん。ワハハ」
ちょっとドキドキの凛夢。
「みんな、夕食食べていくでしょ?」
「食べる食べる~」
「お言葉に甘えよう~!」
紫音のテンションが上がる。
「現金なヤツ……」
皆がゾロゾロ正木さんの案内で夕食が用意されてる部屋へ移動する。
一番遅く、琉嬉と叉羅沙が勉強してた部屋から出てくる。
「はぁー、結構疲れるな…」
「そやねえ」
「そうだなぁ……。今度全員で何か楽しい所行きたいね」
ポツリと琉嬉が呟く。
琉嬉自らこういう事を言うのは珍しい。
大抵こういう話はみゆが脈略なく、自分勝手に言い出して実行してしまうのだ。
「琉嬉ちゃん、なんかハマってきたとか?フフ」
「………いや、こういう大人数っていうのも…楽しいな、て」
「言えてる」
「こんな関係が続けばいいな…て、思うけどね」
「護…?」
「えへへ~」
琉嬉と叉羅沙の会話を聞いていたようだ。
がしっと琉嬉の肩に腕を回す護。
ちっちゃいのでかなり屈んだような状態だが。
「私もね、琉嬉ちゃんとあんな形とはいえ、出会って良かったと思ってるよ。だって、こんなに楽しい仲間に出会えたんだから」
「な、何を今更そんなくさいコトを…」
「ふふふー。いいじゃん。ホラ、早く行こう」
「あ、ちょっと!」
軽々と琉嬉の体を抱き上げダッシュでみんなが向かう部屋へ行く。
「あーらら…護はんも結構力あるんやね…。ま、ウチらも同じや。フフ」
この後、みんなで楽しく晩餐を終え解散となり、各自帰宅する。
「じゃ、またね」
「気をつけてね。莉音紫音」
「誰に言ってんの!天下の紫音様だよ」
「ハイハイ、またね」
冷たくあしらうようにする琉嬉。
紫音のテンションについていけないのだ。
「そいじゃ~またね~」
莉音と紫音だけ別方向へ。
後の皆は中心の鞍光駅までは同じ方向だ。
みゆの家も少し辺境な場所なので、少し帰るのにも時間かかる。
「姉ちゃん、疲れた?」
「ん?ああ、そうだね…」
帰りの電車の中。
みゆの家から琉嬉達の家がある地域は電車でも乗り換えて50分近くかかる。
少し琉嬉に疲れが見えたようだ。
「ちょっと勉強し過ぎたかな…着いたらお願い」
「え?あ、ちょっと…姉ちゃん…」
コテっと悠飛の方に倒れこむように寝てしまう。
これじゃどっちが姉か分からない。
「もう…すぐ着くのに……」
「ただいま…」
「おう、お帰り」
出迎えたのは來魅。
たまたまトイレから出て来たタイミングで玄関で会った。
「あれ?母さんは?」
「用事があるって言って今はいないぞ」
「父さん…は、まだ帰ってきてないか」
「おう。しかし、なんだその背負ってるのは?琉嬉か?」
「ああ、そうだよ」
電車の中で寝たまま起きずに、背負ってこのまま帰ってきたらしい。
どっちにしろ琉嬉は軽いし、それほど辛くはなかったと言う。
悠飛が力持ちというのもあるが。
「なんじゃ?琉嬉のやつは寝ておるのか」
銀杏が居間の方から出てくる。
そして寝てる琉嬉のほっぺをぷにぷにつつく。
しかし反応はない。熟睡状態のようだ。
「起きないのう。こやつ。しかしやぁらかいほっぺじゃのう。楽しいな」
必要以上にぷにぷにと触る。
「勉強のし過ぎなのかな…?最近ゲームもあまりやってないみたいだし、ストレス溜まってたのかも」
苦笑しながらも言う悠飛。
「なんか、ちょくちょく怪奇事件の類のものに首突っ込んでいるのだからのう。霊力とかも使い過ぎかもしれんぞ」
いつも一緒にいる來魅もさすがに分かる。
霊力の消耗もあったようだ。
「明日休みだし、良かったかもね」
琉嬉をベッドに寝かしつけ、全員琉嬉の部屋から出る。
「本当に子供みたいなやつじゃのう。可愛らしいやつめ」
まだほっぺを触る。
「起きちゃうよ銀杏」
「おお、すまん」
「のう、悠飛」
「ん?何?」
「琉嬉は…見た目に反して結構無理するんだな」
少し心配そうにする來魅。
「うん……。いつも無口で他人には興味ないようなフリしてるけど、結構世話焼きで自分で解決しちゃおうとするんだよね。
今は仲のいい知り合いが沢山出来てそれが軽減出来てるみたいだけど…。
転校する前とか酷かったよ。気に入らない事とかあればすぐ暴れて……。お陰で私も恐れられる立場に…」
ちょっとだけ過去の事を思い出してしまった悠飛。
琉嬉の凶暴さのせいでとばっちりを受けていたようだ。
「まあ…暴走王紫音もいたからなぁ…」
「なーんとなく察しがついたぞ」
さすがの來魅も少し引き気味だった。
「でも…」
「でも?」
「これからまだまだ面倒な課題が残ってそうだし」
「課題?」
「あれじゃ、半妖とかというヤツらの事じゃ」
「おー。それか」
ポンっと手を叩き納得する。
「多分來魅や銀杏さんの力借りる事になると思うから、あと…姉ちゃんの…「力」も」
「分かっておる」
「お安い御用じゃ」
普段顔半分が髪の毛で隠れてて表情が分からない悠飛。
だがこの時だけはハッキリと笑顔を二人に見せた。
雪が降り続く。
完全に冬の季節となる。
そして一年の終わりが近づく。
ひとつの区切りがくるが、琉嬉達の問題はまだまだ残ったままだ。




